インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
一、二泊程里帰りをする、と言い出した綾の言葉に、一旦支度をしてから校門前で待ち合わせとしたラウラは自室へと戻った。
ちょうど洗濯物の取り込みを終えて昼食の準備に取り掛かろうとしていたシャルロットへ、詳細は伏せて綾としばらく部屋を離れる旨伝えると、彼女は興奮気味に、
「そ、それっ!ボクもついて行っていいかなっ!?」
と、前のめりにラウラへと詰め寄った。
「お、おぅ・・・綾がいいと言えば、いいのではないか?」
「やったぁ!さっすがラウラっ!」
テンションを跳ね上げて抱き着くシャルロットを、頬を染めながら離すラウラ。
「い、言っておくが泊まりになるぞ?わたしとて綾の実家は初めてなのだ、おまえの寝床が無くても文句は言わせんぞ」
「その時は一緒の布団で寝ようよ、ラウラ!」
「うぅっ・・・おまえのそういうところ、苦手だ。妙に胸がさわぐ」
「ふふっ、それは照れるっていうんだよ」
「照れる?これが・・・」
シュヴァルツェ・ハーゼ時代では感じた事のない気持ちに戸惑うラウラに、まるで姉のように微笑みかけるシャルロット。
この娘は、自分以上に普通を知らずに育ってきた。
だから、自分が色々と教えてあげたい。世界の優しさや、人の複雑さを。
好きな男の親族である以前に、シャルロットはラウラへそんな母性にも似た気持ちを抱いていた。
「・・・何だ、にやにやして」
「ううん。すぐ支度しようか!リョウを待たせたら悪いし!」
暖かな眼差しで見つめるシャルロットの提案に、唇を尖らせながら立ち上がったラウラであったが、そこへまた気心知れた来訪者が訪れた。
もはやお決まりのグループとなりつつある三人娘の一人、セシリアである。
「わたくしも行きますわ」
シャルロットの時と同じ説明を繰り返すと、理解するなりセシリアは食い気味に即答した。
「おまえもかセシリア・・・」
「リョウのご実家でしょう?つまり鶴守 豪のラボを見れるいい機会ではなくて?」
「真面目だなー、セシリアは」
「勿論、貴女がリョウと不純異性交遊に及ばないか監視するためでもありますわ」
「ふふふふふふ不純なんてそんな!ボクとリョウは不純じゃないよ!純だよ!」
「その返答が既に不純ですわ!」
軽くじゃれ合ってからセシリアは自分の荷物をまとめてキャリーバッグへ詰め、同様にリュックサックに着替えなどを入れて背負ったラウラ、シャルロットと部屋の前で合流。
全員の準備が整ったことを確認すると、まとめ役でもあるセシリアが行きましょうかとすすめた。
「ちょっといいかしら?」
そこへ、休校中にも関わらず制服を着た女生徒が一人、彼女達へと話しかけてきた。
振り向くと、見覚えはあるものの会話した事のない女生徒が扇子を片手に不敵な笑顔を浮かべている。
生徒会長・更識 楯無。
IS学園二年生。更識 簪の姉にして、ISロシア代表を務め、誰もが認めるIS学園最強の女。
ついでに言えば、とある目的のため綾と一夏へ接触しようと試行錯誤するも、毎度毎度バッドラックとダンスっちまうせいで会話どころか気付いてもらう事すら出来ず、挙句の果てに好きな男子へ告白出来ないシャイな生徒会長という肩書きまで得てしまった可哀想な娘でもあった。
「む。誰だ?」
当然ながら一夏憎しでIS学園へやってきて、以降は綾以外眼中になかったラウラは彼女の事を知らない。
「確か生徒会長・・・ですよね?」
一応常識人枠であるシャルロットではあるが、最後が疑問符になってしまうのはやはり、そこまで興味が無いからなのだろう。
「IS学園年二年生、更識 楯無。ロシア代表にして、銘家・更識家の当主ですわ」
と、ここまでこめかみをひくつかせて聞いていた楯無の表情が、セシリアのまともな評に一転して輝いた。
「そう!それ!そうなのよそれなのよ!私が求めていたリアクションはそれなのよぅ!!」
「あ、あら?」
「ううぅっ・・・良かったぁ・・・ちゃんと私を知ってる人がいてくれたぁ・・・!」
がしりとセシリアの両手を握って上下に振る楯無の瞳からは、無意識に喜びの涙が溢れ出していた。
容姿端麗・文武両道・カリスマ頂点・炊事洗濯掃除何でもござれでIS最強と、これでもかと盛られた完璧超人である筈の楯無であるのだが、綾と一夏に関わろうとして失敗を繰り返すうちに自信を喪失しつつあったのだ。
先のモルドスライム暴走の際など、勇んで一番槍を名乗り出たものの文字通り何も出来ず、守護対象である綾と一夏、そして目の前のセシリアとここにはいない箒の活躍によって事件を解決されるなど、面目丸潰れも良いところである。
この時に簪が事件解決に大きく貢献したというのは楯無にとっても喜ばしい事であった。
妹は実力はあるのに、何かと何でも出来る自分と比べられて塞ぎ込んでしまっていた。
それがもどかしく、自分にはどうしようもない姉妹の溝であったことが悩みだったが、今回の件、否、1年4組のクラスメイトと交流をもってから、簪は次第に明るくなってきているのを楯無は見ていた。
その勢いで自分ですら気付けなかったナノマシンの罠を看破したと聞いた時は、妹の成長を感じ取ると共に、最近の流れからか自分がなんだか落ちぶれてきているようにも感じていたのである。
今なら自分と比較されてきた簪の気持ちが分かる。
このままではいけないと考えるプライドの高い楯無は、汚名返上のチャンスを伺っていたのであった。
「それで?その生徒会長でロシア代表が何の用だ?」
さして興味の無さそうな表情で腕組みをするラウラの問いに我に返る楯無。
セシリアから手を離し、こほんと一息つき、不敵な、挑発するような表情に戻った楯無は、扇子で口元を隠しながら用件を伝えた。
「単刀直入に言うわね。私、ある任務のために鶴守 綾くんと、織斑 一夏くんのIS教導を行わなければならないの」
「教導・・・?」
訝しげに聞き返すラウラ。
暗部からの護衛が目的の楯無の発言はもちろん、男子二人に近づくためのフェイクであるのだが、そうと知らない彼女達にとっては眉をひそめてしまう内容でもあった。
「あの二人なら、わざわざ教えようとしなくても成長していくと思いますけど・・・」
「むしろ変に手を加えるべきではないと思いますわね」
彼らをよく知るシャルロット、セシリアが反対意見を出すと、それを見越していたかのように楯無がにやりと笑う。
「まぁ一年生にしてはよくやってる方だと思うけど、二年以降・・・さらにはプロを視野に入れたなら、あの程度の実力者はごまんといるわ」
「・・・どう思いまして、シャル?」
「うーん、綾の今の実力ならプロ下位くらい渡り合えると思うし、一夏だって攻撃パターンを増やせばワンチャンあると思うけどなぁ」
「ふふ、それは貴女達が本物のIS使いと出会った事が無いからよ」
からからと嘲る様に笑う楯無。
思わずむっとするセシリアとシャルロット。
「本当のISの戦いはまだまだ、あんなものではないわ。あの子達はまだまだ伸びるし、わたしなら更に効率よく伸ばしていける自信があるの。そう、貴女達とおままごとしている時間よりも、より有効に彼らをマネジメントしてあげられるわ」
妖艶に舌をちろりと出し、彼女たちの神経を逆撫でしていく楯無。
楯無とて、綾と一夏がプロに匹敵しかねないレベルで実力を上げている事には気付いている。
それでもシャルロット達を煽っているのは、目的があっての事である。
一方で興味を無くしたラウラがしゃがみ込んでスマホをいじり出した事に少しへこむ楯無であったが、気にしないよう努めてセシリア達への挑発を続ける。
「何が言いたいんですの?」
思惑通り、眉間に皺を刻んで問い返すセシリアに、内心ガッツポーズを取る楯無。
「別に、勿体ないと思っているだけよ?もし貴女達がいなければ、彼らはもっと高みを目指せるはずなのにって」
「ボク達が、リョウの足を引っ張ってるっていうの?」
「あら、察しがいいのね。思ったより高得点よ、あなた」
「ふざけないで!」
鬼気迫る表情で怒りを露にするシャルロットの声に、ようやくびくりと反応するラウラ。
あの穏やかなルームメイトがあんな顔をみせるのか、と感心する中、それをどこ吹く風といなしながら、楯無は扇子を鳴らしてにやついた笑いを崩さない。
「怒っちゃった?ごめんね、お姉さん年下のご機嫌の取り方分からないから。ホントの事しか言えないのよ」
「侮辱が過ぎますわよ、先輩。言いたい事があるなら早く仰って下さいな」
(よし、ここだ!)
十分に焚きつけた楯無は、準備が出来たとばかりに宣告する。
「私は貴女達が邪魔だと思ってて、貴女達も私を嫌ってしまった。そうなったらもう、やる事は一つでしょう?」
「ISで決闘でもしたいと言いますの?」
「まぁ相手にならないと思うけどね。私が勝ったら、あの男の子達に二度と近づかないでくれるかな。あ、ついでに、私をあの子達に紹介なんてしてくれると嬉しいかな?」
そう。
これが楯無の目的である。
自分から接触が出来ないのであれば、外部から攻めれば良いと、そう考えたのだ。
「ボク達が勝ったら?」
「あはは、有り得ないけど、その時は何でも言う事を聞いてあげるわ」
「・・・わかりました。やり―――」
挑発に乗っかってしまったシャルロットが頷こうとするよりも早く。
視界に入らない下側より、ラウラが楯無の背後へ回り込んで、スカートの下からタイツに包まれたふくよかな尻を振り上げるようにスパァン!!と叩いた。
「びゃんっ!?」
「それが目的なら回りくどい言い方をしないで早く言え。相手が欲しいならわたしが構ってやる。わたしの仲間を愚弄しないでもらおうか」
突然の衝撃に飛び上がる楯無、ぽかんと見守るセシリアとシャルロットの視線を気にも留めず、ラウラはミニワンピースの下から伸びるスリムなハーフジーンズを軽くはたく。
「あ、あ、あなた・・・!」
「悪いがこちらはこれから予定がある。日時は学園再開の前日、次の日曜日にわたしがお前と戦ってやろう。場所の手配などはおまえがやっておけ。以上だ」
「は・・・!?」
「ちょ、ちょっと待ってよラウラ!」
呆然とお尻をさする楯無をスルーし、シャルロットが慌ててラウラに抗議する。
「これはボク達に吹っ掛けられた戦いなんだよ!それに、ラウラはいまIS無いじゃないか!」
「そうだ。わたしの友に、シャルロットとセシリアにあそこまで言われて黙っておけるか。ISに関しては何とかする。ロシア代表如き、軽くひねってくれる」
「ラウラ・・・!」
「・・・ふふ、意外と熱いんですのね」
心配そうなシャルロットとは対照に少しクールダウンして笑うセシリアは、片手をあげて指先をラウラへと向ける。
「では、わたくしの分まで戦ってくださるかしら、ラウラ。わたくしに雨色の流星を目覚めさせてくれた、大切なライバルとして」
「承ったぞ、セシリア。わたしの目指す場所で待つ者よ。おまえがわたしをそうしたように、わたしもこの女を踏み台にそこへ辿り着こう」
「ああぁもう!セシリアはすぐそうやってポエム空間作るんだから!」
認め合った強敵同士、強気な瞳を交差させて互いの意志を通じ合わせるセシリアとラウラに、少し妬きつつ声をあげるシャルロットは、
「駄目だからね!ラウラだけじゃ戦わせないから!生徒会長さん、ボクとも戦ってもらうよ!あんな事言われて人任せなんて、我慢出来ないから!」
「あー、え?」
ラウラから始まった、独特なノリについていけずに――否、完全にペースを奪われた楯無の生返事を待たず、シャルロットはやる気の炎を燃やしはじめた。
「それに・・・今のままじゃダメだと思ってた。現状のラファールじゃ誰と戦ってもパワー負けする。今のスピードを活かしつつ火力と出力を上げる方法を考えなきゃ・・・!」
「いい傾向だ、シャルロット。おい生徒会長、タッグバトルにしよう。日曜までにおまえのパートナーを用意しておけよ」
「え、え、え?」
「よし、それはそれとして綾が待っている。行くぞ」
「ええ、行きましょうか」
「ゴーゴーゴーだよ!もう!」
話は終わったとばかりに揃って去っていく三人娘。
ひゅるる、と窓から風が流れる中ぽつん、と一人残されるのは楯無だ。
「え・・・嘘。途中までうまくいってたのにどうしてこうなった?」
もっとエレガントに敵役を演じて、一戦交えて、うまい演出して勝って、仲直りして認め合ってその上で、ようやく護衛対象と接触する、という予定だったのに。
あの男の子達だけじゃなく、女の子達にまでこんな扱いを受けるなんて。
「ふ、ふふふ。上等じゃない・・・!」
それでも結果としては、彼女達とのバトルを取り付けた。取り付けられた。
ならばもう、蜘蛛の子を蹴散らすかのように一掃してやろうとも。
ぎちり、と音を立てて扇子を握りしめた楯無は、目じりに滲んだ涙を拭って立ち上がり、
「この生徒会長にしてIS学園最強のロシア代表、更識 楯無を、踏み台だなんてよく言ったわ!お望み通りえげつないパートナー呼んで大人げなくケチョンケチョンにしてやるんだからねーーーーーっ!!!」
誰もいない学園寮の通路で叫ぶ楯無の声はしかし、どこにも届くことは無く風に散り。
後に残ったのは虚しさと日曜日までにアリーナを抑えるという雑務だけであった。
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「遅いですよ、ラウ・・・ラ?」
校門に寄りかかってラウラを待っていた夏らしい私服の綾は、こちらへと駆けてくるラウラと、その後ろに続くセシリア、シャルロットの姿を確認し、眉をひそめた。
「あの・・・なぜにシャロとセラが?」
「ついて来たいそうだ。可不可の判断は任せるぞ、おにいちゃん」
「くぉ・・・こんな面倒な問題を持ってくる時だけおにいちゃん呼びとな・・・!」
通り過ぎるラウラから、頬をひくつかせて視線をシャルロット達へと向ける綾。
そんな綾へと近づいて、その耳を強引に引っ張るセシリア。
「痛てててて。な、なんです、セラ?」
「・・・先週の事は内緒にしておきましょうね?」
「・・・・・・・・・・ぇぇ」
こそこそと耳打ちしたセシリアは赤くした顔を隠すように綾から目を逸らし、同様に眼鏡を外して目元を覆う綾。
それを不思議に思いつつも、シャルロットはそんな綾へと歩を向ける。
「だ、だめかな、リョウ?ボク、もっとリョウの事知りたいんだ」
頬を染めながら上目遣いでねだる様に見つめるシャルロット。
普段から年上にしか興味が無いと言ってやまない綾にとってはあまり効果のないアピールではあるが、逆にそれを知っているシャルロットは、そこから更に一歩踏み込む。
おもむろにバッグからハンカチを取り出し、少し湿った綾の頬へと当てる。
ふわり、と女性もののシャンプーの匂いが鼻をくすぐり、嫌でも目の前の少女を異性として意識してしまう。
「今日暑いもんね。待ってる間に汗かいちゃったかな、ごめんね?」
「ちょっ、シャロ・・・!?」
半歩にも満たない距離で背伸びしてくるシャルロットの気遣いに、流石の綾もたじろいだ。
普段は自分がエスコートしたりフォローをする立場であるためか、他者から受ける優しさやバックアップはどこか気恥ずかしく感じるようである。
珍しいものを見た、といった風のラウラが感心する反面、セシリアはどこか不満げに目を細めていた。
それが嫉妬といった感情から来るものなのか、自身が綾へ向ける感情の正体を理解出来ていないセシリアには分かり様が無かったが、ともあれ彼女は感情の赴くままにシャルロットの両肩を引いてその手を離させた。
「ほら、いつまでもじゃれついてたら話が進みませんわよ。さぁリョウ、案内なさいな。既に賽は投げられていてよ?」
「いやその賽投げたの貴女達でしょう。・・・参ったな、事が事だけにラウラだけ連れていくつもりだったんですが」
「む。何に悩んでいるんだ、綾?」
心底困ったように頭の後ろを掻く綾と、不安そうに見つめるシャルロット、万が一断ろうものなら強行突破でついてきかねないセシリアを順に眺めたラウラは、まずは兄の悩みから解決しようと取り計らう。
「何って、ほら、先程千冬先生を交えて話した内容ですよ。詳細は省きますが、連れていくにはこの二人にもあれを説明する必要がありましてね」
「ふむ、理解した。そんな事か」
腕を組んで頷いたラウラは、続いてシャルロットとセシリアへ問うた。
「おまえたち、我々と共犯になる覚悟はあるか?」
「え?」
「はい?」
「ごふっ!?何聞いてるんですかラウラ!?」
思わずむせる綾を片手で制し、更にラウラは聞く。
「我々の目的を墓まで持っていくと約束できるか?綾のために命を投げる決意はあるか?」
「そこまで求めてませんよ?いかがわしい事企んでる風にしないでくれます?」
「いや、そこまでの事を求めるべきだとわたしの勘が言っている。どうだシャルロット、セシリア。この男に賭けるか否か。意志を見せてみろ」
まるで線引きをするように、射貫く様な視線で二人を見据えるラウラ。
問いの重さに逡巡するセシリアであったが、シャルロットは事も無げに微笑んだ。
「いいよ、リョウ。ボクの命でよかったらあげる」
「シャロ!?」
「シャル・・・!」
驚きに頬へ手をやるセシリアへ振り向き、にこりと笑うシャルロットは、シャルルだった頃――綾と死闘を繰り広げたクラス対抗戦に想いを馳せる。
「ボクはあの時、リョウに全てを賭けた。その気持ちは今でも変わらない・・・ううん。もっと強くなってる。ボクはリョウを信じてるから。何があってもリョウの味方だよ」
最後に、綾の目を真っ直ぐに見つめて信頼を口にするシャルロットに、嘘も迷いも無く。
それは綾がためらった、自身の目的を語る事を良しとさせてしまう程に。
「・・・ああ、よく分かりましたとも、僕の尊敬するシャルロット。言っておきますが、僕は君が思う程立派な男ではありませんが、いいんですね?」
「もちろん。キミを想うこの気持ちは誰より強い。覚悟しておいてね?何度でも、何億回だってボクはキミを信じるために生まれてくる。キミと出会うために、ボクは何回だって生まれ変われるんだ」
「男冥利につきますね、本当に」
一生添い遂げると言わんばかりの、否、実際そのつもりで言っているのだろう。
一歩間違えれば輪廻転生してもストーカーすると宣言している事になる恥ずかしい科白を、シャルロットは躊躇いもなく言い切った。
赤くなった顔を隠すように空を見上げる綾であったが、耳の紅潮までは隠せない。
それ程までの想いにたじろいでしまうのはセシリアだ。
お前はどうだ、と言いたげなラウラの無言の視線から目を逸らしてしまうものの、きゅ、と唇を噛みしめて大きく息を吸ったセシリアは、それを吐き出すと共に、睨むように綾を見上げる。
「・・・貴方を倒すのはわたくしですわ」
男女の関係で悩むことは難しい。
まして、自分は綾を好きなのかどうかも分からない。
それでも、自分の中のプライドと魂へ問いかければ、どう返事すべきかは明白であった。
「貴方が何をしようとしているのかは分かりません。目的があるとは伺いましたけれど、それをわたくしはまだ知らない。だけど」
これだけは、愛や夢や理想や友情など、放り出したとしても成し遂げたい、誓い。
「もう一度わたくしはリョウと戦いたい。そして勝ちたい。勝ったらもう一度戦いたい。負けたならまたリベンジしたい。わたくしは、ずっと貴方に挑戦していたい。だから、絶対に死なないし、貴方も死なせませんわ」
「・・・・・・」
にやりと笑うラウラが綾を見ると、片手で顔を覆って大袈裟な溜息を吐いているところであった。
シャルロットの言葉が男性として突き刺さった言葉であるなら、セシリアの言葉はIS使いとしては最大級の賛辞だ。
彼女達の想いがどれだけ嬉しい事か。自分に向けられた感情のどれだけ尊い事か。
綾にそれを貰った身であるラウラには、誰より自分事の様に理解出来た。
「・・・道すがら話しましょう。もはや僕らは一蓮托生です」
「!・・・うんっ!」
「もう・・・わたくしにこんな事を言わせるなんて、末代まで祟ってやるんだから」
駅の方角へ歩き出した綾を、嬉しそうに小走りで追いかけるシャルロットと、頬を染めつつ日傘を広げるセシリア。
麦わら帽子をかぶりなおしたラウラは、きっと半泣きになっているだろう兄の顔をあえて見ないように隣を歩く。
「いい奴らだな」
「ええ。大人になったら絶対に口説きます」
「それがいい」
何にせよ綾、ラウラ、セシリア、シャルロットの四人は、鶴守家へと向かう事となった。
その胸中は温かく、これから先の未来に何が起きようと、お互いを守り合うとラウラと誓った言葉を、彼女達へも投げかけたいと思えるほどに。
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駅に到着し、電車に乗り込む頃にはシャルロットとセシリアへ全てを伝え終わっていた。
まばらに人が存在するだけの平日の社内。天気は晴れ、開け放した窓から流れる風が気持ちいい。
向かい合った四人席に座って流れる景色を興味深そうに眺めるラウラ、呆けたように反芻するシャルロット、聞かなきゃよかったと若干後悔して顔を覆うセシリア、ずっと溜めていた隠し事を吐き出してすっきりとした綾と、その様は四者四様であった。
「いやぁ気分がいい。なんだかんだ言っても人に隠し事を抱えるというのはストレスでしたからね。味方も増えて万々歳ですとも」
「こっちは最悪ですわ・・・こんなの国家機密どころか、知っているだけで篠ノ之 束に命を狙われかねない案件ではないですの・・・?」
ISマイスターとして、開発者である篠ノ之 束に尊敬の念を抱いていたセシリアであったが、綾の話から後ろ暗い印象を与えられてしまったセシリアは、じろりと半目で彼を睨む。
「おや、泣きごとですか、セラ?篠ノ之 束の説得が成功すれば男性ISマイスターも増えるでしょう。貴女の嫌いな下賤な男を正当な理由で好きなだけ駆逐出来ますよ?」
「別にいまさら男嫌いを再燃させるつもりはありませんわ!そんな気持ちは貴方のバスター・ランチャーでとっくに灰になってますのよ!」
「あ、ボクもボクも!リョウはバスター・ランチャーで皆に嘘ついてた頃のボクを退治してくれたんだ!」
「うむ。わたしもあのバスター・ランチャーには命を救われたぞ」
「ふふふ、あのバスター・ランチャーはお爺様と僕の自信作でしてね」
「バスター・ランチャー自慢はどうでもいいですわー!!」
綾への感謝やアピールというよりは、単に皆バスター・ランチャーと言いたいだけである。
がたごとと電車に揺られながら会話は進む。
「そういえば、リョウのアマデウスは鶴守 豪製作ですの?先程、バスター・ランチャーを共同制作したみたいな言い方をしていましたけど」
皆に紅茶を注ぎながら、セシリアは綾へと問う。
シャルロットがおやつとして持参した手作りのマフィンを口にしながら綾は、うん、と頷いてから飲み込んだ。
「ああ、アマデウスについてあまり説明した事がありませんでしたね。もともとお爺様は宇宙開発用にISを作り、アマデウスの基礎フレームはそれを元に改修を重ねたものです。そのため、機体はお爺様が、武装関連はISが兵器として普及してから僕とお爺様が共同制作したものです」
「なるほど、そっか。宇宙開発かぁ、なんだかロマンのある話だね」
「そうでしょうとも。ISが宇宙や深海でも活動できるのは、そういった部分にルーツがあるのです」
鶴守 豪は、人類の発展や宇宙への進出を夢見てISを開発した。
自分の作ったマルチフォーム・スーツで未来を切り拓く。
それが彼の悲願であり、夢であった。
だからこそ、ISが篠ノ之 束によって兵器として普及された事を、ひどく悲しんでいた。
「お爺様が最初に作り出したISコアは4つ。機体は設計段階でしたが、4機の名前をつけたのはお母様でした。それぞれ、ベートーヴェン、ヴィヴァルディ、ドヴォルザーク、そしてアマデウス。お爺様は別の名前を付けたがっていましたが、僕が却下しました」
「有名な作曲家の名前を充てたのですわね。ちなみに鶴守 豪・・・お爺様は、どのような名前を?」
「玄武、白虎、朱雀、青龍です。信じられます?東西南北の四神ですよ?当時幼稚園だった僕からしてもお洒落じゃないと切って捨てたレベルですが、今考えても中二病過ぎて耐えきれません」
寒気を感じるのか身体を震わせる綾に苦笑いするシャルロットであったが、セシリアは真顔で「悪くないですわね・・・」と呟き、綾に引き気味の顔をされた。
「ネーミングのセンスなど人それぞれだろう。より愛着の持てる呼び方で呼べばいい。綾なんか見てみろ、おまえたちの事をよくわからんあだ名で呼んでいるではないか」
両手でマフィンを掲げて片方ずつ食べるラウラの言葉に、確かに、と頷くセシリア。
「よくわからんとは失礼な。僕は特に親しいと感じている女性にはお洒落な呼び方をしたいのですよ。ラウラにも考えましょうか、あだ名」
「結構だ。おまえにはわたしをラウラと呼んで欲しい。特に親しいと感じているのであれば猶更な」
ラウラ・ボーデヴィッヒ・鶴守という名は、ラウラにとって大切な名前となっている。
軍にいた頃は何の感慨も無い、ゲルトナーが付けた自分の事を指すだけの識別コードであったが、今となっては綾との確かな繋がりと、顔も知らぬ叔父であり義父となるはずだった、レオン・ボーデヴィッヒを感じられるものであるからだ。
綾を兄と意識してからは、それまで興味の無かったレオンに対しての見方もラウラの中では変わっている。
家族として想い、レオンが何を考え、何を残していったのかを、ラウラは知りたいと願っていた。
「・・・まぁ、君がそう言うならそうしますけど」
何か言ってやろうとして、結局はラウラの心情を察して何も言わずに済ます綾。
実は色々と考えていたけれど出鼻をくじかれた様子である。
まだまだ兄妹としての距離を測りかねている風の綾とラウラがなんだかおかしくて、シャルロットはくすくすと笑った。
楽しく会話をしているうちに、電車は目的地への距離を縮めていく。
目指す場所は群馬県、榛名山。
ラウラは癒し。