鈴ちゃんは愛され過ぎて困っています! 作:abc
今回はシャルロット視点です
僕シャルロット・デュノアの人生はハッキリ言って幸福とは程遠いものだと思う。僕が子供の頃、お母さんが生きていた頃は楽しかった。優しいお母さんだったから沢山甘えることが出来た。だけどお母さんが死んで父に引き取られたことが、僕の人生を大きく変えた。
デュノア社に連れていかれた僕がまず初めに受けたのはISの適性検査であった。そこで高いIS適正を出したことで僕は、父の命令で男性操縦者と偽ってIS学園に入学し本当の男性操縦者である織斑一夏のデータを盗むスパイをすることになった。
IS学園に入学した所までは良かったが結局一夏には女性であることがばれてしまった。そんなスパイとして盗みに来た僕に対して、一夏は救いの手を差し伸べてくれた。その時はとても嬉しかった。こんな僕を助けてくれる人がいるなんて思いもしなかったからだ。
だから僕は一夏に恋をしたんだ。
それからは色んな事件を通して僕の中の一夏という存在が段々と大きくなっていった。一夏のひた向きに頑張る姿も、その優しい性格も僕にとっては全てが魅力的に見えた。そしてその強さに僕は何度も救われたんだ。
だけど一夏が最終的に選んだ相手は織斑千冬先生だった。
初めての失恋だった。苦しかった、辛かった、どうして僕じゃなく織斑先生を選んだのか……。その日から僕の心はおかしくなってしまった。
急に抑えきれないほどのストレスがこみ上げてきてしまい、居ても立ってもいられずに物を破壊して怒りを発散してしまったり、抑えきれない悲しみが溢れ出て涙を流しその場で動けなくなったりしてしまうのだ。
心と体をコントロールすることが出来なくなっていった。
(自分が何なのか分からない……感情を制御することが出来なくなってきている)
同室のラウラ・ボーデヴィッヒが別の部屋に移動して、僕だけの一人部屋になってからは更に症状が悪化してきた。
ひたすらに部屋の物にあたり散らす時もあった。お気に入りのぬいぐるみも大事に使っていた家具も全てを壊した。そしてその後は後悔と自己嫌悪で倒れるように動けなくなり泣いてしまう。そんな毎日を過ごしていた。
その内に授業はおろか部屋から出ることすら出来なくなっていった。その頃には部屋は荒れ果て、僕はほとんどベッドの中で過ごしていた。
物にあたるたびに体には傷が増えていった。常にストレスにさらされることでほとんど睡眠を取ることが出来ずに目の下には隈が。食欲はほとんどなく体重はみるみる落ちていった。
自分が段々と死に近づいてるのがわかる。
もう僕はダメかもしれない。
――自室
部屋で寝込むようになって既に一ヶ月が経過していた。その日は、前日の夜に眠ることが出来ずにいたため何とか睡眠を取っているところだった。
ベッドの中で丸まるように寝ている僕を、呼ぶ声が聞こえた。
「シャルロット、起きて、私よ!鈴よ!」
「……鈴?……どうしてここに……」
掛け布団から顔を出してみるとそこには友達で同級生の凰鈴音がベッドの横に立っていた。鈴とは一夏をめぐって取り合いをしたりした恋のライバルであった。僕のことを心配して見に来たのだろうか?鈴に心配をかけてしまった事を申し訳なく思いながら話を続ける。
「あんたが最近学校に来てないから心配で様子を見に来たのよ。少し起きて話をしてもらえないかしら?無理にとは言わないけど」
鈴の心遣いはすごく嬉しい。だが、心配なこともある。もし話している最中にいつもの発作が起こってしまったら鈴にまで暴力を振るってしまうかもしれないということだ。
少し考えた末に発作が起きる前、短めに話を切り上げれば大丈夫だと判断した。
「……そ、それじゃあ少しだけ話そうかな……少しだけなら大丈夫だと思うから」
僕がベッドから上半身を起こすと、鈴は少し悲しそうな顔をする。そういえば昨日からまた新しく傷が増えたから包帯を巻いてあったんだ。
鈴は優しい。こんな頭がおかしくなってしまった僕の所へもこうして様子を見に来てくれたのだから。それなのに僕は鈴に対して何も応えることが出来ない。ただ痛々しいケガを見せて悲しい気持ちにさせるだけだ。僕は……本当にどうしようもない存在であると自覚させられる。
ティーカップやティーポットはもちろん、テーブルや椅子などの家具も壊してしまったためにもてなすことが出来ない。
「テーブルも椅子も壊れちゃっているからこのベッドで話そうか。鈴も適当に座って貰える?」
「ええ、それは構わないけど」
鈴は僕の横に座ると、早速僕の状態についての話を始める。
「ねえ、シャルロット……調子はどうなの?」
「……別に悪くないよ。ただ偶に僕自身を抑えきれない時があるんだ」
「抑えきれない?」
「うん……今は落ち着いてるけれど……あの日……一夏が千冬さんと結婚をしたと知った時に心が落ち着かなくなってしまったんだ。怒りが無性に沸いて来たかと思えば、段々と悲しくなって涙が止まらなくなったり、そんな状態だからストレスが溜まってしまって物にあたったりしてしまったんだ」
自分で話していて情けなくなる。きっと鈴は僕に対して呆れていることだろう。
そう思うと自然と涙が溢れてくる。頭の中が悲しいことばかりでいっぱいになって胸が苦しくなる。辛い。
「もう僕は……何の為に生きてるのかわからないんだ……お母さんさんが死んで……一時期はスパイとして働かされ、今度は初恋の相手を取られた……僕の人生なんてもう何の価値もないんだよ……もう苦しい思いをするのは嫌なんだ……」
これが僕の本心であった。僕の人生は本当に無意味で、空虚で、そしてどうしようもない程に悲劇的だ。何で僕だけがこんなに辛い思いをしなければいけないのか分からない。そう考えると自分の理不尽な人生に怒りが沸いてくる…………そう思った時にはもう遅かった。
鼓動が早くなり、体から衝動が巻き上がり、そして自分を抑えられなくなる。
鈴に部屋を出ていくよう言おうとしたら、僕より先に鈴が口を開いていた。
「シャルロットの気持ち、私にはわかるわ……だけど今こうして一人で塞ぎ込んでいても何も解決はしないのよ?私も力を貸すからもう一度――」
気付いた時には瞬時に僕は鈴をベッドの上に押し倒す。そして両手で鈴の首に手を掛けゆっくりと締め上げていく。
「シャルロット……苦しい……離して……」
「うるさい!何が僕の気持ちが分かるだよ!勝手なこと言うな!鈴ももっと苦しめばいい!僕の受けた痛みをもっと感じればいいんだ!それが友達なんでしょ?ねえ答えてよ!答えろってば!」
「くっ……うぅ……シャルロット……」
頭からもっと鈴を苦しめろと言う命令が体中を駆け巡っていく。鈴は僕の苦労なんて何一つ分からない癖に!知ったような口を利いて!怒りが収まらない、それどころか目の前で苦しんでいる鈴を見るたびに体が熱くなっていくのを感じる。
鈴も僕と同じように苦しめばいいんだ。僕だけが悲しい思いを、苦しい思いをする何て間違っている、僕のやっていることは正しいんだ。そんな歪んだ思考が頭の中に渦巻いているのが分かる。
だけど、そんな歪んだ僕に、鈴は……。
「大丈夫……分かってるから……シャルロットの事全部……だからもう苦しむのはや……めて……」
そう言いながら僕の頬にその小さな手を添えて、優しくなでてくれた。そして言葉を絞り出すと鈴の意識は一時的に途絶えたのであった。
まるで冷水でも頭から被ったかのように感情が冷たくなっていくのが分かる。僕はすぐに鈴の首から手を離す、急いで呼吸と心音を確かめる。良かった気を失っただけであった。
僕は鈴を先程まで自分が寝ていたベッドに寝かす。
僕は何てことをしてしまったんだろう。自分の不幸を鈴に押し付けた上に暴力まで振るってしまった。そんなどうしようもない僕を鈴は受け入れてくれた。罪悪感で胸が押しつぶされそうになると同時に、嬉しかった。
こんな醜い心を曝け出しても分かってくれるって言ってもらえたことが。だけど僕は鈴の側にいる資格なんてきっとない。鈴を苦しめてしまったのだ。大事な友達にストレスをぶつけてしまう最低の存在、それが僕だ。
鈴はそれから少しして目を覚ました。首には僕が締め上げた跡がくっきりと残っている。鈴が目を覚ましてくれて本当に良かった。
「……良かったぁ……目を覚ましてくれて本当によかったよぉ……」
「当り前じゃない。あんなことで死んでられないわ。それになにより今のシャルロットを残していなくなるようなことなんて出来ないもの」
あんなことをした僕に対してまだ一緒にいてくれるというのだろうか。僕なんかが鈴といたってきっと彼女を不幸にするだけだ。だけど……それでも、出来るならもう一度友達になりたいなんて思ってしまう僕は本当に欲張りだ。僕は鈴の前で弱音を吐いてしまう。
「僕は……もうダメみたいだよ。さっきみたいに突発的に何かにストレスをぶつけたくなってしまったり、急に悲しくなって泣いてしまったりするんだ。代表候補生はおろか普通の生活も出来ないかもしれない……もう消えてしまいたい……」
僕の全てを諦めた言葉に、鈴は少し考えた末に答えを出す。
「なら私がシャルロットの側に付いててあげる。もしシャルロットが苦しくなったら私が手助けすれば良いんじゃないかしら?」
その言葉を聞いた僕は驚きを隠せずに顔に出てしまっていただろう。
「鈴……どうして?どうして僕のことをそんなに気に掛けてくれるの?」
「はぁ……あんたは私のことをどう思っているか分かんないけどね、私にとってあんたはかけがえのない存在で、ライバルなんだから!だから、あんたにいつまでも部屋に籠っていられると、その、さ、寂しいのよ」
鈴の言葉に僕は思わず嬉しくなる。かけがえのない存在なんて言われたのは初めてだ。そして鈴は僕の腕を取ると自分の胸に持っていく。鈴の心臓はものすごい早さでドキドキとしていた。きっと自分の言葉が本心であるということを伝えたかったのかもしれない。
僕は鈴と一緒にいてもいいのかな?
「シャルロットは私にとってなくてはならない存在なの。だから消えてしまいたいなんて軽々しく言わないで、お願い!」
良かった一緒にいて良いんだね。
「ありがとう……鈴……」
僕は鈴に抱き着き沢山泣いた。悲しみの涙では決してない。一夏を愛することしか出来なかった自分が、誰にも愛されていないと思っていた自分が、鈴に愛されていた。それが嬉しくて仕方なかった。
これからも鈴と一緒になら頑張っていける気がした。
その後に鈴は部屋の掃除を提案してくる。
「それじゃあ……まずは掃除をしましょう。こんな所にいたらケガをしてしまうわ。あ、シャルロットは休んでいてね」
「僕も手伝うよ!この部屋をこんなにしたのは僕なんだ……掃除をして気分を一新したいって言う思いもあるし」
「わかったわ……それじゃあ、無理のない範囲で手伝って頂戴ね」
鈴と一緒に部屋を掃除する。これまでの思いも振り切ることが出来る様なそんな感じがした。時間は掛かったけど部屋の中は綺麗になった。
「ありがとう、鈴。もし鈴がいなかったら今日もきっと一人で塞ぎ込んでいたはずだよ。僕を引きずり出してくれたのは紛れもなく鈴なんだ」
「当たり前でしょ!シ、シャルロットが笑顔でいてくれることが私にとっても幸せなんだから」
その言葉が僕の心を穏やかにさせてくれる。
心の底からずっと一緒にいたいと思える。
だから鈴にはシャルロットではなくシャルと呼んでほしかった。
「……ねえ、鈴、僕からもう一つだけお願いがあるんだけどいいかな?」
「何かしら?あんまり無茶なことだと困るんだけれど」
「僕のことをシャルロットじゃなく、シャルって呼んで欲しいんだ」
「そんなことくらい別に良いわよシャル」
僕はつい嬉しくて鈴の小さな体を包み込むように抱きしめてしまう。鈴を抱きしめていると心が落ち着く。不安定だった気持ちも平穏を取り戻す。きっとこれが愛なのだろう。
「鈴は良い匂いがするね、優しい匂い、すごく安心する。どうしても自分の感情を抑えきれないときはこうして抱きしめてもらっていいかな?」
「シャルったら子供みたいね。いいわよ、いくらでも抱きしめてあげる」
「ありがとう、鈴、これからもずっとよろしくね!」
「ふふ、こちらこそ」
――その夜
僕の部屋に来た鈴が僕のために夕食を作ってくれることになった。ここ最近はずっとまともな食事をしてこなかったので、鈴の作る料理はすごく楽しみだったりする。
エプロンを付けてキッチンに立つ鈴の姿はすごく可愛かった。
だから思わず後ろから抱き着いてしまう。
「ちょっと!急にどうしたのよシャル?」
「んー、エプロンを付けて家事をする鈴が可愛くて、ついね」
「もー、もう少しでできるから座って待ってて」
「ふふ、はーい!」
僕は鈴の言う通りに座って待っている。
僕がこうして立ち直ることが出来たのは鈴のおかげだ。だから鈴にはずっと僕と一緒にいる義務がある筈だ。
これからも沢山、沢山抱きしめよう。鈴は僕の物だってハッキリさせるために、そしてどこにも行かないように。
大好きだよ、鈴。
鈴ちゃん
シャルロットが甘えるように抱き着いてくるので少し恥ずかしい
シャルロット
周囲に人がいる状況で抱き着くことで鈴ちゃんは自分の物だとアピールしている