天地無用!皇鮫后   作:無月有用

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仲良くしましょ・その2

 ハリベルはニンジンの籠を背負って、柾木邸に戻る。

 

 軽トラが置かれている裏手の扉に近づいていくと、動きやすい服に着替えたノイケが現れた。

 

「あら? ハリベルさん?」

 

「……ニンジンはどこに置けばいい?」

 

「え? あ、はい。こちらに」

 

 少し戸惑いながらノイケはハリベルを倉庫へと案内する。

 倉庫の中にも大量のニンジンが置かれていた。

 

「……これを全てこの家で食べ切れるのか?」

 

「正木の村や船穂様達にもお裾分けすることもありますが……。魎ちゃんの食欲は凄いので……」

 

「あの姿でも宇宙船の生体ユニットということか……」

 

「いえ……。実はあの魎ちゃんはメインユニットでして……」

 

「……なに?」

 

「他にもサブユニットが100体いるのです。その子達もニンジンが大好きで……」

 

「……」

 

 ハリベルはもはや深く考えることを放棄した。

 籠を倉庫の中に置いて、外に出る。

 

「……畑仕事に手伝いがいるならば呼んでくれ。力仕事くらいならば、もう問題ない」

 

「え、しかし……」

 

「お前もこの家に来た時は畑仕事を手伝って、家を仕切っていたと聞いたが?」

 

「そ、それは……!」

 

 ノイケは顔を赤くする。

 ノイケにとって柾木家に来た時のことは軽い黒歴史なのだ。

 

 ハリベルはその反応を見なかったことにして、池の方へと向かった。

 池に突き出しているデッキ部分に立ち、水面を見つめながら腕を組んで涼しい風を体に浴びる。

 

(……長閑、だな。待たせているアパッチ達には悪いが……ここまで何もせずに、何も起こらずに過ごす時など、いつ以来だったか……)

 

 常に樹雷やGP、そして他の海賊達がいつ現れるか気を張っていた。

 ハリベルはどこの海賊ギルドにも所属していない。

 

 銀河連盟領内、最大の海賊ギルド【ダ・ルマーギルド】からも何度も勧誘されているが、ハリベルはダ・ルマーギルドに属しているいくつかのギルドが

信用出来なかったので断り続けている。

 ダ・ルマーギルド最高幹部の1人であるコマチはその勧誘の中で最も信頼できるため、勧誘関係なく交流を持ってはいる。完全に拒絶すれば、敵対関係を決定づけてしまうからだ。

 

 ギルド総帥〝ダ・ルマー〟は話が分かる部類の人間なので、こちらから敵対行為をしなければ積極的に襲ってくることはない。

 更にコマチも礼節を重視する武人気質なので、ハリベルとはむしろ友好な関係を築いている。ハリベルが保護していた難民達に対しても物資を分けてくれたり、他の海賊から守ってくれたこともある。

 ハリベルもコマチの依頼を引き受ける事もあり、コマチはそれを理由に無理矢理な勧誘を抑え込んでくれているのだ。

 

 今回の依頼を受ける少し前まで、コマチから紹介された〝リョーコ・バルタ〟という女海賊とチームを組んで、戦闘指南などをしていた。

 

 それでも中には問答無用に襲ってくる連中もいる。

 美守達が証明してくれたように、GPと裏取引をして罪をなすりつけて、己の手を汚さずにGPに捕縛・討伐させようとした姑息な連中もいる。 

 

 宇宙は地球人が思っているような夢ばかりにありふれた世界ではないのだ。

 

(文明レベルが低いからこそ逆に平和というのは……皮肉と思うべきなのか。いや……この星は樹雷やGPから特別保護指定を受けていたな)

 

 地球は現樹雷第一皇妃・船穂の出身星である。

 そして、本来ならば接触禁止の初期文明段階の星であることから、特別保護に指定されたのだった。

 だからこそ、遙照や天地達、正木の村のことはトップシークレットとされている。

 樹雷皇や瀬戸など結構な訪問者がいたとしても、トップシークレットなのである。現在もGP一級刑事の美星が滞在していて、それを報告書でがっつり書いていてもトップシークレットである。

 

 その時、

 

 

キイイイイィィィィン!!!

 

 

 と、空から何かが墜落してくる音が響いてくる。

 ハリベルは上を見上げると、猛スピードで宇宙船がここを目指して墜落してきていた。

 

「……九羅密美星、か」

 

 ハリベルは原因を悟り、小さくため息を吐く。

 家側に飛び下がりながら家の中を見ると、魎呼が屋根からすり抜け、阿重霞、ノイケが窓際まで駆け寄って来ていた。

 鷲羽はもはや日常の一部として、あくびをしながら顔を出していた。

 

「ハリベルさん! 家の中へ!」

 

「落下地点は池の中央だ。家までは被害は出まい」

 

 ノイケが窓を開けてハリベルに声を掛けるが、ハリベルは縁側に上がって腕を組んで空を見上げていた。

 すでに落下地点を予測しており、この家に被害はないことは確信していた。

 

 その2秒後。

 隕石が如く池の中央に宇宙船が墜落する。

 

 巨大な波が発生し、柾木邸へと迫る。

 ハリベルはラグリマに意識を向けて、その力を発動して右手を突き出す。

 

 すると、波は見えない壁に跳ね返されたかのように、池へと押し戻されていく。

 それを見た阿重霞やノイケは目を見開き、鷲羽は感心の声を上げる。

 

「ほぉ~。あの姿にならなくても、水を操れるんだねぇ」

 

「……流れの向きを変えるくらいが限度だがな。それにお前が弄ったのもある。力が引き出しやすくなっている」

 

「いやいや、それでも大したもんだよ。それにしても、いい加減ビーコンがないことを覚えてくれないかねぇ、あの子は」

 

 鷲羽は諦めのため息を吐いて、デッキに転送されてきたびしょ濡れの美星を見る。

 

「う~……あの~……鷲羽さん……。すいません……。また壊しちゃいましたぁ……」

 

「っっ……!! 美星ぃーーー!!!」

 

「あ、あれぇ~~~!?」

 

 般若化したノイケの怒号が響き渡る。

 美星は泣きながらデッキに倒れ、ハリベルはノイケの怒号にやられた耳を押さえながらため息を吐く。

 鷲羽、阿重霞、魎呼はもはやいつものことなので、すでに日常に戻っていた。砂沙美はもはや出てくることすらなかった。

 

「あぁ、ハリベル殿。今のうちに報酬について話そうじゃないか」

 

「……はぁ」

 

 ハリベルはもう一度小さくため息を吐いて、大人しく家の中へと戻る。

 流石にびしょ濡れのデッキに、ノイケの怒号と美星の鳴き声が響く場所にいる気になどなれなかったのだった。

 

 

 

 その後、昼時まで鷲羽に宇宙船の要望を伝え、そこから何故かラグリマの更なる改造について迫られたのを何とか押さえ込んだハリベル。

 改造を止めてもらう引き換えが、〝解放(レスレクシオン)〟形態のパーソナルデータを取らせることだったのは、そこはかとなく不安だがそこはもう諦めることにした。

 

「ふむふむ…………ほっほぉ……」

 

 鷲羽はラグリマとハリベルのデータを色々組み合わせて、ニマニマしている。

 ハリベルはその横で少しぐったりと椅子に座りながら、ずっと抱えていた疑問を訊ねることにした。

 

「魎呼についてだが……」

 

「ん? なんだい?」

 

 鷲羽は手を止めず目をモニターから離さずに、耳だけを傾ける。

 

「魎呼の力。700年前、樹雷を襲撃したにしては弱すぎると感じた。魎皇鬼の力だけで伝説にはなるまい?」

 

「ああ、今の魎呼は遙照殿に力を封じられたままだからね。700年前の3分の1程度しか力を引き出せないんだよ」

 

「……なるほど。あの皇家の樹が力を失わない理由が魎呼の力か……」

 

「そういうこと。遙照殿が樹雷に帰る暁には、魎呼も完全復活ってことだね。まぁ、何百年先かは分からないけど」

 

「……時が経てば経つほど、柾木天地は力をつけ、魎呼は力を取り戻すか……」

 

「その頃になれば、阿重霞殿の〝龍皇〟も再生も終えるだろうしね」

 

「……始祖樹に第二世代の樹、そして九羅密家の『奇跡の天才』か……」

 

「そして、ハリベル殿だねぇ。()()()()()()、全開の魎呼にだって負けないだろ?」

 

「……」

 

「ラグリマに手を出されたくない理由がそれだろ?」

 

「……」

 

「1つ、いい事を教えてあげよう」

 

「……なんだ?」

 

「ラグリマの元になった『()()』のデータだけどね。あれ、私の♡」

 

 鷲羽が物凄くいい笑顔をハリベルに向け、ハリベルは衝撃で完全に固まり、唖然と鷲羽を見つめる。

 

 宝玉のデータを見つけたのは、本当に偶然だった。

 海賊達が集まるコロニーの闇市で見つけたもので、扱っていた店主もその凄さを分かっていなかったため、格安で手に入れることが出来た。

 ハリベルはそのデータを元に、自身の拠点で少しずつ独自に改良を重ねて完成させたのが『ラグリマ』である。

 

「……私が持っているデータに関しては渡す。悪いが入手経路は不明だ。海賊コロニーの露店で見つけたからな」

 

「そうかい……。あれが出回るのは厄介なんだよねぇ~」

 

「白眉鷲羽にしては珍しい失態だが……」

 

「いやぁ、まだアカデミーに来る前にねぇ。検査依頼出しちゃったんだよ。出来る限り消したんだけどねぇ。その頃は宝玉がどんな代物だったかの記憶は消してたし」

 

 珍しく顔を顰めて後頭部を掻く鷲羽。

 ハリベルは小さくため息を吐く。

 

「だから、私の雑な改造が我慢ならない、と?」

 

「まぁね。だから、改造っていうのはあくまでソフト面に留めるつもりだよ。ハード面に関してはハリベル殿の思い入れもあるだろうしね」

 

「……はぁ」

 

 ハリベルはまたため息を吐いて、ラグリマを外して鷲羽に渡す。

 

「ソフト面だけにしてくれ」

 

「分かってるさ。ぐふふふ♪」

 

「……」

 

 確実に何か企んでいそうだが、どうせどこかで隙を見て改造されるのは目に見えているので諦めることにした。

 宝玉の持ち主ということもあり、その構造は誰よりも分かっているはずなので、自分で改造を続けるよりはマシかもしれないのも事実だった。

 

 そこにノイケが顔を覗かせて、

 

「鷲羽様、ハリベルさん。食事の用意が出来ました」

 

「あいよ」

 

 鷲羽とハリベルは立ち上がって、居間へと出る。

 掘り炬燵はハリベルが座って十分余裕があるほど拡張されており、テーブルも変わっていた。

 豪華な昼食がテーブルに並べられていたが、一席だけ明らかに食事がみすぼらしくなっており、その前に美星が座って落ち込んでいた。

 

「うぅ~……」

 

 どうやら墜落したことへの罰のようだった。

 それも日常茶飯事なのか、天地達は呆れているも誰も手を差し伸ばすことはなかった。

 

 なので、ハリベルも手を差し伸べることはせずに大人しく座る。

 そして、砂沙美とノイケの美味しい食事を頂き、午後も各々自由に過ごし始める。

 

 天地は再び畑仕事に行くようなので、ハリベルも付いて行くことにした。

 

「あの……いいんですか?」

 

「やることもなく、ずっとタダ飯食らいというのも気が引ける。力仕事くらいならば、最低限手伝えることは手伝おう」

 

「あ、ありがとうございます。(……どっかの酒飲みに聞かせてやりたいなぁ)」 

 

 天地は恐らく今も天井の梁で酒を飲み始めているだろう魎呼を思い浮かべて、小さくため息を吐く。

 畑についた天地達は早速作業を始める。

 

 ハリベルは天地に鍬の使い方や作業の方法を簡単に教わると、

 

 あっという間に会得してノイケに匹敵する即戦力となり、夕方前にはいつもの2日分の作業量を終えてしまったのであった。

 

「……凄いなぁ」

 

 天地はニンジンが入った籠4つと完璧に耕された複数の畑を見て、涙が浮かびそうになるほど感動していた。 

 

「天地兄ちゃ~ん! ハリベルお姉ちゃ~ん!」

 

「みゃみゃ~!」

 

 そこに砂沙美が頭に魎皇鬼を乗せて、軽やかに猛スピードで駆け寄ってくる。

 砂沙美は大量のニンジンが入った籠を見て目を丸くし、魎皇鬼は目を輝かせてニンジンの山に飛びついた。

 

「みゃあん♪」

 

「うわぁ! すっごい! これ2人で終わらせたの!?」

 

「凄く手際が良くてね。あっという間に追いつかれちゃったよ」

 

「今日はもう終わり?」

 

「うん、そうしようと思ってるよ。ただでさえ頑張ってくれた病み上がりのハリベルさんに、これ以上無理はさせられないしね」

 

「……柾木天地。私の身体はほぼ完治している。この程度の作業ならば問題はない」

 

「けど、完全にではないんですよね? それに治っていなかったのは筋肉や内臓なんでしょ? だったら、ちゃんと完治するまでは無理させられませんよ」

 

 ハリベルに引け目を感じていた天地は、無理をさせるのは本意ではない。

 そもそもここに滞在することになった理由は、己の未熟さなのだから。

 

 ハリベルは天地の気持ちを悟り、それ以上は何も言わなかった。

 

「じゃあ、帰る前にここでおやつにしよ! 帰って食べても代わり映えないし!」

 

「そうしようか。いいですか?」

 

「……ああ」

 

「じゃあ、用意するね!」

 

 砂沙美は道にシートを敷いて、背中に背負っていたリュックを降ろし、バスケットを取り出す。

 天地とハリベルは靴を脱いでシートに座る。

 魎皇鬼はニンジンを1本貰って、すでに食べるのに夢中になっている。

 

 砂沙美がバスケットを開けると、中にはサンドイッチやクッキーなどが並べられていた。

 

「……ほぉ」

 

「特製キャロットサンドにニンジンクッキー、それとキャロットマフィンだよ~!」

 

「……」

 

 ハリベルは感心するような声を上げて僅かに目を見開くも、砂沙美の告げた品名に一瞬で呆れへと変わる。

 

 ニンジンばかりを育てて、料理までニンジン尽くしとなると呆れても仕方がないだろう。

 美味しいので問題はないが、天地達はよく飽きないなと逆に感心してしまう。

 

 ハリベルは砂沙美に渡されたサンドイッチを受け取り、早速一口食べる。

 

「……ほぅ」

 

 ハリベルは口にして、すぐに目を見開く。

 ニンジンの甘みが朝食や昼食で出たニンジンとは違うことに気づいたからだ。

 

 砂沙美と天地は気づいたハリベルに笑みを浮かべる。

 

「ご飯とは違うでしょ?」

 

「畑によって土が違うとは思っていたが……。ここまで甘さが変わるのか」

 

「鷲羽ちゃんにも手伝ってもらって、色んな条件で育ててるんです。栄養はもちろんですけど、甘味とか苦味のバランスとか、料理によって味がどう変わるかとか」

 

「……そこまでして、売り物にしないのか?」

 

「あははは……。一応樹雷の皆さんや正木の村、普段は宇宙にいるアイリさんや姉さんには分けたり、他の食材と交換してるんですけどね。あくまで自分がこだわりたかっただけですし、売り物にするつもりで育てたものでもないですから」

 

「……別に売り物にするからと、やり方を変える必要はない。お前が好きなように育てた物を、周りが勝手に欲しがっているだけだ。値段などお前が好きに付ければいい。それに文句があるなら、買う側が多めに払うか、今のように物々交換を持ちかけてくるだろう」

 

 天地の性格から考えれば、恐らく値段を付けた所で「安すぎるわ!!」と怒鳴られるに違いない。

 樹雷皇家まで求める品物だ。値切る猛者などアイリくらいだろう。

 

 瀬戸は商売取引は立場的なものもあるのか、むしろ太っ腹レベルで金を出す。

 むしろ天地に値引き交渉などすれば、タダで譲られかねない。

 そうなれば「天地大好き!」な樹雷関係者は罪悪感マックスになるのは間違いなく、周りにバレれば何を言われて、何をされるか分からないので絶対にしないだろう。

 

 なので、ぶっちゃけ天地が商売を始めれば繁盛すること間違いなしなのだ。

 しかも、背後には白眉鷲羽がいるので、品質も疑う必要もない。

 柾木天地と白眉鷲羽の共同製作に、ケチをつけれる者が宇宙にどれだけいるのか。

 色んな意味で恐ろしくて堪らないのは想像に難くない。

 

 天地は苦笑いを浮かべて頬を掻きながら、

 

「そうかもしれないですけど。今の所、皆身内ばかりですからね。どうにも……」

 

「ふっ……。確かにお前が商売などと言い出すと違和感しか湧かないな。そういうのは白眉鷲羽の役目、か」

 

「あはは! そうだね! 鷲羽お姉ちゃんなら変なお店造って売り出しそう!」

 

「みゃみゃあ!」

 

 砂沙美は楽しそうに笑い、魎皇鬼は砂沙美に釣られて意味はわかっていないが笑う。

 天地も想像が出来てしまい、思わず吹き出してしまう。

 

 その後も和やかな雰囲気の中で食べ続ける。

 食べ終えた後、ニンジンの籠を天地が1つ、砂沙美が1つずつ背負い、ハリベルが1つ背負って、最後の1つを肩に担ぐという荒業で一気に運ぶ。

 

「す、すいません……。無理させられないとか言っときながら……」

 

「前も言ったが、この程度ならば負担にもならん」

 

 実際ハリベルは全く重さを感じていない。

 生体強化は伊達ではない。それがレベル11にもなれば、トラックに轢かれてもハリベルが無傷で勝つくらいなのだから。

 

「いや……そういうことじゃなくて……」

 

「ハリベルお姉ちゃん。天地兄ちゃんは、女の人で、しかも病み上がりの人に重いものを持たせちゃったことを謝ってるの」

 

 砂沙美が苦笑しながら、天地の思いを代弁する。

 その価値観にハリベルは首を傾げる。

 

 ハリベルが記憶する限りでは、そんなことなど言われたことなどなかったからだ。

 海賊、しかも頭領を張っていれば、女であろうと男勝りの者が多く、力仕事など当たり前なのだ。

 どこも人手があるわけではないし、無闇に人を頼って盗まれたり、何を仕掛けられるか分からないからだ。

 

 阿重霞は皇族なので、今まではお付きの者が。砂沙美は皇族かつ見た目がまだ子供なので持たせるわけもなく。

 美星は下手に持たせると壊れ、鷲羽はガーディアンやサイキックが使える。

 魎呼は持てるが雑で任せられず、ノイケは止めようにもあっという間にいなくなるか、頑固として譲らない。

 

「地球には生体強化はないから。男の人の方が力持ちなんだよ」

 

 砂沙美の説明に、ハリベルは小さく頷きながら家へと戻る。

 

 ニンジンを保管して、家に戻った天地達は風呂に入ることになった。

 

 そして、その流れで夕食の準備がある砂沙美とノイケ以外の女性陣も風呂に入る。 

 魎呼達女性陣はいつものノリで酒盛りを始め、ハリベルは呆れながら見つめていた。

 

 他にも柾木家の風呂は、なんと庭に浮かんでいる巨大な大浴場だった。

 光学迷彩で外からは見えなくなっており、景色は抜群である。

 女性陣は大浴場になっており、その少し高いところに天地用の小さな浴槽がある。

 

 ハリベルはその豊満で引き締まった裸体を隠すことなく、すぐ近くで騒ぎ始めている魎呼達の声を聴いていた。

 

 そこに鷲羽が徳利とお猪口を持って近寄ってきた。

 

「どうだい?」

 

「……」

 

 ハリベルはすでに酒が注がれているお猪口を前に出されて、小さくため息を吐いて受け取る。

 そして、一口飲む。

 鷲羽も横に座って、自分で注いで一口飲む。

 

「風情があっていいだろ?」

 

「……そうだな」

 

「で、天地殿との共同作業はどうだったんだい?」 

 

「……」

 

 ニヤけながら訊ねてくる鷲羽に、魎呼と阿重霞がガバッ!と顔を向けて睨みつけてくる。

 美星はすでに酔い始めてポヤポヤし始めている。

 

「……どうもない。ただ手伝っただけだ」

 

「そうかい。くくくっ♪」

 

「ちっ……!」

 

 楽しそうに笑う鷲羽に、魎呼は舌打ちをして裸で飛び上がって姿を消す。

 

「うわぁ!? りょ、魎呼!?」

 

「天地ぃ。そんな1人で入ってないでさ~。一緒に入ろうよ~」

 

「ちょっ!? まっ!?」

 

 上の浴槽から天地の慌てる声と魎呼の猫なで声が聞こえてくる。

 そして、ハリベル達の真上に魎呼が天地の腕を抱えてテレポートしてきた。

 

 天地は頭から湯船に落ち、阿重霞やハリベル達は頭からお湯を被って、美星はひっくり返る。

 酒はもちろんひっくり返り、唯一無事だったのは鷲羽が持っていた徳利だけとなった。

 

「りょ、りょ、魎呼さん!? 何をなさってますの!?」

 

「何って天地と一緒に風呂に入りたかったからに決まってるじゃねぇか」

 

「ぶはっ!? はぁ……っっ!?」

 

 阿重霞と魎呼が言い合いを始めた間で天地がお湯から頭を出して、ため息を吐くように息を整える。

 そして、顔を上げると、すぐ目の前に髪を掻き上げるハリベルがいて顔を真っ赤にして目を見開く。

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

 天地は慌てて体ごと後ろを振り向いて、湯船の縁に移動する。

 ハリベルは小さくため息を吐いて、

 

「別にお前が謝る必要はない。裸程度見られたからと言って、怒る気もない」

 

「は、裸程度って……」

 

「くくくっ! ハリベル殿の裸は、この家でも1,2を争うほどの色気があるからねぇ。見慣れた魎呼の裸よりも威力は高いだろうね」

 

「ぐっ……!? うるせぇな! そもそもこの身体を造ったのはテメェだろうが!」

 

「色気ってのは体つきだけで決まるもんじゃないだろ? あんたはその性格で色気半減だよ」 

 

「て、てんめぇ……!!」

 

 魎呼は拳を握り締めるも、その隣のハリベルの裸を見て、複雑そうに顔を顰めて黙り込む。

 悔しいが、事実ハリベルの身体の方が胸も尻も豊満で、それによって腰のくびれや手足のしなやかさが強調されていた。

 

「「…………はぁ」」

 

「くくっ!」

 

 魎呼だけで阿重霞もハリベルの身体と己の身体を比べてため息を吐く。

 それに鷲羽は噴き出し、ハリベルは呆れるだけだった。美星はいつの間にか復帰して、新しく酒を取り出していた。

 

「ふん! ところで、てめぇ。いつ出て行くんだよ?」

 

 魎呼は気を紛らわせるようにそっぽを向いて、無理矢理話題を変える。

 しかし、その内容に天地も流石に反応する。

 

「おい、魎呼!」

 

「別に今すぐだなんて言わねぇよ。けど、ホントにここに居座る気か?」

 

「……そのつもりはない。遅くとも明後日には出て行くつもりだ」

 

「え!? 明後日って……体は……」

 

「明後日には戦闘にもほぼ支障がない程度には回復する。宇宙ならば白兵戦は少ない」

 

「けど……また、海賊を?」

 

 天地は顔を向けることはないも、少し言い辛そうに訊ねる。

 正直、天地はもちろんノイケ、砂沙美、鷲羽や阿重霞さえもハリベルに海賊は合っていないのではと思っていた。

 

 ハリベルは夕陽を見つめながら、

 

「表向きは、そうなるだろう」

 

「表向きは?」

 

「樹雷の鬼姫に捕まった以上、結局は首輪付きの子飼いだろう。裏では情報収集や裏工作の使い捨ての駒、となるだろうな」

 

「そんな……!」

 

「お婆様はそんな方では……!」

 

「お前達にそんな血生臭いところなど教えまい。しかし、それが出来るからこそ、あの者は恐れられているのだ」

 

 ハリベルの言葉に天地と阿重霞は鷲羽に目を向けるが、鷲羽は肩を竦めるだけだ。

 それに天地と阿重霞は複雑な表情を浮かべて顔を俯かせ、魎呼も不快気に顔を歪める。

 

「それに……ここは私には少し、眩しい」

 

「……眩しい?」

 

 天地はもちろん鷲羽達もハリベルに顔を向ける。

 

「私にとって世界は……闇と血の海に、鉄と灰を浮かべた地獄のような場所だ」

 

「……」

 

「私は過去の記憶がない」

 

「え……?」 

 

「今の私は、度重なる生体強化によって本来の人格が狂ったことで形成された人格だ。故に私は生まれた時から生粋の戦闘マシンと言える」

 

 ハリベルの独白に鷲羽を除く全員が目を見開いて固まる。

 

 天地も生体強化の危険性については簡単に説明を受けている。

 もちろん、それはあくまで必要以上に強化した場合に起こりうることだということも。

 

「私は暗い宇宙と闘争しか知らない。……ここは眩し過ぎて恐怖を覚える」

 

 あまりにも平和で、あまりにも長閑で、奪うこともなく壊すこともなく、殺すこともない。

 

 それはハリベルにとって初めての世界だった。

 だからこそ、この世界に浸かり続けると、己がどう変わるのかが想像出来ないことに恐怖を覚えていた。

 

 天地達は言葉通り怯えているように見えるハリベルに、どう声を掛ければいいのかが分からなかった。

 

 その後、少し重苦しい雰囲気のままで食事となり砂沙美とノイケを戸惑わせ、食後もそれぞれが考え込む夜を過ごしたのだった。

 

 

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