完夜廻もしくは深夜廻らない   作:トロリスト

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今回は、母親(ユイ)を彼岸まで見送り帰ってきたクロとチャコ。そして結婚を神社に報告しにきたハル。その時クロは…。です。


第24話 おめでとう

コトワリ様が話しているのを遮り、クロが元気よく、

 

「まかせといて!じゃあ、いってきます!」

 

チャコも

 

「行ってまいります」

 

そう言い、1人と2犬という種族を超えた親子は、コトワリ様にペコリとおじぎをし、段々と姿が薄くなり、そして完全に消えた…。

 

残されたコトワリ様。

 

「クロ、ヌシは…、本当にそれでよいのか?そのまま母親とチャコと一緒に彼岸に渡ってくれてもよいのだぞ?」

 

そう呟くと、自分の神社へとふわふわ帰って行った。心なしかその後ろ姿は、寂しそうだった。

 

そうなのである。一応は祠から離れて行動するというので小さなハサミ型のチャーム付首輪を贈ったが、実の所クロとチャコも彼岸へ渡って欲しい。というのが本心である。

今していることにやりがいを見出しているようだが、いずれ疲れてしまうのではないか?そうなった時に悲しい別れをするくらいなら、大好きな母親と一緒に渡ってしまった方があの子たちのためだろう。そう思っていた。

しかし、2匹にメロメロなコトワリ様。あの2匹なしではどうしたらいいか分からなくなっている程に存在が大きくなっている。

クロとチャコがユイを見送りに行って数日。祠の前でなにやらブツブツ言っている。

 

「まったく、ワレが一緒に彼岸へ渡れと言おうとしたのに気付き、それを遮ってまで『いってきます』と言ったのに、帰って来ぬではないか」

 

「今までずっと1神(ひとり)でいたから問題はないはずなのだが、あの子たちが来る前、ワレは一体どうやって過ごしていたのか思い出せぬ」

 

「クロ…、チャコ…」

 

人間であればがっくりと肩を落としため息をついているような状態のコトワリ様。そこへ…

 

「ただいま!」

 

「ただいま帰りました」

 

クロとチャコが帰ってきた。

 

「あれ?どうしたの?なんかブツブツ言ってたけど?」

 

(!!!、聞かれてしまった?!)

 

「ねえ?コトワリ様?」

 

「ん、んん?なんだ?」

 

「おかえりは?」

 

「???」

 

「ちょっとクロ」

 

「ボクたち帰ってきたんだよ?」

 

やっと動揺から立ち直りなんとか

 

「あ、ああ、おかえり。クロ、チャコ」

 

「ボクたちいなくてさびしかった?」

 

「そ、そんなことはない!」

 

「あやしいなぁ?」

 

(これは間違いなくさっきの独り言を聞かれているな…)

 

「ん?何故、母上と彼岸に渡らなかったのだ?ワレはそうせよと言って…」

 

聞かれたと分かっていても、強がって虚勢を張るしかないコトワリ様。

 

「そんなの、ボクきいてないもん」

 

「それはヌシがワレがそう言おうとした所にかぶせて『いってきます』と言ったからだ」

 

もうヤケになって言い訳しているコトワリ様。

 

「あの、そんなに意地にならなくても…」

 

普段はクロがからかっていると窘める役に回るチャコまでもクロと一緒に追い打ちをかけてくる。

 

「そうそう、コトワリさまが言ったように『いってきます』って言ったんだよ?『ただいま』って言わなきゃだもん」

 

「むっ…、ムムム…」

 

そう唸って目を逸らす。目がないので『目を逸らす』というのはおかしなものだが、つまり視線を外すというか意識をクロとチャコから外したような感じである。

その気配を察したクロは、トコトコ歩いて今コトワリ様が向いている方向の正面に来て見つめる。

また逸らすコトワリ様。トコトコと正面に行き見つめるクロ。また逸らすコトワリ様…。何度か繰り返しているうちにコトワリ様が疑問に思う。

 

(何故、この子は顔のないワレの意識が向いている方向をあやまたず察して正面に立てるのだ?)

 

「ねえ?クロ、なにしてるの?」

 

「ん?コトワリさまをおいつめてるの」

 

時が経つごとにどんどん強か(したたか)になっていくクロ。コトワリ様もこれ以上は無理だと観念し、

 

「ああ、分かった分かった!ヌシらがいなくて寂しくてしょうがなかった!帰ってきてくれて嬉しいぞ」

 

「よかった」

 

「土産話などあるやも知れぬが、今日はもう休め。ワレは神社に戻る」

 

と言い捨てるように言い、普段のふわふわと違い何やら小刻みに跳ねるようにしながら神社へ移動して行った。

人間と生活していた経験のあるチャコは気付いてしまった。ハルがしていたのを見たこともある。あれは、あの小刻みな跳ね方のリズムは…

 

(コトワリ様、スキップしてる…)

 

このコトワリ様のスキップをクロに話そうかどうか迷った。いや、これは自分が何かあった時にコトワリ様をからかうネタにしよう。そう心に刻んだチャコであった。

 

翌朝…

 

「ふわぁ、チャコ。よくねたねぇ」

 

「そうね。わたしたちがお母さんを見送りに行っている間に3日も経ってたなんて」

 

「そうだね」

 

そう応えたクロは少し考えて切り出す。

 

「あの、チャコ?コトワリさまも言ってたけど、チャコだけでもひがんってとこに行っても…」

 

「クロ!怒るわよ!」

 

「ごめん」

 

「じゃあ、おそとにでよう。ひさしぶりにパトロールしなきゃだ」

 

「そうね」

 

祠(おうち)の外に出るクロとチャコ。

 

「ん~、おひさまがきもちいいね~」

 

「クロ、チャコ。おはよう」

 

「わっ、びっくりした」

 

「お・は・よ・う」

 

昨日、クロとチャコが帰って来はしたが、ちょっぴり不安だったコトワリ様。日の出の後からずっと祠の前で待ち構えていたのだ。

その上、ここにクロが来た当初に言われた事をやり返すチャンスまで到来し、朝から見張ってて良かった。と思うコトワリ様であった。

 

「うん、おはよう。コトワリさま」

 

「おはようございます」

 

「うむ」

 

「して、朝からこんなことを聞くのもなんだが、彼岸への旅はどうであった?」

 

「あのね。おかあさんとたくさんおはなししたよ。ボクたちがこどもたちを助けていることとか、コトワリさまはみため怖いけどたのしいとか」

 

(そういう話ではないのだが、まあクロが楽しそうだから良しとするか)

 

ことクロとチャコに関しては考えることを放棄気味なコトワリ様。仕方なくチャコが助け舟を出す。

 

「あの、なんだか周りがずっと薄暗くて、いつ朝になったのか夜になったのか分からなかったです」

 

(良かった。チャコには通じていたか)

 

「ふむ」

 

「それで、なにか川があって。そこを渡った先が『彼岸』という場所だそうです。わたし達…いえ、わたしは最初お母さんと一緒に渡ろうと思ったりしたんですけど」

 

チラッとクロ見て。

 

「ほっとけないかなぁって。一緒に帰ってきたんです」

 

チャコにその決心をさせた一番の要因は、見送りに行く直前にクロが見せた『ウインク』である。

そんなものを見せられたチャコは「もう、この雄犬(ひと)と離れられない」とばかりにときめいてしまったのだ。

そんなことなものだから、戻ってきてからのチャコは「ねえ、クロぉ、クロってばぁ」とか言って後をつけ回して更に積極的に甘えようとしていた。

 

しかし!

 

真実というものは残酷である。クロは別にウインクをした訳ではなかったのだ。

その時クロが次に何をしていたかを思い出してみよう。クロは目をつぶりコトワリ様から伝えられた彼岸への行き方をシミュレーションしていた。

つまり、次の行動を取るために目を閉じようとしたタイミングでたまたまチャコが話しかけたので、両目を同時に閉じるのではなく、片目から閉じただけなのだ。

この事は、私と読者の皆様の心の内に秘めておき、絶対にチャコには知られないようにして頂きたい。

真実を知ったチャコがどうなるか。考えるだに恐ろしい…。

 

話を戻そう。コトワリ様は彼岸については行き方などは知っている(神様の嗜みみたいなもの?)が、実際に行ったことはなかったため、チャコに色々聞けて大いに知的好奇心を満たした。

クロは分かっているのかいないのか、合間合間に途中こうだった。おかあさんとこんな話をした。チャコがどこそこで躓いて転びそうになった。など、少々ズレた話をしていた。

 

ユイ(母)を見送るという大役を担ったあと特になにかが変わるということもなく、クロはのほほんと天真爛漫に。チャコはそんなクロを窘めたり、たまに甘えたり(たまに?)。クロと一緒にコトワリ様をからかったりと、楽しく過ごしていた。

コトワリ様は人間の願いを聴き縁を結んだり、時には切ったり。空いた時間にクロたちにからかわれたり、クロをやり込めようとして失敗してやり返されたり。そんな毎日である。

そうやって時は過ぎ、半年ほど経った頃、ハルの結婚式が執り行われた。

 

お互いにこの町出身であり、親類も町のことはそれとなく知っている。安全になったとは言えまだまだ定着していない。

そのため、式と披露宴は昼間の内に行われ、2次会もなく日が沈む前にはお開きとなった。

 

そして黄昏刻…

めでたく夫婦となったハルと元町長の孫の2人。そして両親および祖父母という近親者のみで、コトワリ様の神社へ報告しに来た。

事故により左手を失ってしまったハル。そんなハルの花嫁姿を心から待ち望んでいた祖母は、数年前に他界していた。

この、ハルの幸せな姿をどれほど見たかったことか。

 

「わあ、あれ、ハルちゃんだよね?」

 

「うん。キレイだわぁ」

 

コトワリ様にしっかりと挨拶しようと夫は紋付き袴。ハルも白無垢姿で神社の前に立っている。

 

「これが、けっこんしきってやつ?」

 

コトワリ様に尋ねる。

 

「ん?式は他の場所で行って来たようだ。今は、結婚の報告をワレにしてくれているらしい。嬉しいことだ」

 

「そうなんだ…」

 

「あっ!」

 

「クロ、どうしたの?急に大きな声を出して」

 

「けっこんか。そうだけっこん!」

 

更によく分からないことを言い出したクロ。どうしたらいいか分からないチャコ。答えあぐねているとクロは神社に向かって走り出し、

 

「チャコ、こっち来て!ボクたちも『けっこん』しよう!」

 

「えぇっ?!」と、チャコ。

 

「なに?!」と、コトワリ様。

 

「ホラ、はやく!」

 

そう言って神社の前まで走ってハル夫婦の隣に行く。

チャコはどうしたらいいか分からず固まっている。

 

「チャコよ、クロはああ言っておるぞ。ヌシの気持ちはどうなのだ?」

 

「わたしの、気持ち…」

 

(わたしは…うん!)

 

「クロォォォッ!」

 

クロの名前を呼び追いかけて行く。

 

コトワリ様も、おそらく呼ばれるであろう。と、神社へ向かって移動し始める。

 

「クロ!」

 

と、体当たりするようにクロへ体を寄せるチャコ。

 

「チャコ…」

 

チャコを見つめるクロ。そこへコトワリ様が2匹の前にやってくる。

 

「コトワリさま来た!コトワリさま、かみさまなんだから、ボクたちをけっこんさせて?」

 

いまいちよく分かっていないクロ。

 

「別に結婚というのはワレがさせるものではないぞ?」

 

「そうなの?」

 

と、チャコを見る。

何も考えずに思いつきで言い出したのがバレバレである。思い付きとは言え、チャコはそんなクロの気持ちを嬉しく思い、そしてそんなクロだからこそ愛した。

 

「えっと、ハルちゃんから結婚について少し聞いたことあるけど、コトワリ様が言ったように神様がさせる訳じゃないけど、神様の前で夫婦になることを誓うみたいよ?」

 

「だって」

 

何かを期待するようにコトワリ様を見つめるクロ。

 

(何故ワレに振るのだ…。ワレとてこの神社の前で婚姻の儀を行おうとする者は今まで一人として、いや一組としておらなんだのだ。どうしたらいいのやら…)

 

どうしたらいいか分からずに困っているコトワリ様。その時、チャコが言った『神様の前で誓う』という言葉になんとなくこうしたらいいか?というのを思いつく。

 

「ふむ。仕方ない(他ならぬクロとチャコのためだ)。なんとかやってみるか」

 

「汝、クロ」

 

「うん」

 

「こういう時くらいちゃんと『はい』って返事なさい」

 

チャコが小声で注意する。

 

「ごめん」

 

クロも小声で謝る。そして大きな声で。

 

「はい!」

 

「汝、チャコ」

 

「はい」

 

「汝ら2匹は我、縁結びの神たる理の前にて夫婦として、添い遂げることを誓うか?」

 

クロはどう答えていいか分からず小声でチャコに、

「チャコ、どうへんじしたらいいのかな?」

「誓うか?と聞かれているから『誓います』でいいと思うわ」

「ちかうって?」

「えっと」なんとかクロに分かるように翻訳しようとする。

「夫婦になって一緒にいることを約束できるか?って聞いているのよ」

「なんだ、そういうことか」

 

「どうなのだ?誓えぬのか?」

 

「あわわわわ…、えっと、はい。ちかいます!」

 

「わたしも、誓います」

 

「では…」

(さて、この先どうするか…?おお、そうだ!)

 

「以前、汝らに贈った首輪。それはある意味縁結びの象徴である。2匹のそれを重ねるがよい」

 

「かさねる?」

 

「首輪と首輪をくっつけろ。ってことじゃないかしら?」

 

「ん~と、よいしょ…むずかしいなぁ。ねえコトワリさま?どうやったらいい?」

 

「そんなもの、ヌシらのやりやすいようにやればよかろう?」

 

思わず素に戻るコトワリ様。

 

チャコはポメラニアンと思われる犬種なため割と毛深…ではなく毛がフサフサしている。そのせいもあって上手くいかず難儀している。

それでもチャコに頭を下に下げて貰い、自分が首をやや上に向けて乗せることでなんとか首輪同士をくっつける事に成功する。

 

「できた!」

 

「うむ。これにて汝ら2匹は夫婦とあいなった。仲睦まじく過ごせるよう、我も祝福するものである」

 

いつものいじられキャラ的な感じではなく、なんとなく厳かな雰囲気を感じているクロ。流石にそのままおうむ返しにコトワリ様へ「どういう意味?」とは聞けず、チャコにこっそり聞いてみる。

 

「コトワリさま、なんて言ったの?」

「え…っと、夫婦になったわたしたちが仲良く過ごせるようにって。それで、コトワリ様もおめでとう。って」

「ふんふん。なんかむずかしい言い方するからよくわかんなかったよ。チャコ、ありがとう」

「いえいえ」

 

「クロ、わたし幸せよ」

 

「うん。ボクもだよ…あ!」

 

「どうしたの?」

 

「チャコ、まえにハルちゃんがきたときにおなじはなししたけど、チャコがなんでおこってるのかわからなかった」

 

「うん」

 

「いま、チャコがなんでおこったかわかったの。ごめんね。チャコ」

 

「もう、いいのよ」

 

寄り添う2匹。コトワリ様はそんな2匹を見て、この子たちのこんな幸せな姿が見られたのだ。

無理矢理にでも彼岸に渡らせなくて良かった。など、少々不謹慎なことを考えていた。

 

結婚できたことの喜びを報告し、お礼を言いに来たハル。

その隣で行われたクロとチャコの小さな小さな結婚式。

それを知っているのは、新郎新婦のクロとチャコ。立ち会ったコトワリ様。

そしていつ間にか日が沈み、姿を見せたお月さまとまたたくお星さま。

季節は、もうすぐ秋。2人と2匹の結婚を祝福するように、虫たちが思い思いに音楽を奏でていた。




いや~、ハルの話の時にも式の後に神社へ挨拶に来る所を書こうと思ったのですが、
クロとチャコの結婚を引き立たせるためにこっちへ持ってきちゃいました。
こちらの話に組み込んだ分、セリフとかもなく説明文が少し。になってしまいましたが…。

なんか、ちょうどいい長さ(自分にとって)で1話できてしまったので投稿しときます。
あれ?ホントは3話くらい下書きをためてから少しずつ。って考えていたような…。
ま、いいか。

ごめんなさい。投稿直後、ラストにクロとチャコの会話をちょっと追加して修正。
書こうとしていたのに一瞬記憶から飛んで、その間に投稿しちゃいました。
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