いつからだろう
ワレは、縁結びと縁切りを司るモノであったはず
いつからだろう
ワレが、縁切りのみをするようになってしまったのは
いつからだろう
ワレと、相反する存在として山にアレが棲みだしたのは
いつからだろう いつからだろう いつからだろう
いつから・・・・・・
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あれからどれだけの歳月が経ったのだろう?
最近よくあの夜のことを思い出す。これはなにかの前触れか…
思い出すのは、
恐怖と悲しみに彩られ、絶望に囚われながらも、それでも尚、一緒に生きたいと願った少女たちのおぞましくも美しさに満ちた
あの“夜”のこと…
始まりはなんだったであろうか?
最初はあの少女が、現状への辛さから何気なく「もういやだ」と、呟いてしまったことだっただろうか?
少女は、その言葉がワレへの願いの言霊であると知らずにいたため、それから幾度となく呟いてしまい、相対することとなる。
その度に少女の親友に対しての想いの強さを見るにつけ、ワレの内でなにかが、記憶の奥にあるなにかが刺激され大事なことを思い出すきっかけとなったのだ。
ワレは少女の行動を見守り続けた。
少女が茶色い毛並みの子犬に話しかける。
「ユイ、どこに行ったんだろうね?きみも心配だよね?ユイのこと大好きだもんね。私も大好き」
少女は気付かない。その親友が背中合わせに座っていることに。
少女は気付かない。子犬がユイを連れてきたのになぜ抱擁(ぎゅっ)しないのかと、
不思議そうに見ていることに。
『ハルへ
さがしてくれてありがとう わたし しんじゃってたみたい やまにいきます』
「わたしも山へ行く」
少女は気付かない。その手紙さえも自分を山へ誘き出すための罠かも知れないということに。
「あんたなんかこわくない!ユイに会いに行くんだ!」
少女は気付き始めている。もう、親友と手を繋ぐことができないかも知れないことに。
ワレも気付き始めている。ワレとアレがなんなのかを。
「チャコのこと、よろしくね」
異形の姿から元の姿に戻りそう言い残した後、姿が霧散した親友。トレードマークである赤いリボンが残される。
少女は気付いてしまった。もはや親友がこの世のものではなくなってしまったことに。
『もし、オレが○×■※△……』
ワレも気付いてしまった。遥か昔に交わした約束があったことを。
「あんたの声をきくのは、もういやだ!」
少女は決意した。どんな結末が待っていようと、全てを見届けることを。
ワレもまた決意した。この長い悲劇に終止符を打とうと。
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カワイソウ カワイソウ カワイソウ………
アレが足場としていた赤い糸をワレの力の宿るハサミで切られ、穴へと落ちていく。
しかし、すべてが終わったかに見えてアレは最期まで死せる少女の魂を弄び、生ける少女を苦しめるつもりらしい。
だが、もし死せる少女の魂を元の姿にして優しく声を掛けさせたなら、生ける少女は一も二もなく手を取り、アレの目的を遂げさせることができたであろう。
親友を目の前で異形へと変貌させ苦しみを与える。という事に固執してしまったアレは、今回ばかりはその方法が仇となってしまった。
目の前では異形と化した死せる少女の魂の右手から赤い糸が伸び、生ける少女の左手へと絡みつく。
生ける少女がハサミにて糸を切るも、後から後から絡みついてくる。
アレにより、生ける少女を求める妄執に憑りつかれ、親友を彼岸へと連れ去ろうとする存在に成り果てている。
それでも尚、その根底にある想いは
生ける少女と手を繋いでいたい。一緒にいて欲しい。そばにいて欲しい。
例えそれがアレによって歪められた想いだったとしても…
事情を知らぬ者からすれば、見るもおぞましい光景でしかないだろう。
だが、少女たちのお互いを想う気持ち、求める気持ちが具現化したかのようなこの光景…
ワレは、後にも先にもこれほどまでに美しい光景を見たことがない。
しかし、悲しいかな死せる少女は生ける少女へと声を掛ける術もなく、
生ける少女がどんなに言葉を尽くしても、彼女に届くことはない。
もはや救うことはできぬ
少女は理解した。もう、二度と親友と手を繋ぐことができなくなってしまったことを。
ワレを呼び出す言霊がなんなのかを…
そしてワレも…
生ける少女の決断の刻が迫る
「ユイの、ユイのそんなすがたを見るのは、もういやだ!」
その言霊に応え、ワレは…ワレは生ける少女の左腕を、
死せる少女の縁と共に断ち切った。
生ける少女の左手を断ち切ったその瞬間。
「!!!!!!」
そうだ、思い出した・・・
何故ワレが少女の親友への想い、そこからくる強い意志。それに惹かれたのかを。
遥かな昔、ワレが縁結びと縁切りを司る神として祀られるようになってから。
人間がワレの姿として想像した形は、ハサミだった。
その頃は今のような姿ではなく、握りハサミと言われるものの姿だった。
それから人間の「こうだろう」、「こうだったらいい」という想像力の変化に伴い、
ワレも姿形を変え、今のような姿になった。
もし、最初に断ち切るモノとして想像した形が小刀であったなら、
今のワレは太刀か、身近な刃物である包丁のような姿になっていたやも知れぬ。
・・・今、そのようなことを考えても詮無きことか。
ワレが、モノを切る姿で想像されてしまったため、願掛けに来るものは縁切りばかりであった。
縁結びの神としても祀っておきながらおかしなものである。
ワレは、縁結びという役目を果たせず、ワレという存在について疑問視し始めていた。
そんなある日、
「おい」
突然声をかけられた。
ワレは何事かと思った。ワレを視認できる者が?視認してなお話しかける者が?
それはいったいどのような人間なのだ?驚愕し振り向いた先にいたのは人間ではなかった。
人間のような人型のモノを組み合わせ、蜘蛛のような形状をした異形の姿であった。
「なにモノ?」
そう問うと、
「オレは、オマエだよ」
「???」
ワレは意味が分からず困惑する。するとソレはこう続けた
「オレは、オマエが縁結びの神としても祀られていながらも縁結びの願掛けはなく、
自分の存在を疑問視し始めている。縁結びについてどうしたらいいか分からなくなってしまった。
そう思い悩んでいるうちに、縁結びの力が分かれてオレが生まれたという訳だ」
「では、その姿は?」
ワレも、容姿では他のモノをとやかく言えた姿形をしている訳ではないが、
その姿はあまりにも歪に思える。
「力が分かれオレという存在はまだ形がなかった。形がないのは不便だろうと、どういった姿がいいか考えた。
そこで蜘蛛が糸を紡いで作る巣は縁を結ぶことにも通じて縁起がいいかと思ってな」
「なるほど、だが本来の蜘蛛の姿と似ても似つかないのは?」
「人間は紡がれた巣はキレイと思っても、それを紡いだ蜘蛛自体は嫌いらしい。
そこで、同じ人間に似た形を使って蜘蛛を形作れば、人間もそんなには嫌悪感を抱かないんじゃないかと」
「ほう…」
しかし、ワレもソレも人間のことをきちんと理解していた訳ではなく、
それで上手く行くと考えてしまった。
まさか、その姿の方が蜘蛛の形より嫌悪感を抱かれるとは夢にも思わずに。
「このままオマエの近くにいても、医者の隣に葬儀屋がいるようなモンだから、
オレは山にでも行くことにする」
そう言って、ソレは山へと向かって行った。
去っていく後姿を見送りながら、これで、ワレが縁結びについて思い悩む必要はなくなる。
縁結びについてはアレが上手くやってくれると信じよう。そう思っていた。
アレが蜘蛛のような姿をとったことにより、後々の悲劇を暗示しているとは気付かずに。
ん?あの時、アレは数歩進んだあと振り返り、何か言わなかったか?
『もし、オレが○×■※△……』
そうだ、確かにアレは何かを…あともう一息で思い出せそうなのに思い出せぬ。
それが、この長きに渡る悲劇を終わらせる鍵となるはずなのだが。
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腕と共に断ち切られた糸が、所在無げに蠢く。もはやすがるべき縁を断ち切られてしまったため、
掴もうとしても掴めない。死せる少女の姿は薄れ、やがて消えていった・・・。
しかし、妄執から解放されたが少女は彼岸へ渡らず、生ける少女への想いから未だ此岸へと留まっていた。
ただ純粋に親友を想う気持ちから。そして、最期のひと時を過ごすために。
死せる少女の魂は、生ける少女を支え山を下る。
やがて山道の入口が見えてくる。
そこには「おかえり」を言う役目を担った茶色い毛並みの子犬がいる。
しかし、おかえりを言う相手はもはやこの世ならざる者、
子犬はそのことを本能で理解した。
理解してはいるが、まだまだ子犬である。姿が見えた時から駆け寄って甘えたい。撫でてもらいたい。そんな気持ちでいっぱいであることは、ぶんぶん振っているしっぽからも見て取れる。子犬にとって彼女は、黒い毛並みの子犬と共に自分を拾ってくれた。育ててくれた大好きな人間。
いや、それ以上に子犬にとっては母親のような存在。
そんな相手だから、別れが近付いていることを悟りながらもお別れを言うことなんてできない。その一心で、気丈にも、この、小さな体に有り余る大きな勇気を持った子犬は、
子犬は・・・母親、ユイの目を見つめ、
「アンッ!」
おかえり。と一声鳴いた。
そんな子犬を見て静かに微笑んだあと
「チャコ、あたしのかわりにハルのことをよろしくね」
「ハル、ごめんね。さびしかったよね、こわかったよね。それでも、あたしのこと、探してくれてありがとう。友達でいてくれて、いっしょにいてくれて、ほんとうにありがとう」
そう言って 繋いでいた
その手を 離した・・・
ワレはそれを見届けた時、思い出すことのできなかった最後の欠片がとうとう埋まったことに気付く。そうだったか・・・。アレのいた洞窟へ行かなくては。
もうすぐ夜が明ける・・・
2019/11/15 改行修正。上手くいったかな?
2019/11/30 サブタイの話数を二桁に合わせて半角スペースを挿入。※9話まで修正。
2020/01/22 なんと2行目にいきなり誤字あったじゃん。