鈴ちゃんは愛され過ぎて困っています! 作:abc
今回はセシリア視点です。またヤンデレは今回もなしです。
ヤンデレタグは他ヒロインが出てきてから発揮されると思います。
わたくしセシリア・オルコットの人生の中には、二つの大きな出来事が深く関係しております。一つ目は両親の事故による他界、二つ目は恋心を抱いていた織斑一夏さんが姉である織斑千冬先生と婚約をしたことでわたくしが失恋したことです。
両親の死は私の人生で初めての苦悩でした。それまで当たり前に存在していた両親が、ある日まるで最初からいなかったかのように失われてしまった。それは子供の頃の自分には大きなショックでした。寝れない日も沢山ありました。涙もそれこそ枯れ果てるまで泣きつくしました。
だけどわたくしはオルコット家の令嬢です。いつまでも泣いていてはいけないことくらい子供の頃のわたくしでも気づくことが出来ました。それからはただひたすらに家を守ること、そして自身の生まれ持った才能であるIS操縦者としての技量の向上に努めました。
それこそ悲しむことすら忘れるほどに。
そしてわたくしはイギリスの代表候補生まで上り詰め、オルコット家の乗っ取りを企む者からも守り抜きました。
そして更なる高みを目指すためにここ日本のIS学園に通うことにしたのです。
そこでわたくしは運命の出会いをすることになります。相手は世界唯一の男性操縦者である織斑一夏さん。わたくしは彼やわたくしの他に彼を愛する女生徒達と過ごしてきました。だけど一夏さんが婚約をしたことで私は初めての失恋を経験してしまいます。
苦しかった、辛かった、わたくしは失恋をきっかけに悪夢を見るようになりました。悪夢の内容は決まっています。私の目の前で一夏さんやお母様、お父様が消えて死んで行く……そんな夢を嫌でも見てしまうのです。
失恋をきっかけに過去の両親が死んだ時のトラウマが再発してしまったのでしょう……幼い時よりも症状は悪化の一途を辿ってしまいました。
(もう嫌、あんな悲しくて辛くて苦しい夢は見たくない!)
それでも目を閉じて意識を手放すと毎回悪夢を見てしまうのです。薬を使ったりカウンセラーにも相談したりしましたが解決には至りませんでした。
見たくない夢に苦しんでいるのならいっそ寝ない方がマシだと思い、私はずっと起きてることにしました。そのうちに顔や体にも変化が訪れ始めます。
目の下に酷く黒い隈が出来、また顔色は血の気というものが感じられない程に白く、髪はボサボサになっていく。自分がやつれていくのは感じてましたが、私自身悪夢を止められないためどうしようもなくなっておりました。
何だか生きていることが辛くなっていました。
限界は近づいていたのです。
――自室
部屋に閉じこもるようになって一ヶ月ほどのことです。いつも来客のない午前中に、わたくしの寮の部屋へ誰かが訪ねてきました。
扉を開けるとそこには友人であり、一夏さんを取り合ったライバルである凰鈴音さんが立っていました。わたくしの様子を見に来たのでしょうか、鈴さんを部屋の中にあげることにしました。鈴さんのことは友達として一番好きでした。だから少しでも心配をかけたくない一心で平常を装うことにしたのです。
「失礼するわよ」
「鈴さん……ようこそ……」
「セシリアあんた大丈夫なの!?」
大丈夫?一体何のことを仰っているのでしょうか?
「大丈夫……というのは?」
「あんたの姿のことよ!隈だって酷いし、顔色も悪いわよ!」
「ああ……些細なことですので気になさらないで下さい……それよりお茶を淹れますから座って待っててくださいな……」
「わ、わかったわ」
確かに今のわたくしの姿は酷い状態であると言えます。鈴さんはそんな私を気遣ってくれました。せめてお茶だけでも淹れてさし上げなければとわたくしはキッチンへと向かいました。お茶を淹れることは子供の頃から得意でした。何度も何度も練習した覚えがあります。だから反復動作ゆえ気を抜いてしまったのでしょう。ティーカップを手から滑らして落としてしまいました。
それと同時にわたくしに強い眩暈や吐き気、そして頭痛などが一気に押し寄せてきたのです。ほぼ毎日似たような症状に悩まされているのですが、特に今日のは酷いものでした。立っていられなくなったわたくしはその場に座り込むことしか出来ませんでした。
必死に波が過ぎさるように頭を押さえ耐えていました。
すると割れる音を聞きつけた鈴さんが心配して様子を見に来ました。
「お茶はいいから、あんた少し寝てきなさいよ」
「!」
その言葉はわたくしにとってはもっとも恐れることでした。
確かに今の症状は不眠や精神的なものから来ている物であり、睡眠を取ることが一番の解決策であること分かっております。ですが……ですが、一度寝てしまえば必ずあの夢を見てしまう。
愛する者が死にいき消え去る夢を……。
それを見るのだけは……再び経験することだけは……どうしても嫌だった。思わず鈴さんがその場にいることすら忘れて、泣き叫ぶように喚いてしまう。
「いやぁあ!寝るのは!寝るのだけは!」
「なっ!一体どうしたのよ!?」
「寝たくない!寝たくないんですの!寝ればまたあの夢を見てしまう!」
ただ悪夢から隠れるように頭を抱えて涙を流し続けることしか出来ない。そんな自分が情けなくて仕方ありません。
鈴さんは少し驚いた顔をすると、その後すぐに優しい顔つきに変わり私に対して話しはじめました。
「わかったから、それじゃあそこのソファに―座りましょう。ね?」
「はぁ……はぁ……はぃい……」
鈴さんはわたくしの腰に手を当て寄り添うようにしてソファーに座らせてくれました。心配を掛けてしまって本当に申し訳ない。自分が情けないことに酷く嫌気が差してしまいます。
鈴さんはわたくしの横に座り、恐る恐るといった感じに話を切り込み始めました。
「セシリア……酷なことを聞くようだけどあの夢って言うのは……」
「…………」
わたくしは何も答えることができませんでした。
口に出すことすらも憚られ、また、鈴さんに迷惑をかけまいとする思いがあったからです。
「お願い、話してもらえないかしら?私はセシリアの力に成りたいの!ライバルとして仲間として、そして友達として!」
そう言って鈴さんはわたくしの手を取り握ります。
わたくし達はいっしょに一夏さんを好きになり、時には取り合いをしたり、時には譲り合った仲です。一夏さんだけじゃない……普段の勉強や、ISの訓練であってもわたくしと鈴さんはいつも一緒に学び歩んできました。わたくしにとっては鈴さんが初めての心許せる友人であると言えました。
だから彼女の思いを受け、ほんの少しだけ頼ってみようと思いました。
思い切って悪夢の話をします。
「……一夏さんや……お父様やお母様が出てきて……私の前から消えて死んで行く夢なんです。もう誰かと別れるのは嫌だから、出会えなくなるのは嫌だから……寝なければこんな夢を見ずに済むんじゃないかと思って、それでずっと起きていたんです……」
「セシリア……」
わたくしの話を聞いた鈴さんは悲しそうな顔をした後に少し考え事をしているようでした。幻滅されてしまったでしょうか?ここで鈴さんまでいなくなったらわたくしは一体どうすればいいのでしょうか?
思考はマイナスなことばかり考えてしまいます。
少しの沈黙の後に、先に話し始めたのは鈴さんの方でした。
「セシリアちょっと私の方を向いて貰えるかしら?」
「……はい」
「わ、私じゃセシリアの悪夢を消すことは出来ないけど、でもせめて側に一緒にいてあげることぐらいは出来るわ」
「!」
一瞬何をされるのかと身構えました。
鈴さんがわたくしに対してしてくれたのは包み込むように抱きしめることでした。温かかったし、それいて鈴さん優しい匂いや、暖かさが伝ってくるようでした。悪夢に怯える自分の気持ちが少しだけ穏やかになっていくのを感じます。誰かに抱きしめてもらうのは久しぶりの経験なのです。
鈴さんはどうしてわたくしのためにそこまでしてくれのか、不思議で仕方ありませんでした。
「どうして……どうしてそこまで……」
「さっきも言ったけどライバルとして仲間として友達として、だけど一番はあんたのことが、そ、その、好きだからよ!恥ずかしいんだからあんま言わせないでよね!」
嬉しい。鈴さんが本気で言っているのが彼女の顔や、心臓の鼓動から一目瞭然でした。今まで誰かを好きになったことはあっても、誰かにここまで好きと言われた経験などそれこそ両親にしかありません。
嬉しくて、それでいて彼女の愛らしさに思わず笑みがこぼれてしまいます。
「!…………ふふっ」
「なっ!笑うんじゃないわよ!真面目に答えてやってるんだから!」
わたくしは自分の笑みがこぼれる姿を見られるのが恥ずかしくて、鈴さんの胸に顔を埋めてしまいます。
鈴さんの体は柔らかくて、温かくて、気持ちが良かったです。
「鈴さんはいい匂いがしますね。お母様みたいです……もう少しこのままでいいでしょうか?」
「そう……好きにしなさい」
「では、好きにさせてもらいます」
数分の間わたくしは鈴さんに包まれていました。思い出すのはやはりお母様です。お母様と違って鈴さんの体は小さいのですが、精一杯わたくしを包みこむその姿は記憶の中のお母様以上に愛おしく感じます。
それと同時にこれまで抑えてきたはずの眠気が一気に湧き出してきました。
でも寝るとまた悪夢を……。
わたくしが眠気に耐えていることに気付いた鈴さんは問い掛けてきます。
「眠いの?」
「はい、ですが寝てしまえばまたあの夢を見てしまう……」
「それならセシリアが苦しそうなときに私が起こしてあげる。だからほらここで寝なさい」
そう言って鈴さんは自分の太ももを叩きます。
鈴さんがいてくれる今ならきっと私は悪夢に打ち勝つことが出来るかもしれない。そんな思いが胸に湧き出てきました。
「あの、膝枕ということでしょうか?」
「そうよ。これならセシリアの側にずっといられるわ。あ!だけどあんまり寝すぎないでね。足がしびれちゃうから」
「それでは……お言葉に甘えて」
そう言ってソファーに横になり鈴さんの太ももに頭を預ける。
これまでは決して拒んでいた睡眠であったが今ならば自然と眠れる気がしました。そう思っているうちにすぐに意識を手放してしまいます。
悪夢をみることはありませんでした。
その代わりに鈴さんの夢を見ていました。
甘くて、愛おしくて、優しくて……とにかく癒されるそんな夢を。
わたくしが目を覚ました時には数時間が既に経過しておりました。
目の前にはわたくしを見下ろすように鈴さんがこちらを見ていたのです。先ほどの夢のこともあり、わたくしは少し照れ臭かったです。
「……!すいません、わたくし寝すぎてしまったようで……」
「別にいいわよ、あんたがぐっすり眠れたならそれで」
鈴さんは私の髪を髪そっとを撫でてくれます。少しだけくすぐったくてそれでいて心地が良い不思議な気持ちでした。
「どう?元気出た?」
「はい!」
「全く世話が焼けるんだから」
「あの鈴さん、もう一つだけお願いがあります。今日は隣に添い寝してもらってもいいでしょうか?まだ一人で眠るのがどうしても怖くて」
わたくしはこのとき嘘をつきました。もう悪夢を見ることはないと自信を持って言える。だがそれよりも鈴さんと少しでも一緒にいたいという気持ちが勝り、彼女を独占しようと一緒に眠ることを頼んだのです。
そして返答も優しい彼女ならきっと二つ返事で答えてくれるだろうと確信がありました。
「しょうがないわね、今日だけよ?」
「……はい!」
――その夜
わたくしのベッドで並ぶようにして鈴さんと寝ています。同室のキサラさんは何かを察してくれたのか、代わりに鈴さんの部屋で寝ることになりました。鈴さんはわたくしが寝るまで起きていると仰っていましたが、眠気に耐えきれずに先に寝てしまいました。ですが最初からわたくしは鈴さんが眠るのを待っていたのです。
鈴さんのサラサラの髪をほどくように撫でおろします。
わたくしは昼間の一件から鈴さんのことが、愛おしくて、愛おしくて、堪らないのです。
苦しんでいるわたくしを救ってくれたこと。好きだと言ってくれたこと。抱きしめて自分の思いを必死に伝えようとしてくれたこと。その一つ一つがわたくしの心を踊らさてくれました。
だから自信を持って言えます。愛していると。
彼女が寝ているのをいいことに愛をつぶやきます。
「……あなたのことを世界で一番愛しておりますわ」
そう言って寝ている彼女にそっと自分のを重ねた。
もう絶対に離しません。何があっても……どんな手を使おうとも……。
鈴ちゃん
セシリアがあれ以来一緒に寝たがってきて困っている。何だかんだで一緒に寝る
セシリア
押しに弱いのを知っているので押せ押せで迫っている。