鈴ちゃんは愛され過ぎて困っています! 作:abc
忙しい……でも更新頻度は上げたいです
シャル鈴はいいぞ
鈴がシャルロットを立ち直らせることを決めた翌日の朝、彼女はいつも通りに起きていた。昨晩一緒に寝たセシリアは隣でまだ眠っていた。というのも今回の朝食は鈴が作るとセシリアに言ってあるためだ。
セシリアを起こさないようにベッドからそっと起きた鈴は、手早く朝の支度を終えると朝食作りに入る。鈴もセシリア程ではないが一夏のために料理の腕は磨いてきたつもりである。ただし結局一夏相手に料理を振舞うことはなかったのだが。
「無難に和食で良いわね」
作る物を決めてからは後は流れ作業であった。丁寧かつ迅速な手つきで料理を作り上げていく。そのうちに寝ていたセシリアも起き出してきた。
「おはようございます、鈴さん」
「おはようセシリア、もう出来上がるから顔でも洗って来なさい」
「はい!」
セシリアは満面の笑みでそう答えると洗面所の方へと向かって行く。セシリアは現在は悪夢を見なくなり元の明るい性格に戻っていた。ただ、鈴自身と一緒に寝ることに癖のようなものがついてしまったことについては鈴にとって若干の謎である。ただそれはセシリア自身がまだ心のどこかで寂しがっているからだと鈴は推測している。
支度を終えたセシリアはテーブルの席に着く。鈴は準備していた朝食をセシリアの前と自分の席に配膳すると自分も席に座る
「「いただきます」」
セシリアは美味しそうに朝食を食べてくれる。それを見て鈴が微笑む。そして微笑んだ鈴を見てセシリアが嬉しそうな顔をする。今この空間には優しさが満ち溢れていた。
食後学校までまだ時間があるので食後にセシリアが入れてくれた紅茶を飲んでいた。その最中にセシリアから鈴に話を切り出す。
「……本当にお一人でシャルロットさんの所に行くんですの?」
「ええ……シャルロットは今も悩んでいるようだから私が何とかしないと!セシリアがシャルロットを心配する気持ちも分かるけどまずは私一人で行かせて頂戴」
「……分かりました。でも昨日の約束は忘れないでくださいね!」
「セシリアの側にずっといるってやつよね?分かってるわよ」
鈴にとってセシリアは今や親友以上の掛け替えのない存在である。一緒にいることくらい訳なかった。鈴の言葉にセシリアは安心したように微笑むと持っていたティーカップの紅茶を飲み干し学校へと向かう準備をする。
一方の鈴もシャルロットの部屋に向かい彼女を立ち直らせてみせると心に誓いセシリアと共に部屋を後にするのだった。
鈴はシャルロットの部屋の前に着くと大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。鈴自身もプレッシャーを感じないわけではなかった。
鈴がシャルロットの部屋に行くことについて、担任の山田先生と担当の授業の先生には既に連絡はしてある。教師陣も今回の騒動を悲しんでいる。だからこそ色んな人の思いくみ取り、プレッシャーを跳ねのけて鈴は動くことを決めたのだ。
まずは部屋のブザーを鳴らしてみる。
「シャルロット?いる?」
返事はない。寝ているのだろうか?そう思った鈴はもう一度ブザーを鳴らしてみるが反応は全く帰って来ない。同室のラウラは現在他の部屋に隔離されているために部屋の中にいるのはシャルロット一人だろう。先生が安否を確認してはいるが、鈴の頭の中では最悪のケースを考えついてしまう。
先生から借りてきたマスターキーを使って鍵を開ける。
「シャルロット入るわよ……」
そう一声かけて入った部屋の中は酷い荒れようであった。床には服や壊れた様々な物が散乱しており、壁には大きな傷が出来ている。隅には埃が溜まっていることや空気が淀んでいることから掃除や換気が行われていないことが分かる。
「シャルロット……どこ……?」
恐る恐ると言った様子で部屋の中に入っていく。奥の方に進んでいくとベッドがあり、その上の掛け布団が膨らんでいるのが分かった。きっとシャルロットはそこにいる。そう思った鈴はベッドの横に立ちそっと声を掛ける。
「シャルロット、起きて、私よ!鈴よ!」
「……鈴?……どうしてここに……」
「あんたが最近学校に来てないから心配で様子を見に来たのよ。少し起きて話をしてもらえないかしら?無理にとは言わないけど」
「……そ、それじゃあ少しだけ話そうかな……少しだけなら大丈夫だと思うから」
鈴は一体シャルロットが何のことを言っているのか分からなかったが、話ができるということで取り敢えず安堵する。
シャルロットはベッドから上半身を起こすが、その姿を見た鈴は前に見た時との変わり様に驚いてしまう。
まず一番に目を引いたのは体中に巻かれている包帯や貼られた医療品のおおさである。特に腕は全て包帯で覆い隠されており直に肉が見えるところがなくなっていた。
次に外見だがこちらも酷い有様だ。髪は輝きを失い、目の下には隈が、そして何よりこの一ヶ月まともな食事を摂っていないのか、服の上からでもわかるほどにやせ細っていた。
彼女の変化を一言で表すならば痛々しいそのものであると言えよう。
「テーブルも椅子も壊れちゃっているからこのベッドで話そうか。鈴も適当に座って貰える?」
「ええ、それは構わないけど」
シャルロットが上半身を起こしているベッドの横に座る鈴だが、この部屋に入ってから疑問や違和感が尽きないでいた。そのことをシャルロットに尋ねる。
「ねえ、シャルロット……調子はどうなの?」
「……別に悪くないよ。ただ偶に僕自身を抑えきれない時があるんだ」
「抑えきれない?」
「うん……今は落ち着いてるけれど……あの日……一夏が千冬さんと結婚をしたと知った時に心が落ち着かなくなってしまったんだ。怒りが無性に沸いて来たかと思えば、段々と悲しくなって涙が止まらなくなったり、そんな状態だからストレスが溜まってしまって物にあたったりしてしまったんだ」
セシリアの時は不眠症が主な症状であったが、シャルロットの場合は情緒不安定が主な症状であることが分かった。
自分の状態を語った後のシャルロットは泣きながら胸の内を語る。
「もう僕は……何の為に生きてるのかわからないんだ……お母さんさんが死んで……一時期はスパイとして働かされ、今度は初恋の相手を取られた……僕の人生なんてもう何の価値もないんだよ……もう苦しい思いをするのは嫌なんだ……」
鈴はシャルロットのこれまでの経歴を知っている。そんな苦しい人生の中でシャルロットが一夏と出会い彼を最も愛していたことも。きっと死ぬほど苦しかったのだろう、悲しかったのだろう、鈴はシャルロットの手を取り思いを語る。
「シャルロットの気持ち、私にはわかるわ……だけど今こうして一人で塞ぎ込んでいても何も解決はしないのよ?私も力を貸すからもう一度――」
そう言いかけた瞬間シャルロットは鈴のことをベッドに押し倒す。そしてそのやせ細った両腕で鈴の首に手を掛けたのだった。
先ほどの泣き顔から一転怒りを露にした表情になっていた。そんな今まで見たことのないシャルロットの表情に鈴は思わず身震いがする。
「シャルロット……苦しい……離して……」
「うるさい!何が僕の気持ちが分かるだよ!勝手なこと言うな!鈴ももっと苦しめばいい!僕の受けた痛みをもっと感じればいいんだ!それが友達なんでしょ?ねえ答えてよ!答えろってば!」
「くっ……うぅ……シャルロット……」
徐々に力込めてくるシャルロットにより段々と呼吸がきつくなってきた。
鈴はどうすればいいのかを必死に考える。ここで力づくで逃げ出すことも出来るだろう。今のシャルロットは鈴よりも力がないからだ。だがそうしたところで彼女は救われない。今シャルロットを救えるのは自分だけなんだ。
だからシャルロットの怒りも悲しみも受け入れる!
鈴は薄れゆく意識の中で最後の力を振り絞りシャルロットの頬に手を添えて優しい手つきで撫でながら言葉を絞り出す
「大丈夫……分かってるから……シャルロットの事全部……だからもう苦しむのはや……めて……」
「!?」
シャルロットはその言葉に慌てて手を離すがその時には鈴の意識は一時的に途絶えているのであった。
鈴が目を覚ました時にはシャルロットが寝ていたベッドに寝かされていた。
隣を見るとシャルロットが心配そうな顔で鈴のことを見つめている
「……良かったぁ……目を覚ましてくれて本当によかったよぉ……」
「当り前じゃない。あんなことで死んでられないわ。それになにより今のシャルロットを残していなくなるようなことなんて出来ないもの」
シャルロットは鈴の首を絞めていた時の怒りは完全に消え去り、現在は落ち着きを取り戻している。彼女が言っていた自分の抑えが利かないというのは感情をコントロールできないということだったのだろう。
「僕は……もうダメみたいだよ。さっきみたいに突発的に何かにストレスをぶつけたくなってしまったり、急に悲しくなって泣いてしまったりするんだ。代表候補生はおろか普通の生活も出来ないかもしれない……もう消えてしまいたい……」
この部屋の荒れようにも納得がいった。部屋の傷や汚れ、壊れた物は全てシャルロットが壊したのだ。そしてその時に出来た傷を治すために包帯などを巻いている
のであろうと鈴は推測した。
鈴は考える。自分に何ができるのか、最高のライバルであり、最愛の親友のために必死に考えた
「なら私がシャルロットの側に付いててあげる。もしシャルロットが苦しくなったら私が手助けすれば良いんじゃないかしら?」
その言葉にシャルロットは驚いた顔をする。
「鈴……どうして?どうして僕のことをそんなに気に掛けてくれるの?」
「はぁ……あんたは私のことをどう思っているか分かんないけどね、私にとってあんたはかけがえのない存在で、ライバルなんだから!だから、あんたにいつまでも部屋に籠っていられると、その、さ、寂しいのよ」
その言葉にこれまで泣いていたシャルロットの顔が少し赤くなる。
そして鈴はシャルロットの腕を握るとそれを胸に持っていく。
自分の思いを気持ちをそして高鳴る鼓動を伝えるために。
「シャルロットは私にとってなくてはならない存在なの。だから消えてしまいたいなんて軽々しく言わないで、お願い!」
「ありがとう……鈴……」
シャルロットは鈴に抱き着き沢山泣いた。悲しみの涙では決してない。一夏を愛することしか出来なかった自分が、誰にも愛されていないと思っていた自分が、たった一人の少女に愛されていた。それが嬉しくて仕方ないのである。
ひとしきり泣いた後のシャルロットは憑き物が落ちたようにスッキリとした表情をしていた。
一人では立ち直るのが難しくとも鈴と一緒なら頑張れる、そういう思いがあるからだ。
「それじゃあ……まずは掃除をしましょう。こんな所にいたケガをしてしまうわ。あ、シャルロットは休んでいてね」
「僕も手伝うよ!この部屋をこんなにしたのは僕なんだ……掃除をして気分を一新したいって言う思いもあるし」
「わかったわ……それじゃあ、無理のない範囲で手伝って頂戴ね」
そして二人はシャルロットとラウラの部屋を掃除する。床に散らばった壊れた家具をまとめたり、窓を開けて換気したりと大掃除になっていった。粗方掃除を終え綺麗になった部屋を見回しす。
鈴が入ってきた時とは見違える程に綺麗になっていた。
「ありがとう、鈴。もし鈴がいなかったら今日もきっと一人で塞ぎ込んでいたはずだよ。僕を引きずり出してくれたのは紛れもなく鈴なんだ」
「当たり前でしょ!シ、シャルロットが笑顔でいてくれることが私にとっても幸せなんだから」
鈴は自分が言っていて恥ずかしくなるようなセリフを使った事に少し照れてしまう。だが本当の事なのだから仕方ない。幾分か顔色の良くなったシャルロットの笑顔を見た後では、今日の苦労は苦労のうちに入らないと思ってしまう。
「……ねえ、鈴、僕からもう一つだけお願いがあるんだけどいいかな?」
「何かしら?あんまり無茶なことだと困るんだけれど」
「僕のことをシャルロットじゃなく、シャルって呼んで欲しいんだ」
「そんなことくらい別に良いわよシャル」
シャルと呼ばれたシャルロットは満面の笑みを浮かべて鈴を抱きしめる。急な抱擁に驚いた鈴であったが、シャルが素直に自分に甘えてきてくれたことが嬉しくてシャルをその小さな体で抱きしめ返す。
「鈴は良い匂いがするね、優しい匂い、すごく安心する。どうしても自分の感情を抑えきれないときはこうして抱きしめてもらっていいかな?」
「シャルったら子供みたいね。いいわよ、いくらでも抱きしめてあげる」
「ありがとう、鈴、これからもずっとよろしくね!」
「ふふ、こちらこそ」
取り敢えずシャルロットがいつもの調子を取り戻してくれたことに鈴は嬉しくなった。まだ苦しんでいる仲間はいる。だが今日だけはシャルロットがこうして自分を頼るようになってくれたことに喜ぶことにした。
鈴ちゃん
深い愛で相手を包み込むイケメン女子
シャルロット
情緒不安定は治ったが代わりに鈴ちゃんが心の依り代になってしまった