完夜廻もしくは深夜廻らない   作:トロリスト

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今回は、前のエピソード(4話・5話くらい)でハルがチャコの遺骨の一部を持ってきたところです。

今エピソードは前のエピソードの裏話的なものなので、できそうなら修正して短くしたりもしますが、状況説明的に同じことを書いている所もあります。決して手抜きではないです。



第15話 なつかしの

クロからの質問に答え色々と教えながらも、クロの純真さ、天真爛漫さに色々と教わることも多いコトワリ様。

そんな1匹と1神の奇妙な関係の生活が始まってから数年経ったある日、コトワリ様はハルの感情が激しく動いたことを感じた。

 

ハルに貸し与えているハサミ。あれはある種コトワリ様の分身でもあるので、ハルの状況についてはある程度知ることができる。

別に私生活を覗き見るという無粋な話ではなく、ハルの感情が強く動いた時に様子を確認する程度である。

なので、ハルが初恋に破れて泣きながら眠れぬ夜を過ごしたことも実は知っているコトワリ様。

振った男許すまじ!と思ったかどうかは定かではない。お前がこれから会う女性すべての縁を切ってやろうか?アァン?と思ったかどうかも定かではない。チュパカブラと縁を結んでやるぞゴルァ!と思ったか…て、もういいですね。要するに、それだけハルの事を気にかけているのである。

 

ここ暫くはハルの感情が激しく動くことはなかったのだが、

今日、とても激しい動き、慟哭のようなものを感じたので慌てて様子を窺う。

 

(そうか、チャコが逝ったか…。このことは、クロには少し伏せておくか)

 

何やらコトワリ様は神社の脇に立てかけてあったすだれに指を突っ込んで広げている。

顔があるのなら、その隙間から外を覗いている感じである。いつの間にそんな俗な事を覚えたのか?そんな不可解な事をいきなりしだしたものだからクロが不思議に思い、

 

「?すだれをゆびでひろげてなにやってんの?」

 

「ん?あ、いや、なんでもないぞ」

 

「なあに?あたらしいあそび?」

 

「なんでもない、気にするな」

 

大慌てである。

 

「へんなの」

 

そんな、実は悲しい状況でありながらマヌケなやり取りをしているのは、早い話コトワリ様自身が演技をできないという自覚があり、下手に隠そうとしても勘のいいクロにすぐ気付かれてしまう。そのため、わざとふざけるような事をして気をそらしたのだ。

 

それから1ヶ月ほどが過ぎ、ハルが、チャコの遺骨を携え訪れた。

いち早く気付いたコトワリ様。

 

(来たか、辛いだろうがチャコのことを報告しに来たのであろう)

 

クロも、なにやら懐かしい気配と匂いに気付く。

 

「あれ?ねえコトワリさま、あれ、ハルちゃんだよね?」

 

「そうだな」

 

「なんか、おっきくなってるねぇ」

 

「あれから何年も経っているからな」

 

「元気そうでよかった…て、あれ?」

 

「どうした?」

 

「ハルちゃん、かたほうの手、ないよ?」

 

(しまった!!!その事を失念していた。さて、どう説明したものか…)

 

「あのでっかいやつからハルちゃんを助けようとしていた時にはあったはずなんだけどなぁ」

 

コトワリ様、心の中で冷や汗タラタラである。

しかし、嘘をついてごまかすわけにもいかない。しかも勘のいいクロのことである。ちょっとやそっとのごまかしはすぐ見抜いてしまうだろう。

そうやって折角仲良くなり信頼を勝ち得たクロに失望されたくない。それほどまでにコトワリ様のなかでクロの存在が大きくなっていたのである。その一心で意を決して話し出す。

 

「クロ、聞いてくれ。済まぬ。あれは、ワレが切った…」

 

クロにしてみれば、普段から穏やかに接してくれて、優しくもあるのに何故?という感じである。

まあ、見た目はアレだけど。

 

「なんで?!どうしてハルちゃんにひどいことしたの?!」

 

「それは…、ユイが死んでしまったあと、アレに魂を操られてしまったのだ。

ハルへの想いの強さからお化けのようなものになってしまい、ハルを道連れにしようとしていた。

ハルは自分との縁が繋がっている限りユイは自分を求め続けて苦しんでしまう。

そう思いハルは…、ユイとの縁を断ち切る覚悟をし、ワレに左手を生贄に捧げたのだ」

 

「ハルちゃんが自分でコトワリさまにそうおねがいしたの?」

 

「そうだ」

 

「そうしなきゃいけなかったの?」

 

「そうしなければ、ハルの命も、ユイの魂も救えなかったのだ…」

 

「どうしても?」

 

「どうしてもだ」

 

じっとコトワリ様を見つめるクロ。しばらく一緒にいるようになって神(ひと)となりは分かっているつもりだ。

そんなコトワリ様が大好きなハルに酷いことを。でも、ごまかさないで本当のことを話してくれた。『どうしても』という言葉には苦しみと悲しみが色濃くにじんでいる。

であればクロはこう言うしかない。

 

「じゃあ、しかたがないね」

 

「…?!いいのか?そんなあっさりと。ワレはヌシの大切な人間を…」

 

「うん。だってコトワリさまがユイちゃん助けられなかったり、そのことで苦しんだり悲しんだりしてたの知ってるもん。せめるようなこと言っちゃって、ごめんなさい」

 

「すまない…」

 

クロは、なんでそう言うの?と、不思議そうな顔をして首を傾げている。

 

「あ、そうか、こういう時に言うべきことは、そうだな、うん」

 

「クロ、ありがとう」

 

クロは嬉しそうに目を細めて尻尾をばたばた振っている。

 

「あれ?縁を切ったの?じゃあ、ユイちゃんとハルちゃんはもう会えない?」

 

ここにきて数年、『縁』というものがどういうものか、お参りに来る人のお願いを聞いたり(声に出していた場合)、コトワリ様にも少し説明してもらったので、なんとなく理解している。

 

「ワレが自分を取り戻し、アレを倒すことでまた1つに戻れたことのせめてもの礼に、ハルとユイの縁をまた結び直した。本来であればするべきことではなかったのだが、あの子たちがしてくれたことに報いるにはこれしか方法が浮かばなかった」

 

「それだったら、また会えるんだね?」

 

「いつになるかは分からぬがな。結ばれた細く儚い縁という糸を手繰り寄せ、いつかまた出会う。ワレもそう祈っている」

 

神とは言え普通の生者同士の縁ではなく、死者と生者の縁を結ぶという異例中の異例である。もし、縁を頼りに会えたとしても何百年、何千年とかかるかも知れない。そのようなものであれば自身も「祈る」しかないのである。

 

「会えるといいねぇ」

 

「そうだな」

 

クロは目を細めて祈るようにしている。コトワリ様も顔があったならそうしていたことだろう。

 

「ん~…」

 

「どうした?」

 

「なんだかよくわからないけど、急にチャコのこと思い出しちゃった。

あのね、ユイちゃんがボクとチャコのことを『おはしみたいにいつもいっしょ』って言ってたの。

どういう意味なんだろう?」

 

(おはしみたいに…か、幼いながらなかなか上手いことを言う子供だったのだな)

 

「そうだな、『おはし』というのは人間がご飯を食べる時に使う道具でな。こういう形をしている」

 

と言って箸の図というより棒を2本、地面に指で描く。

クロとの生活のなか、時折こうやって地面に図を描いて説明するようになったコトワリ様。

まさかハサミを握るためだけにあった手の指を使って図を描いたりする日が来るとは夢にも思っていなかっただろう。

たまに消し忘れてミステリーサークルの類と勘違いされ少し騒ぎになったりするのだが、

大抵、子供が地面に絵を描いて遊んでいただけ。と判断されてすぐ収まる。

つまりコトワリ様の作画レベルは子供の落書きレベ…

 

「この2本の棒を持って、食べ物を挟んで食事をするのだ」

 

「ふんふん、1本だとはさめないから2本ないといけない?」

 

「その通りだ。つまり、2本一緒でなければ箸という道具として成り立たないという事だ」

 

「2本いっしょ…。そっか、だからボクとチャコがいつもいっしょにいるのが『おはしみたい』なんだ。でもどうして急にチャコのこと思い出したのかなぁ?」

 

「どうしてだろうなぁ?」

 

実はコトワリ様はハルの持ち物にチャコの気配がするものがあることに気付いている。

 

「ん?なんか知ってるの?」

 

「なぜワレがヌシが心の中で急に思いついた事の理由を知っているのだ?」

 

「そうだよね、なんでだろう?ハルちゃん見たからかな?

そうだ、ハルちゃんのとこ行って来てもいい?もうボクのこと見えないし、撫でてもらえたりしないけど…」

 

「行ってきなさい」

 

「うん!」

 

元気よくハルに向かって走って行く。その後姿を眺めてコトワリ様は、

 

「なんとも健気なものだ…」

 

感慨深げにそう呟いた。

 

 

「ハルちゃん!ハルちゃん!」

 

クロはハルの周りを尻尾をばたばた振りつつ飛び跳ねながら呼びかける。

しかし当然ハルは気付かない。

 

「やっぱりダメかぁ…」

 

しょんぼりとしながらハルの足元に寄り添い顔を見上げる。

 

『…チャコが死んじゃったの』

 

!!!

 

(チャコが、死んだ…?どうして?あのでっかいのにたたかれたわけじゃないのに?)

 

慌ててコトワリ様の元に駆け戻るクロ。

 

「コトワリさま!」

 

「どうした?慌てて」

 

「あのね、今ハルちゃんが言ってたの。チャコが死んだって」

 

「言っていたな」

 

びっくりしてハルとコトワリ様を交互にキョロキョロ見ている。

 

(聞こえたの?!)

 

実は、ハルに貸し与えているハサミ。ハルはそれを普段からお守り代わりに持ち歩いているので、

何をしに来たのか気になったコトワリ様は、ハサミを介してハルの独り言を、悪い言い方をすると盗み聞きしていたのである。

 

「どうしてかな?チャコもボクみたいに何かにたたかれちゃったりしたのかな?」

 

「そうではない。寿命のようだ」

 

「じゅみょう?」

 

「生き物には生きていられる時間に限りがある。それを寿命と言う」

 

「え~っと、チャコはその生きていられるじかんがおわりになったってこと?」

 

「そういうことになる」

 

「そっかぁ、いたい思いしたりしたんじゃなくてよかった。

ということは、前に聞いた…なんだっけ?ひがん?ってところに行くの?」

 

「それは、チャコ次第であろうな」

 

「そっか、どうせならチャコといっしょにこのおうちに住めたらいいのになぁ…

でも、いきものは死んだらひがんってところに行かなくちゃいけないんだよね?」

 

「本来であれば、そうだな」

 

「う~ん、だったら、やっぱりチャコにはちゃんとひがんってところに行ってほしいな。ちょっとさびしいけど…」

 

(ホントにこの子は幼くして死んだのか?それとも犬という生き物はここまで賢いものなのか?)

 

※※※いいえ、お話の都合上、クロが特別なだけです※※※

 

(ん?今なにか聞こえたような…?)

 

「あ、いつもここをおそうじしたりしているおじさんといっしょにあっちのおうちに入っていく」

 

「きっと、あの日何があったか聞きたいのであろうな。それと、ワレの神社がここにあることやクロの祠のことも話すのであろう」

 

「ん~、ボクも行っておはなし聞いてきてもいい?」

 

「構わないと思うが?」

 

「…やっぱりやめた!なんか、こっそり聞くのってよくないことな気がする」

 

ドキッ!

 

さっきまで分身であるハサミを介してハルの独り言を盗み聞きしていたコトワリ様。

 

(いやいや、あれはハルの事が心配で何か助けが必要であるかを知るために行ったことであるからして、決して盗み聞きなどという人聞きの悪いものでは…)

 

自分に軽く言い訳をし、何食わぬ顔でクロに

 

「そ、そうか、ヌシがそう思うのであればそうすればよい」

 

とだけ言った。

この時ばかりは自分に顔がなくて良かったと思うコトワリ様であった。

 

(なんだろう?コトワリさま、ちょっとあわててる?)

 

ハルと元町長が小屋に入ってから暫くして、ずっと待っているのも手持無沙汰になったクロ。

ハルが話しかけていた木にやってくる。

 

「ハルちゃん、どうしてこの木にはなしかけてたのかな?この木とおともだち?」

 

………!

 

犬の嗅覚と霊体になったことにより鋭敏になった感覚が微かに残る懐かしい匂いを嗅ぎ取る。

 

(ユイちゃん?なんでこの木の辺りから…?なんだろう?なんだか悲しい気持ちになってきちゃった…)

 

「もしかしてユイちゃんは…」

 

気付いてしまいそう呟くクロ。犬であるため、木と人間の死がどう結び付くかは理解できない。

だが、クロはこの木やその周辺からたしかにユイの死を感じ取っていた。

 

 

(そっか、ユイちゃんはここで…でもどうして?コトワリさまはでっかいやつのせいで死んでしまった。とか言ってなかったっけ?

コトワリさま知ってるかな?聞きたいけど…聞いたら思い出して悲しくなっちゃうかな?)

 

「このことはコトワリさまにはないしょにしとこう」

 

少しだけしょんぼりしながらコトワリ様の所へ戻るクロ。それでもコトワリ様に心配を掛けまいと明るく振る舞う。

 

「さっきハルちゃんが木にはなしかけてたから行ってみたけど、なんなんだろうね?ハルちゃんは木とおともだちなのかな?」

 

(気付いてしまったか…)

 

クロと過ごして数年。コトワリ様も生き物の感情の揺れ動きには多少なりとも気付けるようになって来ている。

 

「どうだろうな?ところでクロ、何か聞きたいことがあるのではないか?」

 

「どうして?べつになにもないよ?」

 

「そうか?何か聞きたそうな顔をしていたものでな」

 

「そんなことないよ」

 

「まあ、聞きたくなったら聞きに来るがよい」

 

「べつにないのにぃ」

 

それから少ししてハルが小屋から出てくる。なんだか心持ち、来た時より清々しい表情をしている。どうやら帰る前にまた木の所まで行くらしい。

 

「ハルちゃん、なんか嬉しそうだったね?」

 

「そうなのか?ワレにはよく分からなかったが・・・」

 

(ん~、さっきはボクに『なにかききたいことはないか?』とかなにか気付いたふうだったのに、なんでわからないんだろう?)

 

早い話が『付き合いの長さ』である。

 

クロとは毎日顔を合わせているので、ちょっとしたことでも気付けるようになってきているが、

ハルは時々様子をうかがうことはあってもずっと見ている訳ではないので気付きにくいのである。

まあ、人間より犬の感情の変化を読み取る方が格段に難しいと思うのだが、

コトワリ様はそういった順番をすっ飛ばしてしまっているようだ。

 

 

「あ、ハルちゃんかえるみたい!おくってきていい?」

 

「行ってこい」

 

「うん!」

 

言うやいなやダッシュでハルの後を追いかける。

ハルの足元に纏わりつきながら歩く様はとても微笑ましいのだが、ハルにも隣を歩く元町長にも、クロの姿が見えていないのが少々悲しみを誘う。

 

少ししてクロが戻ってくる。

 

「ただいま」

 

「おかえり。早かったな?」

 

「うん、なんかあのおじさんがくるまを呼んでて、それにのって行っちゃった」

 

「それは残念だったな」

 

「がんばれば追いかけられると思ったけど、たぶんすごく疲れちゃうと思ったからかえってきたの」

 

「そうして正解だったな。もし追いかけていたら途中で力尽きて、ワレが迎えに行くことになったであろう」

 

「そっか…、でも~、コトワリさまがむかえに来てくれるんだったら、1回くらいためしてみてもいい?」

 

「できればやめて貰いたいな。なにか緊急で縁を切る必要のある願いを受け取ってしまった場合、どちらを先に済ませたらいいか分からぬからな」

 

「ふっふ~ん♪」

 

「どうしたというのだ?」

 

「なんでもないよ♪」

(きんきゅうのおねがいとボクをむかえに行くの、どっちを先にしたらいいか分からないだなんて)

 

コトワリ様は何気なく言っただけなのだが、緊急の願いとクロを天秤にかけてどっちが先か?と悩む辺り、クロの事をとても大事に思い始めていることに気付いていないらしい。

それを聞いたクロは上機嫌である。

 

「ふわぁぁぁ…」

 

大きなあくびをする。

 

「きょうはなんだかいろんなことがあって疲れちゃった。チャコが死んじゃったっていう悲しいおはなしもきいちゃったし、もうねるね。おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみなさい」

 

クロは祠の中で丸くなると、もう朧気になってしまった幼い頃のチャコの思い出に浸りながら眠りについた。




次回はとうとう茶色いのが…。
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