インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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今回、エグい描写ありなので注意です。


おかえりくださいお義父様

IS学園スタジアムの天井は開閉が可能となっている。

そのため天候を選ばず戦闘を行う事が出来るため、その日の天気に予定が左右される事はない。

たとえタッグトーナメント最終日であるこの日、台風もかくやという程の豪雨に見舞われていたとしても、である。

 

「酷い天気ですねぇ・・・」

「もともと予報されてたから驚きはしないけど、ちょっと陰鬱だね」

スタジアムへの通路窓から外を眺める綾とシャルロット。

灰色の空からごうごうと風の音が響き、大きめの雨粒は絶え間なくガラス窓を叩きつけていた。

 

「そういや、ISの防水機能ってどんなもんなんだ?」

「水にバリアは反応しませんから濡れはします。ですが、ISは水中でも活動出来るし絶対防御の恩恵で使用者は呼吸も出来ます。絶対防御とはどんな環境・状況でも生命の維持が出来るよう標準装備されたISの機能で、外傷を防ぐための保護バリア、24時間分の酸素ボンベ、墜落時の対策となるエアバッグ、心肺停止時にロボット操作されるAEDなど、数々の機能が詰め込まれたものが量子化されて搭載されており、必要に応じて起動するようプログラムされたものの総称として使われています。また、保護バリアによる標準的な水圧耐性は水深500mとなります」

「へぇ、なるほどなー」

「ちなみに基礎中の基礎です」

その隣にいた一夏の呟きに反応した綾が長々しく絶対防御について語り、苦笑いをする一夏へとシャルロットが注釈する。

「あと、水深500mは金属バットがぺちゃんこになるくらいの水圧だよ」

「人間じゃ簡単に死んじゃうな・・・」

「ISだって物によっては耐えられませんよ。通常シールドバリアが生きているならまだしも、無ければ装甲の薄いISは水深500mに辿り着く前に破損する可能性がある。そうなったら保護バリア自体が発生出来なくなるので使用者もぺしゃんこですよ」

「うわぁ・・・装甲の薄い機体って怖いな~」

「君の事を言ってるんですけどね」

「白狼って装甲薄いのかよ!?」

 

白狼はその機動性と突進力を確保するために軽量化されている。

それは白狼にする前の白式の段階で施されていた調整であったのだが、つまりは零落白夜の使用でシールドバリアエネルギーを消費する関係上、早期決着を目指した短期決戦型のため、装甲は軽い素材を使用しているのだ。

純粋なIS戦闘用として設計されているため局地への侵入を想定していないという事である。

 

「水には入らないよう注意しよう・・・」

「それが良いでしょう。ですが雨は恐れないでくださいね」

「まぁ、それは大丈夫だけど・・・」

「雷は感電や内部端子オーバーロードの可能性があるので避けたほうが良いですが」

「自然って怖ぇ」

「あはは」

などとやり取りしている三人を物影から観察している者がいた。

 

IS学園生徒会長・更識 楯無である。

 

実は彼女、希少な男性IS操者を狙う動きが暗部にてある事を察知し、影ながら彼らを護衛するため暗躍しているのだ。いるのだが。

(・・・全く近づけない上に、護衛とか必要ないくらい高性能なんだけど、あの子・・・)

近づけないのはただ単に間が悪いだけなのだが、護衛が必要ないというのは事実であった。

 

一夏は自分に迫る身の危険など気付きもしていない様子であったが、綾はそのあたり重々承知しているようで、ネット回線には独自のセキュリティを仕込んであったり、自室の入り口や窓、通気口に至るまで物理・熱源のダブルセンサーを仕掛けてあり、知らない人間がピッキングなどして部屋の中へ忍び込もうものなら綾の端末へその情報が入り、即警察と寮管理人を呼び出すようにしているのである。

 

そうとは知らずトーナメント二日目、綾と一夏に何とか接触せんがためにピッキングして男子部屋へ侵入し、更に若い男の子のペースを握るために露出の高いビキニにエプロンという扇情的な格好で待ち構えていた楯無は、一夏や綾の見ていないところで警察の厄介になってしまうという憂き目を見たのである。

寮管さんの説明で生徒会長の悪戯であると判明した際の、警察官の「大丈夫かこの学園」と言いたげな顔はしばらく忘れられそうにない。

 

ちなみに綾はその日、試合後はすぐ部屋へ戻らずしばらく一夏と日課の特訓を行っていたために通報した事を忘れており、寮管さんの温情にて男子二人へと生徒会長が忍び込んだという事実は伝えられなかったのであった。

 

(だからって、このまま黙って引き下がれないじゃない!)

護衛が必要ないとしても、気付かれる事も無く振り回されただけでは生徒会長の沽券に関わる。

ほとんど意地で綾と一夏のチーム【ガンソード】にまとわりついていた楯無は、今日、ようやく話しかけるチャンスに巡り合えた。

他に友人らしき者が近くにいる。

この状況であれば、あの二人に気付かれなくとも彼女とコンタクトを取って後々引き合わせて貰えば良い。

なぜそんな手間をかけなければならないのか楯無本人としても謎であったが、そういう星の元に生まれたとしか言いようがない。

今が好機、ここを逃せばすぐに準決勝開始。さらに一番人が溢れる最終日。

何者かが彼らを狙うとしたら本日が最適で、自然に近くにいるためには話しかけなければ。

使命感、責任感、意地、もろもろ詰まった感情と共にずんずんと綾たちへと歩み寄る楯無。

そしてすっと息を吸い、カリスマを感じさせる通りの良い声で彼らを呼ぶ――。

 

「ねぇ、あなた達――」

「シャーーーールローーーーーット!!」

が、楯無の声をかき消すほどの音量で低いバリトンボイスが響き渡る。

スリッパ越しにコンクリートの廊下を叩くような音と共に何者かが走り寄る気配に綾、一夏、そして名前を呼ばれたシャルロットがそちらを見やると、金色のオールバックに顎鬚を蓄えたスーツ姿の中年外国人が、手を大きく振りながらガタイの良い体躯を疾走させて来るのが見えた。

「お、お父さん!?」

「えぇ!?」

「げっ・・・」

 

シャルロットの父、アルベール・デュノア。

フランスIS企業、デュノア社社長でもある彼が、IS学園の一大行事に顔を出さないわけもなく。

驚くシャルロットと一夏、そして露骨に嫌な顔をする綾へと近づいてきたアルベールは、がばっと勢いよく愛娘を正面から抱き締めた。

「おおシャルロット!元気だったかい我が娘!会いたかったよジュテーム!」

「め、メルシーお父さん。痛いし苦しいし恥ずかしいからちょっと離れて・・・」

 

 

一ヶ月ほど前まで冷え切っていた仲の親子の姿がこれである。

確かに綾はアルベールに娘へ愛していると伝えてやれと、いったニュアンスの言葉を送ったかもしれない。

それでもここまで極端な態度に現す人だったとは思わなかったのだ。

もしくは溜まりに溜まっていた娘への気持ちが爆発しているのかもしれない。

 

「お義母さんは?来てないの?」

「もちろん来ているとも!向こうからシャルロットの姿が見えたものだからつい年甲斐もなく走ってきてしまった!おーいロゼンダ!こちらだよ!」

「もう、あなたってば本当にいつまでも若いんだから」

シャルロットから手を離して手招きするアルベールの元へ、しずしずと歩いてくる、外行きのドレスを身に纏った婦人。

シャルロットの義母、ロゼンダ・デュノアが義娘へと微笑みかけた。

「お久し振り、シャルロット。元気そうで何よりだわ」

「う、うん。お義母さんも」

アルベールほど明け透けではなく多少ぎくしゃくしているが、シャルロットと義母の関係は少しずつ改善されつつあるようではあった。

うんうんと頷いたアルベールは、その視線をシャルロットの向こうへと巡らせ、

「ところでそちらの男達は?」

「ああ、紹介するね。こちら――」

「いや、大丈夫だ。私にはわかるぞ!君がイチカ・オリムラ君だな!」

「え、はい、何で俺の事・・・?」

唐突に自分の名前をシャルロットの父が呼んできた事に驚きを隠せない一夏。

「シャルロットからよく話は聞いているからね!幼馴染の女の子と相思相愛なのだろう?はっはっは、君なら悪い虫になる事はあるまい!はっはっは!」

「お、幼馴染・・・?ど、どっちだ・・・!?」

咄嗟に頭に浮かぶファーストとセカンド。

どちらにせよアルベールにとってはシャルロットに手を出す危険のない安全な男として一夏は認定されていた。

 

「そしてそして、今まさにここからこっそり逃げようとしているそこの男がリョウ・ツルモリ君だろう!違うかね!」

猫背に忍び足でスタジアム内へと逃げ込もうとしていた綾を、確信をもって指差すアルベール。

びくりと反応した綾はしかし、眼鏡を外し変顔をつくりながら鼻をつまんで声を変え、

「い、いえ。僕こそが地上最高のイケメン・イチカ☆オリムラだぜぃえぃ」

「俺お前の中でそんなキャラなの!?」

違う意味でショックを受ける一夏をよそに、かなり無理のある綾の誤魔化しに全く惑わされる事なく、アルベールは朗らかに笑う。

 

「見たまえロゼンダ!彼が私の認めたシャルロットのアモーレ、リョウだ!」

「まぁ!彼が私達親子の絆を繋ぎなおしてくれた、あのリョウなの?」

「ちょ、ちょっとお父さん!お義母さん!」

顔を真っ赤にして両手をわたわたと振るシャルロット。

その後ろで綾は、知らないうちにデュノア家で外堀が埋められつつある事に恐怖した。

 

一言で表すのならば、何だこのおっさん。

 

いくらシャルロットのためとはいえ、関わってはならない一族に関わってしまった感が拭えない。

「いやぁ、こうして会うのは初めてだなリョウ!しかし、私が思い描いていた通り良い面構えじゃあないか、えぇ!?」

「あの、昭和のおっさんみたいな絡み方止めて頂けませんかね・・・」

「本当、素敵な子ね。シャルロットが心奪われてしまうのもわかるわ」

「だから昭和のおばちゃんみたいな絡み方止めて下さいよ!」

むしろロゼンダ婦人の方が綾の中では好みであるのだが、この初対面で一気に気持ちが萎えた。この旦那にしてこの嫁か。

しかし綾の暴言などどこ吹く風、むしろ社会的貴族である自分達へ強気に出れるその胆力が逆に夫婦の仲で綾の株を上げていく。

「これほどまでに優しさと強さを見せ付けられてはな!流石に私もシャルロットを嫁に出すのを認めざるを得ないな!」

「シャルロット、元気な子供を産んでね。浮気されないようにちゃんと掴んでなきゃ駄目よ?」

「はっはっは!手厳しいなぁロゼンダ!」

そして頼んでもいないのに娘を嫁にくれようとする親父と、ちっとも笑えないブラックジョークを飛ばすおふくろである。

 

綾としては一刻も早く逃げたいし、一夏はまるで状況についてこれていないし、シャルロットは半べそをかきながら恥ずかしさと戦っていた。

もはや綾に選べる道は一つ、徹底的にこの社長夫婦を拒絶する事だけであった。

「あのですね、何度も言ってますが、僕は貴方達の義息子になるつもりはさらさらありませんからね!仮にシャロと愛し合う仲になったとしても、デュノア社を継ぐつもりなどこれっっっっっっっぽっちもありませんから!期待すんなってんですよ!」

かなり力を込めて言ったつもりの綾であった。が。

「あ、愛し合う仲とか、そんな、リョウってばえっち・・・」

「いや何言ってるんですかシャロ!?」

「あなた、お聞きになった?彼、シャルロットを愛称で呼んでいるわ!」

「ああ、感動で涙が出てきた!もうそこまで深い仲に・・・!」

「ちっがーーーーーーーーう!!!」

拾って欲しい部分がまるで拾われなかった上にシャルロットが敵に回る。

すでに綾は人生のリセットボタンを探し始めていた。

ちなみに人生にはシャットダウンがあってもセーブポイントは無い。

 

「で、でも、リョウがそうしたいなら、ボクはいつでも・・・」

もじもじと頬を染めて上目遣いで綾を見上げるシャルロット。

これが一般的な同年代男子であれば一発で落ちるであろう誘惑であったが、しかし目の前の童貞はかなりこじらせた男でもあった。

 

「もっと自分を大事にしてください!どんだけドスケベなんですか貴女は!そこのフランス人夫婦もよく聞きなさい!僕はね、大人の女性が好きなんですよ!包容力のある方に包んでもらいたいんです!恋に恋した小娘なんかストライクゾーンに入る以前にボークですからね!邪魔なんですよ僕の人生に!」

かなり踏み込んだところまで暴言を強める綾。

聞く相手によっては心に傷を残しかねないその言葉はしかし、目の前の親子には通じない。

「大丈夫!シャルロットはあと5年もすればキミが好むような立派な大人になるさ!」

「そうよ、この子はこの人に似て大器晩成型だもの。期待してくれてもいいのよ?」

「ボ、ボク頑張るね、リョウ!」

「メンタルゾンビですかあんたら!!」

普通はこうして荒々しい拒絶をされたら熱を冷まして興味を失うだろうと考えていた綾であったが、残念な事に思い込みの激しい恋愛脳には彼の知る言語や常識は通じなかった。

 

更にアルベールは続ける。

「それにな、リョウ。私はキミがシャルロットと結婚しようと、デュノア社を継いで欲しいとはもう思っていない」

「はぁ?」

「社員達にも自分の子供を次期社長にするつもりは無いと公言してある。私が現役引退したら、その時は会社は後進へと手放してしまうつもりだ。そんな事で愛するシャルロットやキミを危険に晒したくはないからね」

「勝手に婿入りした前提で話さないで下さいな」

「聞きたまえ。それに、私がキミを推しているのは、何もキミが優秀だからというだけではない。キミならば、シャルロットを必ず幸せにしてくれるだろうという確信があるからだ。恐らくこの先、どんな男が現れようと、キミ以上の逸材はいないと断言できる」

「そんなもん知った事じゃありませんね」

人類のランク的なピラミッドで言えばほぼ頂点にいる社長という立場の男からの賛辞すら、はん、と綾は豊齢線を浮かべながら断ち切って、その顔を睨んで言う。

 

「そもそも親が子供の結婚相手を決めるってのが気に入らない。親の定めた相手とホイホイ籍を入れようとする女も気に入らない。僕は自由人ですからね、縛られるのなんて真っ平ですとも。結婚生活だってきっと嫌になって放り出してどこぞへ逃げる男ですよ、僕は」

一旦言葉を切って、大きく息を吸い込む綾。

「シャロを幸せにしてくれる?僕以上の逸材はいない?時代錯誤も甚だしいんですよ。幸せは自分で掴むものだし、親だったらどんな相手だろうが娘が連れてきた相手を信じてやるくらいの度量を見せろってんですよ。わかりますか?貴方達と僕とでは価値観が違い過ぎるんです。何を言われようが僕は貴方達の傘下に入るつもりはありませんからね」

「おお・・・」

あくまでも自分を貫く綾に、いっそ清々しさを感じて感嘆の息を吐く一夏。

それと同時に、綾は一体どこを目指しているのか、という事も気になったが、現状は聞ける空気ではない事くらいは一夏にも読み取れた。

 

「リョウ・・・キミは・・・」

「僕はIS使いとしてのシャロを尊敬している。だから、いつまでもシャロを貴方達の言いなりにしたいと言うなら、全力でぶっ潰します。今度こそシャロを守る必要のない環境に連れて行くためにね」

そこまで言うと、行きますよ、と一夏の肩を叩いてその場を後にしようとする綾。

「あ、待ってよリョウ!」

すぐその後を追いかけるシャルロット。

「シャ、シャルロット。私は、私達は・・・」

「大丈夫だよ、お父さん」

申し訳なさそうにするアルベールとロゼンダへ、シャルロットは振り返りながら笑顔で手を振る。

 

「お父さんもお義母さんも、ボクのために言ってくれた事は分かってるから!」

「おぉ・・・シャルロット・・・!」

「この後試合あるから、見ててね!」

 

走り去る愛娘の背中を見送りながら夫婦は、溜め息と共に肩を落とした。

「・・・難しいな。娘のためと思っていたが、結局はリョウの言う通りなのかもしれない」

「あなたは間違っていないわ。ただ、あの子と私達では育った環境や時代が違ったというだけよ」

「ロゼンダ・・・」

そっと、夫の手を握るロゼンダ婦人は、シャルロットが見せた笑顔を思い返して涙を浮かべた。

「あんな優しい笑顔を浮かべる子だったのね。私は、今でも後悔している。初めて会ったあの子を、感情のままに叩いてしまった事を」

「・・・・・・」

「そんな私に、こんな私達に、それでもあの子は歩み寄ってくれている。これほど幸せな事は無いわ。これ以上求めてはいけない、身を滅ぼしてしまうもの」

「そうか・・・私は、シャルロットへ与えるつもりが、求めてしまっていたのか」

夫婦は、寄り添いながら自分達の感情を戒めながらも、あの背の高い少年へと想いを馳せる。

 

「・・・彼は、本当にいろんな事を私達に気付かせてくれるな」

「あなたが夢中になるのも仕方ないわ。あんな子、見た事無いもの」

「そうだな。だからこそやはり願ってしまう。彼がシャルロットと一緒になってくれる事を」

「ふふ、それこそシャルロット自身の頑張りに期待するしかないわね」

「ああ・・・それが、娘を信じると言う事なのだな・・・」

 

きっとシャルロットは自分の幸せを、自分の力で掴み取ってくれる。

そう信じたからこそ、彼らは娘をIS学園へと送り出したのだ。

ふと、スタジアムの入り口を見やると、綾が顔を半分ほど覗かせながら夫婦へと視線を送り、威嚇するように前歯をむき出しにして中指を立て、

 

「ファーック」

「ちょっ、やめろってリョウ!」

「やめてやめて!あれでもボクの両親だからー!」

 

引きずられるように視界から消えていった。

そんな様子を見ていた夫婦はぷっと吹き出して笑う。

「ははは・・・娘の事を考えるより、私達が彼に嫌われないようにしないとな!」

「うふふ、そうね、その通りだわ」

まるで子供に戻ったかのように楽しげに笑うアルベールとロゼンタであったが、その更に後ろでは楯無が涙目になりながら行き場を無くして立ち尽くしていた。

 

「もう・・・これ、どうやったら話しかけられるのよぅ!!」

 

アルベールの勢いに圧されて結局話に割り込む事の出来なかった楯無の慟哭をよそに、わらわらと湧いていた決して少なくないギャラリー達によって、また新たな噂が学園内に広まる事となる。

 

鶴守 綾、デュノア社社長のオファーを蹴って織斑 一夏の手を握る。

そして。

更識 楯無生徒会長、男子に話しかけられない乙女さを発揮する。

 

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セシリア・オルコットは相変わらず紅茶を飲んでいた。

ISスーツにはポケットなどはついておらず、また、彼女自身は手提げも何も持ち歩いていないにも拘らず、どういう仕組みかホットの紅茶が湧いたポットとティーカップをどこからともなく取り出しているのである。

 

それはさておき、選手控え室のモニター前のベンチで対戦相手が発表されるのを待つセシリアの元へ、綾を引きずってきた一夏とシャルロットが到着した。

「遅いですわ。何してらっしゃったの、皆さん?」

「ちょ、ちょっと親に挨拶をね・・・あはは・・・」

「あら、シャルロットのご両親がいらしてるの?わたくしも挨拶した方がよろしくて?」

「あ、後でもいいんじゃないかな、うん」

「ファーキュー」

「・・・で、リョウはどうなさったの?」

「過剰なストレスで変なスイッチ入ったみたいだ。多分そのうち元に戻る」

中指を立てたままのファックモードとなった綾を適当に壁に立てかけ、一夏はシャルロットと共にセシリアの前に立つ。

 

「準決勝の組み合わせはまだ決まってないのか」

「ええ。とはいえ予定時刻まであと数分。お手洗いに行くなら今のうちですわよ?」

「保護者みたいな事言うね・・・」

むしろ紅茶を飲み続けているセシリアこそお手洗いに行った方が良いのではないかと言いたげなシャルロットに気付かず、一夏は腕を組んでモニターへ視線を向ける。

「ラウラのチームと当たるか、セシリア達のチームと当たるか。どっちにしても気を引き締めないとな」

「まぁ、最後の一組は運よく勝ちあがってきた量産機のチームのようですし、そちらと当たった場合は難なく決勝まで駒を進められるでしょうから」

「結局は両方戦う事になるって事だよね。戦闘の疲れを残さずに済むか、強い相手と戦えるかの二択か・・・」

ごくりと固唾を飲んでモニターを見守る三人。

 

やがてアナウンスと共に、準決勝の割り当てが発表される。

「来たか!」

待ちわびたとばかりに一夏が声を発すると、ようやく綾が復活してのろのろと傍へやって来た。

 

「はてさて。どうなりました?」

「リョウ、俺達はなんか知らないチームとだ」

「はぁ。昨日からツキが回ってきませんねぇ」

チーム【ガンソード】対チーム【トリケラトプス】。

セシリアの言った通り、量産機二機の特徴のないチームである。

つまり。

 

「ボク達とラウラさんのチームが対戦、だね」

チーム【シュヴァルツェ・ハーゼ】対、チーム【シャル・ウィ・ダンス】。

ラウラ・クラリッサのチームと、セシリア・シャルロットのチーム。

 

実質、これに勝ったチームがガンソードと戦う事になると言っても過言ではない。

「・・・・・・」

出来れば両方のチームと戦いたかった綾は複雑そうな表情を見せるも、いつの間にか紅茶のセットをどこかへ仕舞って手洗いまで済ませてきたセシリアがエレガントに笑う。

「ごめんあそばせ。わたくしたちがラウラ・ボーデヴィッヒを下してしまいましてよ」

「そういった強気な発言は敗北フラグなんですがねぇ」

「あいにく、そういったジンクスは信じておりませんの」

ハンカチで手を拭き、セシリアは綾の心臓の辺りをちょんと指差す。

「ラウラさんに勝ちあがって欲しいのでしたら、更にフラグを積み重ねて差し上げましょうか。綾、この戦いが終わったらデートにでも行きましょう。遊園地がいいですわ」

「せっ、セシリアっ!!」

思わず割って入るシャルロット。

またシャルルが亡くなる前に交わしたコンサートデートの約束も果たして無いのに。

そんな彼女を愉快そうに笑うセシリアに何かを感じた綾は、声を1オクターブ下げて聞いてみる。

「・・・セラ、貴女は何を・・・」

「わたくしと初めて戦ったときの事を覚えていて、綾?」

「・・・ああ、そういう・・・」

 

思い出した。

あの時も、セシリアと綾はいくつかの賭けをして、その上で彼女は敗北を喫したのだ。

「言ったでしょう、わたくしは勝ちに行きますの。フラグだろうとジンクスだろうと真正面から打ち砕く。でなければいつまで経っても、そんなくだらないものに囚われ続けてしまう」

セシリアに緊張は無かった。手に震えも見られない。

ただ、ひたすらに美しい決意だけが、彼女の瞳で燃えていた。

「・・・ここで負けたら、その思い込みが加速しそうですけどね」

「その時はそれまでの女だったと嗤ってくださいな」

「嗤いませんよ。嗤う奴は僕が許さない」

飄々とした態度で言う綾へ、嬉しそうに微笑みかけるセシリア。

「貴女は本当に誇り高い。貴女であれば、ラウラの事を託せるかもしれませんね」

「あらあら、それはフラグではありませんの?」

「僕なりの願掛けですとも」

薄く笑い、今度はシャルロットへと視線を向ける。

「シャロ、セラとラウラをお願いできますか?」

「・・・うん!任せてよ!ボクと、セシリアと、ラウラさん。絶対リョウに繋げてみせるから!」

「素敵な回答ですね」

撫でてやると嬉しそうに頬を染めるシャルロット。

そして、一夏へと視線を向ける綾は、これまでにない緊張感を湛えて言った。

 

「覚悟はいいですか、一夏」

「ああ、いつだって覚悟は出来てる。けど・・・それは何に対しての覚悟だ?」

「さてね。何か嫌な予感がするんですよ。だから」

綾の脳裏には千冬が告げた、VTシステムという単語が離れずにいた。

たかが千冬の動きをトレースしただけの機能であれば良い。

しかし、もし仮に、千冬の知らない機能などが追加されていたら。

何が起こるか分からない。だから、ここで持つ覚悟はセシリアと同じ。

 

「フラグを折る覚悟です」

「面白ぇ、何本でも叩き折ってやろうぜ」

「勿論ですわ。わたくしの全霊をかけて」

「うん!ボク達なら出来るよ!」

四人は手を重ね合わせ、お互いの目を見つめ合い、健闘を祈り合う。

 

「さぁ、行きますわよ!」

「うん!」

「ああ!」

「ええ!」

 

セシリアの号令に全員が続く。

準決勝第一試合であるラウラとの戦いを告げるアナウンスが響く。

想いと意思を胸に秘め、シャル・ウィ・ダンスの二人はお互いの手を取り合い、通路を抜けてフィールドへと向かう。

そこで待つ、黒き好敵手の元へと。

 

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茶番だ、馬鹿馬鹿しい。

ドイツ軍大佐、ニコライ・ゲルトナーは来賓席にて忌々しげに唾をコーヒーの缶へ吐き出した。

 

彼にとってISは人生を変えてしまう程の悪しきものであった。

軍人であった父の次男として産まれた彼は、その人生のほとんどを勉強に費やしてきた。

あらゆる戦術、あらゆる戦闘機、あらゆるドイツ軍の歴史が、彼の頭の中に詰まっていた。

そこまで体格に恵まれなかった彼は、それでも父の期待に応えるべく、知略をもって祖国への貢献を目論んだ。

 

戦う事は体躯の良い兄に任せれば良い。

自分に出来る事を、自分が覚えられる事を身につけるのだと、必死になっていた。

 

防衛大学を卒業した彼を待ちうけていたのは、敬愛する兄の戦死の報告だった。

 

かつて同じ大学を主席で卒業した兄の死因は、地雷撤去作業中の爆死であったという。

実家へと運ばれた兄の遺体は、脚が見つからず無残な形となっていた。

 

ニコライは恐怖した。

あんなにも優秀だった兄が、こんなに呆気なく最後を迎えた事に。

祖国からは死んだ兄へ勲章しか頂けなかった。

果たして兄は何のために産まれたのだ。こんなぐちゃぐちゃになったというのに、勲章ひとつで済ますというのか。

そういった義憤は、彼の中には一切生まれなかった。

あったのは、自分も同じように砕かれて死んでしまうのではないかという想い。

 

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

あんなみっともなく、むごたらしい、肉の塊になりたくない。

だから、死なないような強い軍隊で自分を守らなければ。

 

それからニコライは狂ったように装備開発に勤しみ、傍らで遺伝子学に没頭した。

各所の偉い方への賄賂も忘れない。

一刻も早く昇進し、戦場から遠ざかり、守る立場から、守られる立場にならなければ。

俺を守る部隊を作り上げなければ。

彼を構成していたのは、そういった死への恐怖だけであった。

 

やがて彼は、同期に幾多の戦場を巡っても尚、必ず部隊全員を生還させて来た強靭な兵隊がいる事を知った。

レオン・ボーデヴィッヒ。

幼少の頃から傭兵に育てられ、戦場で育った敢然たる現場主義の男。

その体力、勘、経験の豊富さたるや、座学のみで学んできたニコライには無いナレッジで満ち溢れていた。

 

こいつは使える。使いこなそう。

 

そう目論んだニコライはあらゆるコネを利用して彼を傍に置いた。

底抜けに明るい、気に食わない男であったが、仲が良い風を演じる事は苦ではなかった。

彼らはシュヴァルツェ・ハーゼという部隊名で活動した。

黒兎という名前はレオンが冗談半分でつけたものだが、狩りの対象となるかもしれないというニコライの不安が表われているようでもあった。

いつしか戦術のニコライ、戦場のレオンと称される程に、二人の能力は高く評価されていった。

ニコライからすれば、データ取得のためにレオンの後方に控えていたつもりだったが、周囲から好印象を持たれるのは願ってもないことだった。

 

ニコライはレオンの身体検査や能力測定の場には必ず立ち会った。

初めは尿。

次に血液。

ゴミ箱に捨てられたティッシュ。

全てがニコライの研究材料だった。

 

30歳を過ぎたある日、軍の研究機関に召集されたニコライは、彼の抱える闇に気付いた上層部の一派から一つの課題を与えられた。

無限に増殖が可能な、強靭な兵士を生み出すシステムを開発できないかと。

ニコライは狂喜した。それこそが自分の求めていたものだ。

それを作り出すにはレオンだけでは足りない。

もっと多くのデータが、細胞が、遺伝子が必要だ。

 

ドイツ軍という強力なバックアップを得たニコライの暴走は止まる事を知らなかった。

優秀な精子は集め放題だったし、脳死した女の新鮮な卵子も採り放題だった。

掛け合わされたいくつもの受精卵を、試験管の中で弄繰り回すのは、いつしかニコライの喜びへと変わっていった。

もはや彼の中には狂気しか残っていなかった。

そうとは知らず、レオンは自分と自分の研究を守るため戦場へと繰り出す。

自分を守るための使い捨てを作るために、自分を親友と思うバカが命を捨てに行く。

 

快感だった。神にでもなった気分だった。

集められた脳死体の中には、ニコライの兄の妻の姿もあった。

 

だが、40歳を超えたある日。

突然、レオンがニコライの研究室へと飛び込んできた。

うっかり口を滑らせた酔っ払いの研究員によって、自分の研究がレオンにバレたのだ。

これは祖国のため、民を守るため、自分も辛い思いをしながら耐え忍んで研究を続けてきたのだと、涙ながらに説得した。

しかし、もはやレオンは騙されてくれなかった。

上層部へとこの件を報告すると言われ、ニコライは頭に血を昇らせた。

理不尽な怒りに支配されたニコライは、入念な根回しを行った上で、己の研究を指示したのがレオンだと申告した。

 

裏切ったのはレオン、お前だ。だから俺だってお前を裏切るさ。当然だろう。

 

結局、証拠不十分で釈放となったが、軍内部でのレオンの評価はズタズタとなった。

失意のうちにレオンは軍を退役した。

その後の事は知らない。きっとどこかで野たれ死んでいるのだろう。

だが一応世話になった礼としては何だが、自分の生み出した実験兵士の名前にはレオン、お前の苗字をくれてやる事にしよう。喜べよ、俺からの友情だ。

そんな彼の研究は、レオンが軍を去った数年後、ラウラという最高傑作が誕生してすぐに打ち切られる事となった。

 

世にインフィニット・ストラトスの存在が公表されたからだ。

 

幾多の遺伝子調整を行った兵がいようと、ISが一機存在するだけでパワーバランスが崩れる戦場に、ニコライの研究を活かす場所は存在しなかった。

酒にくれ、途方に暮れるニコライはしかし、急激に襲ってきた死のイメージのぶり返しによって、今度はISの研究に明け暮れた。

もうレオンはいない。命をかけて俺を守る便利な奴はもういない。

ラウラじゃ駄目だ、あれは素材としては完璧だがまだ幼い。

今すぐISが襲ってきたら俺を守れるか。無理だろう。

だから研究するしかない。ISを、そして、俺が死なない方法を。

俺が殺されないために、最強のIS部隊を作成するのだ。

 

そのために、これだ。VTシステム。

そう、そんな名前のこれを、俺の生み出したこれにカモフラージュして―――。

 

こうしてニコライは10年近く研究して完成させたVTシステムを、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに搭載した。

起動スイッチは彼の腕時計の中に仕込まれている。

だが、まだ立ちあげるには早い。

万全を期して、ラウラが決勝まで勝ち進んで、殆どのIS操者達が疲れ果てた時を狙うのだ。

狂気を秘めた眼差しを帽子で隠しながら、ゲルトナー大佐は口角を吊り上げた。

 




アルベールお父さんお気に入りです。
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