完夜廻もしくは深夜廻らない   作:トロリスト

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これが、当初に最終話として考えていた話です。
時系列的には、投稿済みの最終話の少し後です。そこへの分岐が発生しなかった場合に起こらなかったことを抜き出すと、結局はこの最終話が投稿話数の30話目に来ていたので、総合的な話数は変わらなかったと言う不思議現象です。

しかし、元々はほんの数行で終わらせるつもりの場面が膨らんでしまったりと、想定より長めになってしまいました。

それでは、起こるかもしれなかったが起こり得なかった最終話の始まりです。



またね…もうひとつの最終話

かくして、意図していなかったとは言え、自らの行動で子供たちの縁を未来へと結んでいた功績から新たなる縁結びの神として生まれ変わっていたクロとチャコ。

しかし、このような結末を迎えられたのは、ひとえにコトワリ様のクロとチャコを想う気持ちから取った行動が起因している。

重大な分岐点としては、クロとチャコにとって母親とも言えるユイを見送る直前のことである。コトワリ様が祠から離れて行動することになるクロとチャコを心配し、自身の分身ともいえる小さなハサミ型のチャーム付き首輪を贈ったこと。

実のところ、クロとチャコはもうこの世のものではない。つまり、彼岸寄りの存在であるということである。であるならば、クロとチャコが彼岸への旅路に赴いたとしても、力の消費は殆どなかったのである。

もし、コトワリ様がそのことに確信を持っており、首輪を贈らず、ユイを繋ぎとめていることに限界が近くなった時、クロとチャコに『限界が近い。もう行くがよい』などと言って送り出していたら?そうすることによりクロとチャコの目覚めが遅れることになってしまっていたら?そしてハルを見送る際に、左手がユイに繋がっていることに気付けなかったら?そうやってコトワリ様の言動が裏目裏目に出てしまっていたとしたら?

 

これは、そんな『もしも』が積み重なってしまった場合に起こりえた可能性。コトワリ様が首輪を贈らず、クロとチャコが『縁結びの力』への目覚めが緩やかだった場合の可能性である。

しかし、忘れないでほしい。事ある毎にコトワリ様が取った行動。取らなかった行動。それらがいくら裏目裏目に出てしまっていたとしても、疑いようもなくそれはクロとチャコのためを想っての行動であったことを…。

 

遥かな時を超え、生まれ変わり再び手を繋ぐことができたユイとハル。前世の記憶からか山へ入ることを無意識に避けていたユイは、ハルと再会することで過去の呪縛から解き放たれハルを伴い神社と祠へのお参りを果たす。

そこで、チャコはかつて2人に向かい本心で言うことが出来なかった『おかえり』を、クロと一緒に言った。これもまた遥かな時を超えて果たされた約束の一つである。

2匹からの『おかえり』を聞いたユイとハル。聞くと言うより心で感じた。2人は遥か昔に交わされた約束が果たされたことを悟り、そしてまた2人が出合って手を繋いだこと。それが偶然ではなく運命であったことを悟る。

今の2人には前世の確たる記憶はない。だが魂に刻まれた記憶を刺激され、ただただ涙するのであった。クロとチャコはそんな2人を温かく見つめた。

そして神は、2人の涙の意味を理解し、自身もまた2人が再会できたことへの歓喜により感情が昂ぶり人型へと姿を変貌させ自身初となる涙を流す。そして、人と人との触れ合いによる温かさを知ることになる。

 

しかし神は、縁結びと縁切りを司る神は、自らに与えられた神としての役目を遂行するにあたり感情に揺れることなく断行せねばならないことを理解する。

クロとチャコの2匹にアピールされ、自身も2匹を撫でることが望みであった。人型に変貌することによりその望みは叶えられるかに見えた。しかし、神は感情を捨て人型を捨て元の姿に戻る道を選んだ。

2匹は神が人型になったのを見、これで親しい相手とのスキンシップが図れると期待に胸を膨らませる。そして元の姿に戻った神をみて落胆するも、元の姿に戻ったことを責めることなく、2人が生まれ変わり手を繋げたことを『ないしょ』にしていたことを逆に謝罪するのであった。

そんな2匹の優しさに触れた神。感情を捨て、2度と人型にはなるまいという決意が揺らぐ。そして自責の念による長い長い叫びの後、また人型へと姿を変えるのであった。

2匹を撫でながら、神は、この子たちと過ごす時だけは、人型となること。そのことを、いるかどうか定かではない自分を造ったかも知れぬ上位の神に、人々の願いから産まれた存在であるなら願った人々に、許しを請うように祈るのであった。

 

そんな2匹と1神の穏やかな生活はいつまでも続くかに見えた。だが、2匹と過ごす時だけという限定的なものとは言え、本来あるべきではない姿をとることへの罰なのか、クロとチャコへの試練なのか、再会したユイとハルがお参りに来た年。その年に、町を含めた近隣地域に未曽有の大災害が襲う。

 

夕方から降り出した雨は時間が経つごとに勢いを増し、クロとチャコが手分けして避難を誘導し始めてからまだそんなに経っていないにもかかわらず、既に冠水し始めている道路も出始めている。

最初、どうしたらいいかわからなかったのだが、コトワリ様から『こういう時、人間は避難した者が集まる避難所というものを設置するらしい。まずはどこにそれがあるかを確認した方がよいであろう』そう助言を受けたクロとチャコは、人間の近くへ行き『避難所』という単語が聞こえないか耳をそばだてていた。

ほどなくして、『避難所はあっち』とか『どこどこに設置されている』などの話が聞け、2匹は避難所が2ヶ所あることを確認する。まず2匹で話を聞いた場所へ行き確かめる。

自分らの鳴き声が聞こえる者も多いが、聞こえない者も少なからずいる。そこでクロは普段のパトロールで鳴き声が聞こえない子供に体当たりをして知らせる方法を応用し、体当たりの時よりも更に力を入れることで薄っすらと姿が見えるようにした。

チャコもクロから教わりなんとかできるようになる。うまい具合に暗闇では淡く光っているので2匹はお互いの体を見て『これならわかりやすいね』と喜んだ。

そして、2匹は相談して2ヶ所ある避難所に対し、こっちがクロでこっちがチャコ。担当を決め、2手に分かれてそれぞれに避難を誘導しようと決めた。

 

「じゃあ、チャコ。またあとでね!」

 

「わかったわ。クロも気を付けてね!」

 

そう言って2手に分かれて走り出す。一通り避難を誘導し終えたら山の入り口に集合。と約束してある。

クロとチャコは避難しようとしている住民でどっちに行ったらよいかわからずに戸惑っている者を見ると、すかさず『こっちだよ!』と、吠えて知らせた。犬の鳴き声を不思議に思いそちらを見ると、淡く光る子犬がいる。

最近になって引越してきて住み始めたものでもない限り、この町に住む人間は何もない所から急に犬の鳴き声が聞こえるのは『危険を知らせる合図』という共通認識がある。しかも今回は避難勧告が出て避難しようとしている最中である。

そんな緊急事態に犬の鳴き声が聞こえ、そちらに淡く光る子犬がいる。そしてこちらの顔をみて吠えた後、『ついてこい』と言うかのように首を後ろに反らすのである。

この町に子供の頃から住んでいる者は、必ずと言っていいほどに1度や2度はクロとチャコのお世話になっている。そんな経験も裏付けし、これは間違いなく避難する方向を示してくれているに違いない。クロとチャコを見た人は皆、そう確信した。

今までクロとチャコが子供たちを助けた回数は、年数もそれなりにあるため、かなりの回数に上る。しかし目撃例。『子犬の姿を見た』という者は1人もいなかった。

普段は姿が見えない上にほぼ子供限定での活動範囲である。町の言い伝えでも『子供の守り神』的な扱いとなっているその2匹のうち1匹が姿を見せているのである。

このように誰からも存在が分かるようにして現れているということは、この災害はただ事ではない。そう危機感を覚えさせ、避難を急がせるのにも効果的だった。

先導してくれているのはクロなのか?チャコなのか?淡く光っているため黒いのか茶色いのかは上手く判別できない。だが、どっちの子犬にしろこうやって先導してくれることは有難かった。

もう先導が必要がないくらい避難所へ近付いて大丈夫。となった時に案内をされた人間がお礼を言おうとすると、すぐに先導が必要な次の人間を探しに去って行ってしまったのか、姿は見えなくなっていた。

2匹はお互いに担当する避難所への誘導をこなし、もう道を歩いている人が見当たらなくなると、待ち合わせの山の入り口に向かった。

 

山の入り口に先に着いたクロ。チャコはまだか?チャコの誘導した人間に何かあったんじゃないか?とソワソワしている。

すると、数分後に向こうから走ってくるチャコの姿があった。暗い顔はしていない。上手くいったのだろうと察する。

 

「チャコ!そっちはどう?」

 

「うん。こっちに住んでいる人はだいたい避難できたわ!」

 

「よかった。じゃあ、あとは山のちかくのおうちだね」

 

「急ぎましょう」

 

コトワリ様は2匹に先んじて土砂崩れの被害に遭う恐れのある山の麓の家近くに来て様子を見ながら待機していた。2匹が道の向こうからやって来るのが見えたのと時を同じくして、山が土砂崩れを起こし始めようとしていた。

2匹はコトワリ様の待つ家の近くに行く途中途中でも、灯りが点いている家を見かければ、まず外から吠え、反応がなければ緊急事態なので危険を知らせるために中に入って吠えてでも家の人に避難を促した。

そしてコトワリ様が様子を見守っている山の麓にある家近くにやってくる2匹。

 

「コトワリさま!どう?」

 

「来たか!今からワレが流れてくる土砂と下にある家との縁を切る!そうしたらヌシらは家にいる者たちへ避難するよう警告するのだ!」

 

「わかった!」

「わかりました!」

 

土砂と家との縁を切る。そんなことができるのだろうか?コトワリ様自身もそのようなことをするのは初めてである。しかし、縁というものは目に見えない概念的なもの。

かつて、彼岸へと渡ろうとするユイと現世との縁を繋ぎとめ、ハル夫妻と子供との縁の結びつきを強くして安産祈願したように、どんなに曖昧でも『縁』という言葉で表せるようであれば、やってできないことはない!

この悪縁を切る!そんな信念の元、行動しようとしていた。

 

(よし…)

 

「行くぞ!」

 

ジャキンッ!

 

コトワリ様が目に見えない、土砂と家との間に結ばれた悪縁を切る。しかし、土砂は山の上から後から後から流れてくるため切ったところですぐさま縁が結ばれてしまう。

 

「急げ!」

 

「チャコはいえのそとでほえてて!ボクはいえの中に入って呼んでみる。できるようだったらくわえてひっぱってもみるから!」

 

「わかったわ!気を付けてね!」

 

2匹は手分けするとチャコは家の外、クロは家の中から家人に向かって避難するよう吠えたてた。

 

「危ないから早く避難してください!」

 

「はやく!こっち、こっちだよ!」

 

クロは家の中で必死に玄関の方へ促そうと吠える。家主であるその家の父親が犬の鳴き声を不審に思いリビングを出ると、玄関にぼやーっと淡く光る犬の姿が見える。

家人の姿を見たクロは『こっちだよ!』と言うように一声吠え、玄関をすり抜けて外へ出る。何事か?と思い玄関の扉を開けて外を見ると、先ほどの犬とは別にもう1匹の淡く光る犬の姿が見え、2匹揃って家に向かって吠えている。

犬たちが家のやや斜め後方に視線を向けていることを訝しんだ男は家の裏、すなわち山を振り返って目を見開く。そして、犬たちが何を伝えようとしているかを理解し、大声で『ここは危ない!避難するぞ!』と叫んで家の中へ戻る。

 

「クロ!チャコ!どうした?!もう、これ以上は…!」

 

何度目かの土砂と家との縁切りを行ったコトワリ様。これ以上は縁を切っても間に合わない所まで土砂が迫っている。

 

「いま、きづいてくれたから、もうすこし!」

 

そして、この家に住む家族が家を飛び出し道路まで出てきたのと同時に、流れて来る土砂が家を押し潰す。

 

「わんちゃん、ありがとうたすかったよ」

 

お礼を言う父親。しかしクロとチャコは既に次の行動に移ろうとしていた。

 

「ボクはこのおじさんをなんとかひっぱってとなりのいえの人とかにひなんするようにつたえてもらうから、チャコはおじさんいがいのおうちのひとをひなんじょってところへつれてってあげて!」

 

「わかったわ!」

 

チャコは道を避難所へ向かう方へ少し行き、『こっちです!』というように吠える。

家族が移動しようとするところへ、クロは父親のズボンの裾を咥えて引っ張る。『一緒に来て手伝って!』というように父親の目を見つめて訴えかける。

例え種族が違って言葉は通じなくても、本気で相手に伝えたいという強い気持ちがあるなら、目を見れば伝わるものである。

男はクロの必死に訴えかける眼差しを見て、何をして欲しいかを感じ取った。詳細までは分からないが着いて行けば分かるであろうと思い、

家族には『自分はこの子に着いて行くので皆は先に避難所で待っててくれ』そう言って走るクロを追いかけていった。

 

(よかった、つうじた)

 

クロは自分の考えが通じたことに安堵し、先導する。そして山の麓にある残りの数件については着いて来て貰った男に呼び鈴を押して貰ったり、ドアをたたいて貰ったりすることでまだ避難していない住民が残っていたらその家の住民に早く避難するようスムーズに伝えることができた。

着いて来て貰った理由の一つに、この男の家は家族が出た直後に土砂に押し潰されている。そのことから、犬の鳴き声が聞こえ外に出たら助かった。という体験談で説明できるため、説得力が違った。

そして山の麓に並んで建っている土砂に巻き込まれる危険性のある最後の1軒。そこはクロと男が辿り着いた時には土砂に押し潰される寸前であった。

クロはこのままでは男に危険が及ぶと判断し、向き直って避難するよう吠えた。

 

「おじさん!ここでさいごだからおじさんはにげて!あとはボクがやるから」

 

男は、クロが急に自分に向き直り吠え始めたのを見て訝しんだが、手伝おうと1歩踏み出すとかなりの怒気を込めて吠えてくる。

『頼まれて手伝いに来ているのになぜ?』少しだけイラついたが家の裏、山の方から土砂が迫ってきているのを見て『まさか、俺に逃げろと言っているのか?』男はクロが何を言いたいのか気付いた。

目の前にいる子犬と先ほどのもう1匹が、いくらこの町の伝説にもなっている子犬だったとしても、人間としての意地がある。いくら『逃げろ』と言われても最後まで手伝おうと、また1歩踏み出したところで、

先ほどよりもさらに強い怒気を込めてクロは吠える。

そして…

 

「コトワリさま、おねがい!」

 

コトワリ様に土砂と家との縁切りをお願いしてクロは玄関をすり抜けて家の中に飛び込んで行った。

男は先ほどの殺気にも近いクロの吠え声に、脚がすくんで動けなくなっている。しかし、すくむ脚になんとか喝を入れ、自らも玄関まで走り呼び鈴を数回連続で押し、扉よ壊れろと言わんばかりにドンドンと叩く。

クロは、家の中を走り回り、吠えて気を引こうとするようなまだるっこしいことはやめて見つけた人間の服に噛み付き『早く逃げて!』と引っ張った。

男は自分も玄関を開けて中に入るか?そう考えた時、目の前に大きなハサミを持った異形の存在が現れる。

 

「男よ、ヌシは先ほどクロが逃げろと言ったのが分からなかったのか?!」

 

「ヒ、ヒィッ!」

 

男はあまりの事に腰を抜かしてひっくり返ってしまった。

 

「ワレもクロも実体はない。もし巻き込まれたとしても大事無い。しかしヌシはそうではあるまい。クロの気持ちを無駄にするな!さっさと去(い)ね!」

 

男はその場から逃げるためというより、突然現れた異形の者から逃げ出そうと後ろを向き、這うようにして慌てて逃げようとする。

男が逃げ出そうとした所でクロが家から飛び出してくる。そして間髪入れずにその家の住民も飛び出してくる。

 

コトワリ様は土砂と家との縁を切ることで一旦は食い止められるが、流れる土砂全てを止め続けていることはできない。

そこで、土砂との縁を切る場合は片側の一方向のみを切る。そうすると縁を切られた側は一旦動きが停まる。その間にもう片側に流れが集中することになるので流れる方向がある程度操作できる。という器用なことをやっていた。

そうやってギリギリ家を直撃するコースを逸らしておいたので、家の半分ほどが押し潰される寸前であったにもかかわらずクロが住民に避難を促す時間が稼げたのだ。

 

「クロ、こっちだ!」

 

コトワリ様は土砂の流れるコースを逸らした反対側でクロを呼び誘導する。

 

「わかった!」

「こっちだよ、ついてきて!」

 

クロは振り向き、今家から出てきた家族と着いて来て貰った男に声をかける。

ほんの少しの間だが共に行動していたので、クロがこっちに来い。といっていることを察することができた男は、今出てきた家族を促して自分もクロの後について避難し始めた。

避難所へ向かって案内するクロ。少しすると最初の家族の後、続けて避難してきた家族を避難所まで案内していたチャコが、避難してくる人間の間が空いたので様子を見に戻ってきている所だった。

 

「チャコ、大丈夫だった?」

 

「うん。みんな避難所へ避難したわ!あとは、この人たちだけ?」

 

「そうだよ。この人たちをあんないしておしまい…って、あれ?」

 

ふいにクロがよろけ、前脚がカクンッと折れそうになる。

 

「どうしたの?」

 

「ん?だいじょうぶ。ちょっとつまづいちゃった」

 

(つまずく?クロが?)

 

そう訝しんだチャコであったが、自身も少し体のだるさが気になり始めていた。

 

(こんなに走り回ったのは久し振りだから、疲れたのかしら?)

 

それはともかく、この人たちを避難所へ先導しなければ!クロとチャコは揃って走り始めた。

ここから近い避難所はチャコの担当だったので安全なルートを辿るのはチャコの方がよく分かっている。クロは先導はチャコに任せ、時折り振り向いたりして着いてくる人たちに気を配りつつ走って行った。

クロとチャコが避難所へ先導する最後の人たちの案内も終わり、クロとチャコは山に戻り…はせず。

最後に2匹揃ってもう1度町内を避難していない人間がいないかを見落としがないことを祈りつつ見回り、山の入り口まで帰ってきた。山の入り口ではコトワリ様が心配そうにふわふわと浮いている。

 

「ふう、これでだいじょうぶだよね?みんなひなんできたよね?」

 

「ええ、きっと大丈夫よ」

 

「クロ、チャコ。ヌシら、よくやった」

 

頑張ったクロとチャコを労うコトワリ様。

 

「コトワリさまも、なんか、すごいことやってたよね?」

 

「できるかどうかは不安であったが、なんとかなって本当に良かった」

 

「じゃあ、チャコ。おうちにかえろ…う、か…」

 

カクンッと脚から力が抜け、そのまま横倒しに倒れてしまうクロ。

 

「もう、クロったら情けないわ…よ?あれ?」

 

そう言ってクロに向かって歩き出したチャコも脚から力が抜けて同じように倒れてしまう。

 

「どうした?2匹(ふたり)とも、そんなに疲れ…」

 

コトワリ様は2匹を見て言葉に詰まる。もう人間に気付いて貰う必要がないので淡い光は消えている。それは当然のことである。

しかしそれ以上に、クロとチャコの姿が薄くなり、存在そのものが消えかかっていた。

 

「どおしたの?」

 

「いや、なんでもない。どれ、今日は2匹(ふたり)とも頑張ったからな。ワレが祠まで運んでやろう」

 

「ほんとに?」

 

今日、2匹は人間に避難を促すには気付いて貰えなければならないと、姿が見えるようにしようと普段よりも力を消費している。その上、祠を離れての長時間の活動である。

もはやクロとチャコはその存在を保てない程に消耗していた。

コトワリ様は地面すれすれまで降りてきて、大きな手をクロとチャコの前に差し出す。

 

「ほれ、手の上に乗るがよい」

 

「ありがとお」

「ありがとう、ござい…ます」

 

2匹は立ち上がる事すらままならず、ズリズリと這うようにしてなんとかコトワリ様の手の上によじ登る。

 

「よし」

 

コトワリ様はもう1本の手の指を揃え指の関節の根元を曲げてクロとチャコが横たわる手の上にそっと重ねる。分かりやすく言うと、おにぎりを握るときのような手の形である。

そして…

 

風よりも、光よりも速く!言わんばかりに急いで祠の前まで移動する。間に合うだろうか?コトワリ様は祈るようにしてクロとチャコをそっと降ろす。

自身も土砂と家という生き物ですらない、物と物との縁を切るという異例中の異例なことをして疲弊しているはずである。しかし、コトワリ様は意識を集中して人型になる。

 

「クロ、チャコ。家に着いたぞ…」

 

「もうついたの?ありがとうコトワリさま…あれ?ことわりさま…ないてる?」

 

コトワリ様は人型になった瞬間から、すでに目から涙が溢れていた。

 

「何を言っているのだ?これは、雨であろう?」

 

なんとか強がりを言うコトワリ様。

 

「そっか…」

 

もう雨は止んでいるのに…コトワリ様の強がりに気付きながらも最後まで気遣うクロ。

あれだけ激しく降っていた雨はすでに止み、今は強風が吹き荒れている。

 

「ねえ、ことわりさま?」

 

「なんだ?」

 

「ボク…」

 

チラッとチャコを見る。チャコはもう声を出す気力もないのか地面にベタッと伏せ、舌を出して苦しそうに息をしている。

 

「ぼくたち…すごく、たのしかったよ」

 

「さいしょは、じぶんが死んじゃってた…ってきいてかなし…かったけど…」

 

「ことわりさまにいろいろおはなし…きけたし、チャコもきてくれたし」

 

なんとかチャコの横まで這って行き、慈しむようにチャコの首に自分の鼻先を埋める。

チャコはなんとか顔を上げ、クロを見つめたのち目を細める。

 

(急いで祠まで連れてきたが、もはや手遅れのようだ…)

 

「すまない。いくら力の扱いにも慣れてきたとは言え、このように長時間祠を離れて行動するのであれば、ワレが何かしら対策をしておかねばならなかった。」

 

「そんなことないよ。ぼくたちのことだもん。ぼくが…じぶんできづかなくちゃいけなかったんだから…ことわりさまのせいじゃ、ない、よ…」

 

クロも段々と話すことが辛くなってきている。もはや、コトワリ様にもどうすることもできない。

 

「ぼく、ユイちゃんやハルちゃんみたいにうまれかわれるかな?」

 

「ああ、きっとなれる」

 

「だったら、ぼくは…また犬になってユイちゃんやハルちゃんとあそびたいかな?それとも…、にんげんに、なって…いっしょに手をつなぎたい、かな?」

 

「ねぇ、チャコ。チャコはどっちがいい?」

 

チャコは顔を上げてクロを見つめる。『あなたと一緒ならどっちでもいいわ』そう言っているようだった。

 

「そう、だね。チャコといっしょなら、どっちでもいいや…」

 

「クロ、チャコ…。ヌシらは結婚しているな?」

 

「うん…」

 

「人間は結婚することを『二世を誓う(にせをちかう)』と言ったりするのだ」

 

コトワリ様、最後の授業が始まる。

 

「ニセ?ニセモノなの?」

 

「そうではない。二世の世は、世界や世の中といった意味の字を書く。つまり二世というのは、2つ目の世界、世の中。という意味だ」

 

「うん」

 

「それを誓う。ということはだ、死んで次の世界に生まれ変わっても、また一緒になりましょう。という意味なのだ」

 

「そっか…」

 

「そうだ。だから、ヌシらはきっとまた会える」

 

クロとチャコは顔を見合わせて『よかったね』と言うように目を細めた。

 

「ことわりさま…」

 

「もうよい。もう、何も言わなくてよい」

 

「チャコ…。まえにきいたチャコからきいたハルちゃんのおはなし…」

 

なあに?と言うようにクロの顔を見つめるチャコ。

 

「ハルちゃんが、おひっこしするまえにあの木のとこでいったこと…」

 

チャコは、あのことね。と思い当たり目をつぶりうなずく。クロの目にもチャコの目にも涙が溢れている。

クロとチャコはコトワリ様に向き直り、

 

「ことわりさま、…………」

 

言い終わるか終らないかのところで完全に力尽き、クロとチャコの姿はその最後の声と共に風に流されるように消えていた…。

吹き荒れる風に掻き消され、最後の言葉は聴こえなかった。だが、普通の生き物であれば聴こえなかったが、コトワリ様はその言葉に込められた想いにより何を言っていたかを感じた。

それは、あの時ハルが引越す前にユイとの別れに言った言葉…

 

またね

 

2匹は確かにそう言っていた。

 

「クロ…、チャコ…」

 

「うああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

コトワリ様、悲しみの慟哭である。

その慟哭は、山に、町に響き渡った。それが聞こえた極々僅かにいる霊感の強い人間は聞こえた音に悲しみの色を感じ取り、何が起こったのかと訝しむ。

しかし、ほとんどの人間は吹き荒れる風の音と思い、災害の大きさにその身を震わせていた。

2匹が町のパトロールのお手伝いをお願いしていた町の犬や猫は、そのコトワリ様の慟哭に何が起こったかを感じ取り、それぞれのやり方でクロとチャコへ哀悼の意を表していた。

そして嵐は去り夜が明ける。大災害であったにもかかわらず、避難時に転倒して怪我をした者はいたが、奇跡的に死者は出なかった。

 

それから1週間ほど経った。コトワリ様は毎日、祠の前に行ってはクロとチャコを偲んでいた。気持ちは深く沈み込み、悲しみのあまり昔のような、自分を見失っていた頃のような状態になりかけていた。

そしてコトワリ様は憤っていた。あの2匹は人間にも見えるようにし、あれだけ頑張ったにもかかわらず、1週間経過しても人間は1人としてお礼を言いに来ない。

楽観的ではあったが、そのお礼の気持ちが集まればクロとチャコはまた…。という考えもあった。やり場のない憤りは、夜毎、人型に配置された光る石をガシュガシュ切りつけていなければ到底抑えきれない程になっていた。

 

「まったく、人間どもは何故1人としてクロとチャコへの礼に来ぬのだ!これではあの子たちは…いや、あの子たちは人間に礼を行って貰いたくて頑張っていたのではなかったな…しかしこれではあまりにも…」

 

山があるということで土砂崩れの恐れを考え、様子を見ていたコトワリ様。しかし、そうやって土砂崩れが起こっていしまったのであれば、地盤が緩んでいるため安全確認のために立ち入り禁止になっているかも知れない?そこまでは考えが及ばなかった。

だが、立ち入り禁止になったということは参拝客も訪れない。そのおかげで静かに考える時間が作れたのは幸いと言うべきか…。

 

「クロ…、チャコ…」

 

今日も祠の前で悲しんでいる。悪く言えばウジウジしている。その時。

 

「もう!コトワリさまはかみさまなんだから、ちゃんとおしごとしないとだめだよ!」

「そうですわ」

 

それは、クロとチャコを思うあまり聞こえた妄想の産物か、それとも何かの前触れか。コトワリ様に、そんな、2匹の声が聞こえた気がした。

 

(クロ…、チャコ…。そうか、そうだな…。ワレがこの有様では2匹に笑われてしまうな。それに、あの男にも頼まれていたことだしな)

 

やっと立ち直るきっかけを掴み始めたコトワリ様。

そこへ、老年の男と少女2人の声が聞こえてきてコトワリ様は考えを中断し、そちらへと意識を向ける。

やってきた少女2人というのはユイとハル。そして、現在神社の管理人となっているユイの祖父であった。災害から1週間。一応は安全確認が取れたのだが、まだ何が起こるか分からない。しかし町民からの神社および祠へお礼を言いに行きたい!という要望が多かったため、保護者同伴であれば。という限定的なものだが、一時的に立ち入り禁止が解除されたのだ。

その話を聞いて真っ先に、いの一番に駆け付けたのは、ユイとハルであった。保護者としてはユイの祖父が同伴している。

 

「やっとわんちゃんにお礼を言いに来れたね?ユイ」

 

「そうだね。なんで立ち入り禁止になってたの?」

 

隣を歩いている祖父を見上げ尋ねるユイ。

 

「そうだな。あれだけたくさん雨が降ってまだまだ地面もぬかるんでるしな。おまえさんたちみたいな元気のいいのが入り込んで滑って転んだりしちゃいかんからの。大丈夫だろうと確認できるまでは立ち入り禁止にしていたんだよ」

 

愛おしそうにユイの頭をポンポンする祖父。

 

(そうか…、土砂崩れがあったのだったな…。それでは安全確認のために立ち入り禁止になることも致し方あるまい。それなのに、それに気づかず人間が礼に来ぬ!と、憤っていたワレが恥ずかしい…)

 

数奇な巡りあわせによりハルの家系に生まれ変わったユイ。その家系。というより、厳密には当時の町長やハルの旦那となった男の家系。

その家の家長となる者は、どのような仕事に就いたとしても、定年後は神社の管理人をするのが慣例であった。現在は、ユイの祖父が管理人となっている。祖父も神社の様子が気になっていたのでユイの申し出に「よし、行こう!」と即答してくれた。

山の上に着いたユイ、ハル。そしてユイの祖父。『頑丈に造ってある』という言い伝え通り、神社と祠は無事だった。しかし、雨のあとに吹き荒れた風のため、ゴミや落ち葉がいたるところに散乱していた。

そして、崖近くにある『あの木』も、葉は全て落ちてしまっていたが、しっかりと立っていた。

 

ユイとハルは祠に、祖父は神社と小屋に2手に分かれて見に行った。

祠の前に立つユイとハル。まずは目に付くところのゴミや、祠に張り付いている落ち葉を取り除き簡単に掃除をする。

そして2匹の像を綺麗に拭き、清めたのち2人はそれぞれクロとチャコの像に感謝の気持ちを込めて抱擁(ぎゅっ)する。

 

「クロ」

 

「チャコ」

 

「「ありがとう!」」

 

すると…

 

祠の中から何か物音が聞こえた。

 

「ハル、いま中から何か聞こえなかった?」

 

「うん。なんの音だろう?」

 

「ユイ…」

 

ハルの手がユイの手を求めてそわそわしている。

 

「もう、ハルはこわがりだなぁ。きっとすきまから虫かなんかが入っただけだよ」

 

そう言いながらも自分も少し怖かったので、ハルの手を握りその暖かさを感じることで安心する。

 

「開けてみよっか?」

 

「いいのかな?大丈夫?」

 

「へーきへーき」

 

と言ってつかつかと祠の前まで行き、扉の取手を掴み、そーっと開けるユイ。

もう何年も開けられたことがないのか、キキキッと少し木の軋む音を立てて開いてゆく。そして扉を開いたユイは、薄暗い祠の中から見つめてくる2つの黒い丸い物が見えた。

ほんの一瞬『なに?』と思ったが、その2つの黒い丸い物は、真っ黒な毛並みの犬の目だということが判明した。あまりに黒かったので目だけが光に反射して見えていたのだった。

そしてその隣には、茶色い毛並みの子犬が気持ちよさそうに寝息を立てていた。2匹は本当に仲が良さそうに寄り添って祠の中で横になっていた。

 

「わあ…」

 

感嘆の声を上げるユイ。

 

「なに?なにがいたの?」

 

「ほら、見てごらん?」

 

そう言って体を少し斜めにし、ハルにも中が見えるようにする。

 

「あ、わんちゃんだぁ」

 

「どうやって中に入ったんだろう?」

 

「あれ?この子たち、毛が黒と茶だよね?」

 

ユイはそう言って像を振り返る。

 

「もしかして…」

 

ユイは黒い毛並みの子犬にそーっと手を差し伸べ、

 

「クロ?」

 

子犬はふんふんとユイの手の匂いを嗅いだのち、

 

「アンッ」

 

と一声鳴いた。ユイは懐かしいような、悲しいような。それでいて嬉しいような不思議な感覚にとらわれ、クロをそっと撫でる。

クロは嬉しそうに目をつぶって撫でられ、そしてユイの手をペロペロと舐める。

 

「ハル、この子たち、たぶん。この祠にまつられている。クロとチャコじゃないかと思う」

 

「え?でも…」

 

「なんだかよくわからないけど、もしかして、生まれ変わった。ってやつなのかも?ほら」

 

と言ってユイはクロを抱き上げ、ハルに渡す。ハルは受け取って抱き締めるように両腕で抱える。ハルの顔を見上げ見つめるクロ。

 

「やっほ~、ハルだよ~」

 

そう言って顔をクロの顔に近づける。クロは嬉しそうに顔にスリスリし、ハルの頬をペロペロ舐める。

 

「もう、くすぐったいよぉ」

 

隣にクロがいなくなって目を覚ましたもう一匹の子犬に、ユイはそっと、

 

「チャコ?」

 

と、声をかけて手を伸ばし、そっと頭を撫で、クロと同じように抱き上げる。

チャコは最初はおとなしく撫でられていたが、ハルに抱きかかえられているクロを見るなりクロの方へ行こうとしてジタバタともがき始めた。

 

「うわ、そんなにあばれないでよ。はいはい、クロのとこに行きたいんだね?」

 

ユイはチャコをハルが抱きかかえているクロの隣に乗せる。クロの隣に来たチャコは安心したのかおとなしくなり、クロと顔をスリスリしている。

そしてハルの顔を見上げる。ハルは2匹が可愛くて堪らなくなり、顔を近づけて2匹同時にスリスリする。2匹は嬉しそうになすがままになっている。

 

「いいこだねぇ」

 

ユイはそう言ってハルに抱きかかえられた2匹を優しく撫でる。ユイ、ハルの2人に撫でられ、2匹はうっとりとしている。まだ少し眠かったのかウトウトし始めて、やがて目をつぶり眠ってしまった。

 

「かわいいねぇ。この子たち、うちで飼いたいなぁ」

 

「わたしも。わんちゃん、おうちにつれて帰りたい」

 

2人がどうしようか?と悩んでいる時、コトワリ様が何事か?とやってきてハルの抱えているものをのぞき込み、感涙にむせび泣いていたことを2人は気付かなかった。

 

「ん~、そうだ。まず、おじいちゃんに話してみよう」

 

ユイはそう言ってハルを連れて神社の裏の小屋へと向かう。

2人はクロとチャコを起こさないようにゆっくり歩いてそーっと運び、小屋の前まで来る。あの時から変わらず『小屋』である。多少補強などを施されているが、どうこをどうしてもやはり『小屋』である。

ちょっとまっててね。ユイは小屋に入っていき、中から「おじいちゃ~ん、ちょっと外にきて!」という声が聞こえる。

ほどなくユイとその祖父がユイに手を引かれて小屋から出てくる。

 

「いったいどうしたというのかね?」

 

「ハルのだっこしているの見て」

 

そう言われて祖父はハルの抱っこしている、2匹の子犬を見て取る。

 

「この子たちは?」

 

「さっき、祠のそうじをしてたら、中から何か音がして、開けてみたらいたの」

 

(?! 祠の中に子犬が2匹いて、それも毛並みが黒と茶色だと?)

 

驚愕する祖父。この家系の家長。つまり神社の管理人になる者には、過去のあの出来事が伝えられている。昔、この町を救った少女2人。その名をユイ、ハル。そしてその少女たちを守り、導いたのがクロとチャコという名の子犬であるということ。

その子たちにあやかって。と言ってつけたがる者も過去にはいたが、この家では子供に『ユイ』と『ハル』という名をつけることは禁じられていた。

完全に禁じられていたのではなく、最初からつけようとすることが禁忌事項となっていた。少々オカルトじみた話になってしまうが、産まれる前に子供の名前はコレ。と考えていたにもかかわらず、産まれた我が子を抱き上げた時、

 

「この子は、ユイ(ハル)」

 

と、無意識にそう呼んでしまった時のみ、その名をつけることが許されていた。

先祖である当時の町長。この話では元町長として出番が多かったあの男。あの男が子孫に伝えるために遺した手記にこう記してあった。

 

『町を救ってくれた少女にあやかり、ユイまたはハルと名付けたくなるかも知れないが、コトワリ様の導きにより2人はきっとまた巡り合うことになる。我が家でユイまたはハルと名付けた者が、対象となるハルまたはユイと出会った時、相手が本物であるのに我が家で名付けた子の方は違った。その逆もしかり。

そうすることで再会できたと思ったのに実は違う。その名をつけることでそのような再会を妨げるようなことがあってはならない。そのため、子供にその名をつけることを禁ずる。ただし、初めからこう。と名前をつけようとしていたにもかかわらず、産まれた時に頭にその名が浮かんだ場合は別とする。

その時は、2人のどちらかが我が家に生まれ変わってくれた可能性がある。そして対になるもう1人がどこかで産まれている可能性もある。2人は生まれ変わってさえいればお互いに惹かれ合い出会うことになるだろう。もし、その名をつけることがあったなら、暖かく見守ってあげて欲しい』

 

その手記に書かれていた通り。とまではいかないが、本来は別の名前をつける予定だったのだが、我が孫が産まれた時、息子が『ユイ~、お父さんですよ~』と無意識に言ったらしい。

そうして産まれた孫のユイ。幼いころは別の所で暮らしていたが、小学校へ入学する際にこの町へ引越してきた。そして数年後、同じように引越してきた『ハル』という名の少女と出会う。

孫が『新しいお友達ができた』とハルを紹介してきた時には目頭が熱くなったものだ。

そして今度は2人は祠から黒い毛並みと茶色い毛並みの子犬を見付けてきた。これが運命でなくてなんだというのか?

 

「ねえ、おじいちゃん?この子たち、うちで飼ってもいい?」

 

「あ、ユイ、ずるい!」

 

「でも、さっきみたいにはなればなれにしちゃうと泣いちゃうんじゃないのかな?だから、小さいうちはうちで飼って、少し大きくなったらどっちかをハルのとこにって感じで」

 

「う~ん、それなら…でも…」

 

自分の家にも連れて行きたいハルはいまいち煮え切らない。

 

「はっはっはっ、2人のご両親をうまく説得できるか分からんが、お互いの家で交代…例えば1週間交代とかで2匹とも面倒を見ればいいんじゃないかね?大きくなったらどうするかは、その時に考えればいいさね」

 

「あ、それいい考えかも!ハル、それでいい?」

 

「うん。よかったね~。クロ~、チャコ~」

 

 

いつの間にか目を覚まして『ボクたちどうなるんだろう?』と様子を窺っていた2匹にハルが微笑みかける。

子犬たちは3人が何を話していたかを理解したかのように、ハルにスリスリして甘えるのだった。

 

「じゃあ、わたしと、ハルが君たちのお母さんだからね?」

 

ユイはクロとチャコの鼻先をチョンチョンッと指先で軽く突っつく。2匹はユイの言っていることが分かったのか嬉しそうに「わん!」と鳴くのだった。

 

「おじいちゃん。帰ったらせっとくおねがいね」

 

「ああ、まかせておきなさい」

 

「おじいちゃん、大好き!」

 

「これこれ、調子のよい子だ…」

 

祖父は目を細め、コトワリ様の神社を振り返る。その顔は、クロとチャコの存在を確信したり、セメントに足跡をつけるといういたずらを見付けた時に目を細めていた元町長と、同じ顔だった…。

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

クロ・チャコ視点

 

昔、コトワリ様がクロとチャコを出雲に誘った時、実はあの時に2匹の状態、魂の在り方を確認し、その後の行動如何で新たな縁結びの神に叙する手はずだったのだ。

だが、クロとチャコ両名共に1度も来ることがなかった。その上、とうとう力尽きて消えてしまった…。

あのままでも何れ神に叙されていたであろうが、今回の功績により、クロとチャコは正式に神に叙されることとなった。

このことに、どのような神たちが介入したかは分からない。これから神として存在することになる2匹へのひと時の休息として。ささやかなご褒美として…。

 

(あれ?ここどこだろう?まっくらでなにもみえないな?となりにいる子は…しってるようなきがするんだけどうまくおもいだせないや)

 

キキキッと木の軋む音がして寝そべっている場所に光が射してくる。そして、自分を見つめて嬉しそうにしている女の子。

 

(あれ?なんだかまえにもおなじようなことがあったような?)

 

『わあ…』

 

自分を見ている女の子が声を上げる。

 

『なに?なにがいたの?』

 

別の女の子の声がする。

 

『ほら、見てごらん?』

 

その言葉の後、もう一人の女の子が顔を出し、自分を見つめている。

 

『あ、わんちゃんだぁ』

 

(ボク、なんだか、この人たちしってるきがする。かおをみたらすごくなつかしいようなかんじがした)

 

『クロ?』

 

女の子が自分をそう呼んで手を伸ばしてくる。

 

(クロ?ボク…、クロ?ボクのなまえ!ということは、となりにいる子は…、そうだ!チャコ!)

 

差し出された手の匂いを嗅ぐ。

 

(ボク、この手をしってる…)

 

「ユイちゃん!」

 

記憶はまだ曖昧であるが、差し出された手がユイのものであることに気付き、嬉しくてユイの手をペロペロと舐める。

 

「チャコ!ユイちゃん!ユイちゃんだよ!」

 

「ふわぅ…」

 

チャコはまだ夢見心地でお眠である。

そしてクロは抱き上げられ、ハルに渡されて抱っこされる。

 

(ふわぁ…、この子、この子もしってるきがする…)

 

『やっほ~、ハルだよ~』

 

(ハル…?ハルちゃん!)

 

ハルであることに気付き、近づいてきた顔にスリスリしてから頬をペロペロ舐める。

クロは、ハルの子供に初めて会った時、同じことを言ったことは覚えていないようだ。だが、記憶の片隅に何かが引っかかったのか、そのおかげでハルを思い出すことができた。

 

(あれ?さっきまで誰かがとなりで寝てたような?)

 

『チャコ…?』

 

(え?人間?え?チャコ?)

 

差し出された手に若干怯えながら、身構えるチャコ。しかしクロ同様、何か懐かしい感じがして戸惑っているうちに、その手で優しく撫でられる。

 

(そういえば、前にもこうやって誰かに…。それにこのなつかしくて安心する匂いは…)

 

チャコもユイに抱き上げられて祠の外に出る。その時、もう1人の人間に抱っこされている黒い毛並みの子が目に入る。

 

(あの子!さっきまでわたしの隣で寝てた子?えっと、誰だっけ?知ってるはずなんだけど…。でも、あの子のそばにいかなくちゃ!離して!離して!)

 

チャコは名前は分からないが、目の前にいる黒い毛並みの子のそばに行かなくちゃいけない!なぜかそう思いジタバタする。

 

『うわ、そんなにあばれないでよ。はいはい、クロのとこに行きたいんだね?』

 

(そうよ!はやくクロのところに…って、あぁぁっ!クロ!)

 

チャコもようやく記憶が繋がりクロのことを思い出す。そしてクロと一緒にハルに抱っこされる。

 

「クロォ、クロォ…」

 

「あ、チャコ。ひさしぶり!」

 

クロは状況をいち早く理解したのかしてないのか、既にあの頃と同じような状態になっていた。

 

「もぅ、なによ…ひさしぶりって…」

 

2匹は再び出会えたことに感激してじゃれ合っている。

 

「ねえ、クロ。この女の子たちは?」

 

「わからない?ユイちゃんとハルちゃんだよ」

 

「!!!」

 

2匹は顔を見合わせて今更ながら『何が起こったんだろう?』と不思議がる。あの時、おうちから離れて人間の避難を手伝い、そして力尽きた…。

そこまでは何とか思い出せたけど、どうして自分たちが人間に見えるようになってて、しかもハルちゃんに抱っこされてる。どうしてそうなったか全く見当もつかない。

 

「チャコ。もしかしてボクたち…。生きてる…?」

 

「え?そんなこと…でも、ハルちゃんに抱っこされてるってことは体があるってことだから…はふぅ」

 

「ふわぁ…」

 

目覚めてまだ間もない2匹。ユイとハルに優しく撫でられて気持ちよくなり再び眠ってしまう。

その時、何事か?と、やってきたコトワリ様がハルが何を抱っこしているかと覗き込む。

 

(クロとチャコではないか?!本当に、生まれ変わってまた一緒で。そしてハルの腕に抱かれて…。どの神がこのように差配してくれたかは分からぬが、心より感謝する)

 

人型にはなっていないが、もしなっていたら嬉しくて号泣していたことだろう。

 

『ねえ、おじいちゃん?この子たち、うちで飼ってもいい?』

 

『あ、ユイ、ずるい!』

 

ハルの声に目を覚ますクロとチャコ。いったい何を話しているんだろう?

 

『でも、さっきみたいにはなればなれにしちゃうと泣いちゃうんじゃないのかな?だから、小さいうちはうちで飼って、少し大きくなったらどっちかをハルのとこにって感じで』

 

「え?チャコ、泣いちゃったの?」

 

「もう!最初、クロのこと思い出せなかったんだけど、見た時になぜか『そばにいなくちゃ!』と思ってチョットあばれちゃったの」

 

クロとチャコはハルに抱っこされていることに安心しきってイチャイチャし始めている。

 

『はっはっはっ、2人のご両親をうまく説得できるか分からんが、お互いの家で交代…例えば1週間交代とかで2匹とも面倒を見ればいいんじゃないかね?大きくなったらどうするかは、その時に考えればいいさね』

 

『あ、それいい考えかも!ハル、それでいい?』

 

『うん。よかったね~。クロ~、チャコ~』

 

「チャコ。ボクたち、ユイちゃんとハルちゃんのおうちにいけるみたいだよ?」

 

「そうみたいね。また、一緒に遊べるのね」

 

ハルにスリスリして甘える2匹。少し離れた所からその様子を見ていたコトワリ様。今、クロとチャコに顔を合わせたら急に騒ぎ出してしまうかも知れないと思い、近くに行きたいのをぐっとこらえている。

 

(クロ…、チャコ…。本当に良かった)

 

『じゃあ、わたしと、ハルが君たちのお母さんだからね?』

 

そう言われ、鼻先を突っつかれる。

 

「おかあさん!」

「お母さん!」

 

2匹は嬉しそうにユイとハルをそう呼ぶのであった。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

それから…。クロとチャコは2人の家を行ったり来たりして双方の家族から可愛がられる。

ユイもハルも祠の中にいたのを見つけた。という話を友達に話して自慢したかったのだが、祖父から「帰り道で拾った。ということにしておきなさい」と厳命されていた。

あの嵐の中、淡く光る子犬に導かれて避難し、そのあと祀ってある祠の中で見つかった同じ毛色の子犬2匹。誰がどう考えても関連があるとしか思えない。

もし、そんな話が心無い人間の耳に入ったとしたら?攫われたり見世物として好奇の目に晒されたりするかも知れない。

そうでなくても近所に知られたら、祠に祀られている子供たちの守り神。その化身ないし生まれ変わりとして拝みに来る者も出て来てしまうだろう。

まあ、祀られていた者の化身ないし生まれ変わりというのは正解ではあるのだが…。

孫や子犬たちをそんな騒ぎに巻き込みたくはない。そんな想いから祖父は、本当のことを話してはいけない。そう厳命したのだ。

 

ユイとハルの家を交互に行ったり来たりしている2匹。普通、寝泊りする場所がコロコロ変わったりすれば落ち着かないものである。

だが、クロとチャコは本能から自分たちのナワバリ。というものの意識はあるが、2匹にとってのナワバリとは、一般的な自分の匂いのついている場所やお散歩しているときにマーキングする場所もそうなのだが、なによりもまず『ユイとハルがいて、自分たちが一緒にいられる場所』が2匹のナワバリ。という認識だったので、家を行ったり来たりしていても必ずユイかハルは一緒なので「ナワバリ外」と認識してソワソワしたりすることはなかった。

特にクロは一緒にいられることが嬉しくて仕方がないらしく、寝るときはどちらの家にいる時もユイかハルの部屋にクッションが置かれ、その上で2匹が寄り添って寝ることになっているのだが、

クロはいたずらっ子全開とユイやハルに甘えたりなかったのを取り戻そうとするかのように、布団に潜り込んで一緒に寝ようとするのだった。

チャコは、そうやってユイやハルに甘えるクロを見て、ちょっとだけヤキモチを妬いたりすることもあるのだが、そうなっても仕方がない。と、概ね容認していた。自分も一緒になって甘えているし。だが、別の雌犬(おんな)とじゃれていようものなら容赦はしなかった。

 

寝る場所はユイかハルの部屋のどちらか。ということで寝るときはどちらか1人としか一緒ではない。しかし、お散歩は必ずユイとハル2人で行くようにしていた。

2人は再会したことにより朧げに浮かんでは消える前世の記憶。その記憶から自分たちに何があったのか。この子たちにも何があったのかを思い出していたりする。

しかし、お散歩中、こちらはどう見ても子犬。相手は明らかに成犬(おとな)であるにもかかわらず、クロとチャコが通るとお座りをして「わん!」と、挨拶してくるのが不思議でしょうがなかった。

クロとチャコも特に気にする風でもなく、普通に「わん!」と返事をしている。それはそれで不思議だった。

ちなみに、クロとチャコが寝る時はどちらか1人と。と言ったが、週末などはしょっちゅうお互いの家に泊まりに行っているので割とみんな(2人と2匹)一緒だったりする。

 

時は経ち、クロは精悍な顔つきの凛々しい黒犬へと、成犬(おとな)への成長を果たす。

色々と物も覚え、以前にはなかった威厳のようなものも備えて町の犬たちのリーダーとして活躍していた。

チャコもそんなクロを見て毎日のように惚れ直していたりするのだが、何故かチャコと2匹(ふたり)っきりでいる時は以前のようにひらがなだらけで話をしてチャコを困惑させていた。

しかしそんな所も『ギャップがあって可愛い』と、いつまで経っても見る者には『はいはい、ごちそうさま』と言わせるほどのラブラブっぷりであった。

 

2人と2匹はこんな幸せな日々が続くと思っていた。しかし、歳月というものは非情なものである。

再会できた。ということは、別れにもまた立ち会わねばならない。ということである。

犬にしてはなかなか長寿の20年ほどが過ぎたころ、クロとチャコは別れの日が近づいてきていることを感じていた。

日々、動物に対しての医療技術が進歩したとしても、どんなに愛され可愛がられていたとしても。寿命が尽きる日はやって来る。

ユイとハルも、あの時のように理不尽に命を奪われた訳じゃない。当時の町の夜を駆け回り寿命を縮めた訳じゃない。

愛犬の死を受け入れ、笑顔で見送る覚悟ができる大人へと成長していた。

 

「チャコ。もうそろそろだね」

 

「そうね。クロと一緒にいられて幸せだったわ」

 

「僕もだよ。それに、ユイちゃんとハルちゃんとも一緒だったし」

 

2匹ともしみじみと今回の犬生(じんせい)を振り返り、また、嵐の夜人間を避難させようと走り回って力尽きてしまった時のことを、どちらかから言うでもなく思い出していた。

クロとチャコの功績により、幸いにも死者は出なかった。だが、土砂に押し潰された家もあったことから、20年ほど経った今でも災害対策のための工事は頻繁に行われていた。

クロとチャコは、町の犬や猫たちと子供たちを見守りつつ、復興に向けての人間の心やその後の工事がどのように行われているかも見守っていた。

災害が起こった時、淡く光る子犬に助けられたこと。何人かは大きな手に大きなハサミを持った異形のモノ。コトワリ様を見たという者もいたこと。

そのことが影響して山はなんとかそのままにし、災害時に土砂崩れが起きないようにするにはどうしたらいいか?と考える者が多かったことは当然の流れであった。

 

余談ではあるが、当日『クロの気持ちを無駄にするつもりか?!』と叱責された男。この町で祀っている神に会った上に声までかけられた。と周りから羨ましがられていたが、

当人は『いや、アレには会わないに越したことはない』と、半ば失礼であるが、ある意味当然とも言えることを言っていた…。

 

そしてとうとうその日がやって来る…。

 

「ハル!どう?!」

 

ユイはハルの部屋に飛び込んでくるなりそうハルに聞く。ハルは何も言わず振り返り、目に涙を浮かべてユイを見つめる。

クロもチャコもいつこと切れてもおかしくない容態である。ユイも2匹のそばに座り優しく撫でる。涙を浮かべながらもなんとか笑顔をつくろうとしている。

ハルはユイが手に何やら赤黒いハサミを持っていることに気付く。

 

「ユイ、そのハサミ…」

 

「うん…」

 

そのハサミこそ、ユイの家、つまりハルの家系に伝わる家宝。あの夜ハルがコトワリ様より授けられし神器たるハサミであった。

 

「このハサミで、この子たちが今感じている。痛みや苦しみの縁が切れれば。と思って…」

 

「そんな…、コトワリ様から貰ったっていう大事なハサミなんだよね?それを個人の感情で、いくら愛犬が苦しんでいるからって、使ってもいいのかな?」

 

「だって!他にどうしたらいいって言うの?あたしは、この子たちが苦しんでいる姿をもう見ていたくない!」

 

ユイもハルに言われたことは重々承知している。しかし、このまま見ているだけなんてできない。できることがあるのだったら。と、家宝のハサミを持ち出して来たのだ。

2人のやり取りを見ていた2匹は悲しそうな顔をしている。自分たちのために大好きなユイちゃんとハルちゃんが喧嘩している。

クロはなんとか立ち上がり、ヨロヨロとユイのそばまで行き、そっと体を擦りつけ、手をペロリと舐める。『ありがとう。でも、僕たちのために喧嘩しないで。僕たちは大丈夫だから』そんなクロの気持ちが伝わってくる。

 

「う、う、うわあぁぁぁっ!」

 

突っ伏して泣き崩れるユイ。その背中にハルはそっと手を置いて、

 

「私だってこの子たちが苦しんでいるのを見ていたくない。でも、生き物なんだからいずれ死んでしまう。いくら苦しそうだからって、そこから目を逸らさないで、受け入れて見届けよう?だって、私たちはこの子たちの『お母さん』なんでしょ?」

 

ハッとして涙でべちょべちょになった顔を上げるユイ。クロとチャコを見、そしてハルを見つめて。

 

「うん…。そう、そうだよね。あたしたち、この子たちの『お母さん』だもんね」

 

ユイは、来たはいいが戻る体力もなくなりへばってしまったクロをそっと抱え、チャコの隣に降ろす。

 

「クロ、チャコ。騒がしくしちゃってごめんね」

 

(そうだよね。ハルと話してこの子たちは笑顔で見送ろうって決めてたもんね。それに、お母さんが泣いてたらこの子たちも安心して眠れないよね)

 

もう、いい大人なはずなのだが、袖口でゴシゴシと涙を拭きなんとか笑顔を作ろうとする。

2人は揃って2匹を本当に自分たちの子供であるかのように、慈愛に満ちた顔で見つめ、少しでも苦しみが和らいでくれるよう祈りながら優しく撫でる。

クロとチャコは見つめ合っている。

 

「ねえ、ユイ?クロとチャコも自分たちに何が起こるか理解していて、最期のお別れを言っているみたいだね」

 

「うん」

 

ハルの感じた通り、クロとチャコはお別れを言っていた。そして『一緒にいてくれてありがとう』と、お互いに感謝の気持ちを伝え合っていた。

そんな、死を目前にしても慈しみ合う2匹の姿に、ユイもハルも涙を浮かべて微笑んでいた。

 

チャコが見つめ合っていたクロから目をそらし、ユイとハルの顔を交互に見つめて、微笑むように目をつぶり。そして息を引き取った。

クロはチャコを看取ったあと、自分もユイとハルの顔を交互に見つめてからチャコに寄り添って寝そべり、後を追うように息を引き取った。

 

「クロ、チャコ。今まで私たちのこと見守っていてくれて本当にありがとう」

 

「ホントに、あんたたちは最後の最期まで『おはしみたいにいつも一緒』だったね」

 

そして2人は抱擁(ぎゅっ)をして、愛犬の死を悼み涙を流すのだった。

2人は、2匹の埋葬をどうしようか?と思案していたが、ハルは2匹の死に際し、この町の言い伝えにあるように、クロとチャコが前世での死を迎えたあと、この町で子供たちを守るために頑張っていた。そのことを思い出していた。

そこで2人は神社の近くの崖近くに生えている木の下なら、クロとチャコが愛したこの町の子供たちが住む町が一望できる。ここだったら!と、現在神社の管理人であるユイの祖父(元町長といい、この家系の男は存外長命であるらしく、まだまだ健在)へ、クロとチャコを埋葬することの許可を貰いに行った。

※実は山自体があの元町長の家が所有する土地であった。なので、神社の管理人=山の所有者。となるのである。

ユイの祖父は二つ返事で許可を出してくれた上に、墓標についての費用を負担するとまで言ってくれた。元々があの祠に祀られていた子犬の生まれ変わりであり、その子らが亡くなったのだ。負担しないという話はない。

ユイの祖父の紹介で町の石細工や加工を営んでいる店へ墓標のデザインについて相談しに訪れた。そこはもちろん。クロとチャコの像を造った。見ただけでチャコが怯えてしまうほどの顔の怖い、当時の元町長の幼馴染が営んでいた店である。

2人は事前にあーでもない、こーでもない。と話し合い、決まったデザインを伝えてその見積もりを貰って来た。2人はまだ若いので墓石についての相場は分からない。なので、祖父も見積もりを貰って一旦持ってこい。と指示を出していたのだ。

貰って来た見積もりを祖父に渡す。古い付き合いなのでぼったくることはないと思っていたが、これでは儲けも殆どないだろうに・・・と苦笑いするのだった。

数ヵ月後、あの木の下に『おはし』のように寄り添う2本の細長い小さな墓標が建てられた。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

コトワリ様はその小さな墓標が建てられたのを見、あの子たちが今回の生を終えたことを知る。

 

「母親とも慕った者達と暮らせたのだ。幸せであったであろう」

 

しみじみと2匹の冥福を祈った。

そこに近付いてくる2つの小さな影・・・。

 

「コトワリさま、ただいま!」

 

「ただいま帰りました!」

 

まるで、自分らが生まれ変わり生き、そして寿命を終えたことすらなかったかのように、ちょっと長めのパトロールに行って帰ってきたかのように、クロとチャコはまたやってきたのだった。

 

「おぉ、ヌシら・・・彼岸へ渡ったのでは?」

 

「んん?だってボクたち、あのとき『またね』って言ったよ。ね、チャコ?」

 

「そうね」

 

あの時、クロとチャコは息も絶え絶えに上手くいえたかどうか分からない上に、チャコはすでに言葉を発することすらできない状態であったにもかかわらずしれっと言う。

 

「な・・・しかしあの時は風が強くて聞き・・・」

 

「きき?」

 

「もう、どうでもいいわ!」

 

相変わらずクロには滅法弱いコトワリ様である。そして、意識を集中し、クロとチャコが生まれ変わってから約20年振りとなる人型へと姿を変える。

クロとチャコは顔を見合わせたのち目を輝かせてコトワリ様に駆け寄る。コトワリ様は駆け寄る2匹を待ち構え、抱き締めるのであった。

 

死した後、クロとチャコは正式に神に叙された。これからは自分らの子孫(今回はちゃんと子孫を遺すことができた)や町の犬や猫たちと一緒に町を見守り、時にはコトワリ様のお手伝いをして過ごすことになる。

コトワリ様は町を一望できる場所に新たにできた墓標の前に佇み、クロとチャコが神に叙されたこと祝い、そしてこれからのことを考える。

 

(そうか、そのような話が前々からありはしたが、正式に神となったのか。しかしクロは・・・、チャコと同様に成犬(おとな)を経験したが相変わらずのようだし、まともに話を聞いてくれるだろうか?まあ、あの子らは神となったからと言って何かが変わるとは思えぬしな。変わったと言えば祠から離れて行動しても力尽きることがなくなった。くらいか・・・。しかし疲れはするだろうからな・・・。何かそれを和らげるような物でも贈ってみるかな)

 

コトワリ様の予想通りクロは、『神さまになったからって、ボクはボクだしチャコはチャコ』そう言って憚らないのだった。

 

(どうのような神の計らいかは分からぬ。だが、あの2人と2匹が『生きて』一緒にいる姿をみることができことは、ワレにとっても望外な喜びであった。あの2人には・・・)

 

コトワリ様はそこまで考え、すぐ隣に立っている『あの木』を見やり、そして山を、町を見渡して

 

 

「生きていれば悲しみにとらわれ夜の道を歩くこともあるだろう。だが、それでも、あの2人の魂がもうあのような深い夜を廻ることなく、日の当たる昼を廻ることができるよう、ワレは願っている」

 

 

「いつまでも・・・」

 

 

コトワリ様はそう呟くと、パトロールに出たクロとチャコがそろそろ帰ってくるので出迎えようと神社の方へ、ふわふわと去って行った。

 

 

これは、とある町に伝わる町を救ったという2人の少女と2匹の子犬。そしてそれらを見守る土着の神。その伝承を独自の調査と解釈により書き記した物語である。

願わくば、幾度生まれ変わったとしても、2人の手が繋がれんことを。




これで、本当の本当に終わりでございます。

何と言いますか、クロとチャコがどういう存在になるかという結果は変わらないので、2匹にとってはこっちの結末のほうが良かったんじゃね?とか、土砂崩れの恐れがあるなら先にそっちを避難させるのが優先じゃね?とか、色々突っ込みどころはあるかもしれませんが、大目に見てやってください。

ここまでお付き合い頂いた方々。本当にありがとうございました。
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