今回は、珍しく頑張るコトワリ様と、身悶えするクロとチャコ。です。
像が建てられたのち、暫くは物珍しさもあり見にやって来る人が増え、像を撫でられる度にクロとチャコが不意打ちを食らって、「わふっ」とか「うわぅ!」とか言って軽く飛び上がる事が度々あった。
日が経つにつれ徐々に参拝客もまばらになり、そんな出来事も落ち着き始めたころ、ハルが両親を連れて訪れる。
クロとチャコはそろそろ町のパトロールに行こうかな?と思い始めていたが、何やら懐かしい気配が近づいてくるの感じて「なんだろう?」と思っていた矢先。
ハルがこちらに向かって歩いているのを発見する。
「あ、チャコ。ハルちゃんが…き」
「ハルちゃぁぁぁん!」
クロが言い終わる前にチャコはハルに向かって飛び出して行ってしまった。マンガやアニメであれば砂煙が出る表現をされそうな程の勢いである。
「もう、チャコったら」
といいつつ自分も大喜びでハルの元へ駆け寄り、2匹してハルの周りをグルグル走り回り「ハルちゃん!ハルちゃん!」と、大騒ぎである。
「あのね、ハルちゃん。わたし、今クロと一緒にいるの。もう会えないと思っていたのに会えたの!それにね、クロったら中身は子供のままなのに、なんだか凄く格好よくなってるの!わたし、死んじゃってもうハルちゃんの傍にいることも撫でて貰うこともできなくなっちゃったけど、クロと一緒にいられてすごく幸せなの!だから、ハルちゃん。わたしのことでもう悲しい顔はしないでね」
チャコもハルに聞こえないことは分かっている。分かっているが、そう報告せずにはいられなかった。しかも興奮しているせいで本音がダダ漏れである。
それを聞いたクロはちょっとだけ恥ずかしかったけど、チャコが「幸せ」と言って嬉しそうにしているのを見て自分も嬉しくなった。
クロはハルを見て興奮していて最初は気付かなかったが、よく見るとハルは2人の人間と一緒に歩いているように見える。その2人が誰だか分らなかったのでチャコに尋ねる。
「ねえチャコ?ハルちゃんといっしょにいるひとはだあれ?」
「え?あの2人?」
ここにきてチャコは、クロがいることも忘れ興奮して本音を口走ってしまったことに思い至り恥ずかしさで逃げ出しそうになってしまう。
人間であるなら顔が真っ赤になってゆでダコのようになっている。もしくは顔から火が出る。そんな状態である。もし、そのせいで毛の色が変わってしまうのなら、「チャコ」から「アカコ」になってしまったことだろう。
「え?えぇっ?!クロ、いたの?!」
「いたの?って、ひどいよチャコ…」
思わず本音を口走ってしまい、その上クロに聞かれてしまったチャコ。
「あの、ごめんなさい。久しぶりにハルちゃん見て嬉しくなっちゃって。で、あの…さっき言ってたことなんだけど…」
「なにか言ってたっけ?」
「もうっ!何度も言わせないでよ」
「ん?」
こと恋愛感情については疎いクロ。先ほどのチャコの発言についても「自分と一緒にいて楽しい」位にしか受け止められていない。チャコがなんでそんなに慌てているのか理解できず首をかしげるばかりである。
「ほら、クロと一緒にいられて幸せってやつ」
「ああ、あれ。ボクもチャコといっしょでしあわせだよ」
「クロ…」
チャコが感激して甘えようと擦り寄るが、さらっと躱し(たようにチャコには見えた)同じ質問を繰り返す。
「ねえ、あの2人はだれなんだろう?チャコ しってる?」
(もう、なんなのよクロったら!)
チャコにしてみれば肩すかしされて焦らされているようにしか思えない。
クロにしてみれば先ほどの会話は「一緒にいて楽しいね」、「そうだね」程度の認識である。
噛み合っているようで噛み合っていない2匹。この2匹の恋の行方は…。
***とか書くと本当に恋愛小説みたいなノリで行かなければならなくなるので程々にします***
「もう…、あの2人は、ハルちゃんのお父さんとお母さん!」
「そっか、ハルちゃんのお父さんとお母さんなんだ。ありがとうチャコ。でも、なにおこってるの?」
「怒ってない!」
チャコもクロに悪意が無いことは分かっているから尚更じれったい。
とりあえずチャコはこのままクロを責めても埒が明かないと判断し、ハルへと意識を向ける。
「あ、いつものおじさんがハルちゃんのお父さんの手をもってぶんぶんふってる。あれ、たのしそうだね?」
「う、うん」
チャコはハルのことが気になるため、クロに話しかけられても上の空でハルのことをずっと目で追っている。
「どうしたの?」
「え?なに?何か言った?」
「もう、チャコ、いったいどうしちゃったの?」
「うん、なんかハルちゃん嬉しそうだなって」
見ると、ハルと両親がちょうどコトワリ様の神社へお参りしているところである。
(クロとチャコのことお願いします)とハルが。
(娘に良縁を…そして、もし来世があるのならユイちゃんへの良縁を…)と両親が。
(何故うちの娘が?そうなる前にどうにかならなかったのか?)と母親が。
3人の祈りを受け、コトワリ様はそれぞれに、その想いに報いようと心に誓ったのであった。
(ハルよ、クロとチャコは心配せずとも元気でいる。安心するがよい。まあクロは元気過ぎるがな…)
(ハルへの良縁か。しかと承った!と言いたいところだが…)
コトワリ様は意識を集中してハルに繋がる縁を見る。ハルと繋がっている良縁悪縁含め、様々な縁が見て取れる。
(これは、となりにいる両親との縁だな。ふむ。今の所ハルに妙な影響を及ぼしそうな悪縁はないな)
そして、全力で集中してなんとか見えるほどのか細い縁。
(ユイとの縁。なんとか保てているか…)
安堵するコトワリ様。そして…
なにやら最近結ばれたであろう真新しい縁を見つける。
(ん?この縁は…?ほう、あ奴とか。ふむ、成程。しかし一体いつ?…ん~、おそらくは、先般、チャコの遺骨を託した帰りか。何やらあの男が車を呼んでいてそれに乗って帰って行ったとクロが言っていたからな。その時であろう)
コトワリ様はハルに繋がる良縁を見て取る。
(成程、これであれば…)
コトワリ様は縁結びと縁切りの神である訳だが、願われるままになんでもかんでも切ったり繋いだりする訳ではない。悪縁であったとしても、そのことが良縁を呼び込むことに繋がることもある。できれば切りたくないのが本音だ。
良縁を切る。それについては特に切りたくはない。本当に心からの絆といった縁は、切るためには生贄(左手)が必要だからだ。
縁を結ぶ。これについては本当に注意しなければならない。
片一方の願いを真に受けて結んだとしても、相手からは悪縁とみなされてしまう場合もあるからだ。それは、男が女に対して一方的に…。という事例が多い。
それに、お互いに良縁となるものであっても、その縁に影響して周りの人間に悪縁をもたらすことも稀にある。
なので、コトワリ様は縁結びについてはとても慎重に結んでいる。
縁結びの願いに来る者は、大概相手と知り合いである。つまり、良縁悪縁はともかく既に縁自体は結ばれているのである。
縁があるからこそ出会っている。そういうものである。
それに対し良縁と認められれば、その結びつきを強くする。というのが一般的に「縁結び」と言われ行っていることだ。
ただし、時々本当に何もないところの縁を願うものがいる。
「かわいい嫁さんが欲しい」とか「有名人の誰それに会いたい」とかがそれに該当する。
これにはコトワリ様も相当苦労している。
ユイとハルのように一度は断ち切られた縁。それを再び結ぶ。
他の縁結びの神に聞いたとしても満場一致で「結んでよい」となるに違いない事例は極々稀なのだ。
(両親ともにハルだけでなくユイのことまでも。ハルとユイ。2人が再びまみえることができたなら。その時は必ずや…!)
(御母堂よ…ワレが至らぬばかりに娘御に辛い思いをさせてしまった。これについては何の申し開きもできぬ。
あのような事は二度と起こらぬ。起こらせぬ。大人であればよいという訳でないが、娘御のような年端のいかぬ幼子らがあのような辛い目に遭う事があってはならぬのだ。
その事を、被害者となってしまった娘御ら、彼の者に唆され命を失った者、それにより悲しむ事となった者達すべての御霊に誓おう。
娘御とその親友。そして愛犬たちの功績により、ワレは再び元に戻ることができた。
神である故、あまり個人へ肩入れする訳にもいかぬのだが、娘御の行末(さき)に幸多からんことを)
(そして御両親よ…安心召されるがよい。ハルにはさる男との良縁の兆しがある。後は両人次第ではあるのだが、その縁が結実するよう、必要であればワレも微々たるものではあるが助力は惜しまぬ)
神であるコトワリ様が人間に対して敬語に当たる『御母堂』などの言い方をするのはやや不自然である。しかしコトワリ様は使った。そのことからも、力が分かれてから起こり始めた悲劇。そのことに対しての自責の念。
それに終止符を打ったハルと親友のユイ。そしてクロとチャコ。その者たちに対して感謝の念に絶えない。
そんなコトワリ様の強い気持ちが窺い知れる。
コトワリ様が珍しく神様らしくしているなか、クロとチャコは自分らの像の近くにいてハルたちを待ち受けていた。
「あ、おまいりおわったみたいだよ?こっちにあるいてくる」
「………」
チャコはさっきからソワソワし通しである。約半年ほど前までは一緒に暮していて自分をモフッてくれていた人たちなのだ。そうなってしまうのも仕方がない。
そしてハルと両親が像のそばまでやってくる。
「クロ…、チャコ…」
名前を呼びながらハルが像をそっと撫でる。
「わふっ」
「うわぅン」
像を撫でられた時に自分らも撫でられた感覚があること。だいぶ慣れてきたはずなのだがハルに撫でられるのはまた格別らしい。
クロとチャコはあまりの気持ちよさにひっくり返ってお腹を見せてクネクネしている。「犬たらし」スキルの面目躍如と言ったところか。
コトワリ様はと言うと、そんなクロとチャコの様を見、自分もあの子たちをモフッてあんなふうにしてみたいなぁ。と、先ほどの威厳はどこへやら。羨ましそうにしていた。
「…子供たちを見守ってあげてね」
「!!!」
ハルの言葉になんとか我に返りガバッと起き上がり居住まいを正したのち、つまりビシッとお座り体制になり堂々とした声で。
「まかせて!」
「がんばるわ!」
続いて両親も口々にお礼を言う。
チャコは…
「お父さん、お母さん。わたし、もうハルちゃんのそばにいて守ってあげられないから。お願いします」
「それと、ハルちゃん…。ごめんなさい。ハルちゃんに近寄ってきた人間を全部追っ払っちゃって。ホントに、ごめんなさい…」
子犬の頃であればハルは年上なのだが、人間より犬の方が歳が進むのが早い。年齢を重ねハルとの歳が逆転してからは自分の娘のように思っていたチャコ。
実際のところ人間年齢に換算すればハルの両親よりも年上になっているのだが、「お父さん」、「お母さん」というのは感覚的に別らしい。
「チャコ…」
クロはチャコに近付きそっと寄り添う。
チャコはこのあと甘えに行こうとしていたので、想定とは違ったけど(もっと毛繕いとかして欲しかった)クロから来てくれて感激している。
(クロ…)
このままいい雰囲気になってしまうのか?という所でやはり…
「あ、チャコ!クッキー!ユイちゃんにたべさせてもらったあのクッキーだよ!」
(もう…また?)
見るとハルがさかなの形をしたペット用クッキーをお供えしている。
元町長に話しかけられ振り向いてクッキーの説明をしている隙に、自分らは何かを食べる必要がないことも忘れてクロがクッキーに飛びつく。
(はぐっ、もぐもぐもぐ…ゴクンッ)
(あれ?!たべられた…なんで?まあいいや)
「チャコ!チャコのぶんもあるみたいだからたべなよ!」
振り向いてそう言った時には、いつの間に駆け寄ったのか既にチャコもクッキーをモグモグしていた。
「ねえチャコ?」
「なあに?」
久しぶりに食べたのでご満悦の様子である。
「ボクたち、たべなくていいのにたべられたよね?」
「あら?そういえば…」
「どうしてなんだろう?」
2匹とも久しぶりのクッキーに我を忘れて飛びついてしまったため、何が起こったかさっぱり理解できない。
クロとチャコが不思議に思い首をかしげている間にクッキーについての説明が終わり、ハルは両親を伴い「あの木」へと向かう。クロとチャコも後をついていく。
元町長は用事が終わったらハルの両親と話をするため小屋へ行き準備をしようと振り返る。振り返った際に祠が視界に入る。
(おや?)
何か違和感を感じた。何が違うんだろう?と注意深く目を凝らしてみると、クッキーが無くなっている!
(霊というのは香食といって香りを食べるものと聞いていたが…。ああ、あれは仏教の話か。ここは神社とそれにまつわる祠であるから神道なのでそういった違いが…
いやいやいや、仏教の霊は香りしか食べられず、神道の霊は食べ物そのものを食べられる。そんな違いがあってたまるか。それに、食べたと思われるのは犬の霊だぞ?そんな宗教観に囚われる訳がない)
頭の中に盛大に疑問符を浮かべているが、取り急ぎ来客の準備があるということと、クロとチャコが喜んでくれたのだろう。ということに満足し、あとで再考の余地はあるが今のところは来客の準備だ!と、その場を後にした。
『あの木』の傍らにて、ハルが今日は両親と一緒に来た旨、報告している。両親は「娘はいったい何をしているんだ?」となっていたが、
ハルから聞いたユイの話を思い出し、ユイに何が起きたかに思い至り悲しい顔をする。
クロとチャコはハルの足元に寄り添い、何も言わずハルの顔を見上げていた。
その後、ハルの両親は小屋で元町長と話をするために行ってしまったが、ハルはその場に留まり黄昏刻に近付く景色を眺めていたためクロとチャコは思う存分ハルの足元にじゃれついていた。
小一時間ほどして話の終わった両親が小屋から出てくる。ハルはそれに合流し元町長に挨拶をしたのち、ハル一家は帰っていった。
帰る前にもう一度クロとチャコの像を撫で、「わふっ」とか「うわぅン」と言わせ、クロとチャコはその余韻に浸っていた。
珍しくだいぶコトワリ様頑張りましたね。というよりもクロとチャコと話をしている以外はちゃんとやってるんですよ。というお話です。
私としても久し振りに小難しい文を考えて少々疲れました。