天地無用!皇鮫后   作:無月有用

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いきなり黒幕登場

 ハリベル襲撃の翌日。

 

 土地についてはすでに完全修復を終えており、戦闘の形跡など全く感じさせなくなった。

 ハリベルの治療も一区切りついており、鷲羽は現在ハリベルの乗ってきた宇宙船と青い結晶の解析を進めていた。

 

 といっても、宇宙船の方はすでに終わっており、

 

「まぁ、予想通りと言えば予想通りではあったけどねぇ……」

 

 鷲羽は小さく苦笑しながら、黒幕のニヤケ顔を思い浮かべる。

 

「問題はこっちの結晶の方だねぇ。また面白いもんを作ったもんだ」

 

 鷲羽は分析装置に収められた青い結晶の分析結果を見ながら、楽し気に笑う。

 

「こっちと()()()の技術を無理矢理掛け合わせたパワードスーツか……。何度も改良を重ねているおかげで、機能としては完成しているようだけど」

 

 鷲羽は装置から結晶を取り出して、部屋を移動する。

 そこは病室のような造りの部屋で、ベッドがあるところには治療カプセルが横たわっていた。

 

 鷲羽が部屋に入ると、部屋の窓際に立っているハリベルがいた。

 

「おや。もう起きたのかい?」

 

 ハリベルは生体培養ギプスで右上半身が覆われているが、それ以外の身体はすでに綺麗な肌を取り戻していた。

 火傷の痕や顔の切り傷も綺麗に消えており、その美しい肢体を堂々と晒していた。

 

「……どのくらい寝ていた?」

 

「1日程だよ」

 

「そうか……。私の事はすでに調べ終わっているのだろう?」

 

「一応ね。ああ……これも返しておくよ」

 

 鷲羽は青い結晶を取り出して、ハリベルに投げ渡す。

 ハリベルは左手でキャッチして、状態を確認する。

 

「安心しな。完璧に直しておいてあげたよ。ついでにバグの修正と、悩んでるみたいだった出力と強度も改良しといたから」

  

「……流石は白眉鷲羽、と言うべきなのだろうな。……ということは、私の身体も?」

 

「ああ。しかし、随分と無茶してるね。生体強化レベルは11。しかも、ナノサイボーグ化までしてるなんて、廃人か精神が狂ってもおかしくないよ?」

 

 生体強化は体組織をナノマシンで別組織に再構成して強化する技術である。さらに同時に細胞の再生回数を増やすことで肉体的な寿命を延ばすことも出来る。

 

 数回ならば大きく問題はないが、何度も行うということは、何度も体中の組織を別の組織に造り変えるということだ。

 それは脳細胞も含まれており、強化のレベルを上げるということはその度に脳そのものを造り直していると言っても過言ではない。

 なので、記憶、精神に変調をきたす者が現れることは決して珍しくはない。

 

「忠告は感謝するが……それはすでに手遅れだろう」

 

「ん?」

 

「今の私は精神が狂ったことで出来上がった人格だ。本来の私の人格など、記憶にすら残っていない」

 

「……」

 

「故に私という人格は施した生体強化に後悔はない。後悔する記憶がないのだからな」

 

 ハリベルはそう言いながら、培養ギプスを外す。

 露わになった右腕も完治しており、傷痕1つ残っていなかった。

 

 離握手をして調子を確かめたハリベルは、胸元に青い結晶を当てる。

 すると、結晶はチョーカーのようにベルトが形成されて装飾品になる。

 

「それで……私の処分はどうなった?」

 

「まだ何も決まってないよ。まぁ、そろそろ顔を出すと思うけどねぇ」

 

「?」

 

 ハリベルは訝しむが、鷲羽は肩を竦めて苦笑するだけだった。

 すると、鷲羽の横にモニターが出現して、やや困惑気味な砂沙美の顔が表示される。

 

『鷲羽お姉ちゃん! お婆様が来たんだけど……』

 

「やっぱりね。分かった。すぐ行くよ」

 

『うん』

 

 砂沙美との通信を終えた鷲羽は、ハリベルに顔を向ける。

 

「ってことで。あんたも着替えて、一緒に来てくれるかい?」

 

「……全て樹雷の鬼姫の掌の上、か……」

 

「全部ではないと思うけどねぇ。少なくとも結果は思惑通りだろうね。くっくっくっ!」

 

 ハリベルはため息を吐いて、青い結晶に再び触れる。

 結晶から粒子のようなものが放出され、次の瞬間には最初に来ていた服を身に着けていた。さらに、髪の色も金髪に変わっていく。

 

「ところで、それはなんて呼んでるんだい?」

 

「……『ラグリマ』」

 

「あいよ。じゃ、行こうか。天地殿達も安心させてやりたいしね。あぁ、靴は脱いでおくれ」

 

「……」

 

 ハリベルは小さくため息を吐いて、大人しく靴を脱ぐ。

 鷲羽の後に続いて、謎の施設の中を歩く。

 

「……ここはあの家の地下か?」

 

「まさか。私がそんな狭いところで満足するわけがないだろ? ここは地球からかなり離れた宙域に隠してある私の研究施設さ」

 

「……」

 

 そんな重要なことをあっさりとバラす鷲羽に、ハリベルは背筋が寒くなるのを感じた。

 見つからない自信があり、更に見つかったところで問題ないと言い張るだけの備えがあるということだ。

 事実、未だにアカデミーでは白眉鷲羽の伝説(恐怖)は有名で、その技術も未だに足元程度にしか届いていないらしい。

 

 その伝説が目の前にいる。

 

 その恐ろしさをハリベルは改めて実感した。

 

「……本当によく、生き延びられたものだな……」

 

「そこはあんたの実力と、天地殿の優しさのおかげさ。あの光鷹翼の反射で死なずに、あの程度の怪我で済んだのは、あんたが剣を砕かれた瞬間に残りのエネルギーを防御と生命維持に回したからだよ。まぁ、流石にあのまま放置されてたら危なかっただろうけどね」

 

「どうせ、あの方は柾木天地がそうすることを読んでいたのだろう?」

 

「多分ね」

 

 鷲羽は苦笑して、転移装置を起動する。

 そして、普段過ごしているホールに転移して、その部屋にある小さな扉に向かう。

 

「お待たせ~」

 

 鷲羽がおちゃらけながら扉を開け、その後をハリベルが続く。

 そこは先ほどまでと違って、文明レベルが一気に下がった広間だった。

 

 木造の建物で、設置されている機械類や家具も初期文明レベルだった。

 ハリベルが素早く部屋を見渡し、窓から昨日戦った池が見えたので、まさしく柾木邸の中であることを理解した。

 

 リビングと思われる部屋の中には、天地を始めとする柾木家の者達が揃っていた。

 

「鷲羽ちゃん。その人、もう大丈夫なんですか?」

 

「ああ。もう死ぬことはないよ」

 

「よかった……」

 

 天地はホッと息を吐き、その背後で魎呼や阿重霞は未だに警戒したような視線を向けてきている。

 砂沙美やノイケは複雑な感情を浮かべてハリベルを見ており、美星は天地同様ニコニコしてハリベルの回復を喜んでいた。

 

 そして、リビングのソファには昨日は見なかった者が3人座っていた。

 

 1人は征木神社の神主をしている見た目老人の男性、柾木勝仁(かつひと)

 

 その隣には妻であり、アカデミー理事長の柾木アイリ。

 

 そして、薄い緑色の長髪を持つ美女。

 『樹雷の鬼姫』こと神木・瀬戸・樹雷である。

 

 瀬戸は扇子で口元を隠して、

 

「結構派手な戦闘を繰り広げた割りには、元気そうでよかったわ」

 

「何言ってんだい。この子じゃなかったら、死んでたか、運よく生きてても樹雷やアカデミーの治療設備じゃ数か月はまともな日常生活は厳しいくらいには危うかったよ」

 

 鷲羽が呆れたように言い、それに天地やノイケ達は驚く。

 瀬戸はそれでも開き直ったように、

 

「けど、鷲羽ちゃんのところならお茶の子さいさいでしょ?」

 

「馬鹿言うんじゃないよ。私の施設でも本来なら1週間は寝たきりさ。あくまでこの子自身の身体のおかげ」

 

「あら……」

 

「それで? わざわざこの子を嗾けて何のつもりだったんだい?」

 

『えぇ!?』

 

 鷲羽の言葉に天地達が再度驚いて、瀬戸に顔を向ける。

 瀬戸は笑みを消すことなく、驚愕の視線を受け流す。

 

「お、お婆様がこの者を!?」

 

「どういうことだよ!?」

 

「説明してください!」

 

 阿重霞、魎呼、ノイケが瀬戸に詰め寄る。

 

「はいはい。ちゃんと全部説明するから。少し落ち着きなさい」

 

「じゃあ……瀬戸様がこの人の大切な人を人質に取ったんですか?」

 

 天地がハリベルの事情を思い出して、顔を顰める。

 

 それに瀬戸は流石に申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 

「確かに彼女に対して、少し乱暴な交渉をしたことは申し訳なく思っているわ。それに対する埋め合わせもすでに講じています」

 

「埋め合わせ、ですか?」

 

「人質にしたのは、彼女が保護していた海賊達に故郷を追われた難民達よ。本来ならばGPが保護するのだけど、彼らの故郷というのは銀河連盟に加入していなかったから、助けられる人と助けられない人達が出てしまってね。彼女は助けられなかった人達を集めて保護していたの。そこで私達は、今回の依頼を引き受けてもらう報酬に、その人達を特例としてGPで保護。樹雷の援助の元、近々独立国家となる自治州への移住が決まったわ」

 

「……そうか」

 

 ハリベルは瀬戸の報告を聞いて、安堵したかのように目を瞑る。

 

「もちろん、あなたに保護されていたという情報も隠蔽しているわ。これで彼らは海賊に追われて、GPと樹雷に保護されただけの難民ということになるのだけど……それで本当によかったかしら?」

 

「ああ……。海賊に保護されていたというのは珍しいことではないが、今後アカデミーなどに行く者が出た場合にはやはり不利になる恐れがある。……ならば、私との繋がりなどなかったことにした方がいい」

 

 ハリベルは目を瞑ったまま、腕を組んで言う。

 

 銀河アカデミーの門は基本的に開かれてはいるが、やはりある程度の身辺調査はされる。

 そのため、海賊と繋がりがある者や海賊の支配する星の出身の者は、その行動を大きく制限されてしまう。

 

 ハリベルは個人で動く海賊とは言え、それなりに名前は知れ渡っている。

 なので、いくらGPに保護されたからと言って、ハリベルに保護されていた事実は決して見逃されることではない。

 

 難民は海賊たちの被害者でしかない。

 一度として彼らに見返りや協力を求めたこともない。

 助かった以上、ハリベルは彼らの足枷になるつもりはない。

 

 その言葉に天地達は、やはりハリベルは悪人ではないという印象を持つ。

 しかし、だからこそ、何故瀬戸がそこまでしてハリベルに依頼をしたのかという疑問が生じる。

 

「お義母様……。一体何が目的で彼女と天地様を?」

 

「それを説明しに来たのよ。さ、天地殿。座って頂戴」

 

「……はぁ」

 

「ハリベル殿。あなたも座ってくださるかしら」

 

「……遠慮させてもらう」

 

 ハリベルは瀬戸の申し出を断って、鷲羽の部屋のドアの横にもたれかかる。

 

 瀬戸は小さく苦笑して、座った天地に顔を向ける。

 

「さて、天地殿」

 

「はい……」

 

「自分の力を少しは理解出来たかしら?」

 

「っ!! ……まさか……。そのために……?」

 

「遙照殿から話を聞いてね。アイリ殿や美守殿にも協力して頂いたわ。もちろん、阿主沙殿達も了承済みよ」

 

 瀬戸の言葉に天地達は目を見開いて、勝仁達に目を向ける。

 

「じっちゃんが?」

 

「人の身で光鷹翼を6枚。その意味と力の大きさを実感する機会なんて、この地球では滅多にないわ。だからと言って、顔見知りでは天地殿を追い詰めるのは難しい。けど、そこらへんの輩では魎呼ちゃんや阿重霞ちゃん達を押しのけて、天地殿を狙うのも難しい。そこで選ばれたのが彼女よ」

 

「けど! もしかしたら、死んでたかもしれないんですよ!?」

 

「そうね。もし、あのまま死んでたら、ただの海賊として処理されるだけ。そこは彼女には了承してもらっていたわ」

 

「そんな……!?」

 

「もちろん、彼女ならば生き残る可能性が高いと思っていたから依頼したの。非道であることは認めるけど、逆に言えばこれくらいしないと天地殿達を追い詰める手段がなかったとも言えるのよ。それだけあなた達の力は常軌を逸するものなの」

 

「それは……」

 

「それに天地殿。辛い事を言わせてもらうけど、そもそもあなたが自分の力をコントロール出来ていれば、彼女が死にかけることもなかった。違うかしら?」

 

「!!」

 

 瀬戸に突き付けられた事実に、天地は苦痛に顔を歪めて項垂れるしかなかった。

 その様子に魎呼達は心配そうに見つめ、勝仁や鷲羽達は真剣な顔で見つめていた。

 

「天地。お前の力は、すでに第一世代の皇家の樹をも超えておる。それは確かに阿重霞達を守る力になるが、力加減を誤れば全てを消し去る可能性もあるのじゃ。この地球で使う機会がないからとは言え、それは扱いを知らなくてよい理由にはならん」

 

「……じっちゃん」

 

「いずれ儂や地球のことを宇宙に知らせる時が来る。そうなれば、必ずやお主達や正木の村を狙う愚か者が現れるじゃろう。その時にその巨大な力を扱えんのは弱点でしかない。それを実感してもらうために、今回瀬戸様達に頼み込み、悪役を引き受けてもらったのじゃ」

 

「……」

 

 勝仁がソファから立ち上がって、ハリベルへと身体を向ける。

 そして、深く頭を下げた。

 

「孫のためとはいえ、其方には誠に申し訳ないことをした。彼らを保護しただけでは、とても埋め合わせにはなりえんじゃろう。儂の力が及ぶ限りではあるが、謝礼をさせてもらいたい」

 

「……その必要はない。生き残った時は他にも報酬を貰う契約を結んでいる。それで命を失ってもいいと納得した以上、これ以上報酬を受け取るつもりはない」

 

 ハリベルは視線だけを勝仁に向けて言う。

 

 その言葉に勝仁は改めて頭を下げる。

 

 ハリベルは勝仁に向けていた視線を、瀬戸に移す。

 

「これで私への依頼は達成ということでいいのだな?」

 

「そうね。十分なきっかけにはなったと思うわ」

 

「では、これで失礼する」

 

「ああ、ちょっと待って頂戴。報酬について相談があるのよ。他にもね」

 

 そこで初めてアイリが口を開いて、ハリベルを呼び止める。

 ハリベルは訝しむように眉を顰める。

 

「……他にもだと?」

 

「ええ。まぁ、結論から言うとね、あなたもこの家に住んでほしいのよ」

 

「え?」

 

「……なに?」

 

「「はぁ!?」」

 

 アイリの言葉に天地とハリベルは呆然とし、魎呼と阿重霞は目を見開いて大声を上げる。

 

 ノイケや鷲羽達も声を上げる程ではなかったが、驚きを露わにしている。

 

「……何故そんなことになる? 私はこの者達を襲ったんだぞ」

 

「あら? それはもう解決したでしょ? 天地殿はあの子の事、まだ怒ってるの?」

 

「え? い、いえ……。元はと言えば、俺が未熟だったのが原因ですし……。事情も事情ですから……」

 

「ほら」

 

「……それが何故ここに住むという話になる?」

 

「あなたが信用できるからよ」

 

「だから!! それがなんでコイツがここに住む理由になるんだよ!? ノイケだって来たばっかだぞ!? また許嫁とでもいう気か!?」

 

 魎呼が我慢出来なくなってアイリに吠えながらテーブルを叩く。

 それに瀬戸が苦笑しながら、

 

「流石にそこまで言うつもりはないわ。ただね、彼女の立場がこの家にとって意外と貴重なのよ」

 

「貴重ぅ?」

 

「普段ここにいる面子を思い出して頂戴な。天地殿はまず宇宙を知らないし、女神様を超えるかもしれない存在になったわ。そして、阿重霞ちゃん、砂沙美ちゃんは樹雷皇族。しかも現在行方不明扱い。美星ちゃんはGPの第一級刑事で九羅密家直系。鷲羽ちゃんも存在が伝説化して、魎呼ちゃんと魎皇鬼ちゃんも同じ。ノイケはまだ比較的自由だけど、私の養子になったのは知られているわ」

 

「美星ちゃんとノイケちゃん以外、おいそれと宇宙に出られないでしょ? けど、美星ちゃんはまだGP所属だから自由に動けるわけじゃないし、それに……アレじゃない? 皆だって頼み事し辛いでしょ?」

 

「「「「……まぁ……」」」」

 

「え~! 皆さん酷いですぅ」

 

 美星は涙目になって落ち込む。

 しかし、普段の素行から美星への()()()()()信頼度は低い。

 基本的に損害を与えるか、大事に変わるからだ。

 

「となるとね。何かしらお使いを頼むならノイケになるんだけど……」

 

「ノイケちゃんはすでにこの家の家事を仕切ってるでしょ? そう何度も抜けさせるのは忍びないと思ってね。その点、彼女はどこにも属していないし、人格と実力も十分でしょ? しかも、海賊だからアウトローな情報も調べやすいしね。そして何より、この家の戦力も上がる。天地ちゃんや周囲の人達が傷つく危険性も減るわ」

 

 瀬戸とアイリの言葉に、納得出来るようで出来ない天地達。

 ハリベルは眉間に皺を寄せて、

 

「私は小間使いになるつもりはない」

 

「そんな何でもかんでも依頼する気はないわよ。あなたの部下3人はアタシか三守様の私的な部下という扱いにして、立場や生活、装備は保障するし、仕事を頼む時はあたし達がバックアップすることになっているわ。あなたに頼むのは天地ちゃんにも関わることだろうから、鷲羽様も手伝ってくれるだろうしね」

 

「表向きは海賊、裏では私やアイリ殿の部下ってことになるけど。それでも私達の中では、あくまでも天地殿のところからの出向って形になるわ。報酬もちゃんと払う予定よ」

 

「……お前達ならば義体でも何でも作って、自由に動けるだろう。それに樹雷の人間でもいいではないか」

 

「『信頼出来る海賊』が欲しいのよ。それに樹雷でも正木の村のことは知っていても、ここのことを知っている者はまだ限られた者だけでね」

 

 畳みかけるような瀬戸とアイリの言葉に、ハリベルは何を言っても無駄なのだろうと諦めかけた。

 しかし、

 

「そもそも家長の柾木天地が認めなければ、意味がないだろう?」

 

「あら? 天地ちゃんは彼女と一緒に住むのは嫌?」

 

「え!?」

 

「断れ天地!!」

 

 魎呼が戸惑う天地に詰め寄り、阿重霞もその後ろで期待する(プレッシャーを与える)ように見つめている。

 ノイケや砂沙美は嫌ではないが、素直に頷ける気にもならず、鷲羽は小さくため息を吐く。

 

「まぁ、今ここで決めさせるのも酷じゃないかい? 瀬戸殿やアイリ殿はハリベル殿の事を知ってるけど、天地殿達はまだお互いの事もよく知らないんだ。もう少し時間が必要だと思うけどね」

 

「時間が必要って、どうすんだよ? まさか本当に居候させんのか?」

 

「今後ずっと住むかどうかは置いといても、ハリベル殿はもうしばらくここにいてもらうよ」

 

「「「えぇ!?」」」

 

「……なんのつもりだ? 白眉鷲羽」

 

「馬鹿にしてもらっちゃ困るねぇ、ハリベル殿。まだアンタの身体は完治には程遠いはずだよ。正直、今だって辛いんだろ?」

 

「……」

 

 鷲羽は真剣な顔でハリベルの目を見ながら告げる。

 鷲羽の言う通り、ハリベルは命の危機を脱しただけで、完全回復したわけではなかった。

 見た目を最優先に修復させただけで、筋肉や内臓はまだまだ時間がかかる。

 

 見抜かれたハリベルは顔を顰めて黙り込む。

 それに天地が困惑の表情を浮かべて、

 

「鷲羽ちゃん、どういうこと?」

 

「今のハリベル殿は少し歩ける程度までに回復しただけさ。死ぬことは無くなっただけで、まだ内臓や筋肉はボロボロだよ。言ったろ? 私の回復装置でも一週間は寝たきりだって。私の見立てじゃ、本来の2割くらいしか回復してないね。今の状態じゃ砂沙美ちゃんや美星殿にすら勝てないよ」

 

「そんな……!」

 

「無理矢理巻き込んだ以上、完全に回復するまでは帰せないよ。報酬を渡す以前の問題だ。アフターケアは完璧にこなさないと私のプライドが許さないし、天地殿だって寝覚めが悪いだろうしね」

 

「……」

 

「回復するまでの間に、天地殿達と交流を深めて、今回の報酬について話そうじゃないか。私で用意できる物なら、私が用意するよ。瀬戸殿が言う御手伝いとやらは、ここに残ると決めた時に改めて話せばいいことだろ?」

 

「こっちはそれで問題ないわ」

 

 鷲羽に顔を向けられた瀬戸は、問題ないと頷く。

 続いて鷲羽は天地達にも顔を向けて、

 

「天地殿もそれでいいかい?」

 

「怪我は俺が原因だから。もちろん完治するまで居て貰って構いません」

 

「ということだ。悪いけど、怪我が治るまでは拒否権はないよ」

 

「……はぁ。どうせ、今の私にお前達から逃げる力はない。船も押さえられているしな。……好きにしろ」

 

 ハリベルはどうせ今の面子からは逃げられないと悟って、諦めることにした。

 

 こうしてハリベルは柾木家に居候することになったのだった。

 

 

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