完夜廻もしくは深夜廻らない   作:トロリスト

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まだ、まだ大丈夫ですね。本当に色々修正して内容が危ないのは(内容によっては私の身が危険という意味)次の話。

今回は、元町長から招待状が届き両親と一緒に見に行きたいハル。
でもそのためにはあの夜のことを…。です。


第 8話 うけいれる

そしてハルのもとに元町長からクロとチャコの像ができた旨、手紙が届く。祠と像を一緒に収めた写真も添えられている。写真を見る限り、クロとチャコの像からは楽しそうな雰囲気が伝わってくる。

手紙の最後に「クロとチャコも待っていると思うので、是非、遊びに来てあげてください」と綴られている。

 

(来た…)

 

できることなら両親と一緒に見に行きたい。でも、そのためには…

ハルは、とうとうあの夜のことを両親に話す決心をした。

 

その夜

大事な話があるから。と、リビングに両親を呼び、クロとチャコの像が写った写真を見せる。

 

「これは?」

 

「ごめんなさい。少しだけ嘘を付いてたの」

「この像は、クロとチャコ。あの町でクロとチャコは子供たちを守る守り神みたいなものとして祀られてるの」

 

「???どうして?」

 

その反応は当然だろう。自分たちの飼っていた犬が何故?寝耳に水もいいところである。両親ともに顔の外も中も?マークでいっぱいである。

 

「どうしてそうなったかは、これから話します。今まであの夜起きたこと、話せなくてごめんなさい」

 

頑なにあの日のことを話そうとしなかったのに、いったいどうしたのかと両親は驚愕で目を見開いている。

 

「お父さんとお母さんと一緒に見に行きたくて。でも、そうなるとどうしてかを説明しなくちゃだけど、あの時のことを話さないと説明がつかなくなっちゃうから…」

 

両親は顔を見合わせ、小さくうなずく。

「話してくれるのはありがたい。ずっと気になっていたからね。でも、辛いようだったら無理しなくていいんだぞ。私たちは、娘を…ハルを信じてる」

 

「ありがとう。お父さん、お母さん」

二人の顔を交互に見て、

「辛いけど、いつかは話さなきゃって思ってたから。だから、聞いて欲しい。あの夜、私とユイに何があったのかを」

 

それからハルは起こった出来事を、ぽつりぽつりと話し始めた。

元町長に話した時はそこまで感情が昂ぶらなかったが、両親が相手では感情を抑えることは難しく、時折、涙ぐみ、鼻をすすりながら最後まで話し続けた。

両親は、途中促したり、余計な質問を挟んだりせずに静かに聞いていた。

そして、チャコの遺骨をクロの傍に埋めるためあの町に行った時、元町長に会いあの後、祠と神社ができたこと、クロは子供たちを見守っているかのように、危険が迫ると吠えて知らせてくれていること、チャコもいれば寂しくなくなるだろうし、一緒に子供たちを見守ってくれるのではないか?

そんな役目を押し付けるだけ押し付けて当たり前のように思って知らんぷりしているのはいけないので、像を作って知ってもらうこと。子供たちに親しんで貰いたいこと。そのために狛犬の替わりにクロとチャコの像を建てたい。そんな理由で写真が必要だったこと。

 

「今まで黙っていて本当にごめんなさい」

 

そう締めくくった。

 

話し終えたハルの目は真っ赤になっている。

ふと見ると、両親は子供の前であることもはばからず、大泣きしていた。号泣である。大事な娘が腕を切り落とされるということだけでも大事件なのに、まさか神と呼ばれるような存在が関わっていようとは。

たしかに、普通に腕を切られて処置もなにもしていなければ失血死していてもおかしくない傷である。きっと、神が切ったということが関係しているのだろう。捧げるものは左手と、そして流れ落ちる血。必要以上には受け取らぬ。そういうこともありすぐに止まったのだろう。

そうやって腕を切られ、生き延びた娘が目の前にいなければ到底信じられる話ではない。二人はどちらかから合図するでもなく、ほぼ同時に動き出しハルを抱きしめた。

「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい…」そう言いながらハルは小さな子供のように泣きじゃくった。その『ごめんなさい』は先刻言った通り、両親に向けて黙っていてごめんなさい。ということ、ユイに、助けられなくてごめんなさい。でもある。そのことがずっと棘になって心に刺さっていた。その棘は、全てを打ち明け、そのために流れた自分と両親の涙とで洗い流されたようだった。

 

ハルは、ようやくあの夜のことユイのことを受け入れることができた。過去のものとして忘れるのではなく、全てを受け止め心の中で昇華し前を向くことができるようになったのだ。

もし、ユイとまた会えたら目印に。としていた三つ編み。ユイへ『もう大丈夫だよ』、

『一人で歩けるよ』という意思表示のため、この日以来、髪を三つ編みにすることをやめた。

両親は何も言わず、慰めるように頭を撫でていた。

 

それからの両親の行動は速かった。すぐさまスケジュールを見て最短でいつなら行けるか確認し、ハルに「○月×日の土曜日に行きます」と返事を出しておくようにと言った。

そんな両親の素早さにキョトンとしながらも元気よく「うん!」と言うと、返事を書きに部屋へ戻った。

 

ハルが部屋に入ったのを見届けた後、お父さんが小さな声で話し出す。

「たしかに、ユイちゃんのことは残念で仕方がない。ユイちゃんも助かってくれていれば。と思う」

「こんなことを言ってはユイちゃんのお母さんには大変申し訳ないが、私は自分たちの娘が、ハルが腕を切られはしたが生きていてくれたことが何よりだと思っている。ハルさえ生きていてくれれば。そう思ってしまった。こんなこと、ハルに知られたら嫌われてしまうかな?」

「そんなことはありませんよ。今聞いたら『お父さんなんて大っ嫌い!』と言うかも知れませんが、親というものはそういうものだと、自分の子供が何より大事なんだと。いつか分かってくれるはずです」

「ああ、そうであって欲しいな…」

 

ハルは両親にあの日のことを話してからは、胸のつかえが取れたのか子供の頃に戻ったかのように少しずつ明るさを取り戻していった。

 

当日

山の神社と祠まで来た両親は、以前住んでいた時に感じた何か薄気味悪い気配がなく、爽やかさに満ちていることに気付き、ハルの言っていたことは本当だったんだな。と思わず呟いてしまう父。少しムッとした顔で父親の顔を見上げるハル。

「いやいや、疑ってたわけじゃないんだよ。本当に」慌てて取り繕う。

 

あの時と同じように境内を掃除していた元町長が、ハルとその両親に気付く。そしてあの時と同じように慌ててほうきを仕舞い、あの時とは違い今度は後を付けるのではなく堂々とこっちに向かってきた。

両親は「その節はどうも…」形通りの挨拶をしようとしたが、「…っと」

元町長はそんなことはお構いなしに、お父さんの手を握り「ありがとう、ありがとう!」と言って握った手をブンブン振り回している。

 

ハルとお母さんは目くばせをし、まずはコトワリ様に挨拶をしようと気付かれないようにそーっと離れて行った。

 

「ちょっと、ハル!母さん?!あれ?」

助けを求めて周りを見渡すも、妻と娘はすでに姿をくらましている。

「あの、町長さん?」

「“元”です」

「じゃあ、元町長さん」

「なんでしょう?」

「いや、そんなことはどうでもよくて、あの、ほら妻と娘の姿が見えないし、私も行かないと」

「ん?おぉ、すまんすまん。嬉しさのあまり興奮してしまいました。どうぞどうぞ。話は後でもできますからな」

 

やっと解放されて急いでハルたちに追いつく。

「ちょっと、置いて行くなんて酷いなぁ」

「ふふっ、あのままだといつになってもお参りに行けないと思ったから。あなたには犠牲になって貰いましたわ」

はははははっ、3人とも笑っている。こうやって家族で屈託なく笑い合ったのは本当にいつくらいぶりだろうか。

 

鳥居をくぐり、境内に入る頃には、3人とも思うところがあるのだろう。少し神妙な表情をし出している。

賽銭箱にお賽銭を入れ、手を合わせお祈りする。

 

ハルは

(コトワリ様ありがとうございました。クロとチャコが子供たちを見守って行けるよう、どうか見守っていてあげて下さい)

 

両親は、ハルからコトワリ様が縁結びの神でもあることを聞いている。

そうであれば、娘を持つ親の願うことは唯一つ。

(ハルに生涯の伴侶となるべき相手との良縁に恵まれますように)

そして

(あの子はもう十分苦しみました。これからの人生、あの子から悪縁を遠ざけて下さいますよう、お願いします)

(ハルの身代わりとなって亡くなってしまったユイちゃんにも、できることならば次の生での良縁を、何卒…)

しかし、親としてこれだけは言っておきたかった

(ハルの左腕について、ハル自身、覚悟の上でのことだったことは承知しています。ですが、小さな女の子に覚悟をさせなければならなくなる前に、どうにかできなかったのでしょうか?うちの子たちが犠牲にならなければ誰か他の家の子が同じことになっていたのでしょう。それならばいいという訳ではありませんが、どうしてうちの子とユイちゃんが?と、思わずにはいられません)

 

「凄く一生懸命お祈りしていたね?」

 

「ん?ハルに素敵な旦那さんが来ますようにってね」

 

「もぉやだぁ、お父さんてば」

 

和気あいあいとしてはいるが、こんな身体になってしまった自分(娘)を貰ってくれる人はいるのだろうか?と、3人とも不安でしょうがない。だが今だけはそんな不安を忘れて、一時の団らんに身を委ねていたかった。

 

「そうだ、祠の方にも行かないと!こっちだよ」

 

ハルが先導し祠の前までやって来る。

「クロ…、チャコ…」

ハルは名前を呼びながら像を撫でる。

「ユイと私を守ってくれたように、子供たちを見守ってあげてね」

 

「ハルから聞いたよ。君たちのおかげでハルが助かったことを。本当にありがとう」

両親とも像に向かって頭を下げる。

「そうだ!クロとチャコに持って来たものがあるんだ」

そう言って、カバンから袋を取り出す。

「ほら、コレ」

それは、ユイがいつもおやつにあげていたさかなの形をしたペット用クッキー。それをお供え物をするお皿の上に数個置く。喧嘩しないようにちゃんと偶数個をお供えする。あの日、ユイに渡されてクロにあげてみたら、喜んで食べてくれた。その時チャコは逃げちゃったからあげられなかったけど、うちに引き取った後、おやつに出したらクロと同じように喜んで食べてた。きっと好物なんだろうと思った。

 

そして、あの場所のことも話しておかなくてはと、両親を連れて行こうとした時、

「何をお供えしたんだい?」元町長が話しかけてきた。

「これです」袋を見せる。

「ユイがいつもこの子たちにあげていたおやつなんです」

「ほほぅ、こりゃいい。子供たちがお参りする時は、これをお供えするといいってことにしよう」

「あの、そんな適当に決めちゃっていいんですか?」

「あの子たちの祠は正式な神社って訳ではないからね。あの子たちが喜ぶことをしてあげた方がいいだろ?それに、お金よりもお菓子をお供えする。って方が子供たちも親しみやすいだろうしね」

 

「それで、改めてご両親と話がしたいのだが…」

 

「その前に、あっちに…」

チラッと木の方を見る。元町長はその視線に気付き、

「おおそうか、行ってやりなさい。私はここで待ってるから」

 

 

両親は、神社と祠以外に何か見る所があるのだろうか?と首をかしげる。あれ?そういえば買ってきた花束はどうするんだろう?

 

「こっちに、着いて来て」

 

先ほどまでの明るさと打って変わって神妙な面持ちになり両親を促す。

 

ハルは、ゆっくりと木に向かって歩き出す。そして、木の根元に花束を供えてから木に向かって話しかける。

「クロとチャコの像ができたから、今日はお父さんとお母さんと一緒に来たよ」

 

両親は、娘はいったい何を?と思ったが、先日ハルから聞いた話でユイちゃんは…

まさかこの木が…?

 

「ハル、もしかしてこの木は…」

 

「そう、この木でユイは…」

 

「そうか」

 

「ユイちゃん、君のおかげでハルは今もこうして元気でいられる。ありがとう。どれだけお礼を言っても足りない」

「ユイちゃん、あなたのお母さん。あなたがいなくなったとわかって本当に悲しんでた。決して、あなたのことを嫌いになってた訳じゃないのよ」

 

お母さんは気付いてたんだ。あの頃私はただ怪我をしたんだろうと思っていただけだけど、ユイが包帯をしていた理由が、お母さんの虐待だったかも知れないことを。

 

その後、両親と元町長はあの狭っ苦しい小屋で小一時間ほど話をしていた。ハルは木の下にとどまり、黄昏刻に近づく景色を一人眺めていた。その足元には姿こそ見えないが、クロとチャコが元気づけるようにハルに寄り添っていた。

 

 

それからは、両親もあの町が安全になったことを理解したので、時々遊びに行くお許しが出た。

なかなかに遠くはあるので毎週や毎月などしょっちゅう行ける訳ではないが、少なくとも半年に1度は遊びに行き、神社や祠の掃除の手伝いをしたりしていた。それは高校、大学を経て、就職してからも変わらなかった。就職してからは資金に余裕ができたので回数は少し増えた。

 

そうやって足を運ぶたびに神社の掃除などを手伝っているのだが、片腕がないせいで、箒とチリトリを同時に扱うことができない。なので、集めたごみをチリトリに乗せるには、足でチリトリを押さえるという、少々お行儀の悪い態勢になってしまうが、それはご愛嬌というものである。

 

そんなひた向きに作業をしている姿を見て、同じように時々手伝いに来るハルより3つ年上の元町長の孫が、時折り、ハルのサポートをしてくれるようになった。

 

ハルは、あの事件で左腕を失ってはいるが、町を歩けばすれ違った人が思わず振り向く程である。

つまり可愛い。

そんな子が体のハンデをものともせず、手当が出る訳でもないのに、時々やって来ては神社の掃除、参拝客の応対にと一生懸命に働いているのである。老若男女問わず惹かれない方がおかしい。

 

元町長の孫もその1人だ。

彼はなにくれとハルを気遣い、サポートした。ハルも少なからず悪い気はしなかった。しない所か、段々と彼に心惹かれていく自分に気付いた。

しかし、学生時代からそうだったように、誰かを好きになったとしても、どうしても自分の体のことを考えて、あと一歩を踏み出すことができなかった。

彼は片腕のない子が働いているのを見て、少し可哀そうと思っただけに過ぎない。そう思うことで、自分の気持ちを抑え込んでしまった。

 

神社の手伝いをしている時。という限定された状況ではあるが、こうした一時を過ごせているだけでいいじゃないか。

きっと、ユイがいた時を除けば今が人生で一番いい時に違いない。自分なんかがこれ以上を求めてはいけない。そうとさえ考えていた。

 

しかし、運命は今が人生の絶頂であると考えている。そんなハルを許しはしなかった。

 




今回は区切りの都合で普段より少々長め。
おそらく、次でこのエピソードもラストになると思います。

私の脳内ハルちゃんが満足してくれるといいのですが…。
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