「ふふっ、もうおしまい?昌浩?」
「じょぅ…だ…っ…がはっ、げほっ」
冗談だろと軽口を返そうとした口から大量の血液が吐き出される。
恐らく折れた肋骨が内蔵に突き刺さっているのだろう。
稀代の陰陽師安倍晴明。その孫である安部昌浩は祖父に優れども劣らない陰陽師へと成長した。
その力は成長するにつれて強くなっていき、今はその全盛期とも言える年齢にもなっていた。
実質、歴代最強の陰陽師の名を手にしたのだ。
しかし彼の名がある美しい鬼に知られたことから運命は変わってしまう。いや、それすらも定められた運命だったのかもしれないが。
美しく、孤独で、とてつもなく強い鬼。
昌浩は今、その鬼の前で、膝をついていた。
吐いた血は重力に従い地面に落ちる。
そして既に出来ていた血だまりに溶け込むのだ。
昌浩は傷だらけで、体力も、霊力も底をついている。
彼に従う式神たちもそれは同じだった。
誰ひとりとしてこの美しい鬼に適うものはいない。
昌浩に残っているものはギリギリでつないでいる気力だけだった。
「大丈夫?昌浩?」
対して鬼は昌浩を気遣う余裕すら見せている。いや、本当に余裕なのだ。鬼の体には傷一つないどころか、両者が戦いを始めてから鬼は息を乱すこともなかったのだから。
それほど、圧倒的な力の差。
それを見せつけられた今でも、昌浩の瞳は希望の光を失っていなかった。
しかし、その瞳に反して、肌はどんどん色を失っていき、体は震えている。
「ねーえ、降参?もう降参?」
そんな昌浩の周りをステップを踏みながら楽しげに回る鬼。美しい銀色の髪をなびかせるその姿にこんな場面でなければ見とれていただろう。
「ねぇ、昌浩ー?」
「はっ…まだ、やれるよ…っ」
昌浩は決意したように呟いた。
「えっ?なぁーに?よくきこえなーい」
弱りきった体から発せられた微かな声は鬼には届かなかったようだ。
鬼は身を屈め昌浩の口元に耳を寄せた。
昌浩は視界の端に映る、褐色の肌の己の式神を見た。
動かない体で必死に助けに来ようとするその姿を。
彼の喉はもう潰されてしまった。彼の手足はもう折れてしまった。
名前を呼ぶこともできず、助けに向かうことをできず、ただ己の主を見つめながらあがいていた。
昌浩は心の中で彼にそっと謝った。こんな方法でしかお前を救ってやれなくてごめん、と。
昌浩は渾身の力で目の前の鬼の頭を抱きしめた。
霊力も、体力も、底をついた。残っているのは微かな気力と…この、魂だけだ。
「俺の命と引き換えでも…お前を倒す…!!椿鬼(ツバキ)!!」
ごめんね、さよなら…紅蓮。
あとがき
早速グロタグ追加\(^o^)/