完夜廻もしくは深夜廻らない   作:トロリスト

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予告通り町長メインの話になってしまいました。
最初はこの辺りや次に予定しているハルの話などは、数行でサクッと説明するだけにの予定でしたが、元町長は動き回るわ脳内ハルちゃんが無言で見つめてくるわコトワリ様がハサミを砥ぎ始めるわで、気が付いたらこんなことに…。

今回は、チャコの埋葬と2匹の像の設置。です。


第 7話 おひろめ

元町長がチャコを埋葬しようと作業するため作業員を伴いやってくる。

祠ではあるがクロのお墓でもあり、作業中はドタバタとうるさくなると思うので、

作業前にコトワリ様へ挨拶をする。

 

「コトワリ様、クロと共にこの町のために戦ってくれたもう1匹の子犬、

チャコが亡くなりました。

ひいては、彼の者の遺骨をクロの隣に埋葬するため祠の下を掘り返させて頂きたく、

その旨、クロへお伝え頂けますようお願いする所存で御座います」

 

元町長は何かコトワリ様から何か兆候がないかと深々と頭を下げたまま動かない。

少しして元町長の耳に、ハサミ開いて閉じた時のような「ジャキンッ」という音が聞こえた。

 

「………!」

 

今聞こえた金属同士を擦るような音。コトワリ様がハサミを鳴らして知らせてくれたに違いない!

元町長は身体を起こし顔を輝かせる。そして再び深くお辞儀をする。

 

「ありがとうございます!」

 

「よし、みんな!作業に入るぞ!」

 

周りの者は皆、何が起こったか分からず不思議そうな顔をしているが、

ただ一人の若者、手伝いに駆り出された元町長の孫だけは同じように音が聞こえたのか祖父の言葉に頷いている。

 

それから作業が始まった訳だが、台風が直撃しても吹き飛んだり壊れたりしないようかなり頑丈に造ってあるため、一旦土台を壊してから掘り起こすのも大変難儀である。数時間してやっと掘り起こすことに成功し、祠を別の場所へ移す。

 

元町長はクロの埋まっている隣に自ら穴を掘り、手を合わせたあとチャコの遺骨の入った箱を宝物を持つように手に取り、頭の上に捧げるように持ち上げ冥福を祈る。それからそっと穴の中に下した。そして、手ずから土をかぶせ、もう一度手を合わせる。

 

「クロ、ハルちゃんが君と仲良しのチャコを連れてきてくれたよ。これで寂しくなくなってくれると嬉しい」

 

元町長の耳に微かに嬉しそうな子犬の鳴き声が聞こえた気がした。何が起こったかをなんとなく察すると、嬉しそうに微笑んだ。

 

「よし!祠を戻すぞ!」

 

なんとか最初に祠を設置したメンバーをかき集めてきたので、突貫工事ながらも一度取り外す前と全く同じに設置し直せた。

とは言え、戻し作業は昼過ぎから初めて、もうだいぶ日が傾いて来ている。

 

「これで元通りだ。あ、そうだそうだ」

 

元町長は祠の扉を開ける。この人はなんだか色々考える人で、もしクロが此岸に留まり続けまだこの辺りにおり、もし匂いを感じられるのであれば、何か見知った人間の匂いのするものがあるといいのでは?と考えてユイの家に行き、お母さんへ事情を説明してユイの使用していたタオルを貰い受け、祠の中に敷いてあったのだ。

数年の月日が過ぎているので色褪せたり端がほつれ始めていることはあっても、本来なら最初に敷いたそのままの状態であるはずのタオルが、なにか生き物が上で寝そべったりした跡のようによれている。

 

「やっぱりそうか…」

 

クロがまだ此岸に留まっていることを確信する元町長。

それと同時にそのことを申し訳なく思う。

 

「君がどういう気持ちで留まってくれているのかは、神ならぬ我が身には分からないが、

子供たちを見守っていてくれて本当にありがとう」

 

そう言った後、実はハルを送って行った別れ際、ハルからも何か身に着けている物、ハンカチを貰い受けていたのだ。それをタオルの横にそっと置く。

 

「さて、帰るか」

 

元町長は扉を閉め手を合わせたのち、コトワリ様の神社へ作業終了の報告をした。

 

「なんとかチャコを埋葬することができました。これで、クロも寂しくないと思います」

 

埋葬ということなので、一応は『葬儀』ということになる。

なので、後日、知り合いの神主を呼んで簡単ながら葬儀を行った。本当は埋めた後すぐにでも。と考えたが、急な話で相手の都合もあり手配が間に合わず後日となってしまった。

 

それから数ヶ月、とうとうクロとチャコの像が完成した。口ではなんだかんだと文句を言っていたが、普段の仕事は若い者に任せ、自分は石像造りを最優先し、それこそ寝る間も惜しんで作業していた。

 

出来上がったあとちょうど様子を見に来た元町長へ、こんなの屁でもねぇ!と言わんばかりに完成を報告したのだが、幼馴染の疲労困憊とした顔、そして目の下のクマ。しかし完成したことを喜び、達成感に満ちた顔。元町長は、分かっていながらもシレッと、

 

「そうか、こんな簡単な仕事を頼んで悪かったな。じゃあ、また何かあったら頼むよ」

 

「え、あ、その…」

 

いつものようにうっかり強がりを言ってしまい後悔している幼馴染を残し、背を向けて『いつものことだ』と、ニヤニヤ笑いながら完成した像を見に、作業場へ行ってしまった。

 

その後は関係各所へ連絡し、設置作業の日程調整と作業工程の確認。数日間は準備に追われた。

 

数日かかりやっと全ての手続きを終えた元町長。幼馴染と数人の作業員を連れ、布に包まれた重そうな荷物を2つ運んでやって来る。祠の前に設置しようというのだ。

 

元町長は満面の笑みを浮かべて嬉しそうに

「クロ、チャコ、君たちの像ができたぞ。ここにいるしかめっ面したのが造ったにしては可愛くできていると思う。気に入ってくれたら嬉しい」

 

「口の減らねぇ野郎だ」

 

「はっはっはっ、お前さんほどではないさ」

 

「けっ」

 

とかなんとか憎まれ口を叩きながらも、事情を知って造っている上、なかなかの会心作だったのか満足げな顔をしている。

 

「よ~し、設置するぞぉ」

 

それから数時間、穴を掘ったりセメントを流し込んだり、仮設置して固定用の支柱に括り付けて、流し込んだセメントが乾くまで一旦撤収。数日後、セメントが乾いてから補強をして終了。

※細かく書きたくはあったのですが、別に石像の建て方をレクチャーしても仕方がないのでザックリです。

 

仕上げやら何やらやって更に数日。とうとうお披露目の日となった。役場のwebページやSNSを利用した告知は特に行っていない。皆に親しまれて欲しいと思うが、派手なセレモニー的なものを執り行うつもりはなかった。

ただ、ひっそりとみんなのそばに寄り添い、見守ってくれる者たちがいる。そんな認識だけして貰えればよかったのだ。

 

なので、奥様方の井戸端会議で上がる噂話程度にしか情報は流していない。にもかかわらず、結構な人数が集まっている。主に、子供のいる家族連れ、クロに助けられた子供も多い。

クロの声が届かなかったり、聞こえても急に動きが止められず怪我をしてしまった子供もいる。最初から自分が気を付けていればいいだけの話なのに、助けてくれなかったから怪我をした!と、逆恨みするような見当違いも甚だしい者はいなかった。

 

 

元町長は感慨深げに集まった人たちを見渡すと、クロとチャコの像を覆っている布を一気に剥いだ。

 

大きくはないが歓声が上がりパチパチと拍手が聞こえる。

 

「この度は特にお知らせしていないにもかかわらず、お集まりいただきありがとうございます。

なぜ、子犬の像を建てようとしましたかと言いますと、今日お集まりいただいた方には思い当たる節がある方が殆どだと思っております。

近頃、子供たちが危険を知らせるような犬の鳴き声を聞いて立ち止まったら助かった。そんな経験をしたのではないでしょうか?

おそらく、と言わざるを得ないのですが、この祠で祀っている子犬のクロが子供たちを助けようとしてくれていると思われます。

なぜなら、今までそのようなことはなかったのに、この祠を建ててしばらくしてから起こっているからです」

 

元町長は、この事は言った方がいいか?知らずにいた方がいいという事もある。

だが、真実を話す必要があると感じた元町長は深呼吸し、集まった人たちを見回してから話を続けた。

 

「この町について、詳細をご存じの方は少ないでしょう。実は、今皆さんが立っているこの山に、昔からこの町に住んでいる人間を唆し、死に至らしめる何かがいました」

 

集まった人たちは、夜に妙な気配がしたり、行方不明者が出ることを不思議がっている者も多数いたが、まさかそんな、人を死に至らしめるような何かがいたとは夢にも思っていなかったので、内心怯えてそわそわし始める。

 

その気配に気付いた元町長。

 

「しかし安心して下さい。その何かは、勇敢に立ち向かった少女たちの手により、もういなくなりました。その時、少女たちに寄り添い、助け、導いたのが、この子犬たち、クロ。そしてチャコです」

名前を呼ぶときに、クロとチャコの像の頭をポンポンッとやる。

「そのことを私の夢枕に立ち、教えて下さったのが、この町に住む人であればおおかたの人がご存知でしょう、隣の神社で祀られている、理様です」

 

集まった人のなかから遠慮がちに手を挙げて発言を求める者がいる。

 

「あの、本当に、その何かはいなくなったのでしょうか?」

 

その疑問は当然である。そんな、人を唆して死に至らしめる何か。そんなものがいきなりいなくなったからもう安全です。と言われても、「はいそうですか。わかりました」と、あっさり納得できる訳がない。

 

「その疑問はもっともです。しかし、私は『100%いない』とお答えします。

なぜなら、その出来事はもう何年も前の話で、神社ができ町長の職を退いた後から管理人的なことをするために隣の小屋で寝泊まりし、時には夜間に表に出て見回りのために歩きますが、おかしなことは一度も起こっていません。それに、自慢にもなりませんが、その出来事以降、この町で行方不明者も出ていません」

 

 

ザワ…ザワ……

 

 

「なので、私はこの山、強いてはこの町は安全である。ちょっと違うな…安全になった。と断言します!」

 

そう言って集まった人を見回し、自分の言葉が行き渡ったことを確認してから静かに話を続ける。

 

「最初、ここには少女が作ったこじんまりとしたクロのお墓がありました。理様のお告げを聞いた後、少女たち、子犬たちに感謝し、忘れないようまず祠を、次いで過去この山で亡くなった方たちのために慰霊碑を建てました。

そして、元の神社がダムに水が貯れば沈んでしまう場所にあり忘れかけられていたにもかかわらず、ただならぬ手助けをしてくれたであろう理様の神社をここに建て直したのです。私はこの祠や神社を皆に親しまれるようどうしたらいいか思案していました。最近になりクロとチャコの写真が手に入ったことで、これだ!と、クロとチャコの像を建てた次第です」

 

「私は、理様の神社やこの祠に毎日お参りに来て欲しい。そんなことは言いません。ただ、この町のために戦ってくれた者がいたこと、そのために命を落とした者がいたことを。感謝する気持ちと共に忘れずに、心の片隅にでも留めておいて貰いたい。それだけです」

 

そう言って、深々とおじぎをした。

元町長は、ゆっくりと体を起こしニコッと笑い。

 

「では、たまたま集まってくれた方が多かったため挨拶させていただきましたが、特に催しを考えていた訳ではないので、あとは像の近くまで行って見るなりご自由にして下さい。子供たちが元気な姿で遊びに来てくれたのを見れば、この子たちも喜んでくれると思いますので」

 

集まった人たちは少々拍子抜けしていたが、この人は町長の時から妙な人だったという共通認識がある。まあ、仕方ないか。と、思い思いに祠へ行き像にお礼を言う者もあり、そのまま帰ってしまう者もあり。しばらくの間、祠と神社の周りは楽しそうな雰囲気で賑やかだった。

そうそう、元町長はクロとチャコは幽霊みたいなものと認識しているので、きっと誰かに撫でて貰ったりしていないだろうと思い、少しでも慰めになればと、像の高さは土台部分を含めて子供の背の高さに合わせ、だいたい目の高さくらいにしてある。子供たちが撫でられるようにという配慮だ。素材が石なのでペチペチ叩くことになるのだが。

 

像のお披露目が終わり、物珍しさから参拝ついでに見に来る人がしばらく増えたが、来る人も減ってまばらになり、元の静けさを取り戻し始めた頃、元町長はハルへ招待状を出す。

本当はお披露目の時に同席して貰いたかったのだが、間違いなく町を救ったであろう少女がハルであると特定され、もみくちゃにされてしまうだろうことが予想できた。そのため招待するのは間を開けたのだ。

 

この出来事が、彼女の辛い記憶を乗り越えるための一助となってくれることを祈りながら。




このエピソードは残り2~3話になると思います。
次回は、調べものはだいたい終わったので早くて来週頭頃。

ハル「はじめに、では私視点メインって書いてたじゃない」
私「あの、「主に」だから勘弁してください」
と、出番がなくてむくれていルをなだめつつ…

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