天地無用!皇鮫后   作:無月有用

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悪運?女難?

 翌日。

 

 ハリベルは何故か義体姿でアカデミーへとやって来ていた。

 

「……西南の護衛は瀬戸の女官やGP護衛部が動いているのではなかったのか?」

 

「そうなんだけどね。あなたにも一応GPアカデミーでの西南君達の動きを見てもらおうと思って」

 

「……なんの必要がある?」

 

「まぁ、天地ちゃんが随分と不安そうだからって鷲羽様から聞いてね。鷲羽様や私が言うよりは、あなたが直接見たことを伝えた方が良さそうだって」

 

「……」

 

 あっけらかんと言うアイリに、ハリベルは眉間に皺を寄せる。

 だからと言って、わざわざ呼び出すのは手間過ぎるだろう。

 

「……今日だけにしてくれ。海賊業もそろそろ動かねばならん。それに、もう天地は西南を地球に帰さなければとまでは考えていない」

 

「あら、そうなの? なら、良かったわ。霧恋ちゃんはまだ迷ってるみたいだから」

 

 アイリは苦笑して、美守は微笑しそうに笑みを浮かべる。

 

 もちろん全員が霧恋の心配も理解してはいるが、西南本人がやる気を出しているのに水を差すのはやり過ぎだろうとも思っている。

 そして、ここにいる全員が霧恋の本心に気づいてもいる。

 だが、それは自分で気づかせて決めさせないと意味はないので、見守るしかないのだ。

 

「とりあえず、授業中だけでいいわ。流石に今の西南君は夜に脱走する余裕なんてないし」

 

「余裕がない?」

 

「システム障害で生体強化も出来ないし、座学も出来ないのよ。だから、基礎体力訓練をさせているのだけど……」

 

「その担当が天南静竜殿なんですよ」

 

「……天南家の御曹司か……」

 

「あの子は天地ちゃんの因縁のせいで地球人が嫌いなのよ。雨音ちゃんとの関係もあって、西南君を目の敵にしててね。生体強化してないと辛い課題を課して、自分からやめるって言わせようとしてるのよ」

 

「……西南はその程度で逃げ出す性格ではなさそうだが?」

 

「ええ、倒れるまで頑張ってたわ。それがまた気に入らないんでしょうねぇ。多分、今日もしごかれると思うわ。ま、西南君を鍛えるには丁度いいから、止めることはしないけども」

 

「……確かに今後を考えれば、今から宇宙にいることの理不尽を経験させるべきか……」

 

「そういうことね」

 

 アイリ達も西南は間違いなく囮部門に配属されると考えている。

 しかも、今までのことから、西南が配属される部隊はかなり厳しい業務を強いられる可能性が高い。

 なので、少しでも体力的なきつさには慣れておくべきではあるのだ。

 

 ついでに上下関係的な理不尽さにも。

 宇宙にいる者全員が好意的とは限らないのだから。

 

「だから、イラっとしても手を出さないでね」

 

「分かっている」

 

 ハリベルは小さくため息を吐いて頷き、空間迷彩を起動させてアカデミー校舎へと移動した。 

 

 GPアカデミー校舎は基本的に建物は数千年~数万年前のものだが、西南達が使う校舎は輸送コンテナ艦のコンテナを再利用をしているものだった。

 今はグラウンドでアイリの説明通り基礎体力訓練が行われていた。

 

「なにをしている!! その程度では立派なGP隊員になれないぞ!!」

 

 ピンク頭の見た目美男がグラウンドで西南に向けて怒鳴っていた。

 西南は大量の汗を流しながら腕立て伏せをしており、トラックでは他の生徒達が猛スピードでランニングしていた。

 

 その様子を校舎の上に立って見下ろしていたハリベルは、呆れを浮かべる。

 

(1人だけ生体強化を受けれていないのか。それで西南だけ理不尽な状態が成り立ってしまっているとは……。これも悪運故か)

 

 従来新入生の内、数名が生体強化を受けずに入学してくるのだが、今年は西南だけだったのだ。

 近年では一般人も生体強化を受けることが当たり前になってきているのもあり、初回は一般的な生体強化、二回目からGP仕様の生体強化を受けるのが普通になってきている。

 

(……教官ならば、もう少し己の感情を抑えるべきだと思うが……天南家の人間に期待するだけ無駄か……)

 

 天南家は『全てを喜劇にする血筋』とも言われている。

 本人達は至って大真面目なのだが、周りからどう見ても喜劇にしか見えないのだ。

 しかも、天南家は九羅密家ほどではないが幸運寄りの確率の偏りを持つ家系のため、天南家の勢いに巻き込まれることが多い。

 

 ハリベルは西南達から意識を外し、その周囲を見渡す。

 すると、グラウンド横の林で、霧恋と女生徒が向かい合っていた。

 

 妙に物々しい雰囲気を感じたハリベルは、複合迷彩を稼働したまま一瞬ですぐ近くの木陰に移動する。

 

 そして、女生徒の顔を見て、小さく眉間に皺を寄せる。

 その女生徒の雰囲気がどこか霧恋や月湖に似ていたのだ。

 

(……霧恋……いや、月湖に似ている?)

 

「西南君にどういう興味を持っているのか、詮索する気はないんだけれど……中途半端な気持ちで近づくのは危険だわ。あの子の不運というのは普通じゃないのよ」

 

 霧恋は教師然とした表情と口調で、忠告と言う雰囲気で言い放つ。

 

 しかし、どう聞いても『西南ちゃんに近づかないで、泥棒ネコ!』的にしか聞こえない。

 

 だが、言われた女子生徒、美希・シュタインベックは涼しい顔で、

 

「そうですか。ご忠告ありがとうございます」

 

 と、ぺこりと頭を下げて、あっさりと引き下がって歩き去っていく。

 それが『だから何?』と挑発的な返答に聞こえたハリベル。

 

(……勝気……いや、月湖や霧恋を若くすれば……)

 

 霧恋は樹雷にて加速空間で10年近い訓練を受けているので、実年齢よりも精神が成熟している。

 しかし、霧恋が西南と同年代で年相応の反応を見せれば、同じ言動をするのではないかとハリベルは思った。

 

 すると、ハリベル同様、木陰で盗み聞きしていた雨音が顔を出す。

 もちろんハリベルは気づいていたし、美希も気づいていた。

 

 ハリベルは雨音の直感を回避するために、再び校舎上に戻る。

 

(しかし、あの者が西南に近づく理由が思いつかん。本心はともあれ、霧恋の忠告は正しい。ウィドゥーを捕まえた時の大量捕縛はともかく、それ以外の西南の情報はほとんどニュースや噂で流れている。それを近づく者が知らないはずはない……)

 

 ハリベルはモニターを起動して、美希の事を調べる。

 

(……? 父親は博司・マナダ? 母親は不明、か……)

 

 わざわざ苗字を別にしていることに違和感を感じるハリベル。

 経歴を調べても、生まれてからずっと博司1人に育てられている。なのに、母親姓を名乗り続けている。

 もちろん、家庭事情は人それぞれなので、何か事情はあるのだろうが、霧恋達に雰囲気が似ているのが妙に気になった。

 

 そして、シュタインベックで検索をしてみた所、意外なところで霧恋達との繋がりを見つけた。

 

(……健・ラライバ・シュタインベック……。月湖の死別した夫、霧恋の実父……。偶然か……?)

 

 健が死んだ事件は未だに未解決である。

 

 健が死んだのは研究旅行中のことで、突如行方不明となり、見つかった時は船が10メートルほどの圧縮状態だった。

 宇宙船、それも10人以上が乗る物で10メートル規模のものなどまずありえない。

 

 地球で言えばジャンボ機が圧縮されたに等しいのだ。

 

 調査が行われたが、結果わかったのは強力な時空震が起きたということだけ。

 そして、それほどの規模となると皇家の船くらいだったのだが、皇家の船は基本的に常に航路を報告の義務があり、監視されている。

 なので、アリバイが成立したのだ。

 

 それでも隠蔽されたならば、それはもはや樹雷規模の国、または組織力があるということだ。

 なので、未だに攻撃されたのか、巻き込まれただけなのかの判断をすることが出来ておらず、被害者の中にはアカデミー生や教授がいたが一般人ランクの身分の者達のみだったため、調査は打ち切りとなったのだ。

 

 遙照が樹雷に帰還していれば、樹雷皇眷属正木家の配偶者として、もう少し詳しく調査されたかもしれないが、樹雷や世二我も調査継続を望まなかった。

 月湖も霧恋がすでにいた。なので、月湖は霧恋を最優先して、地球に戻ることにしたのだ。

 

 そして、その頃には美希もすでに生まれていた。

 美希が後から生まれている事を考えれば、健の隠し子ではないだろうし、わざわざシュタインベックを名乗らせる必要はない。

 

(……無関係ではないが、直接的に関係はない、ということか……。だが、そんな者が西南に興味を抱いている。偶然、で済ますには……情報が足りないか)

 

 情報が出揃うまではと判断し、意識を再びグラウンドに戻す。

 相変わらず西南はヘロヘロで筋トレを続けさせられている。

 

 ハリベルは効率を度外視した負荷のかけ方に眉を顰める。

 流石に訓練を称する以上、最低限の効率性を維持させるべきだと考えていた。

 

 厳しさに耐えられなくて辞める者が出るのは軍や警察に入る以上、出ても仕方がないと思うが、それは最低限必要な訓練にも耐えられないのであればだ。そして、その訓練はどんな思いであろうと、正当性を維持させるべきである。

 

 理不尽な負荷をかけることは、決して選別でもなければ愛情でもない。

 

 そう考えながら、周囲に潜んでいる護衛達に意識を向ける。

 

 その中でも特にうまく気配を隠している者達がいた。

 珀蓮達である。

 

(……簾座の姫が工作員活動か……。身分を隠している以上、仕方がない事とは言え……。だが、4人揃って西南に付けたのは狙いがあるのだろう。簾座に行く可能性をすでに考えている、ということか)

 

 珀蓮、火煉、翠簾、玉蓮は簾座連合を構成する5つの大国中4つの国の王女である。

 本来ならば工作員などする必要はないのだが、状況が状況なので仕方がない。

 ハリベルは珀蓮達が生まれる前から銀河連盟領域に来ているので、珀蓮達は顔も名前も知らないはずだ。

 

 ハリベルが知った理由は、4人が銀河連盟に来た方法によるものだ。

 【レセプシー】という銀河連盟と簾座連合などを行き来する治外法権を認められている遊行興業惑星規模艦がある。

 

 レセプシーは銀河連盟や簾座連合などが設立される前から存在しており、ありとあらゆる芸、そしてありとあらゆる情報が蓄積されていると言われている。

 

 レセプシー内ではレセプシーの法律で動いており、海賊や犯罪者が逃げ込んでも、レセプシー内にいる限り手出し無用というのがルールになっている。

 そのために各国や組織から治安要員が派遣されている。

 何よりレセプシーに所属する者達は、完全中立を信念としており、お客様であれば誰であろうと受け入れ、迷惑客となれば誰であろうと追い出す。

 

 各銀河の情報があるため、下手にレセプシーを攻撃すれば、全ての銀河を敵に回しかねないので樹雷や世二我と言えどレセプシーを攻め入ることは禁じられている。

 もちろん海賊ギルドも同様である。

 

 珀蓮達は簾座連合を訪れたレセプシーに乗り込んで、銀河連盟にやってきた『密航者』とも言える存在なのである。

 ハリベルはレセプシーの踊り子の頂点である〝舞貴妃〟と顔見知りで、彼女から連絡を貰ったのだ。

 

 ちなみにダ・ルマーギルドのコマチは、舞貴妃の長女である。

 正しくは〝子舞一・京〟と書き、レセプシーを家出しているのだ。

 

 コマチはまだバレていないと思っているのだが、舞貴妃達はしっかりと把握しており、時折ハリベルに様子を聞いてきたりする。

 もちろんコマチには内緒である。

 

(海賊を引き付けるあの才能は確かに簾座でも稀少だ。だが、今の簾座では西南を守るだけの力はない。……悪運に慣れさせる、ということか)

 

 ハリベルは瀬戸の思惑を推測する。

 西南が銀河連盟内の海賊にどこまでその才能を発揮するか。

 それによって西南と珀蓮達の運命は決まるだろう。

 

 そう考えている内に、訓練が終わって西南はぐったりとしているところをラジャウとケネスに抱えられて列に戻る。

 いつの間にか地面に倒れていた静竜は放置されて、生徒達は解散し始める。

 

 霧恋と雨音も昼食に移動を始め、ハリベルも一時校舎を離れようと思ったのだが、グラウンドに医療車が入って来たのを見て動きを止める。

 

 更に美希もグラウンドに入ってきて、救護車に近づいていく。

 

「……霧恋に言われた直後に早速とはな……」

 

 美希の姿に生徒達は動きを止めるどころか、むしろ戻ってきた。

 美希は慣れているのか、周囲の視線など気にも留めずに救護車を操作してメディカルカプセルを出す。

 

 そして、そこに西南を寝かせて、蓋を絞めて車内へと収納される。

 

 そこまでは問題なかったのだが、

 

「……ん?」

 

 西南の気配が突如地下へと移動した。

 

 グラウンド真下に医療施設があるなどと言う情報はなかった。

 以前のように人間狩りの仕業かと考えるが、その場合一番怪しいのは美希だ。

 

 美希は何事もないかのように生徒を追い払うと、救護車を走らせる。

 グラウンドを出るまでは美希も救護車を追う様に歩いていたが、途中で方向を変えて校舎裏へと向かう。

 

 ハリベルは美希の背後をゆったりと飛行し、後を尾ける。

 尾行した先は真っ暗な部屋で、ザ・秘密基地という感じの場所だった。

 

 ハリベルは気配からグラウンドの真下であると理解し、美希が西南を攫ったのが確定した。

 西南は椅子に拘束されており、眠らされていた。

 そして、細身でボサボサ髪の眼鏡をかけた男が機器を操作していた。

 

(状況を考えれば、この男が父親か……)

 

「お父さん。本当に大丈夫なの?」

 

「ああ、これで上手く行くはずだ。彼の力が解明できれば、間違いなく哲学科に入れる!」

 

 博司は興奮気味に語りながら、機器を準備していく。

 美希は不安そうに博司と西南を交互に見つめる。

 

(父親のために仕方なく、か。護衛の者達を欺いたのは見事だが……。一昨日の話は知らないようだな)

 

 そんな簡単に解明できれば、アカデミーはシステムダウンなど起こしていないだろう。

 アイリ達も苦しんではいない。

 

(哲学科に入れる……。ということは、哲学士希望止まりの研究者か……。ならば、一昨日の事件の真相を知る技術もないか)

 

 西南に危害を加える様子はないので、どう動くべきか悩む。

 調べられれば、それはそれでアイリ達に価値がある情報だ。

 

 失敗すれば、それはそれで助け出せばいいだけだ。

 なので、もう少し様子を見ることにした。

 

「早くしてよね? 彼、入学式で理事長といたし、正木霧恋先生にも安易に近づくなって言われたばかりなのよ」

 

「そうか……。彼は地球出身だったね……」

 

 美希は腕を組んで、顔を顰めながら言う。

 

 その時、西南の身体がピクリと跳ねて、ゆっくりと目を開く。

 それに気づいた美希は口を閉じて、西南の背後に回る。

 

 西南は目を覚まして訝し気に周囲を見渡すと、すぐに状況を把握したようだった。

 

「ふむ……覚醒から状況の把握が早いな。発汗、脈拍、心音等々正常か。もう少し動揺が見られると思ったんだが……結構冷静なんだね」

 

「はあ……まぁ、何日か前にも似た様な目にも遭いましたし」

 

(違和感を感じた瞬間に本能的に意識が切り替わり、危険に対処出来るように思考能力を落とさないように冷静さを保つ。それが完全に反射として染みついている。それだけ常に危険と隣り合わせだった証か……)

 

 今も呑気そうに見えて、微妙に身体に力を入れて抜け出せないか確認している。

 そして、目では博司を観察し、これまでの経緯を思い出して、

 

「……もしかして、美希先輩の関係者ですか?」

 

 その西南の言葉に、美希が後ろから謝罪を述べて前に出る。

 

 その後も会話を続け、遂に検査装置を起動させようとする博司を見て、西南は嫌な予感がして美希に助けを求めるが、美希は両手を合わせて謝るだけだった。

 博司がスイッチを押すと、派手なスパークがそこかしこで迸り、機械が動き始める。

 

 すると、西南と美希は互いに不思議そうに顔を見合わせる。

 

 ハリベルはその反応に違和感を感じたが、直後機械の1つが爆発した。

 

「な、なんだ、どうしたっ! うわっ!?」

 

 機械が次々と誘爆し始める。

 それを見た瞬間、ハリベルは西南の拘束を引き千切る。

 

「「えっ!?」」

 

 西南と、西南を助けようとした美希が、突如現れたハリベルに目を見開いて驚く。

 

 ハリベルはそれを無視して、西南を左肩に担ぎ、右手に光剣を生み出す。

 

 そして、勢いよく真上に振り上げると、光剣は巨大なエネルギー弾となって天井を吹き飛ばして穴を空ける。

 それと同時にハリベルは西南を抱えたまま、右手で美希と博司の首根っこを掴んで、空けた穴から猛スピードで飛び出した。

 

「うわぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「うおお!?」

 

 直後、全ての機械が爆発して、ハリベル達を追いかけるように爆風とエネルギーが噴き出してきたのだった。

 

 

 そのちょっと前、グラウンドでは授業が始まっていた。

 

 グラウンド中央では静竜が苛立たし気に、生徒達に八つ当たり気味に指示を出していた。

 

 もちろん理由は行方不明になった西南捜索に、霧恋と雨音が動いているからである。

 静竜はこの隙に引導を渡してやると考えていたが、授業を放り出すことは出来ず、更には授業の前に生体強化システム復旧をわざと遅らせていた不正行為が美守にバレていた。

 ここで授業を放り出せば、流石に謹慎程度では済まないと理解しており、渋々授業を始めたのだった。

 

 ちょうどその頃、ようやく霧恋や雨音、珀蓮達は西南がグラウンド地下にいる可能性に気づき、拠点からグラウンドにやってきていた。

 

 その時、グラウンドに地響きが起こる。

 

「貴様ら! キビキビ走ら――ん? なんだ?」

 

 静竜が異常に気付いて、下を見た瞬間、

 

ドオォン!!

 

「グォワァ!!」

 

 静竜の真下から、黒いエネルギー弾が地面を砕いて飛び出してきて、ブロック状の岩などと共に天高く吹き飛ばされる。

 

 それに生徒達や霧恋達は思わず拍手をして見送っていたが、直後穴から何かが飛び出してきて、更に大爆発が起こってグラウンドを吹き飛ばした。

 

 咄嗟に爆風を腕で顔を庇う霧恋や雨音達は、大爆発の直前に飛び出してきた影に目を向ける。

 

「っ!! あいつは!? それに西南ちゃん!?」

 

「それに美希・シュタインベック!?」

 

 霧恋達はしっかりとハリベルに抱えられた西南と美希達の姿を捉えていた。

 

 ハリベル達はグラウンド横の林に下りていき、霧恋達はすぐさま追いかけるのだった。

 

 

 

「わっ!?」

 

「きゃ!?」

 

 ハリベルは地面に下りる直前で、博司と美希を地面に放り投げる。

 

 そして、西南を丁寧に地面へと下ろして立たせる。

 

「あ、ありがとうございます?」

 

「体は?」

 

「え? あ、はい。だ、大丈夫です……」

 

 西南は慌てて全身を確認して、問題がない事に頷く。

 

 それに頷いたハリベルは、霧恋達がやってくる気配を感じて、美希に目を向ける。

 

「……これ以上はやめておけ」

 

「……分かってるわよ」

 

「ならばいい」

 

「あの……あなたは……?」

 

 西南の問いを無視して、ハリベルは迷彩を発動して姿を消して飛び上がる。

 

「あっ! ちょっ……!」

 

「西南ちゃん!!」

 

「え? あ! 霧恋さん、雨音さん!」

 

「大丈夫!? 怪我はない!? 何もされてない!? あいつは!?」

 

「ちょっと落ち着けよ、霧恋」

 

 西南の身体を子犬のようにベタベタ触って、全身を確認しながら畳みかける霧恋。

 それを雨音は呆れながら肩を掴んで宥める。

 

 そして、隣で立ち上がって姿勢を正す美希と、呆然と煙が立ち上がるグラウンドを見て座り込んでいる博司に目を向ける。

 

「事情は訊かせてもらえるわね?」

 

「もちろんです。私と父がご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げる美希。

 しかし、その顔はどこか清々しく見えた雨音は、何となく美希がこんなことをした理由を理解した。

 

 だが、

 

「あのエネルギー弾を撃ったのは、あなた達を助けた奴よね? そいつはどこに行ったの? 何者?」

 

「……分かりません。父の機材が爆発を始めた時、山田西南君を逃がそうとしたら、いきなり現れて……。天井を吹き飛ばした後に私達を引っ張り出し、ここに放置してすぐに姿を消しました。ただ……」

 

「ただ?」

 

「山田西南君を心配しているようでした。なので、護衛ではないかと……」

 

「ふぅん……」

 

 雨音は霧恋に顔を向ける。

 しかし、霧恋は真剣な表情のまま首を横に振る。

 

 そこに霧恋と雨音のブレスレット端末からコール音が鳴り響き、モニターが表示される。

 モニターには真剣な表情の美守が映っていた。

 

『山田西南君、美希・シュタインベックさんは校長室に。美希さんの御父上は事情聴取もあるので一時校舎にて拘束させてもらいます。雨音カウナック先生は被害現場の確認の指揮を。正木霧恋先生は2人を校長室に案内した後、システムに影響がないかをチェックしてください』

 

 一方的に指示をして、通信を切る。

 それと同時にGP護衛部が駆けつけてきて、博司の両脇を担ぎ上げる。

 

 美希は連れて行かれる博司を心配そうに見送るも、止めはしなかった。

 その美希を心配そうに見つめていたが、その雰囲気がなんか嫌だった霧恋は咳払いをして2人を校長室に連れて行くのだった。

 

 その後、事件は演習と処理することとなり、美希は1か月の謹慎。博司は刑事事件とせずに、グラウンドの修理とGPアカデミーの業務の手伝いをすることで収めた。

 大事にしなかったのは、西南の悪運に巻き込まれて工房と研究資料を失ったことが十分な罰となっていると考えたからである。

 

 他には美希から「むしろこうなって欲しかった」という話もあり、美守は自分のお膝元の地下に知らない間に工房を造っていたことへの僅かな称賛と失態を隠すためである。

 

 西南は巻き込まれたので、もちろんお咎めなし。

 呼ばれたのは単純に事情を聴くことと、生体強化を明日実施することを伝えるためである。

 

 西南と美希を帰すと、次に霧恋、雨音、珀蓮達が呼び出される。

 

 そこで西南の生体強化をすることと、今回の事件の沙汰を伝えるためだ。

 

 美守の前には、ピシッと姿勢を正しながらも項垂れている霧恋達がいた。

 

「今回の事件は大事に至ることなく済んだとはいえ、明らかなる失態です。しかし今回に限り、私の判断により、アイリ様、瀬戸様には報告致しません」

 

 それは美希と博司のための処置なのだが、それでも霧恋達は安堵のため息を吐く。

 

「演習と処理する以上、事後処理は私達だけで行います。少々システムに影響が見られますが、明日からのカリキュラム復帰は決定事項です。なので、今日中に修復と記録の書き換えをお願いします」

 

「は、はい……。あの……美守様」

 

「なんですか?」

 

「西南君達を助けてくれた者のことなんですが……。一昨日の事件でも、見かけたので……」

 

 霧恋は美守の指示に小さく頷いて、おずおずとハリベルのことについて尋ねる。

 それに美守は小さく頷いて、

 

「彼女はアイリ様が私的に用意してくれた者ですが、今回来てくれたのは全くの偶然です。普段はいないので、気を抜いていいわけではありません。本来ならば、彼女の存在を教えるのはずっと先の予定で、それまではあなた達だけでも十分だと私達は考えていましたからね」

 

「う……」

 

 霧恋は思わず一歩後ずさって項垂れる。

 

 美守は苦笑するも、すぐに顔を引き締める。

 

「では、各々作業を始めてください」

 

 その言葉と同時に校長室の床が開き、多くの端末デスクが設置された指令室が姿を見せる。

 霧恋達はすぐに持ち場について作業を始め、3時間ほどで終了させた。

 

 

 

 美守はアイリの理事長室にやってきていた。

 

 2人が理事長室の端にあるソファに座るのと同時に、ハリベルが姿を現す。

 

「お疲れだったわね」

 

「ホント、助かりましたよ」

 

「礼はいらない。あの娘は危害を加える意図はないようだったからな。何もなければ、放置していた」

 

「まぁ、確かにそれはそれで稀少なデータよね」

 

「……あの親子、月湖や霧恋とどんな繋がりがある? 雰囲気も似ているし、あの苗字……。偶然ではあるまい?」

 

「ああ、それはね」

 

 アイリがハリベルの前にモニターを表示する。

 中身を素早く見たハリベルは、僅かに目を見開く。

 

「美希・シュタインベックが『ピノッキオ』……。しかも、パーソナルモデルが月湖だと?」

 

「そうなのよ。私達も知った時は驚いたわ」

 

 『ピノッキオ』とは地球の童話『ピノキオ』に因んだ名称で、身体を持ち、アストラルを宿した人工知能のことである。

 アストラルを持った人工知能は人権を認められる。

 それだけも稀有なことなのに、人間と同じように成長してきているピノッキオは更に稀少だ。

 

 美希の素性が明らかになれば、西南に負けないほどの有名人となり、博司はアカデミー大賞を授与されて哲学士の仲間入りをしていただろう。

 しかし、博司はそうせず、美希を本当の娘として育ててきた。

 しかも、その後はアストラルを持ったAI作成には手を出さず、別の分野で哲学士を目指していた。

 

 アイリや美守は博司を逮捕しなかったのは、美希の存在に技術者として敬意を払い、親子の絆を守ってあげたかったからだ。

 

 更に月湖の過去から、健と博司との関係も知り、博司が何故そうしたのかも察したというのもある。

 

「……なるほど。月湖達に似ているのはそういうことか……」

 

「霧恋さんは複雑かもしれませんがね」

 

「しかも、西南ちゃんに近づいてきてるしねぇ。しかも、美人で頼れる先輩っていう、男ならそそられるポジション。霧恋ちゃんからすれば、一番の警戒対象よね! あははは!」

 

 楽しそうに笑うアイリに、美守は苦笑し、ハリベルはため息を吐く。

 

「……西南の生体強化が行われるのであれば、意味はなさそうだが……」

 

「はい?」

 

 ハリベルに視線を向けられて、美守は首を傾げる。

 

「いびるにしても、訓練を称するならば最低限の効率性を維持させておけ。不必要な負荷をかけて辞めさせたところで、あれでは訴えられれば敗けるぞ。生体強化をしていない者に、生体強化前提の訓練を強要するなど、逆に体を壊して生体強化に影響が出かねん」

 

「ホホホ。大丈夫ですよ。静竜先生は、明日から美兎跳とGPアカデミーのトイレ清掃業務ですから。当分の間、教官業務からは外れて頂きます」

 

「……何かしていたのか?」

 

「生体強化システムの復旧をわざと遅らせていたのですよ。生体強化システムはカリキュラムシステム同様、専門の技師でなければ作業させられませんからね。そこを利用していたのですよ」

 

「セッコいわよねぇ」

 

「……己の感情を隠せも出来ないのに、随分と姑息なことを……」

 

「それだけ嫌いなんでしょうね。ま、もう何も出来ないけど」

 

「おかげで西南君の生体強化担当を変えられますからね」

 

 その言葉にハリベルはようやく2人が何を企んでいるのかを理解した。

 

「……霧恋をあてがう気か? まだ西南が宇宙にいるのを認めてはいないのだろう?」

 

「恐らく明日の朝、話をする気なのでしょうね。それに霧恋ちゃんが駄目なら、雨音ちゃんがいるしぃ♪」

 

「そうなれば、霧恋さんも我慢出来ないでしょうねぇ。ホホホ」

 

「そうそう。エルマも参加させる予定よん♪ 日常での確率変動を調べてもらうって名目でね」

 

「……逃がす気はない、ということか」

 

 確かに西南の公私を支えられる最適な人材は霧恋だろう。

 瀬戸の情報部仕込みのオペレート能力、生体強化レベル8という戦闘力、そして家事万能。

 なにより西南のことになると、瀬戸並みのパラメーターとなることが最近分かった。

 

 そして、相思相愛である。

 今は少しすれ違っているが。

 

「月湖ちゃん達から話を聞く限り、実は霧恋ちゃんの方が重症なのよね。依存度で言うと」

 

「西南君はルームメイトや同級生に恵まれたようですからね。しかも、月湖さんが控えていることで西南君へのフォローが可能、というのも無理にでも事を進める理由になってしまっていますね」

 

「……重要なのは西南。ならば、霧恋は最良ではあっても、必須ではない、か」

 

「そういうことね」

 

「出来れば、丸く収まってほしいですけどね」

 

 生体強化は解除することも出来るが、本人からすれば強化したのにわざわざ弱い体に戻る意味はない。

 なので、西南の才能を考えれば、生体強化をすれば二度と後戻りは出来ない。

 

 ハリベルは小さくため息を吐く。

 

(悪運……というよりは、女難になりつつあるな。天地が宇宙に上がらなかったのは、正解かもしれん)

 

 そう思いながら、ハリベルは西南の行く末に心底同情するのだった。

 

 

 

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