インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
タッグトーナメントが終了して三日後。
何故かシャルロットと共にデュノア夫妻の見送りに空港まで駆り出された綾。
「お見送りありがとうリョウ!キミの勇姿は決して忘れないよ!」
「ええ、いつでも私達を頼って頂戴。なんでしたら、シャルロット関係なしにうちの養子になってくれてもいいのよ」
「はははご冗談をははは」
「もう、お父さんもお義母さんも・・・」
見送りも何も、寝ぼけている時に尋ねて来た夫妻に誘導され、いつの間にか着替えてここまで来ていただけなのだが。
陽気な顔から一変、真面目な顔つきになったアルベールは、死んだ目をした綾と愛娘であるシャルロットを真っ直ぐにみやり、今後の決意を表明する。
「またあのような事件が起こらないとも限らん。私は会社へ戻り、シャルロットのために新型のIS開発に取り組むつもりだ」
「ボク、リヴァイヴIIから乗り換えるつもりないけど・・・」
「そう言うと思ってはいた。だが、構想はあるのだ。後日、IS学園へ送るので、見て貰うだけでいい。何なら、最終的にバラしてリヴァイヴIIへ使えるパーツを組み込んで良い」
「・・・うん、わかった。ありがとうお父さん」
大きく頷いて抱きしめ合う親子に思うところがあったのか、今だ寝ぼけ眼の綾は懐のポケットからUSBメモリを一本取り出し、アルベールへと放った。
「?リョウ、これは?」
「僕からの餞別です。白騎士事件以降、お爺様が設計して公開しなかったISの図面がいくらか入ってます。それでも現行の第三世代より高性能だと思ってますので、まぁ参考程度にしてくださいな」
「そ、そんなもの、軽々しく貰うわけには・・・!」
「別にいいでしょう、今更盗作だの何だの。シャロのために散々嘘ついてきたんですから。それに、参考にもされず終わったのではその子達も可哀想ですからね」
ぷらぷらと手を振って背を向ける綾。
「何度も言いますが僕は貴方達が嫌いです。それでも、シャロに対しての愛情が良い方向へ向いてきた事だけは認めますとも。・・・シャロが少しだけ、羨ましい」
「リ、リョウ・・・!」
ぶわっ、と涙を流し、アルベールはジャパニーズ・ドゲザで感謝を述べた。
「いつかキミに認めてもらうまで、私はデュノア社を盛り立て、シャルロットを愛し続けると誓おう!それまでシャルロットを頼む、我が友、我が恩人よ!」
ハンカチで涙を拭うロゼンダ婦人も後に続く。
「リョウ、あなたには血の繋がりだけが親子の絆ではない事を教わったわ。それはシャルロットだけでなく、あなたへもそう。あなたにどう思われようと、私達はあなたを息子と思っていますよ、シュシュットゥ」
「それはメルシーボクー」
素気無い態度で背中越しに手を振り、その場を去る綾。
それが照れ隠しである事を、シャルロットだけは見抜いて柔らかく笑った。
「・・・じゃ、元気でね。お父さん、お義母さん」
「体に気をつけるのよ、シャルロット」
「私達はいつでも、お前を想っているからな!」
「うん、ありがとう!」
手を振って綾を追いかけていくシャルロット。
夫婦に後ろ髪を引かれる思いはあっても、決して不安は無かった。
シャルロットには綾がついている。
そして、あそこまで気高い戦いを見せた、セシリアという友人も。
IS学園こそが、今のシャルロットの居場所なのだろう。それでいい。
自分達は彼女を支え、たまに帰る場所であれば、それでいいのだ。
「行こうか、ロゼンダ」
「ええ、あなた」
そして振り返る事無く、夫婦は帰路へつく。
愛娘の、新たな力となるために。
空港からモノレールに乗り換えた綾とシャルロットは、隣り合って座りながら、窓の外を眺めていた。
「ねぇ、リョウ。この後どうするの?」
「ラウラのお見舞いですよ」
「だと思った」
くすくすと笑うシャルロットに唇を尖らせる綾。
「・・・何ですか。仕方ないでしょう、約束していたクラシックコンサートは今どこもやってないんですから」
「ちがうちがう。リョウって以外とシスコンなんだな~って。毎日二回、病院にお見舞いしてるんでしょ?」
「気持ちの加減が分からないだけです。失礼な」
ラウラはあの後、緊急病棟へと入院した。
体力的にかなり衰弱していたが命に別状は無いとの事で、今はもう目を覚まして点滴の世話になっている。
その際の検査にて、遺伝子情報が綾とかなり似通っている事も判明した。
つまり、遺伝子的にかなりの割合で綾とラウラは親族に近いと言う事である。
そう。
ラウラ誕生のための卵子提供者は、綾の父であるレオンの実姉・カトレアであった事が証明されたのだ。
血液型も同じなため、緊急時の輸血も担当できる事も判明している。
「でも、無事で良かったよね。政府からの罰則もほとんど無かったんでしょ?」
「ええ、彼女はかなりの比率で被害者でしたからね」
また、ニコライ・ゲルトナー大佐はその地位と権利を剥奪され、無期懲役の判決がされる予定である。
正確には、無期懲役と言う名の監禁が待っている。
しかしそれも、再起不能レベルの重体からある程度の回復を見てからとなるだろう。
ドイツ軍シュヴァルツェ・ハーゼは解散。隊長であるラウラも軍から除籍された。
更に以降5年間、ドイツからIS公式大会への代表参加が禁止され、ラウラも代表候補生ではなくなった。
元シュヴァルツェ・ハーゼ隊員達は、ラウラの無実証明や事後処理のためにIS学園を中退し、本国へと帰還。
別れを惜しむラウラであったが、クラリッサ以下4名は、部隊が無くなろうと心はいつでもラウラの部下であると表明し、笑顔で去っていった。
綾へ、ラウラの事を託して。
尚、余談ではあるが、IS台頭によりゲルトナーの研究素材や研究成果達はラウラ以外誰一人として生き残っておらず、既に全員の埋葬が済んでいるとの事である。
「でも、これからは平和に暮らせるね。リョウのお父さんも喜んでるかな?」
「きっと喜んでるでしょう。なにぶん能天気な親父でしたから」
「うちのお父さんみたいな?」
「いますぐうちの親父に謝ってください」
そんなやりとりをしながら病院へと赴き、ラウラの個室へと辿り着いた綾とシャルロット。
中には既に見舞いにきていたセシリアと、ベッドの上で紅茶を振舞われていたラウラの姿があった。
「綾」
嬉しそうに名前を呼んでくるラウラ。
少し細くなった印象はあるものの、気力と体力は戻りつつあるようだった。
「元気そうですね、ラウラ。セラも来ていたんですね」
「ええ、わたくしの貴重なライバルですもの。贔屓にだってしますわ」
お土産にシャルロットと選んだシュークリームを差し出すと、表情を輝かせるラウラ。
「おお、これは例の甘いやつだな。甘いものは良い、美味しいからどんどん持って来て欲しい。少し肉がしぼんだからカロリーをつけて取り戻さなければな」
「肉を取り戻したいならたんぱく質ですよ。肉、魚、豆、豆、豆です」
「むぅ、肉はいいが魚や豆はいらんだろう。どうも生臭いし豆はパサパサしていて好かん」
「はい、そんな君にソイプロテインたっぷりの牛乳ですよー」
「嫌だー!それは喉越し悪いから嫌だー!」
「好き嫌いしてると大きくなりませんよ。はい、グイグイ」
喉に詰まりそうなほど植物性たんぱく質が混ぜ込まれた牛乳を無理やり飲まされるラウラに、思わず笑うシャルロットとセシリア。
一段落ついてから、ラウラは綾へと向き直り、自慢げに一枚の紙を取り出した。
「ふっふっふ、綾よ、これを見るがいい」
「ん、何ですかこれ・・・って、うぉ、随分と早い・・・」
それは戸籍の証明書であった。
記載された名前は、ラウラ・ボーデヴィッヒ・鶴守。
名実共に日本へ帰化し、綾の家族として登録されたのである。
「どんな根回ししたんですかね・・・こういうの何ヶ月かかかりそうな気がするんですが」
「ま、こればかりはドイツの科学力と言わざるを得んな!」
「やめてください変な意味合いにしか聞こえなくなる」
多少ズレた言動をするラウラであったが、ドイツ軍から除籍されたショックはそこまで見受けられない。
ただ、初めて自分を受け入れ、自分が受け入れた綾という家族が共にいるのが、余程嬉しいのだろうという事だけは、誰の目にも伝わって来た。
「ん・・・しかしラウラ、誕生日が僕より後ろなんですね。なら扱い的には妹になるんでしょうか」
「馬鹿を言うな。わたしが姉に決まっているだろう。人生経験やくぐって来た修羅場はわたしの方が上なのだからな」
「そういうのは僕にISで一度でも勝ってから言ってくださいね~マイリトルシスタ~」
「くっ・・・運が良かったな綾。レーゲン無き今、お前の不戦勝だ。もし専用のISさえあればお前などものの敵ではない」
「でもわたくしに負けましたわよね」
「でっ、データさえあればあれにだって負けはしない!」
鋭く割って入ってきたセシリアに言葉を詰まらせるラウラを楽しそうに眺めながら、シャルロットは花瓶の水を取り替えた。
咲いている花は白のガーベラ。花言葉は希望。
IS学園に、兄妹である綾の傍に居場所を手に入れたラウラに、ぴったりの花であった。
実際のところ、ラウラからすれば自分の立ち位置が姉だろうと妹だろうとどちらでも良いのである。
「そういえばラウラは、いつ頃退院の予定?」
「んむ。早ければ明日にでも、という事だ」
シャルロットの問いに、腕を組んでシュークリームをもぐつきながら頷くラウラ。
「そうなんだ、じゃあお祝いしなきゃね!ボクも初めてのルームメイトにドキドキしちゃってさ!」
そう、退院後、ラウラとシャルロットは同室が割り当てられる。
再入学してから一人部屋だったシャルロットと、相部屋だったクラリッサがいなくなったラウラが一緒になったという寸法だ。
「ん?わたしは綾の部屋に住むつもりだが?」
「いやいやいやいや」
「いやいやいやいや」
「嫌嫌嫌嫌」
「おい、一人ニュアンス違う奴がいるぞ」
シャルロット、セシリア、綾がそれぞれ手を振る。
「駄目だよラウラ!綾の部屋は一夏だっているんだから、迷惑になっちゃうよ!」
「そうですわ!兄妹とはいえ、なりたての年若い家族が一つ屋根の下で同衾だなんて、不健全ですわ!」
「セラ、言い回しがくど過ぎて何を言いたいのかよく分からないです」
それぞれがそれぞれの言い分をあわあわと伝えるも、ラウラは事も無げに踏ん反り返り、
「一夏。ああ嫁の事か。それなら問題ない。なんせわたしの嫁だからな」
「よ、よめ?」
唐突に爆弾発言を混ぜてきたラウラは、自慢気に小さな胸を張る。
「わたしの優秀な副官がな、日本では気に入った異性の事を嫁と呼ぶと教えてくれたのだ。
まぁ実力的にはまだまだだが、奴は教官の弟だ。弟の夫であるわたしも、教官の妹という事になる。なので、将来性に賭けて妥協してやろうというわけだ」
念のため説明すると、オタク趣味のクラリッサは日本文化を誤って覚えてラウラへと伝えているので、悪気があるわけではない。
「・・・どうしようリョウ。こんな酷いロジカル思考初めて聞いたよ」
「頭痛が痛いので何も考えたくありません」
「知能指数下がり過ぎですわよリョウ・・・」
ひそひそと小声で話す三人。
その後も他愛のない会話を続け、一時間程経過した後、気を遣ったのかシャルロットとセシリアは早めに部屋を後にした。
残されたのはラウラと、親族である綾のみ。
なんとなく会話に詰まり、そわそわとしだすラウラを横目に、窓際に寄りかかっていた綾はどこかぎこちなく瞬きを繰り返した後にゆっくりとベッド脇にて跪き、目線を彼女と合わせて口を開いた。
「ラウラ」
「な、何だ、改まって・・・」
「こうして僕達は兄妹という仲になったわけですが、それは親父からの遺言として実行した関係に過ぎません。それでも・・・」
慎重に言葉を選びながらも目を逸らさず、話し続ける綾の話を黙って聞き続けるラウラ。
「それでも僕は、君と共に居たいと思った事に偽りはありません。愛しいラウラ。もし許されるのであれば、僕に君を守らせて下さい。僕に君を、最初から愛させて下さい。そして」
それは綾とラウラが初めて戦った後に涙を流しながら伝えた言葉。
想いは言葉にしなければ伝わらない。シャルロットの父へと叫んだ持論を愚直なまでに実行し、そこに妥協を許さなかった若き紳士。
言葉にして伝えるのは簡単なようで難しい。
拒絶されるのが怖いから。
それでも、恐怖を乗り越えてでも手放したくない関係が、絆があるから。
「改めて僕の・・・家族に、なってはくれませんか」
震える唇から縋るように最後の言葉を紡いだ綾を見つめ返すラウラは、何も言わずに左目の眼帯を外し、その下に隠れていた金色の瞳を晒した。
薄っすらと涙を浮かべたオッドアイの少女は、目の前の男の頬に右手を添え、答えた。
「綾。幾億と存在する人類の中で、こんなわたしを見出してくれた兄よ。おまえがそう思ってくれること、心から誇りに思うよ」
壊れ物に触れるように綾の頭を撫で、ぎこちなく微笑みを浮かべ。
「出来るならわたしからお願いする、愛しい綾。わたしにおまえを守らせてくれ。わたしに最後までおまえを、愛させてくれ。わたしはおまえの、家族なのだから」
「・・・ラウラ・・・!」
感極まったように綾は、小さなラウラの胸へと抱き着き、嗚咽をあげた。
誰にも見せる事が出来なかった、鶴守 綾という少年の、弱い部分をさらけだして。
「寂しかった・・・!親父も母さんもいなくなって、お爺様の工場で働いていた人達も段々と去って行って、お爺様も危篤になってからは殆ど話も出来なかった!・・・僕は・・・!」
「ああ。そんなおまえだからこそ、わたしの孤独を理解出来たのだろう。これから一緒に埋めよう。お互いの居場所と、心の隙間を」
「ええ、ええ。そうしていきたい・・・!」
抱き返したラウラの言葉に、何度も頷く綾。
救われたのはラウラだけでなく、たった一人で口に出せぬ宿命と戦い続けてきた綾自身も、心を救い上げられていたのだ。
「お互いを守っていこう、綾。おまえが笑うならわたしも笑おう。おまえが悲しむなら、おまえの分までわたしは泣こう。おまえの命が明日尽きるなら、わたしの命も明日まででいい」
「・・・ふふ、なんだか使い古しの告白みたいですね」
「だが嘘偽りないわたしの気持ちだ」
「ええ・・・信じますとも」
涙を拭って立ち上がった綾は普段の調子でポケットへ手を入れつつ、部屋の入口へと顔を向けて声をかける。
「・・・いい趣味してますね、出歯亀ども」
すると申し訳なさそうに箒が、もらい泣きしながら一夏が、帰ったはずのシャルロットとセシリアが号泣しながらひょこりと顔を出してきた。
皆、綾とラウラのやり取りをずっと聞き耳立てて見守っていたのである。
「す、すまん綾。悪気はなかったのだ」
「リョウ、ラウラ!俺に出来る事があったら何でも言えよ!」
「・・・というかセラ、シャロ。貴女達は帰ったのでは・・・」
熱く拳を握る一夏には照れもあり目を向けず、綾はシャルロット達へと言葉を投げる。
「だ、だって・・・一夏達がお見舞いに来て、ラウラの部屋が分かんないって言うからぁ」
「それで案内するために一緒に戻ってきたら、こんな・・・不意打ちですわぁ・・・」
「まったく・・・」
おいおいと涙をこぼすふたりに、やれやれと肩をすくめたラウラは、
「まぁ仕方あるまい。我ら兄妹の絆は友の心をも感動させる力があったというわけだな」
「あ、そこは自信満々なんですね・・・」
少し頬を赤くしながらも満更ではなさそうに腕を組んで頷くラウラに苦笑いする綾。
彼ら兄妹が得たのはお互いだけではない。
信頼し、自分達のために命まで張ってくれるような掛け替えのない友。
孤独ではあったかもしれないが、決して一人ではなかった。
その事を確かに感じ取る綾、そしてラウラであった。
夜、ベッドに横たわりながらラウラは思う。
もはや軍も階級もISも全て失った。
残ったのは一握りの友人と、慕ってくれる元部下達、そして、兄。
これらをどう大切にしていくべきか、ラウラは一人の時間でずっと考え続けてきた。
自分を必要としてくれた、家族と呼んでくれた、全霊をかけて愛を注いでくれたあの男に、自分がしてやれる事は何なのだろうか。
ゆっくり考えていけばいいのは分かる。けれど考えたくて仕方ないのだ。
誰かのために悩むなどという事自体が新鮮な感覚であるラウラには、それすらも幸せな時間へと変わっていった。
目を閉じ、夢を見る。
夢の中の自分は、写真を撮っていた。
母と父に包まれ、兄と手を繋ぐ自分。
小さくピースサインをする自分達の姿は、そのままラウラ自身の深層心理に刻まれた願望そのものだったのかもしれない。
ずっと傍にいるからね。
そう夢で言ってくれたのは父だったか、母だったか。
夢からさめても間違いなく言えるのは、綾が、愛する兄が、ずっと傍にいてくれる事。
それだけで、ラウラには充分過ぎる幸せだった。
第三話・終
恋愛感情無しでイチャつけるキャラって便利よね。