鈴ちゃんは愛され過ぎて困っています!   作:abc

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百合!ヤンデレ!ベストマッチ!という訳でヤン百合物です
ただし今回はヤンデレ要素なし
ヒロイン達の中で一番主人公力高いのは鈴ちゃんだと思います


病んでるセシリアは眠れない

『男性IS操縦者が婚約を発表!お相手は姉!?』

『織斑一夏が語る!実は義理の姉弟であった?』

『各国騒然!織斑一夏と織斑千冬の熱愛報道!』

 

「まったくどこも同じような報道ばっかりね……こうまで似たり寄ったりなことを流してるんじゃ見る価値ないじゃない」

 

 そう言って自らが読んでいた週刊誌を閉じたのはIS中国代表候補生の凰鈴音であった。彼女は現在IS学園の自室において机に向かって勉強をしているところであった。勉強の最中に息抜きがてらに開いた週刊誌には、一ヶ月ほど前に同級生で幼馴染の織斑一夏が義理の姉である千冬との婚約発表を終えたばかりのニュースが書き連ねてあった。

 

 織斑一夏は女性しか扱えない筈のISを操縦できる唯一の男性操縦者であり、その影響力と希少性は各国が喉から手が出るほどの存在であった。そんな彼が姉との婚約を発表したのだ。文句の一つも出るかと思われたこの婚約発表は千冬自身の権力とIS開発者の束の推薦によりどの国も祝わざるを得ない状況になっている。

 

 そんな一夏は今は鈴音が現在いるここIS学園を離れて正式な研究機関に調査されている。公の舞台に立つ以上は避けては通れない道であった。

 

「はぁ……まあ……千冬さん相手じゃ仕方ないかな……」

 

 同級生そしてライバルとして仲間として一夏と共に切磋琢磨していた鈴は、いつしか一夏に淡い恋心を抱いていた。だがそれも一夏の婚約発表と共に失恋をしてしまう。一夏への思いは本物であったためにこの失恋は辛いものであった。

 

「最初に聞いた時は馬鹿みたいに泣いちゃってたな……でも今は純粋な気持ちで応援できるようになれて良かった……」

 

 初めての失恋だった。

 織斑一夏とは中学で出会って以来の片思いであった。

 他のヒロインと一夏を奪い合うこともあった。

 それほど一夏のことを深く愛していたのだ。

 だから泣いて泣いて泣きまくった。それこそ脱水症状を起こしてしまう位に。

 

 雨が降った後には地面は固まり虹が出る。泣いてスッキリしたお陰で今は心から一夏と千冬の恋路を応援できる。勉強に励むことが出来ているのである。

 

「さっ!早く宿題を終わらせてしまいましょう!」

 

 自分は勉強もISも沢山学ぶことが残されている。それは国を代表してIS学園に入学した自分自身の義務であると鈴音は感じていた。いつまでも失恋のことで悩むわけには行かない。

 

 鈴は再び集中して出された宿題に取り組むのであった。

 

 

 

 ――次の日

 

 いつものように起床し寮の相部屋の相手である「ティナ・ハミルトン」を起こす。鈴音は朝食を済ませると一年A組の教室へと向かう。

 

 一年A組は鈴音の所属するクラスであった。担任は織斑千冬であったが今回の婚約発表を機に学園を一時休職。現在は副担任であった山田真耶が担任を務めている。鈴音は自身の机に座ると読みかけの本を取り出し、ホームルームが始まるのを待った。

 

 少し経つと山田先生が教室に入ってくる。

 

「おはようございます!それじゃあホームルーム始めますね!」

 

 山田先生はすぐに出席状況を確認する。そして昨日と一昨日と同じように苦い顔をすることになる。

 

「今日もお休みですか……」

 

 山田先生は悲しそうな声で空いた五つの席を見ながら呟く。

 鈴音も思わず現在の状況に溜息を吐かずにはいられなかった。

 

 空いた五つの席とはそれぞれ

 『篠ノ之箒』

 『イギリス代表候補生セシリア・オルコット』

 『フランス代表候補生シャルロット・デュノア』

 『ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 『日本代表候補生更識簪』

 の席であった。

 

 この五人は織斑一夏が婚約を発表すると同時に学校を欠席し続けていた。というのもこの五人もかつての鈴同様に織斑一夏のことを愛していた。それも全員が全員深くである。それ故、失恋を経験した彼女たちは立ち直ることが出来ずにいたのであった。

 

 もちろん鈴音も失恋の気持ちは痛い程分かるし、一夏をめぐった仲でもある彼女たちの思いを理解することは出来た。だから立ち直って欲しいと思っているし、元気を出して欲しい。

 

(もう一ヶ月になるんだからそろそろいつも通りに戻ってもいいじゃない……)

 

 だが現実は厳しい。同室相手の女子生徒によればほとんど部屋から出ることすらないらしい。助けてやりたいと思っている鈴音であったが、同時にどう助ければいいのか分からないでいた。

 そして今はそっとしておこうと彼女たちから距離を置いていた。

 

(無理矢理にでも連れ出す時なのかしら……)

 

 そんなことを考えている時に山田先生から名指しで名前を呼ばれる。

 

「凰さん、ホームルームの後に申し訳ないですが面談室に来てもらえないでしょうか?」

 

 急に名前を呼ばれたことでビックリする。

 何かやらかした覚えはないが素直に従う

 

「?、分かりました……」

 

 一体何なのだろうと考えながらホームルームの後に面談室へと向かうのであった。面談室には既に山田先生が居り、鈴音を席へと案内する。

 

「失礼します」

 

「ど、どうぞ、座ってください」

 

 向かい合うように座った二人。

 まどろっこしいことを好まない鈴音は率直に疑問をぶつける。

 

「あの、一体何の用で呼ばれたんでしょうか?私何かしましたか?」

 

「あ、いえ、悪いことをしたから呼んだ訳ではないんですよ。あの、ずっと休んでいる篠ノ之さん達のことで少し頼みたいことがありまして……」

 

「!」

 

 鈴音自身気になっていた話題を出されたことに少し驚いてしまう。

 山田先生は更に話を進めていく。

 

「知っての通り織斑君と仲の良かった子たちが学校を休み始めて、今日で約一ヶ月が経とうとしています。私達教師陣も何とか力になろうと色々やってはいるのですが中々上手くいっていないのが現状です」

 

「なるほど、そうだったんですね……」

 

「そこで彼女達と仲の良かった凰さんからも何か励ますようなことを出来たらなって思って……すいません……本当は私達が何とかするべきことなのに……凰さんに頼るような形になってしまって」

 

 山田先生の悲しそうな顔が鈴音の心に響く。

 

「そんな顔しないで下さい……私もずっと気になっていたんです。私に出来ることは限られてるけど、やれることはやってみようと思います!」

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

 山田先生の顔が少しだけ明るくなる。

 

(先生にこんなに心配を掛けて……必ず立ち直らせてやるんだから!)

 

 そして鈴音はこの後にまずセシリアの部屋に向かうことにしたのであった。

 

 

 

 ――セシリアの部屋の前

 

 鈴音はセシリアの部屋の前で立っていた。今の時間はまだ授業中であったが山田先生からの直接の頼みということで授業を抜け出して来たのであった。また授業中である今ならばセシリアの相部屋の「如月キサラ」もいないためセシリアと一対一で話せるという考えもあった。

 

 鈴音は思い切って部屋のブザーを鳴らす。

 すると部屋の扉が開いて鈴音を中へいざなったのであった。

 

「失礼するわよ」

 

「鈴さん……ようこそ……」

 

「セシリアあんた大丈夫なの!?」

 

 部屋の中にはセシリアが私服のままで立っていた。 

 

 鈴音は思わず久しぶりに見たセシリアの姿に驚く。

 セシリアの目の下に酷く黒い隈が出来ており、また顔色は血の気というものが感じられない程に白く、髪はボサボサで服には皴が付いていた。

 

「大丈夫……というのは?」

 

「あんたの姿のことよ!隈だって酷いし、顔色も悪いわよ!」

 

「ああ……些細なことですので気になさらないで下さい……それよりお茶を淹れますから座って待っててくださいな……」

 

「わ、わかったわ」

 

 あまりに覇気のない声と姿に鈴音は軽いショックを受けていた。まさかここまで酷い状態であるということは予想していなかった。山田先生が自分を頼ってきた理由がやっと理解できた。

 

 ソファーに恐る恐る腰を掛けて待っているとキッチンの方から陶器が割れる音が部屋中に響き渡った。慌ててキッチンの方に様子を見に行く鈴。

 

「セシリア大丈夫!一体どうしたのよ!」

 

「すいません……少し手元を滑らせてしまいましたわ」

 

 床には割れたティーカップの破片が散らばっていた。セシリアはその傍らに頭を押さえるようにして座り込んでいたのであった。

 

「お茶はいいから、あんた少し寝てきなさいよ」

 

 隈の存在と顔色から十分な睡眠が取れていないと判断した鈴は眠るように促す。

 だがその言葉がセシリアの何かに触れた。

 

「いやぁあ!寝るのは!寝るのだけは!」

 

「なっ!一体どうしたのよ!?」

 

「寝たくない!寝たくないんですの!寝ればまたあの夢を見てしまう!」

 

 抱える闇が垣間見れた。

 セシリアは何かから逃げるようにそして隠れるように頭を抱えて涙を流している。あまりの豹変ぶりに鈴音は一瞬気後れしたがすぐに冷静さを取り戻す。そしてセシリアがこれ以上興奮しないように優しい声で語り掛ける。

 

「わかったから、それじゃあそこのソファーに座りましょう。ね?」

 

「はぁ……はぁ……はぃい……」

 

 セシリアの腰に手をやり寄り添うようにしてソファーに座らせる。その横に鈴院は座り背中を擦っている。

 

「セシリア……酷なことを聞くようだけどあの夢って言うのは……」

 

「…………」

 

 セシリアは何も答えない。否、答えようとしない。

 

「お願い、話してもらえないかしら?私はセシリアの力に成りたいの!ライバルとして仲間として、そして友達として!」

 

 そう言ってセシリアの手を取り握る。

 同じ男を好きになり取り合いまでした。だからこそ二人の間には決して細くない絆が流れていた。セシリアは少し時間を置いた後に思い切って話を始める。

 

「……一夏さんや……お父様やお母様が出てきて……私の前から消えて死んで行く夢なんです。もう誰かと別れるのは嫌だから、出会えなくなるのは嫌だから……寝なければこんな夢を見ずに済むんじゃないかと思って、それでずっと起きていたんです……」

 

「セシリア……」

 

 そこで鈴音は気づく。セシリアは一夏への失恋をきっかけに過去に父や母が死んだことのトラウマが再発してしまった事に。セシリアの両親が亡くなっていることは前に聞いたことがあった。そしてセシリアがずっと寂しい思いをしてきたことも。

 今のセシリアはいつもの気丈さは無くなり、ただの一人ぼっちの女の子になっているのである。それが鈴音には悲しかった。

 

 鈴音は自分に出来ることは何か考える。必死に考える。

 

「セシリアちょっと私の方を向いて貰えるかしら?」

 

「……はい」

 

「わ、私じゃセシリアの悪夢を消すことは出来ないけど、でもせめて側に一緒にいてあげることぐらいは出来るわ」

 

「!」

 

 鈴音は優しくそれでいて温かくセシリアを包み込むように抱きしめる。

 少しでもセシリアを思いやる気持ちが伝わるよう必死に考えた苦肉の策であった。セシリアは驚きを隠せずに胸に抱いた疑問をそのまま口にする。

 

「どうして……どうしてそこまで……」

 

「さっきも言ったけどライバルとして仲間として友達として、だけど一番はあんたのことが、そ、その、好きだからよ!恥ずかしいんだからあんま言わせないでよね!」

 

「!…………ふふっ」

 

「なっ!笑うんじゃないわよ!真面目に答えてやってるんだから!」

 

 セシリアの顔には少しだけ笑みがこぼれていた。

 そしてその笑みを見られるのが恥ずかしいのか顔を隠すように更に鈴音の胸に顔を埋める。

 

「鈴さんはいい匂いがしますね。お母様みたいです……もう少しこのままでいいでしょうか?」

 

「そう……好きにしなさい」

 

「では、好きにさせてもらいます」

 

 数分間の間セシリアは鈴に包まれていた。その温かさに段々と眠気が出始める。だが眠ればまたあの夢を見てしまう。必死に意識を保とうとするセシリアに鈴音は気づく。

 

「眠いの?」

 

「はい、ですが寝てしまえばまたあの夢を見てしまう……」

 

「それならセシリアが苦しそうなときに私が起こしてあげる。だからほらここで寝なさい」

 

 そう言って自分の太ももを叩く。

 

「あの、膝枕ということでしょうか?」

 

「そうよ。これならセシリアの側にずっといられるわ。あ!だけどあんまり寝すぎないでね。足がしびれちゃうから」

 

「それでは……お言葉に甘えて」

 

 そう言ってソファーに横になり鈴音の太ももに頭を預ける。

 これまでは決して拒んでいた睡眠であったが今ならば自然と眠れる気がする。そう思って意識を手放したのであった。

 

 

 

 ――数時間後

 

「……!すいません、わたくし寝すぎてしまったようで……」

 

「別にいいわよ、あんたがぐっすり眠れたならそれで」

 

 セシリアが悪夢を見ることはなかった。

 それはセシリアの寝顔を一番側で見ていた鈴音が一番よく分かっている。それと足はかなり痺れたがそこはグッとこらえた。

 

 鈴音はセシリアの髪そっとを撫でる。

 

「どう?元気出た?」

 

「はい!」

 

「全く世話が焼けるんだから」

 

「あの鈴さん、もう一つだけお願いがあります。今日は隣に添い寝してもらってもいいでしょうか?まだ一人で眠るのがどうしても怖くて」

 

 セシリアは一つだけ嘘をついた。

 そんなセシリアの甘えるような言葉に鈴音は苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「しょうがないわね、今日だけよ?」

 

「……はい!」

 




鈴ちゃん
セシリアが眠れて良かったと思っている

セシリア
眠れたのは鈴ちゃんの優しさがあったからであるため依存ルートまっしぐらである

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