インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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こんにちは天嬢天華

アマデウス、白狼、赤雷、甲龍。

四機のISがスタジアムのフィールドに立つ。

 

それぞれが緊張の面持ちで佇む中、ISを装備したままストレッチを行う綾。

観客席にて彼らをはらはらと見つめるセシリアとシャルロット、本音。

 

また、眼帯をしていない側の瞳で観察するラウラ。

「鶴守 綾、織斑 一夏。共に、ISでの戦闘成績は1学年の中ではトップクラス。互いが互いの苦手とする攻撃範囲を補い合う事を目的として組まれたタッグだと聞きます」

「ふん・・・果たしてそれだけが理由のタッグか、見定めてやろう」

腕と足を組んでクラリッサからの報告を聞きつつ、視線はフィールドから逸らさないラウラ。

 

一夏が綾とほぼ毎晩のようにISの特訓を行っている事は知っている。

基礎の挙動訓練に始まり、姿勢制御、反復機動、ランダムターゲットへのブースト到達、防御訓練、回避訓練、模擬戦。

これは一夏専用に組まれたプログラムではなく、綾が自分用に行っているルーティーンに一夏がどうにかついていっている形ではあるのだが、現在はほとんど綾の足を引っ張る事なくついていく事が出来ている。

更に、篠ノ之 箒との剣道による攻撃スキルの向上や、学園の機材を使用した筋力トレーニング、自分で考案した成長のための食事献立、動物性・植物性のバランスを目指したプロテインの摂取。

どんなに根を詰めようと22時に風呂に入り、23時には床に就くリズムは崩さない。

アスリートさながらの生活習慣を続ける事でみるみるうちに成長を続ける一夏であるが、まだ織斑 千冬の弟としてふさわしいとは言えない。

 

(それが時間の問題なのか、この成長が一過性のものなのか。見せてみろ、織斑 一夏)

そして綾のパートナーとして相応しい働きが出来るのか。

一回戦とは違い、相手である篠ノ之 箒、中国代表候補生である凰 鈴音に不足は無い。

ラウラにとって、見逃しがたい一戦である事は間違いなかった。

 

「楽しくなりそうですねぇ」

のんきに腰を逸らす綾に、肩をすくめる一夏。

「お前はいつでも気楽だなぁ」

「緊張しても仕方ないでしょう、なるようにしかなりません。それに」

前屈を終えて腕を回しつつ、こちらを見据える二つの瞳を見つめ返す綾。

「あの二人と戦うのは初めてですからね。割と楽しみなんですよ」

「・・・ま、そういう考え方もあるか」

軽く笑って雪片弐型を構える一夏。

「今回はタッグマッチですからね、一対一の状況に持ち込めるとは思わないよう。また、僕との連携もお忘れなく」

「了解、コンビネーション重視だろ!」

「その通り」

大型銃、トルキッシュ・マーチを構える綾。

 

「言っとくけど、絶対防御だって完璧じゃないんだから、こっちは殺さず痛めつける事だって出来るんだからね」

脅しかけるような鈴の挑発。

だが、ガンソードの二人は覚悟完了とでも言いたげに落ち着き払う。

「・・・フン、上等じゃない」

「そこまでにしておけ。準備はいいか、鈴音」

二刀を抜き放ち、神経を研ぎ澄ます箒。

「アンタこそ、アタシの足を引っ張らないでよ、乳モップ」

「やかましい、低身長貧乳」

言い合いながらも箒と同様、二本の青龍刀を構える鈴音。

 

戦闘開始のアラートが鳴り響く。

「先手必勝!」

始まるやいなや一直線に箒の方へ飛び出していく一夏、それを背後から追う綾。

「そう来るだろうと思っていたぞ!」

「悪いけど返り討ちよ!」

すかさずカノン砲と龍咆を撃ち出して迎え撃つ天嬢天華。

 

「来ましたよ!」

「散れっ!!」

綾の合図と一夏の号令が共に響き、左右へと分かれる白狼とアマデウス。

それまで通ってきた空間が砲弾と空圧で蹂躙される中、連射される龍咆を回避しながらアマデウスは甲龍へ速射弾を放ち続ける。

「貴女がどこまで甲龍を使いこなしているか、見せてもらいますよ」

「いちいち上から目線がウザいってのよ!」

龍咆を撃ち続ける甲龍。その圧縮された空気砲の嵐を、側転、バック宙、後方二回宙返り三回ひねりと、アクロバティックな動きで逃れつつ攻撃を行うアマデウスに焦る鈴音。

「アンタ体操選手の方が向いてるんじゃないの!?」

「アマデウス無しでこんな動き、とてもじゃありませんが出来ませんね」

「惑わされるな鈴音!上だ!」

挑発するように注意を引きつけるアマデウスであったが、しかし、その隙に赤雷を振り切った白狼が甲龍の頭上を取った事を箒が警告する。

 

「くっ!」

咄嗟に横にひねりをかけながらブーストし、一夏の兜割りを間一髪回避する鈴音。

「くそっ!外したか!やるな鈴!」

「危なっ!!ちょっとアンタたち、正々堂々戦いなさいよ!」

追ってきた赤雷と鍔競り合いしつつ後退する一夏へ鈴が文句を言うが、すかさず飛び掛ってきたアマデウスの飛び回し蹴りを青龍刀の腹で受けることになる。

「正々堂々って何です?」

「不意打ちとか姑息な手を使わないで真正面から攻めて来いって事よ!」

「その方が貴女にとって有利だからでしょう?そんな提案をするほうがよほど矮小で姑息と思いますがね?」

「むっがー!ああ言えばこう言うーー!!」

「落ち着け低身長貧乳!舌戦では綾には勝てん!ペースに呑まれるな!」

「さり気なくアンタも低身長貧乳言うな!乳モップ!」

アマデウスを振り払って龍咆を放つ甲龍。四次元的なムーブで回避するアマデウス。

 

どうにも防戦一方な状況に歯噛みしながらも鈴は、綾と一夏の狙いが先に自分を潰す事にあると予測する。

スピードで勝る白狼が赤雷を引き離し、甲龍をアマデウスが引き付けている隙を突いて一気に決める、という寸法だろう。そう感じ取ったのだ。

 

(まぁ確かに重装甲重武装な分、甲龍はすばしっこく動けないからね。だけど――)

 

そんなので凰 鈴音を攻略できたと考えられては困る。

鈴音は龍咆による砲撃を止め、赤雷が追う白狼へと狙いを変えてイグニッションブースト。

アマデウスの射程から逃れようとする・・・が。

「それは悪手ですよ、凰さん!」

スナイプバイザーをアクティブにしてアイネ・クライネ・ナハト・ムジークで狙いを甲龍に定めるアマデウス。

赤雷と甲龍がターゲットサイト内に入ればそれで完了。撃ち漏らしは無い。

なんて風な顔をしているな、と鈴はほくそ笑む。

「なーにが悪手よ、どんでん返しの最良手だっつーの!」

赤雷とレースしながら真正面から飛んできた白狼と立ち位置を交換すべく、あえてバスター・ランチャーの射程に入った鈴は、一夏の動きを止めようと双剣を構える。

「悪いけど一夏、あのバカみたいな威力した砲撃の盾になってもらうわよ!」

「そう来たか、鈴!」

 

「!?駄目だ下がれ!鈴音!」

白狼を追いかけていた箒が綾の狙いに気付いて急停止、自由落下とランダムバーニアにより狙いをつけにくい機動を行う。

「さすが箒、気付かれましたか!」

「ちょっと乳モップ、何して――」

「行くぜ、鈴ッ!!!」

アマデウスがバスター・ランチャーを発射。しかし、その狙いは甲龍ではなく箒の赤雷。

外すと読んだ綾はそれでも鈴への目くらましのために放ち、予測通り箒は灼熱の粒子砲から難を逃れる。

 

そして、一夏を舐めてかかっていた鈴は龍咆を放たなかったがために、それを隙とみなされた一夏のイグニッションブーストで加速した白狼と高速でかち合い、すれ違いざまの零落白夜に一閃されたのだ。

「う・・・そぉ!?」

二本の青龍刀の隙間を縫い、腹から両断されるように振るわれた粒子剣によって意識を断ち切られた鈴はそのまま落下してエアバッグに包まれる。

「鈴音!」

箒が声をかけるが、バリア貫通のスタンショックにより、鈴は意識を失ってリタイア。

鈴が一夏との戦闘を選んだ時点で綾は、一夏の勝利を信じていたがゆえの戦法であった。

 

「くっ・・・二対一になってしまったか」

「僕が調整して、一夏が身につけた白狼を舐めてかかるからそうなる」

ごちりながら、アンマウントしたトルキッシュ・マーチを再度手にし、間を空けずに箒へと距離を詰めにかかる綾と、改めて赤雷へと突撃する一夏。

「よし、行くぞ箒!」

「来い、一夏!」

現行のISの中では最速に近い機動性と出力をもって、空中で待ち構える箒へ突撃する一夏。

カノン砲を回避しながら赤い装甲を射程範囲に入れた一夏は、もはや一撃必殺とも言える零落白夜を幼馴染へと向けて振り下ろす。

 

「甘いっ!」

しかし、あえて白狼の懐へと一歩分踏み込んだ箒は一刀にて雪片弐型の棟を打ち付け、もう一刀を一夏の身体へと向け斬り上げた。

「ぐあっ・・・!」

突き抜ける斬撃の痛みに思わず苦悶の声を漏らす一夏。

 

零落白夜は雪片弐型を中心から二分割に変形させ、その中央からバリアを無効化させる光の刃を精製する単一能力である。

この刃で切りつけられたものはISの基本装備である電磁バリアを貫通して、装甲であれば切り裂き、人体であれば強烈なスタンショックを与える。

しかし、逆に言えばその光にさえ触れなければただの長い剣に過ぎない。

箒は、雪片弐型の零落白夜が発生していない箇所を受け止める事で、赤雷への被斬を防いだのである。

 

「まだまだ、果てるには早い!」

痛みと衝撃でノックバックしていた一夏の隙を逃さず二刀による追撃を行おうとする箒であったが、そこへ綾のアマデウスが両手からのマシンガンを放ちながら一夏の援護に入った。

「一夏、一旦体勢を立て直して!」

「わ、悪い!リョウ!」

「ぬっ・・・!」

マニューバ機動にて迫るアマデウス。頭を振って深呼吸する一夏。飛来する弾丸。

一瞬にして立ち位置と状況を見定めた箒は、自分へ向かってきた弾丸の群れを構えた二刀にて防御するかのように弾き飛ばし、計算された跳弾の行方を全て白狼へと向けた。

勢いと威力をそのままに弾かれた弾丸が、白狼の脇腹からバリアを削っていく。

「ぐあっ!な、何だぁ!?」

「射撃の精密性が仇となったな、綾!撃たれる箇所が分かればこの程度は造作もない!」

「嘘でしょう・・・!?」

想定外のダメージに慌てた一夏がシールドで防御し、綾がマシンガンの発射を停止する。

 

間を逃さず白狼へと迫った赤雷は両刀にて連続突きから×の字での振り下ろしを放ち、大ダメージを受けた白狼をグラウンドへと叩き落とした。

「うわああっ!!」

どうにかバリア残量を残した白狼ではあったが、一夏自身がダメージから復帰するまではまだ時間がかかりそうである。

「くっ・・・!す、すげぇよ、箒・・・!」

「神業過ぎるでしょう・・・!」

不覚にも感動してしまった綾は、すぐに感想を振り払ってショットガンにて赤雷を攻撃。

さすがに散弾は対処出来ないのか、先程のマシンガンと攻撃で折れてしまった二刀を拡張領域から補充しつつ、回避に徹する赤雷。

 

赤雷自体は第二世代の専用機の中ではかなりバランス良く調整されており、癖がない機体であるが、悪く言えば特徴のない機体でもある。

更に、空いている拡張領域にはありったけの刀を仕込んであるという、刀剣戦闘のみに特化されたチューンが施されてあるのだ。

それがここまでガンソードを手玉に取れているのは、偏に箒の技術による。

研ぎ澄まされた反射神経と目の良さ、鍛錬された剣捌きが、高速の白き翼と砲撃する蒼き知将を翻弄しているのだ。

 

しかしそれでも、現状優勢であるのはガンソードの二人なのである。

「一夏、まだやれますね!」

「ああ!まだもう一発くらい、零落白夜を発動できる!」

「上等です!」

まだ戦える。戦えるから諦めない。勝機を求めて思考を巡らせ続け、立ち向かい続ける。

他に類の無い男性IS適合者である二人は、相手が誰であろうと、自分を示し、敵を理解するために剣を振るい、銃を放つ。

最後の瞬間まで、足掻く事をやめない強さが、彼らにはあった。

 

「そうだろうとも、わかっているさ。お前達がそういう二人だからこそ私は、一夏に惹かれ、綾に心を許したのだ」

 

誰にも聞こえないよう小さな声で呟いた箒は、追いすがるアマデウスのグレネードとショットガンに追い詰められつつあった。

グレネードの爆発が派手な黒煙を生み、箒の視界を遮り、刀の冴えを鈍らせる。

その隙に白狼が赤雷の死角へと回り込み、一気に加速して剣を振るう。

手段を選ばないように見える彼らのやり方を、鈴は卑怯だと罵った。

だが箒は、むしろそれが誇らしいとさえ思っている。

 

なぜなら、彼らはそこまでしなければ自分に勝てないと考えてくれているという、何よりの証拠ではないか――!

 

量子化された刀を全て出現させながら、箒は片手の刀を一夏へと投擲し、ショットガンの直撃を耐えながら綾へ詰め寄る。

白狼が刀を弾き飛ばしているうちに、対処が間に合わなかった綾は勢いをつけた箒の突きを腹で受け、続けてもう片方の手にセットされた新たな刀で首を狙われる、が。

「ぐぬっ・・・!」

痛みに歯を食いしばりながらも綾は、突いてきた右腕を脇に挟み、赤雷のボディを肩上から抱きしめるように固定する。

「ば、馬鹿っ!離せっ!戦闘中に破廉恥だぞ!」

「このくらいの役得があってもいいでしょう、これでも結構必死なんですから・・・!」

「何だと・・・まさか!」

刀の柄で殴打しつつアマデウスを引き剥がそうとする箒だが、気付いた時には既に、白狼が零落白夜を展開させた雪片弐型を振りかぶっていた。

 

「僕ごとやれ、一夏っ!」

「そう来ると思ってたぜ、相棒!」

「お前達――!」

 

赤雷の背後から勢いよく斬りつける白狼。

そこから生じたスタンショックは箒を通して綾へと伝わり、意識を断ちにかかる。

「うあああっ!!」

「ぐうぅっ!!」

箒が瞬時に意識を飛ばす中、間接的な衝撃だったためか、あるいはある程度の耐性でもあるのか、綾はどうにか箒を胸元へと引き寄せて共に落下し、その地面との接触によるエアバッグの反動ダメージをほぼ自分へ肩代わりする形で意識を失った。

 

「リョウ、箒!」

ガンソード勝利のアナウンスが流れる中、追いかけるように落ちた二人の元へと駆けつけた一夏は、意識を飛ばしながらも敵である箒を守った綾に、複雑な想いを抱いていた。

「・・・本当に、凄い奴だよ、リョウ。お前は、俺の憧れを体現してる」

意識を戻しつつある箒を抱きかかえながら一夏は呟いた。

「もし俺がお前の立ち位置なら、同じ事が出来たかな・・・」

「お前にはお前のやり方があるだろう」

誰とはなしにぼやく一夏であったが、それを聞いていた箒がやわらかく抱き返しながら答えた。

「箒、気がついたのか」

「綾に憧れていようがいまいが、お前はお前だ、一夏。逆に、綾や私に出来ない事をお前は出来るんだ。それを誇ってくれ」

「・・・そうか。ありがとな、箒」

「ん」

それだけ言うと、箒はだるそうに一夏へと体重を預けて目を閉じた。

 

あれほどの技術を見せ付けた箒にそのような事を言ってもらえた事は、一夏にとって大きな自信となった。

その嬉しさや、綾の胸の上で気を失っていた箒をすぐ抱きかかえた事が果たして、彼にとって恋愛的な意味合いを持っていたかはさておき、一人地面に大の字となっていた綾は、違う意味で衝撃を受けていた。

 

「箒のおっぱい・・・すげぇ・・・すげぇよ・・・」

 

動きを止めるために組み付いた際の、鳩尾あたりに感じたあまりに柔らかな触感を、綾は生唾と共に飲み込んで忘れないよう脳を働かせるのであった。

 

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「箒や鈴が相手でも、一切手加減無しだね・・・」

観戦していたシャルロットは、分かっていた事を改めて口にする事で、ガンソードの二人の意気込みの程を再確認した。

 

綾だけではない、一夏とて進化し、その想いを共有している。

そこから生まれるコンビネーションは、容易く打倒出来るものではない事は、誰の目にも明らかであった。

 

「本日の試合がまだ残っているのならリョウも自分ごと零落白夜の餌食になる、なんて策は取らなかったのでしょうけれども。明日以降の試合に向けてアマデウスのダメージを抑えて自身の休息に割り当てやすくしたのでしょう」

脚を組んで紅茶を口にしつつ、シャルロットの相方であるセシリアが目を細めながら微笑む。

女子のISスーツはスクール水着のようなローレグのボトムラインとなっており、オーバーニーソックス型の脚部サポーターとセットになっている。

そのため、セシリアのようなスタイルの持ち主が脚を組んでいるだけで、ある種妖艶なる魅力を発していた。

「でも、おりむーの攻撃って食らうとどんなんだろーね?ビリビリってくるらしいけど、明日に残ったりするのかなー?」

足をぱたぱたとさせながら思案する本音。

言われてみれば、と頭を捻らせるセシリアとシャルロットは、一夏との戦闘経験が無い事に気付く。

本音もそうであるのだが、綾との再戦に向けて気合を入れていたが初の白狼戦、データ収集だけでも密に行っておかなければ足元を掬われかねない。

零落白夜のダメージが残るか否かについては、ずっと傍で見ていた綾がああいった判断をした以上、明日に残るものではないのだろうと考えたセシリア達は、とりあえず本日分の試合が終了したら一夏と白狼のデータを見直そうと思案していた。

そこへ。

 

「おい」

彼女達へ話しかけてくる小さな姿があった。

銀髪と眼帯が印象的な、ライトグレーのISスーツを身に纏った3組クラス代表。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・さん?」

セシリア達の席の後ろに立っていたラウラは、シャルロットが自分の名を呼んだ事に薄く鼻を鳴らしつつ、

「今の試合について、お前達の見解を聞きたい」

「え~、もしかして敵状視察かな~?」

「違う」

からかうような本音の問いをばっさりと切り捨て、ラウラは持論を展開させる。

 

「鶴守 綾と織斑 一夏の機体データは我々で収集して計測・解析済みだ。お前達にはデータで分からない部分について聞きたい」

「データで分からない部分?」

「今の戦闘で気になった事があるんですのね?」

振り返ったセシリアの言葉に頷くラウラ。

 

「最後、敵ISが1体となり織斑 一夏のバリア損耗率が八割を切った頃だ。確かに相手は我々軍人からしても目を見張る程に、近接戦闘の技術がずば抜けていた。それでも鶴守 綾単独で倒せない相手ではなかっただろう。距離を取り、中~遠距離の間合いを保てば難しくはなかった筈だ」

「そこを、何故瀕死状態の一夏さんに自分ごと攻撃させたのか、と言う事かしら?」

「そうだ。あれが戦場なら完全な自殺行為となる。この学園での戦闘でならまだしも、本当の戦いであれをやったなら、部隊の戦力も士気も低下するのが目に見えている。自己犠牲の自己陶酔に浸って仲間を危機に晒すような行為はわたしには許せん」

 

ラウラは幼く見えるが凄まじい単独戦闘力を持った、ドイツ軍部隊の隊長であり、少佐である。

部隊の危機は自分の危機であり、部下の責任は自分の責任でもある。

だからこそ、自分の背負うチームの一員という責任を放棄するような戦法を取り、かつ、一夏が何の疑いも持たずそれを実行した事も、理解の範囲外にあったのである。

本人達に問いただすという方法もあったが、彼らを良く知る人間からの意見も取り入れてみたいと、ラウラは思った。

それはこれまでにない、彼女自身気付けていない変化であった。

 

「彼ら三人には、不思議な絆がありますの」

シャルロットと本音が顔を見合わせる中、セシリアは優雅な態度を崩さず答える。

「絆?」

「そう、奇妙な友情とも言えますわね。一夏さんと箒さんは幼馴染の仲ですし、リョウと一夏さんはこの学園で二人だけの男子。その縁で知り合ったリョウと箒さんは、男女の垣根を無視でもしているかのような友情で結ばれているように見えますわ」

「友情・・・」

セシリアの放ったワードを反芻するラウラ。

 

絆、友情。そういったものは軍の中にも確かに存在する。

単に、ラウラがそれを自分自身の感覚として認識する機会が無かったというだけで。

「戦場であれば確かに悪い戦い方ですわね。けれど、IS学園で鎬を削り合うわたくしたちは、命を賭けて戦っているのではありません。それは自己の実力であったり、将来であったり、譲れない誇りを賭けて戦っているのです。だから彼らは一対一での戦いを望まず、三人での決着にこそ、こだわったのではないかしら」

「誇り。勲章が欲しいのか?」

「違うよ、ラウラさん。ボク達は形のあるものが欲しいわけじゃないんだ」

ラウラが首を傾げるのに対し、シャルロットが笑顔で入ってくる。

「皆が皆、そうであるかは分からないけれど。少なくともボクは、自分の居場所を守りたいから戦ってる」

「居場所・・・」

「そう、ボクは亡くなったお母さんが天国で安心できるように、今のお父さんとお義母さんが心配しないように強くなりたい。そして、ボクを受け入れてくれたリョウや、皆と一緒にここで笑って過ごしたいから。ちゃんと認め合える関係でありたいから、戦うんだ」

シャルロットの力強い視線。

揺るがない意思を感じさせる言葉に、ラウラは心がじわりと熱くなるのを感じる。

 

「わたくしは、オルコット家の再興が最終目標でありますけれども、少なくとも今は」

続けてセシリアが紅茶のおかわりをカップへ注ぎつつ、

「わたくしの小さな価値観を壊して新たなプライドに書き換えてくれたリョウを超えたい。胸を張って彼の隣でヴァイオリンを奏でられるわたくしでありたい。だから、勝ちに行きますの。・・・ふふ、きっと、わたくしたち皆、リョウに夢中なのですわね」

「せっ、せっ、せらちー!?」

「そ、そんなボクは下心とかそういうのは無くて・・・!」

無自覚なセシリアの発言に慌てふためくシャルロットと本音。

そんな彼女達を見てしかし、頭を振るラウラは、少し寂しげに呟いた。

「・・・わからない。お前達の言っている事、お前達の理由は、わたしには無いものだ」

「それならラウラさんは、何でIS学園に来たの?」

「織斑 千冬教官がいるからだ」

迷わずにシャルロットの問いに即答するラウラ。

「わたしは教官に救われた。生き方と希望を与えられた。だから、教官に少しでも恩を返したい、そのために傍にいたかった。こんな場所ではなく、わたしの隣にいてほしかった・・・だが」

俯いたラウラは小さな拳をぐっと握り、迷いのある瞳を揺らす。

 

「あいつはなんだんだ。鶴守 綾。なぜ見も知らぬわたしにあんな事を言った。わたしに何を求めている。全く理解出来ないのはあいつだ、わたしはあいつの父とは関係のないところで産まれたのだ、それなのに・・・」

「!?」

溜まっていた己の中の戸惑いを吐き出すかのように言葉を紡ぐラウラに、セシリアが驚きの表情を浮かべる。

「あなた、リョウの血縁ではなかったの・・・?」

「えっ!?」

「えええ!?」

クラス対抗戦でどことなく予測をつけていたセシリアが、自分の推測が誤っていた事を確認すると、ラウラが回答するより先にシャルロットと本音が声をあげた。

「わたしが産まれたのは奴の父が軍を離れた数年後だ。血縁などない」

「そうでしたの・・・でも、リョウの父がドイツ軍にいらっしゃったのは事実ですのね?」

「隠すような事でもない」

 

だとすれば、とセシリアは思う。

血縁ではないにも関わらず、綾があそこまでラウラにこだわる理由があるとすれば、やはりそれは父親の存在が絡んでいるのだろう。

それこそ、ラウラですら知り得ない、何かがある。

「・・・ラウラさん、リョウは血縁や立場で他人をもてはやすような人間ではありません。これは想像ですけれど、彼があなたを大切と言うのにはあなた自身にきっと理由があるはずです」

「わたし自身に・・・?」

「ええ。それがあなたの内面的なものなのか、リョウのみが知るあなたの秘密や出自があるのかはわたくしには分かりませんけれど・・・」

足を組みかえながらセシリアは、あくまで自身の予想である事を強調しつつもラウラへと伝える。

 

「これだけは確実に言える事。あなたも、リョウや他の誰かを大切に思っても良いのです。彼や、あなたの仲間の想いに、応えてあげるか否かはあなたの自由なのですから」

「自由?わたしの・・・?」

 

不思議と、それはラウラの心にすっと染み込むような感覚だった。

千冬に惹かれ、ここへ来たのはあくまで自分の自由意志だったはず。

ならば、綾の意図がどうあれ気に入らなければ切り捨て、悪くないと感じれば傍に置けば良い。それを選ぶのは自分で、自分はそれを選ぶ自由があったのだ。

なぜこんな簡単な事に気付かなかったのか。

 

「・・・感謝する。一つの答えを得た」

「あらあら、塩をお送りしてしまったのかしら?」

礼を述べるラウラへと、おどけたように笑うセシリア。

シャルロットはそんな相方が、綾に似ている気がして思わず吹き出しそうなのを堪えた。

「感謝ついでに、明日以降わたしと対戦した際には全力で叩き潰してやろう」

「こちらこそ、返り討ちにして差し上げますわ」

不敵に微笑み合うセシリアとラウラ。

また、セシリアは肘で隣に座っていたシャルロットをつつき、

「ほら、あなたからも何か言いなさいな!」

と小声で催促する。

「えぇ、ボクそんな好戦的な性格してると思われてたの・・・?」

「違いますわよ、宣戦布告されたら返さなければ女がすたるってものでしょう!」

「女だからとか男だからとか、あまり好きじゃないんだけど・・・」

困ったように目を閉じて思案するシャルロット。

やがて目を開いた彼女は、鼻息荒くするセシリアの向こうからこちらを見ているラウラへ、優しく微笑みかけた。

 

「今度、一緒に洋服でも買いに行かない?みんなで!」

「お、ぉ、おぅ・・・?」

「シャルロットーーー!」

「だ、だって、出来るなら皆で仲良くやりたいじゃないかぁ」

 

反応に困るラウラ、そうじゃないと手を振るセシリア、天然をかますシャルロット。

静かに彼女達を観察していた本音はひっそりと、

「りょーちんの周りは個性的な女の子が多いですにゃぁ」

自分を棚に上げた感想を、にこにこと漏らすのであった。

 

タッグトーナメントはその後もつつがなく進み、二日目は大きな動きもなく過ぎ去る。

三日目の天候は雨。

準決勝にして、最後の幕があがる。

 




金髪とか白系の髪とか大好物です。
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