天地無用!皇鮫后   作:無月有用

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ハリベルさんの髪色を変えた理由は、九羅密家と配色が完全一致だったためです(__)


ハリベルの交流

 ハリベルの滞在が決まった翌日。

 

 今朝も天地とハリベル、魎皇鬼は畑に出てニンジンを収穫していた。

 ハリベルが参戦するだけで、作業時間が普段の半分以下になるのだから、天地としては大助かりである。

 

「正木の村に?」

 

「ええ。何軒かに配って回る予定なんです」

 

 そういう天地とハリベル、ノイケの目の前には、ニンジンたっぷりの籠が3つ置かれている。

 

 これを全て近くの村へと運ぶというのだ。

 もちろん天地やハリベル達の力ならば、全く問題ないことなのだが。

 

 正木の村までは歩いても10分程度なので、往復したとしてもそこまで時間がかかるわけでもない。

 

 本題はハリベルを正木の村の者達に紹介するということである。

 

「正木の村は柾木勝仁の子孫達なのだろう?」

 

「そうなんですが、正木の村の未成年の子は自分達の素性を知らないんです」

 

「? ……地球人と思っている、と?」

 

「はい。そして、18歳になると『成人の儀』と称して、宇宙に連れて行き、素性を明かすのがこの村の娯楽なんですよ」

 

「……よく聞く話ではあるが。よくバレずにいるものだな」

 

 ハリベルは呆れを浮かべる。

 天地とノイケは苦笑を浮かべ、内心同意する。

 

「なので、俺くらいの子がいたら、基本的には地球人と思って対応してください」

 

「……分かった」

 

「ハリベルさんは海外から来た私の知り合いということでお願いします」

 

 天地とノイケの言葉に、ハリベルは頷く。

 ハリベルとて、天地達と暮らすと決めた以上、初期文明段階の住民にバレる危険性については考慮している。

 

「だが、成人の儀とやらが必須なのかは知らんが、バレてもそこまで問題はあるまい?」

 

「正木の村の子達ならいいんですけど、生粋の地球人で村の人と仲が良い子がいるんですよ。俺の幼馴染、弟みたいな子なんですけど。今日行く家の同い年の子と親友で、よく遊びに来てるんですよ」

 

「……なるほど」

 

「山田西南っていうんですけど。もし会ったら、注意してくださいね」

 

「注意?」

 

「凄く良い子なんですけどね。すっっごく運が悪いんです」

 

「……運が、悪い?」

 

 ハリベルは訝しむように片眉を上げる。

 天地とノイケは苦笑いを浮かべて、

 

「それはもうビックリするほど運が悪いんです。段差があれば転んで、壁にもたれ掛かれば崩れて、扉に手を掛ければ屋根ごと崩れて、自転車に乗れば必ずパンクするか田んぼに落ちるかして、車に乗ってもパンク、エンスト、故障は当たり前というくらいで……」

 

「……確率の偏り、か」

 

「恐らくは」

 

 ノイケは憐れみの顔を浮かべて頷く。

 

 確率の偏りとは、原因不明の現象である。

 防ごうとしても防げるものではなく、コントロールしようとして出来るものでもない。

 

 柾木家で言えば、美星が確率の偏りの持ち主である。

 美星は意味不明の幸運、であるが。 

 

 西南はその真逆である。

 

「……西南君はあまりの悪運のせいで、周囲から疎まれることが多くて……。学校の行事には参加させてもらえないし、遊んでくれる友人なんて両手で数える程度なんですよ。病院に入院するのも日常茶飯事ですし。それでも凄く純粋で優しい子なんです」

 

「……お前達にはそれが尊く、愛おしい……か」

 

 ハリベルにも手を差し伸ばした柾木家の血筋の者達だ。

 むしろ納得出来る話ではある。

 どうにかしてやりたくても、宇宙の技術は使い辛いのだろう。凄まじい不運を考えると、下手な対策も逆に危険な可能性もある。

 

 簡単に注意事項を聞いたハリベルは、天地、ノイケ、そして魎皇鬼を頭に乗せた砂沙美と共に正木の村へと向かう。

 ノイケと砂沙美はそのまま買い出しに出かけるらしい。

 

 10分もせずに村へと着き、木造二階建ての家に到着する。

 

「月湖さーん! ニンジン、持ってきましたよー!」

 

 天地が家の中に声を掛けると、中から黒髪を後ろで纏めた美女が顔を出す。

 

「いらっしゃい、天地君。それに砂沙美ちゃんに、ノイケさん、魎ちゃんも。あら、あなたは……」

 

「こんにちわ、月湖おばちゃん! この人はこの前からうちで暮らしてるハリベルお姉ちゃんだよ!」

 

「みゃあ!」

 

「そう。正木月湖です。よろしくね、ハリベルさん」

 

「ああ」

 

 天地が背負ったニンジンの籠を置く。

 

「ごめんね、天地君。海ったら、いきなり西南ちゃんと遊びに行くって言って出て行っちゃって」

 

 この家には天地の2つ年下の正木 海という月湖の息子もいる。

 山田西南と同い年で、天地とも幼馴染である。

 

「いいんですよ。今日はハリベルさんを案内するついでですから。それにしても、西南君がここに来るんじゃなくて、遊びに出かけるなんて珍しいですね?」

 

「ここ最近は海の方から出向いて、歩いて遊びに行くのが増えてるのよ。多分、霧恋が宇宙に上がったからってのもあるんでしょうけどねぇ……」

 

 月湖は少しだけ寂しそうにしながら言う。

 しかし、すぐに表情を明るくして、

 

「ああ、霧恋って言うのは私の娘で、数年前に宇宙に上がった子なんです。その子は西南ちゃんを凄く可愛がってたんですけどねぇ」

 

「ちなみに私のGPの同期で、表向きは軍所属ですが、実際は水穂様の部下ですね」

 

「西南ちゃんも霧恋に凄く懐いて……というより、恋してるんだけどね。見事にすれ違い状態だわ」

 

「「「あははは……」」」

 

 月湖がため息をつきながら言い、それに天地、ノイケ、砂沙美が苦笑する。

 ハリベルはなんとなく人間関係を把握するが、特に口を挟むことはなかった。

 

「もしうちの馬鹿息子に会ったら、注意してください。年相応かもしれませんが、エロガキなので」

 

「適当にやり過ごせ、と?」

 

「はい。宇宙に長くいる人からすれば、大したこともないセクハラですけど。地球では下手したら通報、逮捕ですし。親戚関係の方以外だと、変な勘違いされても困りますから」

 

「……承知した」

 

 苦笑しながら言う月湖に頷くハリベル。

 数百年レベルで生きる宇宙の者にとっては、天地くらいの見た目通りの年齢となると、小学生に対する様に声を掛ける者が意外と多い。

 恐らく経験の無さ故の初心な反応が可愛く見えるのだろう。

 

 そのせいか、勘違いされて本気で恋されて後々トラブルになる事例がそこそこあるのだ。

 

 その後も正木の村を、ニンジンを配りながら転々とする。

 大抵の者がGP非常勤隊員だったり、アカデミーに所属する者だった。

 

 ノイケの話では、宇宙において正木の村出身者は『樹雷出身の地球の管理者』という扱いになっている。

 そのため、樹雷関係者ではあるが、厳密には一般市民でしかないのだ。

 なので、本来なら樹雷皇眷族ではあるのだが、樹雷においても一般階級扱いとされている。

 

 天地とハリベルはノイケ達と別れて、帰路へと就いていた。

 

「山田西南は、随分と愛されているな」

 

「え?」

 

「あの正木月湖という女も、山田西南のことを異性として意識しているだろう?」

 

「へ!?」

 

 ハリベルの突然の指摘に天地は目を見開いて驚く。

 それに天地は全く気づいていなかったことを理解し、ハリベルは余計な事を言ったと内心顔を顰める。

 

「つ、月湖さんが?、け、けど、歳が……」

 

「あの者も生体強化を受けているのだろう? ならば、あと数百年はあの姿のままだ。山田西南をどう誤魔化すのかは知らんが、本当の事を教えて、宇宙に上がらなければ問題にはならないと思うがな」

 

「ん~……それは……」

 

「地球の価値観からすれば、受け入れ難いのかもしれんな」

 

「けど、西南君は霧恋さんがなぁ……」

 

「……私はあの話から、霧恋という娘は山田西南から距離を置きたがっているように感じた」

 

「え……」

 

「大事に思っているのはお前達の反応からすれば本当なのだろう。そして、山田西南の悪運から一番守ってきたのは、その娘だというのも想像できる。しかし、だからこそ、その娘は宇宙に上がったことで山田西南の元に戻るのが怖くなったのではないか? 何度も入院するほどの悪運だ。守る方の精神的負担も相応のものだろう。……大事に思っているからこそ、尚更な。それが一時離れたことで、ある恐怖が生まれた」

 

「恐怖……?」

 

「その大事な存在を疎ましく思ってしまうのではないか、とな」

 

「……」

 

 天地はハリベルの推測を否定できなかった。

 もちろん霧恋がそんな人ではないとは思っている。しかし、そう思っても仕方がないほどに、西南の悪運は強烈なものなのだ。

 

「もちろん宇宙に上がったことも、距離を置く理由にはなるだろう。悪運が霧恋を通して、本人が知らぬまま宇宙に繋がる可能性があるのだからな」

 

「それは……」

 

「柾木遙照が樹雷に戻れば、正木の村の者達は更に宇宙との関りが強くなる。地球を狙う愚か者も増える可能性は高い。もしその時、山田西南が正木の村にいたら、確実に巻き込まれるだろうな」

 

「……」

 

 天地は考え込むように俯く。

 ハリベルの推測が正しいとなると、その原因は天地にあることになるのだから。

 天地が魎呼を目覚めさせたことで、その可能性は高まったのだから。

 

「……自分の責任などと考えるな。お前が何をしていようと、いずれ魎呼の封印は解かれ、柾木遙照は樹雷に戻ることになっただろう。所詮は早いか遅いか。そして、霧恋が宇宙に上がったのは魎呼が目覚めるよりも前のはずだ。山田西南と霧恋が離れたのは、2人の問題だ」

 

「……はい」

 

「そもそも、お前も人のことなど言っている場合か? 間違いなく素性が明かされれば、お前は樹雷皇以上の地位を得る可能性がある。そうなれば、婚姻は1人2人で終わる可能性は低いぞ?」

 

「ええ!?」

 

 天地はハリベルの言葉に固まる。

 ハリベルはそれに呆れながら、天地を放置して家へと歩く。

 

 天地はすぐにハッとして、駆け足でハリベルを追いかけるのだった。

 

 

 

 家に戻ったハリベルに、瀬戸から連絡が届く。

 

 鷲羽の研究室から長距離転送ゲートで、樹雷領宙にある食料資源惑星、衛星軌道上にある大規模プラントへと移動する。

 服装も下乳と腹部を露出した戦闘服に変え、剣も背中に装備していた。

 

 ゲートをくぐってすぐ目の前に、黒髪の女性が立っていた。

 

「……『瀬戸の盾』、か」

 

「お待ちしてました。ハリベルさん。瀬戸様がお待ちです」

 

 瀬戸の部下で、天地の伯母でもある柾木水穂が、にこやかな笑みを浮かべながらハリベルに声をかけて先導するように歩き出す。

 

 ハリベルは大人しくその後ろに続いて歩く。

 

 この周囲は立ち入り禁止にされており、瀬戸の部下以外近寄ることも出来ない。

 もちろん樹雷領宙に住む者が、瀬戸がいるところに好き好んで近づくわけがないのだが。

 

 案内されたのは、資源惑星を望める展望台の公園。

 

 水穂は公園内にある大きな屋根付きのテーブルへと向かう。

 そこにはすでに瀬戸が座っており、その背後には神木家第七聖衛艦隊司令官、平田兼光が立ち控えていた。

 

「わざわざご足労かけるわね、ハリベル殿。例の作戦の前で、水鏡の監視が少し厳しくてね。さ、座って頂戴」

 

「……このままでいい」

 

「流石にそうはいかないわ」

 

 瀬戸は苦笑するが、ハリベルの視線が素早く数方向へと動くのを見逃さなかった。

 兼光と水穂もハリベルの視線を見逃さず、内心驚く。

 ハリベルの向けた視線の先には、瀬戸達が念のために忍ばせていた護衛達がいるのだ。

 樹雷の闘士であるため、そこらへんの暗殺者や武官では足元にも及ばないレベルの手練れ達であり、気配のコントロールも完璧である。

 

 それをハリベルは完璧に見抜いたのだ。

 

「あら……」

 

「お前に戦う気がないことは理解している。しかし、心情的に落ち着かん」

 

 ハリベルは腕を組み、目を伏せて告げる。

 その言葉に瀬戸は苦笑して、兼光に視線を向ける。

 兼光はそれだけで瀬戸の意を汲み、通信を送って護衛達を下がらせる。

 

 気配が遠のくのを感じ取ったハリベルは、結局座らずにすぐ近くの柱にもたれ掛かる。

 

「……もう少し信用してくれてもよくないかしら?」

 

「……完全に樹雷の下に就くつもりはない。これくらいがちょうどいい距離だろう。そもそも、樹雷の鬼姫は信用されるなど思ってもいまい」

 

「あら、酷いわねぇ。そこまで鈍感でもないのよ?」

 

 瀬戸は不貞腐れて頬を膨らませる。

 その背後に控えていた兼光、水穂は呆れた表情と視線を瀬戸に向けていた。

 

「はぁ……。じゃあ、このまま話を進めるけど。天地殿の家に住むって決めてくれて助かったわ。あそこは簡単に人を送り込めないから」

 

「……別にお前を助けたつもりはない。今の私の生き方は逃げているようでズルいと、ある男に言われたからその責任を取ってもらうだけだ」

 

「あらあら、思ったよりはっきりと言うのね。天地殿」

 

 瀬戸は面白そうに笑い、水穂達も意外そうにしていた。

 

 天地はどちらかと言うと奥手のイメージが強いので、よほどの事態でもない限り人を傷つけるかもしれない発言をしない性格だと思っていたのだ。

 

「それで……私は今後お前にどう使われればいい?」

 

「ハリベル殿と部下の子達は、後ろの水穂ちゃんの部下という形になったわ。最終的な命令権は水穂ちゃんにあるから、少しは安心できるでしょ」

 

「……お前の副官であることは変わりあるまい?」

 

「私に最終命令権があるよりはマシだと思うわよ? それに地球で暮らす以上、天地殿達を怒らせるようなことはさせられなくなったしね」

 

「ふっ……」

 

「まぁ、誰に命令権があるとしても、あなた達にお願いしたいのは基本的に海賊サイドの情報収集と裏工作よ。いきなり山場だけど、近いうちにダ・ルマーギルドの下部組織【グランギルド】の一斉摘発を行う予定なの」

 

「グラン……。シャンク一族の臆病者か。なるほど……奴を吊り上げるなら、手間と時間は必要か」

 

「そういうこと。流石に目標全て摘発できるなんて思ってないけど、少しでも確率は上げておきたいのよ」

 

 グランギルドのリーダーであるラディ・シャンクという男は、亜空間からの奇襲を得意としており、滅多にその姿を現さない。

 他の海賊どころか部下からも臆病者呼ばわりされており、一切人望がない。

 

 それでもリーダーを張れているのは、シャンク一族が隠匿している技術力による戦闘艦があるからである。

 

 シャンク一族は昔、巨大なギルドだったのだが、樹雷によって攻撃されてその勢力は大きく衰えてしまったのだが、その技術力は完全に失ったわけではなかった。

 

「お願いしたのは誘き出せるように偽情報を流すことと、ダ・ルマーギルドの拠点を探ることよ」

 

「……ダイ・ダ・ルマーを?」

 

「私達の包囲網から逃げ出した海賊が、逃げ込むかもしれないでしょ? そこを探って欲しいの」

 

「……簡単に言ってくれる」

 

 ハリベルは呆れを浮かべる。

 瀬戸も小さく苦笑して、

 

「これはあくまでも上手く行ったら御の字って感じよ。あなたを引き入れることが出来ただけでも、十分な成果だもの。あなたが敵にいるかどうかで、作戦の成功率が大きく変わる可能性があったからねぇ」

 

 ハリベルはギルドにも属さない単独の海賊としては、魎呼以来のネームバリューを持ち始めていた。

 無理に敵対しなければ礼節を重んじる者だが、一度敵対すれば凄まじい苛烈さを以てほぼ確実に撃墜されること、そして鮫を思わせる戦艦を操ることから『鮫の女帝』と呼ばれている。

 一部では『魎皇鬼の再来』とすら噂されている。

 

 さらにその美貌からファンも多く、ファンクラブも作られているほどである。

 

 樹雷やGPからしても、その実力は無視できないものだった。

 なので、今回引き込めたのは瀬戸、アイリ、美守はもちろん、阿主沙達も僥倖と思っていた。

 

「海賊としての活動はどうすればいい? 白眉鷲羽はそちらから指示された輸送艦を狙うことになるだろうと言われているが……」

 

「その手はずになってるわ。基本的に奪った資源は、情報交換に利用したり、難民に配ってくれて構わないわ。難民に関しては樹雷が保護したことに出来るから、別に取引する必要もないわよ」

 

「……他の海賊との艦隊編成依頼は? 流石にいきなり誰とも組まない、というのは怪しまれるぞ」

 

「そこまで縛る気はないわ。ただ、加減はしてもらいたいけどね」

 

「……考慮はしよう」

 

「まぁ、あなたが組む相手は基本的にルールを守る人達ばかりというのもあるけど。流石に襲撃をリークするのはリスクがあるでしょうし、GPだって自分達で守れるものは守ってもらわないとね」

 

 瀬戸は肩を竦めながら言う。

 あくまでハリベルは樹雷の子飼いとなったのであって、GPに降ったわけではない。

 瀬戸もそこまで誰も彼も面倒を見る気はない。

 

「じゃあ、私の用件はここまで。下のステーションにあなたの部下の子達を連れてきてるから。顔を見せてあげなさい」

 

「……ああ」

 

「水穂ちゃん、あとはお願いね」

 

「はい」

 

 水穂は頭を下げて、瀬戸と兼光は公園を後にする。

 その後、ハリベルと水穂は連れて来たアパッチ、スンスン、ミラ・ローズという部下と顔を合わせたのだった。

 

 

 

 翌日。

 地球に戻ったハリベルは、ノイケと共に正木の村の月湖の家へと足を向けていた。

 

「それじゃあ、ハリベルさんは水穂様の部下に?」

 

「そうなったとのことです。なので、もしかしたら霧恋さんともどこかでお会いするかもしれませんね」

 

「まぁ、普段はアカデミーの入管管理局勤めだから、瀬戸様の作戦に参加することは少ないと思うけど」

 

「ここ最近、地球には?」

 

「半年くらい前に帰って来てたけどねぇ。西南ちゃんが入院してたから、さっさと帰っちゃったわ。それで西南ちゃんは落ち込んでたけど」

 

 縁側に座って談笑する月湖とノイケ。

 その横にハリベルも座って、お茶を頂いていた。

 

「天地君の家はどうですか?」

 

「……まだ何とも言えん。嫌、ということはないがな」

 

「そうですか。まぁ、まだ一週間ちょっとですからね」

 

「けど、ハリベルさんのおかげで天地様の畑仕事は大分楽になりました。それだけでも大助かりです」

 

「……むしろあの程度出来ない方が問題だと思うのだが……」

 

「それは……」

 

「あの人達ですからねぇ」

 

 月湖とノイケは苦笑するしかなかった。

 魎呼は適当過ぎてニンジンや畑がボロボロになり、阿重霞はガーディアンにやらせて自分は口だけ、美星は言わずもがな。

 魎呼と阿重霞が揃った時には、喧嘩でニンジンと畑が吹っ飛ぶというのが定番である。

 

 もはや天地は怒る気も起こらないらしく、魎呼達も迷惑をかけたくないので近づかないようになったそうな。

 

「ノイケさんが来るまでは砂沙美ちゃんがほぼ1人で家事をやってたからねぇ。天地君も手伝ってたけど、その頃は魎呼さん達も手を出して、結果砂沙美ちゃんがやり直すっていうのが多かったらしいし」

 

「美星も出来ないわけではないんですけど……。やらかした時は悲惨ですからねぇ。正直、瀬戸様が私をあの家に送り込んだ理由は、家事の手伝いだったのではないかと最近思うようになりました」

 

 ノイケは本来は許嫁と言う名目の監視役だった。

 しかし、僅か数日で柾木家の家事を仕切る立場になったので、瀬戸達の狙いは監視と言う名目での家事の掌握だったのではないかと思う様になってた。

 

 恐らく瀬戸からすれば、魎呼や阿重霞、美星に対する当て馬もあったのだろう。

 どう考えても、天地と砂沙美からすればノイケは手放せない戦力だ。

 魎呼達も今更ノイケを追い出せないだろう。自分達が手を出さない方が捗ることは分かりきっているのだから。

 

「それもあるでしょうねぇ。天地君の周りには、普段から頼りになる大人の女性っていなかったから」

 

 月湖も苦笑しながら同意する。

 鷲羽がその役目を担えるのだろうが、本人は少女の姿をしており、あまり家事に参加しない。

 その分、家屋の修理や怪我の治療、畑の肥料や土壌改良などは全面的に頼っているので、誰も家事をしないことに文句は言わない。

 家事をしても、料理とかに何が混入されているのか信用できない、というのも大いにあるが。

 

「……樹雷は皇族であっても家事を叩き込まれると聞いたことがあるな……」

 

「正確には瀬戸様が、ですね。阿重霞さんは裁縫ならば、私はもちろん砂沙美ちゃんよりも腕を上ですが、その他の事には興味がないだけのようです」

 

「ハリベルさんはどうなの?」

 

「……一応最低限、とは思っているが。砂沙美やノイケ達と比べるとな……」

 

「ふふっ、それもそうね。宇宙なら洗濯や料理、掃除もオートマシンが整ってるし、食べさせる相手がいないと料理ってする気になりにくいでしょうし。海賊の船長が部下に料理を振るうってのも、中々に難しいわよねぇ」

 

 もちろん海賊とて家庭があるのだから、それぞれ過ごし方はあるのだが、やはり舐められてはならないので船長になった以上それなりの待遇となる。

 料理番など新入りか専属の者がなるのが普通だ。

 

 ハリベルもその特殊な生い立ちから一通りは出来るが、流石にもはや流派とも呼べるほど洗練された砂沙美やノイケの家事スキルと比べられるのは困る。

 正木の村ですら勝てる者がどれほどいるのというレベルなのだから。

 

 なので、ハリベルは現在畑仕事と洗濯、掃除くらいしか手伝えない。

 それでも天地達からすれば、「凄くありがたい」と思われているのだが。

 

 その後も他愛無い話を終えて月湖の家をお暇しようと道に出た時、

 

「うわぁ~~!! ど、どいて下さ~い!!」

 

 叫び声が聞こえ、ハリベルは物凄い勢いで迫ってくる気配を感じてノイケ達を制止する。

 

 直後、目の前を自転車に乗った坊主頭の少年が盛大に慌てながらハリベル達を避けようとハンドルを動かして、すぐ横の側溝に猛スピードで突っ込んでいく。

 

「あーー!!」

 

ガッシャアアアァン!!

 

 叫び声と盛大な音を立てて落ちた自転車に、ノイケと月湖は思わず目を瞑る。

 

 目を開けると、ハリベルが呆れた表情を浮かべながら、坊主頭の少年の首根っこを掴んでぶら下げていた。

 

「……え?」

 

 少年も落ちる時に目を瞑っており、いつまで経っても来ない衝撃と痛みに目を開ける。

 そして、自分が側溝の上でぶら下がっていることに気づき、顔を後ろに向けて呆れた表情を浮かべるハリベルと目が合った。

 

「え、あ、す、すいません!! ありがとうございます!」

 

 少年は慌てて礼を言うが、その動いた弾みか。

 

ビリッ!

 

 と、ハリベルが掴んでいた襟が破けた。

 

「「「あ」」」

 

 少年、ノイケ、月湖が声を上げた時には、すでに少年の身体は落下を始めていた。

 再び少年は目を瞑って、今度こそ来る衝撃と痛みに備えるが、突如何かに抱えられたように浮かび上がる感覚に襲われ、予想していたものとは違う衝撃が尻に襲い掛かる。

 

「え?」

 

 またポカンとして目を開けると、いつの間にか月湖とノイケの足元に座り込んでいた。

 

「え?」

 

「西南ちゃん、大丈夫?」

 

 西南は未だにどうなったのか理解出来ず、月湖の心配そうな顔が目の前に来たことでようやく再起動する。

 

「あ、はい! だ、大丈夫です! ……え~っと、俺、どうなったんですか?」

 

 西南は跳び上がる様に立ち上がって、頬を掻きながら首を傾げる。

 月湖は苦笑しながら、ハリベルに顔を向けて、

 

「彼女があなたを放り投げてくれたのよ」

 

 ハリベルは西南が落ちた瞬間に、素早く左腕で西南を抱えて月湖達の前に放り投げて助けたのだ。

 

「え、こ、この人が?」

 

 地球人である西南からすれば、大人とは言え女性が自分を放り投げたとは信じられなかった。

 もっとも先ほど自分を掴み上げていたことをすぐに思いだしたが。

 

「あ、二度もありがとうございます!」

 

「……気にするな。目の前で怪我をされるのが嫌だっただけだ」

 

「彼女は天地君の家にノイケさんを訪ねてきたハリベルさんよ。元軍人でね。鍛えてるのよ」

 

「ぐ、軍人さん……」

 

「それで、どうしたの? 海と遊びに行ったんじゃ……」

 

「え? 海から電話来てませんか? 今日、泊まらせてもらうってことになったんですけど……」

 

「……あのバカは……」

 

 月湖はため息を吐いて、一瞬殺気を放出する。

 それにノイケと西南は苦笑して、ハリベルは呆れる。

 

 どうやら海は西南の荷物を後から持ってくることになっているらしい。

 西南が運んだり、一緒にやってくると、西南の悪運に巻き込まれて汚れる可能性が超高いからと西南の母親も含めて考えたからだ。

 

 その結果、海は月湖に電話するのを数秒の内に忘れ、今も西南の家でお菓子を食べている。

 

(この少年が山田西南……。確かに悪運に悩まされているにしては、平凡で純粋に見える)

 

 西南を見て抱いた印象に、ハリベルは納得しながら側溝に落ちた自転車へと近づいて引き上げようとする。

 

「ああ!? だ、大丈夫です! 俺がやりますから!」

 

「お前の噂は聞いている。拾おうとして、怪我をされてはたまらん」

 

「うっ……」

 

 ハリベルの言葉に西南は肩を落とし、月湖とノイケは苦笑しながら慰めるように西南の肩を叩く。

 ハリベルは軽々と自転車を引き上げて、月湖の家の敷地内に置く。

 自転車はハンドルが歪み、ペダルが片方外れ、前輪が歪んでパンクしていた。

 

「パンクしたの?」

 

「いえ、ブレーキが壊れちゃって……。スピードを落とそうとした時にブレーキが壊れて、それで後ろに身体を引いて止まろうとしたら、ハンドルとペダルも壊れちゃって……。その弾みでバランスを整えようとしたら、思いっきり踏み込んじゃったんです……」

 

「……西南さんらしいと言えばらしいですね」

 

 恥ずかしそうに説明する西南に、全員が呆れるしかなかった。

 聞いた限りでは確かに不可抗力だ。

 ハリベルは自転車に目を向けるも、汚れてはいるがそこまで古いわけでもない。

 しかし、壊れた部分を見ても、老朽していたか傷が付いていたのだろうとしか思えない壊れ方をしていた。

 それが同時に壊れたということ以外は、運が悪かったとしか言いようがない。

 

(……そして、同時に壊れるのが山田西南の悪運、か。先ほどの事を考えれば、確かに何度も入院する怪我をするのも納得出来る。……周りが避けるのも当然の感情だろう。本当によくここまで健やかに育ったものだ)

 

 天地を始めとする正木の村の者達が惜しみない愛情を注いだ結果なのだろう。

 

(だからこそ、月湖の娘が山田西南から逃げ出したとしても誰も責めることはない。……本人からすれば、責められた方が楽かもしれんがな)

 

 ハリベルは西南と関りを持たない人間なので、今の所深く関わるつもりはない。

 それにやはりハリベルの目には、西南に向けられる月湖の視線や雰囲気は異性に向けられる類だと感じとれた。もちろん、まだ子供に向ける色合いが強いが、恐らく西南が未成年だからというだけだろう。

 西南が成長してきっかけさえあれば、一気に異性への愛情に偏るに違いない。

 

(それでも山田西南が宇宙に上がることはない。……それはそれで辛い道だろうな)

 

 子供のころから知っている存在が、先に老いて死んでいくのは、決して慣れるものではない。

 それが愛した者ならば、尚更だろう。

 

 だからこそ、霧恋は西南から離れることを選んだ。そして月湖は、それでも寄り添うことを覚悟している。

 

 その強さに、ハリベルはただただ感服するのみであった。

 

 その後、ハリベルとノイケは親子にも見える月湖と西南に別れを告げて、家へと戻るのであった。

 

 

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