インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
ラウラが引っ越しを終えたものの、IS学園といえば未だに学級再開されてはいなかった。
当然と言えば当然であるが前例のないレベルのコンピュータウイルスハザードが発生したがために、IS学園は約二週間の休校を宣言。
一番の被害を受けた第一アリーナの一時閉鎖及び機器の修繕、残ったナノマシンの除去、ひいては学内のネットワークを外部と通信できない様遮断し、学園が保有するISと、あの場にいたIS――起動させる事がなかったシャルロット、簪も含めた専用機起動を禁止とし、調査のため別の場所にあるIS研究所へと運ばれ、問題の無い機体は厳重なプロテクト付与を義務付けられ返還された。
また、綾のアマデウス、一夏の白狼、箒の赤雷は起動ができたものの、ナノマシンつまりはウイルスの影響を受けなかった理由の調査のため他のIS同様に一時IS学園預かりとし、織斑 千冬監修のもと精密な検査が行われていた。
なお、この件で命の危険に晒された者・・・特にモルドスライムに潰されそうになるという恐怖を味わった生徒や教師、観客席にてドイツ軍兵士から銃を突き付けられた生徒のかなり多数が、IS学園の中退および退職を申請した。
中には継続して卒業を目指したいと表明する者もいたが、親族や母国からの反対もあり別の一般学校へ強制的に転校させられる事も多く、まさにIS学園存続の危機であった。
残った教師は35人、生徒は三学年合わせて185人。
ちょうど学年ごとに60人ずつ残っている計算である。
それでも学園が存続出来ているのは、偏にIS開発者である篠ノ之 束が突如にしてIS学園の弁護側に立ち、学園のセキュリティ強化の協力を取り付け、裏で各主要国へISコア10基ずつを提供すると約束した事による。
そのまま再度行方をくらました束であるが、ともあれ彼女の手助けもあり今後はIS学園の防衛力を強化しつつクラスを再編成し、7月中旬よりカリキュラムを再開する予定である。
また、残った生徒は学園休業により実家への帰郷を行うのが大多数の中、調査が完了するまでIS学園への駐留を命じられた綾、一夏、箒は、学外へ出るためには学園の許可を必要とされ、門限は17時厳守となっている。
これはIS専用機所有者がIS未所持の際にサンプルとして非合法組織に狙われる可能性を考慮しての事でもあった。
ISさえあれば彼らは世界最高峰の武力を有する事となるが、それが無い場合の狙いやすさは通常時の比ではない。
自分の身を自分で守れない状況の綾達を学園側が管理するのは当然であったし、それでも外出が出来るだけでもまだ温情であった。
綾達もそこに文句をつける事もなく束の間の休日をエンジョイしていたわけなのだが。
「織斑、篠ノ之、鶴守。お前たちのISの調査が完了した。返却するのでサイン一筆を」
月曜日、職員室へと入室した綾、一夏、箒、そしてラウラを待っていたのは、自分のデスクチェアに腕を組んで座っていた千冬の、そんな要望と彼らのISであった。
「やれやれ、やっとですか」
苦笑いしながらちゃちゃっと管理台帳へサインをし、机の上に置かれていた御守り型のデバイスを千冬から受け取る綾。
「へへ、なんだかんだこれがないと落ち着かなくなっちまったな、俺達」
次いでサインして白いブレスレットを手にする一夏。
「確かに、生身では護身に限界があるからな」
特に喜ぶ素振りは見せぬものの、リストアンクルを手首へ通して一息つく箒。
ラウラに関してはモルドスライムと化したISコアが破壊されたため、現在は専用機未所持となっているため、何を受領する事もなかった。
各々のISが行き渡った事を確認した千冬は、改めてこの場に揃った面々を見渡し、ポーカーフェイスを崩す事なく口を開いた。
「調査の結果、お前達三人のISのコアは篠ノ之 束が製作したものではない事が判明した」
「!?」
「それゆえにゲルトナーの作ったナノマシンがISとして認識できなかった可能性もある」
どういう事か、とたじろぐ箒、ラウラ。
そう言われて理解が追い付かない一夏へ、綾が小声で注釈する。
「世界中のISコアは箒の姉、篠ノ之 束さんが作成したものです。いや、彼女にしか作成出来ないといった方が良い。それ以外の人が作ったコアがあるという事は・・・」
「束さん以外の誰かがコアを作ったって事か?」
「あと一歩ですね。篠ノ之 束以外の人間がISコアを作ったのならば、その人間を特定する事で規定量しかないISコアを増産する事が可能となる。そうなると、各国に一定数しか製作出来なかったISが大量に生産出来るようになる」
「それの何が問題なんだ?」
「資本と人口が莫大な国がISを大量生産して侵略を開始する可能性があります。そうなると、ISの数を増やせない小国など一網打尽だ。第二次世界大戦どころの騒ぎではなくなってしまいます」
「なんだって!?」
「たとえ世界中にコア製作技術が拡散されなくとも、どこかの国がそれを保有するだけで核兵器以上の危険性がある。秘密裏に量産されたISで、各国首都を墜とす事だって可能だ。僕達が扱っているISという兵器は、そういった威力を持っているんですよ」
「た、確かに深刻だ・・・!」
事態の重さを把握して戦慄する一夏へ、驚くのが遅いですよと溜息吐く綾であったが、そんな彼をじろりと見やるのは千冬だ。
「白々しく言うものだな、鶴守。そのISコア作成技術を持っているのが誰か、お前は良く知っているだろうに」
「なっ!?どういう事だ、綾!?」
そこへ素早く反応したのは箒だ。
束は箒の姉であり、箒は綾がその姉に浅からぬ因縁めいた何かを持ち合わせているように感じていた。
その理由がそこにあるのかもしれないと、箒が反応してしまうのも無理はない。
軍隊式の休めの体勢のまま、横目で綾を見やるラウラに、心配ないとばかりに微笑み返した綾は、千冬へと向き直って軽薄な笑みを浮かべた。
「ついに一夏達へも周知するんですね、千冬先生。それに、僕は明確にそうであると言った覚えはありませんが?」
「状況が変わったのでな」
「そもそも、白狼と赤雷については千冬先生がどこかから持ってきた機体では?」
「それについては一週間解析してようやく、二機のコアシリアルがフェイクである事が判明したのでな。・・・私も頭を痛めている」
どこか悔しそうに頭を掻きむしる千冬。
白狼――白式と赤雷は、共に倉持技研というIS製作会社で凍結されていた機体を束が引き取り、改修を行い千冬へ秘密裏に送られ、一夏と箒へと渡った経緯を持つ。
だが、束が預かったのはあくまで機体である。
コアについては束が製作し、正式な登録を成されたものが搭載された、筈であった。
「・・・自力でコアを作れる束が何故、わざわざ別の技術で製作されたコアを白狼と赤雷へ搭載したのか。そして、何故お前のアマデウスとコアのシリアルナンバーが連番となっていたのか。私にも分からんのだ」
「ど、どういう事だ、リョウ?」
混乱しながら綾へと顔を向ける一夏。
綾は千冬の話を聞いて、ふむ、と考える仕草をみせた。
「シリアルが連番、か。もしや白狼が002、赤雷が003、とかですかね?」
「そうだ。やはり何か知っているな?」
「いいでしょう。ラウラの件で幾らか借りもある。他言無用という事であれば、僕の知っている限りで話しますとも」
「ああ。私としても、このまま束にやられっ放しでは気に入らん」
深くチェアへ座り直し、千冬は真剣な眼差しを綾へと向けた。
幼馴染であり、何度も自身を振り回してきた束。
いつも自分の都合で連絡を送り、こちらがコンタクトを取ろうにも取れない天才科学者。
今でもその関係性は変わらず、ずっと仕方のない奴だと流してきた部分もある。
しかし、これほどの事件が発生したにも関わらず、自分へ説明にも来ない彼女への不信感は、千冬の中で次第に熱を帯びていたのだ。
まして、今回は最愛の弟や、愛弟子ともいえるラウラにまで害が及ぶ可能性すらあった。
それを捨て置けるほど、千冬は日和見主義ではない。
ここらで真相を暴き、束の頬へ平手の一つでも張ってやらなければ気が済まなかった。
場所を変えようと提案した綾により、一夏と綾が暮らす男子部屋へと移った五人。
ソファへと腕を回して座った綾は、腕組みして壁に寄りかかる千冬、学習机に座るラウラ、ベッドに腰かけた一夏、箒を見渡し、眼鏡の弦を中指で押し上げつつ話を始めた。
「ここなら盗聴の心配も無いでしょう。お察しの通り・・・白狼、赤雷、アマデウスの三機に搭載されたコアは僕のお爺様・・・鶴守 豪が製作したものでしょう」
勿体ぶる事もなく自身の考えを吐露する綾。
ごくりと喉を鳴らす一夏と箒をよそに、ラウラと千冬はどこか引っかかる言い方をする綾に疑問を抱いた。
「でしょう・・・とは、どういう事だ、綾?」
「僕だって白狼と赤雷のデータは確認していますとも。初期段階の時や、一夏と箒から相談を受けた時など、何度もね。それでもコアの情報を隠蔽していた事には気付けなかった」
「だから確信をもって断言出来ないと。疑うのなら調査データを見せるか?」
「いえ、きっと調査結果は正しいのでしょう。僕の持っている機材では見抜けなかった部分もありますし、何より、機体調整に気を取られてコアにまで考えが及ばなかった僕のミスだ」
簡単に機器のセキュリティロックを外せたのも、バックアップが取れたのも、コアに意識を向けさせないための餌であったのなら、それは篠ノ之 束の手腕を褒めるべきでもある。
「それに、シリアル番号が002、003と来て、僕のアマデウスが004。偶然にしては出来過ぎでしょう」
「なるほど。以前お前は、鶴守 豪の技術力について理解が及ばなかった旨の発言をしていたが、つまりはお前自身にコア製作能力は無いという事でいいな?」
「あれを理解出来る人間は二人といませんよ。それは篠ノ之 束も同様です」
「・・・どういう事だ」
「僕が把握している限り、お爺様が製作したコアは4つ。うち2つはかつて、白騎士事件の際に紛失されたと聞いています」
ISが大きく世界中に知れ渡った切っ掛けが白騎士事件である。
それまでは宇宙開発用のフォーマルスーツとして発表され、そこまで注目を集められたものではなかったが、武装や戦略兵器との組み合わせにより、その有用性を戦闘にこそ見出された。
「僕はその2つのコアを、篠ノ之 束が盗み出したのだと考えています。そこからISコアのコピーか、ある程度解読したコアを元に製作したものを、世界中にばら撒いているのかと。一般的なコアに比べて、お爺様のコアはウイルス耐性や出力が高いというのがその理由です」
言い切る綾に、信じられないといった面持ちで沈黙する箒。
しかし。
「・・・少し情報が正確ではないな。おそらく、コアのうち1つは白騎士に使われていたのだろう」
千冬が何かを思い出すかのようにつむぐ。
「そうですね。白騎士についてはお爺様の製作した機体ではない。篠ノ之 束がお爺様のコアを勝手に拝借して、白騎士として完成させたのが仮に002だとして」
「予備か、研究のために持ち出したのが003という事になるか」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
あくまで予想で話す千冬と綾に、思わず一夏が口を挟む。
「まだ束さんがコアを盗んだって決まったわけじゃないだろ?なんだってそう束さんが犯人だって前提で話を進めてるんだよ!」
「お爺様は篠ノ之 束を個人的に知っておられました。本人から伺ったのですから繋がりがある事は間違いありません」
「束が鶴守 豪と師弟関係だった。または、ISの共同開発を行っていたとしたら全て説明がつく」
綾の言葉を継いで語る千冬であるが、それもまた予想に過ぎない。
それでも、千冬にはたった一つ、思い当たる節があった。
「白騎士のマイスターは、私だからな」
織斑 千冬。
かつてIS世界大会であるモンド・グロッソ優勝を飾った最強のISマイスター。
それの正体が。
「ち、千冬姉が、白騎士のマイスター!?」
驚きに目を見張る一夏、ラウラ、箒。
ただ一人、綾は想定していたといったような、堪えるような表情をしてその事実を受け止めていた。
「やはり、そうだったのですね。入学時から今までの会話から、そうではないかと思っていました」
「言えなくて済まないな。・・・お前からすれば、私はお前の両親を守り切れなかった愚かなマイスターという事になるのだろう」
千冬とて、白騎士事件を拭い難い過去として心を痛めていた。
世界各国から大量のミサイルが日本めがけて射出された白騎士事件において、IS白騎士はその大半以上のミサイルは着弾前に撃墜し、被害の削減に貢献した。
だが、それでも。
打ち漏らしたミサイルによって、失われた人命の中に綾の両親が含まれていた。
「言い訳するわけではないが・・・必死だった。避難勧告を聞いた私は、避難所や篠ノ之道場に束がいない事に気付き、探しに走っていた」
10年前へと想いを馳せる千冬。
当時は千冬も束も女子高生の身分で。
GPSをどうにか辿り、街外れの山道に存在する束のラボを見つけた千冬。
唐突に束から指示されるISの装着。
束のバックアップにより瞬時に完了する、初期化(フィッティング)から一次移行(ファースト・シフト)。
音声通信にて伝えられる束の操作方法を頭に叩き込みながら武装をアクティブにし、ついに発射されてしまったミサイルへと狙いをつけ―――。
・・・そこからの事はあまり覚えていない。
頭に血が上っていたのか、それともランナーズハイとなっていたのかはさておき、ミサイルが迫る恐怖と、日本を、弟や友人を守るという使命感と。
そういったプレッシャーに耐えながらも、千冬は初出撃で上々な成果を挙げた。
だが。
「納得などいくはずもない」
無意識に、組んだ腕を握る掌に力をこめる。
「今でも夢に見るよ。私が撃ち漏らしたミサイルで、命を落とした人間がいた。その亡霊に罵られる夢をな」
辛そうにごちる千冬の姿に驚きを隠せないのは一夏だ。
いつでも自信にあふれ、折れない心で彼を導いてきたと思っていた最強の姉が、こんな表情をするなんて。
ラウラもそう。
尊敬してやまない教官が、自らの経歴に傷ついている姿など見た事が無かった。
同時にそれ程の業、モンド・グロッソ二連覇を逃す事を簡単に見切るわけだ。
きっと、彼女は。
「私はあの日から引き返せない道に立った」
救えなかったという呪いにかかっているのだ。
「今生きている人間を最も効率よく守るためには、教師として私以上の人材を一人でも多くISマイスターとして世へ排出すべきだと考えて、私はここにいる」
あの日、届かなかったミサイルを、いつか撃ち落としてくれる者が現れるように。
そうでなければ、自分が生き残ってしまった意味などないと。
「お爺様が作成したコアは全部で4つと聞いています。そのうち二つを篠ノ之 束が持ち出し、研究し、量産可能なまでに至った。それがこの世界の真実です」
「ISを開発したのは、姉さんではなかったのか」
箒の問いに頷く綾。
「お爺様は来たる宇宙への人類進出のためにISを作り出した。しかし、白騎士事件を契機に兵器として世に認識された事を憂いておられました」
「だから綾・・・お前は、姉さんを恨んでいると?」
おずおずと尋ねる箒であったが、綾はゆっくりと首を振る。
「結果として、白騎士がいなければ日本に及んだ被害は計り知れなかった。そういう意味ではお爺様の研究が生きたと考える事も出来る。僕に憎しみの感情はありません」
「・・・なら、私を恨むか、鶴守。お前の両親を守り切れなかった、私を」
ほっと息を吐く箒に次いで、千冬が綾へと尋ねるも、
「千冬先生は最大限出来る事をしたではないですか。同じISマイスターとして、それがどれほど極限状況で、あの成果がどれほど多大であったか理解出来ますとも。僕が恨むとしたら、そもミサイルを発射した犯人でしょう」
綾はそう、やり場のない想いをぶつける事なく胸に手を当て、また首を振った。
軍事基地をハッキングしてミサイルを発射した犯人はまだ判明していない。
かといって、綾には能動的に犯人を捜そうとは思わなかった。
深層心理で犯人と出会う事を拒否していたのかもしれないが、確かな理由は一つ。
「誰かを恨んで戦う事は、僕の理念に反する」
「・・・相手と分かり合うための戦い・・・」
「そうです、ラウラ。たとえ白騎士事件の首謀者と相対したとしても、憎しみや復讐で戦うつもりは僕にはない。どんな相手だとしても、僕は知りたい。そして、僕を知って欲しい」
相互理解のための戦い。
その上で相容れないのであれば打ち倒し、相応の報いは与えよう。
だが、その根底に怒りがあったとしても憎しみは無い。
「この世界には、こんなにも愛が溢れているのだから」
この信念こそが、綾を綾たらしめるものであった。
微笑みと共に頷くラウラ、一夏。
どこか気の抜けたように安堵の溜息をつく千冬。
箒は、ならば、と綾へ問うた。
「では、お前が姉さんの行方を聞いてきたのは・・・」
「篠ノ之 束はISのコアについて、意図的にデチューンしている箇所があります。それを修正したい」
「どういう事だ?」
「なぜ、ISが女性にしか使用できないのか。考えた事はありませんか?」
根本的な仕様として、ISは女性にしか起動出来ないというのが常識である。
だからこそ男女格差が広がったのだし、綾と一夏という例外を除いてIS学園には女性しかいない。
しかし、どうして男性にはISを起動させられないのか、それを解析出来た者は一人もいなかった。
「確かに・・・今まであまり気にも留めなかったが、原因に心当たりがあるのか、綾?」
「ええ。お爺様は、ISのコアを作成した際、まだ未完全なそれが悪用された場合の事を想定し、使用者に制限をかけました」
「・・・!?まさか!?」
「ISコアに刻まれたブラックボックス。量産するにあたり、これだけは改ざん出来ないデータ領域があります。篠ノ之 束をもってしても、それを修正する事が出来ないレベルのものです」
もともとISは未完成な兵器であると語る千冬にはすぐに察せられたが、一夏、箒、ラウラは静かに綾の話に耳を傾ける。
「もしISが悪用された際、どんなプロテクトをかけられたとしてもISを起動出来る者として、お爺様は親父と母さん、そして僕を登録しています。たとえ女性しか扱えないように設定された今のISだろうと、僕はその絶対権限においてISを起動出来るのです」
「女性しか扱えないよう設定・・・!?綾、それはつまり・・・!」
「そう。ISが女性にしか起動出来ないのは、篠ノ之 束が意図的にそう作っているからなのでしょう」
衝撃の事実が室内へ走り抜ける中、綾は片手の指を口元へ添え、自論に対しての疑問点も口にする。
「・・・ただ、理解出来ないのは何故そんな事をするのか。何故男性である一夏がISを起動出来るのか。その理由を、僕は知りたい。そして、叶うなら男性でもISを扱える様修正し、くだらない男卑女尊の現状を解消したい。それが僕のIS学園に来た最後の理由です」
「で、でもよ!そんな理由なら別に教えてくれたって良かったじゃねぇか!」
「女性がイニシアチブを取っているこの学園でそう宣言して、いい顔をされるとでも?」
「そりゃ・・・まぁ」
「それだけではない。IS学園で僕が成績を残すという事は、遅からず篠ノ之 束の耳にも入る。お爺様の孫である僕が、意図して女性しか扱えない様にしたISの根本を覆そうとしている事を知られれば、何をされるか分からない。最悪、暗殺にでも来られるかもしれない」
「束さんがそんな事するかよ!」
箒の幼馴染であり、束の親友である千冬の弟である一夏は、当然、束とも面識があった。
あまり他人とのコミュニケーションが得意なタイプではなかったが、妹の箒や唯一と言っていい友人の千冬、そして一夏には、特別仲良くしてくれた記憶がある。
たとえ今は世界的に指名手配されているとしても、一夏には束がそんな事をするとは思えなかった。
いきり立って立ち上がる一夏を少し冷ややかに見つめ返した綾は、しかしそう来るであろうと予測していたように両手で落ち着く様ジェスチャーをした。
「僕は篠ノ之 束と直接の面識が無いのでそう言っているだけです。だからこそ、一度会って理解する必要がある」
「でも、箒の気持ちも考えろって!」
「いいんだ一夏。下手に誤魔化されるより気分がいい。それに・・・私も、姉さんに振り回された側だ。どちらかと言えば、気持ちは綾の味方でもある」
「箒・・・」
箒にそう言われては引き下がるしかない一夏は、仕方なしにまたベッドへと腰かけた。
それを確認して綾はまとめに入る。
「今回の事件で分かった事は僕ら三人のISコアがお爺様製のものであり、他のコアよりウイルス耐性が非常に高いという事。そして、今後の指針としては、どうにかして篠ノ之 束とコンタクトを取る事です」
頷く千冬。
「ああ、異存はない。今後は情報交換を密にしていこう。ここで話した内容は他言無用だ、いいな?」
「承知しております、教官」
敬礼するラウラ。
「・・・分かったよ。ただし、あまり戦いには発展させたくない」
しぶしぶ了承する一夏。
「避けられないのであれば戦うしかない。一夏、覚悟を決めよう」
そして、最も複雑な心境であろう箒は、健気にもそう言って一夏の肩を叩いた。
小さな、かつ重要な会議を終了させて部屋を出る五人。
先んじて職員室へと向かう千冬は、去り際に綾達へと通達した。
「学園再開まであと一週間。お前達の謹慎は現時刻をもって終了とする。一夏、実家の掃除にでも帰るといい」
「あ、そっか。空き巣に入られてないか確認しなきゃだもんな」
「つ、付き合うぞ一夏!私の家庭的な姿を見るがいい!」
「あはは、頼りにしてるよ」
相変わらず通じているのかいないのか判断しかねる会話をする一夏と箒であったが、そこへラウラが割って入る。
「おい箒。わたしの嫁にあまり馴れ馴れしくするな。一夏よ、家に行くならわたしも付き合うぞ」
「なっ・・・!?」
想定外の伏兵に戦慄して固まる箒。
聞きなれない単語に頬をひくつかせるのは一夏も同様だ。
「ら、ラウラ?な、なんなんだ、嫁って?」
「嫁は嫁だ。日本では気に入った相手の事を嫁と呼ぶのだろう?わたしはおまえを気に入っている。いずれ籍を入れても構わん。だから嫁だ。夫の言う事は聞くものだぞ」
「え、ええぇっ!?」
言いながらも一夏の腕に自分の腕を巻きつかせるラウラ。
焦る一夏。黙っていられないのは箒だ。
「ま、待てぇいラウラ!それは日本語の知識が間違っているし一夏の嫁は私だ!あ、嫁とか言っちゃった!と、とにかく!お前の入る隙は無い!退くがいい!」
「なんだと?身の程を知るがいい箒。おまえではこの男の手に負えん。わたしこそがふさわしい」
「そんな道理、私の剣でこじ開けてみせる!さあどけ!」
「ふん、面白い。シュヴァルツェ・ハーゼ隊長を務めたこのわたしに勝てるとでも思うか!」
「・・・学園内での許可なき戦闘は禁止だ馬鹿者ども」
ごつん、ごつんと、小気味の良い音がラウラと箒の頭上に響く。
もちろん教師たる千冬の鉄拳が振るわれたからであるが、ついでとばかりに一夏の頭をも殴りつけて、千冬はその場を去っていった。
「ふむ・・・今後は自然と集まれる場を用意した方がやりやすいか」
などと、独り言を言いながら。
「な、何で俺まで・・・!?」
頭を抱えてうずくまる三人をやれやれと見渡し、呆れ混じりの半目の綾はラウラの襟首をぐいっと引っ張り上げ、自身の目線まで持ち上げた。
「はいはい。ラウラは僕と行くところがありますので。どうぞ後はごゆっくり」
「な、なにっ!?どういう事だ綾!?」
ばたばたと暴れながら抗議するラウラ。
「お、お前は来ないのか綾!?一夏と二人きりになってしまうではないか!どうしてくれる!」
「箒はいい加減慣れてくださいな。こっちはいつまでもラウラをIS無しのままにさせられないんですよ」
「・・・む?」
すがる箒を柔らかに引き剥がした綾は、首を傾げるラウラを地面に立たせてニヒルに笑った。
「それに、お爺様に妹を紹介しにいかないとね」
千冬はかなり人間臭さを意識して書いてます。