今回は、コトワリ様、クロが好き過ぎて考え過ぎ。です。
翌朝
「ふわっ、ふわわわぁぁぁぁぁ…」
「おはよう。いつにも増して大きな欠伸だな」
「あ、おはよう。なんだか夢の中でチャコとあそんでたら疲れちゃったみたい」
「夢のなかで遊んでいても疲れるものなのか?」
「よくわかんない。でも、いままでもときどきチャコとあそぶ夢を見たことあるけど、
今日はほんとにあそんでるみたいだった」
「そうか…」
(これは、もしかすると、もしかするな…そうなればクロにとっては嬉しいことなのであろうが、彼岸に渡れなかったということで悲しんでしまうかもしれぬ。なんにせよ、この『場』に集まる力と、チャコ次第ということになるか…)
考えに没頭していたコトワリ様。いつの間にかクロがいなくなっていることに気付く。
(ん?クロがいない。もう散歩に出かけたか。考え事をしていて『いってらっしゃい』を生返事した記憶があるな。返事をしなかったら何度も聞き返してくるからしたのであろう。
いや、クロは返事がなくても考え事をしていると察したらそっとしておいてくれる子だな)
それから数日、コトワリ様は何やら考え事をしているのでクロが話しかけても生返事することが続いた。
(う~む…、チャコの遺骨がこの町に来てから数日。今の所兆候はない。やはり、あの祠の下に埋葬されることも条件の一つなのであろう。
チャコが現れるとすればクロと同様にあの祠の中で目覚めるはずなので、その時はすぐ気付くだろう。何の兆候もないままにクロに伝えて成らなかった場合、クロをぬか喜びさせて悲しませることになる。それだけは避けたい)
クロにメロメロになってしまったコトワリ様。クロを喜ばせるにはどうしたらいいかで頭がいっぱいになって来ている。
もしこの事をクロに知られてしまったら、喜んでくれるだろうが『ボクのことはいいから、ちゃんとえんむすびとえんきりのおしごとして!』と言われることだろう。
そんな事をつらつらと考えていると、元町長が数人の作業員を連れてやって来る。
「コトワリ様、クロと共にこの町のために戦ってくれたもう1匹の子犬、チャコが亡くなりました。ひいては、彼の者の遺骨をクロの隣に埋葬するため祠の下を掘り返させて頂きたく存じ上げまする。その旨、クロへお伝え頂けますようお願いする所存で御座います」
(むぅ、この者、たかが犬とぞんざいに扱わず礼を持って接しようとしておるな。ハルよ、お主がチャコの遺骨を託した男は間違いなかったぞ。
しかし、祠を掘り返すのに何故ワレに許可を求める?近くで騒がしくしてしまうからか?
ああ、相手が犬であるから言葉が分からぬと思い、ワレに伝えて貰いたいのか。今のクロであれば多少小難しい事を言っても理解できるはずだが、不在であるからなぁ)
元町長は何かコトワリ様からの兆候がないかと深々と頭を下げたまま動かない。
(さて困った。チャコの遺骨を隣に埋葬して貰うことはクロにとっても嬉しい事であろうから許可を出してやりたいが、それをどうやって伝えたものか…)
(おおそうだ!この者はなかなかに信心深いからこうすれば…)
コトワリ様は肯定の意を込めて、持っているハサミを開き、そして閉じて1回「ジャキンッ」と音をさせる。
「………!」
元町長は身体を起こし顔を輝かせる。
そして再び深くお辞儀をして
「ありがとうございます!」
「よし、みんな!作業に入るぞ!」
周りの者は皆、何が起こったか分からず不思議そうな顔をしているが、
ただ一人の若者、手伝いに駆り出された元町長の孫だけは同じように音が聞こえたのか祖父の言葉に頷いている。
それから作業が始まり数時間。やっと掘り起こすことに成功し、祠を別の場所へ移したところでへクロが帰ってきた。
「コトワリさま、ただいま!さいきんなんか上の空ってやつだけど、どうしたの?
……って、あれ?!ボクのおうち!」
「コトワリさま!なにがあったの?!」
「おお、帰って来たか。あれはな、チャコの遺骨をヌシの隣に埋葬しようとしてくれているのだ」
「チャコの…?いこつ…?」
「遺骨と言うのはだな、あ~、まずは『遺』というのは亡くなった者が『遺(のこ)したもの』というような意味でな、それと生き物の体には骨という物が入っていて、亡くなった者が『遺した』、『骨』ということで遺骨と言う」
「つまり、チャコが亡くなり遺された骨、チャコの遺骨を昨日ハルは持って来ていたのだ」
「ほね?え?どこ?」
自分の体を見回しているクロ。
「あ~、体の中にあるものだから見えはしないぞ。まあ体の一部。と覚えておけばよい」
「もしかして、きゅうにチャコのこと思い出したり夢みたのって…?」
「関係しているかもしれんな。
本当はユイが造った墓の隣に埋めに来たのだが、ワレがあそこにいる男に丁重に弔って欲しいと頼んだら祠ができてしまったからな。ハルはそのことを知らぬからどうしたらいいか迷っている時にあの男から話を聞き、チャコの遺骨を託して帰ったのだ」
「と、いうことは…チャコのいこつっていうのをうめたらもどしてくれるの?」
「そうだ」
「よかった。べつにボクがつくったわけじゃなくて、つくってもらったおうちだけど、
なくなったらかなしいもん。あ、そしたら~、コトワリさまのおうちにおじゃますればいいのかな?」
「もしそうなったら、あまり騒がしくしないでくれよ?」
「やくそくはできない!」
「まったく…」
(ま、そうなったらなったで、それもいいかも知れぬな)
会話だけ聞いたらなんとも微笑ましいものであるが、もし見える人がいたのなら、
小さな子犬と(見た目上、神とは到底思えない)ハサミを持った異形のモノとでわんわん、シャキシャキやっているのである。
回れ右して後方に突撃してしまう光景だ。もしくは、子犬を助けようと猛ダッシュか。
「あ!おじさんがあなをほったあと手を合わせてる」
「とうとう埋めるようだな」
「みてくる!」
元町長はクロの埋まっている隣に自ら穴を掘り、手を合わせたあとチャコの遺骨の入った箱を宝物を持つように手に取り、頭の上に捧げるように持ち上げてから、そっと穴の中に下した。そして、手ずから土をかぶせ、もう一度手を合わせる。
「クロ、君と仲良しのチャコをハルちゃんが連れてきてくれたよ。これで寂しくなくなってくれると嬉しい」
「おじさん、ありがとう!」
「ん?なにか犬の鳴き声のようなものが…」
元町長は何が起こったかをなんとなく察すると、嬉しそうに微笑んだ。
「よし!祠を戻すぞ!」
なんとか最初に祠を設置したメンバーをかき集めてきたので、突貫工事ながらも一度取り外す前と全く同じに設置し直せた。
とは言え、戻し作業は昼過ぎから初めて、もうだいぶ日が傾いて来ている。
「これで元通りだ。あ、そうだそうだ」
元町長は祠の扉を開ける。最初に敷いておいたユイの使っていたタオル。
数年の月日が過ぎているので色褪せたり端がほつれ始めていることはあっても、
本来なら最初に敷いたそのままの状態であるはずのタオルが、
なにか生き物が上で寝そべったりした跡のようによれている。
「やっぱりそうか…」
クロがまだ此岸に留まっていることを確信する元町長。
それと同時にそのことを申し訳なく思う。
「君がどういう気持ちで留まってくれているのかは、神ならぬ我が身には分からないが、
子供たちを見守っていてくれて本当にありがとう」
そう言った後、実はハルを送って行った別れ際、ハルから貰い受けたハンカチをタオルの横に置く。
変質者再び!
「さて、帰るか」
元町長は扉を閉め手を合わせたのち、コトワリ様の神社へ作業終了の報告をした。
「なんとかチャコを埋葬することができました。これで、クロも寂しくないと思います」
埋葬ということなので、一応は『葬儀』ということになる。
なので、後日、知り合いの神主を呼んで簡単ながら葬儀を行った。
本当は埋めた後すぐにでも。と考えたが、急な話で相手の都合で手配が間に合わず後日となってしまった。
さて、今話を書いていて「?!」となった個所がありまして、コトワリ様がクロに遺骨について説明している場面。
遺骨の「遺」という字、「遺言」と書けば読み方は…「ユイ」です。
ということはユイは最初からハルになにかを「遺す」役割で、死ぬことは決定づけられていた存在だったのかなぁ…と。
ゲームの話上、そうやって作られてるから当たり前じゃん。とか言われたら身も蓋もないのですが、なんとなくそんなことを考えてしまった次第です。
次回、今度こそ本当に茶色いのが。
しまった!サブタイ入れないで投稿してしまった…。