完夜廻もしくは深夜廻らない   作:トロリスト

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今回は、コトワリ様、はじめてのおでかけ。です。

神社のある山や町と出雲以外の場所へ、しかも私用で。


第19話 おでかけ

~翌日~

 

「では、行って来る」

 

「いってらっしゃい!」

 

クロが元気よく送り出す。

 

「あ、あの、行って、らっしゃい…」

 

チャコはクロの後ろに隠れて顔をちょっとだけ覗かせながらなんとか送り出す。

 

(さて、行くか…)

 

コトワリ様が一体どこへ行こうとしているのかと言うと…

最近クロのおかげで少しだけ社交的になったコトワリ様。

近隣で自分の棲んでいる山にいない生き物がいる山、その山を管轄している神に渡りをつけ、

許可を貰ってその山に出かけようとしているのだ。

 

自分の山にいなくて他の山に住んでいる生き物とは…

 

ズバリ、熊!

 

昔はこの山にもいたのだが、体が大きいせいで夜に徘徊する輩の目についてしまい、

絶滅する前にこの山から逃げ出し、今はいなくなってしまった。

 

さて、目的の生き物が『熊』ということは判明した。

コトワリ様は一体なにをしようというのか?

 

別に熊肉を採取してクロとチャコに熊鍋にでもして振る舞おうというのではない。

第一クロとチャコは何かを食べる必要がない。

町の子供たちが注意深くなり、クロとチャコのやることが無くなったとしたら?

もしそうなっても生計を立てられるよう熊の生態を観察して熊犬に仕込もうとしている。

訳でもない。犬だし、霊体だし、生計もなにもないし。

 

ではいったいなにか?

 

それでは、これからのコトワリ様の行動を観察してみることにしよう。

 

軽く説明しておくと、コトワリ様も一応、日本古来かどうかはともかく日本の『神』である。

なので、10月になると出雲の集会に出席している。

近隣の山というのは、そこで知り合った神が管轄している山である。

以前、自分を見失っていた頃はそんな事もすっかり忘れ、あっちへふわふわ、こっちでジャキン!と、バラバラ三昧だったのだが、自分を取り戻してからは毎年出席するようにしている。

しかし他の神と知り合いになり、了解を得てその神域へ出かける。

そんな社交的になれたのも全てクロのおかげである。

 

さて、話を戻し、そんなこんなで(どんなだ?)近隣の山へやって来たコトワリ様。

知り合いの神へ挨拶しに行く。一応目的を聞いているのでニヤニヤしていた。

そしてコトワリ様は挨拶もそうそうに切り上げて熊を探し始める。

 

暫くして。

 

(いた!)

 

コトワリ様は熊に近づき

 

「ちょっといいか?」

 

声をかける。振り向いた熊はコトワリ様の姿を見、恐怖して一目散に逃げてしまう。

 

「………」

 

それから数頭に声をかけるも、悉く逃げられてしまい、結局目的は達成できなかった。

 

コトワリ様はこの山の神へ礼を言いに行き、目的が達成できなかったので帰ることを告げた。

それを聞いてこの山の神はゲラゲラ笑っていた。

それを見たコトワリ様は憮然としていたが、目的が達成できなかったことに意気消沈して自分の神社へ帰って行った…。

 

 

~~~ 完 ~~~

 

 

 

ではなく、先般『行動を観察してみよう』と言っていたのですが、

目的が達成されなかったので説明が必要になってしまいました。

 

結局、コトワリ様が何をしようとしていたのかと言うと、クロとチャコに撫でてアピールされたはいいが、今まで『撫でる』という行動をしたことが無い上に、自分の手でクロやチャコを撫でようとしても潰してしまいかねない。どうしたものかと悩んだ結果。

自分の手の大きさにある程度見合い、撫でたとしてもそうそう壊れはしないであろう大きい生き物は?で、熊を思い付いたのである。

そして熊をクロとチャコを撫でる練習台にしようとしていたのだが、結果はご覧の通り惨憺たる有様である。

 

(ただ、ちょこっと撫でる練習をさせて貰えれば良かったのだが、皆ワレを見るなり逃げてしまった…。これで力加減が分かればクロとチャコを撫でることも可能かと思ったのだが。しかしあ奴め、あそこまで笑うこともなかろうに)

 

夕方になりコトワリ様が帰ってきた。

ちょうど、クロも町のパトロールから帰ってきて山道から顔を覗かせているところだった。

コトワリ様の留守中、チャコはまだ祠からあまり離れて行動できないため、なにもないと暇でしょうがないと思い、クロはチャコへ、もし神社にお参りに来た人がいたら人数を数えておいて。

とお願いして1匹でパトロールに出かけたのだ。

コトワリ様が細工をしていく。とは言っていたけど、何人くらい来たかが分かった方がいいかな?というクロの心遣いである。

 

「チャコ、ただいま!あれ?どうしたの?」

 

ほんの少し前に帰って来たコトワリ様、あまりにも意気消沈していたため、持っているハサミも硬さを感じられず、クロやチャコの肉球パンチでもヘシ折れそうである。(流石にそれは無理だが)

それ以上に厄介だったのは、意気消沈していたせいでチャコが初めて会った時のような、

暗いというかドス黒いというか近寄り難い気配をしていたため、チャコは祠の陰から覗いてビクビクしている。

 

今日も何事もなくて良かった。という感じで満足げな顔をしてパトロールから帰ってきたクロの『ただいま』が聞こえるなり、

 

「あ、クロ!おかえりなさい!」

 

チャコは一目散にクロに駆け寄って、体をピッタリとくっつけ寄り添う。

尻尾も丸まって後ろ足の間に入っている状態である。

 

「もう、どうしちゃったの?」

 

クロはチャコのただならぬ怯え具合に毛繕いをして落ち着かせようとしている。

 

「あの、クロ、コトワリ様が…」

 

「え?」

 

チャコの示す方を見るとコトワリ様が帰ってきていつものように浮いているのが見える。

しかしただならぬ気配を発しているのを見て、チャコがどうして怯えているかを理解した。

理解したのだがそんなことはおかまいなしにガン無視でいつものように明るく。

 

「あ、コトワリさまも帰ってたんだ。おかえりなさい!」

 

(ちょっと、クロ…!)

 

「お?ああ、クロか、ただいま」

 

そうやってクロが明るく話しかけ、それに返事をしたコトワリ様。

すると、ふわぁっと明るい気配が広がり、さっきまでの黒い気配を振り払ったのである。クロ自身、自分では気付いていないが、その底抜けの明るさと純粋さは、まるで闇を払うお日様のよう。夏のギラギラした日差しではなく、春のポカポカしたひなたぼっこするのに気持ちのいい暖かさだった。

クロ自体は『煤のようにまっ黒で、モノクロの世界でも何も変わって見えない』と、

ユイに言わしめるほどまっ黒な体毛なのに…。

 

(え?なに?クロ、なにしたの?)

 

チャコは何が起こったのか正確なことは分からないが、

ただ、クロが話しかけたことによって何かが変わったことだけは分かった。

 

(クロ~、すご~い。もう大好き)

 

さっきまで怖くてクロにへばり付いていたのだが、クロのおかげでチャコの恐怖心も吹っ飛び、クロに体をスリスリしている。

やはり、自分の選んだ雄犬(おとこ)は違う!と、改めて惚れ直した、チャコなのでした。(て、なんで急にきょうのわんこ…)

 

 

クロの明るさによって黒い気配は払拭したが、悲しく落ち込んだ気分だけは残っていた。

 

「どうしちゃったの?コトワリさま」

 

「ん?ああ、いや、なんでもない」

 

「何でもなくないでしょ?チャコ、すごくこわがってたよ」

 

「すまぬ…」

 

ふと、コトワリ様の歯切れの悪さにそれとなく察するチャコ。

 

「あ、そうだ、わたし、ちょっとお散歩してくるわ」

 

「え?じゃあ、ボクも」

 

「いいのいいの、たまには一匹(ひとり)でお散歩してみたいの」

 

「う~ん、チャコがそう言うんなら…。でも、あまりとおくに行っちゃダメだからね」

 

「大丈夫よ。じゃあ、行ってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

 

お散歩に出かけたチャコの後姿を見つめるコトワリ様とクロ。

ハルと一緒に引っ越した先にはあまり自然がなかったのか、目に映るもの全てが珍しいらしく、

あっちへチョコチョコ、こっちへチャコチャコしながら歩いている。

以前、この山にはハルに連れられて何度か来ているはずだが、

ハルと一緒の時はハルに危険はないかと警戒していて周りは見ていたが、のんびりと風景を楽しむようなことはなかった。

まだ子犬だったので、チョウチョにからかわれれば、わふわふ反応してしまってはいたが…。

やがてチャコが森の中に入りお尻も見えなくなると、コトワリ様が重たい口を開いて話し始めた。

 

「クロ、ヌシと同じでチャコも素晴らしくいい子だな」

 

「いまごろ気付いたの?なんといってもボクがつがいになりたかった雌犬(おんなのこ)だからね」

 

コトワリ様もクロも気付いている。チャコが急にお散歩に行くと言い出したのは、

コトワリ様がクロに話したそうにしていたので、席を外してくれたのだ。

 

「ふぅ、クロよ、今日出かけた用事とはな…」

 

「あ、いいよ、話したくないなら別に」

 

「いや、ヌシには話しておきたいのだ。せっかくチャコがそのことを察して席を外してくれたのだ」

 

「チャコには話せない?」

 

「話せることは話せるのだが、ちょっとな…恥ずかしいと言うか何と言うか…」

 

「ふ~ん。なに?」

 

「実はな、ヌシにもチャコにも『撫でて欲しい』と言われて、この山にはいない動物を探しに近くの山へ行っていたのだ」

 

「ボクたちを撫でるのと、この山にいない動物をさがすのに何か、かんけいがあるの?」

 

「今まで『撫でる』ということをしたことがないのでな。力加減が分からぬ。それにワレの手ではヌシらを潰しかねない。それでな、練習しようとワレの手の大きさに見合った動物を探しに行ったのだ」

 

「その動物って?」

 

「………」

 

「ねぇ?」

 

「…熊だ」

 

「ク、クマァッ?!…て、なに?」

 

幼くして亡くなってしまったので、犬と人間、そしてコトワリ様くらいしか知っている生き物がいないクロ。

最近はこの山に住む動植物についてはコトワリ様から教わってなんとなく知ってはいるが、この山にいない動物となるとさっぱりわからない。

 

「そうか、熊を知らぬか。そうだな、体長が6尺から7尺くらいで…」

 

「しゃく?」

 

「あ~、1尺は10寸くらいでな…」

 

「すん?」

 

(むぅ、人間や犬などの物の数え方はなんとなく教えているので理解し始めているが、長さの単位までは気が回らなかった。さて、どうするか?)

 

問題は『長さの単位を知らない』だけじゃなくて、他にも根本的に何かがずれているのだが、

世事に疎いコトワリ様にそこまで気付いて貰うのは流石に酷というものだろう。

 

(ふ~む)

 

なにかちょうどいいものはないかキョロキョロ見回す。

 

(お!いいものがあった)

 

「クロ、あれを見るのだ」

 

「なに?」

 

コトワリ様がビシッと指差す方を見ると、神社の屋根がある。

 

「コトワリさまのおうちのやね?」

 

「そうだ。この屋根の下辺りが、熊が後ろ足で立ち上がった高さと同じくらいだ」

 

「ふ~ん」

 

と言って、たったかたーと屋根の下まで走って行き、ひょいっと後ろ足で立ち上がり。

 

「どう?」

 

「いや、どう?も何も明らかに自分の方が小さいであろう?いったいどうしたのだ?」

 

「ん?なんとなく」

 

(ワレが落ち込んでいるのを見て和ませようとしてくれているのやも知れぬ。まったくこの子犬は…)

 

「では、なんとなく大きさは分かったな?」

 

「ふんふん、あのくらいの大きさかぁ、なんかよくわからないけど大きいってことだけは分かった」

 

と言いながら、テシッテシッと前足で地面を叩き、絵を描いて説明して!と催促している。

 

「すまぬ、生き物を描くのはちょっと難しい…」

 

「むぅ…」

 

(実物を見せてやりたいが、もしクロに反応して襲いかかってきたとしたら?ワレが反撃しようとした場合に巻き込む危険がある。

それに、他の神の管轄の山でそこの生き物を傷つけるということはしたくない。

いや、もしかしたらクロの性格であれば熊とも仲良くなれるかも知れぬ…が、危険は冒したくない。まてよ?今のクロであれば普通の生き物では傷つけられないから襲われたとしても大丈夫…

いやいや、いくら傷つくことがないにしても、あの子に怖い思いをさせる訳には…)

 

コトワリ様、長考モード突入!

 

「ちょっと!!!」

 

「ぇんぁ?」

 

びっくりして思わず変な声を出すコトワリ様。

 

「もう、おはなしのとちゅうでかんがえこまないでよ」

 

「まあ、その、なんだ、そのくらい大きい生き物である熊であれば、ワレの手でも『撫でる』ということをしても大丈夫では?と思い、練習させて貰おうかと思ったのだが…」

 

さらりと長考モードに突入したことを流すコトワリ様。

 

「だが?」

 

「………。皆、ワレの姿を見るなり、一目散に逃げてしまったのだ…」

 

「ぷっ、ぷっくくく、あはっあはははははは…」

 

クロは地面に転がってのた打ち回って笑っている。

 

「クロ、そこまで笑わなくても…」

 

「くっ、ははっはっ、ハァハァハァ…」

息も絶え絶えに何とか起き上がるクロ。いわゆる、ツボにはまった。というやつである。

 

「ご、ごめんなさい。でも、おかしくって…あははははは」

 

「………」

 

「あの、コトワリさまありがとう。ボクたちが撫でてって言ったからやろうとしてくれたんだよね?ごめんなさい。わらったりして」

 

「いや、もういいのだ。ヌシが楽しそうに笑っている姿を見てどうでもよくなった」

 

これは嫌味でもなんでもなく、本心から出た言葉である。クロの天真爛漫さは周りにいる者を楽しい気持ちにさせてくれる。

 

「でも、ボクをつれてってくれたら仲良くなれたかもだよ?」

 

「それはさっき考えたのだが、気性の荒い者も多いからヌシを怖がらせてもいかぬと思ってな」

 

「チャコじゃないんだからだいじょうぶだよ」

 

「あたしがどうかしたの?」

 

「うわっ!」

 

「…っ!」

 

いつの間にか帰ってきて後ろに回り込んでいたチャコにクロとコトワリ様は飛び上がるくらいびっくりした。

 

「チャコ、おかえり。クロ、話を聞いてくれてありがとう」

 

コトワリ様はそう言うと、さっさと自分の神社に向かって行ってしまった。まあ、バツが悪くなったのでそそくさと逃げた。というのが正解である。

しかし、この事とその後の一連のクロとチャコのやり取りは、コトワリ様にある野望を抱かせたのであった。

 

「あ、そうだ!コトワリ様」

 

と言ってチャコが神社の裏手に走って行き、今日参拝に来た人間の数を数えた印を見に行く。

一応、数は数えられるが数字は書けない。なので、人間が参拝にくる度に前足で線を1本書いて印をつけておいたのである。

 

「どうした?」

 

「え~と、いち、にい、さん…今日神社に来た人は5人です」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「あの、クロが、コトワリ様がおでかけする時に後で分かるようにしておく。と言ってたけど、何人来たか分かるといいかも?と言っていたので、クロとコトワリ様がおでかけしている間に来た人間の数を数えていたんです」

 

「そうか。それは助かる。チャコ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「ではな」

 

多少機嫌は治ったみたいだが、いつ攻撃に転じてくるか分からない。コトワリ様は今度こそ!と、そそくさと逃げ…ゲフッゲフッ、神社へ帰って行った。

 

「え?コトワリさまずるい!って、あ、そうだ、チャコ、おかえり」

 

「はい、ただいま。で?あたしが…なに?」

 

最後の『なに?』は地の底から響くようなドスが効いている。

やはり成犬(おとな)を経験しているだけあって、こういう時のチャコの言葉には凄みがある。子犬のままであるクロには太刀打ちできようもない。

正直、コトワリ様に初めて会った時より恐怖を感じている。まあ、あの時は恐怖より怒りの方が先立っていたのだが。

 

「え?あ?あの~、その~、コトワリさまのようじにボクをつれていこうかと思ったらしいんだけど…」

 

「…それで?」

 

(チャコこわい…)

「チョットこわい思いをするかも?て言われたから、チャコじゃないからだいじょうぶだよ。ははは…て。あの、ごめん」

 

シュンとして頭をうな垂れるクロ。

 

「ふ~ん…」

 

「だって、ほら、チャコってば初めてハルちゃんに会ったとき、知らないにんげんこわい!って逃げちゃったくらいこわがりだったじゃない。だから、こわい思いするようなのはボクのやくめかなぁ?って」

 

「まあ、そういうことにしておくわ」

 

(ほっ、よかったぁ…。それにしてもコトワリさま、なんだかどんどんおもしろくなってきてるような気がするなぁ…)

 

(まったくクロはいつまで経っても…でもまあ『怖い思いするのはボクの役目』とか、少しだけ格好いいこと言ったから許してあげますか)




いや~、だいぶ暴走しましたね。コトワリ様。(暴走してるのは私の頭か…)
この行動がたった2匹の子犬のために。なんですから。

文中のチャコがお散歩に行こうとしている時の「あっちへチョコチョコ、こっちへチャコチャコ」というのは、我ながら可愛い表現できたかも?と、自画自賛しているのですが、どうでしょう?

そろそろクロとチャコの像が建てられる頃になってきます。
その頃からクロが、言動は子供のままなのにだんだんと成長していきます。

2019/12/16 脱字を発見したので修正。
やはり調子こいて連投すると、こういうの多いなぁ。
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