天地無用!皇鮫后   作:無月有用

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新艦完成

 結婚式から2日後。

 

 玲亜に関する調査が始まったが、清音の亜空間倉庫が全く整理されていない魔窟だったため、いきなり頓挫してしまった。

 天女や水穂、アイリが頭を抱えながら、一つ一つ中身を確認していた。

 

「あ~!! なによコレぇ!! 全く分類分けされてないじゃない!」

 

「ちょ、ちょっとコレ! アカデミーの研究資料じゃない!? い、一体いつから!?」

 

「っていうか、そもそもこの亜空間倉庫、どこで手に入れたの?」

 

 と、何かを見つける度にツッコミが起こり、全く作業が進まなかった。

 鷲羽は流石にプライベートもあるため、そちらの作業は家族に任せ、自分は玲亜の生体スキャンや次元ホールの調査を進めていた。

 

 しかし、鷲羽にもなればそれは片手間でも出来る作業なので、まずは遂に終わったハリベルの新造艦のお披露目に移ることにした。

 

「ってことで! お披露目だよん♪」

 

 テンション高めの鷲羽がお茶目に手で示したのは、真っ暗な超巨大な水槽だった。

 これは調整槽で、修復ナノプローブを含んだ水で満たされている。

 

 ハリベル、暇だったので付いてきた天地、砂沙美、魎皇鬼、ノイケは覗き込むも全く中は見通せなかった。

 

 今ハリベル達がいるのは鷲羽の研究施設のとある一室である。

 以前スクアーロンを貰ったドックともまた違う部屋で、薄暗いがかなりの広さがある。

 

「みゃあ?」

 

「どこにあるの?」

 

 魎皇鬼と砂沙美が揃って首を傾げる。

 

「ぬふふふ。まぁ、そう慌てなさんな」

 

 にんまりと笑う鷲羽がパチンと指を鳴らす。

 

 水槽内が明るくなり、その中身が露わになる。

 

「これは……」

 

 水槽内に鎮座していたのは、漆黒の宇宙船だった。

 その見た目は地球で言う全翼型戦闘機。胴体や尾翼がない、主翼のみで構成されている。

 

「……これってステルス戦闘機、ですか?」

 

「まぁね。と言っても、似ているのは外見くらいで、こっちの方が大きいし、中身も性能も別次元の別物だけどね」

 

「それはまぁ……宇宙船ですからね」

 

「あの船体は魎皇鬼のクリスタルとは違うのか?」

 

「ああ、ここからだとそれっぽく見えるけど、近づくとクリスタルじゃないって分かるよ。言ったろ? あくまで素材はアカデミーでも再現可能な物しか使ってない」

 

「しかし……あれでは居住区もジェネレーターも……。まさか、魎皇鬼や皇家の船同様、内部は亜空間固定されているのですか?」

 

「流石はノイケ殿♪」

 

「……ジェネレーターは特別製か?」

 

「ああ。と言っても、すでにこれも他でも使われてる奴だよ。ハリベル殿の胸元にね」

 

 ニンマリと笑って爆弾を放り投げた鷲羽に、ハリベルは目を丸くする。

 

「ラグリマだと……? 複製したのか?」

 

「まぁねぇ~。でも、あくまでジェネレーターだからガーディアン系のプログラムまではコピーしてないよ。それをあの船には2つ積んである。ハリベル殿のラグリマとリンクさせてあるから、ラグリマのエネルギー補給も出来るよ」

 

「……」

 

 この時点ですでに頭痛を感じ始めているハリベルは、盛大に眉を顰める。

 その様子に鷲羽はご満悦そうにニコニコしており、ノイケ達は呆れ笑いを浮かべるしかなかった。

 

「そ、それで鷲羽お姉ちゃん? 性能的にはどれくらいなの?」

 

「うん? まぁ、流石に宝玉や皇家の樹ほどの出力は出せないよ。ハリベル殿のラグリマも合わせれば……第二世代艦クラス。ジェネレーターだけなら、第三世代よりちょい上くらいってとこ」

 

 やや不満げに言う鷲羽にハリベル、砂沙美、ノイケは手で顔を覆う。

 天地はよく分かってないので、3人の反応からとんでもないことなんだろうなぁ…と推測していた。

 

 ちなみに一般的な皇家の樹とは第三世代を指し、第二世代ともなると無条件で樹雷皇族に選ばれる。

 瀬戸や船穂、阿重霞の船が第二世代であることからも、十分すぎる性能であることは疑いようもない。

 

「……光鷹翼は出ないだろうな?」

 

「そりゃ流石に無理。あくまで高出力なだけだよ」 

 

「亜空間固定をしていて、それだけの性能を出せれば十分すぎますよ……」

 

 ノイケはもはや頭を抱えて呻くように言う。

 もちろん鷲羽にそんなことを言っても聞いてくれるわけもない。

 

「うはははのは~。まぁ、ハリベル殿のラグリマがなかったら出来なかった船だからねぇ。さて、中に入ろうか」

 

 船は魎皇鬼など同様生体キーで入ることが出来る。

 ハリベル達が揃ってブリッジに転送された。

 

 どんなブリッジになっているのかと、ハリベルはやや恐怖すら抱いていたが、転送されてすぐに中を見渡すと、まさかの光景に目を見開いた。

 

 ブリッジの内装はスクアーロンとほぼ同じだったからだ。

 唯一異なるのは、艦長席の背後にある八面体の水晶体である。

 

「ブリッジはハリベル殿の船と同じにしてみた。ずっとこの船で活動するなら変えたけど、しばらくは入れ替えながらになりそうだからね。慣れた内装の方が良いと思って」

 

「……それは助かる」

 

「ブリッジは亜空間固定で独立してるからね。ハリベル殿は艦長席から他の亜空間に転送されるし、他の亜空間からだったら直接艦長席に転送されるよ。他の子達は増える可能性もあるから、ブリッジの中心から転送され、中心に転送されるようにしてある」

 

「……あのクリスタルは……まさか頭脳体、か?」

 

「おや、流石だねぇ。おいで」

 

 鷲羽が声をかけると、水晶体は青色に淡く光って浮かび上がる。

 

 そしてフワリと鷲羽達の前に飛んできた。

 

「オカアサ! オカアサ!」

 

「お~よしよし。いい子にしてたね~」

 

 水晶体は拙い言葉で鷲羽にすり寄り、鷲羽も抱きかかえて優しく撫でる。

 

 そして、鷲羽は水晶体をハリベルへと差し出した。

 

「……オカアサ、コノヒト、ダレ?」

 

「ほら、話したろ? この人がお前のマスターになってくれる人だよ」

 

「マスター? マスター! マスター!!」

 

 水晶体は犬のように喜んで、ハリベルの胸へと飛び込み、ハリベルは水晶体を優しく受け止める。

 

「……魎皇鬼や皇家の樹同様、感情や意識は成長するタイプか」

 

「ああ、せっかくだからね。ハリベル殿には悪いけど、ラグリマとのリンクも考慮して、徒波と合わせてちょっとした実験をさせてもらいたいんだ」

 

「実験?」

 

「基本的にこの手のコンピューターコアユニットはノイケ殿の鏡子ちゃんとか皇家の樹などの生体ユニットとの組み合わせか、魎皇鬼タイプって感じでね。今回は純粋な高度学習型コンピューターユニットで、どう成長するかってデータが欲しいんだよ。もちろん、ある程度徒波からのデータも使ってるけどね」

 

 これは現在アイリや天女達が開発中のコンピューターユニットと同じコンテンツであるが、アイリ達はあくまで皇家の樹をモデルにしているが、鷲羽は完全にオリジナルのプログラムで創り上げた高度学習AIである。

 恐らく現在清音の魔窟捜索を行なっている3人に、これを教えれば少なくともアイリと天女は崩れ落ちるに違いない。

 そしてもちろん、鷲羽はそのことを知っていて、ハリベルの船に搭載したのだ。

 

「……出来ればスクアーロンの方で試してもらいたかったが……」

 

「この手の特殊な船の方が良いデータが集まるんだよ。さて、マスター登録は済んでるから、その子に名前を付けてあげてちょうだい」

 

 ハリベルは青く光る水晶体を見つめ、

 

「………サフィロ」

 

 と、名付けた。

 

「サフィロ? サフィロ、サフィロ! サフィロ!!」

 

 サフィロは嬉しそうにハリベルの周りを飛び回る。

 その姿にハリベルも小さく微笑み、鷲羽達も微笑ましく笑みを浮かべていた。

 

「みゃあ!」

 

 砂沙美の頭の上にいた魎皇鬼が、ハリベルの肩に飛び移る。

 

「みゃあみゃあ!」

 

 魎皇鬼の声にサフィロも動きを止め、魎皇鬼に近づく。

 

「……ダァレ?」

 

「みゃあ!」

 

「その子は魎皇鬼って言うの。私は砂沙美だよ!」

 

「リョウオウキ? ササミ?」

 

「うん! それでね、こっちが天地お兄ちゃんで、ノイケお姉ちゃん!」

 

 砂沙美がいつもの人懐っこさでサフィロに天地達を紹介する。

 

「テンチオニイチャン? ノイケオネエチャン?」

 

「そうそう! かしこいね!」

 

「みゃあ!」

 

「サフィロ、カシコイ!」

 

 嬉しそうに砂沙美の周りを飛び、魎皇鬼と追いかけっこを始めるサフィロを、天地達は微笑みながら見つめる。 

 

「その子は他の亜空間にも移動出来るよ。船からは出られないけど、ラグリマを通して話も出来るし、外の様子も見てるからね」

 

「……承知した」

 

「居住区とかは後で部下の子達と確認しておくれ。さて、そんじゃあ最後に今回の目玉と行こうか。ハリベル殿のご注文の品だよ」

 

 サフィロも伴って移動した先は、格納庫と思われる場所だった。

 

 そこに鎮座していたのは、自動車サイズの宇宙艇。

 フォルムは新型艦と同じで、地球人が見れば無人ステルス偵察機と勘違いしそうな見た目をしている。

 それが全部で5機、並んでいた。

 

「これは……」

 

「一人乗りの宇宙戦闘艇さ」

 

「宇宙戦闘艇、ですか?」

 

「まぁ、まさに地球の戦闘機みたいなもんさ。小回りが利くし、レーダーにも映りにくい素材で造ってるから、偵察や奇襲に向いてるよ」

 

「……これの動力源もラグリマのコピーか?」

 

「ああ。これらにも2つ組み込んではいるけど、この母艦と比べたら小型だから、スクアーロンよりもちょっと遅いし、戦闘力も低いから気を付けな」

 

「それが当然だろう。……上に乗って操作することは可能だな?」

 

「もちろん。サフィロのサブユニットをセットしてるから、慣れれば魎皇鬼や皇家の樹のように思考で操作することが出来るはずだよ」

 

「承知した」

 

「しかし……何故このようなものを?」

 

「ハリベル殿はそこらへんの宇宙船なら、ラグリマを解放した姿や義体姿でぶった切れるからねぇ。つまりは宇宙船に対して白兵戦を仕掛けるつもりってことさ。魎呼もたまにやってた戦い方だね」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「ハリベル殿なら大丈夫だよ」

 

 心配そうに眉尻を下げる天地に、鷲羽はにこやかに笑って断言する。

 

 天地や魎呼を追い込んだハリベルならば、大型GP軍艦や皇家の船でもない限り苦戦することはないだろう。

 未熟な射手であれば、まずハリベルに射撃を当てることすら困難だ。

 

「部下の子達の義体も積んである。その義体と一緒に、ハリベル殿のラグリマと同じように船やサフィロとリンクさせ、義体と入れ替われるキーを置いてあるよ」

 

「分かった」

 

 重要項目の説明を終えた鷲羽達は船の外、先程の調整槽の外に戻る。

 

「でだ、最後に……この船の名前は何にする?」

 

 ハリベルは調整槽に漂う新型艦を見つめる。

 

「……『ネグロアギラ』」

 

「黒鷲だね。じゃあ、小さい方は『(クエルボ)』とでもしようか」

 

 ささっと名前を決めた鷲羽は、素早くコンソールを操作して最後の調整を行う。

 

「じゃあ、早速で悪いんだけど一度試運転してきて貰っていいかい? 瀬戸殿とチョビ丸には私から連絡しとくからさ」

 

「……分かった」

 

「じゃ、お願いね」

 

 笑みを浮かべた鷲羽は、調整槽の窓の横にあるコンソールのスイッチを押す。

 同時にハリベルはネグロアギラのブリッジに転送され、調整水が抜かれ始める。

 

 艦長席に転送されたハリベルは、球体の水晶型操縦桿に手を乗せる。

 ブリッジ内の機器に明かりが点り、ハリベルの周りに複数のモニターが表示される。

 

 サフィロがハリベルのすぐ傍にやってきて、

 

「マスター、オソトイクノ?」

 

「ああ、お前の初航海だ。行けるな?」

 

「ウン! オソト! イク!!」

 

 サフィロがテンションを上げて躍動するようにハリベルの周囲を跳ねる。

 

 そのテンションに同調するように、起動したネグロアギラからまるで唸り声のような音が響く。

 

 引き抜かれている調整水が波打ち、ネグロアギラが僅かに浮上する。

 鷲羽がコンソールを操作すると、ネグロアギラの前方に亜空間ゲートが開く。

 

「みゃみゃあ~!」

 

「行ってらっしゃ~い!」

 

 砂沙美とあの頭の上に乗った魎皇鬼が手を振って、ネグロアギラを見送る。

 

 それに応えるようにネグロアギラからヴォオオン! と、エンジン音と思われる音が轟き、直後急加速してゲートへと飛び込んだ。

 

 そして、柾木家前の池から空間迷彩を起動しながら超高速で宇宙へと上がる。

 

 1分もせぬ間に衛星軌道上を通過したネグロアギラは空間迷彩を起動したまま、チョビ丸がいる太陽系境界を目指す。

 

(これならジャンプせずとも1時間もしない内に到着出来そうだな)

 

「オソト! オソラ! タノシイ! タノシイ!!」

 

「……ふっ」

 

 嬉しそう楽しそうに騒ぐサフィロに、ハリベルは笑みがこぼれる。

 柾木家に行く前のハリベルであったら、間違いなくサフィロを排除まではしなくとも鬱陶しい位には思っていただろう。しかし、柾木家の、天地達の温かさに触れた今のハリベルからすれば、魎皇鬼と同じ子供であるサフィロを微笑ましく思い、どこか心が温まる。

 

 ハリベルはサフィロをもっと楽しませようと、ついでに飛行性能を試すつもりでアクロバティック飛行を行う。

 

 サフィロはアクロバティックをする度にキャッキャッと喜ぶ。

 

 ある程度遊んだハリベルは、サフィロの様子に微笑みながらもデータを確認する。

 

(……スクアーロンでの最大速度だというのに、まだまだジェネレーターは余裕か。消耗どころか熱すら帯びていない。今の数倍の飛ばしても戦闘に支障はなさそうだな……。それはつまり皇家の樹や魎皇鬼がそれだけ化け物染みているということか)

 

 ハリベルは内心ため息を吐き、この船の扱い方を思案する。

 

(艦船登録など出来るわけがない以上、この船は間違いなく海賊認定されるわけだが……あまり派手に動くと目立ちすぎる。そうなれば、逆に動き辛くなる可能性は高い)

 

 アイリや水穂、瀬戸の名前を出せばいいとは言われているが、流石にそう簡単に受け入れられはしないだろう。むしろ、艦船登録していなかった事実を咎められ、GPやアカデミーの調査が入る可能性がある。

 

(こんな船を使い程度で使うなど……やはり伝説の哲学士と鬼姫は常軌を逸しているな。……いや)

 

 ハリベルはため息が漏れそうになったが、隣でまだウキウキしているサフィロを横目で見る。

 

()()()()()のサフィロ、か。このような子供をずっと隠し、閉じ込めておくのは、樹雷の者達からすれば憐れみを抱くだろうな。となれば、いずれは義体の方でも何かしらの海賊と名乗らされる可能性はあるか……)

 

 だが、今はまずこの船に慣れなければならない。

 更にアパッチ達の義体との相性や性能なども見極めなければならないし、船や義体を入れ替わる生活にも慣れて行かなければならない。

 

 特に西南関連の手伝いをさせられるのは間違いないだろう。

 何故ならこれから西南のために、魎皇鬼の同型艦が造られるのだから。

 

 そうなれば、間違いなく宇宙は荒れる。

 

 ハリベルはその中心の裏側で動かなければならないのだ。

 

 気を緩め、浮かれている余裕は……まだまだ持てない。

 

 

 憂鬱になりかけたハリベルは、サフィロで和むことにした。

 

 

 




鮫関係じゃねぇんかいと思う方が多いでしょう
すいません(ーー;)
なんかそれはそれでバレそうな気がしてしまいまして
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