完夜廻もしくは深夜廻らない   作:トロリスト

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今回は、第1子誕生のハル、クロとチャコにちょっとヤキモチ。そしてクロとチャコは・・・。です。


第26話 いのちをつなぐ

クロとチャコの祈りが届いたのか、暫くしてハルに待望の第1子が産まれる。

そして、退院したハルがまず第一にやったことは、子供を連れて夫と共に神社へ挨拶に来ることだった。

 

「あ、ハルちゃんきた!あかちゃんだっこしてる!」

 

「ホントだ。可愛いわねぇ」

 

クロとチャコは嬉しそうに目を細めている。隣ではコトワリ様も表情は分からないがとても嬉しそうな気配を発している。

 

(ワレが至らなかったばかりに辛い子供時代を過ごす事になってしまった。これからの幸いと共に、赤子がつつがなく過ごせるようワレからも祝福するものである)

 

ハルが結婚し子を成した事を万感の想いで見つめるコトワリ様。ふと下を見るとクロとチャコの目に涙が滲んでいる。

コトワリ様もいつぞやに感じた身震いするような感覚に見舞われていた。

 

(これもまた『嬉しいときに涙を流す』という時なのであろうな)

 

1神と2匹は思い思いにハルへ心からの祝辞を送るのであった。

 

「ハルちゃんにこどもがうまれたってことは、この町のこどもってことだから、ボクたちにあたらしいこどもができたってことだね」

 

なかなか飛躍した理論ではあるが、『町の子供たちは自分たちの子供たち』と考えている2匹にはいわば当たり前の共通認識となっていた。

 

「そうね・・・」

 

そう言ってクロに寄り添うチャコ。ハルに子供が産まれたことを喜んではいるが、その背中はどこか寂しそうでもあった。

 

ハルが神社へ挨拶に来てから数日後、クロは子供が産まれたのに何故ハルは家の前を掃除したりこっち(神社)に遊びに来てくれないのか不思議でしょうがなかった。

 

「もう、クロったら。そんなにすぐに色々と動けるわけないでしょ?」

 

「そうなの?」

 

「そうよ。出産で体も疲れているだろうし、赤ちゃんはいつ泣き出すか分からないからそばにいなきゃならないし。お母さんは大変なのよ」

 

「そうなんだ・・・、だったら!ボクたちがいけばいいんだ」

 

「え・・・?」

 

「うんうん、そうしよう。だってボクたちにんげんには見えないし、おうちのかべとかもとおれちゃうからかんけいないし」

 

「でも、勝手に人の家に入るのは・・・」

 

「だいじょうぶだよ。しらないにんげんのおうちじゃないんだし、いたずらしにいくわけじゃないんだから」

 

「う~ん、でも・・・」

 

ハルの子供を間近に見たいという気持ちと他人の家に勝手に入るのはどうなのか?という考えで揺れ動いているチャコ。

 

「じゃあ、ボクだけでいってくるね。チャコはおるすばんしてて」

 

「ちょっと、待ちなさいよ」

 

「じゃあ、いくの?」

 

「うん。行くわ・・・」

 

どうしようか迷っていたチャコだったが、やっぱりハルの子供を間近に見たいという欲求が勝ってしまった。それと、クロ1匹(ひとり)で行かせるのはそこはかとなく不安だった。

 

「あ、コトワリさまはどうする?」

 

「ん?ワレか?ワレはここにいる。2匹だけで行って来なさい」

 

「ホントにいいの?きっとかわいいよ?」

 

「赤子というのは勘が鋭いからな。ワレの気配を察して泣き出してしまうかも知れぬ」

 

「べつにこわいかんじはしてないよ?」

 

「赤子というものは両親以外の者になかなか心を許さないこともある上に、大きい生き物を怖がる傾向にあるからな。特に親よりも大きいとまず泣き出してしまうであろう。ヌシらであれば赤子と同じかそれより小さいので馴染むのも早いのではないかな?」

 

「そっかぁ。じゃあ、ざんねんだけどチャコと2匹(ふたり)だけでみてくるね」

 

「ああ、行って来なさい」

 

「はい。行ってきます」

 

正直、コトワリ様は目で物を見ていないので見た目で『可愛い』、『可愛くない』は理解できない。一緒に見に行ったとしてクロに『かわいいね?』と言われても何と答えて良いかわからない。しかし、最近は色々と分かってきたので、あの小さくて儚げな命。あれを可愛いと言うのであればきっとそうなのであろう。なんとなくそう思っていた。

そんな考えのコトワリ様を置いて、クロとチャコは喜び勇んでハルの住んでいる家まで走った。そして・・・

 

「ねえ、チャコ?ほんとにはいってだいじょうぶかな?」

 

「なに言ってんの。自分が大丈夫って言ったんじゃない」

 

こういう時、土壇場になると男の方が度胸がない。

 

「うん。そう、そうだよね」

 

クロにしてみれば町を走る道や神社の周りであれば『ナワバリ』として認識しているのでどこへ行くにも平気なのだが、人間の家の中。となると『ナワバリ外』として認識してしまうため躊躇ってしまう。しかもクロは人間の家に入った経験もない。そこへ行くとチャコはハルに引き取られ人間の中で暮らしていたのである。チャコ自身も初めての家。ということを除けば人間の家にはいることは別段苦にならない。土壇場で尻込みしているクロを置いて自分だけ入ってしまおうとした。

 

「そうだ、チャコまって」

 

「なによ?臆病な子はそこでずっと待っててくれていいのよ?」

 

しょっちゅう『怖がり怖がり』言われているので、ちょっとした意趣返しである。

 

「ちがうよ。そうじゃなくて、おうちにはいるときはなんてあいさつしたらいいの?」

 

「挨拶?あ、そうね」

 

チャコはハルと一緒に暮らしていた時、家に誰かが訪ねてきたときのことを思い出そうとする。

 

「え~っと、『おじゃまします』だったわ」

 

「ありがとうチャコ。よし、じゃあ、おじゃまします!」

 

そう言ってトコトコと玄関をすり抜けて入って行ってしまった。

 

「ちょっと、待ってよクロ!」

 

慌てて後を追いかける。

 

「へぇ、にんげんのおうちのなかってこうなってるんだぁ」

 

初めて人間の家の中に入ったクロ。好奇心旺盛なだけに当初の目的を忘れて物珍しげにキョロキョロしている。

 

「こら、クロ。ハルちゃんの赤ちゃんを見に行くんでしょ?」

 

「そうだった!どっちだろう?」

 

クロとチャコは顔を少し上げてクンクンと匂いを嗅ぐ。

 

(チャコはハルちゃんはあかちゃんのそばにいるって言ってたから、ハルちゃんをさがせばいいよね?)

 

(クロには偉そうなこと言ったけど、やっぱり知らないおうちは緊張するなぁ)

 

(!!!)

 

「チャコ!」

「クロ!」

 

同時にハルを嗅ぎ当てたらしい。

 

「あっちみたい。いこう!」

 

「うん!」

 

ハルの元へまっしぐらに走る2匹。隔てる壁もなんのその。である。

 

「いた!」

 

見ると、赤ちゃんはお昼寝の時間なのか布団に寝かされてスヤスヤと寝息を立てている。その隣には、少しだけ育児疲れが顔に滲んでいるが、幸せそうな表情で寝ているハルがいた。

 

「赤ちゃん、お昼寝してるわね。隣でハルちゃんも寝てる」

 

「やっほ~、クロだよ~」

 

見ると、チャコに移動した気配を感じさせずに素早く移動したクロ。赤ちゃんの枕元に立って顔を覗き込んでいる。

 

「ちょっとクロ!お昼寝してるんだから静かにしないと」

 

「でも、みえないし、きこえないんだよ?」

 

「それでもよ。前にわたしたちの像を建てて貰っている時にコトワリ様が言ってたじゃない?勘のいい人間には気付かれちゃうかも?って」

 

「そういえばそうだったね。うん。もし気になっておこしちゃったらいけないよね。おひるねじゃまされるのってイヤだもんね。じゃあ」

 

と言って、赤ちゃんの顔に自分の顔を近付け、親愛の印にスリスリする。

チャコもいつの間にか近くにきてクロを羨ましそうに見ている。

 

「クロ、次わたし」

 

そう言ってチャコも顔にスリスリする。

 

「お昼寝中だったから今日はこれで帰りましょ?」

 

「そうだね」

 

また遊びに来るね。2匹はそう言って初めて見る人間の赤ちゃんに少し興奮しながら帰って行った。ちゃんと家を出る時に『おじゃましました』と言うことも忘れなかった。

それからというもの毎日のようにクロとチャコはハルの子供の様子を見に行った。

起きている時は何やらこっちに反応を示しているようなそぶりさえあった。

 

「コトワリ様が赤ちゃんは勘が鋭いって言ってらしたけど、わたしたちのこと気付いているのかも知れないわね」

 

「たぶんそうだよ。ボクのことつかまえようとしてるときあるもん」

 

「え?ちょっとずるい」

 

クロとチャコは赤ちゃんにメロメロである。そうやってハル両親とクロとチャコの愛情を受け、すくすくと育つ赤ちゃん。

赤ちゃんの成長過程において両親にとても大切なことが起こった日。つまり、初めて赤ちゃんがなにか言葉を話した日のことである。

 

ハル夫婦は赤ちゃんが何か話しそうな気配を見せているので、固唾を呑んで何を言うのか耳を澄ませた。お互いに、お父さんに違いない。お母さんに違いない。そう思っていることはありありと顔に出ている。

 

「わ、わ・・・」

 

「わ?なあに?」

 

ハルが何を言うのか促そうと聞き返す。

 

「わ、わんわん!」

 

「?!」

 

何故?たしかに外へ散歩に出かけた時に犬を見かければ「ほら~、わんわんだよ~」と話しかけたことは数回ある。

しかし、そんな初めてしゃべる単語に選ばれるほど印象深かっただろうか?

まさか・・・?ハルは、あることに思い当たった・・・

 

翌日、早速ハルは赤ちゃんを連れて祠までやって来た。

さかなの形のペット用クッキーをお供えしてから話し出す。クロとチャコは久し振りのハルからのクッキーなので、目の前でクッキーが無くなったら驚いてしまうだろうということも考えられず、飛びついてモグモグし始めようとするが、

 

「クロ、チャコ。あなたたち、姿が見えないのをいいことに、うちによく来ていない?」

 

(!!!)

 

クロとチャコは動きが固まり、スローモーションで油の切れたロボットのようにギ・・・ギ・・・ギ・・・という感じでハルを振り返る。

 

「ど、どうしよう?ハルちゃんおこってる?」

 

「でも、怒ってたらクッキーくれないと思うの」

 

「そうだよね?なにがあったんだろう?」

 

「この子がこの前初めてしゃべったの。だけど、しゃべった言葉が『わんわん』だったんだけど、もしかしてあなたたち、私が見ていない時に遊んでくれてたりするのかな?」

 

「あ、あの、ハルちゃん?ホント、あそんでるだけだから。いじわるとかしてないよ?」

 

「ハルちゃん。あの、赤ちゃんが可愛くて、その・・・」

 

2匹ともハルに聞こえてはいないが大慌てで言い訳をしている。

 

「もう・・・『おかあさん』って言ってくれるかと思ったら『わんわん』なんだもん。でも、気にかけて遊んでくれてありがとうね。きっとわんちゃん好きな子になると思うよ」

 

「よかった。おこってるんじゃなかった・・・」

 

「うちの子が大きくなったら、町の子供たちとおなじように見守ってあげてね」

 

「うん!まかせて!」

 

「わたしも頑張るから!」

 

ハルは、亡くなってからもうだいぶ経っているにもかかわらず、変わらず自分のことを気にかけてくれている2匹に感謝と、そして少しの申し訳なさ、隠し味に今回のことでのヤキモチを少々込めて像を撫でる。

 

「わふぅン」

 

「うわぅン」

 

久し振りのハルからの撫で撫でである。クロとチャコがのた打ち回って余韻に浸っている間にハルは帰ってしまっていた。

ハルが帰ってから我に返ったクロとチャコ。最近ハルの赤ちゃんの様子を見に行くことにかまけてパトロールが少々疎かになっていることに気付き、顔を見合わせて反省する。

 

「チャコ。ハルちゃんのあかちゃん。かわいいからたくさんあそびたいけど、パトロールちゃんとしなくちゃだよね」

 

「そうね。わたしも少し調子に乗っちゃってたわ」

 

そこで、こういうふうに自分らがちゃんとしていないというのはあってはならないのだが、クロとチャコの2匹だけではどうしても町を見回る時に隙間ができてしまうことを前々から気にしていたクロ。少し前から考えていたことを話し出す。

 

「あのね、チャコ」

 

「なあに?」

 

「いまみたいにハルちゃんのあかちゃんとあそんでばっかりになってあまりみてないのはよくないけど、ボクたち2ひきだとみられないとこがあるよね?」

 

「うん。1匹ずつ別れて別々のとこを見回っていても、どうしても見えない所が出てきちゃうし、そこで子供たちが事故に遭ったりしたらどうしよう?って、わたしも考えてた」

 

「だからね。ほかの犬にてつだってもらうのはどうかな?ってかんがえたの」

 

「手伝って貰う?」

 

「うん。にんげんのところにいる犬に、おさんぽしているときとかになにかあったらくびわにつながっているヒモをひっぱってしらせてもらう。とか」

 

「なかなかいい考えね」

 

「でしょ?いっしょにいるだいすきなにんげんをたすけるためなんだからやってくれるよね?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「どうしたの?」

 

チャコは知っている。人間に飼われている犬が全て『飼い主のことが大好き』という訳ではないことを。

 

クロは幼いうちに亡くなっている。知っている人間と言えばユイとハルだけである。しかもその2人共に自分を可愛がってくれた。

そのため、人間イコール優しい。という考えになってしまっている。それに、他の生き物からの悪意というものに晒された事もない。唯一の相手はハルを守るために戦ったアイツだけ。

だからクロには他の生き物に対しての先入観や偏見が一切ない。悪意を持って接してくる相手がいるなんて思い付きもしない。コトワリ様の見た目がアレなのに、心の優しさを察してすぐに仲良くなれたのはそういうことなのである。見た目アレなのに。

それはクロの最大の長所なのだが、致命的な短所ともなり得る危うさもある。

 

「ん?なんでもない。じゃあ、明日から始める?」

 

「うん!よ~し、がんばるぞぉ」

 

クロは明日からのやることに対して希望を胸に。チャコはその事でクロが傷つくことになるかも知れないという一抹の不安を胸に。2匹は眠りについた。

 

翌日。

少し興奮していたクロは夜明けと共に目を覚まし、1匹で神社の周りをひとっ走りしてくるほど元気に溢れていた。ひとっ走りしたあとおうちに戻り、まだお寝坊さんのチャコを前足で優しくクイックイッと押して起こす。

 

「ふわぁ、クロおはよう」

 

「うん。おはよう。きょうは何匹くらいとおはなしできるかな?」

 

「まずはパトロールしながら探してみましょ」

 

「そうだね」

 

それからクロとチャコはパトロールの合間に庭先で繋がれている犬や、お散歩中に公園で遊んでいる犬を見かけては声をかけた。

穏やかな気風の町に住む人間に飼われているためか、穏やかな気性の犬が多く、また、犬達も主人が危ないときに守ってあげたいけどどうしたらいいか分からなかった。という犬(もの)もおり、

クロとチャコの提案に対しての反応は良好だった。

 

しかし、どこにでも気性の荒い犬(もの)というのは存在する。チャコを連れているのを見て。

 

「おうおう、かわいい雌犬(の)連れてんじゃねぇか?あぁン?」

 

とか言う輩もいるにはいるが、クロは何やら因縁をつけられているとは露ほども思わずに、

 

「かわいいだって。よかったね?チャコ」

 

とか、

 

「いいでしょう?ボクのおよめさんなんだよ」

 

とか、あっけらかんと答えるものだから、大抵の犬は毒気を抜かれてクロの話に耳を傾けてくれるのであった。

しかし、そんなことにも怯まずにチャコに向かってちょっかいを出そうとする犬も極稀にいるのだが、そんな不届きな犬はチャコにちょっかいを出そうとしたことをすぐさま後悔することになる。

そうやってチャコへちょっかいを出そうとした瞬間。怒気と言うより殺気に近い感情を込めてクロが一声吠える。

そうするとその不届きな犬はすかさずひっくり返りお腹を見せてクロに服従するのだった。

 

それもそのはず。見た目や言葉遣いは子供のままだが、犬として普通に生きていたとしたらかなりの高齢である。

その上、ハルを守るために自分より遥かに体が大きく、神という存在にすら臆することなく立ち向かった経験の持ち主である。

そんなクロの怒気に当てられては普通の犬などひとたまりもない。

チャコはそういったクロの潜在的な強さを知っている。そして、見た目が子犬のままのクロに従おうとしない犬(もの)が少なからずいるであろう事も分かっていた。

なので、クロの話に耳を傾けず難癖をつけてくるような聞き分けのない雄犬(輩)には、“わざと”怖がって怯える“ふり”をしてクロの影に隠れようとするのだ。

そうすれば間違いなく自分に向かってちょっかいを出そうとしてくるので、そこをクロの怒気を含んだ一声でガツン!である。

チャコにしてもあの夜を越えた猛者である。元来臆病な性格と言えども、そんじょそこらの犬には負けない肝っ玉の持ち主だ。そのくらいの演技はお手の物である。

そして、クロをこの町に住む犬。その群れのリーダーとして認めさせようとしていたのだ。

 

クロは、そんなチャコの想いを察した。だがそのまま言えば自分のために頑張ってくれているチャコを傷つけてしまう。

 

「そんなにこわかったらボクだけでおはなしに行くから、チャコはまっててくれていいよ?」

 

「大丈夫よ。だってわたしはクロの妻なんですもの。そばにいないと」

 

そう言って必ずクロが交渉に行くときは着いていき、気性の荒い相手の時には怯えた“ふり”をするのだった。

そんな時クロは、昔チャコがハルのために!と、近付く人間を追っ払い、自分のためにそんなに頑張らなくていいと悲しそうな顔をしていたハル。

そのハルと同じ悲しそうな顔をしていたのだが、相手は変われど昔と同じように、旦那(クロ)のために!と気張っていたチャコはそのことになかなか気付けなかった。

 

そうやって、クロとチャコは頑張って犬達に守り方などを教えていった結果。

この町に住む犬は警察犬や盲導犬に素晴らしい適正を持つ。と評判になったりもしたが、それはまた別の話である。

 

また、以前は犬の間でも山に行くのはご法度。的なことになっていたため、犬でありながらこの町を救うきっかけとなった勇敢な犬(もの)がいる。という話は犬の間でも広まっていた。

そのため、あの夜の頃にいた犬。そして次の世代はその話を聞いて育っている。新たに町に引越してきたりその後に飼われ始めて話を知らない犬を除き、クロとチャコの存在はこの町の犬族にも英雄視されていた。

しかし、見た目が子犬なため、実力を推し量る。という意味も込めて“わざと”チャコへちょっかいを出そうとしていた犬(もの)もいたことは、クロもチャコも知らない。

クロは元より、いくら人間の間で暮らしていた経験もあり、他の犬との交流もあったとは言えチャコもそこまでは考えが及ばなかった。

 

ちなみに、雌犬はクロの愛らしさと『子供を守る』という母性本能に訴えかける話なので、二つ返事で了承してくれた。

しかしそうやって他の雌犬と仲良く話をした後はチャコがしばらくご機嫌斜めになるのだが、クロにはなぜだか理解できなかった。

 

コトワリ様はその話を聞き、子犬(こども)子犬(こども)と思っていたが、まさかそうやって犬達を組織立ったものにするまでになるとは思いもよらず、驚嘆するばかりである。

 

「ほんとうは、あの、ネコだっけ?そのこたちにもおてつだいしてもらいたかったんだけど・・・」

 

と、ボヤいていることがあったので、チャコは

 

「犬と猫はだいたい仲が悪いから難しいと思うわよ?」

 

「そうなんだよねぇ。ボクがはなしかけるといっつも『フシャーッ!』ておこるんだよ?ちょっとこわい・・・」

 

クロには動物間同士の仲の良し悪しも与り知らぬことなので、純粋に不思議で仕方がなかったらしい。稀に、おおらかな性格だったり、小さいときから一緒だったりすれば犬と猫でも仲のいいのはいるものだが、この町では見かけなかった。

 

(わたしにちょっかいを出そうとした相手を一声で服従させるほどの実力の持ち主が何を言っているのかしら?)

 

チャコは内心ほくそ笑んでいた。

 

「まあ、今は仲間の犬達でどうにかなってるんだから、また猫の手も借りたい時ができたら考えればいいわよ」

 

「そうだね。でもなぁ、なんでなかよくできないのかなぁ・・・」

 

クロは不思議で仕方がなかった。

 

クロとチャコは子供たちの見守りをお願いした犬達に任せっきりにして自分らは祠(おうち)の近くでイチャイチャしている。ということはなく、自分らも精力的にパトロールに出かけた。

時には、飼い犬ですら気付かない飼い主家族の体調不良に気付き、おうちの誰それの体調が悪いみたいだからその人がお散歩に連れて行ってくれる時は、遊びたくてもあまり急に走ったりしないで気を付けてあげてね。など、アドバイスをすることもあった。

動物は人間よりも体内時計がしっかりしているため、割と毎日同じ時間に同じ行動を取ったりするものである。だが、猫ほどではないが動物と言うものは結構気まぐれである。

パトロールに出かけることも必ず毎日。ではなく『きょうはおやすみ』と行かない時もままあるのだが、そこまでの厳格さをクロとチャコに求めるのは酷というものであろう。

しかし、クロとチャコは『そこまで』を求められるような存在になりつつあった。クロは薄っすらと気付き始めていたが、チャコは今の生活に満足していたため全く気付かなかった。

 

コトワリ様は、ただ静かに、その『時』を待っていた。




なんと言いますか、終わりが近付いてきてしまっているため、伏線の張り方がやや露骨になって来てますね。
読んでいる方の予想通りになるか、良い意味で裏切れるかは、
私次第です(当たり前だ!)。

今回のサブタイは、次話にも少しかかっています。気が向いたら覚えておいて下さい。
おかげで、次話のサブタイどうしよう?状態という不可解さ・・・。
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