ここに、1冊の絵本がある。
全国に一般的に流通しているものではなく、この町にのみ販売されているものである。
そこには、昔この町を救った少女2人と子犬2匹の物語が描かれている。
少女と子犬の功績に感謝をすると共に、それを忘れないよう、また友達の大切さの教訓として。
当時の町長が知恵を絞って自ら作った絵本である。
この町の子供たちは皆、この物語を聞いて育つ。
特に、主人公が少女と子犬という身近さから大人気である。
この家の祖母が、今日もまた孫にせがまれて読み聞かせている。
「…そして、町に平和が訪れました」
「ふわぁ、女の子と子犬で悪い神様をやっつけに行っちゃうなんてすごいよねぇ」
何度も聞いているのに目を輝かせて興奮している。
「そうだねぇ」
「ねえ、おばあちゃん」
「なあに?」
「うちの絵本にはさいごにふうとうがはってあるけど中に何が入っているの?ほかの子のおうちにはないよ?」
「そうだねぇ、字が読めるようになったら中身を出して自分で読んでごらん」
「え~、よんでくれないのぉ?」
「ふふっ」
祖母の名前は『ハル』絵本に書かれた物語は、彼女の前世での話である。
お互いが生まれ変わり、ユイと再会できたことにより断片的に甦ってきた記憶。
それらを繋ぎ合わせ物語の真実とその後の話を書いたものを便箋に纏め、封筒に入れて巻末に貼り付けてある。
絵本のように『悪い神様を倒しました めでたしめでたし』とはいかない真実。
その真実とは、別に悪い神様をやっつけにいったのではなく、
ただ、離れてしまった親友と再び手を繋ぐために探しに行った結果、たまたまそうなっただけであるということ。
そこには希望もなにもなく、ただ絶望と悲しみだけがあった。
そんな話を小さいうちから聞かせたくない。
ある程度成長し、字が読めるようになり、物事を自分で考え判断できるようになってから読んで貰いたい。そういった想いから、封筒に入れてある物はわざと子供があまり読めないような漢字を使ってある。
絶望と悲しみしかない。とは言ったが、最後はこう締めくくられている。
『二人は再び出会い、また手を繋ぐことができました。
その手はもう二度と離れることはないでしょう』
「さて、じゃあ、おばあちゃんはそろそろ散歩に出かけてきますよ」
「うん、気を付けてね」
「ありがと」
「あ、そう言えば、おばあちゃんとユイおばあちゃん、この絵本の女の子たちみたいに仲良しだよね?」
「そうかい?」
「そうだよ、この子たちみたいにいっつも手をつないでお散歩してるし。あたしにも、そんな友だちできるかな?」
「きっと、できるよ」
そう言って、愛おしそうに頭を撫でる。
ピンポ~ン♪
呼び鈴が鳴る。
「あらあら、迎えに来たのかな?ユイはちょっとせっかちだからねぇ」
そう、文句を言っているように見せかけて顔はほころんでいる。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
いつもすぐ手に取れる場所に置いてあるお散歩セットの入ったカバンを手に取る。散歩は昼間に行くのだが何故か懐中電灯が入っている。
孫からも「なんで?」と聞かれたこともある。あの夜の出来事があったため、念のために持っていないと少し落ち着かなくなる。というのが正解なのだが、「なんとなく」とだけ答えている。
いつか、あの封筒の中身を読んだら理解する時が来るかも知れない。そう考えていた。
「はいはい、今行きますよ」
と、玄関のドアを開ける。宅配便や何かのセールスの人ではない。思った通りのしわしわになってしまったがいつも見慣れた笑顔がそこにあった。
笑顔と言っても少々頬を膨らませてちょっぴり拗ねたような表情をしているが…。
「ホントにハルはいつまで経ってものんびりさんなんだから」
「ユイがせっかちなだけだよ」
2人でいる時は子供の頃に戻ったかのように砕けた調子で話をするハルとユイ。
「さ、行こうか」
と、右手を差し出す。
「そうだね」
と言って左手を伸ばして手を繋ぐ。そして、しばしその繋いだ手を見つめるハル。
「ん?どうしたの?」
「なんか、しわしわになっちゃったな。って」
「そりゃあ、もう2人ともおばあちゃんなんだから当たり前じゃない」
『当たり前』ハルは、生きていれば当たり前に大人になり、そしておばあちゃんになる。
その当たり前のことが、いっしょに大人になれたこと、おばあちゃんになれたことが嬉しくてたまらない。
ふと、空を仰ぎ見るハル。
つられてユイも空を仰ぐ。
よく晴れた青空が広がっている。
そこには青空に映える真っ白な紙飛行機が、誰かの想いを乗せて飛んでいた。
~おわり~
これにて、私の深い夜を廻らない話はおしまいです。
ここまでお付き合い頂いた皆様。ありがとうございました。
だらだらと書いても仕方がないので、活動報告に「あとがき」を書きます。
あとがきのアップは少し、1日?2日?かかるかもです。