今回は、お父さんへクロとチャコの写真の印刷をお願いしたハル。それを受け取った元町長と幼馴染の腐れ縁。です。
なんと言うか、元町長がメインを食い始めてる…
家に帰ったハルはお父さんにクロとチャコの写真の印刷をお願いした。
そのお願いの仕方が
「ほら、お父さん。あのほら、アレ!クロとチャコの!あの、パソコンに、印刷が!写真で!」
必死になってお父さんの部屋の方を指さしてじたばたしている。これにはお父さんも何が何やらと困り顔である。娘の珍しく慌てた様子にお母さんもキッチンからやって来る。
「帰って来るなりどうしたの?お父さん困ってるじゃない。ほら落ち着いて」と言って水の入ったコップを差し出す。
「んっ、んっ、んっ…ふぅ~」
「落ち着いたか?で、どうしたんだい?」
「あ、あの…」
言いかけてあることに気付く。あの町の前の町長さんがクロとチャコを子供たちの守り神のように祠に祀りたくて、そのためにクロとチャコの像が作りたいから写真が欲しい。
これ、説明すると「なんで祀るの?」となって、あの夜のこと説明しなきゃならなくなっちゃう。
どうしよう…
そしてどうにかこうにか絞り出してこう言った(この間、約0.3秒)
「向こうでたまたま小学校一緒だった友達に会って、私とユイが犬を連れてたのを見かけたことがあったらしくて、その子今、絵を勉強しててあの時見た子犬が可愛くて練習に描いてみたいから写真が欲しいって言われたの」
「で、引越してから一度も会ってないのに私のこと覚えてくれてて、クロとチャコのことも覚えてて可愛いって。なんか嬉しくなっちゃって。だから、あの…」
「なんだそういうことか。それだったらお安い御用だ。印刷しておくからお風呂に入ってきなさい。クロとチャコ、1匹ずつ写っているのでいいんだね?」
「うん」
注)写真があるので、こっちの子犬は?と聞かれてしまうこともあるため、ユイはチャコの他にクロという犬も飼っていたが、引っ越す少し前に事故に遭ってしまったと説明してある。ウソは言っていない。
引越しをする理由が「ハルのためだ」と言って強行したお父さん。
実は本当にハルのためだったのだ。
小さいときから何か他の人には見えないものを見たり聞いたりしていた事は知っている。成長すれば収まるだろうと思っていたが、ここ最近(引越す直前)激しくなっているように見える。
なので、本当は引越すかどうか迷っていたのだが、「これはマズイ!」と思って、引越しを強行したのだ。引越した後、母(ハルにとっては祖母)に、「そうだったらそうと言いなさいよ。まったくこの子は」と、小言を言われたりもした。
引越す直前にあんな事故、つまりは手遅れだったのだが、引越してからはハルの状態も落ち着いたようなので、本来の優しいお父さんに戻れたのである。
しかしあの時以来、ふさぎ込んではいないが、どことなく他人との間に壁を作って友達を作らないようにしていた節がある。そんなハルが友達のことで騒いでいるのを見るのは、良くも悪くもユイ以来。両親とも笑顔になっているが、そこは親である。なんとなく隠し事しているな?と感づいている…。
(お父さんお母さん、ごめんなさい。いつか必ずあの夜のこと話すから)
それ以降、ハルと元町長の文通めいたやり取りはハルが嫁ぐまでしばらく続く。
後年、この家の者が引っ越しする際に遺品整理等をしていた時、このやり取りの手紙が見るかることになる。これにより、神と呼ぶかは別として、そのような超常的な存在とそういったモノと人間の共存を示す歴史的資料となるのだが、それは今ここで語るべきことではない。
場面をあの町に戻そう。
遺骨を預かった元町長は、翌日にはもう行動を開始していた。
チャコを埋葬するためには祠の土台を壊し、一旦祠を脇に避けておく必要がある。像が出来あがってからその設置と併せて行うのが合理的だ。しかし、像は写真が届いてから発注し、しかも2体でそれに犬種も違う(はず)だ。完成までそこそこ時間がかかるだろう。祠の少し前方の両サイドに設置する予定だから、同じ角度ではおかしい。左右対になるようにしなければならない。同じものを2体とは訳が違う。
元町長は一刻も早くチャコをクロの隣に埋葬してあげたかった。
こういう時、町長時代であったなら人員の確保等は楽だったが、役所主体で工事をするとなれば予算がどうとか、それ以前にするかどうかの決議から始まるのが面倒で仕方がない。
人員確保については町長時代の名残りで伝手があるからまあ大丈夫だろう。町長やってて良かった。と思う。決議やら何やらは個人でやるので特に必要なし。
「ハイ!工事やりたいです!」
「許可します!」
と、一人芝居をするぐらいである。
一応は役所に工事する旨、届を出す必要があるのだが、会議を行う必要がないだけ相当マシである。町長辞めてて良かった。と思う。
予算については…家が古くからこの町に居ついていて割と裕福であることに加え、町長時代にあの事件の後から自分と同じく古くから住んでいる、いわゆる「旧家」とか言われるような家、数軒にいざという時に協力してもらえるよう渡りをつけてある。そのいざという時が来たのだが、本当に協力してくれるかどうかは少々不安である。だが、どこか他所の町へ引越すことを考えたとしたら、お金があるのだからどこへなりと行けたはずだ。それなのに、この町の夜が酷い有様であったにもかかわらずどこにも行かないのは、町に愛着があるからではないのか?そうであれば今回ハルから聞いた話を含めて説得すれば行けるはずだ。万が一ダメだったとしても、神社を建ててから管理人になることは決めていたので何かと物入りになることは想定できた。結構、頑張って貯め込んである。家族には少々疎まれたが…。
そういった諸々を考え、両手で頬をパチンッと叩き、
「よし!」
と、気合を入れてチャコを埋葬するための準備に取り掛かった。
一旦祠を土台ごと外し、チャコを埋葬する段取りが整った頃、ハルからクロとチャコの写真が届いた。
「こういう姿をしていたのかぁ。なんとも可愛らしいではないか。では早速…」
元町長は石の細工や加工業を営んでいる古い知り合いの元を訪ねた。
口は悪いが腕は確かで、子犬の像を造ろうと考えた時、真っ先に頭に浮かんだ相手である。その相手と自分とは幼馴染。子供の頃はよく一緒に悪さをして二人揃って叱られたものだ。
「よっ、景気はどうだい?」
「まあまあだな。最近山に籠ってるかと思ったら、なんだい急にシケた面見せに来やがって」
確かに口が悪い。
「ん?久しぶりに今晩どうだい?」
と、人差し指と親指で輪を作り口元でクイッと呑む仕草をする。
「しゃあねぇなぁ、もうすぐ仕舞いだからちょっと待っててくれ」
「おう、待ってるよ」
小一時間ほどで後片付けを終えて出てきた幼馴染。
「待たせたな。どっちにする?」
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『どっちにする?』とは?
以前のこの町の夜の事はご存じだろう。
この町で知り合い同士が呑む場合、集まったメンバーのうちの誰かの家で呑み、そのまま泊まるのが習慣である。今は夜に出歩いても危険はなくなっているのでどこかの店で一杯。でもいいのだが、元町長辺りの年代はどうしてもその習慣が抜けない。というより、頭で安全と理解していても心が追いつかない。なので、今晩呑もう。という話があり、どっちにする?というのは、どっちの家で呑む?という意味である。
一応は昔から居酒屋のような酒を呑ませる店はあったのだが、いかんせん夜はとんでもないことになっているものだから店に入るのは日が暮れる前の夕方。そして夜になると店を出て帰ることができなくなるので朝までいることになる。
一度店に入れば次の日の夜明けまで、つまり約10〜12時間は居続けることになるので、客は少なくても売り上げはそこそこだったという。
この町で居酒屋を営むような度胸のある。というよりも店が店だけに酔狂な者がいることもさることながら、何故か毎日のように誰か、次の日が休日ともなれば数人が朝まで呑みにやってくる。更にその中から年に数人は、酔った勢いで「知ったこっちゃねえやぁ!」と店を出て帰らぬ人になるという、文字通り酔(って)狂(う)者が少数派ながら存在した。
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「今日はうちで呑みたいんだ」
「チッ、イヤな予感しかしねぇ」
「まあ、そう言うなって」
元町長が神社と祠の管理のために山に籠ってしまったので呑むのは久し振りである。悪態を吐(つ)きながらも楽しそうにしている。と言うよりも、そのやり取りを楽しんでいる。
久し振りなので積もる話もあり盛り上がっていたが、ある程度酔いも回ったころ、本題を切り出した元町長。この町が安全になった経緯を掻い摘んで話す。
「…と、いう訳なんだ」
「そおかぁ、あの時の女の子がそんなことを…」
幼馴染は話を聞きながら、酔いも手伝って号泣している。元町長と幼馴染な上ここまで長い付き合いが続いているのだ。表面的な性格は正反対でも本質的な部分は似通っている。
要は、似た者同士である。
そして、この2匹の子犬の像を造って欲しいと写真を見せる。
「イヤな予感が当たりやがった」
とは言いながらも話を聞いたおかげでやる気になっているのか写真に見入っている。
「こんな小さい子犬が主人を守るために命がけで、か…」
「なあ」と元町長。
「ん?」と幼馴染。
「もし俺達が子供の頃、俺が同じようにこの町の夜に行方不明になっていたら、ハルちゃんのように探してくれたかい?」
「けっ、将来こんな儲けにならねぇ仕事を押し付けてくる奴だとわかっていたら喜んで見捨てたね」
「そうか」
元町長は『分かっているよ』という顔をして微笑んでいる。
幼馴染は一言
「けっ、勝手にぬかせ」
と言って、コップに残った酒を一息に煽ると、横になって盛大ないびきと共にそのまま寝てしまった。『将来』、『わかっていたら』なので、子供の頃であれば当然『わからない』。
つまり、翻訳すると『探しに行くに決まってんだろうが!このスットコドッコイ!』である。それを理解して微笑んでいるもんだから、気恥ずかしくなって寝てしまったのだ。
「まったく、口が悪いのは相変わらずだな…」
押入れから毛布を引っ張り出して幼馴染にかけてやりながら
「俺も、お前がこんなに口の悪いやつだと分かっていたら放っといたね」と、
苦笑いをして自分も同じように横になって寝てしまった。
最初、ある程度町政に関わり状況説明ができる人当たりのいい人。ということで出てきた元町長です。仮にも町の長をやっていたということで行動力ありまくりです。放っておいても勝手にどんどん動いて話を作ってくれます。
そのおかげで今話と次話の暴れっぷりが凄まじい。
次回はなんと、メインを張ります。という訳で、次回もやや早目に投稿できるかと思います。