完夜廻もしくは深夜廻らない   作:トロリスト

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調子こいて連投中。


今回は、復活の○○○。です。


第17話 わかい

チャコがクロの隣に埋葬されてから数日後、なにやら薄暗いハコの中で目を覚ました茶色い毛並みの子犬。

 

ふわぁぁぁ

 

大きな欠伸をして体に力を入れ、ん~っと伸ばしたのちブルブルッと体を震わせる。

 

「う~ん、よくねた」

 

「あれ?」

 

何かの気配がしてふと視線を下に向けるとそこには…

 

「ク、クロ?!」

 

いつだったか突然姿を消したと思ったら、ユイちゃんにずっと抱っこされてて、

いつもなら抱っこされていたら『クゥ~ン、クゥ~ン』と甘えた声を出しているはずなのにぐったりしていたクロ。

『遊ぼうよ!』と、リードがピンと張るくらい走って行っても全然遊んでくれなかった。

その後お山に登ってユイちゃんが穴を掘って埋めたのを見て、死んでしまったと分かり悲しかった。ユイちゃんも泣いてた。

その、死んでしまったはずの仲良しだったクロが、自分の足元ですやすやと寝息を立てている。

 

「え?どういうこと?」

 

「わたし、ハルちゃんのところにいてもうすぐ死にそうになってて、それで…

って、ここどこ?!」

 

「ちょっとクロ!ハルちゃん!ユイちゃん!」

 

クロが目覚めた時と同じ反応である。まあ、目が覚めて見知らぬ場所にいたらこうとしか反応できないのだが。

クロと一部違う所は、クロは最初に目覚めた時、とっさにチャコ⇒ユイ⇒ハルの順で呼んだが、

チャコはハルに引き取られて一緒にいた時間が長かったため優先順位が変わり、まず目の前にいるクロ、そしてハル⇒ユイの順で呼んだのである。

とっさにユイの名前が出てきたのは、タオルに微かに残るユイの匂いのおかげだろう。

 

「ふわぁ、あ~、チャコだぁ…おはよう~」

 

そんなチャコの狼狽を余所に、クロが目を覚ます。

 

「はい、おはよう。じゃなくて!」

 

最初はボーっとして夢の続きのような感じだったが、意識が覚醒するにつれ目の前に本当にチャコがいることを認識する。

 

「え?チャコ?チャコ!!!」

 

ガバッと飛び起きてチャコに飛びつくクロ。

 

「チャコォ、チャコォ…会いたかったよう」

 

チャコの首根っこに前足でしがみついて顔をこすり付けペロペロと毛繕いを始めるクロ。

 

「もう!ちょっと!クロ、なにがあったかせつめいして!」

 

目が覚めたら見知らぬ場所にいて、死んだはずのクロがいて混乱しているのだが、クロに会えたことの嬉しさでなんとか自我を保てている。

しかし嬉しいのは確かだが、一応は成犬(おとな)の雌犬(おんな)を経験しているので、相手が子犬のままであるのはなんとなくわかっているが、

こんな熱烈な愛情表現を示されては仲良しだったクロが相手とはいえ、ちょっと恥ずかしい。

 

「ん、あれ?チャコ、あんなにこわがりな子だったのに、なんだかお姉さんみたいじゃない?」

 

「そりゃあ…」

 

チャコはハルに引き取られ寿命で死んだのである。

見た目こそクロに合わせる形となったのか子犬の頃の姿だが、人生の酸いも甘いも噛み分けた成犬を経験している。

 

「そんなことより、いったいなんでクロがいるの?それにここはどこなの?」

 

「ん~、んとね、まずここのことから話すね」

 

「ここは、ボクたちが住んでた町の山の中で、ユイちゃんが作ったボクのお墓があったところ」

 

「え?でもわたしはハルちゃんといっしょに遠くに行ったはずじゃ?それにお墓?」

 

「うん。そこにね、ボクが死んじゃった頃の町のエライ人にコトワリさまがボクのためにお墓つくって。って言ったら、このおうちができたみたいなの。あ、ちょっとおそと出よう?」

 

「うん」

 

何を言われているかいまいち理解できないチャコ。話の途中で急に「表に出よう」とか言い出したのは、気分を切り替えるための気遣いであることに気付き素直に従う。

しかし表に出ようとするのはいいのだが、クロは目の前が壁になっている所に迷わず進んでいく。

 

「あ、ちょっとクロ!」

 

「だいじょうぶだよ」

 

と言ってそのまますり抜けて姿が見えなくなる。

 

「え?なんで?」

 

「あのね、ボクたち犬の形をしているけど、体がないの。だからおうちのかべとかもすり抜けられるんだよ」

 

外からそう説明するクロの声が聞こえる。

 

「でも…ん~、クロがそう言うなら…」

 

おそるおそる壁に近づき、ギュッと目をつぶって体当たりするように前へ進む。

 

「あれ?おそと?」

 

「ほら、だいじょうぶだった。きょうもいい天気だねぇ」

 

「ふわぁ…」

 

お日様の光を浴びて少し気分が良くなったチャコ、思わずクロに飛びついてしまう。

 

「わっ?!チャコ、どうしたの?」

 

「え?あら、いけないいけない。話をもどして」

 

と言い、振り返って今出てきたクロが言う『おうち』を見る。

 

(家?これが?)

 

ハルに引き取られてから一緒に散歩している時、近所の家のいわゆる人間の言う『犬小屋』はたくさん見てきた。

この『おうち』はそれらに比べても何か違う。というより立派過ぎる。

 

 

「その、このおうち?は、なんでクロのために?」

 

「なんかね、この山にいたでっかいわるいやつと戦ったから。だって。あ、いまはチャコのためのおうちでもあるよ」

 

「でっかいやつって?」

 

「あれ?チャコ、会ってないの?」

 

「うん。わたし…」と言って周りをぐるりと見渡す。なにか見覚えがある。

 

「ここの近くまではハルちゃんと来たけど、ハルちゃんから『おかえりを言ってもらいたいから山の入口で待ってて』って言われて、山の入口でハルちゃんとユイちゃんがかえってくるのを待ってたから…」

 

「そっかぁ…でも、会わなくてよかったね。チャコ、こわがりだから」

 

「どういう意味よ!それに今はちがうもん!たぶん…」

 

チャコが怖い思いしなくて良かった。というクロの気遣いである。

 

「それでね、ボクはそのでっかいのにたたかれて、いたくって、それから眠くなって。

で、チャコと同じようにここで目を覚ましたの」

 

こんなふうに自分が死んだときのことを明るく話せる者がいただろうか?

 

「クロ…」

 

「なあに?」

 

「なんでもない」

 

「あの、それで、ユイちゃんは…」

 

「あ、それはいいわ。ハルちゃんから聞いてるから。話すのも聞くのも悲しいと思うし」

 

「うん…ありがと」

 

「じゃあ、きっとチャコが山の入口に行ったあとだと思うけど、ハルちゃんがでっかいのとケンカして、コトワリさまがお手伝いしてハルちゃんが勝ったんだよ」

 

「でもその時…」

 

「うん…」

 

「あのね、どうしようもなかったんだって!そうしないとハルちゃんもユイちゃんも助けられなかったって…ハルちゃんの手…、だから、コトワリさまのこと、せめないであげて…」

 

「だいじょうぶだよ。そのこともハルちゃんから聞いてるから」

 

「いいのだ、クロよ…」

 

「コトワリさま…」

 

「キャッ!」

 

クロはもう慣れているが、急に現れたコトワリ様を見たチャコはびっくりしてクロの後ろに隠れてしまう。

 

(え?なにあれ?なんでクロはあんなのとふつうにお話しできるの?でもなにか見覚えが…

そうだ!あの時ハルちゃんにおそいかかってきたおばけ!もうわたしの方がお姉さんになったんだから、わたしが、クロを守らなきゃ)

 

足をガクガク震わせながらなんとかクロの前へ出てコトワリ様に向かって威嚇するチャコ。

 

「クロは守るんだから!」

 

「あ、ダメダメ!チャコ、この人(?)がコトワリさまだよ!見た目はこわいからそうしちゃうのはしかたがないと思うけど…」と、チラッとコトワリさまを見る

 

「………(クロ、それはちょっと酷くないか?)」

 

自分自身、容姿については現存する生物のどれにも似ても似つかない異形の容姿をしていることは自覚している。

しかし、面と向かって『見た目怖い』と言われるとさすがに傷つく。

付き合いが長い上、クロに悪気がないことが分かっているので『ちょっと酷い』程度で済んだのである。

あとはクロとの付き合いで穏やかな性格になりつつあったというのも大きい。

これがもし気性の荒い神であったなら、目も当てられない惨事となっていただろう。

 

「んっ、ん~、クロ、そろそろワレにそこのガールフレンドを紹介してくれてもいいんじゃないか?」

 

「えぇっ?!が、ガールフレンドって、ちがうよコトワリさま!チャコとはそういうんじゃなくって…」

 

とか言いつつ、生きていた頃、このまま一緒に成犬(おとな)になったら、つがいになるのかなぁと考えなかった訳ではない。

 

そのやり取りを見ていたチャコ。ずっと人間の中で育っていたので人間同士の様々なやり取りを見てきた。そのおかげで、コトワリ様がさっきクロが『見た目こわい』と言っていた仕返しをしていると気付く。

まあ、ウソではないのだが…。

 

(あら、あの時は一言も話してくれなかったから、ただのこわいおばけだと思っていたけど、

実はこうやって冗談を言えるくらいの方だったのね)

 

実はもなにも、コトワリ様がこうなったのはクロのおかげである。

クロとチャコ、もし立場が逆で先にチャコが会っていたらこうはならなかっただろう。

 

「もうしおくれました。わたし、クロのガールフレンドのチャコですわ」

 

「ちょっ、チャコまでなに言ってんの…」

 

「ふふっ、クロがしつれいなことを言うからコトワリさまに仕返しされてたのよ」

 

え?え?と、コトワリ様とチャコを交互に見比べる。

 

「えっと、2人とも、グルってやつ?」

 

「さあ?どうかしらね?クロ、コトワリさまに言うことがあるんじゃないの?」

 

「そうか。あの、コトワリさま ごめんなさい」

 

「よい」

 

2匹のやり取りを見たコトワリ様。人間であれば目尻が口元辺りまで下がってるんじゃないかと言うほどのデレデレっぷりである。

 

(まったく、クロと関わるとワレに顔がないことが幸いすることが多くて困る)

 

しかし、口だけはある。その口元もかなり緩んでいるのだが、口だけのおかげで他の顔のパーツと比較することができない。そのため緩んでいても気付かれないのである。

 

「そうそう、チャコがここにいる理由なんだけど」

 

「それそれ、それが気になってたの」

 

「ボクはここにお墓があって生きてたころの体が埋まってるから。ていうのもあるんだけど、チャコは、この前ハルちゃんがチャコが死んじゃったあとの体のいちぶ、『いこつ』っていうらしいんだけど、それをボクがさびしがってるとおもうからとなりにうめてあげようと思って持って来たの。そしたらなんかおうちがあってどうしたらいいか困ってたら、あそこのおうちに住んでるおじさんが話しかけてきて、すこしお話したあと、ハルちゃんはそのおじさんにチャコのいこつをうめてっておねがいしてかえったの」

 

「うんうん」

 

やっと状況が分かりかけてきたチャコ。でも自分がここにいる理由は未だに分からない。

 

「それで、なんにちかしたらおじさんがたくさん人をつれてきて1回おうちをどかして、チャコのいこつをうめてくれたの」

 

「だから、チャコもいちぶだけどボクと同じように生きてたころの体がうまってることになって、

えっと、このおうちにでっかいのとたたかってくれてありがとうって気持ちがあつまって、

その力?がなんかこう、ボクたちのユイちゃんやハルちゃんだいすきっていう気持ちと合わさって、体はないんだけど生きてたころの形でうごけるようになった。みたい」

 

(そっか、ここって、ボクたちのおうちだけど、ボクたちのお墓でもあるんだ…)

 

分かってはいたのだが、チャコに説明することで再認識してしまい少しだけ寂しい気持ちになってしまった。

 

「そうなんですか?」

 

チャコはコトワリ様に聞いてみる。

 

「クロの言ったように、『みたい』とか『おそらくそうであろう』としか言えぬ」

 

「コトワリさまでもわからない?」

 

「その辺りはワレの領分ではないからな。確かなことは言えぬ。

だが、ヌシも再びボーイフレンドに会えて良かったではないか」

 

コトワリ様、気が付いたら『ガールフレンド』とか『ボーイフレンド』とか横文字使い始めてる。

 

「え?ちょっ、わたしにまでなにを言って…」

 

実のところチャコもクロ同様、このまま一緒に成犬(おとな)になっていたらつがいになりたいと思っていたのだが、クロが調子に乗るといけないから絶対に言わない。

生き物の本能として子孫を残す。というものがあるが、チャコはハルの傍にいるために子供は産まなかった。

ハルとしてはチャコの子供が見たいと思って知り合いを通じてお見合いをセッティングしたりしたのだが、雄犬からアプローチされてもチャコはすぐプイッとそっぽを向いて興味を示さなかった。

子犬を育てているがためにハルの傍にいることができず守ることができなかったり、ハルのことが気がかりすぎてちゃんと子育てできるかどうかわからない。という不安もあったのである。

 

「すまんすまん」

 

と、急に黙り込むコトワリ様。

チャコは普通に話が終わっただけだと思ったが、さすがに付き合いの長いクロは何かを感じ取った。

 

「あの、どうしたの?なんかよくないことでも?」

 

(クロ?こんな何考えてるかわからない人(?)の考えてることがわかるの?)

 

「あ、いや…」

 

「ねぇクロ、なにがあったの?」

 

チャコはひそひそ声でクロに聞く。

クロも同じようにひそひそ声で、

 

「よくわかんない。でも、こういう感じになったあとはあんまりよくない話をすることが多いかな?」

 

「チャコよ…」

 

「は、はい」

 

「ヌシに話しておかねばならぬことがある」

 

「なんでしょう?」

 

何を話し出そうとしているかを察したクロ。相手が誰であれ悲しい気持ちにさせたくないと、とっさに。

 

「あ、コトワリさま!あとでボクが話しておくから今言わなくても…」

 

「いいのだクロ。これはワレ自身が言わねばならぬ事なのだ」

 

「…わかった」

 

「チャコ、申し訳ない」

 

「あの、いったいなにを…?」

 

それからコトワリ様はクロに話したのと同じように、すべての原因は自分の弱さにあったことを語り、最後に「本当に済まなかった」と心から謝罪の意を示した。

 

「あの、その、なんて言ったら…」

 

まごまごしながらクロを見る。悲しそうな顔をしているが、ハルちゃんやユイちゃんのことだけを悲しんでいる感じではない。

コトワリさまを見る。

クロの表情の答えが分かった気がする。

 

「あの、もういいんです。済んでしまったことです。わたしもクロと同じ考えになれたと思います。そのことでコトワリさまも苦しんだり悲しんだりしたんですよね?

クロの言っていた『どうしようもなかった』というのはこのことだったんですね」

 

「クロといい、ヌシといい、ホントにいい子たちだな。ありがとう」

 

「チャコォッ!!!」

 

堪らずチャコに飛びつくクロ。

 

「よかったぁ、チャコならきっとわかってくれると思ってたよ」

 

「もう、クロったら」

 

2匹は転がってわちゃわちゃしている。

 

(犠牲になってしまった者たちのため、この子たちの気持ちに報いるためにも、ワレは役目を果たさねばならんな)

 

チャコは成犬(おとな)になってから寿命で亡くなったということもあり精神構造的に成熟していたためか、元から才能があったのかクロよりも力の加減を覚えるのが早く、クロが数ヶ月かかったところを1ヶ月と待たずに、クロと一緒に町までパトロールに出かけられるようになった。




やっとチャコの出番が来ましたね。
これから先、クロとチャコ可愛さにコトワリ様がどんどん壊れていきます。

ちなみに、チャコのセリフは漢字多めです。

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