インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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ごきげんようシュヴァルツェ・ハーゼ

甲子園形式とはいえ、くじ引きで決定されるわけでは無い。

抽選自体はコンピュータによってランダムに決定され、規定時間に掲示板やIS学園生徒のアドレス、専用機持ちであればその通信コンソールへと情報が送付される。

 

便所の個室内でガンソードの二人が受信した対戦相手の名前は、チーム【絶対!アイドル宣言】。

ネーミングの時点でげんなりしてしまった綾と、突飛な名前に目をぱちくりさせる一夏が、指定時間にフィールド中央へ立った時に正面からやってきた対戦相手を見た瞬間――全く知らない人達であった事にツッコミを入れた。

 

「「誰だよ!!」」

 

知り合いの誰かがふざけたチーム名をつけてやってきたのかと思っていたが、とんだ肩透かしであった。

実力的にも大した事がなかったため、ほぼ一夏一人で瞬殺。

もはや描写する必要があったのかと思うレベルのあっけなさでガンソード、一回戦突破である。

 

「なんだったんだろうな、今の・・・」

「何にせよ助かりました。まだお腹が本調子ではありませんからね・・・」

二人して腹をさすりながらフィールドを後にする二人へと、再度生徒会長が話しかけてくる。

「ねぇあなた達、ちょっといいかな――」

「うぐっ、そんな事言ってたらまた腹がぐるぐる・・・!」

「急ぎますよ、箒たちの試合を見逃すわけには・・・!」

悲しいかな、またもすれ違うように走り去る二人。

それでも想定済であったのか、素早く追いかけ、かつ追い越して回り込む楯無。

 

「おっと、今度は逃がさないわよ。少し私の話を――」

「何ですか今うんこしたいんですよまた今度にして下さい!!」

「う、うんっ!?」

「ごめん本当に急いでるんだ!そこ通してくれ!」

「どかないと今ここで漏らして貴女に投げつけますからね!?」

「え、はい、ごめんなさい・・・」

勢いとその理由についたじろいでしまった楯無は、ほとんど無意識に彼らへ道を譲ってしまい、結局はその背中を見送る事になったのである。

 

「え、嘘。もしかして私、あの子たちとめちゃくちゃ相性悪くない・・・?」

もちろん、頭に血が上っていた綾と一夏は、彼女の事を何一つ覚えていないのであった。

 

 

やっとの思いで腹の調子を整え、自室へと戻ってラッパのマークの整腸剤を飲んで事無きを得た綾と一夏。

参加生徒用のスタジアム観戦席へと赴いた彼らは、既に勝利し二回戦へ駒を進めていたセシリア、シャルロット、箒、鈴が自分達へ手を振っているのに気付いた。

「あっちゃあ、終わっちゃったか・・・」

「しかしあの様子では難なく勝ったようですね」

ゆっくり友人達の元へと近づいていく綾と一夏に、立ち上がって出迎えるシャルロット。

 

「やったねリョウ、一夏!一回戦突破、おめでとう!」

「ありがとうございます、シャロ」

「サンキュな」

空けてあった席へ案内された二人は、勘のいい箒から、

「二人とも、戦闘中は心ここに在らずといった風だったが、何かあったのか?」

などと言われ、ぎくりとする一夏。

その原因を作ったセシリアが近くにいる以上、正直な事を言うのは憚られる、と思ったのだが。

 

「うんこしたかったんです。まだこの話題続けます?」

「あ、うん、いや、すまない」

(リョウウウウウウウウウウッ!!!)

 

どストレートに回答した綾に、すまなそうな顔を伏せる箒と、その他の女性陣。

一夏は何か言おうと口をもたげるものの、結局はこの話を続ける事に何のメリットも無い事に気付き、お辞儀をするように頭を落とした。

「せ、生理現象は仕方ないよね・・・」

「アンタら、そんなのちゃんと朝起きてからしときなさいよ!」

「はははさーせんさーせん」

基本的に一夏とホモ扱いされなければどう思われようが興味が無いスタイルの綾が適当に流し、セシリアが無言で両手を合わせて謝る中、次の試合開始アナウンスがスタジアム内へ響いた。

 

チーム【アイアンメイデン】対、チーム【シュヴァルツェ・ハーゼ】。

 

「本音のチームとラウラのチーム、ですか・・・」

フィールド中央へと集まる四つのIS。

更識 簪の打鉄弐式と布仏 本音の九尾ノ魂。

ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐のシュヴァルツェア・レーゲンとその部下、シュヴァルツェ・ハーゼ副官、クラリッサ・ハルフォーフのシュヴァルツェア・ツヴァイク。

「なんという組み合わせだ。綾、お前はどちらを応援する?」

「さてね・・・」

箒からの問いには答えず、綾はただ組んだ足に顎肘を乗せてフィールドを見守る。

それに倣って一夏や箒たちも戦闘開始を待つISへと視線を向け、一挙手一投足を見逃すまいと注視した。

 

「AICが厄介だね・・・九尾ノ魂のビットは有線式だから、一度でも捉えられたら反撃する手段が無い」

シャルロットが本音目線での相性を、AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)という、認識した対象を完全停止させる能力を軸に評するも、

「AIC自体は博打のような装備です。確かに強力ではあるが隙も大きく、発動後に出来る事も限られてしまう。それに――」

「ええ、一度戦闘して分かったのですが、発動の際、集中力を要するために出足が遅い。そのため高速で動く的を捉えにくいという弱点がありますわ」

そういう意味では高速機動を想定した装備の無い打鉄弐式と九尾ノ魂は、ラウラ達にとって格好の獲物ではある。ただし。

「総じて使いにくい能力です。それに聡い本音や簪さんの事だ、何かしら対策はあるのでしょうけれども」

綾は眼鏡のブリッジを中指で押し上げつつ、断言する。

 

「もし彼女達がAICありきの戦闘しか出来ないと考えているのであれば、ここで終わりです」

 

 

閑話休題というわけではないが、視点はフィールド上へと移る。

相変わらず眠たげな表情の本音がISを装着したままストレッチをし、簪がシュヴァルツェア・ハーゼが擁するISについて検索する中、レーゲンを身に纏ったラウラはただ腕を組み瞳を閉じて、試合開始の合図を待っていた。

 

先月、綾に完敗したあの日。

彼の言う通り、鶴守 綾の父を調査したところ、即座にその意味を理解する事が出来た。

 

鶴守 綾の苗字は母方の姓である。

父の名はレオン・ボーデヴィッヒ。

 

かつてドイツ軍、シュヴァルツェア・ハーゼを立ちあげた初代隊長であり、数々の戦果を打ち立て、いくつもの勲章を得るに至ったドイツの英雄である。

あろう事か、自分と同じボーデヴィッヒ姓。

だからといって、綾とラウラが兄妹であるという意味にはならない。

何故なら彼女は遺伝子強化試験によって生み出された試験管ベビーであり、また、彼女が誕生する数年前にレオンは軍を退役し、日本へと旅立っていたのだから。

レオンを父と仮定すると、どうしても計算が合わない。

仮にレオンが遺伝子提供者であったとしても、それを彼が軍を抜けてから利用した意味も分からず、数年間その遺伝子を保管できた可能性もない。

だが、間違いなく関係性はあるのだろうと、ラウラは時間をかけてこれの調査を行った。

 

そして知る。

およそ20年前――レオンは戦友であり親友であったゲルトナーの告発によって軍から居場所を奪われていた。

告発の内容は、上層部の許可なく遺伝子改良を施した人間を作成するという、人道を外れた研究を行っていた事による祖国への裏切り行為。

 

レオンには心当たりがあった。

軍への入隊当初から付き合いのあったゲルトナーが、日に日に自分の戦果を妬んでいた事。

自分を超える戦力となる兵士を作り上げる事に夢中になっていた事。

 

彼は嵌められたのだ。

ゲルトナーの研究のための人柱として売られたのだ。

 

そしてレオンは軍を辞めた。

数々の英雄的行為によって銃殺は免れ、自主的な退役という扱いをされて、退役金も出された。

愛する祖国に尽くしてきたのに、最後の最後で自分を信じてくれなかった祖国に、彼の心は折れていた。

その後もゲルトナーの研究は続けられた。

彼が扱う遺伝子の中には、もちろん優秀な戦士であったレオンのそれが、無断で使用されていた。

 

レオンの遺伝子を使用したクローン体の生成。

肉体強度や戦闘技術はオリジナルのレオンの鍛錬によるものであったため、戦闘能力が期待値に届かず失敗。破棄。

 

動物の遺伝子と融合させたキメラの生成。

歪な形でしか結合せず、脳が動物と人間のもので斑となって安定せず、また寿命も1年保たないため失敗。破棄。

 

その後もいくつもの実験と失敗を繰り返したゲルトナーは、最終的に生誕時から強力な肉体へ成長するよう調整された個体の育成へと方針を変え、そうして出来上がったのがラウラ。

かつての友であり、実験材料でもあった英雄の苗字を与え、戦うためだけに、ドイツの礎とするために産み出した強化個体。

結果を焦ったゲルトナーによって4歳程の肉体年齢で調整槽から出され、それでも瞬く間に他の兵士を圧倒するまでとなったラウラに手応えを感じていた彼であったが、その翌年、篠ノ之 束によってISの存在が世に知らしめられてからは、彼のそれまでの研究は無為とされ資金を与えられる事は無くなった。

ゲルトナーはあっさりとそれまでの研究を捨て、ISの研究へと取りかかった。

それが研究資金を得るための手っ取り早い方法でもあったからだ。

 

ラウラの事は、ほとんど頭の中から消え去っていた。

 

 

ラウラの体に刻まれた遺伝子改良の跡に、レオンの遺伝子の名残は無いと聞かされている。

成長サンプルとしてその形をある程度参考にしたくらいとも。

だから、ラウラと綾は親族足り得ない。だというのに。

 

(何故あいつは、わたしをそこまで構う・・・?)

 

果たしてそれが同情から来るものなのか、父であるレオンから何かを聞かされての事なのか、あの涙の真意はどこにあるのか。

ラウラは、それが知りたい。綾を理解したい。

言葉では語れない真実があろうと、ISでなら。

 

(あいつの本心を暴く。そのために)

 

上官であり生みの親でもあるゲルトナーからは、ただ決勝まで進めと指示を貰っただけだ。

奴に言われるまでも無い、わたしは行く。

綾と戦えるなら決勝進出など難しい問題ではない。

試合開始5秒前のアナウンスを耳にした瞬間、ラウラは瞳を開けてクラリッサへと指示を飛ばす。

 

「戦闘準備!前衛は任せるぞ!」

「サー!」

手加減をするつもりは無い。かといって見くびっているわけでもない。

奴と戦うまで、立ち止まってなどいられないのだから。

 

「来るわ。AICに注意して、なるべく一箇所にまとまらないよう気をつけて」

「はいは~い!」

対峙する簪も本音へと警告しながらいつでも動けるよう構えた。

一瞬でも立ち止まったら負ける。動いて動いて攪乱して、手数で攻める。

データから最善手を導き出し、本音へと情報を共有。

 

やがて試合開始のアナウンスが鳴り響く。

 

即座にラウラとクラリッサはそれぞれ大型レールカノンを対戦相手へと発射。

その命中の是非を確認するまでも無くラウラは後方上空へ飛び、クラリッサは前方へと進軍する。

レールカノンによって打ち出された巨大な鉄の塊は簪と本音に当たる事無く空を切り、回避した彼女達のすぐ背後に着弾した大型の弾丸は派手に土煙を立て、もくもくと自然の煙幕を張る。

クラリッサは右手に装備したレールカノンの次弾を本音へと狙いをつけつつ、左手のスリーブから棘のようなワイヤーを射出。

 

ツヴァイクはレーゲンよりも後期の機体であり、AICの使用方法も攻撃特化されている。

アマデウス相手では披露する事も出来ず撃破されたものの、本来であればこの機能こそがツヴァイクの真髄とも言える武装なのである。

射出された棘はAICを警戒して回避行動を行っていた簪のいた場所で回転すると、目に見えない指向性の力場が発生。棘の回転に合わせて簪の弐式の肩部装甲が目に見えて削り取られていく。

「くっ・・・!」

更に装填されたレールガンの弾を間髪いれずに本音へと射出しながら煙幕の中へ突入したクラリッサは、消えた視界の中から本音と簪をそれぞれ狙いにかかる。

更に上空からはラウラのレーゲンが狙撃を行って煙幕の範囲を広げつつ、敵の位置情報を逐次クラリッサへと通信伝達する。

 

機体名と同じく「ツヴァイク」と名づけられたその棘は、AIC指向力場を棘から発生させる事が可能であり、その力を相手を止める事ではなく攻撃的な能力として使用できるのだ。

強力な攻撃性能の代わりに装備がレールガンとツヴァイクのみ、装甲もかなり薄くなり機動力に特化させた機体。

これで攻撃・撹乱を行い、レーゲンが現場を指揮・判断し援護射撃を行い、敵の逃げ道を削って行く。

これが本来のシュヴァルツェア・ハーゼの戦術である。

白土フィールドの特性を活かし、戦術的優位を保ち続け、相手に主導権を渡さない。

 

このまま一方的に押し切られるかと思われたチーム【アイアンメイデン】簪と本音は、しかしチームワークでは決してラウラ達に引けを取らない。

「うぉりゃーーー!!」

水流操作にて擬似的な雨を降らせる事で煙幕を薄らげていく本音。

更に爆弾を見えない煙幕の中へ適当に撃ちまくって視界不良のツヴァイクをかき乱しにかかる。

そして簪は荷電粒子砲でレーゲンを撃ちつつ一定の距離を測り、S字状に動いて煙幕から離れようとする。

 

ラウラはそれが誘い込もうとしている動きである事を見切っていた。

一箇所に纏めてツヴァイクの攻撃範囲から逃れさせまいと打鉄弐式に気を取られれば、九尾ノ魂が撒きつつある罠に絡め取られる事は必然――。

 

「クラリッサ、煙幕内にビットが展開されている。煙幕が切れる前に弐式を狙うフリをして九尾ノ魂を潰せ」

「了解」

煙幕内から弐式へレールガンを発射しながら九尾ノ魂を狙い気配を消すツヴァイク。

指示しながらも今度は本音の真上に移動するラウラを見て、陽動が失敗した事を悟る簪。

「本音、レーゲンが行ったわ!こっちの狙いはバレてると考えたほうがいい!」

「むむっ、さっすがだね~!」

レーゲンを追う簪の通信を聞くやいなや、地を這うように煙幕内に展開させていた有線ビットから一斉にビームを発射させる本音。

狙いのつけ方は勘ではあったが、煙幕の立て方やレールカノンの発射角度からある程度の予測を立てて、その行く手であろう箇所へビームをばら撒く形を採ってある。

煙幕内から幾筋もの光線が伸びる。

 

その発射の瞬間を狙って放たれたレーゲンのレールカノンが九尾ノ魂を襲い、それを本音が咄嗟に回避した刹那、ほとんど消えかけた煙幕の中からイグニッションブーストを使用してツヴァイクが強襲した。

「うそっ!?」

本音が思わず驚いたのは、9本のビームがまるで当たらなかった事ではなく、ツヴァイクが出現した位置が、煙幕内からレールカノンを発射した位置からほぼ動いていなかったように見えた事にある。

 

事実、ツヴァイクは煙幕内に飛び込んでから必要の無い動きはほとんどとっていなかった。

シュヴァルツェア・レーゲン、シュヴァルツェア・ツヴァイク共に、実戦を想定してセンサー感知しにくいステルスコーティングを施しているためレーダーやセンサーで検知しにくいというのもあるが、恐らく相手は自分が煙幕内を動き続けて狙いを定められないよう動き続けると考えるだろう、と踏んだクラリッサは、敢えてその場に伏せる事で身を隠していたのだ。

それにより地面から聞こえる有線ビットの蠢く音で発射口がどこにあるかを察し、射角を計算し命中しない位置へ少し動き、襲撃する機会を待ち続けていたのである。

 

「本音!」

裏の更に裏をかかれる形になった本音がツヴァイクの棘に捕らわれるのを見て、簪は即座にツヴァイクへ薙刀を投擲し、両肩からレーゲンへミサイルを12発、連続して発射した。

薙刀を回避し、身動きの取れなくなった九尾ノ魂を簪との間に盾のように立たせるツヴァイク。

また、ミサイルの照準を合わせられたレーゲンはそれら全てを引きつけた上でAICでミサイルの動きを止め、更に。

 

「動きを止めるだけがAICだと思うなよ・・・!」

 

くんっ、と手首を引き、まるで網で引っ張るかのようにミサイルの群れを手の平で誘導して本音へと迫るラウラ。

「う、うそうそうそ~っ!!」

勢いよくミサイルを本音及びその周囲へと落とし、レーゲンがAICを解除すると共にツヴァイクが棘からAICを展開。攻撃性の力場が九尾ノ魂の装甲を削りつつミサイルを誘爆させる。

「うあああぁーーーっ!!!」

ツヴァイクがその場を離れつつ棘を収納したと同時に爆炎につつまれバリア残量を消失する本音の九尾ノ魂。

目を回してその場に倒れこんだ本音を心配する暇も無く、レーゲンが打鉄弐式へと迫る。

 

「くっ・・・!」

咄嗟に簪は広範囲防壁・不動岩山を発動させる。

厚さ20センチもの鉄の壁を瞬時に弐式の周りに幾つも幾重にも展開させるシールドパッケージであるが、ラウラはそれがどうしたと言わんばかりに両肩部からワイヤーブレードを射出し、目の前に打ち立てられた鉄の壁の隙間を縫って弐式本体の両腕を捕縛。

「しまっ・・・!」

それでも戦う意思をみせようとするものの、後続してきたツヴァイクによって防壁を超えられ、両足を棘で捕らえられてレールガンを突き付けられた時点で勝敗は決した。

 

「・・・私達の負けよ」

「投降を許可する。制圧完了であります、隊長!」

「ご苦労」

 

クラリッサの報告と決着のアナウンスを受けてワイヤーを緩めるラウラ。

終わってみれば、チーム【シュヴァルツェ・ハーゼ】の圧勝であった。

歓声の中、ラウラは観客席に座る綾の姿に気付き、じっと見上げる。

軽く手を振りかえす綾に、無意識に密かな安心感を覚えたラウラは、そんな自分を戒めるかのように首を振ってフィールドを後にした。

そんなラウラを目で追う綾たちは、あまりにも呆気ない試合展開に息を飲み込んでいた。

 

「おいおい・・・クラス対抗戦の時より強くないか・・・!?」

驚きを露にする一夏をよそに、綾は納得したように頷く。

「あの時は僕がラウラを精神的に揺らしていた事が大きかったのでしょう。指揮系統がきっちり機能したシュヴァルツェ・ハーゼは本来ならばこれほど強いという事ですね」

「AICも、あんな風に使えるだなんて・・・想定外ですわ」

「実弾系は完全に不利だね。もし当たった場合、どう戦うべきか・・・」

自分であればどう戦うべきか。即座にシミュレーションを開始していた綾、セシリア、シャルロットの3人であったが、そこへ鈴と箒の檄が飛んだ。

 

「アンタら、自分事化してるとこ何だけどさ」

「何をしている、綾。早く本音を迎えに行かないか」

「・・・そうでした」

すっくと立ち上がり、足早に観客席を後にする綾。

それを追いかけようとした一夏・・・を、シャルロットが手を引いて止めた。

「?どうした、シャル?」

「綾だけで行かせてあげなよ。こういう時、あまり大人数で行くべきじゃないと思うんだ」

「でも、友達が負けたんだぞ?心配じゃないのかよ!」

その表情は確かに友人を思っての事であるのはシャルロットにも伝わっていた。だが。

「いいから、のほほんさんの事は綾に任せて。ボクらが行く事で傷ついちゃう事だってあるんだから」

「一夏、シャルロットの言う通りにしておけ。何でもかんでも首を突っ込む事を、私は友情とは思わない」

「シャル、箒・・・」

「適材適所ってのがあんのよ、一夏。アンタにはアンタの出る幕がちゃんとあるんだから」

「鈴・・・」

そこまで言われてようやく席につきなおす一夏は、だがやはり納得いかない様で俯いた。

 

「・・・綾に出来て、俺に出来ない事が多くて嫌になるな」

「いや、そういう意味じゃなくて・・・」

どうしても男女関係に鈍感な一夏に突っ込もうとした鈴であったが、その表情が考えていたよりもずっと深刻な色をしていた事に気付き、口をつぐんだ。

「俺、この学園に来て、昔より強くなった気がしてた。千冬姉みたいに、誰かを守れる様な男に少しずつ近づいてると思ってた。けど、やっぱりまだまだなんだな。誰にでも手が届くわけじゃないのは分かってるけど、それでも俺よりたくさんの人を守れる、手を届けられる綾が、羨ましいと思うよ」

 

それは、ずっと正直に、真っ直ぐに、白く育ってきた一夏が垣間見せた暗い人間性だったのかもしれない。

幼い頃から千冬に守られ、育てられてきた一夏は、誰かを守る事に強い憧れを持っていた。

困っている人や、危険な状態の人や、悲しんでいる人を決して見過ごせない、正義の味方のような人間になりたかった。

だから身の丈に合わない無茶をして傷ついたり、失敗する事も多かった。

それでも挫けなかったのは、やはり千冬が挫けるところを見せなかった事もある。

何度失敗したって負けやしない。諦めない。

 

けれどどうだろう。

自分が失敗したり、傷ついたりする事に負ける事が無かろうと、自分以外の人間が誰かを守っているところを目の当たりにしたら。

自分が誰かを守りたいと願うまでもなく、誰かによって誰かが守られているとしたら。

 

それは失敗するより、傷つくより、一夏にとって自分の存在意義が分からなくなる事であった。

「最低だな、俺。誰かを守りたいなんて言っておきながら、誰かを守っている綾に嫉妬してるんだ。結果的に誰かが守られてるならそれで良い筈なのに。俺は、誰かを守るなんて自己満足に浸りたいだけだったのかな・・・」

自虐的に語る一夏。

「一夏・・・」

 

おずおずと幼馴染の名前を呼ぶ箒が何か言おうと口を開くが、ずっと静観していたセシリアがそれを遮って一夏へ言った。

「そもそも誰かを守りたいなんて考え自体が自己満足ではありませんこと?」

「えっ・・・」

「自己満足、大いに結構ではございませんの。自己肯定感を得られずに人は自分を認められませんのよ?」

「でも、そんなのって、まるで――」

 

まるで、守る必要がある人間を、被害者を求めているみたいじゃあないか。

そんな自分を肯定する事が許されるのか。

 

「いいじゃありませんの。常に守る必要がなくとも備えとして守る力を蓄える事は悪くないのではなくて?日本だって自衛隊があっても他国への侵略が目的ではないでしょう?災害時に助けた人に感謝されて悪い気持ちにならない人もいないでしょう?」

「それは・・・」

「一夏は潔癖なんだね。そんなに深く考えなくてもいいと思うよ」

セシリアに論破されかけた一夏へ、シャルロットが優しく微笑む。

「綾はボクにね、『君を守りません、守る必要がない環境をつくります』なんて言ったんだよ。笑っちゃうよね。そんなところ、一夏と考えが真逆なんだもの」

「守らなくていい、環境・・・?」

「常にべったり張り付いて守れないから根本の原因を取り除く、って意味じゃないかな。守るってね、難しいよ。人が本当に守れるのはせいぜい自分と家族くらいだと思うんだ。ボクも昔、それを守れなくて辛い想いをしたけど」

「家族・・・」

 

言われて、はっと気付く。

千冬が自分を守ってくれていたのは、自分が弟だから、唯一の肉親だから、大事だと思ってくれていたからではないか。

果たして姉は誰彼構わず守っていたか。いなかっただろう。

大事なものを決してぶれる事なく守りぬく。そのために妥協せず、揺るがないその在り方にこそ、一夏は千冬に強い憧れを持ったのではないか―――。

 

「・・・そうか。俺は、誰かを守りたかったわけじゃなくて・・・」

千冬のようになりたかった。

尊敬する姉のように、守りたいものを守れる人間になりたかった。

きっと、綾を羨ましく思ったのは、誰かを守っているからではなく―――

 

「・・・ただ単純に、強さに嫉妬してただけか。カッコ悪い」

 

セシリアやシャルロットの言う通り、誰かを守るとは自己満足な上に、完璧を求めるほど実現が難しい。

降りかかる火の粉を払い続ける事は出来るだろう。しかし守る対象が二人、三人となっていくにつれてそれが出来なくなっていく。火の粉から守るのが難しくなっていく。

綾がやっていたのは火の粉の発生源を断ち、シャルロットに火の粉の払い方を伝えただけである。

確かに守る必要の無い環境を作った事になる。

また、そこで繋がれた手は、シャルロットを通して一夏へと届いている。

他の誰かに火の粉の払い方を伝え、発生源を断つ知識となる。

 

きっとそれでいいのだ。

守るのは、力の無い一握りの大切だけで良い。

仲間であれば、手を繋いで、分かりあって、伝え合うだけで、それ自体が強い力なのだ。

だから、守るという概念に縛られる必要は無い。

 

「綾が言ってる、分かり合うために戦うってのは、そういう事なのかもな」

どこかすっきりとした顔つきの一夏。

その頭を軽くはたいた鈴は、叱り付けるように言う。

「言ったでしょ、適材適所ってのがあんの。アンタが守らなきゃならない人だってちゃんといるし、アンタが守れない人をアイツやアタシ達が守れる事だってあんのよ」

「そうだな、そうなんだろうな。きっとそうだ」

セカンド幼馴染の言葉に頷き、一夏は自分の手の平を見つめた。

お互いを守り合い、支え合う事で、更に大きな何かを守れる力に変える。

手を繋ぎあう事で出来る鎖はきっと強靭で、きっと遠くまで届く。

 

「強くなりてぇ」

 

ならば自分は、その鎖の中でも一段と強い塊になりたい。

他の誰かが千切れそうな時に、支えられる取っ掛かりになりたい。

あいつの相棒として、恥ずかしくない男として在りたいと、一夏は決意を新たにする。

 

「俺、もっと強くなりたい。守るためじゃなくて、みんなと繋いだ手を離さないために!」

 

「一夏・・・!」

感動して惚れ直す箒。

「ふ、ふん。気付くのが遅いのよ!」

同様にツンデレする鈴。

「今のはちょっとカッコ良かったよ、一夏」

笑って茶化すシャルロット。

「・・・皆さん、いい話風にしてらっしゃるけど、事の発端は一夏さんが男女の機微に疎い事にある事をお忘れなく?」

一応、念のため、あまり意味がないと知りながらも釘をさしておくセシリア。

そして、少し目の周りを赤くした本音と共に戻ってきた綾を出迎えた一夏が、

 

「リョウ!俺、絶対に強くなるからな!」

と宣言し、

「暑苦しい」

とすげなく切り捨てられたあたりで、次の対戦カードが配られた。

 

内容を確認した一夏達は、目を見開いてお互いの顔を見合わせる。

チーム【ガンソード】対、チーム【天嬢天華】。

綾・一夏コンビと、箒・鈴コンビの対戦である。

 




チーム名とかゲルトナーのキャラ付けとか適当ですマジで。
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