インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
ラウラを取り込んだそれは、泣き喚くかのように閉じられたスタジアムの天井へと顔らしき箇所を向け、凄まじい水圧の溶解液を放った。
対ISのシェルターを参考に作られた天井であったが、吹きつけられた液によってみるみる溶解し、嫌な臭いと共にグラウンドへベトベトの残骸となって落ちてくる。
どうにか走って回避する綾、一夏、千冬の三人。
各所で悲鳴のあがる中、空いた天井の穴からは強烈な勢いで雨が流れ込んできた。
『巨大アンノウン出現!暫定的にアンノウンをモルドスライムと呼称!非戦闘者は指示に従い、速やかに退避してください!』
山田先生の声がスピーカーから響き、フィールドと観戦席を遮るバリアの出力が上がる。
想定外の事態に騒ぎが大きくなりつつある観客側であったが、そこへマイクを手に生徒会長の姿がグラウンド上に現れ、混乱する生徒達へと指示を飛ばした。
『各自、IS展開可能な生徒は展開して事態に備えて!一年の専用機持ちは率先して来賓と観客生徒の退避を優先!二、三年の専用機持ちは各自、ISを展開してモルドスライムを攻撃!これは演習じゃない、覚悟と装備が足りない者は退避を!繰り返す、これは演習じゃない!』
スピーカー越しに届いた学生最強の声に頷き、専用機持ち生徒それぞれが緊急用ゲートからグラウンドへ走り、ISを起動していく。
また、ISを使える千冬以外の教師陣もまた、グラウンドへ集結してISを起動。
頷きあった箒、鈴、本音もそれぞれのISの名を呼び、生徒会長・更識 楯無もまたマイクを投げ捨てつつ、そのハンドメイドにて製作した自慢のISを展開させる。
ただ一人、更識 簪だけは、普段から頭に装着させているヘッドギアセンサーと、それと同期している眼鏡型ディスプレイが、モルドスライムが出現してから途端に機能不全を起こした事から、嫌な予感に従ってIS装着を躊躇った。
(あの鳴き声の動作、呼吸みたいな・・・何か出てる?センサーの異常、外部通信不能、何、この違和感!姉さんでも気付いてない!?)
ぞくりと悪寒を感じる簪。
「アマデウスッ!!」
「来い、白狼っ!!」
頭に血を上らせた綾、呼応して一夏も自らのISを呼び出す。
そこで、一斉に異変が起こった。
楯無をはじめ、生徒や教師がISを呼び出すにつれて量子が誤作動を起こし、結晶体のような形へと変貌し、まるで操作も受け付ける事なく操者の身体を拘束していった。
「う、嘘っ!?これはっ!?」
動揺する楯無は首から下が結晶に包まれてしまい身動きがとれない。
他のIS保持者も同じく、鈴や本音も結晶化したISによってベンチに固定されてしまった。
「な、何なのよ、これっ!?」
「うごけない~っ!」
「ハーハハハ!!バカめ!これで貴様らは俺の実験材料となるわけだァ!!」
狂気的に笑うゲルトナー。
うめくIS使い達を振り返り、千冬は目の前で葉巻をふかす男をにらみ付けた。
「何をした、ゲルトナー大佐!」
「ヴィールス・トランス・システム!名前を聞いてピンと来ないか!?これが起動した時点で貴様らは詰んでるんだよ!ISを起動すれば、質量形成プログラムにバグが発生して結晶化、無力化させちまうのさァ!!」
「ヴィールス・・・!?そうか、コンピュータウイルスか!」
ヴィールス・トランス・システム。
ゲルトナー大佐がIS黎明期から構想していた、ISを滅ぼすためのシステム。
第三世代ISシュヴァルツェア・レーゲンのコアを暴走させてゲル状の大型化したボディへと変貌させる機能であり、人体に影響がなく、目に見えないサイズのナノマシンを常に胞子の如く大量散布し、それに触れたISの展開・維持機能を破壊し、結晶化させる事でそもそも使用が出来なくするためのシステムである。
母体となるIS操者―――今回であればラウラについては、システムが起動された時点でその意識を奪われ、人体そのものをエネルギー源として取り込まれ、モルドスライムが養分を吸い尽くして死ぬまで脱出が不可能となる。
また、これに触れた電子機器についても同様で、機能不全や通信妨害が発生し、ほぼ使い物にならなくなるのである。
「何てこと・・・!すぐ外部へ連絡しなきゃ・・・!」
第六感とでもいうべき勘によりISを展開させなかった簪が、この脅威を伝えるべくスタジアムの外へと出ようと走るがそこへ、サブマシンガンで武装したドイツ軍隊の群れが観客席及び来賓席を占拠した。
「動くな!!」
威嚇射撃を頭上へと放った彼らは、許可なく動けば射殺すると警告を行う。
たちまち、女子生徒達による金切り声の悲鳴がオーケストラとなってスタジアム内に響き渡る。
更に、天井に空いた穴からも数名の兵士がワイヤーを下ろしてグラウンドへ下り立ち、動けぬ恐怖に顔を歪めたIS使い達へとアンプルで何かしらの薬を打ち込もうとする・・・
が。
「何やってんだ、お前らァ!!」
そこへ一夏の白狼が突撃し、生身の兵士を次々と殴りつけては昏倒させていく。
「は・・・?」
きょとん、とするゲルトナー。
全て結晶化させた筈のIS使いが、何故ISを身に纏ってここにいる?
無力化させたIS学園を乗っ取り、保有しているIS、専用機を全て接収し、各国の要人を人質とする事で世界への発言権を得て、結晶化したIS操者は睡眠薬を投入しておき、結晶化が解除された後には選別を行う。
優秀な者は薬物を打ち込んで操り人形とし、残りは新たな実験材料とするも、人身売買による資金調達に充てるも自由自在となる。
そして世界中の誰もが、祖国すら、核兵器すら自分に危害を加える事の出来ない、最強の帝国をここへ築き上げる。
その筈だった。
計画は完璧だった筈だ。
これから勝ち誇ってその全容をブリュンヒルデたる千冬へ教えてやろうとしていたのに。
何故、ウイルスの影響を受けていないISがいる?
「狼藉者ども、恥を知るがいい!!」
また、観客席側でも箒の赤雷が、簪を拘束しようとした兵士を蹴りつけ、返す刀で残りの兵士を打ち倒していく。
「無事か、更識!」
「あ、ありがとう篠ノ之さん!聞いて、推測だけどこの事態は――」
自分のいるブロックの兵士を無力化させた箒へと、状況を説明する簪。
「織斑と篠ノ之は無事だったか・・・!」
状況を把握した千冬が元凶となるゲルトナーへ向けて走り出すが、それより遥かに速く、蒼い弾丸と化したアマデウスがその強靭な拳で不埒者の肩口を殴り飛ばした。
「ぎ、ぎぃゃああああああああ!!!」
重厚な金属の塊たるISに殴られ吹き飛び、腕があらぬ方向へとひん曲がり、頚椎にヒビが入り、鎖骨が折れ、肩関節と肩甲骨がぐちゃぐちゃになる痛みに滂沱の涙と悲鳴をあげるゲルトナー。
「鶴守!」
「何をした・・・おまえ、ラウラに何をしたァ!!!」
千冬の呼び声も聞かず、吹き飛んだゲルトナーを掴みあげて引き寄せる綾のアマデウス。
「い、痛い!痛いぃぃ!!死ぬ!死んでしまう!死ぬのはいやあああああ!!」
「僕は今、ラウラについて聞いてるんだろうが!!」
「ぎゃひいいいいいい!!」
「落ち着け鶴守!本当に喋れなくなるぞ!」
傷ついた腕を握り潰しながら恫喝する綾をどうにかなだめた千冬は、こちらへ狙いをつけてモゾモゾと動き出したモルドスライムに舌打ちしながらゲルトナーを乱暴に担ぎ上げ、
「話は私が聞いておく。鶴守、織斑!お前達はどうにかモルドスライムを沈静化し、ラウラ・ボーデヴィッヒを救出せよ!」
「了解、千冬姉!」
「言われなくとも・・・!」
あらかたグラウンド上の兵隊を叩きのめした一夏と、忌々しげに巨大な化け物を見上げた綾が連携を組むべく中空へと飛ぶ。
それを見送った千冬へ掴みかかろうと、人間の二、三人は捕まえられそうなサイズの手を成型したモルドスライム。
さながら回転扉が回るような速度の動きであるが、いかんせん回避するには巨大すぎる――しかし。
それがどうしたとばかりに、ゲルトナーを抱えたまま短距離走世界記録を軽く塗り替えそうな速度で走って回避した千冬は、あっという間にモルドスライムを振り切ってそのままグラウンドを後にした。
一夏と箒のISが無事なのはおそらく、篠ノ之 束謹製の耐ウイルスプロテクトでも装備されていたのだろうと思うが、なら何故、綾のアマデウスが無事であったのか。
もしかしたら、無事であった三機は千冬ですら知り得ない共通点があったのかもしれないが、今はそれを考えるべき時ではない。
「おい、ゲルトナー!言え、あれを止める方法を!」
「ひぃぃぃいいい、死ぬ、痛い、死んじゃううううう!」
「さっさと言え!さもなければ今ここで殺すぞ!」
「いやだぁぁあああ死にたくない!だって、止める方法なんて用意してないいいいい」
「何だと!?」
通路の壁へゲルトナーを叩きつけて尋問する千冬であったが、想定外の回答を得て困惑の表情を浮かべる。
「あれはラウラの命を吸って動いてるんだ、ラウラが死ななきゃ止まんねぇよおおお」
「腐れ外道が・・・!」
ぎちり、と食いしばった歯を鳴らす千冬。
そこへ、ゲルトナーの私兵達がぞろぞろとやってくる。
「いたぞ、大佐だ!」
「大佐を救出しろ!」
若い女を食い放題、金も使い放題という条件でゲルトナーが雇い入れたドイツ軍の裏切り者ども。
怒りとやるせなさで一杯となった千冬は、マシンガンを向けてくるその数名へ向け、ゲルトナーの身体を盾にして突撃。
「!?撃つな、大佐に当たる!」
戸惑う兵隊達が連携を乱す隙を逃さず、ゲルトナーを兵隊の中央へ投げつけ、先陣にいた兵の股間を蹴り飛ばして潰し、その手からマシンガンを奪い取って片手で掃射。
数名が血を吹き出して倒れ、残った有象無象を膝蹴りと掌低にて顎を潰していく。
あっという間に立っている者が千冬以外いなくなり、隠れている者の気配が無い事を確認した千冬は、再度ゲルトナーを担ぎ上げて今度は来賓席へと向かう。
「痛いいだいいいいいい!弾が、弾が足に当たったああああ!!!」
「何故私がそんな事を気にしてやらなきゃならん」
流れ弾か跳弾によるものかは知らないが、ゲルトナーの足首に空いた穴から血が吹き出しているにも関わらず、千冬は手当てもせずに走る。
「ラウラの命を粗末にしたやつの命など、私が守ってやる義理はない。・・・これで今度は一夏の身に何かあったら、死も生温い生き地獄を味合わせてやる。覚えておけ」
「ひぎぃぃぃ・・・」
涙と鼻水と恐怖でぐちゃぐちゃになったゲルトナーを肩に乗せながら走り、千冬は願う。
一夏、綾、無事でいろ。ただそれだけでいい。
手加減など無い。一刻も早くラウラを救い出さなければ命が危ない。
反射的にそう察知した綾、そして一夏は、打ち合わせもそこそこに全力の攻撃を敢行。
アマデウスがアイネ・クライネ・ナハト・ムジークを構えて陽電粒子をチャージする間、白狼は自分へ注意を逸らす意味も込めてモルドスライムへ飛翔して接近。
零落白夜にて大きく斬り裂き、巨大な手を発生させて掴もうとする鈍重な動きを回避しつつ、分厚い粘土のようなその指を斬り払う。
斬り払ったそばから再生するゲル状のモンスターに歯噛みし、捕まらない様に高速で飛行する白狼がバスター・ランチャーの射程から逃れた瞬間、綾はトリガーを引いて灼熱の粒子砲を解き放ち、圧縮粒子の噴火が規格外サイズのアメーバを突き刺す。
だが、接触した粒子は爆竹が弾ける様な音と共に小さな爆発を幾重にも起こし、モルドスライムはダイヤルアップ接続音を更に大きく、不快にしたような悲鳴をあげながら球状に丸まって吹き飛び、壁と衝突。
吹き飛んだ勢いはそのままに、ゴム鞠かスーパーボールのように跳ね返ってスタジアム内を縦横無尽に跳ね回る。
「何だよ、それ!?」
「物理法則もあったもんじゃない・・!」
バリアのお陰で席側にいる者は無事であるが、グラウンド上で結晶化した人達へと落下したら無事では済まない。
悲鳴をあげる上級生や教師をかばってモルドスライムへ再度バスター・ランチャーを加減して放つ綾は、天井の穴をちらりと見て忌々しげに舌を鳴らす。
「一夏!こいつをスタジアムの外に出しては駄目だ!何が起こるか分かったものじゃない!」
「分かってるよ!うおおおおっ!!」
砲撃によりまたも跳ね飛ぶモルドスライムを、扇状に広げた零落白夜で打ち返す白狼。
人のいない側へとどうにか叩き落とすも、今度は触手状に身体の一部を伸ばして白狼の足を絡め取る。
「しまった、こんな動きまで・・・!」
そのまま侵食するかのように白狼の両足を半分ほど取り込んでいく。
零落白夜で切り裂こうにも足下へは角度が足りず、気を抜いてバーニアを止めれば本体へ引っ張られてしまう。
「一夏!」
すかさずマシンガンとグレネードで援護に入るアマデウス。
マシンガンは貫通してしまうものの、貫通した穴により強度を落とした触手はグレネードの衝撃で千切れて白狼から離れ、折角の獲物を取り逃したのが悔しいのかモルドスライムは不快な叫びをあげる。
「助かった、すまない綾!」
「礼は早いでしょう!足、大丈夫ですか!」
「ああ、まだアメーバみたいのがたっぷり貼りついてるけど、今のとこ戦闘に支障は無い!」
とはいえ、脚部スラスターが塞がれてしまい使い物にならない。
白狼にとって、細やかな機動を行うのに必要となるそれが封じられたのは痛い。
直線的な軌道だけでは簡単に敵の的となってしまうからだ。
しかし、本体から離れればアメーバしか残らなくなるのか、と綾は考える。
そこから増殖して一夏を取り込んでしまう可能性も考えていたが、どうやらそういうわけでも無いらしい。
先程、奴がスーパーボールのようにスタジアム内を跳ねた時、躊躇無く結晶化した人達を潰そうとしたように見えた。
あの質量があの勢いでぶつかれば、身動きできない人達にとって致命傷となる。
つまり、先程の動きでは更なる人間を生かして取り込む事など出来ないはずだ。
ラウラ以外の栄養素を必要としていないのか、それとも単にターゲット選定が出来ていないだけなのか。
どちらにせよ、ラウラを体内に取り込んだままあんな動きをいつまでも行われたら、中のラウラが潰されてしまってもおかしくはない。どうすべきか。
綾が焦る気持ちを抑えつつ考える中、今度は四方八方へと触手状の手を伸ばして網の目のような、蜘蛛の巣のようなバリケードを形成するモルドスライム。
「いまさら篭城?まさか、単純に暴走しているだけか・・・?」
思えば最初から行動に一貫性が無かった。
天井を破ったにも関わらず外へ出ず、人質を巻き込もうとし、突然守りに入る。
さながらゲルトナーの狂的な精神状態を表しているようであったが、綾に確かめる術は無い。
今はとにかく、ラウラの安否を確認する事が最優先だ。
バスター・ランチャーではまたピンボールが発生しかねない。
綾はトルキッシュ・マーチにグレネードをセットし、一発、二発と射出する。
爆発によりブチリブチリと触手が千切れていく中、本体がむずむずと動き、表面がぷくりと膨らんでいく。
「何だ・・・!?」
謎の挙動を続けるモルドスライムに慎重となる綾と一夏。
やがて、膨らんだ表面の中から、生気を失った表情でぐったりと力なく気絶したラウラが、十字に貼り付けられているかのような格好で浮かび上がってきた。
まるで、人質を見せつけるかのように。
「ラウラッ!!」
思わず飛び出す綾。
「!待て、リョウ!!」
その腕を咄嗟に掴んだ一夏は、近づいた途端に網状の触手がアマデウスへ向けて伸びてきたのを零落白夜で切り払い、綾をどうにか引っぱって上空へと退避する。
「何やってんだリョウ!あんなのどう考えても罠だろ!俺よりお前が冷静さを失ってどうすんだ!」
「けど、ラウラが!ラウラがあそこにいるんですよ!」
ラウラの姿が見えるや否や普段の冷静さを失う綾に戸惑いを隠せない一夏。
何があって綾がここまで取り乱すのかは分からない。
だが、ここで綾に冷静になってもらわなければ、ラウラを救おうにも救えない。
どうすればいいか、考える一夏。
そんな二人へと、さらに触手の群れを伸ばしてくるモルドスライム―――。
「落ち着いて!押し合わず、慌てないようお願いします!大丈夫、助かりますから!」
来賓席から各国の偉い方を非常口へと誘導するシャルロット。
進入した兵士の大半は千冬と箒により鎮圧され、縛り付けられている。
また、結晶化したISの解除方法も、簪によって調査が行われていた。
「うぅ~、かんちゃん、背中がかゆい~」
「我慢して。まだ何もわかってないんだから」
身動きできない本音の、結晶化したISを叩いたり、削ったりして原因を思案する簪。
電子機器が使えない以上、物理的な操作と思考により探る他無いからだ。
「あ、ヤバ。アタシちょっともよおしてきた・・・」
「にゃー!りんりんそーゆー事言わないで!わたしまでトイレ行きたくなっちゃう~!」
「あなたたち、意外と余裕ね・・・」
鈴と本音が生理的危機に顔を青くする中、管制室では縛り付けられて千冬に尋問されるゲルトナーと、外部への非常通信回路を繋ぐ事に成功した山田先生が、状況の対処に勤しんでいた。
外部――IS国際連合へ説明を行った上で見解を聞き、その内容に一定の信憑性を感じ取った千冬は頷いて自分を見やる生徒達へと告げた。
「状況は把握した。今回の件はゲルトナーの単独によるIS学園乗っ取り計画であり、ドイツ本国及びドイツ軍は関与していない。だが、叩けばドイツ軍からは埃が飛ぶだろう。そのあたりは政治家に任せるとして、今はラウラについてだ」
「教官!隊長は、隊長はどうなってしまうのですか!?」
管制室には、クラリッサをはじめとしたシュヴァルツェア・ハーゼ、ラウラの部下達が集まっていた。
千冬は意識を失って痙攣するゲルトナーをちらりと見やり、
「お前達の上官はラウラを使い潰そうとしていた。あの状態を解除する方法は無い。ならば、もはや動けるISだけでどうにかあのゲルの中から救い出すしかあるまい」
「ならば、作戦は!」
「私達はどうすれば!」
「出来る事なら何でも言ってください!」
「隊長を失うなど、考えられません!」
矢継ぎ接ぎに千冬へ懇願の言葉を投げてくる生徒達。
今回の騒動がどう落ち着くにしろ、ゲルトナーが指揮していたシュヴァルツェ・ハーゼは解散となってしまうだろう。その後、彼女達がどのような処遇となってしまうかは分からない。
そんな未来は彼女達にもきっと、想像がついているに違いない。
なのに、誰一人として不安を抱くことなく、全員がラウラの身を案じている。
ラウラが気付かなかっただけで、ラウラはこんなにも仲間がいて、その心を動かす存在であったのだ。
千冬は困ったように頭をかき、山田先生へと声をかける。
「対策本部はどう言っている?」
「ウイルス対策プログラムを作成するのに、サンプルが足りないため少なくとも1日以上かかるとの事です」
「遅過ぎる。それじゃラウラが骨になるぞ」
「とはいえ、IS学園内部でプログラムを作るにも、いつまで技術棟の器機が使えるか分かりませんし、外部へ更識 簪さんのISをサンプルとして持っていくにしても半日はかかります。どちらにしても間に合う可能性は・・・」
山田先生とて、生徒であるラウラの命を救いたいとは思う。
だがしかし、そのための現実的な方法を思考すればするほど、難しい事が分かってしまう。
「篠ノ之も織斑と鶴守の援護へ向かっている。もはや、ラウラの命は奴らの奮闘にかかっていると言ってもいい」
「そんな・・・!」
「こんな時に、我々が何も出来ないなんて・・・!」
悔しさに涙を浮かべるシュヴァルツェ・ハーゼの面々。
表情を暗くしたクラリッサも、絞り出すように声を出す。
「せめて、あと一機でもISがあれば・・・」
ウイルスにかかる事無く、彼らの援護だけでも出来る機体があれば。
あれば?
いや、あるではないか。
「そうだ、まだあいつが残ってるじゃないか!」
クラリッサは最後の希望を見つけたとでも言わんばかりに顔をあげた。
「何だ、どうした?」
「教官!まだ戦える奴がいます!あいつに賭けるしかない!」
「あいつ・・・?」
「呼んできます!あいつが目覚めれば、きっと・・・!」
クラリッサは返事も待たず走り出した。
スタジアムにいるIS使いも、量産機もウイルスに侵食され、技術棟で生き残っているISでさえも近づけばウイルスに感染してしまう。
けど、あいつなら。
唯一、ウイルスから難を逃れているかもしれない。
不確かな希望に賭けて、クラリッサは全速力で走り始めた。
飛んできた触手の群れは、間に割り込んできた赤雷の二刀によって切り裂かれ、その破片は地に落ちていった。
「すまん、待たせた!」
「箒!」
待ちわびた援軍に笑顔を浮かべる一夏。
力無く眠るラウラはそのままに、またしても網目を形成しつつあるモルドスライムを歯がゆそうに睨む綾は、箒へ頼み込む。
「箒、刀を貸して下さい。あの中を突っ切ってラウラを助け出します」
「無理だ。絡めとられてお前まで動けなくなるぞ」
「それでも行かなければ!ラウラが待ってるんですよ!」
慟哭。
箒の冷静な判断に、涙ながらに喚いた綾は、これまで誰にも言えなかった事を告白した。
「ラウラがいなくなったら、本当に僕は独りぼっちになってしまう。もう家族を失うのはうんざりなんですよ!」
「家族・・・!?」
「どういう事だ?」
箒と一夏の問いかけに、ぽつりぽつりと話し始める綾。
========================
かつて、鶴守 綾の両親が亡くなった頃。
綾は、父が遺したビデオレターを見つけ出した。
父のデスクの奥深くに眠っていたUSB。
そこに記録されていたのは、父から自分への懺悔と後悔であった。
「―――よう、綾。これをお前が観てるって事は、もしかしたら俺は死んでるのかな。
・・・はは、あんまり想像つかねぇや。とりあえず元気でいてくれたら、それでいいか。
・・・で、だ。お前に話しておかなきゃならん事がたくさんあるんだが、まぁ、いくつかはおいおい、爺さんに聞いてくれ。
・・・いや、じゃあ俺から言う事も無いかな。
・・・違う違う。あーーーー、駄目だ、きついな。言うべきじゃないかもしれん。
くそ、いざとなると言い難いモンだな。
えっとな、綾!父ちゃんはな、昔、軍をクビになったんだ!
ダチだと思ってた奴が、人間としてやっちゃいけねぇ研究をしてて、それを叱ったら、俺が悪いって事にされて、捨てられちまったのさ!
まぁそこは今となっちゃ悪くねぇ。
なぜなら愛奈・・・お前の母ちゃんに会うきっかけになったからな。
けど、今になってな、軍にいた頃を思い出すんだ。
何でかっていうと、あそこじゃ試験管に赤ちゃんの元を詰め込んで、いじくり回して、失敗したら殺しちまうような、そんな場所だったからだ。
わかるだろ、綾。
お前もそうやって産まれたんだ。
自分の腹でお前を育てる事が出来なかった、母ちゃんの変わりに、試験管でな。
つっても、お前は何も弄くっちゃいねぇし、失敗なんかじゃねぇ。
たまたま普通の生み方をしてやれなかったってだけで、他の子供と変わりゃしねぇ。
けどよ、お前と同じ産まれ方をした奴らが、あそこじゃ毎日のように死んでいってる。
たまんねぇよ。あの中にもしもお前がいたらと思うと、怖くて仕方ねぇ。
で、だ。
またビックリなのがよ、軍で産まれてる試験管の子供達の母ちゃんな、もしかしたら、
俺の姉ちゃんなのかもしれねぇんだよ。
姉ちゃんとは年が離れててな、身寄りもいないもんで、姉ちゃんは俺を育てるために傭兵やっててよ。
俺もガキながら連れ回されたぜ。戦場によ。
その縁で会った軍人と結婚して、俺も軍事学校に入れてもらったりしたんだけどよ。
姉ちゃんの旦那の軍人は早死にするし、姉ちゃん自身も事故で植物状態になっちまうし、もう散々だよ。
しかも、何も考えられなくなった姉ちゃんはあろう事かダチの研究に使われててな。
父ちゃんはキレたさ!ぶん殴ってやったよ!
でも、姉ちゃんを取り返す事は出来なかった。だせぇだろ?
・・・もし、な?
あそこで産まれたガキどもがまだ生きてたら、お前のいとこって事かもしれん。
いや、むしろ兄弟って言ってもいい。
待て、やっぱ今のナシだ。いとこじゃなくても家族だ!
何でかって言うと、見つけたら血の繋がりの有無なんて関係なく、うちで保護して引き取る予定だからだ!
お前のオールドブラザーかリトルブラザーかは分からんがな。
あー、シスターって可能性もあんのか。
だからよ、あんまり可能性は無いかもしれんが、もしそいつらと会う様な事があったら、仲良くしてやってくれや。
辛い事とか、楽しい事とか、分け合って、家族として迎えてやってくれ。
そうすりゃ、何かあってもお前も一人じゃねぇし、そいつも一人じゃねぇ。
・・・なぁ、綾。
一人より二人ってのは良いもんだ。
辛い時は辛さが半分に、楽しいときは楽しさが二倍になってくれる。
俺はつき合うダチは間違えたが、愛奈に会って改めてそう思えた。
お前は間違えんなよ。で、お前のダチや惚れた女に、そうやって接してやれ。
この世はこんなに、愛であふれてるんだからよ」
========================
「この学園で、ラウラ・ボーデヴィッヒという名前を見つけた時、まさかと思いました」
簡単に一夏と箒へ経緯を説明した綾は思い出す。
「調べてみればドイツ軍少佐。遺伝子操作によって産まれた試験管ベビー。間違いないと思いました。親父の言うように僕の従兄妹か否かはともかく、お爺様が危篤状態な今、僕の唯一家族たりえる存在が、突如として現れたのです」
「それで、あんなに必死になってたのか・・・」
「何故、名乗り出なかったのだ?」
箒の疑問に苦笑いする綾。
「言っても仕方ないでしょう。君は僕の父が引き取る予定だったからこれから兄妹だね、とでも言えと?」
「まぁ、意味わかんないよな」
「そうでしょう。だから、待っていた。ラウラから切り出してくれるのを。分かってもらうための布石は可能な限り撒いたつもりです。ようやく今日、そのチャンスをも得た。それなのに、こんな・・・!」
肩を震わせる綾に、何を言えばいいか分からない箒。
やっと分かり合えたと思ったラウラが今、生命の危機に瀕している。
取り返したいと思う事に不思議はない。
それでも、いつも余裕と軽薄さを失わない綾がここまで取り乱す事が、箒にはようやく見せた人間らしさであるようにも感じた。
「だから行かなくては。僕は、僕の家族を、守りたいんです!」
「・・・お前がそこまで言うのなら」
おずおずと、差し出されたアマデウスの手へ刀を託そうとする箒であったが、その手が柄を握る事はなかった。
白狼が、一夏が、綾の相棒が。
綾を殴りつけたからだ。
「一夏!?」
「何を・・・するんです・・・!」
絶対防御やバリアの恩恵で、ゲルトナーのような重傷にはならなかったものの、口の端を切って血を垂らす綾。
一夏はそれに構わず、アマデウスの両肩を掴んで、吼えた。
「馬鹿野郎!家族を守りたいんだろ!大切なんだろ!だったら俺達がいる事だって考えろよ!お前だけの問題じゃねぇんだよ!」
「なに、を・・・」
「お前が大切だって思う気持ちを、俺にも守らせろよ!お前を大切に思う俺達の気持ちを、お前も守れよ!何度助けられたと思ってんだ!何度救ってきたんだ!ここらで借りを返させてくれなきゃ、気持ち悪くて寝れねぇだろ!!」
一夏は怒りを感じていた。
この状況で、自分を頼ってくれない親友に。
今更コンビネーションを捨てて、たった一人で立ち向かおうとしている相棒に。
戸惑いをみせる綾へ、一夏は続ける。
「ラウラに近づきたいなら、俺が盾になってやる!それでも足りなきゃ、きっと箒がなんとかしてくれる!土壇場になりゃ、千冬姉だって助けに来てくれるさ!だから!お前は!俺達に言う事が他にあるだろ!思考を止めんじゃねぇよ、考えんのはお前の担当だろ!!」
「一夏・・・!」
「俺とお前は何だ!言ってみろ、リョウッ!!!」
それは、ずっと一夏が腹に溜めていた言葉だったのかもしれない。
誰かを守れる綾に嫉妬していた一夏の、一つの答えだったのかもしれない。
お前が誰かを守るなら、俺がお前を守ってやる。
そう自分自身を定めた一夏の、魂の叫びであった。
そして、そんな一夏の言葉は綾にとって救いとなるような、尊敬に値する男の言葉であるように聞こえた。
「・・・何を偉そうに」
震えは止まらない。
けれど、この震えは焦りや悲しみから来るものではない。
目の前の親友への、リスペクトから来る震えだ。
「言っときますが、君、死んでも知りませんよ?」
「上等だよ、俺は死なねぇ。フラグを折る覚悟は出来てんだ」
「いいでしょう。だったら」
両手で白狼の手を払いのけた綾は、その手をがしりと掴み返し、にやりと笑う一夏へ笑い返してやった。
「力を貸して貰いますよ、相棒」
「その言葉を待ってたぜ、相棒!」
ガンソード。
銃と剣。
織鶴。
綾と一夏。
新たな想いと共に繋がれた二人の絆が重なる。
本当の意味で、綾が一夏を対等と認めた瞬間であった。
「ようやくお前達らしくなってきたな」
そこへ箒が手を重ねる。
笑い合う三人が動きを止めていたモルドスライムへと向き直る。
「一夏、箒。かなり無茶して頂く事になりますが、いいですね?」
「任せろ!」
「ドンと来い!」
「では・・・行きますよ!」
賽は投げられた。
作戦は伝えてある。
アマデウスがバスター・ランチャーのエネルギー充填を開始する中、箒が正面よりモルドスライムへ突撃。
滅多矢鱈に網状の触手を切り刻み、増殖して赤雷を狙うそれを、引きつける様に奥へ、奥へと突き進む。
「もっとだ、もっと集まって来い!」
絶え間なく上下左右より襲い掛かるアメーバの群れ。
向かってくるものは斬り、裂き、穿ち、抉る。
次々と量子化されていた刀を出現させ、ねばついたアメーバにまみれて切れ味を失った剣は即座に放棄して次の柄を握る。
肩のカノン砲は狙いをつけずオート発射に設定して乱射しつつ、足を掴まれようと首に巻きつかれようと刀を振る腕だけは止めない。
いつの間にか触手の殆どが赤雷の周囲へと集まり、さらにはボディの一部を手に変形させて箒を掴みにかかる。
それが、大きな隙となった。
「今だ、リョウッ!!」
「いけぇ一夏ーーーーー!!!」
収束したバスター・ランチャーの圧縮粒子を開放するアマデウス。
狙いは、白狼。
アマデウスの目の前に浮遊する白狼は、その直撃を受ける事になる、が。
アイネ・クライネ・ナハト・ムジークの砲口に足を向けていた白狼、その足に付着したモルドスライムの粘液がバチバチと反射反応を起こし、白狼を凄まじいスピードで撃ちだした。
人間砲弾となった一夏はその加速と衝撃に歯を食いしばりながら、ラウラへと向け一直線に零落白夜を構えた。
赤雷にかまけていたスライムがそれを察知し、白狼を捕らえるべく触手を伸ばすも、自身の破片か発生させた反射反応によるスピードを止める事叶わず。
「おおおーーーーッ!!!」
一夏の気合と共にラウラの脇下あたりのゲル状ボディを切り裂き、ちょうどそのあたりまで進軍していた赤雷が刀を放棄し、両手で白狼の足を掴み勢いを止める。
「今だ、一夏っ!!!」
「届けぇーーーー!!!」
斬り裂かれた空間から手を伸ばしてスライムの中へ手を突っ込み、ラウラの横腹を引き寄せるように力を込める一夏。
「捕まえた!箒!」
「よし!イグニッション!」
アメーバまみれのラウラを抱き寄せつつ、一夏と箒は回頭しつつそれぞれのISのイグニッションブーストを発動し、その場を反対方向――綾のいる方へと向かう。
しかし。
あと一歩のところで箒の赤雷の足がモルドスライムの触手によって捕まってしまう。
掴んでいた白狼の足さえずるりと手放し、次第に下半身を飲み込まれていく赤雷。
「箒!」
「構うな、先に行け!」
「出来るわけないだろ!」
ラウラを抱えながら箒へと声をかけ、戻ろうとする一夏。
新たな宿主を見つけたと言わんばかりに箒を取り込んでいくモルドスライム。
「箒っ!!」
綾も箒を助けんとブーストを開始する。
「一夏!綾!後は任せた・・・!」
「箒!」
「ほうきーーーーーっ!!!」
呼び声虚しく、上半身を巨大な手によって包み込まれる赤雷。
凄まじい喪失感に襲われた一夏が絶叫した、その時。
裂けた天井のその向こう側から、天罰のごとき光線がモルドスライムのボディを削り取り、赤雷を絡めとっていた巨大な手を引き裂いた。
「なっ・・・!?」
「これは!」
『早く離脱なさって!あまり諦めるのが早いようだと、見捨ててしまいますわよ!』
通信機から、雑音交じりながらも突如として聞こえてきた声に驚きつつ、生きているスラスターを総動員して抜け出し、一夏の手を握る箒。
「よしっ!」
勢いよく赤雷を引き抜いてブーストを全開にし、安全圏へと離脱する白狼。
天井の裂け目からは何も見えない。
だが、間違いなくそこには、頼れるもう一人の仲間がいてくれる事が分かった。
「セラ・・・!」
「セシリア!」
『全く、慌ただしくて寝ている暇もありませんわ!』
上空1000m弱の高度からモルドスライムを狙撃したのは、豪雨に濡れそぼったセシリア・オルコットと、その新たなISの姿であるレイニー・ステラであった。
気を失った後、スタジアム外の救護室へと運ばれていたセシリアであったが、そのためにVTシステムのウイルス感染から逃れていたのだ。
まして、この豪雨では天井に穴が空こうともスタジアムの外までナノマシンが漏れる量が限られる。
それに気付いたクラリッサから涙ながらに叩き起こされ、ウイルスが及ばない超遠距離からの砲撃による援護に至ったのである。
セシリアにしか出来ない、クラリッサにしか気づけなかった、最高のファインプレーであった。
『話は大雑把に聞いてますわ!ラウラは救い出せたのね!?』
ウイルスによる通信妨害は、機器に異常をもたらす事によるためであり、その範囲外から通信するセシリアからの言葉は、綾たちへとまだマシな状態で届いていた。
一夏に抱えられたままぐったりとしているも、いまだ呼吸を続けるラウラを安心したように見つめた綾は、すぐにキッとモルドスライムを睨み付けて通信に応える。
「ええ、後はあのスライムをどうにか片付けるだけですが・・・!」
宿主を失い、金切り声をあげて暴れ回るモルドスライム。
少しずつ大きさを縮めているようであるが、結晶化されたIS操者達を取り込まれたら元の木阿弥だ。
『でしたら、コアを破壊する以外ありませんわね!』
「コアか・・・しかし、どこにあるのか・・・」
『コアの割り出しなら計算できます!』
その会話をセシリア越しに聞いていた山田先生の声が、通信機へと届く。
「真耶さん!?」
『私もいます、更識 簪です』
技術棟から持ち出したノートPCをラップでくるみ、高速でタイピングしてモルドスライムのコアを計算する簪、そして山田先生。
小型のトランシーバ型通信機を利用し、同期させた持ち運びWifi機器と周波数をどうにか合わせて連絡を行ってきたのだ。
『いま、私と山田先生でコアの位置を探っています。場所が判明したら伝えますので、そこに最大出力でバスター・ランチャーを撃ち込んで下さい。弾かれるなら、逆にその慣性を利用して、バリアエネルギーに反射させて圧し潰してしまえばいい。スタジアムのバリア発生装置は地下にあるため、ウイルスに感染していません。そのため管制室からの操作は出来ませんが、現地での操作なら可能です。今、織斑先生が出力を最大にすべく向かっています』
「バリアとアイネ・クライネ・ナハト・ムジークで挟み撃ちにするわけですか。成程・・・」
力押しではあるが、現状はそれ以外の対策が無いのも事実。
アマデウスのエネルギー残量を確認する綾は、苦虫を噛み潰したような顔でぼやく。
「・・・今日は何発か使ってますからね。最大出力で撃つには少しパワーが足りないか」
「だったら、俺達のエネルギーを使えよ!」
片手でラウラを抱えつつ、一夏は白狼の腰部アーマーに格納されたケーブルを差し出す。
「うむ、それしかないな」
それにならって、箒も同様にケーブルを綾へと向ける。
「・・・有難い。借り受けますよ、二人とも」
二門のバスター・ランチャーを構える綾。
そのエネルギーコンソールへと白狼、赤雷のケーブルを差込み、アマデウスの肩を支えるように掴む一夏、箒。
『コアの場所が判明しましたら、わたくしがレーザーで撃って場所を示しますわ。口頭で説明するより早いでしょう』
天よりライフルスコープを覗き込んで発射体勢に入るセシリア。
ビーム(粒子砲)ではなく、レーザー(熱線)なら効果がある事はセシリアが示した通りだが、コアまで届かせるにはやはり威力が足りないのだ。
ずるずると空腹に耐えかねるかのように這いずり、餌である結晶化したIS操者へと近づいていくモルドスライム。
この様子からすると、先ほどは本当に計算してのバウンドではなかったらしい。
そもそも、この暴走したISだったものに思考があるのかは謎であるが。
「くっ・・・本当、いいところ何もないわね、私・・・!」
半べそでぼやく生徒会長。
ちょうどその瞬間、壁と観客席に面したバリアの出力が最大まで引き上げられ、その熱量を増していく。
『・・・!解析、出ました!セシリアさん、送ります!ユーハブ!』
山田先生から受領したデータと照らし合わせた簪が、自前の通信USBからレイニー・ステラへデータを送信する。
『さすがに通信遅いですわね・・・・・・・・・んっ!来ましたわ、アイハブ!』
即座に受領したデータをターゲット情報へ組み込み、狙いを定めるセシリア。
『綾くん!IS学園の未来、あなたに賭けます!武運を!』
「何よりの激励ですよ、真耶さん!」
臨界寸前までチャージ完了した綾が、憧れの先生へと返事をする。
『準備はよくって、リョウ!』
「いつでも!僕が貴女に合わせるのが得意なのはピアノを聴けばわかるでしょう!」
『そうでしたわね!明日からもよろしくですわ!』
「こちらこそ!」
軽口を言いながら、セシリアは撃つべき対象を定め、トリガーに力を込める。
自分の仕事は当てるだけ。
後はきっと、彼が終わらせてくれると信じて。
『・・・シュート!』
光が伸びる。
突き刺さるように、天よりモルドスライムの中央を指し示すレーザー。
その瞬間を、綾は見逃さない。
「フルドライブ、ファイア!」
「「いけぇーーーーー!!!」」
高濃度圧縮粒子を開放する事で解き放たれる、通常よりも威力の高い陽電粒子の塊が、滝のように対象へと吐き出された。
先程と同様、反射反応により後方へと吹き飛ぶモルドスライムだが、今度はその反対側のバリアに触れた途端、前後にて反射反応を起こし、自らを拘束し、締め上げ、削られていく。
強烈な熱反応によって反射を行う性質なのか、それは不明であるが。
セシリアが指示するレーザーの照射位置へ放出を続けるアマデウス。
その反動を支える白狼と赤雷。
誰もいなくなった来賓席にて立ち尽くし、祈るように見守るシャルロット。
結晶化したままであるがはらはらと見つめる鈴、本音、楯無たち。
地下から成功を願う千冬。
観客席へと移動して見守る山田先生、簪、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員。
全速力の反動で動けなくなり、雨の中、大の字になって眠るクラリッサ。
強力な熱線はいつしか泥をかき分けるかのようにコアを露出させ、じわじわとそれを溶解させていく。
「もうひと踏ん張りだ!」
「いけぇリョウ!!」
「穿て、アマデウーーースッ!!!」
綾の気合の咆哮と共にオーバーヒート寸前のアマデウスの出力が限界を超え、臨界点を迎えたコアはついに、大きな爆発へと変わる。
宿主もコアも失ったモルドスライムは、断末魔をあげながらどろどろに融解していき、やがて量子化して消えていった。
それに伴ってIS操者達の結晶化も解除されていく。
ゲルトナーの予定としては、ラウラの命が尽きて結晶化が解かれた際にISマイスターを回収するため、動けぬうちに睡眠薬を打ち込もうと考えていたのだろう。
ともあれ、エネルギー切れ間際になりながら着地してISを解除した綾、一夏、箒の三人。
念のため遠回りしてスタジアムの外からISを解除しに行くセシリア。
気を失ったままのラウラを一夏から受け取り、抱きしめた綾は、その鼓動が確かに聞こえるのを感じ、大粒の涙を零した。
「うぐっ・・・うおぉ・・・!」
「泣き方汚いな、お前」
「五月蝿いですよ、本当に・・・」
茶化す一夏に苦い泣き笑いで返す綾。
そんな二人を優しく見守る箒。
駆けつけるシャルロット、セシリア。
やはり輪に入っていけない楯無と、影のMVPともいえる働きを見せた簪の更識姉妹。
とりあえずまずはトイレへと向かう鈴と本音。
そんな生徒達を観客席から見つめる山田先生と千冬。
いつの間にか雨はやみ、月が空を照らす。
本日の事件は、IS学園の歴史に残るだろう。
そして、それの解決に向けて奔走した生徒達、教師達の名前も。
タッグトーナメントは決勝を残して中止となったが、全校生徒一致で最優秀チームは選出された。
鶴守 綾、織斑 一夏、篠ノ之 箒、セシリア・オルコット。
4人合わせたチーム、【ガンソード】。
後日発表されたその知らせに心から喜ぶソードと、「え、この名前末代まで残っちゃうんですか?うげぇ・・・」と肩を落とすガンであったそうな。
気に入った二次創作キャラはヒロインよりも親族にしちゃうという病気。