ここは、1話15万文字まで行けるみたいですが、あまり長すぎても読むのが大変なので、上手く区切りがつけられない場合は多少前後しますが、私は1話4000~6000文字位にしています。その位だと空いた時間にスッと1話読めるくらいかな?と。
それでも400字詰めの原稿用紙10~15枚なので結構ありますね。
今回は、とうとう黒い塊が目を覚まします。
町長がコトワリ様のお告げを受け、クロの祠や諸々を造ってからしばらくして。
ん、ん~~っと、ふわぁ~…
体を起こして前足を伸ばし後ろ脚を伸ばし、あくびを1回する。
お日様がのぼってから先に起きた方がもう1匹を起こす。
これが、2匹の間のちょっとしたおやくそくである。
起こされていないってことは、きょうはボクが起こす番だな。
と思い、まだおネムなもう1匹を起こそうと横を見て異変に気付く。
?!
「ここどこ?!」
この子犬の名は『クロ』あの、山の上にいた神からユイと共にハルを守るために戦い、そして命を落とした。
命を落としたはずの子犬がなぜ存在しているのか?それは分からない。
当人ですら分からないのだ。ただ分からないだけではなく、自分が命を落としたことさえ分かっていない。
とりあえずなんとか状況を確認しようと周りを見る。
なんだかでっかいハコの中にいるらしい。クロは祠の中で目を覚ましたようだ。
(しらないところなんだけど、安心するにおいがする。このにおいは?ユイちゃん?!)
そう、町長がもしクロの魂がまだ此岸にいるのなら、祠はクロが住みやすい状態にしておきたい。と考え気を利かせて?変質者扱いされるかも知れないこともお構いなしに。
ユイの家に行き、理解してくれたかは不明だがユイの母親に事情を説明してユイの使っていたタオルを貰い、祠の中に敷いていたのである。
この後、ユイの母親は夫と娘を失いこのままこの町に住み続けるのは辛い。と言って、親戚を頼って引っ越すことになるのだが、町長が変質者だから。という理由もあったかどうかは神のみぞ知る。である。
「ユイちゃんのにおいはするけど姿が見えない!いつもいっしょのチャコもいない!」
慌てて祠の外に飛び出すクロ。そのとき、扉も開けずにすり抜けているのだが気が動転していて気付かない。
(同じ犬同士で仲良しのチャコ。自分を拾って育ててくれている、大好きな人間のユイちゃん。
そのユイちゃんが大好きなハルちゃん。やさしくていい匂いがしてボクも大好き)
そのみんなが自分の目の前から姿を消してしまったのだ。
「チャコ…ユイちゃん…ハルちゃん…」
「みんな、どこいっちゃったの…」
何が何だかわからなかった。
たしか、ハルちゃんを助けるためにユイちゃんといっしょになんかでっかいのとケンカしてた気がする。それで、でっかいのにたたかれて痛いなぁと思ったら眠くなって。目を覚ましたらチャコがいない。ユイちゃんもハルちゃんもいない。
いったいここはどこなんだろう?振り返って、今飛び出してきた祠を見る。
なんか人間が住んでいるおうちみたいなちっちゃいハコ?
ユイちゃんのにおいがしたから、いつもの空き地と同じくらいいごこちがいい。
(それにしてもチャコはどこいったんだろう?)
「もしかして、ボクのこと置いてユイちゃんやハルちゃんと遊んでるの?ずるい!」
ちょっとさがしに行ってみよう。そう思い歩き始める。
置いて行ったのはチャコではなくクロの方なのだが、それに気付くのはもう少し先のことである。
祠からなにやら黒い塊が飛び出してきたことに気付いたコトワリ様。
「ん?あれは、クロか?まだ此岸にいたのか…」
「今までワレが気付かなかったということは、力もほとんどなく姿も見えなかったのが、クロのために造られた祠に力が集まり、その力で実体化…霊体なので実体とは違うが、生前の像を結ぶことができるようになった。ということであろう」
「だいぶ取り乱しているな。無理もない。しかし、今ワレが出て行っては余計に混乱するだろう。少し様子を見るか」
うっすらとチャコのにおいがする。そっちに行ってみよう。
クロは微かなチャコのにおいを辿り、山を下り入口までやってくる。
「いない…」
アスファルトの道路が見える。あの空き地だったら?
そう考え行こうとしたがどうにも力が出ない。まだ現世に像を結ぶようになったばかりで慣れていないため、祠からあまり離れては行動できないのだ。
「しかたない…」
クロは元来た道を戻り、安心するにおいのする祠まで戻って来た。
とぼとぼと肩を落として祠に入る。
「あれ?いま、なんかすり抜けた?」
やっと、なにかがおかしいことに気付き始める。
「こういうのって、ぶつかるんじゃなかったっけ?」
「よくわかんないや…つかれたし、もう寝よう。
「すまない、ワレが丁重に弔ってくれと言ったばかりにこのような事態になってしまった。
あの男がここまでしてくれるとは…」
翌朝…
「ふぅ、きょうもボクが先に起きたみたいだ。チャコ…はいないんだった。ほんとにみんなどこいっちゃったんだろう。」
(きょうは、あっちの方に、ユイちゃんとハルちゃん、それにボク?のにおいがするから行ってみよう)
昨日、同じように山の入口でチャコの匂いを感じていたが、実際は匂いではなくそこに残った残留思念のようなものを嗅ぎ取っているのである。
まあ、クロにとってはどうでもいい事である。
しばらく歩き、壊れたお地蔵様の脇の穴から中に入っていく。
(ここは?あのときでっかいやつとケンカしたところ?やっぱりユイちゃんもハルちゃんもいない。それに、あのでっかいやつもどっかいったみたい。けはいもにおいもしなくなってる)
「クロ…」
「え?だれかによばれた?」
「クロ…」
キョロキョロと周りを見回すと…
!!!
大きな手にこれまた大きなハサミを持った姿のコトワリ様がそこにいた。
まあ、犬にハサミというものは分からないから、なにかとがってて当たったら痛そうなものを持っている。くらいの認識である。
「おまえは!(あのときボクをたたいたり、ユイちゃんやハルちゃんにひどいことをしようとしたやつとおなじにおい!)」
即座に戦闘態勢に入るクロ。
ガルルルル…
歯茎が見えるくらい牙をむき出しにし、尻尾を立て、毛を逆立てて威嚇のため低い声で唸る。
「あぁ、アレとおなじ気配を感じたのか。すまない。アレはもうひとつのワレの形だったのだ」
「どういうこと?」
穏やかな口調に少しだけ緊張を解く。しかし警戒はし続ける。
「元々はひとつだったのだが、ある時ふたつにわかれてしまってな。そのあとアレは悪さをするようになってしまった」
「ヌシの主人であるユイと、その友達のハルのおかげで倒すことができ、またひとつにもどったのだ。しかし、もとはワレと同じであるから、アレのしたことについてワレからも謝らせて欲しい」
「すまなかった」
顔がないので表情は分からないが、謝っている気配は伝わってくる。
あと、それなりに気を使っているらしく、なるべく簡単な表現を使うようにもしてくれている。
犬であるから元々他の生き物の気配に敏感であることに加え、クロ自身はまだ認識していないが、霊体となったことにより気配を感じる力が強くなっている。
「それと、クロ、ヌシに伝えておかなければならないことがある」
「なに?」
「辛いだろうが聞いて欲しい。クロ、ヌシはもうこの世のものではない」
「それって?」
「アレに叩かれた時、ヌシは死んでしまったのだ」
「え?うそ、死ぬってあの、みんなとおわかれして、くるしくなくなってねむっちゃうやつ?」
動物の本能から「死」という概念は子犬とはいえ、なんとなくわかっていたようだ。
「だから、あいつにたたかれたあとねむくなって…じゃあ、もうチャコにもユイちゃんにもハルちゃんにも会えないの?!」
「そういうことだ」
こうやって別の生き物と話すことに慣れていないため、ややぶっきらぼうに淡々と話してしまうコトワリ様。しかし、クロのことを気遣い、思いやって話をしていることは気配で分かる。
そのためかクロもいつの間にか警戒を解いている。
(このひと(?)もなにかかなしいことがあったのかな?)
気配を感じる力が強くなっているため、コトワリ様の今回の事件の悲しみや苦しみを察してしまう。
「もう1匹の子犬、チャコと言ったか?ソレはハルに引き取られ、今はハルと一緒に暮らしている」
「じゃあ、ハルちゃんのところに行けばチャコに?…あ、そうかボク死んじゃってるんだった…」
「あれ?じゃあユイちゃんは?」
「ユイは…、ユイも、死んでしまった」
「そんな…、だってユイちゃんはボクと、ボクとチャコをひろってくれて、ごはんをくれて。おかあさんみたいな人間だったのに、どうして?!」
「それは、ヌシと同じだ…」
「あいつに?あのでっかいやつがユイちゃんを?なんで?どうして…」
クロの目から涙が溢れ、ポタポタと流れ落ちる。
(涙…か、ワレには目がないからそれがどういったものか理解はできぬ。だが、悲しいときや苦しいときなどに流すらしい。かと思うと嬉しいときにも流すようなので、いったいなんなのか皆目見当もつかぬ。ワレにも目があれば理解できるのであろうか?)
「あ、そういえば、あなたのおなまえは?」
(ん?切り替えが早いな)
「ワレは、コトワリと呼ばれるモノである。一応、人間からは神と言われている」
「かみ?」
(そういえばユイちゃんが、もしかみさまがいるのなら。とか、かなしそうに言ってたことがあったような)
「えっと、ユイちゃんからきいたことのある『かみさま』っていうのとおんなじ?
あと、ボクのねているハコのとなりのおうちに来た人が、『コトワリさま』って言ってたけど、それ?」
「そうだ」
「なんか、おねがいごとをかなえてくれたりする?すごいひと?」
「そういう面もある」
「そんなにすごいひとなはずなのに、だったら!なんでユイちゃんをたすけてくれなかったの!」
(すまない、本当にすまない。あの時のワレはそれどころではなく、自分を保つだけで精一杯だったのだ。事実、そうなのだが「そういう願い事をされなかったから」とは…言ってはならないのだろうな)
「神にも、できることとできないことがある」
「うぅ、うぅっ…」
(また涙か。これはいったい何のための涙なのだろうか?失った悲しみ?ワレに対しての怒り?)
少しづつ生き物の感情について理解し始めているコトワリ様ではある。今のクロの涙については、おおかた正解である。
だが、一番強い感情は、大好きなユイちゃんが大変な時に、自分が何もできなかったという『自分に対しての怒りや憤り』である。
コトワリ様自身も直前に似たような感情が湧き上がっているのだが、いかんせん感情表現というものがほぼできないため、他人の感情と自分の感情とを照らし合わせ、『あの時の自分の気持ちはこういうことだったのか』などと気付くのが苦手なのである。
「そういえば、ボクはこうしてここにいるけど、体はないの?」
「そうだ。だが、どうしてそう思った?」
「なんか、ボクが目を覚ましたハコから出たり入ったりするときに、ぶつからなかったから」
「何と言うか…、ヌシは察しがいいな」
「『さっしがいい』って?」
「頭がいいってことだ」
「あ!ユイちゃんもボクのことそういうふうに言って頭をなでてくれたよ?」
その時のことを思い出したのか、目をつぶりやや上を向きうっとりとした顔つきをしている。
そして、片目を少し開けてチラッとコトワリ様を見る。
コトワリ様は気付かない。実はクロは『なでて!』とアピールしていることに。
気付かないのも仕方がない。何故ならコトワリ様の手は手の形をしているだけであって、厳密には手ではない。なんというか、手の形をした身体?そんな感じである。
それに、『ハサミを握る』という動作のためにあの形をしているので『撫でる』という動作など考えもつかない。
(むぅ…)
ちょっと不機嫌そうに唸って恨みがましい目をしながらコトワリ様を見上げるクロ。
(手がおっきすぎてなでられないのかな?ボク、ちいさいもんな)
(はて、なにか機嫌を損ねるようなことをしただろうか?)
コトワリ様がこのことに気付けるようになるのは、もっとだいぶ先のことである。
「そうだ、ききたいことがあったんだ」
「なにか?」
「ボクが目を覚ましたあのハコはなあに?」
「あれは、ヌシのために造られた祠…あ~、家だな」
「おうち?ボクの?」
「そうだ」
「そうかぁ、ボクのおうちかぁ。ユイちゃんのにおいのするタオルも置いてあって、すごくいごこちがいいんだよ」
(タオル?あの男がなにやら中に布を敷いていたが、あれがタオルと言うものか)
「あ~あ、チャコもいっしょにすめたらなぁ」
まだ、心の中にモヤモヤしたものがあるが、子供らしい切り替えの早さで落ち着きを取り戻していく。
「そうだ!」
「どうした?他に話があるのなら神社に戻ってからにして貰いたいのだが?ここは、ワレもあまりいい思い出がないのでな」
「そうなんだ…」
(かみさまでもいやなこととかあるんだなぁ)
「では、あとでな」
「うん、て、あれ?いなくなっちゃった」
急に姿を消したコトワリ様にびっくりしながら自分も祠に向かって歩き始める。
(そっかぁ、ボク死んじゃったんだぁ…。チャコ、ユイちゃん、ハルちゃん、あいたいよぉ…)
ゆっくりと歩きながら祠へもどる。起こったことを頭の中で整理するのに精一杯で、コトワリ様が待ってくれていることにも気付かず、そのまま祠へ入って行ってしまった。
コトワリ様はなにやら落ち込んでいるようであるとは気付いたが、どう声を掛けたらいいか分からなかった。
「察しがいいとはいえ、まだ子犬であったからな。やはり自分が死んでいるということは堪えたのだろう。まだ、言うべきではなかったか…」
クロのペースに乗せられ、コトワリ様が徐々に「キャラ崩壊」していきます。悪い意味ではなく、良い意味で「愛すべきキャラ」になっていくのではないかと。見た目あんなんだけど…。
クロのセリフについて。子犬のためひらがな多目です。ひらがなばかりだと読みにくいので所々漢字は使いますが、なるべく小学生低学年で習うものを使うようにします。
その辺りは文の流れ的に変動することがあります。ケースバイケースということで勘弁してください。
あと、クロが本能から何となく察していた「死」という概念。あれは、以前聞いたことがあるのですが、手話を覚えて人間と意思疎通ができるようになった「ココ」というゴリラがいまして、ココに「死んだらどうなる?」と聞いてみたら「苦しみのない穴にさようなら」と答えたそうです。そのことから、それが動物の死に対しての共通認識的なものと判断し、クロのセリフをあんな感じにした。という訳です。