インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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はじめまして雨色の流星

「さて、では約束どおり叩き潰してやろう。セシリア・オルコット」

「あらあら、名前を覚えてくださるなんて光栄ですわ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

フィールド中央、シュヴァルツェア・レーゲンを身に纏ったラウラと、ブルー・ティアーズを装着したセシリアが睨み合う。

「セシリア、チームワークチームワーク」

「分かってますわよ、もう」

シャルロットの呼び声に頬を膨らませるセシリア。

「シャルロット・デュノア。お前も覚悟はいいな?」

次いで、シャルロットへ視線を向けるラウラ。

「ん、覚悟ならさっきしてきたよ。ボクも、セシリアもね」

「そういう事ですわ。わたくし達よりご自分の心配をなさったほうがよくってよ?」

「ふん。口だけかどうか確かめてやる」

傲慢な物言いをしつつも、ラウラのメンタルに油断は無い。

言葉と感情を完全に切り離して挑発を行えるのも、彼女のスキルというべきか。

 

試合開始のカウントダウンが開始される。

控え室から観戦する綾と一夏は、静かにモニターから目を離さない。

観客席では箒、鈴、本音が見守っている。

そして、管制室からは千冬も。

 

アラート音と共に試合が開始され、本音との試合と同様、クラリッサのシュヴァルツェア・ツヴァイクが前衛として飛び出し、ラウラが後退する。

対してセシリアはクラリッサを横切り前方上空へと飛翔し、レーザーライフルをラウラへと放った。

「後衛で楽などさせませんわよ!」

「ふん、射撃型が前に出た事、後悔させてやるぞ」

「後悔など、最早し飽きましたわ!」

弾着位置を瞬時に割り出して回避するレーゲン。

 

その前方ではツヴァイクを迎え撃つべくシャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムIIが両手からバズーカを発射しつつ加速をつける。

どむ、どむとグラウンドに風穴が空き、土煙があがっていく。

もちろんそれは弾をツヴァイクが回避しているという証明であるのだが、シャルロットからすればクラリッサがどう回避するかという癖を知るためには、計算内の動きであった。

「貴様の機体、防御力に自信があるようだが、ツヴァイクのAICに耐えられるかな!」

「お生憎様、あなた相手に防御はそんな大事じゃないよ!」

瞬時にマシンガンとハンドマグナムで、弾幕を張りつつツヴァイクの腕にある棘の発射口を狙うシャルロット。

「貴様、ちゃちな真似を・・・」

「自分がやられて嫌な事は他人にやっても嫌な顔をされるってね、お母さんに教わったんだ!」

 

以前、綾のアマデウスと戦った際に使われた戦術の、シャルロットなりの再現。

読み合いと吸収力で言えばシャルロットは、他に並び立つものがいようも無いレベルの天才である。

それこそ、綾が嫉妬し、尊敬してしまうレベルの。

「嫌ならそう言ってね!もし嫌じゃないって言うなら・・・」

「言うなら、何だ?」

「あのAICを発生させる棘は、腕以外からも出せるって事じゃないかな!」

「!!こいつ・・・!」

 

武装の少ないツヴァイクが、その切り札である装備を狙われて尚、クラリッサが落ち着き払っている事から、シャルロットはほぼ確信に近い読みを的中させていた。

レーゲンとツヴァイクは同系統の技術により製作されている。つまり、レーゲンが背中からワイヤーブレードを射出できるように、ツヴァイクも同様の仕組みで棘を発生させる可能性は充分にある。

だからこそ最初に目立つ腕へと撃ちこんで、様子見をしたのである。

 

「こんな飯事のような学園に、貴様のような本物がいるとはな・・・!」

「おままごとは嫌い?おばさん!」

「うるさい!歳の事は言うなっ!」

クラリッサはまだ19歳である。おばさんなどと呼ばれるような年齢ではない。

かといって綾のストライクゾーンには一歳足りていなかった。

挑発しながら距離を取って砲弾を放ち、距離を詰められると踏んだら逆に踏み込んで近接ブレードで穿ち、ショットガンで弾幕を張る、冴え渡るシャルロットの戦術『砂漠の逃げ水』。

 

「くっ・・・!1体1じゃ不利か・・・!」

どうにかラウラのレーゲンと連携を取るべくリヴァイヴIIから離れようと飛行するツヴァイク。だが。

「わたくしの領域へようこそ!」

「こっちからもおまけだよ!」

突如、クラリッサの背中をレーゲンと戦闘していた筈のセシリアが発射したレーザーが直撃し、その隙を狙おうとしたラウラの銃身を、ハンドマグナムでのノールック背後撃ちされたシャルロットの弾丸が弾いて狙いを逸らす。

かくしてアリーナのバリアにて砕け散るレールカノンの弾。

 

「いい腕だ・・・!」

シャルロットの手腕に、にやりと笑うラウラ。

 

「ぐっ・・・おのれ!」

対して、動揺するクラリッサはシャルロットへレールカノンを向けるが、

「シャル、スイッチ!」

「オッケー!」

続けざまに発射されたブルー・ティアーズのレーザーがツヴァイクの手からレールカノンを弾き落とし、レーゲンへ向け加速したリヴァイヴIIがアサルトライフルを乱射して攻撃。

AICの効果範囲に入らないよう、小刻みにフェイントをかけつつ実弾を放つ。

「なるほど、相手に慣れさせないというわけか。やるな!」

セシリアはレーザー砲撃、ビットでのオールレンジ攻撃を繰り返してレーゲンのバリアを削る戦略を採っていたが、そのパターンに対応しつつあったラウラの反応を見切ってシャルロットと相手を交換したのである。

「さぁ、今度はわたくしと踊って頂きますわよ!」

「小賢しいったらない・・・!」

レールカノンを拾おうとするも、セシリアのビットから降り注ぐレーザーがそれを許さない。

高熱の光線雨が降り注ぐグラウンドをどうにか被弾を避けて回避するツヴァイク。

 

だがクラリッサとて戦場を潜り抜けた勇士である。

今は逃げの一手でも、必ず反撃のチャンスはやってくる。

そのタイミングを逃すまいと、目を光らせる。

また、ラウラも。

 

「すばしっこいな、中々に面倒だ・・・!」

AICの範囲外から中距離射撃で攻め立てるリヴァイヴII。

肩部レールカノンは大型過ぎて小回りが利かず、ワイヤーブレードは操作の複雑性から接近戦を許すはめになってしまう。

「AIC以外取り得の無いポンコツめ・・・!」

忌々しげにレーゲンを開発したゲルトナーへ毒づくラウラはしかし、防戦一方の状況を打破する手段もまた、AICにある事を察する。

 

装甲の重いレーゲンが追いつけないと言うのなら、その足を殺す。

 

おもむろに地面へ手を向けたラウラは、AICを起動。

動作を停止した地面を引き上げるように上昇し、白土の細長い山を形成する。

「こ、こんな事まで出来るの・・・!?」

もともとISは宙に浮いているため足を引っ張られるという事はないが、ラウラは曲芸じみた技でシャルロットの目を引きつけた隙に、真上からレールカノンを発射し、作り上げたばかりの山を破壊する。

「!!」

砕け散った土の破片が辺りへと飛び散り、砂埃が舞う。

更に山を貫通した巨大な弾丸が地面へ突き刺さった事により地面が割れ、砂塵の勢いは激しさを増す。

「これは・・・シュヴァルツェ・ハーゼお得意の目くらまし!」

恐らくはこれで視界が悪くなったところを頭上からの砲撃で圧殺しに来るのだろう。

そう判断したシャルロットは素早く砂塵の外へ出るべくバーニアを吹かす。が。

 

「判断が一瞬、遅い・・・!」

 

ブースト加速つきの落下にてリヴァイヴIIへと激突するレーゲン。

「うわあああっ!?」

ラウラは装填の遅いレールカノンでの砲撃ではなく、自身を弾丸としてリヴァイヴIIの足を止めにかかったのである。

衝撃に目を回すも、すぐに仰向けに立ち直ったシャルロットは咄嗟に前面へとシールドを回し、同時にラウラはAICを発動させてリヴァイヴIIの動きを停止させた。

「ふっ、今度は反応が早かったな。これでは一撃で潰せんか」

「くうっ・・・!」

ほとんど馬乗りの状態でリヴァイヴIIへレールカノンを向けるラウラに、冷や汗を垂らすシャルロット。

確かにシールドをレールカノンの砲口へと向ける事は出来たが、この距離で砲撃されたらどのくらい保つかは分からない。

 

「シャルロット!」

事態を察知したセシリアがレーザービットを二基、援護に向かわせる。

それを隙と見たクラリッサは、上空からの砲撃が手薄になった箇所を頼りにブルー・ティアーズへとブーストして歩を進める。

「くっ!こんな隙間の中をよく・・・!」

「貴様らとは、潜り抜けた実戦の数が違うのさ!」

即座に飛翔してツヴァイクから距離を取ろうとするも、ビットを回避しつつ、さらにはビットを足場にして跳ぶクラリッサの動きのほうが圧倒的に速い。

続いて、豪快な砲撃音と共にレーゲンのレールカノンが発射され、リヴァイヴIIのシールドが粉々に破壊された。

次の弾が装填されて、発射されたら終わる。

抵抗できない恐怖と焦燥感の中、シャルロットはそれでも諦めずに、セシリアの救援を待つ。

 

だが、現実はそう上手く好転しない。

既にセシリアは、ツヴァイクの背部から伸びた二本の棘に両腕を拘束され、追い詰められていた。

それでもどうにか、シャルロットだけは助けないと。

歯を食いしばりながら、ビットで目の前のツヴァイクを砲撃しつつ、遠くにいるレーゲンの腕へとビットから熱線を放つ。

しかし、ほとんど勝利が確定している時点で焦りのないラウラには見切られており、ほんの少しの身動ぎだけでその光線がヒットする事は無い。

「当たらんさ、そんな状況で操作した兵器なぞ!」

「そう、それは残念でした・・・わ!」

瞬間、AICを発生させていたレーゲンの左腕が爆発。

「なに・・・!?」

 

ラウラは見逃していた。

自身が巻き起こした砂煙に紛れ、自身がシャルロットへ体当たりを敢行した隙をつき、セシリアが一基のミサイルビットを煙の中に隠していた事を。

そして、もう一基のミサイルビットが未だにブルー・ティアーズの背部にセットされていた事に、クラリッサは気付かなかった。

 

「貴様、まだ・・・!」

「喰らいなさい・・・!」

腰部からツヴァイクへと発射されるブルー・ティアーズのミサイル。

「おおおおおおっ!!」

レーゲンの左腕が破損した事によりAICを解かれたリヴァイヴIIが、レールカノンの弾を受けながらも突き出すパイルバンカー。

 

逆転。

そう期待せざるを得ない会心撃。

―――しかし。

 

発射反動によりレーゲンが後方へずれた事、レールカノン被弾時のノックバックにより数センチ当たりが浅かった事。

それがパイルバンカーの一撃の威力を殺した。

 

また、飛び出したミサイルを間一髪で回避し、棘のAICを発動させたツヴァイクがブルー・ティアーズの腕装甲を破壊。

バリア残量を失ったシャルロットは敗退。

ダメージによりブルー・ディアーズも落下していく。

 

決着はついた。

 

「シャル!セシリア!!」

一夏が思わず叫ぶ。

「・・・!」

綾がそっと目を伏せる。

観客席にいる箒達も。

来賓席で頭をかかえるアルベールとロゼンダ。

高慢に鼻を鳴らすゲルトナー。

誰もが、ラウラ達の勝利と受け取った。

 

そう。

セシリア・オルコット以外は。

 

(諦めない・・・!)

落ちゆく身体を叱咤し、上体を起こそうとする。

(腕が壊れたなら、脚で撃てばいいじゃない!銃が無いなら、噛みつけばいいじゃない!)

バリアの残量はもうほとんど僅か。

このまま地面と衝突すれば、それでバリアは失われる。

(このザマで明日もリョウとソナタを奏でられて!?あれだけの大口を叩いて通りを歩けて!?)

散々鍛えてきた筋肉を無理やり稼動させる。

接地まで、あと僅か。

(このままお母様に顔向けが出来て!?あの糞みたいなお父様に嗤われたままでよくて!?)

管制室は、試合終了アナウンスの準備にかかる。

(何より、あの状況で信じてくれたシャルに、どう謝るつもりなの・・・!)

溢れる涙は遠くへ、戦意だけは失わず、凛とした声は、一番近くにいた愛機へと。

 

「まだ終われないでしょう―――ブルー・ティアーズ!!」

 

その言葉と共に、地面すれすれで落下を止める青い雫。

誰もが目を疑った。

セシリアの身体を包む光の正体が分からなかった。

ラウラとクラリッサ、シャルロットすらも、寒気を感じてセシリアへと顔を向ける。

違和感に顔をもたげた綾も、一夏と目を見合わせてその光景に見入った。

「リョウ、一体、何が起きてるんだ・・・!?」

「二次移行(セカンドシフト)・・・!」

 

量子化されたブルー・ティアーズはその形を再構成し、更に鋭敏に、更に攻撃的に、更にエレガントに、その姿を変化させていく。

 

「ISは進化するんです。操者との経験や同調率が一定値を越えた時、その能力をもっと引き出せるよう、ISが操者に合わせた姿へとシフトチェンジする・・・!」

「!リョウと最初に会った時に言ってたのって、これか!」

 

愛を注げばISはそれに応える。

あの時は単なる例えだと思っていたが、白狼と繋がり続けたこの三ヶ月弱でならわかる。

あれは比喩ではなく、IS自体には意思のようなものがあって、使う人の心に反応し、更に力を貸すため尽力してくれると。

 

やがて光が引き、セシリアが纏うISは既に、ブルー・ティアーズではなくなっていた。

 

更に大きさを増したレーザーライフル。左腕にマウントされた一門の小型レーザーガトリング。

四枚のウイングへと増設されたスラスター。

細やかな姿勢制御と急転換、脚部AMBACを補助させるための小型バーニアが腰と踝、爪先に。

そして虎の子の兵器であるビットはその数を増加させ8基に。

うち6基が出力と砲門を増やしたレーザービット。

うち2基は小型スプレッドミサイルで弾幕にもなるミサイルコンテナに。

王冠を模したヘッドギアと、騎士のような長い肩部バーニア、透き通るような空色が特徴的な、その姿。

 

涙は既に乾いている。後はただ、駆け抜けるのみ。

青い雫は、雨色の流星へと進化を遂げたのだ。

 

「行きますわよ、レイニー・ステラ!!」

 

その名を告げたセシリアが飛ぶ。

アリーナで見ていた全ての観客が歓声を忘れて息を飲む、美しいブースト。

進化したからといって、バリアの残量が増えたわけではない。一発でも攻撃を受ければ終わる。

それを理解して尚、セシリアはもう負ける気がしないのだ。

 

「馬鹿な、この土壇場でセカンドシフトだと・・・!?」

「隊長、指示を!」

「・・・!レールカノンを拾いに行け!恐らく射程距離が伸びている、接近戦に持ち込めると思うな!」

「サー!」

ラウラがクラリッサへ指示を飛ばしている間に、セシリアはレーゲンとツヴァイクの真後ろの上空へと飛翔し、振り返りながら急停止。

そのスピードに思わず唖然とする、ラウラ、クラリッサ。

「速過ぎる・・・!」

「今の、白狼と同じくらい速いんじゃないか・・・!?」

「ええ、狙撃手があのスピードで動けるなんて、接近戦主体のISからすればたまったものじゃない・・・!」

一夏と綾が目を見開く。

 

もちろん速いだけではない。

その射程距離も、威力も、精密性も、充填速度も、レーザー放出可能時間も。

 

ターゲットサイトを起動し、レールカノンを拾おうとジグザグにバーニアを吹かすツヴァイクへと狙いを定めるセシリアは、トリガーを引く前から直撃の手応えを感じていた。

「シュート!」

発射される集点レーザーライフル。

武器を拾う一瞬を狙った一撃は、残り少なくなっていたツヴァイクのバリアを焼きつかせ、リタイアへと追い込む。

バリアを失ってISが強制解除され、クラリッサは驚愕に周囲を見回した。

 

「な、に・・・!?ま、負けたのか、いつ・・・!?」

クラリッサに敗北を悟らせる事無く、バリアのみを削り取ったその腕に戦慄するラウラ。

地上から見上げれば、ゆっくりと降臨する様にその高度を落としていくレイニー・ステラの姿が見えた。

 

「シャルロット、聞こえて?すぐにフィールドから退避してくださいな」

「セシリア・・・!うん!」

自分がいつまでも残っていては邪魔になる。

ふらつく身体をおして戦場を去ろうとするシャルロットへ、ラウラは呆然と問うた。

「シャルロット・・・あいつは、何なんだ・・・!?」

「・・・決まってるじゃない」

一瞬だけ振り返って、シャルロットは笑った。

「ボクの、友達さ」

 

 

シャルロットが控え室まで戻り、綾に肩を借りながら出入り口付近からセシリアを見守る。

あと一撃。

あと一発当てればラウラの勝利だというのに、この焦燥は何なのか。

理解が追いつかないラウラへと、ガトリングを展開させたセシリアは、最高に集中した状態――ゾーンへ侵入した目つきで見据える。

 

「行きますわよ」

「相当アドレナリンが出ているようだな。だが、わたしとて負けるつもりは無い!」

 

レールカノンを発射しつつ飛行し、螺旋状に機動する事で狙いを定められにくくするラウラ。

だが、ラウラの武装全てを見切りつつあるセシリアは回避しながらガトリングで弾幕を張りつつ、その曲線的な動きに背後から追いすがる。

「その速度でこの回転機動についてくるだと・・・!?」

レイニー・ステラの速度はあまりに速く、通常のISならばこのスピードを制御出来ずに円周から外れて吹き飛んでいくのがオチである。

それを、細やかなブースト操作と華麗なまでのAMBACで、しかもガトリングを当てながら追随してくるセシリアの姿は、恐怖以外の何者でもない。

「すげぇ・・・すげぇよ、セシリア!」

「ええ、何て美しい・・・!」

心奪われ、感嘆の吐息を吐く一夏と綾。

シャルロットもまた、一歩先の領域へと踏み出したセシリアへ、言葉を失いつつも憧憬の眼差しを向けていた。

ワイヤーブレードを全てレーザーライフルで撃破されたラウラは、一か八かの賭けとしてバックブーストし、AICをセシリアへと向ける。

 

「これで、どうだっ!!」

「ブルー・ティアーズ!!」

 

動きを止められる直前、もはやビット自身の名前となった兵器の名を呼び、八方へ射出するセシリア。

その挙動は手動やオートマティックではなく、彼女自身の脳波と意思、空間把握能力によって狙いを定め、発射する事が可能となっている。

もはや、ビット使用時に他の武器が使えなくなるという欠点は存在しない。

「まさか、そんな・・・!」

 

「舞いなさい、青き雫ッ!」

 

号令と共に防ぎようの無いレーザーの嵐がレーゲンを襲う。

頼みの綱のレールカノンを溶解させ、残っていたバリアすらも失わせていく。

「こんな、ことが――」

ただただ、呆気にとられたように、みるみるうちにバリアを失って敗北するラウラ。

ISを解除され、落下していくラウラの身体を咄嗟に受け止めたセシリアは、荒く息を吐くラウラへ向けて感謝を述べた。

 

「ありがとう、ラウラ。もしも気に障ったのなら謝ります。でもどうか言わせて頂戴」

「・・・なんだ?」

 

「あなたのお陰で、わたくしは一つ強くなれましたわ」

 

「・・・・・・・」

「わたくしはまだまだ、止まりません」

 

チーム【シャル・ウィ・ダンス】勝利のアナウンスが流れ、一気に歓声が湧く。

スタンディングオベーションで泣き笑いするデュノア夫妻。

鼻をすすりながら目に溜まった涙を堪える鈴。

喜びにハイタッチする箒と本音。

やがて、ゆっくりとラウラを地に下ろしたセシリアは、走りよって来るシャルロット、綾、一夏の姿を確認すると、にこりと笑い、

 

「リョウ、シャル。目が覚めたら、褒めてくださいましね」

 

緊張の糸が切れたかのように気を失ってISを解除させた。

「セシリア!」

自身も傷ついているにも関わらず、ダッシュして抱き止めるシャルロットは、その安らかな寝息を聞いてほっとしたのもつかの間、自然と涙が溢れるのを止めようが無かった。

「凄いよ、セシリア。キミは本当に凄い。キミと組めた事、ずっと自慢に出来るよ」

相方を強く抱きしめながらシャルロットは嗚咽をあげる。

「・・・褒めますとも。猫可愛がりして差し上げますからそのつもりで」

シャルロットの肩を優しく叩いた綾は、一夏に手を借りて立ち上がったラウラへと向き直った。

 

「・・・残念でした」

「残念なものか。むしろ清々しくある」

強がるようにラウラは視線を背けつつ答えた。

「確かに迫ってくるあれは恐怖だったが、終わってみれば心の震えが止まらない。わたしは、とてつもない女と戦ったのだな」

「そうですね。僕も驚いています。セラは・・・僕の最初のライバルは、ここまで気高く魅力に溢れているのですね」

そんな彼女と同じクラスで学び、同じ曲を奏でる事が出来る事。

綾には、それがとても誇らしくてたまらなかった。

同年代に興味がないと言って憚らない彼ですら、心奪われてしまう程に。

 

 

担架で運ばれていくセシリアと、付き添うシャルロットを見送る面々。

「残念というなら、お前と戦えない事もそうだな」

ふと、ラウラが宙を見上げながらごちると、その頭を優しく撫でた綾がやはり軽薄に微笑んだ。

「いつだって待ってますよ。なんだったら、明日でもいい。僕が君を拒む事は無い」

「ああ、俺から千冬姉にIS起動申請出しとくから、思いっきりやれよ」

「一夏・・・」

ラウラが一夏をゆっくりと眺めると、景気の良い笑顔で返してくる。

「リョウが大切に思ってるお前なら、俺にとっても友達だ。いつかちゃんと千冬姉の弟として認めさせてやるから、覚えとけよな」

「・・・ああ、そうか。そんな事も言ったな、わたしは」

 

全てが懐かしく思える。

IS学園に来てから敗北を繰り返した。

それでも、確かに得られたものは多く、ラウラ自身もこんなに穏やかな自分は信じられないくらいだった。

可能ならば、自分の居場所はここにしたいと、そんな風にすら思えた。

 

「・・・綾、教えてくれ。おまえはなぜ、わたしに構う?おまえにとってわたしは何なのだ?」

「ええ、それにもちゃんと答えましょう」

「その必要はない」

柔らかな雰囲気を壊すように、裏返った声が届く。

 

声の方向を見やると、葉巻に火をつけたゲルトナー大佐が怒りの表情を湛えてフィールドに降り立っているのが見えた。

 

「あの男・・・!」

「大佐、わたしは――」

「黙れポンコツめ。俺の計画を早めさせやがって!俺がお前にいくらかけてきたと思ってやがる!」

本性をあらわし始めた狂気の科学者は、葉巻をくわえた歯の間から涎を撒き散らし、腕時計に仕込まれたスイッチを力強く押しこんだ。

 

「お前はここで処分する。俺のために死ね!ラウラ!」

 

「!ラウラ、ISを手放して!」

咄嗟に綾が叫ぶも、ラウラの腿に装着された待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンが怪しい光を放ち、膨張するかのように形を変えてラウラを包み込んでいく。

 

「な、何だこれは!?ぐっ、が、あああああああああああああああっっ!!!」

「ラウラーーーっ!!!」

「マズいって、逃げろリョウ!」

 

暴走したIS量子が苦悶の声をあげるラウラを粘液のような金属となって絡めとり、その姿を変貌させていく。

爆発的に膨れ上がり、膨張し、体積をどんどん増やしていく。

「レベルDの警戒態勢!ここは任せる!」

「りょ、了解!」

山田先生へ素早く指示を飛ばした千冬が現場へと走る。

VTシステムが起動したのだとは思う。だが何故だ。

何故こんなにも不安がよぎるのか。

その答えは、逃げ惑う生徒や来賓を押しのけた千冬がフィールドへ到着した時に知るには既に遅く。

 

ヴァルキリー・トレース・システムなどという小奇麗な名称からは程遠い、醜悪で巨大な、アメーバのような化け物が、グラウンドの3分の1程を支配していた。

 

「何だ、こいつは・・・!?ゲルトナー!」

「おやおやブリュンヒルデ、遅かったじゃあないか!」

ラウラがボロボロにした白土の上を危なげなく駆ける千冬がゲルトナーを問い詰めると、彼は綾や一夏の怒りの視線を受け止めながら叫んだ。

 

「これが俺の研究の極地!俺を守護する概念の化身!その名を!VTシステムだよォ!!」

 

その声に呼応するように、ラウラを飲み込んだ獣が金切り声のような悲鳴をあげた。

 




主人公誰だっけ。
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