完夜廻もしくは深夜廻らない   作:トロリスト

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今回は、やることを見つけたクロ。しかし…。です。


第13話 やること

翌日

 

チャコのいない朝を迎えて早3日。

これからいつも1匹で起きなきゃならないこと。

 

(なれなきゃいけないのか…なんで、ボク…)

 

少し眉間にしわを寄せながら祠を出る。

コトワリさまが祠の近くでふわふわ浮いている。

 

 

「あ、コトワリさま おはよう!」

 

「ん?あ?あぁ?」

 

「お・は・よ・う!」

 

「どうしたの?ユイちゃんから朝はこうあいさつするっておそわったんだけど、かみさまはちがうの?」

 

神様というものがどういうものかよくわかっていない事と、自分はもう死んでしまっているということを知って、とにかく怖いもの知らずである。

 

「あ、いや、違うということはない。そう挨拶することは知っている。知ってはいるのだが、

実際、ワレの姿が見えるものにそう言われたのが初めてだったものでな。びっくりして何を言ったらいいか分からなくなってしまった」

 

「じゃあ、もう1かい。コトワリさま おはよう!」

 

「ああ、おはよう、クロ」

 

「あ、いけない。ねる前には『おやすみなさい』をいわなきゃいけないのに、ぜんぜん言ってなかった」

 

「それは、まあ、気にすることはない」

 

「なんで?ユイちゃんは夕方になってボクたちを空き地においてかえるまえに言ってたよ?」

 

 

(さて、困った。こういう時はなんと言えば上手く納得させられるのか。

実際のところ言われてたとしてもさっきと同じ反応になっていたと思うが)

 

「ふむ、目覚めたら見知らぬ場所におり、見知ったものの姿も見えぬ。その上自らの死を知り、気が動転して挨拶のことなど思いもよらぬことであったのであろう。致し方ないことだ」

 

「もっとかんたんにゆって!」

 

思わず普段通りに話してしまったコトワリ様。クロにはちょっと理解しにくかったらしい。それにしてもあまり神様のことを理解していないとはいえ容赦がない。

 

(な?!え?簡単に?)

 

「あ~、その、なんだ?急に目が覚めて見知らぬ場所にいて、自分も死んでしまっていることを知り、気がどうてn…え~、ビックリして頭の中がこんら…ん~、なにか色んなことがグルグル回っている感じがして、おやすみなさいを言うことを忘れてしまっていても仕方がなかった。ということだ」

 

コトワリ様頑張った!

 

「おこってない?」

 

「ん?何を怒ることがある?」

 

「よかった!」

 

(なんとか機嫌を損ねずに済んだようだ…)

 

 

「ちょっと、あさのおさんぽに行ってくるね。かえってきたらきのう聞きたかったこととか聞いてもいい?」

 

「ああ、聞くがよい。答えられることには答えよう」

 

「ありがとう!」

 

「ちょっと待て」

 

「なに?」

 

「ヌシはまだそのように存在していることに慣れていない。慣れるまではあまり祠から離れないようにするといい」

 

「おうちとボクと何かかんけいあるの?」

 

「ああ、戻ってきたら説明しよう」

 

「うん、おうちのことも聞きたかったからよかった」

 

心なしか昨日までより元気な足取りになって散歩に出かけて行こうとして、

 

「そうだ、いってきます!」

 

「あれ?おでかけするときにはこう言うってきいた気がするけど、そう言われたらなんて言うの?」

 

「何と、言ったかな…?」

 

「わからない?」

 

「暫し待て」

 

「しばし?」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

「わかった」

 

別にコトワリ様も律儀に考えなくてもいいのに一生懸命考えている。きっと、自分のせいでこのようになってしまった。自分がまともであればクロは幼い命を散らすこともなかった。

そんな思いがあるのだろう。できるだけ真摯に応えようとしているのかも知れない。

 

「はて、何と言ったか…『いってきます』という出かける者に対しての見送る言葉であるから」

 

「いらっしゃい?」

 

「いや、それは訪ねてきた者を迎える言葉だ。お?何かそれに近い言葉だったな」

 

「あぁ思い出した。『行ってらっしゃい』だ」

 

「『いってらっしゃい』うんうん。じゃあ、いってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

(ふむぅ、ワレはいったい何をしているのであろうな?しかし、こんな状況も悪くない。そう思えてきてしまっている)

 

 

クロは気持ちを落ち着かせるため、少しは見知っているとはいえあまり知らない山の中を探検がてらお散歩していた。

 

(そういえば、この前、山の下の方まで行ったらすごく疲れちゃったから、あさのおさんぽはこれくらいにして帰ろう)

 

 

「ただいま!」

 

 

「あれ?いない」

 

 

いくらクロのことが気がかりで世話を焼いているとはいえ、一応はここの神社の主神である。お参りに来た人の願い事を聞いたり、ふわふわとパトロールしたりとやることはある。あとは、突発的に「もういやだ」と言ってしまった者の様子を見に行ったり。あの頃は自分を見失いつつあったので、言われたら反射的に言った本人。または、5体のあるモノをバラバラにしていたが、今はそんなことはなく、ちゃんと状況を見極めるようにしている。最近は少し緩んだ者も出てきて、肝試しがてら気軽に言う輩もいるのだが、そういう不届き者には、首と手足の付根に薄っすらと傷を付けて「次はないぞ!」と軽く脅かすようにしている。

 

お昼が近づいてきた頃、やっと参拝客も減り、クロと話す片手間で聴けるくらいになった。

 

「すまない、今日はやけに参拝客が多くてな」

 

「さんぱいきゃく?」

 

「この神社にやってきてお願い事やお礼を言いに来る人たちだな」

 

「お礼?コトワリさまがなにか助けてあげたりしたから言いに来たりするの?」

 

「そういうことだ」

 

「うんうん、何かしてもらったら『ありがとう』っておれいを言うのがたいせつ。ユイちゃんも言ってた。

あ、そうそう、ききたいことはいくつかあったんだけど、今すっごく不思議なことがわかったの」

 

「どうした?」

 

「ボク、おなかすかない」

 

「そういうことか。物を食べるということは、生きるために必要なことだからな。昨日知ったように、今のヌシには体がない。だから食べる必要もない」

 

「そうなんだ…」

(もう、あのクッキーってやつも食べられないのか)

 

「ただし、その姿でいるためには祠からの力が必要だ。慣れてないうちは力の消耗が激しい。

祠からあまり離れてはならぬというのはそういうことだ」

 

「このおうちが?」

 

「そうだ、ワレとしても想定外であった。ヌシのために造られた祠に想いが集まり、そしてヌシ自身もまだチャコたちと遊びたいという未練もあったことから、此岸にまた生前の姿を現すことになってしまったようだ」

 

「どうしてだか、コトワリさまもわからないの?」

 

「わからぬ。いくらヌシのために祠が造られても、ヌシ自身に未練があったとしても、なかなかそうはならぬはずである。もしかすると、なにか意味があるのやも知れぬ」

 

「なにか、やることがあるってことかな?」

 

「かも知れぬ」

 

「じゃあ、それをみつけられるよにならなくちゃだね。あ、でも~、なんでボクのためにおうちをつくってくれたのかな?」

 

「それは、ヌシがあのワレのもう一つの形を倒すために戦い、命を落としたから。そして、アレがもういないことが分かり、この町の町長が感謝して造ったのだ」

 

「ボク、やっつけてないよ?」

 

「例えやっつけていなくても、やっつけるために一緒に戦った勇気を称えたのだろう」

 

「たたえた?」

 

「よくやった、頑張った。と褒めている」

 

「でも、そんなにほめられること?ボクはハルちゃんを助けたかっただけなのに?」

 

「いくら助けようと思っても、自分の体より遥かに大きいモノに挑みかかるのはそうそうできることではない。現に、そのことによってハルは助かって今も生きているではないか」

(まあ、勇敢というより、無謀に分類される行動ではあるが、言わぬ方がいいだろうな)

 

「そっかぁ、ハルちゃんは助けられたんだよね。よかった」

 

それから、クロはコトワリさまの時間が許す範囲で色んな話をし、質問をして毎日を過ごすこととなる。コトワリさまも、まるで子供を育てているかのように、クロの「なぜなに期」に丁寧に答えていた。

 

 

ある日

 

段々と体の動かし方に慣れてきたクロは、最近は山を下りて町の中も少しお散歩できるようになっていた。夕方のお散歩を終えたクロが、なにやら嬉しそうに走ってくる。

 

「ただいま!コトワリさま みつけたよ!」

 

「おかえり。どうした?そんなに慌てて」

 

「きょうね、ボク町の方までおさんぽに行ってたんだけど、ユイちゃんくらいの男の子がよこからきた、くるま?っていうのに気付かなくて、あぶないっ!と思って声をかけたらきこえたみたいなの!」

 

「聞こえた?」

 

「うん、男の子はボクの声にびっくりして立ち止まったら、目の前をくるまがびゅんって。声はきこえたみたいだけど、ボクのことは見えなくて、でも「わんちゃん ありがとう」って言ってくれたの」

 

「そうか」

 

「うれしかった!」

 

「きっと、これがボクの『やること』だと思う」

 

「そうなのか?」

 

「ボク、ハルちゃんは助けられたけどユイちゃんは助けられなかった」

 

「うむ」

 

「だから、きっとそうやって助けてあげるのが、ボクの『やること』だと思う。『やること』じゃなくても、そうしたいと思ったの」

 

「そうか」

 

「うん!がんばるよ!」

 

クロは自分のやることが見つかり大喜びである。コトワリ様はそうやって喜ぶクロの姿を微笑ましく思いながらも現実を突きつける。

 

「しかし、あまり無理はしないようにな。もし助けられなかった。間に合わなかったという事があっても、気に病むことはない。出来ることと出来ないことがあるのだからな」

 

「きにやむ?」

 

「助けられなかったとしても気にするな。ということだ」

 

「やだよ!だってユイちゃん助けられなかったって聞いてかなしかったもん!もう、そんなの見たくないもん!気にしちゃうよ…」

 

「では、助けられなかったとして、そのことを気にしてしまうのであれば、どうする?」

 

「どうする…?」

 

「気にしなくなるようにはどうしたらいい?」

 

「ん~と、がんばる!みんな助けられれば気にすることは起こらない!」

 

「それでもダメだったら?」

 

「もっとがんばる!

…て、きょうのコトワリさま、なんだかいじわるじゃない?」

 

「そうか?」

 

「だって、ボクが『がんばる』っていっても『助けられなかったら?』とか『それでもダメだったら?』とか…」

 

「口では『がんばる』、『やってやる』と言うのは簡単だが、実際にそれをやってみせるのは難しいという事だ。ヌシはまだ幼い。そこまで気負う必要はない」

 

「だって、でも…ボク、がんばるもん…あんなのもうイヤだもん…」

 

「ワレとてあの時ハルの覚悟がなければユイを救うことはできなかったのだ!ただの子犬であるヌシにどれ程のことができると言うのか!」

 

『あの夜』のことについて色々と思うところがあるのだろう。思わず言葉を荒げてしまうコトワリ様。クロは、このように他者から怒鳴られるということはおそらく初めてであろう。そのためかどう受け止めたらいいか分からず。

 

「うぅ、ぐすっ…コトワリさまの、バカァァァッ!」

 

堪らず走り去ってしまうクロ。その後姿を見て、

 

「しまった、少々言い過ぎてしまったか…。しかしな、誰かを助けるというのはそれなりに覚悟と責任が伴う。ヌシのその小さな体にそのような重責は背負わせたくないのだ…」

 




今晩中にもう1話くらいいける。…かも?
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