天地無用!皇鮫后   作:無月有用

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結婚式その4

 結婚式当日。

 

 前日にとんでもない爆弾が発見されたが、流石に全員が結婚式に集中することになった。

 

 玲亜は社務所の方で水穂、水音達により着付けの手伝いをしており、柾木家の方では朝になってようやく長距離転送装置を使えるようになったアイリが大泣きしながらやってきて、鷲羽に泣きついていた。

 

 アイリはせっかく休まずに仕事を続けて、ようやく夜になって終えたというのに、肝心の転送装置を鷲羽によってロックされていたため結局朝まで放置されることになったのだ。

 鷲羽は軽く謝罪だけして、さっさと自分の準備に向かい、アイリは月湖達によって髪のセットをしてもらっていた。

 

 ちなみにハリベルは地球での正装など持っていなかったが、昨日の昼頃に、

 

「ハリベルさん、こちらを」

 

 阿重霞から突然衣装を渡されたのだ。

 

「……これは?」

 

「明日の正装ですわ」

 

 ハリベルは渡された衣装を見て、その織り方や手触りからその正体を見破った。

 

「……これは、まさか樹雷の正絹反物か? それもかなり上質の」

 

「流石は海賊、と言ったところですか。ええ、船穂様より頂いた物です。天地様や魎呼さん達の分も作りましたし、船穂様もそのつもりでお渡しになられたと思うので」

 

 今回水穂が来た時に船穂の土産として阿重霞に渡されたものだ。

 樹雷の正絹反物はそれぞれに工房があり、それぞれに糸や織り方が異なる。船穂など皇族工房の正絹反物は最高級品に指定されており、流通規制や監視がされている。樹雷の人間ですら滅多に手に入る機会はなく、海賊など夢のまた夢だ。ブラックマーケットすら流したら即逮捕されることが分かっているため敬遠するほどだ。

 

 それをポンと渡されたハリベルは僅かに眉を顰めるが、阿重霞は口元に手を当てて笑い、

 

「魎呼さんも同じ反応でしたが、残念ながらあなたがこれからもこの家にいるのであれば諦めるしかありませんわ。お兄様の生存公表がされた際には、表舞台に立つことになるでしょう。あなたは水穂様の部下でもありますし。その時の為に、それなりの上物の正装が必要ということですわ」

 

「……はぁ。非公式とは言え、樹雷皇族の結婚式ということか」

 

「そういうことですわね」

 

 ということで、ハリベルも上物の衣装を着て参加することになったのだった。

 

 渡された衣装に着替えたハリベルは、天地達と共に神社の本堂へと移動する。

 

 ハリベルの衣装は、デザインは魎呼と同じで色合いが異なるものだった。

 魎呼が上が白と黒、下が紅のズボンタイプ。ハリベルは上が白と紺色、下が青のズボンタイプだった。

 

 天地は袴。魎皇鬼は可愛らしいピンクのドレス。

 女性陣は、樹雷関係者は樹雷の正装、アイリや鷲羽はアカデミー、美星はGPの正装である。

 

 小さな本堂に左右に分かれて座った天地達で、勝仁が斎主として神前に立つ。

 そして、普段柾木家の門柱としている阿重霞のガーディアンが勝仁の両隣にいた。 

 

 参列者が全員揃ったところで新郎新婦が入場し、揃って斎主の前に移動する。

 

 そして、信幸達が斎主の前に膝をついた時に、()()は出現した。

 

 訪希深が神前に現れたのだ。

 

 普段の幼児形態ではなく本来の姿の縮小版だが、勝仁の背後に立ち、まさしく神として参加したのだ。

 魎呼達からすればツッコミどころしかないが、確かに神ではあるので止めるのもおかしい。もっとも、残りの二柱も親族として参列しているのだが。

 

 とりあえず、式は穏やかに―厳かに、ではない―進み、身内の式のためそこまで格式ばったものでもないため、すぐに本堂の外で和やかな談笑となった。

 

「ハリベルさん」

 

 玲亜がハリベルに声をかけ、頭を下げた。

 

「突然の参列だったのに、ありがとうございます」

 

「……気にするな。居候させてもらっている家人の母となる者の婚姻だ。世話になる者として祝うのが道理だろう」

 

「それでもですよ。これからも天地ちゃん達をよろしくお願いします」

 

「私も世話になる身だが……共に生きる以上出来る限りのことはしよう」

 

「はい」

 

「もっとも……どこかの理事長や鬼姫の対処までは受けかねるがな」

 

「あ、あははは……それは、まぁ……」

 

「ちょっとちょっと~、どういう意味よソレ~」

 

 話が聞こえていたようでアイリが天地の腕に抱きつきながら文句を言った。

 その後ろでは魎呼や阿重霞が睨んでいたが、アイリは全く気にする様子はない。

 

 そこに天女と水穂が半目で、

 

「そのままの意味でしょ。西南ちゃんのところでも鬱陶し気にあしらわれてるって聞きましたよ?」

 

「この前、西南君から私に苦情が来たしね」

 

「なによ! 可愛い子がいたら愛でるものでしょ!? アンタ達だって天地ちゃんや西南ちゃんに抱きつきたいって思うでしょ!?」

 

「「それは……まぁ……」」

 

 アイリの反論に屈する娘と孫娘。

 

「ただでさえ天地ちゃんも西南ちゃんも邪魔者がウジャウジャ増えたってのに、抱きつける時に抱きつかない奴がおかしいのよ!!」

 

「邪魔者って……増やしたのお母さん達じゃない」

 

 天地に関してはノイケとハリベル。西南は霧恋と雨音にエルマ。

 

 主に主導したのは瀬戸だが、それをアイリは承認して手助けしているので同罪である。

 なのに邪魔者と宣うのだから、ただの自業自得でしかない。

 

 その後もアイリと天女が色々と引っ掻き回し、水穂は父母からの結婚話を躱し、天地は結婚式に当てられた女性陣から滅茶苦茶にされた。

 最後には全員で記念撮影もした。

 

 それでも昼過ぎには全ての行事が終わり、一度解散となって天地一同は私服に着替えて居間でのんびりすることにした。

 

 鷲羽の用意したナノマシンで撮った写真をあっという間に現像して確認する天地と鷲羽。

 

 魎呼達は座敷の方でのんびりし、ハリベルは鷲羽の部屋の扉の横にもたれかかっていた。

 

「綺麗だったね、玲亜お母さん」

 

「そうね」

 

「花嫁さん、いいですねぇ。憧れちゃいますぅ」

 

「うふっ、美星は美咲生ちゃんに先越されちゃったわねぇ」

 

 ノイケの揶揄いに美星は涙目になる。

 

「いいなぁ、美咲生ちゃん……」

 

 色々と騒動になったものの、それでも結果的に丸く落ち着き当人達は幸せになったのだから文句はない。羨ましいのは変わらないが。

 

 それに阿重霞が胸に手を当てて、

 

「あぁ……いつか私も」

 

 と、夢に浸ろうとしていたが、寝転がっていた魎呼が起き上がって、

 

「砂沙美に先越されたりしてな」

 

「むっ!」

 

 そう揶揄ったが、

 

「魎呼も魎皇鬼に先越されないように気を付けな」

 

 鷲羽の追い打ちに魎呼もギクリとする。

 

「うっ……そ、そんなわけ……」

 

「みゃ?」

 

 全く話を理解していない純真な魎皇鬼の声に、全員が動きを止める。

 魎呼はこの話題の不利を悟って、幼児形態でユラリと浮かんでいた訪希深を指差す。

 

「そ、それより! なんで訪希深が偉そうに式に出てたんだよ!」

 

「しかも、神前に立つなんてどういうおつもりです?」

 

 他の者達も気になっていたので、全員が訪希深に注目する。

 

 すると、訪希深は薄っすらと本体を座敷の前に投影した。

 

『だから我がいたのだ』

 

 訪希深の言葉に魎呼達がポカンとすると、

 

『それと、あの場にいたのはちょっとした理由があってな』

 

「理由ってなんです?」

 

 美星が素直に問いかけると、

 

「な~い~しょっ!」

 

 と、幼児モードで可愛く誤魔化した。

 

 それに本性を知っている魎呼と阿重霞はイラっとしたが、訪希深は戦闘特化した頂神であることを思い出してグッと堪えた。

 ハリベルはそのやり取りに呆れるも、

 

(わざわざあの場に顔を出す理由。考えられるのは……玲亜の素性、か)

 

 異世界より来た女性。

 

 多次元を管理する頂神が何か関わっていても不思議ではない。

 しかも、頂神達が待ち望んだ存在である天地の異母弟なのだから。

 

 ハリベルは疑問を口にしようとしたが、その前に天地が口を開いた。

 

「ねぇ、鷲羽ちゃん。ゴタゴタしてて言い忘れてたんだけど……」

 

「なぁに? 私にも花嫁衣裳を着て欲しいとか?」

 

 鷲羽の冗談に魎呼と阿重霞が睨みながら掴み掛ろうとしたが、

 

「俺がZに斬られた時のことなんだけど」

 

 天地の問いに阿重霞もあることを思い出した。

 

「Zと言えば、襲ってくる直前にノイケさんに何かおっしゃってらしたですわねぇ?」

 

「そういやぁ、ノイケの様子も変だったしな」

 

 Zが襲ってくる直前、鷲羽がノイケに何か話しかけた直後、急にノイケが動きを止めたのだ。

 その直後に、宇宙からZの攻撃が襲い掛かり、なんと地球は半壊した。

 

 その戦いの中で天地は超次元の存在に覚醒し、鷲羽と津名魅が頂神であること等色々と判明したのだ。

 

 もっとも、これは頂神達の力で時間が戻され、Zの存在は天地達以外記憶にも記録にもなかったことにされたのだが。

 ハリベルも結局鷲羽や天地達から話を聞いただけで、実際にどのようなことが起きたのかは知らない。

 

 これは瀬戸達もハリベルと同じである。だからこそ、ハリベルを当て馬にしたというのもある。

 

「おお! Zはノイケ殿の目を通して私達を監視してたんだ~」

 

「「「ええ!?」」」

 

 あっけらかんと言い放った鷲羽に、天地達は驚きを抑えきれず、ノイケに顔を向ける。

 全く身に覚えのないノイケは、テレポートしてきた魎呼に胸倉を掴まれてもポカンとしていた。

 

「てめぇ! スパイだったのか!?」

 

「誰もスパイだなんて言ってないだろ。ちょっと黙ってな」

 

 あっという間に全身を簀巻きにされて拘束された魎呼。

 魎呼を拘束した鷲羽は、未だ要領を得ないノイケに声をかける。

 

「ノイケ殿、ちょっとスキャンしたいから、ここに座ってもらってもいいかい?」

 

 天地が座っている一人掛けソファを指差して、ノイケを呼ぶ。

 天地はそれに慌てて立ち上がって場所を空け、ノイケは訳も分からぬまま、されど素直にソファに座る。

 

「ほいっと」

 

 顔が付いたボールをノイケの頭に乗せ、ボールは乗せられたと同時に目の部分がピコピコと光り出す。

   

「くっそ~!」

 

 魎呼がバタバタと魚のように跳ねて暴れているが、一向に拘束が外れる気配はない。

 その様子に阿重霞はため息を吐き、鷲羽に向き直る。

 

「何故こんな大事なことを今まで黙ってらしたんですか? 鷲羽さん」

 

「別にノイケ殿が意識的にやったことじゃないからねぇ」 

 

「……つまりノイケは操られていたと?」

 

「ん~……そうとも言えるし、そうでもないと言えるかねぇ」

 

 その時、スキャンが終わったのか、ボールの両目が同時に点滅する。

 

「お、結果が出た様ね」

 

 鷲羽は手元にモニターを展開して、スキャンデータを確認する。

 天地と阿重霞も横から覗き込むと、そこに表示されていたのは細胞のデータのようだった。

 

 拡大されていくとそこには何やらマークのようなものが付けられていた。

 

「やれやれ……やっぱりクレーか」

 

 天地達は因縁ある名前が出てきたこと、そしてハリベルは有名な哲学士の名前が出て眉を顰める。

 

 Drクレーとは鷲羽と同輩である哲学士の男だ。

 守銭奴であり、金払いが良ければどんな相手でも依頼を受けるポリシーの持ち主だ。

 美術品のコレクターでもあるが、あくまで自分の価値基準にあった物を愛でるタイプで、発明品も悪趣味的な物も多いが、その知識と技術力は決して馬鹿に出来ない。

 

 天地達とは訪希深の繋がりでイザコザがあった仲である。

 クレーは訪希深の部下として動いていたのだが、結局天地達に負けて逮捕。今は保釈金をケチるために服役している。

 主である訪希深が今鷲羽の元にいることを知れば、どのような反応をするのか。鷲羽は地味にそれを楽しみにしていたりする。

 

 ハリベルは直接会ったことはないが、クレーが開発した宇宙船を使っていた海賊ギルドが、とあるコロニーで暴れ、逃げてきた住民達をハリベルが保護して撃退しようとしたが、コロニーを破壊して逃げられたという苦い記憶があるので、名前を憶えていたのだ。

 

 ちなみにその海賊はのちに瀬戸によって撃墜されている。

 

 しかし、それが何故Zに関わっているのか。

 

「一体どういうことでしょう?」 

 

 阿重霞の疑問にもちろんノイケは答えを知るわけもなく。

 

 そこに訪希深が腕を組んで舞い降りてきた。

 

「そのようなことは、被害者本人に訊けばよかろう」

 

 そう言った訪希深は一瞬本体に戻り、右手でノイケを透過しながら何かを掴んだ。

 訪希深は掴んだモノをノイケ達の傍で開放する。

 

 それは白く輝く光の玉のようなものだったが、すぐに形を変えて少女の姿になる。

 

 銀の長髪の可愛らしい少女だが、額にはクレーのロゴマークが刻まれていた。

 

 突如現れた少女にノイケは呆然とする。

 今の話が事実であれば、自分の中にこの少女がいたことになるからだ。

 

「君は、あの時の……」

 

 しかし、なんと天地はこの少女と知り合いのようだった。

 

 その言葉に鷲羽は全てを理解して納得する。

 

「やっぱりね」

 

「やっぱりって……どういうことなんですか?」

 

 鷲羽は天地が覚醒した時の状況を知っているので、この少女の存在は把握していたのだ。更にやり直した時間でも天地はこの少女と出会っていた。

 

「天地殿とは時間、質量が違うせいで、出現時間のポイントがずれたか、例の人物の仕業か。とにかく、ノイケ殿が母親だと思っている人物に拾われて、男を繋ぎ止める材料に赤ん坊まで退行させられて。ま、その違法改造したのがクレーってこと。その改造のせいでアストラルが分化して、2つの人格を形成。天地殿に会いたいというこの子の意識を、Zが利用していたのね」

 

 まさかの展開に天地とノイケはもちろん、誰もが唖然とする。

 

「その利用と言うのは、あくまで監視に関してということか? それとも、この家に来る流れまでもZが作ったということか?」

 

「流石にそこまでの力はZにはないよ。だから、あくまでノイケがこの家に来ることになったのは偶然。はたまた運命って奴だねぇ」

 

 ハリベルの疑念を鷲羽がはっきりと否定し、それにノイケはどこかホッとする。

 

 すると少女が目を開き、天地を見つめる。

 

「……ごめんね。でも、お兄ちゃんに会いたかったの。お礼、言いたかったし」

 

「そうだったんだ。いいんだよ。会えてよかった」

 

 天地は優しく微笑んで、少女を許す。

 少女も微笑んで、

 

「あの時は、助けてくれてありがとう」

 

 と、ようやくお礼を言えたのだった。

 

 天地も心残りが消えたことにホッとして、あることを思い出した。

 

「ねぇ、ところであの時言ってた、私もってどういう意味?」

 

「私も神我人なのにっていう奴?」

 

「「ええ!?」」

 

「か、神我人?」

 

 まさかの名前に鷲羽や魎呼達は目を丸くする。

 

 少女はむしろ当然のようにはっきりと頷く。

 

「うん! 私、神我人の女性体部分だもん」

 

 その言葉に鷲羽は顎に手を当てて、少女を観察する。

 

「……そういやぁ、あいつの子供の頃そっくり」

 

 鷲羽の言葉に阿重霞は困惑を隠せずに詰め寄る。

 

「どどどど、どういうことでしょう? 鷲羽さん」

 

「神我人って元々雌雄同体だったんよ」

 

「へ?」

 

 鷲羽は少し気まずそうに阿重霞から視線を逸らしながらあっけらかんと告げる。

 

「あいつ、女嫌いって言うか、母性を嫌っててさぁ」

 

「はぁ?」

 

「いやまさかこんな出会いがあるなんてねぇ! 事実は小説よりも奇なりなんてねぇ!」

 

「何か誤魔化そうとしてませんか?」

 

 勢いで誤魔化そうとする鷲羽に阿重霞が訝しむと、美星が首を傾げながら、

 

「神我人の女嫌いってぇ鷲羽さんのせいじゃないんですか?」

 

「……鷲羽~?」

 

 美星の言葉に色々と思い出した魎呼が鷲羽を睨む。

 

 神我人は元々鷲羽の友人であり同輩であった朱螺凪耶のクローンとして生まれ、鷲羽の弟子として生きていた。

 しかし、鷲羽と色々あって魎呼、魎皇鬼、そして当時移動母艦としていた『双蛇』を乗っ取り、鷲羽を封印し、宇宙統一を目論んで樹雷を、始祖樹津名魅を狙い、そして地球にやってきたのだ。

 

 この少女は鷲羽を封印した際に切り離された神我人の分体ということだ。

 

 そこを超次元生命体に孵化しかけていた天地の意識体が過去に跳び、助けようとした。しかし、先程の鷲羽の言う通り、天地は本来の身体に戻り、少女は別の時間に跳ばされてしまったというわけだ。

 

 

 つまり……今回の騒動全ての発端は、鷲羽にある。

 

 

「あ~、じゃあ後はどうするか?」

 

「「誤魔化すな!!」」

 

ゴォン!!!

 

 阿重霞と魎呼が同時に怒鳴って鷲羽の頭に拳を叩き込む。

 魎呼、阿重霞、天地は神我人と色々、本当に色々あったので流石に怒りが抑えきれなかったのだ。

 

「……やれやれ」

 

 流石に鷲羽も責任を感じているので、大人しく殴られ反論はしなかった。

 神我人との戦いは本当に天地が死にかけたり、魎呼と阿重霞、砂沙美(津名魅)も危なかったのだから、仕方のないことではある。

 

「で、どうする?」

 

「このスッゴイ嫌なマークのプロテクトを外してくれたら、ノイケに同化できるよ。どうせ私、ほとんど生まれたばかりの赤ん坊と同じ質量しかないから、さほど影響は出ないし。私の記憶は残るけど、お兄ちゃんと出会った時のだから、いいよね!」

 

「……あの夢はあなたの記憶だったのね。……そうね、歓迎するわ」

 

 ノイケはこれまで時折危険な目に遭い、誰かに救われるという夢を何度も見てきた。

 その助けてくれた男性が天地に似ていたことが、好意を抱くきっかけにもなった。それが実際は天地本人だったのだから、断る理由はノイケには全くない。

 

 他の人にはない、自分だけの天地との特別な繫がりなのだから。

 

「……頑張ろうね」   

 

「え? ……ええ」

 

 言葉の意味を理解して、苦笑しながらも頷くノイケ。

 

「じゃあ、プロテクト外すわよ」

 

 鷲羽がコンソールを簡単に操作すると、少女の額のマークが消える。

 それを実感した少女は嬉しそうな顔でノイケに駆け寄って、足元にしがみつく。

 

「そうだ! またお兄ちゃんと一緒にお食事して、お風呂に入ろうね!」

 

 そう言いながらノイケに同化して消えた少女。

 

「「「「ええ?!」」」」

 

 少女の最後の暴露に天地、ノイケは顔を赤くし、魎呼達も驚きの声を上げる。

 

「こ、こらテメェ、今のどういう意味だ!?」

 

「2人でお風呂って、2人で~!!」 

 

「アタシだって2人っきりなんてねぇんだぞ!?」

 

「どういうことですか!? 白状するまで許しません! ダメダメダメ~!」

 

「みゃあ! みゃあ!」

 

 なんだかんだでいつもお互いに監視するような状態だったため、魎呼も阿重霞ももちろん、砂沙美や美星も天地と2人でお風呂は実現したことがなかったのであった。

 それがまさかの抜け駆けをしている者が、それも最近来た者が実現していたなど認められるわけがない。

 

 あっという間に居間は阿鼻叫喚に染まり、鷲羽やハリベルは少し離れた場所から苦笑しながら眺めていた。

 

「やれやれ……賑やかだねぇ」

 

「……一つ、まだ疑問があるのだが」

 

「なんだい?」

 

「そのZとやらの戦いはお前達の力で時間を巻き戻したのだろう?」

 

「そうだね」

 

「つまり、本来Zに斬られたことで出会った神我人の女性体部分との出来事もなかったことになったのではないのか?」

 

「いや。時間を巻き戻した後、美咲生殿のイザコザの時にね。因果の帳尻合わせで過去に跳んでるのさ」

 

「……なるほどな。だが……神我人を殺した男が、神我人が斬り捨てた女性体部分を過去で救い、更にはそれが全く関わりのないはずの場所で退行させられたというのに何も知らずに成長して婚約者になる、か……」

 

「くっくっくっ! 出来過ぎっちゃあ出来過ぎだけどね。それもまた、超次元の存在に覚醒した天地殿の影響かもしれない」

 

「……お前達超次元生命体は時空、時間を超越する。未来で完全に覚醒した天地がノイケのために、と?」

 

「その可能性もある。他の理由かもしれないけどね。まぁ、もうこれに関しては終わったことさ」

 

 どのような理由にしろ、すでにノイケは柾木家に来て、神我人の女性体部分を受け入れたのだから。

 流石に頂神と言えど、また時間を戻す理由はない。 

 

 鷲羽はニヤリと狂気的な笑みを浮かべる。

 

「さ~てぇ、次は異世界人さんの方だねぇ。どぉんなデータが取れるやら。けっけっけっ!」

 

「……はぁ」

 

 鷲羽の興味はすでに玲亜に向けられていることに、ハリベルはため息を吐き、また天地の心労が増えるのだろうなと思うのだった。

 

 

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