インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
幕間
波乱と混沌のタッグトーナメントから一週間が経過した。
季節は7月、蝉の嘶きと共に蒸し暑い夏の気配が訪れつつある。
無事退院したラウラ・ボーデヴィッヒ・鶴守は、ルームメイトであるシャルロット・デュノアと、今や腐れ縁となりつつある友人セシリア・オルコットと共に、休日を利用して自分の荷物を女子寮の自室へと運び込んでいた。
「うむ・・・こんなところか」
趣味・嗜好品の類はほぼ持たないラウラにとって、この部屋の引越しはクラリッサと過ごしてきた部屋からいくつかの服や本、パソコンや私物の武器などを持って来るだけであったのだが。
あまりに簡素かつ最低限かつ偏った持ち物の類に驚いたシャルロットが、外行きの洋服やアクセサリや手提げバッグといった女の子らしい持ち物の買い出しに連れて行ったのだ。
ちなみにセシリアは話を聞きつけて自称パーフェクトアドバイザーとしてついて来たが、実際には殆どの提案(タヌキの益子焼やたこ焼き器や顔出し写真パネルを興奮気味に推してきた)をシャルロットに却下されたため、結局はただの荷物持ちと化していた。
そこにラウラの兄である鶴守 綾の姿は無い。
女性の私物を買いに行くのに男の存在は邪魔になるし、折角の女友達との触れ合いに自分が混ざる必要は無いだろうと断ったためである。
事実、可愛らしい下着や靴下や服、小洒落た化粧品や香水といったものを主とした買い物であるため、あまり男性を付き合わせるのもどうかと思い、シャルロットはそれを了解したのであった。
その頃綾が何していたかと言えば、一夏とゲームセンターで太鼓を叩く勝負に白熱していたのであるが。
ともあれ、買出しを完了し、飾るものは飾り、着る物は着て、すぐ着ない物は丁寧に畳んで片付けて一息ついた頃、退院してすぐ買ったばかりのラウラのスマートフォンへと通知が入った。
メッセージの送信元は織斑 千冬。
かつてドイツ軍在籍時に自分を救い、導いてくれた最強のIS使いにして教官、現教師でもある。
通知の内容としては次の日、週明け月曜日に綾と時間を作って欲しいとの連絡であった。
太恩あり今でも尊敬する千冬からの呼び出しに断る理由も無いラウラは、即座に了解の返事を送り、すぐさま綾へも同様のメッセージを送った。
既読がつかないが、急ぎ知らせる必要もないので置いておくラウラ。
その頃綾は一夏に太鼓にて圧倒的点数差で敗北した罰ゲームとして、大盛りのナポリタンを奢るよう命令されていた。
「さて、まだ時間あるけど、この後どうしようか」
ぽすりと自分のベッドに腰掛けたシャルロットは、思ったより早めに買い物が片付いてしまったため時間をもてあました事に言及した。
「まだ13時だし、お昼ご飯も食べちゃったし、何かして遊ぼうか?」
「遊びとな。軍にいた頃は賭けポーカーや賭けダーツが主な遊びだったな。後はテーブルにナイフを突き立てての腕相撲などもあったが、学生の身分でそれは良いのだろうか」
「軍人さんの遊びに合わせるのはちょっと・・・」
買ったばかりのミニワンピースを身に纏ってベッドの上で胡坐をかくラウラの話は、知識として聞いてみたくはあるが、友人間で、しかもルームメイトと賭けをするのはシャルロットとしては避けたかった。
まして相手は想い人の妹君である。
勝っても負けてもシャルロットにまるでメリットが無い。
あと腕相撲はさすがに論外であった。
「あ、そうだ。男共が娼婦とかいう女を呼び出して部屋に招き入れる事もあったな。きっと中でトランプに興じていたに違いない」
「ちょっと誰ー!ラウラに変な教育施したの誰ー!!」
思わず誰もいない空間へと声を荒げるシャルロットであったが、ラウラに最低限の教育を施したのはドイツ軍研究者で、生き抜く術を叩きこんだのは千冬であるが、このような知識を与えたのは単純にドイツ軍という環境であった。
そんな彼女達を流し目し、やはりどこからか紅茶を注いだカップを口へ運ぶセシリアは、テーブルチェアに腰掛け、裾の長いスカートの中ですらりとした足を組みつつ言う。
「ふふ、お二人とも何を言っているのかしら。ここには奇しくも女性が三人。三人寄れば会話など尽きる事はありません。つまりはガールズトーク・・・淑女にとって時間などあって余る事などありえないのですわ!」
ぴしゃりと言ってのけるセシリア。
おぉ、と手を合わせるシャルロットと、いまいち理解の及ばないラウラ。
「そうだよね、ボクたち女の子だもんね!いっぱいしようか、おしゃべり!」
「・・・そんなに話す内容があるのだとしたら、先程の昼食の際に話せばよかったのでは?」
テンションをあげて手を握るシャルロットであったが、ラウラの至極冷静な問いによってセシリアともどもピシっと固まる。
買い物中は割と和気藹々とした会話がありはしたのであるが、昼食の場であるファミリーレストランでは、食事中、全員ほぼ無言でそわそわしていたのである。
三人とも、ISを通した絆というか友情は確かにありはすれど、共通の話題が自然と生まれる程度の付き合いや相互理解はまだ無い。
ぎくしゃくしたまま、目を合わせる事すらまばらに、とりあえず食べるものを食べて会計だけ別々に済ませたのであった。
そんな彼女達が満を持してガールズトークに挑む。
これは三人が一般的な女性として現代社会に立ち向かうための、いずれは訪れる試練と言ってもいい。
かたや遺伝子操作によって誕生した元ドイツ軍人の戦闘妖精、かたや田舎育ち男装経験ありの社長令嬢、かたや貴族生まれエリート育ち男性嫌いのお嬢様。
果たして不器用に生きてきた三人に、女の子らしさ全開のガールズトークが出来るのであろうか。
乞うご期待である。
「や、やろうと思えば、ボク達にだって出来るよ、ねぇセシリア!」
「と、当然ですわ!なんでしたら、ISの話題をタブーにしてもいいくらいですわ!」
「え!?」
ちょっと意地を張ったシャルロットであったが、セシリアお得意の自爆芸が炸裂したため冷や汗を一つ垂らす。
唯一といっていい彼女達の共通の話題であるISを封印するとなると、トークの難易度が劇的に上がってしまう。
「当たり前ではないですこと?うら若い乙女が、専門分野であるとはいえ兵器であるフォーマルスーツについてあれこれ談義するなど、どこに女の子らしさがあるというのかしら!」
「言ってる事はわかるけど・・・」
「わたくし達はISマイスターである前に可憐な十代の女子高生ですのよ!そのくらいのハンデがあっても話に華を彩れなくてどうしますの!」
「その言い方がもう十代の女の子っぽくないよ・・・」
「いいから始めますわよ!時間は17時まで、ノンストップでよろしくて!」
時間制限をつけている時点で、時間を忘れる女子達のおしゃべりであるところのガールズトークの趣旨から大きく逸脱している感はあるのだが、シャルロットの半泣きな指摘もどこ吹く風、強引にルールを制定したセシリアはヒートアップした気持ちを押し通すかのように戦いのゴングを鳴らした。
焦りながら話題を探すシャルロット。
同様に頭を悩ませるセシリア。
とりあえずチョコチップクッキーをかじりながら流れを見守るラウラ。
試合開始直後からすでにインターバルが挿入されていた。
数分して、何かに気付いたように顔を上げたセシリアは、どことなく決め顔と共に言う。
「・・・マカロン」
「はい?」
「わたくし、お茶請けにはマカロンが好きですわ」
「う、うん。ボクも好きだよマカロン」
マカロンとはイタリア発祥の焼き菓子であり、生地にアーモンドなどを練りこみ、間にクリームなどを挟んであったり、色とりどりの見た目が可愛らしい、日本でも知名度の高いスイーツである。
実際のところ、セシリアからすれば紅茶が飲めればお茶請けなどマカロンだろうとスコーンだろうと構いはしないのだが、見た目的な可愛さに定評のあるマカロンを話題にする事で自身の女子としてのアピールポイントを稼ごうとしたのである。
「いいですわよね、マカロン。甘くて、美味しくて。ええ、美味しくて」
「うん、なんかいいよねマカロン。ふわふわだしね」
「そうですわね」
「うん・・・」
「「「・・・・・・・・・」」」
第一ラウンド終了のゴングが鳴った。
そこまで思い入れの無い菓子について話を広げる事が出来ずに微妙な空気に満ち溢れる室内で、ラウラはそもそもマカロンが何かすら分からずにいた。
少なくとも知らないという事を口にすればまだ話が展開した可能性はあったのだが、軍隊生まれ戦場育ちのラウラにそれを察する機微は備わっていなかった。
なお、その頃綾のいたずらにより【食べ切れなかったら料金五倍・3kgナポリタン】を目の前に運ばれた一夏は、顔面を蒼白にさせていた。
「ほ、他、何かなくて、シャルロット?」
「え、ボク?う、うーんと・・・」
第二ラウンド開始。
とはいえ、長らく帝王学の勉強やISの操縦にしか触れてこなかったうえに、男装しながらIS学園へ通っていたシャルロットである。
幼少期ならまだしも、年相応の女の子らしさからは流石に縁遠い。
さながら一休さんのごとく頭皮をつついて唸っていたシャルロットは、唐突に頭上へ電球を灯らせた。
「えーっと・・・や、やっぱりそう、おしゃれな服とか欲しいよね!」
「シャルロット良い!それですわ!」
思わずパチンと指を鳴らすセシリア。
女子といえばおしゃれ。おしゃれと言えば女子。
言ってみればイコールで繋がるような女子の会話の基本がそこにある。
むしろ最初に気付かなかった時点で彼女たちの女子力などお察しであるのだが、それでも釣り針の餌に無警戒に食いつく鰯のように、セシリアはテンションを跳ね上げた。
「もちろんわたくしはオルコット家の当主。着飾る衣服には常に気を配っていますわ!」
「うんうん!今日のワンピースも可愛いもんね!」
シャルロットが手を叩くように、セシリアの本日のコーディネートは水色を基調としたワンピーススタイル。
大きめのフリルがついた長い裾と、肩口のあいた袖と控えめに主張するシルバーのチョーカー、これまたフリルがあしらわれた青の日傘と肩から下げるタイプの高価なバッグ。
いかにもお嬢様然とした格好が、金色のキューティクルを自慢げに靡かせるセシリアにはよく似合う。
「ありがとう。シャルロットも可愛いですわよ、髪型も変えたんですの?」
「あ、えへへ。ちょっと外行きにいじってみたんだ。似合うかな?」
「素敵でしてよ!今度ヘアアイロンのかけ方教えて頂けませんこと?」
対してシャルロットはホットパンツにオレンジのキャミソール、薄手のカーディガンやパイソン柄のサンダルと、夏の女子といった装い。
ヘアアイロンでゆったりとしたウェーブをかけたポニーテールがなんとも可愛らしい。
お互いを褒め合って会話が盛り上がってきたところで、ラウラが口を挟む。
「服といえば洋服店でわたしが服を買う時に、おまえたちは自分達の服をみてこなかったのか?」
「あ、うん。今日はいっかなーって」
「なぜだ?普段買う店ではないからか?」
くりっ、と首を傾げるラウラ。
ややばつの悪そうに視線を逸らすシャルロットは、どこか絞るように声を出す。
「いやその・・・お店で選ぶと、だいたいカッコいい系の服を勧められちゃうからね、ボク、可愛い系が好きなのに」
パッと見れば美少年に見えなくもないシャルロットは幼い頃から力仕事や畑仕事を、デュノア家に引き取られてからはISのための体力づくりを行っていたため、一般的な女子よりも筋肉の付き方が整っている。
女性らしさを損なうレベルではなく、むしろ美しさすら感じられる程であるのだが、他の女性からすれば格好良いスタイルで決めさせたくなるというもの。
それを受け入れがたいシャルロットとしては、服を買う際は基本的にネットで選んで配達してもらうのが常であった。
「それは女子らしいのか?」
「うぐぅっ・・・!い、いいじゃないか個人の自由だよ!」
半ばやけくそ気味にラウラへ言い返すシャルロット。
ちなみにセシリアの服は自分で選んだのではなく、幼少期からオルコット家に仕える幼馴染のメイドが送ってくれるものを着ているだけである。
「自分で考えないのか・・・」
「な、何ですのその眼は。だって皆様、わたくしが選んだ服はダサいとかセンスに欠けるとか、散々なんですもの!」
「「ああ、確かに・・・」」
「納得しないでいただけます!?」
既に片鱗は見せていたが、今回の買い物で確信に変わったセシリアのセンスの無さに、声を重ねるシャルロットとラウラに憤慨するお嬢様である。
ともあれ、結局流行よりも自分の趣味に特化したシャルロットと、そも自分で服を選んでいないセシリア、根本から服のコーディネートがわからないラウラではそれ以上話が進展するわけもなく。
第二ラウンド、終了である。
そんな中、時を同じくして金を払うのが自分であると気付いた綾は、一夏と大量のナポリタンと格闘するもまるで減らない状況に危機感を覚え、一夏に箒と鈴を呼び出させていた。
「ふっふっふ。ついに真打ち登場というわけだな」
チョコチップクッキーを食べつくし、容器をゴミ箱へ放り込んだラウラが自信ありげに腕を組んでベッドの上に立ち上がる。
「ラウラ、お行儀悪いから座りなさい」
「あ、うむ」
シャルロットにたしなめられて腰を下ろすラウラ。
親子みたい、という感想と共にくすくすと笑うセシリアをちらりと一瞥し、こほんと咳払い一つ、ラウラは仕切り直しにかかった。
「わたしの信頼する副官が言っていた。女子同士のトークといえば・・・コイバナだと!」
「恋!」
「バナ!?」
恋バナ。つまりは恋の話。略して恋バナ。
女子というのは得てして恋愛話が大好きであり、その関係性や経緯に至るまで詳しく知る事で共感を覚え、自分事化し、憧れを抱くものである。
太古の昔から変わらない女子の会話の中心であり、各々の人間関係によってその内容は千差万別の百面相を見せる。
「男と女の関係を語る、または同性同士のカップリングとやらを愉しむ。それこそが女性の共通の話題であり全国のトップトレンドであるとクラリッサは言った。これをこなしてこそ、我々は女子たりえるのではなかろうか!」
「た、確かに・・・!」
「たし・・・かに?」
ごくりと唾を飲み込むシャルロットと、何か一部違和感を感じて首をひねるセシリア。
「・・・まぁいいですわ。とはいえ、わたくし達の身の回りの男なんて、リョウと一夏さんしかおりませんわよ?」
かつて男嫌いだったセシリアが眉をひそめるも、ラウラは織り込み済みとばかりににやりと笑う。
「それで良いではないか」
「良いって?」
「綾と一夏の話をすればよいと言っているのだ。そう、言うなれば。奴らに対して思っている事をここで言ってしまおうというわけだ!」
鶴の一声というか鶴守妹の一声というか。
最早当初の趣旨とはずれているような気がしなくもないが、その提案にはセシリアもシャルロットも乗り気になっていた。
「いいですわね!やりましょうか!」
「そうだね!この三人だけの秘密って事で!」
そんなこんなで綾と一夏の悪口や噂話、良いところ嫌なところの話題で仲の良い友人と最愛の妹が盛り上がっているとはつゆ知らず。
綾は一夏とのデートと勘違いしておめかししてきた箒と鈴の批難を浴びつつ、四人で必死にナポリタンの処理を実行していた。
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「ただいま帰りました・・・」
夕も暮れ、笑いが絶えないラウラ達の部屋の扉がノックされ、シャルロットが入室を促すと腹を抱え嗚咽をあげながら綾がドアノブを開けて入ってきた。
「おかえりリョウ!・・・って、どうしたの?」
「いえ別に・・・」
心配するシャルロットを片手で制し、ずるずるとした足取りでソファへとへたり込む綾。
怪訝そうに紅茶を振る舞うセシリアへ礼を言い、シュガースティックを二本投入した彼は、盛り上がっていた様子の彼女たちへ何の話題だったのかを問うた。
ラウラ、セシリア、シャルロットの三人はそれぞれ目配せをし、にやにやと笑いながら声を重ね、
「「「ひみつ」」」
とだけ、笑顔で返すのであった。
第四話はラウラが主役。