インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
幕間
「まぁどういうつもりなのか説明してもらいましょうかクソ親父」
『フフフ、私の事を父と呼んでくれるなんて嬉しいじゃないかリョウ・ツルモリ』
「冗談じゃないんですよ、ハリアップ。でないとシャルルとシャルロットが同一人物だってバラしますよ。というか今ここにいる友人にバラしてる最中なんですがね」
『ホワッ!?』
昼休み。
人気のない屋上に集まった専用機持ちの友人達、一夏、箒、セシリア、本音、そして鈴が聞いている中、シャルロットのスマホをスピーカーにして彼女の父、アルベールと会話をする綾。
「ヴぁああああジャルルぅぅぅううううう!!あんだ生ぎでだのねえええええええ!!」
「ちょ、ちょっと鈴!鼻水!鼻水ついてるってば!」
泣きながらシャルロットへと抱き吐いている凰 鈴音。
かつてシャルルと轡を並べた2組のクラス代表で、かなりシャルル時代のシャルロットとは仲が良かった。それと言うのも、
「でも、良かったわねぇ。アンタ、ずっと男のフリしてたじゃない?やっと女の子として学校通えるようになったのねぇ」
「え゛。り、鈴?なんで、それ、気付いて・・・」
「ふぁ?だって匂いが明らかに女じゃない、アンタ」
「なんか恥ずかしいよその理由!」
ずびずびとシャルロットに鼻をかんで貰いながら根拠を話す鈴。
基本的に勘と勢いで生きている彼女には、気付いていても口にしてはならない一線というものを本能的に理解していたのであろう。
シャルロットの男装ガバガバだなと思いつつ、少し鈴への評価を改める綾であった。
『ちょ、ちょっと困るよリョウ・ツルモリ!シャルロットを女として再入学させるのに色々根回ししたんだから、バレたら大変な事になるのわかるだろう!?責任、取ってくれるのかい!?むしろ責任取って!私の義息子になって!』
「ご心配なく、口の堅い人しかおりませんので。んで?どうして僕に何の連絡もなかったんですかねぇ?」
『いや、だって、ビックリさせたいじゃあないか』
「クソファックゴートゥヘル」
ぷつ、と通話を切ってスマホをシャルロットへ渡す綾。
どうどう、と綾の頭を撫でてクールダウンを図る本音を横目に、一夏は首を傾げながら言った。
「つまり・・・どういう事なんだ?」
「マジですの一夏さん!?」
ここまで伏線や事情を公開されてもよく分かっていない鈍さを見せる一夏へ、セシリアがどこか壊れたツッコミを放つ。
「いや、セラ。もういいでしょう。下手に説明して天然で誰かに漏らされるより、一夏はこのまま知らないほうがいい」
「えー・・・そういう方針で行きますの・・・?」
「何だよ、遠まわしに馬鹿にされてる気がするぞ」
「馬鹿にしてるんですよバーカ。ヴァアアアアアアカ」
「おー!?そろそろケンカの売り方のIQが下がってきたんじゃねぇかリョウ!?」
「遠まわしが嫌らしいので直接馬鹿にして差し上げたんでしょうが!」
立ち上がって水平チョップの応酬を繰り広げる綾と一夏。
もはや慣れたものとスルーする女性陣。
「詳しくは知らないが、苦労したんだなシャルロット。私で良ければいくらでも相談に乗るぞ」
「うん、ありがとう箒」
辛い経歴を持つ同士、シンパシーを覚えたのか手を握ってきた箒に照れながら返事をするシャルロット。
「ちょっとアンタ、言っとくけどシャルルの親友はこのあたしなんだからね?」
そこへインターセプトして箒から手を奪う鈴。
奪い返そうと片手でシャルロットの手を掴み、もう片方の手で鈴と組み合う箒。
「何をする鈴音・・・!貴様はもう私に敗北しただろう、退くがいい。あともうシャルルって呼ぶな」
「冗談はそのバカみたいにでっかい胸だけにしときなさいよモップ。つか一回初見殺しで勝ったくらいで調子乗られるの不愉快なんですけど!」
「む、胸は関係ないだろう!あとモップ呼ばわりするな!貴様なんて胸無いも同然じゃないか!この低身長貧乳!」
「低脂肪牛乳みたいな発音でナメた事言わないでくんない!?ホントあたま来るわねこの乳モップ!」
「ちちモップ!?」
「ちょ、ちょっと、鈴、箒、おち、おちついて・・・」
右から貧乳、左から巨乳がシャルロットの頭を挟みつつ睨みあう。
「ああ・・・知能の低い争いを行う組み合わせがまた増えましたのね・・・」
呆れたようにかぶりを振るセシリア。
そこへ、ずずいっと本音が真面目な顔つきで近づいてきたため飲みかけた紅茶をカップから零しそうになる。
「うひゃあっ!?ほ、本音さん、いかがしましたの!?」
思わず声をひっくり返すセシリアへと、本音は羨望の眼差しを向ける。
「・・・セラ、っていいよね」
「は、はい?」
「りょーちんにあだ名で呼んでもらえてるのうらやましーよね!」
目を輝かせ、鼻が当たる距離まで顔を近づけてくる本音に圧倒されるセシリア。
「そ、そう言われましても、それはリョウに言っていただかないと・・・」
「わたしもセラちーって呼んでいい?」
「よ、よろしくてよ?」
許可を貰ってにへへ、と懐っこく笑う本音。
「りんりんもしゃるるんの事、あだ名で呼べばいーのに~」
「り、りんりん!?」
「しゃるるん・・・」
独特のセンスで友人の名前を呼ぶ本音は、綾がセシリアをセラ、と呼んでいる事を内心とても良いと思っていたのである。
そして、それを超えられるあだ名を思いつかなかったため、今回綾への敗北を認める意味でもセシリアをセラちーを呼ぶに至ったのである。
「・・・ちなみに本音さん、箒さんの事は何とお呼びしてらっしゃるの?」
「ほっぴー」
「ほっぴー・・・」
何だか業の深そうなあだ名である。
「シャルロット、って呼びにくいからりょーちん、皆で呼べるあだ名つけてあげよーよー」
「ふむ・・・そうですね痛ででででででで」
「あぁ、いいんじゃないか痛だだだだだだだ」
戦いがヒートアップし、一夏を海老固めにする綾と、反撃にその顎を持って引く一夏。
今度はそんな綾へと近づき、恨めしそうな顔で見る本音。
「あとどうしてわたしだけいつまでたっても本音さんって呼ぶのかおしえてください」
「え、いや、特に理由はなく・・・」
急にガチトーンになられても怖かったりする綾。
のほとけ ほんねをいくら略そうとも、一夏ののほほんさんを超えるものを思いつかなかっただけである。
「まぁでも、普段呼びするならシャルでいいんじゃないか?」
「うん、いいよ」
と、綾と一時休戦し海老固めを外された一夏がシャルロットの呼び方について提案すると、シャルロット改めシャルは頷いて返した。
それに不満を漏らすのがあだ名ガチ勢の綾と本音である。
「ふつー」
「普通ですね」
「いや、お前らは独自のあだ名で呼べばいいだろ・・・」
一夏が苦笑しながら二人へ言うと、既にしゃるるんというあだ名をつけている本音はともかく、綾が自分を何と呼んでくれるのかどきどきするシャルロット。
「シャロ」
「犬っぽい!!」
CHArLOtteをもじった呼び方でしかもシャルと一文字しか変わらないのであるが、日本語的発音だとどことなく子犬を連想させる名前である。チャロ。
「シャロ・・・いい、いいよリョウ。これからはそう呼んでくれるんだね!」
「え、いいんですの!?シャロで!?」
すっかり突っ込み役が板についてきたセシリアであるが、既に綾に首っ丈なシャルロットには綾が専用の呼び方をしてくれるだけで有頂天なのである。
「じゃありょーちん、次はわたしー」
「さぁて昼ごはん食べましょうか」
「ねぇりょーちん!あだ名―!」
買ってきていた惣菜パンを齧り始める綾の背中をぽかぽかと叩く本音。
よさげなあだ名をつけたいのは山々であるが、のほほんさんを超えるものを思いつけず、かつ、一夏がつけたあだ名を自分も呼ぶと言うのは悔しいのである。
「はぁ・・・わかりましたよ。早く食べましょう、本音」
結局思いつかず、完全に本音のあだ名をつける機会を失った綾は、悲しみの溜め息を吐きながら残りのパンを齧るのだが、呼び捨てにされた本音はと言うと、
「・・・にへへ」
と、だらしなく頬を緩ませるのであった。
「とにかく、シャルが来てくれて嬉しいよ。これからよろしくな!」
「言っとくけど、2組じゃなくなった以上、手加減なんてしないんだからね!」
「私に答えられる事なら何でも教えてやるぞ!一夏との馴れ初めとかな!」
「しゃるるん、一緒にがんばってこーねー!」
「今度、ISの装備を見せ合ったりしませんこと?」
「ま、なべて世は事も無し、といったところですかね」
声をかけてくれる友人たちに笑顔を浮かべるシャルロット。
性別を偽って、騙していたというのに。こんな自分に居場所を作ってくれた。
父や義母の元だけではない、自分には、IS学園にも心を許せる場所があったのだ。
「みんな、ありがとう」
高鳴る胸の鼓動に喜びを感じつつ、シャルロットは一筋の嬉し涙を流した。
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そして昼食を終え、綾はセシリアとシャルロットを伴って食堂へと向かう。
実はオーボエを吹ける、と照れくさそうに話したシャルロットにテンションを上げた綾が、
「すぐ行きましょう早く行きましょう昼食なんて食べてる場合じゃないですよ!」
と、捲し立ててセシリアとシャルロットの手を取ってずんずんと歩き出したのだ。
「もう!本当にリョウは時折紳士でなくなるのが玉に瑕ですわ!」
「あはは、でも、リョウのそんな所に助けられてるから何とも言えないね」
満更でもなさそうに綾について行き、昼休みも中程まで過ぎた食堂へ辿り着くと既に生徒はまばら。
ギャラリーの数など関係ないとばかりに綾は楽し気にピアノの鍵盤へと向かい、セシリアは慣れた手つきでヴァイオリンを手に取り、シャルロットはオーボエに自分のリードを装着し、調整を行う。
曲目とパートはここに来るまでに話し合ってある。
ヨハン・パッヘルベル、カノン。
3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調、が正式名称ではあるが、カノンといえばヨハン・パッヘルベルと言っていい程に有名な曲。
それ程高難度の曲ではないために、ある程度のアレンジは可能。
初めての三人でのセッションという事もあり、かつ、シャルロットが好きな曲であるとの事なので、この曲で合わせる事にしたのだ。
流れるように、景色を表すように、歌うように、楽しむように、語り合うように。
草原を駆ける風のように流麗なセシリアのヴァイオリンと、春の陽気のように温かなシャルロットのオーボエと、川の流れの様に清らかで自由な綾のピアノの音が重なって、聴く者すべての心に癒しを与える。
そこに嘘偽りの心など無く。
演奏を終えると同時に、盛大な拍手に包まれるのが、その証明でもあった。
笑い合う綾、セシリアと、ようやくこの輪に入る事が出来た喜びにまた泣きそうになるシャルロットは、今度こそそれを堪えて笑顔を返すのであった。
ファックが口癖の主人公。