最悪の個性   作:ルルイエカナタ

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第1話

ㅤ僕は貴方達に問いたい。もしも今日…自分の目の前で隕石が降ってきたら貴方はどうしますか。もしもいきなり滅び………つまり、いつ爆発するか分からない『爆弾』が自分の隣にあったらどうしますか。もしも貴方の向かう先に滅びがあったら、どうしますか。

ㅤきっといい人なら止めるために尽力するのでしょう。

ㅤしかしそれでも、もうどうしようもなかったら?どうしますか?

 

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()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。…何故なら最強如き、何の意味もないからだ。

 

 

 

ㅤこれは既に終わってしまっている世界の物語。既に閉じられた………。これ以上のIF(ありえたかもしれない可能性)も無い。ただ、同じ現象を未来永劫―――永遠に繰り返し続けるだけの世界となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それでやっと信用してくれたかな?。僕がこの世界の外側から来たってことに…」

 

ㅤそう言葉にしたのは茶色の短髪ストレートの髪をして、黒い学生服の少年。

 

「ああ、さすがに私の力は…私がいちばん信頼してるからね。()()()()調べた以上この情報信用はしよう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ㅤそう答えたのは黒髪ポニーテールの研究者の女性。とても若々しくまだ18か19に見える。

ㅤ俺は転移者、そして目の前にいる彼女は俺が前居た世界で小説を書いていたキャラクター、千鳥彩花。こいつはある特殊な能力を持っている。

 

――()()()()――

 

ㅤ自分が知ってしまった情報に関してそれらに関与が出来なくなるという能力を持っている。つまり、いついかなる時の情報を手に入れることは出来る。しかし、その現実が来た時、彼女は情報に沿って動くことしか出来なくなり、その全ての動きが限定されるという能力だ。

 

ㅤなぜ彼女の様な人がこの世界に存在するかは分からない。恐らくではあるが彼女と同質の人間、僕が小説で作り出したある種の能力者達、人の願いの集積体。それが俺が作り出した能力。そして、これも何故かは分からないが、俺が彼女達のリーダーとなって、共に“ある脅威”に立ち向かったキャラクターらしい。でも、転移の原因は知っている。

 

「それで、連条君だった…かな」

「清家でいい。連条は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そうかい、なら清家くん、悪いけど私の調べている限りじゃ、まだ君の全身に纏わりついている()()()()()弱点はない。」

「あっそ…期待はしてなかったから、いいよ」

「その割には絶望してないように見えるけど」

「こいつを倒す法則が見えていないなら、見えるようにするだけだ。力が足りないなら、足りるようにする。未ブラは俺も四巻までしか読んでないからな…」

「君の世界の知識を言われても、こちらはポカーンとするしかないのだが…」

 

「『清濁万象飲み干す「漆黒」の顎』」

 

ㅤそれだけ言うと彼女は黙った。いや黙ざるおえなかった。

 

「やっぱり知ってるな。まあ依頼人を信用しないお前らしいが」

「君が私の何を知っているのかな?」

「作者だからな」

 

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「まさか、君の人生は君だけの物だ。後悔していると言ってるんだよ。僕があんな小説(ストーリー)を書いたから君たちのような存在が生まれてしまった」

「ならとっととくたばれ」

「それが出来たら、ホント苦労しないよ…」

 

()()()()()()()()()()

 

ㅤ突然汚物にまみれた音がその耳に届いた。

ㅤ未踏召喚://ブラッドサイン。その世界では、神を超える《未踏級》と呼ばれる存在の頂点に君臨する『白き女王』と同じ姿をしている。現世における全知全能の支配者である彼女は、既存の手段では太刀打ちできないとされている。しかし、全体的に真っ黒に染めたそれは…俺には汚物にしか見えなかった。

ㅤ彼女の正体は「白き女王」の悪性そのもの、それが自己を獲得した姿がコイツだ。「この世すべての悪」「悪性の権化」「究極的な汚濁」「罪の塊」―――そう表すに相応しい化け物。本来なら城山恭介が目の前にいないとその姿は名前の通り『「漆黒」の顎』そのものだが、何故かコイツは人の形を保って俺に取り付いている。

 

ㅤとある科学の超電磁砲なら操歯涼子と同じように、魂の分裂を引き起こした結果なのだろう。まぁ、あの『穢れなき真実の剣持つ「白き」女王』と同等の力を持つ『清濁万象飲み干す「漆黒」の顎』が、その法則に適用されるのかどうかは疑問ではあるが…。

 

「今大事な話してるんだよ。見て分かんねぇか?カラスの掃き溜め」

「あらあらワタクシにとってはあにうえとのデートもしくは○○○以上に大切なものはありませんわ」

「誰がそこらのゴミ袋を圧縮して人の形に取り揃えたような存在と恋仲どころか性処理道具として扱うんだ、ホント気持ち悪い」

「やん♡そういうところが私の心を射止めてくださるんですわ」

「キモイ、話しかけるな、死ね」

ㅤもはや会話が成立しない。というか、成立することがない。より正確にはこちらの伝えたいことを理解しておきながら、コイツはこちらの意見をプラスの視点から捉え、気に食わないことは耳にすら入れないクソッタレのゴミ野郎。しかも実力で追い返せない………単純な暴力ではコイツに勝てないから質が悪い。神格級のさらに上、神々の上位法則たる理を司る《未踏級》は、星や宇宙を破壊できる程度の力では倒せないのだ。《未踏級》が魔神を上回るのは、最強の存在である「白き女王」が、とあるシリーズの魔神『オティヌス』の力を上回るという事で実証済みだったりする……。その上、【全事象の中心点】を使って俺の人生の全て―――何時でも、何処でも、誰といても…どの瞬間もこいつの監視の目がついている。それに俺は()()()()()()()()()()()()()()()

 

ㅤもう完全に詰んでいる僕の人生のすべてを費やしてでも成し遂げたい僕の目的は、こいつの完全な抹殺だ。

ㅤとはいえ、僕が読んだのはブラットサイン四巻まで。分かりやすく言うと、城山恭介が絶望するあの回までだ。はっきり言ってしまうと倒し方が一切分からない。そもそもコイツを倒せる方法が存在するのかどうかも分からない。何故なら、この世界にはブラットサインの召喚儀礼どころか、魔法や魔術といった神秘的な力すら存在しないからだ…。だと言うのに、この汚物は何故か俺を依代にして取り付いている。

 

「さて、情報屋としては早く出ていってくれないかな?ラブホでもどこでも行きたまえ」

「ラララララ!?ラブ、ラブホ!?そ、それはつまり兄上と私がついに結ばれると!?今日はお赤飯ですね!!」

「おいこらっ!!いくら下手に会話を挟んだら、ぶち殺されるからと言って、その挟み方は悪意の塊だぞッ!?」

 

ㅤちなみに清家の言っていることは正しく、もしも他の女の子が横から会話を挟めば、それだけでその女の子をひき肉と大して変わらない姿に変えるはずだ。それは音速以上で動き、腕を振るえば風圧で対象がミンチになるということだ。本気で殺すつもりなら、文字通り瞬殺…骨も残らない。五体満足、五臓六腑が揃って墓に入れる事は無いだろう。今回彼女がそうならなかったのは、この塵や埃以下どころか、汚泥や三角コーナー、便所ブラシ、風呂場の黒ずみ以下のクソッタレ野郎の思考に沿った回答だったからだ。その上、このバケモノは白き女王よりもタチが悪かったりする。白き女王は『城山恭介』以外の他人が死のうが生きようがどうでも良く、不快・邪魔・気持ち悪いなどと思っても、そいつを上手く利用して主人公『城山恭介』に構ってもらえるように立ち回るが、こいつは間違った意味の天上天下唯我独尊を体現した、自分本位なエゴイスト。ワンマン、気まぐれ、傍若無人、無慈悲、残忍、極悪非道…と実に見事なブラック要素てんこ盛りな化け物。コイツの真の恐ろしさは恐ろしいほど自己中心的で、尚且つとんでもなく短気で気難しい癇癪持ちであり、いわば歩く地雷原なのだ。気に食わなければその【一瞬】で、全力で、本気で、この宇宙全体を敵に回すよりも上回る驚異・戦力を以て殺しにかかる。その気難しさは最早理不尽の域に達しており、実際、多くの人間に身勝手な怒りをぶつけ、容赦なく惨殺してきた。最近ではギャルっぽい人が話しかけたり、この世界のヒーローとやらが俺を保護しようとした時なんか、コイツは本気で殺そうとしたくらいだ。その際、俺が全力で停めて、両方瀕死程度にまでなんとか被害を抑え込んだわけだが…。

ㅤまあそれは置いておいて…。

 

「取り敢えず有益な情報を手に入れたら寄越してくれ……じゃあな」

 

ㅤこいつが出てきた以上この場からはすぐに離れるべきだ。………何故かって?勢い余って世界最大の情報源を殺されるわけにはいかないからだ。

ㅤ離れた後、向かうのは現在クソッタレのヴィランとかいう元悪の組織の住処。中の人?は死んではいない、未満無事ではない以上の場所へと帰る。

 

 

 

ㅤその帰りの途中に聞いてしまった。

 

 

 

ㅤタスケテ

 

 

 

ㅤはぁ………くっそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はァ!!はァ!!」

 

ㅤ2人の少女は路地裏を走る。その赤と黒のランドセル、低身長を見るに小学生なのだろう。

 

「ねぇ!お姉ちゃん!!こんなことしてもいずれ捕まるよ!!やっぱり大通りの方に逃げた方がいいよ」

 

ㅤ白髪の少女はそう言いながら走る。しかしそれを遮るように後ろから後から何かが頬を掠め長い黒い髪を切り落とす。

 

「ッ!?こっちよ陽香!!」

 

ㅤ銃弾に気づいた帽子をかぶった少女、影香はその手を掴みすぐさま左の路地裏に逃げ込み。直ぐに建物の中にある階段に登る。

ㅤこれで一時的には巻けると思った影香は直ぐに息を潜める。

 

 

「おい奴らはどこに行った!!」

「こんなに長い道だ。どこかに隠れたに決まってるだろ!帽子を被ったガキは見つけ次第捕まえろ!白髪は殺しておけ!俺は建物から出てくるかもしれないからここで見張っている」

 

ㅤそのような声が聞こえると隣にいる陽香震えが止まらなくなる。それを押さえつけるかのように影香は覆い被さるようにギュッと体をを締付ける。大丈夫、大丈夫だから、そう心の中に呟き恐怖をかき消す。

ㅤ不思議と自分の体が震える感覚に襲われるが目を開けると陽香が私の体に抱きついていた。

 

 

 

ㅤわたしは…………お姉ちゃんだから………

 

 

 

ㅤ不思議とその先を言うのが怖かった。

ㅤわたしは、死にたくない。当たり前だ。死ぬのは怖い、誰だって死ぬかもしれないのは怖いはずだ。それの目の前にいるのに、半歩踏み出してこのこの為に命を危険に晒すなんて……

 

 

 

ㅤガツン!!!!!

 

 

 

ㅤその頭から音が聞こえた。

ㅤ陽香は突然の姉が壁に頭をぶつけたことに驚き、一瞬追っ手に対しての恐怖が停止する。

 

「お姉ちゃん、何を…………」

「陽香、あなたのランドセルを借りるわよ」

 

ㅤ有無を言わさず影香はランドセルを取り自分の帽子を陽香に被せる。

 

「いい陽香。今から私が彼らとは逆方向に逃げる。あなたはここから動かないで、出来れば2時間は。追っ手は彼らだけとは思えないし、幹部の中には確かその細胞を口に入れるとこでどこにいるかまで分かる個性を持っている奴もいる。わたしは既にさっき髪を銃弾で落とされてるから逃げようがないの」

 

ㅤそこまで言うと陽香は姉が何をしようとしているのかわかった気がした。でも理解したくなかった妄言だと思った。思い込みたかった。

 

「何……言って……お姉ちゃん……」

 

ㅤダメだ、それをさせる訳にはいかない。それに対する拒否の発言より彼女の発言の方が早い。

 

「いい。彼らの目的は私の奪還。私の【個性】は強力だから彼らはなるべく傷つかないように取り戻したいと思っているはず。だから私が囮になる」

 

ㅤそして瞬間、額にチュッと優しく唇をつけられ。

 

「助けてくれてありがとう」

 

ㅤ飛び出すように影香は体を出し数十メートル先に見張っている男に向けて、いきなりその男の回りにあるゴミ箱や電柱他にも外壁、それどころか屋根上にある貯水タンクが男を中心に重量が働いているかのように降り注いでいた。

 

 

 

ドガドゴバギィガラガラダッガッッッッン

 

 

 

ㅤそんな大きな音がその場を支配した。

ㅤもはや相手の生死など気にしていられる状況ではない。近くには陽香がいる以上ここを探る2人を逃すわけには行かない。今この場を知っているのは彼ら二人だけ。適度に相手のいる所に全力で潰しておかないとここが探られる。

ㅤ相手が狙っているのは私一人だけど命を獲るべきと一線ひかれている側にたっているのは陽香であり手を抜くことは出来ない。

 

もう一人の男が今の音に気付き路地裏に飛び出してきた時、彼はすぐにかまえ銃の引きがねを躊躇なく引く。しかし飛び出てきたのは銃弾ではなく小型の注射機の様なものだった。

ㅤ影香も人間だ。そんな物を弾き飛ばせる固い肉体を持っているわけでもそれを見切る動体視力があるわけでもない。

ㅤそれをまともに受けた影香はなにかマズいと思った。直感とかそういうのではなく何か大きな力を削ぎ落とされたような。自然と行動は殲滅に移っていた。辺りの影香を捕らえようとするヴィランたちに向けて全て()()に先程の男と同じように潰された。

 

ズァッッッッッッッッガァァァァァァッッッッッッン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ出ていった影香を追いかけようとしたがその前に軽めの轟音が鳴り響きそして止まった。そして次の瞬間バカでかい轟音鳴り一瞬陽香は思った。

 

ㅤお姉ちゃんがやったんだ…と。

 

ㅤ外に出た時それはここの災害でも通ったような荒れ果て具合だった。。貯水タンクが道を塞ぎ階段手すり後異質にねじ曲がりあらゆる場所という場所が捻れ狂っていた。

 

ㅤこれが姉の個性、空間観測と空間操作。その名の通り空間そのものを操作し半径1キロ以内だと彼女に観測される個性。防御面だけ置いてみれば攻撃力カンストの状態で相手の位置が手に取るようにわかるわけなので姉の領域に入るとたちまち全部が空間ごと削り取られたり内蔵かいつの間にか外に出ていたなんてこともある。

ㅤとはいえデメリットがない訳では無い。彼女の観測は脳を酷使し数分使うだけでも物凄く眠たくなる。だから確実にいるとわかっている状況でしか見えない場所の観測は行わない。更に本来はひとつしか持てないはずの個性を二つ持っている。というか元々観測の方は私の個性、()()()

ㅤずっと昔、4歳くらいの頃私達が個性を発現してから面白そうだという理由で私達は誰かもわからない長身の男に個性を奪われ姉に渡された。まるで誕生日プレゼント渡されたのに大人が可愛いからこっちに渡すなんて理由で。

 

ㅤ陽香姉を探し出すべく閉ざされてない道に向かい歩き続けようとする。

 

 

 

ㅤそう、《歩き続けようと》したのだ。

 

 

 

ドッッ

 

ㅤ音はとても小さく聞こえた。痛覚はなく、分かるのは何故か自分の視界がグルグル当たりを見回してした事だけだった。

ㅤ後に衝撃が体全体にあった。

 

「何っ……が」

 

ㅤ倒れたあと目を回すが姿みえない。すると背中に圧迫感がある。思わずグエと口から出したあとやっと痛みの耳が追いつき、右腕に痛みを感じた。とても痛かったが叫び声を上げる気力もなかった。

「あのクソガキがよくもやってくれたな」

 

ㅤふと野太い声がその耳に入る。

 

「腹いせに殺すか」

「まぁ待てよもう少し有効活用させてもらおうぜ。どの道奴はこの髪がある時点で逃げられないんだからさ。」

「アア!!」

 

ㅤもう1人の声が耳に入りその靴が視界に入った。

ㅤそいつは顔は見えないが姉妹がいた研究所で良く聞いた声だ。確か名前は。

 

「柏崎」

「そうそう、幹部さんの柏崎だよー。いつも君たちにお菓子を上げていた……ね」

 

ㅤギリッと彼女は自分らしくなく理解していながら歯ぎしりした。

ㅤこいつだ。こいつこそが今回の元凶。

ㅤ何せ私たちを施設から逃がしたのは他でもない()()()()()()()()

 

「なんでわざわざ私達を逃がしたんですか」

「ん?てっきり『私達を裏切ったんですかぁ』とか言うと思っていたのに。特に君の方はね」

 

ㅤふざけたように言葉を紡ぐ彼はあまりにもこの場で異質だった。だってもう片方は全力で追い掛けていた。個性まで使って。私たちの視界に入らないように追いかけてきていたんだ。あの弾丸だって本来見えないところから撃たれそれらが自在に操作されていたものだった。

ㅤそうおかしいのだ。外すこと自体が。

ㅤあまりにも出来すぎている。

ㅤ弾丸が髪の毛を貫いたこと。

ㅤ細胞を取り込めば相手の居場所が分かる個性。

ㅤ体に当たらなかった事。

ㅤ彼らがやられ影香が囮になるようにある程度騒ぎを起こしながら逃げたこと。

ㅤそれを追いかけず私の方を捕まえに来たこと。

 

「私達をわざと逃がして殺さないように、だけど逃がさないように髪を落とさせて、わざわざ私のことを捕まえてどういうつもりなんですか!!!」

 

ㅤそう彼女は言うと彼はヤレヤレと呆れた口調で話そうとする。

ㅤその前に私を押さえつけている男がどういう事だ、と声を上げる。

 

「君は脳筋だしボスから伝えられていないだろうけどさ」

「アァ!!」

「怒鳴るなよ。ねえ陽香ちゃん。なんで君たちを逃がしたか……ボスの命令って言うつもりは無いよ。むしろこれは僕の方からボスに打診したんだから」

「何を…………」

 

ㅤ彼はフー、と息を吐くと仕切り直すように話し始めた。

 

「影香ちゃんはこの10年でとても強くなった。それこそ幹部の僕達がまとめて掛っても簡単に倒せるくらいにね。実際そこの彼はともかく僕が彼女の範囲内に入っていたら僕はやられていた。だから僕は彼女の領域にはいなかった。でもね、これじゃ足りないんだよ。最低領域1000キロくらいまでは伸ばしてもらわないと困るわけ。ならどうやって成長させるか。いやこう言い直した方がいいかな?どうやってそこまで辿り着かせるか。努力という歩くスピードでは足りない。それこそバイクや車のようなスピードでないとね。しかしなにも安定させる必要性は何処にもない。」

 

 

ㅤその言葉の答えは1つだった。

 

 

 

「個性の暴走」

 

「そゆこと☆」

 

 

 

 

「僕達の目的は生物兵器の製造じゃない」

「お姉ちゃんは兵器じゃない!」

「怒鳴るなよ、そして話の腰を折るな。彼女は君の()()()()()。それは君も重々承知の上だろう。そこに価値が産まれる。彼女の髪の毛を手に入れたのも逃がさないためじゃない。新しく兵器を量産するため。さて情報は出揃ったけど。どう言う答えに行き着くかな」

 

ㅤそんなまさか、そのようなありえないような答えに彼女は行き着く。

ㅤ最も考えたくない答え。量産核爆弾以上の範囲での攻撃力カンストの暴走。

ㅤこの狂人の考えそうなこと。

 

「お姉ちゃんを爆弾として撒き散らすつもり。それにヒーローたちの目の前で!?」

「ダイセーカーイ。まあこの街のどこかにいるって言われるオールマイトに対してというのが本音かな。さすがのオールマイトも攻撃力カンストの力を目の前で受けたらどうしようもないと思うしね」

「そんなに上手くいくわけない。そもそも暴走って言っても私のことをお姉ちゃんの目の前で殺したとしてもそれが上手くいくのかもわからない。絶望するかもしれないし無気力になるのかもしれない。普通に怒りを覚えるだけかもしれなければ暴走してもそれが想定していたより小規模かもしれないでしょ。」

「そこはそれ。失敗したら殺して肉体は再利用するだけだからさ」

 

ㅤそれだけ言うと彼は爽やかな笑顔でニカッと笑った。

 

「最ッ低」

「褒め言葉さ」

 

ㅤ実用性も確実性もはっきりとしないままとりあえず実験で使ってみよう。彼が言っているのはつまりそういうことだ。しかも人間をまるで軍事用の手榴弾程度にしか思ってすらいない。

 

「チッそういう事か。それなら殺せねぇな……それ以上に愉快な事があるんだからな」

「そういう訳だからとりあえずその足を退けて捕縛しておこう」

「そう言ってもやつの領域に入れば一瞬でやられるだろう」

「別に領域に入っても大丈夫なためにこいつを捕まえておくんじゃないか。何もわかりやすい首輪の爆弾付きでもなくていいんだ。こちらはただプラカードでなにかしようとしたら頭に銃弾ぶち込むとでも言っておけばそれで解決さ。それに見えないとこまでの領域はそう長くは使えない。俺達が奴の脳に『チップ』を埋め込んでる限りな」

「なるほどな」

 

ㅤそう言うと踏みつけていた足をどかし襟をつかみブランと浮かす。

 

「まあ何も無傷で目の前に出すってのも味気ないな。もう少しオメカシしていくか」

「殺さない程度にな」

 

ㅤそれだけ言うと彼は拳を振り上げた。

 

「……けて」

 

「あ?」

 

 

 

ㅤなんで……なんでなの……なんでこうなったの……

 

ㅤわたし何もしてない……

 

ㅤ私は別に何かを欲したわけじゃない……

 

ㅤただ当たり前のような普通の家族が欲しかった……

 

ㅤこのお揃いのランドセルだって、ただ、私達の年代が持つのは当たり前って優しくしてくれていた頃の柏崎が教えてくれたから……

 

ㅤもう嫌だ

 

ㅤ誰が優しいのかも信じられない

 

ㅤ柏崎も嘘をついていた

 

ㅤ信じられるのはお姉ちゃんだけだった

 

ㅤそのお姉ちゃんも私のせいでまた捕まるかもしれない

 

ㅤ何をすればいいㅤ何をしたら私の欲しい皆の当たり前に届くの

 

ㅤ結論お姉ちゃんを助ける

 

ㅤ何をどうやって

 

 

 

ㅤ陽香は自分の思考をとにかくこの状況の打開のみに回していた。

 

 

 

ㅤお姉ちゃんは見捨てられない

 

ㅤ自分の命も助かりたい

 

ㅤ生き汚いとのたまうならのたまえ

 

 

 

 

ㅤ…………これ

 

 

 

 

 

ㅤそこには黄色で包まれた新品同然の防犯ブザーががあった。

 

 

 

 

 

『ビビビビビビビビビビビビビビ!!!!!!!!』

 

ㅤ小さな路地裏で鳴り響くことが防犯ブザー。その音とともに彼女は声を枯らせるほどの声量を出す。

 

ㅤ自分の本当の思いを。

 

ㅤそれは第三者を巻き込む言葉だった。

 

ㅤそれは無責任な言葉だった。

 

ㅤそれは新たに悲劇をもたらすかもしれない言葉だった。

 

 

 

ㅤだが…

 

 

 

ㅤそれは一人の少女の救う言葉だった。

 

ㅤそれは一人の一般人をヒーローに駆り立たせる言葉だった。

 

ㅤそれは悲劇から喜劇への言葉だった。

 

 

 

ㅤすなわち。

 

 

 

 

「誰か、たすけてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

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