天地無用!皇鮫后 作:無月有用
一夜明けて、朝食を食べ終えたハリベルは、スクアーロンに乗り込んでいた。
「木星付近で水穂殿の船が待機しているようだよ」
「ああ」
スクアーロンは単独操縦が可能だ。
少人数で動かすことを想定しているからで、海賊も仕事によっては長時間動きっぱなしという過酷なものも存在するためである。
ハリベルは艦長席に座って、操縦桿を起動させる。
すると、頭上から兜のような見た目の物体が下りてきて、ハリベルのすぐ傍で止まる。
「ご出立で御座いますか?」
「……お前は?」
「某はこの船のコンピューターユニットの『
「……」
ハリベルは鷲羽に通信する。
『ん? どうしたんだい?』
「……コンピューターユニットは頼んでもないし、聞いてないが?」
『ああ。そいつがいれば、乗員全員が休んでも船を動かしてくれるよ。そういうのがいた方が楽だろ?』
「否定はしないが、今後こういうことは事前に知らせてくれ」
『え~』
鷲羽は不服そうな声を上げる。
それにハリベルは、
(そういえば、哲学士は人を驚かせるのが趣味と聞いたことがあったな)
と、思い出して、それ以上の苦情を諦めることにした。
ハリベルは通信を切り、動力炉を起動させる。
「亜空間ゲート、開錠を確認! エンジン出力安定! 空間迷彩起動! ゲート先の空間に異常なし!」
「……」
徒波のオペレーションに慣れないハリベルは複雑な表情を浮かべながら、ハリベルはドックから発進する。
柾木家の池の上に開いた亜空間ゲートから勢いよく空へと飛び出し、一気に宇宙に上がる。
それと同時に宇宙船に通信が届く。
「柾木水穂様より通信。位置情報データで御座います」
「……短距離ジャンプで移動する」
「承知! 先方に到着予定時刻を返信! 短距離ジャンプ1回で到着可能で御座います」
ハリベルはそれに頷くのと同時に超空間へとジャンプインするのだった。
その頃、水穂の船に徒波からの通信が届いた。
「水穂様。ハリベル殿より返信。到着予定は10分後です」
「分かったわ。あの子達に準備するように連絡して頂戴」
「はい」
「チョビ丸の方は問題ない?」
「はい。予定通り、太陽系境界付近で待機しています」
部下の報告に水穂は頷く。
そして丁度10分後、水穂の戦艦のすぐ横にスクアーロンがジャンプアウトする。
その直後、戦艦から小型艇が発進され、スクアーロンの後部接舷口と接続する。
数分もせずに小型艇が離れ、スクアーロンのブリッジに複数の女性が入ってくる。
黒い短髪の先を切り揃えており、額から後頭部にかけて一角が生えたプロテクターを着けたボーイッシュな印象のエミルー・アパッチ。
黒いウェーブロングの髪に三又に分かれたプロテクターを頭に身に着けている、魎呼に似た勝気な印象を与えるフランチェスカ・ミラ・ローズ。
同じく黒の長髪姫カットを靡かせ、右額に髪飾りを着けている物静かな清楚風のシィアン・スンスン。
そして水穂である。
「お待たせしました、ハリベル様って……何っすか? その浮いてるの?」
アパッチが声を掛けるが、徒波を見て首を傾げる。
徒波はアパッチ達の前に移動して、
「某はこの船のコンピューターユニットの徒波で候。よろしくお頼み申す」
「コンピューターユニットォ?」
「ハリベル様、これは?」
「……白眉鷲羽が造った物だ」
「「「白眉鷲羽が!?」」」
アパッチ達は鷲羽の発明ということで、ズザザ!と距離を取る。
水穂はその反応に苦笑する。
「不安は分かるが、協力体制が出来ている以上、害はないだろう。……盗聴、盗撮、戦闘データの送信等はされている可能性はあるがな」
「十分害っすよ!」
「調べられないんですか?」
「あの白眉鷲羽の発明だ。私達の装備でスキャンしたところで、発見は難しいだろう。この船も含めてな」
(……否定できないわねぇ)
水穂はハリベルの推測に内心で同意する。
盗聴、盗撮はともかく、航行・戦闘データは傍受されている可能性は高いだろう。
もしくは隠そうとしても、どこかに保存されている秘密サーバーがある可能性もある。
そして、それはアカデミークラスの設備でもなければ、発見は出来ないだろう。
それが白眉鷲羽の発明・改造ならば、尚更である。
「それでも性能はこれまでとは段違いだ。今の私達の立場を考えれば、我慢する他あるまい」
「けっ! 人質を取って、無理矢理言うこと聞かせたくせによ……」
アパッチは舌打ちして、水穂を睨みつける。
水穂はもうそのような視線は慣れたものなので、涼しい顔で受け流す。
「3人とも、持ち場に着け。船の性能を正確に把握しなければならん」
ハリベルは水穂に文句を言っても意味はないと分かっているので、指示を出してアパッチ達の意識を水穂から外させる。
水穂は心の中でハリベルに礼を言い、今後の予定を話す。
「太陽系の境界に向かってくれるかしら? そこで補給拠点が待機しているわ」
「……承知した」
右端にアパッチ、中央にミラ・ローズ、左端にスンスンが座り、すぐにコンソールを操作する。
そして、向上している性能に目を見開く。
「マ、マジ……?」
「これはいくら何でも……」
「凄まじ過ぎますわねぇ……」
アパッチは狙撃手、ミラ・ローズは操縦士、スンスンはレーダーオペレーターを担当している。
向上している性能にもはや呆れるしかなく、ミラ・ローズが困惑の表情を浮かべながらハリベルに振り返る。
「ハリベル様……。いくら何でも、ここまでとなると……」
「分かっている。この太陽系は海賊が少ない。なので、補給拠点に向かうついでに飛行性能を確認する」
「了解!」
ハリベルの言葉に頷いたミラ・ローズ達は、すぐさま発進の準備をする。
ハリベルは横に立っている水穂に目を向け、
「お前も拠点まで同行する、ということでいいのだな?」
「ええ。瀬戸様から、そう言われてるから」
「……了解した。スンスン。周囲、および目標地点までの海賊、GP艦の反応は?」
「ありませんわ」
「アパッチは戦闘シミュレーションを起動。発進後にGP艦隊との遭遇を想定して、シミュレーション内で全射撃装備を試射しろ」
「あいさ!」
「ミラ・ローズ。艦内力場固定、最大速度で発進。直線最大速度を確認後、戦闘を想定した緩急駆動を試す」
「了解!」
「スンスン。周囲を警戒しながら、戦闘シミュレーションの結果とこれまでの戦闘データを照らし合わせて、偽装に最適な出力数値を計算しろ。徒波は出来うる限り3人の補佐に回り、神木瀬戸に渡すデータを纏めてくれ」
「はい」
「承知!」
ハリベルが素早く指示を出し、アパッチ達はすぐさま行動に移す。
水穂はハリベルの背後で感心しながら、ハリベル達の動きを観察していた。
(……いきなり目的地と瀬戸様の名前を言っただけで、こっちの目的も看破して指示を出せるなんて。白兵戦の実力も含め、瀬戸様が気に入るわけだわ。それにお祖父様やお祖母様もすぐに頷いたのも納得ね。彼女がダ・ルマーギルドや他のギルドに与したら、手強いなんてものじゃなくなってたかもね)
瀬戸やアイリ、美守が悪役になってまで繋ぎ止めようとしていた理由を実感する水穂。
体が固定されたのを感じて、思考を切り替えて観察に集中する。
スクアーロンがゆっくりと進んだと思ったら、次の瞬間には亜光速度航行に入った。
亜空間固定と力場固定をしていたので、Gは全くかからないがそれでも今までとは速度が段違いだったのは実感できた。
「シミュレーション起動。……GP艦隊確認! 戦闘に移行!」
「了解!」
「よっしゃ!」
戦闘状態に移行した瞬間、ハリベルの周囲に3人が見ているモニターが映し出される。
ハリベルは艦長席に腕と脚を組んで座っているが、纏う空気はかなり鋭かった。
鋭く視線を右往左往させて、複数のモニターを何度も行き来する。
「んのっ!」
「ぐっ! おい! 動くの速ぇよ!」
「分かってる! けど、少し動かしただけで反応するんだよ!」
「……未だ撃沈数3。しかし、航行不能艦は4ですわ。威力が上がったおかげで、無茶苦茶な狙撃でもかなりのダメージを与えてますわねぇ」
ミラ・ローズは特に操縦桿の反応の良さに手間取っていた。
操縦の癖は無意識レベルで刷り込まれているので、そう簡単に調整することが出来なかった。
そして、アパッチも今までのタイミングで狙撃する癖が刷り込まれているので、タイミングが合わないのだ。
「……最高航行速度は改造前の3倍。反応速度は2.5倍近く……。徒波、操艦応答性とエンジン出力を20%制限しろ。その分の出力を船体バランスとシールドに回せ」
「承知!」
「ミラ・ローズ、アパッチ、スンスン。もう一度だ」
「「「はい!」」」
ミラ・ローズとアパッチは力強く頷いて、再度シミュレーションを開始する。
スンスンも先ほどのデータも含めて比較を始め、計算を始める。
ハリベルもモニターから目を離すことはないも小さくため息を吐く。
「……性能がいいのも考え物か……。いや、だからこその徒波か……」
「恐らくね。皇家の樹や魎ちゃんを考えれば、船自身のバックアップがあった方がいいでしょうから」
「……なるほどな」
(恐らく鷲羽様は既製船での皇家の樹並みのコンピューターユニットを意識してるのね。けど、それって確かお母さんが研究してた……)
水穂はアイリとその研究チームが研究・開発中のコンピューターユニットのことを思い出す。
樹雷とも協力して、樹雷の次期主力戦艦という名目でスポンサーになっていたはずだと記憶していた。
皇家の樹や魎皇鬼のような学習する高性能コンピューターユニットを組み込んだ戦闘艦だったはずだ。
鷲羽はそれを既製戦闘艦で、すでに実験を始めていたということになる。
(……確かにハリベルさん、そしてこの船の戦闘能力と運用を考えれば、魎皇鬼にも活かせるデータが集まるわね。大型戦艦クラスに組み込んだところで皇家の船と大して変わらない。あくまで中型以下の船に活用することを目的にしていると……。瀬戸様はともかく、お母さんに渡したら泣き崩れそうだな~)
水穂はこのデータを瀬戸に渡すかどうか葛藤を始める。
瀬戸ならば絶対に「これなんて活用出来そうじゃない?」と、凄くいい笑みを浮かべながらアイリに渡すに決まっている。
その八つ当たりが瀬戸の副官であり、娘である自分に襲い掛かりそうで物凄く嫌な予感しかしない。
(鷲羽様も自分からお母さんに渡さずに、瀬戸様がこうすると分かってたから言わなかったに違いない)
ニマニマ笑っている鷲羽の顔が浮かんでため息を吐く水穂。
まだ鷲羽とは深く絡んではいないが、容易に想像出来てしまうのも複雑だった。
どんどん憂鬱になっていく水穂を横に、ハリベルは先ほどより上手く操舵、射撃を行っているアパッチ達とモニターを見つめていた。
その時、
「ハリベル様、そろそろ太陽系境界です。更に惑星規模艦と思われる反応を感知しました」
「……惑星規模艦だと?」
「それが目的地よ。そろそろ通常航行に移行して貰えるかしら?」
「……了解した。シミュレーション中止、通常速度に移行。徒波、操縦桿を私に移譲しろ」
「承知!」
ハリベルの指示と同時に減速し、力場固定が解除される。
ミラ・ローズとアパッチは、大きく息を吐いて汗を拭いながら座席にもたれる。
「「はぁ~~」」
「ちょっと。はしたないですわよ」
「構わん。少し休ませてやれ」
流石にあのじゃじゃ馬状態では疲弊するのは仕方がない事だ。
ハリベルはゆっくり目に航行させながら、シミュレート結果に目を通していた。
「……今のでもこの船ではやや過剰か」
「そうですね。しかし、射撃威力を抑え込めば、ジェネレーターとエンジンの新調で誤魔化せるかと……」
「……そうだな。スンスン、射撃威力を70%まで下げ、20%分を射撃精度と慣性制御に回してくれ。残りはシールドでいい」
「はい」
「徒波、今の変更も含めてシミュレーション結果のデータを柾木水穂に渡せ」
「承知!」
徒波は水穂の傍に飛んで、データを送信する。
受け取った水穂は高速でスクロールして確認して頷く。
「ハリベル様。惑星規模艦から着艦許可とゲートキーを受信しました」
「分かった」
スンスンの報告を聞いた直後、モニターに惑星規模艦『チョビ丸』が映し出される。
その瞬間、ハリベルを始め、アパッチ達は眉を顰める。
「なんだぁ? あの装甲」
巨大な白い装甲を持つ惑星のような戦艦。
しかし、その装甲は穴が空いており、しかもそれが文字になっていた。
そのせいで、威圧感が半減したように感じた。
「……『阿重霞のアホ』『おバカ』。……阿重霞って……」
ミラ・ローズは見えた部分の文字を呼んで、水穂へと振り返る。
アパッチとスンスンも訝しむように水穂に顔を向けて、水穂は頬を引き攣らせながら顔を背ける。
「……ちょっと、少し前に地球で色々とあってね……。その時は九羅密家所有の船だったの」
「九羅密家の?」
「……もしかしてGP長官が降格したのは……」
ミラ・ローズが更に眉を顰め、スンスンは少し前にGP長官の九羅密美瀾が整備部主任に降格したことを思い出した。
それに水穂は小さく頷いて、
「……チョビ丸を勝手に動かしたのが理由よ」
「……では、あれは魎皇鬼の仕業か」
「ええ。言っとくけど、チョビ丸の存在は機密事項よ」
「そりゃあ、あんな状態で晒せるわけねぇよなぁ」
アパッチは呆れ全開でチョビ丸を見つめ、ミラ・ローズ達も同意するように頷く。
ハリベルは船を動かして、チョビ丸へと着艦する。
惑星規模艦だけあって、艦内のドックも広かった。
樹雷が所有権を買い取ったばかりなので、搭載艦は偵察艦以外はないのでガランとした印象を与える。
デッキに降りたハリベル達は、近づいてくる人影に目を向ける。
「お待ちしておりました。水穂様」
「お待たせ、マシスちゃん」
水穂に頭を下げたのは艦長の九羅密マシスである。
新婚ホヤホヤなのだが、色々とあってここにいる元軍人である。
「艦長の九羅密マシスよ。こちらはティア・ハリベルさん」
「……九羅密?」
「美星ちゃんの弟さんの奥さんなの。で、その前に瀬戸様の養女になってるから、ここにいるの。ちなみに美星ちゃんとノイケちゃん、霧恋ちゃんの同期よ」
「……なるほど。天地達が言っていた美咲生の騒動とやらが、このチョビ丸か……」
「うっ……」
ハリベルは昨日の鷲羽達の会話を思い出す。
それにマシスは耳まで顔を赤らめて、顔を背ける。
その騒動で結婚することが出来たのだが、その分黒歴史も晒して作ったので、あまり自慢できる話でもない。
機密にガンガン関わっているというのもあるが。
水穂は苦笑しながら話を戻す。
「まぁ、そこらへんは今はいいわ。それで、あなた達にはチョビ丸を拠点としてもらうわ」
「この艦は九羅密でも樹雷でも機密扱い。改修が終わるまで海賊が少ない宙域を航行する予定になっている」
「それとここには長距離転送ゲートもあるわ。地球はもちろん、関係者がいるところにも通じているから」
「……ここから地球に戻れと……」
「そういうことね♪」
水穂は瀬戸達に通じる笑みを浮かべて頷く。
ハリベルはため息を吐く。
「アパッチ達はどうすればいい?」
「あなた達の船は、チョビ丸とだけだけど長距離転送ゲートがあるって鷲羽様から聞いてるわ。ここで過ごしてもいいし、船で過ごしてもらってもいいわよ?」
「……転送ゲートがあるのか?」
「え? 聞いてないの?」
ハリベルは眉間に皺を寄せて頷く。
もちろん、鷲羽の悪戯であることは理解しているので、文句を言う気も起きないが。
水穂は苦笑して、マシスは同情の目を向ける。
ゲートの場所を確認したハリベル達は、そのまま宇宙に出ることにした。
流石に機密の場所に留まるのも落ち着かなかったからだ。
チョビ丸の位置情報データを常に受信できるように設定し、ハリベル達は長距離ジャンプを繰り返しながら前から活動していた宙域に向かう。
せっかくなので、徒波に操艦を任せたハリベル達は、
「……地球の者達からだ」
と、砂沙美とノイケから預かった重箱を開ける。
中身はもちろん弁当である。
「おお!」
「美味そうだな」
「これは……見事ですね」
早速とばかりに箸を伸ばすアパッチ達。
料理を口に含んだ瞬間、目を見開く。
「!! ウメェ!」
「本当に」
「流石は樹雷皇家がいる家ってわけか」
「……これはその皇族が作った料理だ」
「「はぁ!?」」
「皇族が料理……ですか?」
「鬼姫の方針らしい。家事は一通り仕込まれているようだ」
「うへぇ……。樹雷ってホント意味分かんねぇ国……」
アパッチはうんざりしながらも箸は止まらない。
それにミラ・ローズとスンスンも頷きながらも、箸を止めない。
3人も水穂の部下として修行させられ、水穂の部下と共に暮らしていたが、戦闘力やオペレート能力が非常に高いのに妙にフレンドリーで、料理や洗濯、果てには農作業まで出来るという訳分からない連中という印象が強くなっていた。
もちろんそれはハリベルとて同じである。
「樹雷も元は海賊という話もある。その名残がある、と聞いたことがあるな」
「あぁ、私も聞いたことがあります」
「樹雷の皇族が出奔するっていうのも時々聞くしなぁ」
「まぁ、ここ最近のは地球にいた連中の話だけどね」
「地球か……。樹雷皇族だけじゃなくて、あの九羅密美兎跳の娘とか、白眉鷲羽に魎呼までいんだろ? 初期段階文明の星にそんな連中が揃ってるなんて思わねぇよなぁ」
「よくバレてないですわねぇ」
「大丈夫なんすか? ハリベル様。九羅密の娘とかって、よく墜落するって噂もあったっすよね?」
「……昨日も墜落していた。日常茶飯事のようだ」
「うわ……」
「これからも住むんですか?」
「……一応はな。せめて鬼姫が満足するまではいるつもりだ。それにあの家の者達の動向は見ておいた方が良い。下手な者が手を出せば、どこに飛び火するか分からん」
「……確かに……」
アパッチ達も全てではないが、天地達の情報は聞いている。
それだけでも銀河連盟なんて無視できるほどの力があるのは理解出来たので、関わりたくもないが、知ってしまった以上無視も出来ない。
どこに影響が出るのか分からないからだ。
特に白眉鷲羽と九羅密美星の影響が。
「白眉鷲羽と鬼姫達が繋がっている以上、しばらくは今の立場を維持すべきだろう。恐らく海賊の勢力図も大きく変わる」
「近々デカイことやるつもりらしいですからね……」
ハリベルの言葉にミラ・ローズも頷き、アパッチ達も眉間に皺を寄せながらも否定はしない。
「けど、大丈夫なんですか? グランギルドを狙うってことは、最終的にダ・ルマーギルドもってことっすよね?」
「恐らくはな」
「コマチ姐さんやリョーコとか大丈夫でしょうか? そこらへんには伝えた方が……」
ミラ・ローズは不安げに世話になり、世話をしたダ・ルマーギルドにいる海賊達のことを言う。
ハリベルは目を伏せて首を横に振る。
「コマチは鬼姫との外交を担当している。下手に知らせれば余計な軋轢を生む。リョーコに関しては、鬼姫は眼中にないだろうが……ダ・ルマーギルドにとっては立派な幹部だ。ダ・ルマーギルドをそう簡単に裏切れないだろう」
「確かに……」
「しかし、グランギルドに手を出せば、シャンク一族に喧嘩を売ったことになるのも事実では? シャンク一族と言えば、タラントが余計な報復に動く危険性もありますが……」
「……可能性はある。だが、ダ・ルマーギルドからすれば、それだけで戦争を仕掛けることはないだろう。タラントもダ・ルマーギルドから独立出来る程の力はまだないはずだ。一度樹雷に滅ぼされた以上、そう簡単に復興出来るものではない。もっとも……樹雷ではないところに報復する可能性はあるがな」
「だから、今回の作戦はあくまで鬼姫主体で樹雷の戦力だけで行う、と?」
「そう考えるのが自然だろう。だからこそ、私達に接触してきたはずだ」
「はぁ……簡単に言ってくれるよなぁ。情報収集に、偽情報を流して誘き出せって……」
「けど、下手したら私らも捕まる側だったかもしれないんだ。そう考えると、他の連中には悪いけどねぇ……」
「生き延びるため、ですからね」
流石に樹雷、しかも瀬戸を敵に回したくはない。
別に仲間といえる間柄ではないが、同じ海賊である以上、罠に嵌めるのも心情的にやや辛いものがある。
しかし、それもまた生きていく手段ではある。
海賊の多くは、あくまで商売として海賊をやっているだけだ。一度捕まれば、再犯率は非常に低い。
なので、海賊からすれば、樹雷に雇われるのは魅力的ではあるのだ。
誰の部下になるか、何をさせられるかもによるが。
『主殿。そろそろ予定ポイントにジャンプアウト致します』
「分かった。……行くぞ。この船にも慣れなければならないからな」
「「「はい」」」
徒波からの連絡を受けて、ハリベル達はブリッジへと戻る。
そして久々の海賊業に精を出すのだった。