第3話の冒頭を少し引用していますが、流れが少々?だいぶ?変わってしまってしまいました。
そのままコトワリ様のモノローグを引用すると今話の流れがずれていってしまいますので勘弁願います。
子供たちを助けているうちに新たな縁結びの神として生まれ変わったクロとチャコ。コトワリ様の予想通り2匹の生活は全くブレる事なく変わらない。
いつも通り、朝起きて町のパトロールに行き、帰って来て話をして、そして夜になったら寝る。そんな毎日である。
一緒にいる時にイチャイチャすることも相変わらず。である。
ただ、今までは、こう言ってはなんだが、趣味の延長上のようなものであった。それが、神となったことで『仕事』となった。その程度の変化だ。
クロにしてみても『かみさまになったからって、ボクはボクだし、チャコはチャコ』そう言って、なぜなに期の延長のままでいることも変わらない。
チャコはと言うと、クロがあまり興味がない。というか気にしていない『神になったのなら?』という話をクロの代わりにコトワリ様から聞き、クロの破天荒な行動を窘めるついでに少しずつ教え込むという苦労をしていた。
クロも、そうやってチャコに苦労をかけていることは分かっている。成長もしている。しかし、子犬の頃に亡くなったという事が影響しているのか、難しいことはなかなか理解できない。
そんなこともあってクロは、難しい話はチャコに任せて、気ままにしている。だからと言って何もかも自由奔放という訳ではなく、妻であるチャコを気遣い、可能であればコトワリ様のお手伝いをしたりと動き回っている。
それに、クロが直感で行う行動は、チャコがコトワリ様から聞いた『神としての心構え』的な話を実践するようなことだったので、下手に注意ができなかった。
しかし、クロが調子に乗るといけないので、チャコとコトワリ様は共謀し、クロへは何も言わないようにしていた。
そうそう、クロは念願の猫と友好を結び、今は猫たちにも手伝って貰えるようになっていた。縁結びの神となった事が功を奏したかは不明である。
ある日、お腹を空かせた野良の雌猫がたまたま山の上までやって来て、食べ物(お供え物のクッキー)を食べていいかどうか迷っていた所、クロに『食べていいよ』と言われ、恩を感じて町の猫たちとの仲介役をしてくれたのだ。
人間同様、猫にも『子猫嫌い』という性格のものも中にはいるが、殆どの場合、特に雌猫はお母さんになる。ということで、子供に対しては人間が相手でも『保護対象』と認識するようで、クロとチャコの『子供たちを守りたい』という考えに共感できたことも大きい。
そして、時が流れた・・・
コトワリ様は自分を取り戻してからの事を振り返ると共に、最近の事について物思いに耽っていた…
どれ程の歳月が経ったのだろう?
この町は良くも悪くも昔のままの風景が残っている町だ。口さがない連中が言うには『時代に取り残されている』そうだが…。
特に皆、信心深いという訳ではないが、ワレの神社へ散歩がてら参拝に来る。子供たちの守り神的な存在として、子犬を祀った祠もある。
ただ穏やかに時が過ぎていくので、子供を育てたり老後に暮らすにはいいらしい。
ワレも、縁結びの神としてこの町の人間には知られるようになり、縁切り以外の願掛けに来る者も少しは見かけるようになった。
とは言え、年に数回あるかないかだが…。
しかし、ワレが思うのは、ワレが自分を取り戻し、最初かつ初めて縁を結んだ少女らのこと。
彼女らの行く末は…。
「ねえ、チャコ。ボクね、気になる子がいるんだ」
それを聞いたチャコ、以前、恥ずかしさに「アカコ」になりそうになったのとは違う理由、怒りで「アカコ」になりそうなほどの怒気を込め、
「な・ん・で・すっ・てぇぇぇっ?!!!」
そんな2匹のやり取りで物思いを中断されたコトワリ様。とばっちりを喰らっては適わぬと、そそくさと神社の方へ逃げて行ってしまう。
「?なんでおこってるの?」
「わたしというものがありながら、気になる雌犬(おんな)がいるぅ?どういうことなの?!」
チャコの怒りは収まらない。普通の犬の寿命を超え、人間の寿命すらも遥かに超えた年月を共に過ごしてきた2匹、初の本気の夫婦喧嘩勃発の兆しである。
ちょっとした小競り合いなら時々あったが、本格的なものとなると初である。夫婦円満に過ごしてきた2匹にピンチが訪れるのか?
「ん?気になる子って、にんげんの子だよ?」
クロは長い歳月の中、自分の言う事が言葉足らずであったり抽象的過ぎて誤解したチャコが怒ってしまうことを理解している。でも、なんでわざわざ怒る方向に誤解するんだろう?と不思議で仕方がなかった。
そして何よりも、そうやって突然激昂する事にはもう慣れっこである。いたって冷静にというか普段どおりに話を続けようとするクロ。
「人間の子ぉぉ?って、え?人間の子?」
てっきり、他の雌犬(おんな)のことが気になると思い込んでしまっていたチャコ。人間の子と聞いて我に返る。
「そうだよ」
「どんな子なの?」
クロもチャコも気になる人間といえばユイとハル。次点で神社にいたおじさんこと元町長。くらいである。
その3人を見送った後は特に気になる人間は現れていない。チャコもさっきまでの怒りを忘れて興味津々である。
「ん~っとね、なんて言ったらいいのかなぁ?あしたのパトロールのときにせつめいするよ」
「今じゃなくて?」
「うん。みてもらったほうがはやいとおもうし、チャコがどうおもうかもききたいし。きっとチャコも気になる子だとおもうよ?」
「分かったわ。明日のパトロールを楽しみにしてるわね。じゃあ、わたし、寝る前にちょっと山のお散歩に行ってくるわ」
「うん。気をつけてね」
「は~い」
チャコは祠の下に埋葬され目を覚ましてから時々山の散策へ出かけることがある。ハルに連れられて引越した先には自然が少なかったため物珍しいのだ。それに物珍しいということは初めて見る動植物が多いということでもある。
植物や虫などを持ち帰ってはコトワリ様に「これは何て名前でどういう生態なんですか?」と質問していた。クロの何でもかんでも聞きたがる『なぜなに期』に対しての知的バージョンといった感じである。
というのは表向きで、実は、クロと一緒に山のパトロールに出た際、ツタがぶら下がっていたり、木の枝が子供の背の高さ辺りに飛び出していたりと少し危なっかしかったりする場所を発見することがある。
それを見てもクロは男の子回路が働いて「こういうのであそんだり、よけたりたまにぶつかったりするのがたのしいんだよ」とか言ってそのままにしているものを、チャコは後から1匹(ひとり)で行ってツタを咥えて引っ張ってちぎっておいたり、枝を折ったりして危険を減らしているのだ。
しかし、クロのような男の子回路全開ではないが、そういった物で遊ぶのが楽しいというのも理解できる。なので、チャコの感性で『これは本当に危険!』と思われる物以外は、少し残しておくようにもしている。
なんと言っても、もしクロに見つかって『なんで、そういうことするのぉ』と、むくれられても困るからだ。
クロとしては、ちょっと怪我をしたりした方が、何が危ないかが分かり勉強になる。という考えなのだが、上手く説明できないためチャコが少々苦労することになっているのである。
表向きはと言うが、今でも純粋に山の散策を楽しんでいる。それにプラスしてクロのために何かができることが嬉しい。とにもかくにもよくできた嫁さんである。
そして翌日
普段は割りとクロが先に起きてチャコを起こすことが多いのだが、昨日のことがあるので久し振りにチャコが先に起き、前足で優しくクイックッと押して・・・とはいかず割と激しく揺さぶってクロを起こす。
「ふえ?チャコどうしたの?」
割と激しく揺さぶられたため、何かあったのかと飛び起きるクロ。
「え?何もないわよ?」
「もう、なんかユサユサおしてきたからなにかあったとおもったよ。チャコになにもなくてよかった。あ、おはようチャコ」
「おはよう、クロ。あの、ごめんなさい。昨日の話が気になって早く起こしたかったの・・・」
自分が気になることがあったので思わず激しく起こしてしまったのに「チャコに何もなくてよかった」と、優しく気遣ってくれたクロに申し訳なくて素直に謝る。
「なんだ、そういうことか。じゃあ、おそとにでよっか?」
「うん」
祠(おうち)の外に出たクロは太陽の位置を確認している。何時何分というような時間の単位は知らないが、太陽の位置を見て今が1日の内で大体いつ位。ということを測る感覚は身についていた。
「う~ん、まだちょっとはやいかなぁ・・・」
「そうなの?」
「うん。じゃあ、そのちかくをグルッとまわってパトロールしながらいこう」
「わかったわ」
そう言って2匹はパトロールに出かけた。話した通りグルッとひと回りしてから目的の家の前に着く。
「あれ?ここって、戻ってきたハルちゃんが住んでいた家じゃ?」
「うん」
「このおうちに気になる子が?」
クロはまた太陽の位置を見ている。
「もうそろそろかな?」
クロがそう言ったあと程なく玄関が開き、「行ってきます!」という声が聞こえて家の中から女の子が出てくる。頭に大きな赤いリボンを着けた活発そうな女の子である。
「え?え?ちょ、ちょっとあれ、え?クロ、あの、えぇ?!」
大混乱で何を言っているか分からなくなっているチャコ。それを見てクロは嬉しそうにうんうんと頷いている。
「ユ、ユイちゃん?!」
「やっぱり、チャコもそうおもう?ユイちゃんだよね?」
「なんでユイちゃんが・・・?」
「よくわからないけど、『うまれかわった』ユイちゃんだとおもう」
「でもなんでハルちゃんのおうちから・・・?」
「そこまではボクもわからないよ・・・」
かつて、深い夜を廻るという数奇な運命を辿った2人の少女うちの1人、ユイ。彼女は巡り巡ってハルの家系に生まれ変わっていた。これまた数奇な巡り合わせである。
「ね?気になる子だったでしょ?」
「うん。じゃあハルちゃんはどうなんだろう?」
「えっと、コトワリさまがユイちゃんとハルちゃんの縁をまた結んだから、いつかあえるって言ってたよね?」
「うん。言ってたわ」
「その『いつか』がちかいんじゃないかとおもう。だから、ハルちゃんもきっと」
「あ、ユイちゃんがお散歩に出かけるわ」
「ちょっとついていってみよっか?」
「そうしましょう」
ユイは夏休みの日課となった町の探検という名のお散歩でテクテク歩いていく。その後を、クロとチャコはチョコチョコとチャコチャコと着いて行く。
ユイが飛んでいる紙飛行機を見つけ、小走りに追いかけて行く。クロとチャコも黙って早足になり着いて行く。
「ねえ、チャコ。あのかみひこうきっていうのから、ハルちゃんのけはいがする」
「ホントだ、あれ?でもこれ、わたしたちがよく知っているハルちゃんの気配よ?」
「ハルちゃん、ちっちゃくなって、あれにのってるのかな?」
「そんな訳ないでしょ!」
「そうだよね。でもなんでだろう?」
今、ユイが追いかけている紙飛行機。それは、ハルが亡くなる直前に夫へ託した紙飛行機(ハルの想い)である。ハルの願いを受け夫が『あの木』の傍らから飛ばした時、
クロとチャコはハルを彼岸へ見送りに行きまだ帰っていなかったため知らなかった。
紙飛行機は段々と飛ぶ力が弱くなり、ある家の前でふわりと着陸する。それを拾い、広げて書いてある手紙を読むユイ。
「ん~と、『ユイへ』…あれ?あたしと同じ名前だ
『ひっこししてから…』誰だろう?あたしのお友達でさいきんおひっこしをした子はいなかったはずだけど…
『きっとみつけるから』、『あえるってしんじてる』
あとは『てをつないであそびにいこうね』か…きっとなかよしの友達に書いた手紙なんだろうなぁ」
「あぁっ!」
声を出して手紙を所々読み上げるユイ。その断片的に聞こえる手紙の内容を聞き、誰が書いたものかを察したチャコが泣き崩れる。
「ど、どうしたのチャコ?」
「あれ、あの紙飛行機に書いてある手紙…」
「てがみ?かみひこうきじゃなくて?」
「うん。ハルちゃんがお引越しする前、この町の女の子の間で手紙を書いてその紙で紙飛行機を作って飛ばす遊びが流行ってたって話をしているのを聞いたことがあるの。それに、あの夜、飛んできたユイちゃんからの手紙を預かって守ったこともあるの」
「そうだったの?」
「うん。その手紙を読んだハルちゃん。私を抱きしめてすごく泣いてた。だからあの時の手紙にはきっと悲しいことが書いてあったんだと思う」
「じゃあ、このてがみはどうなのかな?」
「グスッ、聞こえてきた内容からすると、たぶん、ハルちゃんが亡くなる前、ユイちゃんに『また会おうね』って書いて飛ばしたものだと思う」
「え?でもそれだったらずっとまえのことだよ?あのかみひこうきはずっととんでたってこと?」
「わからない。わからないけど、ハルちゃんの想いが籠っているみたいだから、凄く長い時間が経っちゃったけどユイちゃんに届いたんだと思う」
「そっかぁ、あのかみひこうきにハルちゃんのおもいが…。だからハルちゃんのけはいをかんじたのか」
「良かった。ハルちゃんの想いがユイちゃんに届いて…」
そうこうしているうちに手紙を読み終わったユイは宝物を取り扱うように丁寧に紙を折りたたんでウサギ型のナップサックに仕舞い込み。また歩き出そうとしていた。
「あ、チャコ。ユイちゃんいっちゃうよ」
「うん。行きましょう」
「つらかったらまたあしたにする?ユイちゃんいつもこのくらいのじかんにおでかけするみたいだから」
「ううん。大丈夫よ。ありがとうクロ」
「じゃあ、いこっか」
「うん」
そして先程と同じようにユイのあとを着いて歩いていく。少しすると前の方で家の前に車が泊まって何やら荷物を運んでいる。
ユイが、塀から中をうかがい、人がいることを見て取って挨拶をしている。
「ユイちゃん。あのおうちのひととおともだちなのかな?」
「どうなんでしょう?わたしたちも近くに行ってみましょう」
クロとチャコがのぞき込むのと同時に家の中から「は~い」という声が聞こえ、パタパタと可愛らしい足音を立ててユイと同じくらいの女の子が玄関までやってくる。
クロとチャコは出てきた女の子を見て声を失った。母親らしい人物が「この子がうちのハル」と紹介する声が聞こえる。
「あ、あ、あれ…、チャコ、あの子…」
「うん」
「「ハルちゃんだ!」」
2匹が同時に叫ぶ。母親が「きっとなにかご縁があるのよ。いいから行ってらっしゃい」とハルを遊びに行ってきなさいと促す声が聞こえ、「いこっ」と言って右手を差し伸べるユイ。
そしてハルは左手を伸ばし…まるで磁石のN極とS極が引かれあうように近付き、2人の手は再び繋がれた。
「チャコ!て、手、テェッ!」
「うん。ハルちゃんとユイちゃん。手を繋いでる!」
遥かな時を経て再び繋がれた右手と左手。繋がれた瞬間。2人の手が再び繋ぐことができたことを喜んだかのように、2匹にはその繋がった手が光ったように見えた。
ハルの「お散歩しててみつけたおもしろいものはなに?」という問いに、人差し指を立てて唇に当て「ないしょ」と答えるユイ。それを見たクロとチャコ。
「なんか、あの『ないしょ』ってやるのかわいいね」
「うん」
手を繋ぎ遊びに行くため走り出す2人。クロとチャコは走り去る2人を嬉しそうに見つめる。そして、顔を見合わせ、小さくうなずいてから跳ねるように山へ走って行った。
帰り道、山を登りながらクロとチャコはある作戦を立てる。
「そうだ!このこと、コトワリさまには『ないしょ』にしよう」
「なんで?コトワリ様だって2人が手を繋げたことを知ったら喜ぶわよ?」
「だからだよ。きっとあのユイちゃんとハルちゃんはおまいりにくるとおもうから、コトワリさまをびっくりさせよう」
犬として。と言うより、地球上に生きるどの生き物よりも長く活動しているにもかかわらず、いまだにいたずらっ子のままのクロである。
「それは面白そうね。いつ気が付くかしら?」
チャコもノリノリである。
「もし、おまいりにきたユイちゃんとハルちゃんがかえるまでにきづかなかったら、ボクが『メッ』てするから」
「分かったわ」
2人の再会を目の当たりにしたチャコは普段なら止めるようなことも嬉しさのあまり『面白そう!』となってしまっている。
しかし、一応は現在神となってしまったクロである。もし、気合を入れて『メッ』した場合、なにやら衝撃波でも発生する危険性もあるのでコトワリ様には是非ともさっさと気付いて貰いたいものである。
「コトワリさま、ただいま!」
「ただいま帰りました!」
「ん?2匹(ふたり)ともどうした?何か嬉しそうだが…?」
クロとチャコは顔を見合わせてからうなずき、2匹揃って片方の前足を口元に持っていき・・・
「「ないしょ」」
(また何やら可愛らしいしぐさを覚えてきたものだ。しかし、何に対して内緒なのであろうな?)
「一体、何が内緒なのだ?」
「だから、ないしょ。だよ」
「すみません。今はちょっと言えないんです。でも、楽しみにしていて下さい」
「そうか。そこまで言うのであれば楽しみにしていよう」
それから2匹はパトロールに出るたび、ユイとハルの動向を見守った。数日後、とうとう2人が神社へ来そうな会話をしているところに出くわす。
「そうだ、ハル。わんちゃんは好き?」
「うん。好きだよ」
「じゃあさ、この町の山にある神社のとなりにわんちゃんをまつったほこらがあるの。そこに行ってみない?」
「そんなのがあるんだ。行ってみたい!」
「じゃあ、明日行こうか」
「うん!」
それを見ていたクロとチャコは大喜びである。
「やったねチャコ。あしたくるみたいだよ」
「そうね。コトワリ様、きっとびっくりするわね」
「たのしみだねぇ」
「えぇ」
翌日
クロとチャコはパトロールに出かけたが、山に向かうユイとハルを発見し、慌てて山に帰ってくる。
「ん、どうした?妙に早い帰りではないか」
クロとチャコは顔を見合わせて、最近お気に入りのしぐさで…
「「ないしょ」」
「むぅ、ここ最近いったいどうしたというのだ?」
「もうすこしだからまっててね」
「そうか…」
そんな会話から暫くして、2人の女の子が仲良さそうに手を繋ぎながら山道を登りやってくるのが見えた。
1人の女の子が石碑を読み、『理科の理だけど「りさま」じゃおかしいよね?』とか言っている。
そして縁結びと縁切りを司る。という部分を読み『あたしたちが出会えたのはコトワリ様のおかげかも?お礼を言おう』とも言っている。
(なんとも、微笑ましい2人であるな。出会えたことをワレのおかげ。か…出会えたのは2人の元々の縁のおかげだと思うが悪い気はせぬ)
コトワリ様、まだ気付かない。
「「コトワリさま」」
「ハルと…」
「ユイと…」
「「会わせてくれて ありがとうございます!」」
(な、なんと?!かの2人であったか!ワレとしたことが全く気付かなかった。あのか細く儚い縁の糸を手繰り寄せ、とうとう二人が再び手を繋ぐことが・・・
これがクロとチャコが最近そわそわしていた理由だな。特に今日は登ってくる所をみかけて慌てて帰ってきたという事か)
「次はわんちゃんだね」
(そうか、行ってやるがよい。あの2匹も喜ぶであろう)
2人は隣の祠に向かって歩いていく。
「チャコ!ユイちゃんとハルちゃんきたよ!」
「うん!」
「そうだ、クロ」
「なに?」
「わたし、あの夜に、ハルちゃんからユイちゃんとかが帰ってきた時に『おかえり』を言ってほしいから山の入り口で待ってて。って言われた話をしたじゃない?」
「うん」
「ハルちゃんとユイちゃん。2人がまた手を繋げてここに来られたから。あの時はハルちゃんにしか言えなかったけど、今度こそ2人に言えると思うの。だから…」
「わかった。『おかえり』って言うんだね?」
「うん!」
「ふ~ん、こっちの子がクロで、こっちがチャコかな?」
ユイがそう言いながら像を撫でる。
「うわぅ」
「わふぅン」
2匹は感極まってのたうち回っている。
そしてさかなの形のペット用クッキーを供えた2人に2匹が…。
「クロ」
「うん」
「「せーのっ」」
「「おかえり!」」
2匹の鳴き声が聞こえたのか、それによってなにやら遠い記憶を刺激されたのか、2人は抱擁(ぎゅっ)をして泣き出してしまう。それを見ていたコトワリ様。
「おぉ、おぉぉぉっ!良かった…、本当に良かった…。ワレは、ワレは…」
感激のあまり叫ぶコトワリ様。コトワリ様の叫び声にビックリしてクロとチャコが振り向き、更にビックリする。
「あれ?コトワリさま、なんだか…」
「クロ、いったいなにがあったの?」
「わかんない。わかんないけど・・・」
いったいコトワリ様に何が起こっているのか?
(どうしたというのだ?視界がぼやけてよく見えぬ)
(視界?ぼやける?どういうことだ?いったいなにが?)
自分の体を見回す。
(見回す?何故、見回せる?なんだ?この体の下方にある2本の棒のようなものは?それに)
手を動かすと、人間の顔に当たる位置に丸いものがある。
(これはいったい?まさか…?)
(まさか、ワレの体が『人型』になっているだと?)
多少輪郭はぼやけており、黒い靄のようなものを纏った状態ではあるが、頭があり、胴体がある。そしてそこに繋がる2本の腕と2本の脚。紛れもなく人型である。
コトワリさまは手で、人間でいうところの顔に当たる部位を触ってみる。そして、目と言われる部位の辺りから水分が出ている。
(水…?もしや、これが『涙』というものなのか?しかし何故ワレが急に人型に…?)
コトワリ様、大混乱である。しかしながら少し残った冷静さで周りを見ると、自分の背丈はだいたい平均的な成人男性と同じくらいであるようだと、とりあえずの認識をする。
そして半ば無意識にフラフラと、1歩1歩踏みしめるように泣きじゃくるユイとハルに近付いていく。それを見ていたクロとチャコ。
「コトワリさま、にんげんみたいなかたちになってるよ?」
「うん。いったい何があったのかしら?でも、これでもしかしたら…」
チャコの秘めたる欲望が首をもたげ始めた頃、コトワリ様が泣きじゃくっているユイとハルの後ろに辿り着く。そして2人の頭にそっと手を乗せる。
(嗚呼…なぜだろう?こうしているとこの2人がとても愛おしくてたまらない。これが、温かさというものなのか?そうか、こうやって相手に触れて撫でる。ということ。生き物がお互いに触れ合うのはこの温かさを感じるためであるのか。チャコが撫でて貰いたくて仕方がない。と考えるのも分かった気がする)
初めて人間に、縁を結ぶ、切るという以外で接触したコトワリ様。触れた所から伝わる温もりに感動している。
そんな感動に打ち震えているさ中、2人は泣き止みお互いの顔を見て笑っている。コトワリ様は急に泣き止んだ2人にビックリして神社の陰まで慌てて走って逃げてしまう。
そんなコトワリ様をクロが『なにやってんの?』と言うかのようにジト目で見ていた。
「いけない!もうだいぶ暗くなってきてる。はやく帰らなきゃ!なにしてるの?置いてくよぉ」
「ユイ、まってよお」
ユイのあとを追いかけ、差し出されたその手を繋ぐ。もう少女たちの繋がれた手が離れることはないだろう。
(あの時、異形と化したユイがハルを求める光景を美しいと思ったが、
やはり、生きて笑顔でいるのを見る方が遥かに良い。これだけは訂正せねばならんな)
「コトワリさま。ユイちゃんとハルちゃん。送ってくるね」
「あ、ああ、行ってくるがいい」
まだ少し動揺から立ち直り切っていないコトワリ様。2匹が送りに行くのなら少しの間1神(ひとり)になって考えを整理する時間が取れる。安堵して2匹を見送る。
見送りに行くため走り出そうとする直前にチャコが。
「帰ってきたらお願いしますね」
と、目を輝かせていた。
(あの、か細く儚い縁の糸を手繰り寄せることができて本当に良かった。ワレは、少女たちの魂に報いることができたのだろうか?これから先、少女たちの手が離れないことを、もう2度と、あのような深い夜を廻ることのないよう心から祈っている)
そう祈ったあと、自らの変化について考え始める。
(まさかワレが人型になってしまうとはな。これで、あの子らを撫でてやることができるのか)
人型になってしまった事を今の所は前向きに捉えているコトワリ様。
(しかし、いったい何故このような変化が?それに、こうやって形を変えることができるのなら今までどうして?)
(クロとチャコに撫でて貰いたいと言われ、そして再び手を繋ぐことができた2人を見て無意識に撫でたいと思ったのやも知れぬ。そんな感情の激しい昂ぶりから、何か変化を及ぼしてしまったのだろうか?)
こういう言葉で説明できないことが起こった時、人間は『原因は神のみぞ知る』と言ったりしますが、神そのものの変化なうえに本神(ほんにん)も分からないので、何が起こったか知りようがない。
(ワレが、人型か…。こうやって感情の昂ぶりからとは言え人型になれることが分かった。であれば今までの姿は何であったのであろうか…?)
今まで何の疑問も抱くことのなかった自分の姿について、人型になれたことにより考え始めるコトワリ様。
(あの姿、顔もなく相対した者が感情を読み取ることもできず、ただハサミを持ち縁を切る姿…)
意識を集中して深く深く考えに没頭する。そしてある結論に達した。
(………!!!そうか…そういうことであったか…)
(あの、感情を読み取ることもできず、ワレ自身も感情に乏しかったあの姿。たまたまワレがあのような姿で生まれたのではなく、あの姿である必要が…ワレは、あの姿でなくてはならなかったのだ…!)
(いまでこそ、クロやチャコとかかわることで以前に比べれば感情表現が豊かになって来ている。笑えるようにもなった。しかし、もし『あの時』今の状態であったなら、ハルの『もういやだ』という願いに躊躇ってしまったやも知れぬ。その一瞬の躊躇いにより、もしかしたら2人を救うことが出来なかった恐れがある)
(縁を結び、そして切る。時にはあの子たちのような良縁(絆)を断ち切らねばならないこともある。その場合は、情に流されず断行せねばならない…。それは、つまり…)
「ワレに、感情があってはならなかったのだ!」
クロとチャコと出会い、話をすることで芽生えていった感情。それすらもコトワリ様の役割を行うためには不必要であった。そんな結論に達してしまった。
「しかし、感情があればこそ。そんなこともあるはず…。ワレはどうしいたらよいのだ。どうしたら…ワレは…」
せっかく人型になれたことによりクロとチャコを撫でられるかも?と喜んでいたことに対しての悔しさ、悲しさからくる涙が溢れている。
コトワリ様は意識を集中し、クロとチャコに申し訳ないと思いながらも元の姿に戻る。そして…
我ハ 理(コトワリ) 縁結ビ ト 縁切リ ヲ 司ル神(モノ)ナリ
悪縁ヲ 断チ 良縁ヲ 結ブ
人ヨ 我ニ縁切リヲ願フノデアレバ モウイヤダ ト 唱エルガヨイ
我 其ノ言霊ニ応ジテ 悪縁ヲ断タヌ
ダガ人間ヨ 忘ルルナカレ モシ 良縁ヲ断チ切ルノデアレバ
其ノ左手ヲ贄ニ捧ゲル必要ガアルコトヲ…
我ハ 理(コトワリ) 縁結ビ ト 縁切リ ヲ 司ル 神(モノ)ナリ…
そう言ってコトワリ様は静かに、ただ静かに浮かんでいた。
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程なく、ユイとハルを山の入り口まで見送ったクロとチャコが『これで撫でて貰える!』と、ワクワクしながら帰ってくる。
しかし帰ってきた2匹が見たものは、元の姿に戻りいつものように浮いているコトワリ様だった。
「あれぇ?なんかもとにもどってるよ?」
「どうして?せっかく撫でて貰えると思って楽しみにしていたのに。どうしたのかしら?」
2匹は何が起こったか不思議に思いながらコトワリ様の下までやってくる。コトワリ様は考えに没頭しているため気付かない。
「・・・ワリさま!コトワリさまってば!」
「ドウシタ?」
「どうした?じゃなくて、なんでもとにもどってるのさ?それに、なんかしゃべりかたおかしくなってない?」
「ソウカ?」
(済まぬ。クロ、チャコ…)
「もう、チャコなんかかえるとちゅう、『撫でてもらえる!』ってすっっっごくたのしみにしてたんだよ?」
チャコは、コトワリ様が見た目に反してとても優しいこと、自分たちを大事に思ってくれていることを理解している。その上、撫でて貰うというスキンシップが図れるなら、もっと仲良くなれるんじゃないか?そう考えていた。
それなのに元の姿に戻ってしまっているコトワリ様を見て、もしかしたら自分たちは嫌われてしまったんじゃないだろうか?そう思って悲しくなり、小さな目に涙を浮かべコトワリ様を見上げてじっと見つめている。
「チャコ、もしかしたらユイちゃんとハルちゃんのことないしょにしてたから、ちょっとおこってごきげんななめなのかも?あしたにしよう?」
「そう、そうね。コトワリ様。内緒にしててすみませんでした」
(違う!そうではない!そうではないのだ!どうしたらいいのだ?ワレはワレの存在としての役目を果たさねばならぬ。しかし、この子たちの悲しむ所も見たくはない!ワレは、ワレは…)
「あ、アァァァあぁアァァ、ウアアァァああああああぁああぁぁぁっっっ!!!」
突然叫び出すコトワリ様。その異常な気配に流石のクロも1歩後ずさる。しかし、すぐにチャコの前に出てかばうようにする。チャコは恐怖のあまり尻尾を後ろ足の間に丸めてクロにくっついて震えている。
そして、長い叫びの後、コトワリ様はまた人型の姿になっていた。
(なってしまったか…。自らの役目を遂行するにあたり、もう人型にはなるまいと、感情は捨てようと思っていたのに…)
「びっくりしたぁ。ねぇコトワリさま?にんげんみたいなかたちになるのに、まいかいさけばないとダメなの?」
別に叫んでいたのは人型になるために気合を入れようとしていたわけではなく、一度はもう人型になるまいと決心していたのにまた人型になろうとしている自分に対しての自責の念の表れであった。しかし、そんな事をクロにもチャコにも言えない。だから、
「ふム、すマぬ。アの姿の方ガ落ち着くのでナ」
そう言った。しかしまだ少しだけ言葉遣いが戻り切らない。
「ふ~ん。じゃあ、チャコ!ほら!」
「うん!」
チャコはコトワリ様の前に出て尻尾をバタバタと振り、期待に満ちた目でコトワリ様を見上げる。
(こうなってしまったものは仕方がない…)
コトワリ様はしゃがんでチャコに向かい手を伸ばし…
「で、どうしたらいいのだ?」
思わずコケそうになるクロ。
「えっと、まずはぁ、チャコのあたまにてをおいて?」
「ん?こ、こうか?」
おっかなびっくりチャコの頭の上に手を乗せるコトワリ様。チャコの毛深・・・もとい、フサフサとした毛並みの感触が伝わる。
「そしたら、そのてをせなかのほうにスーッとやるの」
「背中の方に?こうやるのか?」
「そうそう、それが『撫でる』ってやつだよ。なんかいかやってみて?」
「ふむ」
コトワリ様はぎこちない手つきでチャコを頭から背中にかけて数回撫でる。チャコは、ぎこちない手つきのため正直あまり気持ちよくはなかったのだが、コトワリ様の戸惑いとそして優しさを感じて目を細めている。そして、首の下あたりをモフッて貰いたくて首を上げる。
「おい、クロ。どうしたらいいのだ?」
「もう、こういうふうにしたら、くびのしたを撫でてほしいってことだよ?」
そう言って前足で露わになったチャコの首下をチョイチョイやる。
「なるほど。こういう感じか?」
掌で首の下をモフモフする。段々と手つきが慣れてきている。チャコは、これなら!と、仰向けにひっくり返る。それを見てびっくりするコトワリ様。
「クロ、チャコがいきなりひっくり返ってしまったぞ?チャコ、どうした?どこか痛いのか?」
「そうじゃないよぉ、ホントに犬とかいきものを撫でたことなかったんだね」
「そうれはそうなのだが、で、どうなのだ?チャコは大丈夫なのか?」
「それはね、おなかのあたりを撫でてほしいからなんだよ?」
さっきと同じように前足でチャコのお腹をモフモフして手本を見せる。
「そうであったのか。てっきりどこか痛くなったのかと思って驚いてしまった。そうか、なるほどこういう感じで…」
少しずつ撫でるコツが掴めてきたようだ。チャコもコトワリ様の手の下で気持ちよさそうにしている。
「はふぅ、コトワリ様、最初はぎこちなかったけど、段々と慣れてきたみたいで良かったわよ?」
起き上がってそう言うチャコ。神に対して何目線だ?という突っ込みが入りそうだったり、言い回しが何やら怪しいが、とりあえず満足できたようだ。
まあ、今や自らも神の末席にいるので許される範囲なのかな?といった所である。
「ほら、じゃあクロも撫でて貰いなさいよ」
「うん。じゃあおねがい」
「任せるがいい」
たった一度チャコを撫でただけでだいぶ自信が付いたらしい。
「クロよ・・・」
「なあにぃ?」
撫でながらクロに話しかける。クロは気持ちいいのか少々間延びした返事である。
「最初、ヌシが祠から飛び出してきた時にはビックリしたものだった。そして自分の死を知りながらも明るく振る舞う姿。その姿にワレもどれだけ力をもらった事か…」
「ふぅ~ん。ボクは、ボクだよぉ。いつもの、ボクがぁ、そんなふうにコトワリさまのちからになれたんだったらぁ、ふわぁ、よかったぁ…」
気持ちよさそうにしているクロを目を細めて見つめながらモフり続けるコトワリ様。ふと見ると、チャコが恨みがましそうにこちらを睨んでいる。
「どうしたのだ?チャコ」
「なんで、わたしの時は話しかけながら撫でてくれなかったんですか?」
「ん?それがどうかしたのか?」
「話しかけながら撫でてスキンシップを図るのが重要なんですぅ」
「そういうものなのか?」
「んあぁ?ボクぅ、よくわかんないぃ」
だいぶ恍惚状態である。
「ん~、そうか。そういうものであるなら次回からは気を付けるとしよう」
「絶対ですよ!」
「承知した」
クロも満足して起き上がり、話しかけられながら撫でて貰ったことをチャコに羨ましがられつつ、2匹はコトワリ様にお礼を言い、休むため祠(おうち)に帰って行った。
その後ろ姿に向かい、先程の『元の姿の方が落ち着く』と言ったのは本当のことだったので、クロとチャコと遊ぶ時以外はその姿でいる。と声をかけた。
(ワレが、人間の望みから生まれたか、もしくはワレよりも上位の神が造ったのかは分からぬ。だが、この子たちと話し、遊ぶ時。この子たちを撫でる時は、感情を持つことを、人型になることを許して欲しい。他には何もいらぬ。それだけがワレの望みだ)
コトワリ様は、いるかどうかも分からない自分を形造った何かに対し、そう祈る。
それから神社へ戻り、今日起こった出来事を思い出しながら満足げに佇むのであった。
「我は 理(コトワリ) 縁結びと縁切りを司る神(モノ)
この町で人々を見守り 悪縁を断ち、良縁を結んでいこう。
これからも。そして、いつまでも…」
人型になれるようになったコトワリ様。これからもクロとチャコと話し、遊び、思う存分モフるのであろう。そして大いに笑い、涙を流すのだろう。
そんな、2匹と1神のドタバタ劇もまた、いつまでも…。
これで本編は終了です。
続けてエピローグを投稿します。