インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
長い電車の旅を終え、どこかローカルな雰囲気の駅から降り立つは群馬県渋川市、渋川駅。
どこぞの車漫画の影響で、休日でもないのに人が聖地巡礼のため訪れ、特に榛名山方面に近づくにつれ賑わう街。
とりあえず自販機で飲み物を購入する一行の元へ、広めのロータリーから一台の白いステップワゴンがクラクションを鳴らしてきた。
「ああ、既に迎えが来ていたようです」
振り返った綾が手を振ると、その車はゆっくりと近づいて目の前で停車した。
運転席には誰も乗っておらず、自動運転でここまで来たことが伺える。
「さて、乗ってください。ここからまたしばらくはドライブです」
後部座席のパワースライドドアを開け放って三人娘を乗せた綾は、助手席へと乗り込んで指を鳴らす。
すると車は了解したと言わんばかりにドアをロックして発進。
観光地でもある街並みを優雅に駆け始めた。
都会と田舎の中間のような住宅街を通り抜け、観覧車の見える道路を経由し、牧場、伊香保温泉街と過ぎていく。
やがて車は大きくうねる山道へと侵入する。
かつて何人もの走り屋達が覇を競い合ったルートを逆から侵入する――スタート地点へと登っていく事になるが、今となってはドリフトなど危険な運転をさせないために道路に突起を配置するなど配慮がなされている。
車が衝突した痕が残るガードレールを横目に、榛名山中腹までやってきた車は、そこから通常は開けていない道から唐突にルートを外れ、ほとんど整備されていない山道へと逸れていく。
地図にも載っていないぬかるんだ道を迷いなく進む車の進行に、流石に不安になってくるセシリア。
「り、リョウ?これは本当に大丈夫な道ですの?」
「ああ、お爺様が研究所として秘密裏に建築した建物へ向かうので、本来なら誰も使わない、気付かれない道を走ってるんですよ」
「え、それって大丈夫なの?県に許可とってるの?」
「・・・HAHAHA」
「取ってないんですのーーーーっ!!?」
進路上にある木々の枝がぶつかる事も意に介さず、車は危なげに進んでいく。
「ちょっ、降ろしなさいな!こんなのっ、ISで行った方がよっぽど安全ですわ!」
「駄目ですよー。ISなんて展開したら聡い人が人工衛星からこの場所特定しちゃうじゃないですかー。何のためにカメラに映らない加工を施した車に乗ってると思ってるんですかー」
「て、手が込んでるねっ!?」
大きく揺れる車内で天井へ手を突っ張り身体を固定させるシャルロット。
軍にいた頃にもっと揺れる車内を経験したことがあるラウラは窓上の取っ手を握りながら、
「まぁ落ち着けセシリア。背後から銃弾が飛んでこないだけマシだろう」
と、最後の一個のマフィンの紙型についた残りを舐め取っている。
「どんな悪徳を積んだらそんな状況に鉢合わせるのかご教示願いたいですわっ!?」
掴むところに迷った挙句、シャルロットの腰にしがみついたセシリアは、せわしなく周囲を見渡しながら綾へと叫ぶ。
「リョウ!?あとどれくらいで着きますの!?」
「あと少しですよー」
「あと少しってどのくらいですのっ!?」
「ジェットコースター一周分くらいですかね?」
「こんな安全を約束されていないジェットコースターなんて嫌ぁあああああああっっ!!」
ぬかるみに足を取られない様、道なき道を加速していく車の中で泣きながら騒ぐセシリアへ、ラウラはしてやったりといった顔でドヤる。
「どうだ、やはり命を賭ける覚悟を決めておいてよかっただろう?」
「こんな賭け方ならせめて遺書を用意させてくれませんことーーーーっ!!?」
「痛たたたたたたた!セシリアもっと優しくして!脇腹もげちゃうっ!!」
知らず知らずのうちにシャルロットの脇腹に爪を立てながら力を込めていたセシリアへと文句を言うも、
「構いませんわ、もげてしまいなさいこんな惰弱なおなか!」
「ひっど!?惰弱じゃないよちゃんと鍛えてるもん!セシリアと違って腹筋あるもん!」
「わたくしだってありますわ!そうでなくて、最近たるんでるのではと言ってるのです!」
「そんなことありませーん!ずっと気をつかってますー!くびれてますー!」
「うむ。シャルロットはかなり鍛えてるぞ。わたしもそうだが、この間一緒に風呂に入った時腹筋が割れて――」
「わ、割れてないよー!?リョウ、割れてないから!かわいいおなかしてるから!本当だよ!?」
「いや僕に言われてもね」
などといったやりとりが、加速する車の内部で行われていた。
そうこうしているうちに車は覆い茂った草木の壁の中へと突入。
すると一転して景色が変化し、トンネル内部を思わせる通路となり地面も舗装されたアスファルトへ変わる。
揺れがなくなった事に気付いたシャルロットがセシリアを腰から引き剥がすと共に車は停止。
助手席から降りた綾に促されるまま後部座席から出たシャルロット、ラウラ、車酔い気味のセシリアが自動扉を開けた先で目に飛び込んできたのは、点在するLEDライトに照らされ、人工的に空気を循環させている気配のする、秘密基地と呼んで差し支えない広大な強化コンクリート造りの空間であった。
「ここはISの機動テストに使われるトレーニングルームです」
IS学園のアリーナと同じくらいのスペースに呆ける三人娘は、また綾にうながされるままに歩を進めていく。
「この中ならISを展開しても誰にも感知される事はありません。また、実戦形式の模擬試合をしても、外壁は自己再生を行うため大した傷もつけられません」
「はぁ・・・」
感嘆の吐息を漏らすシャルロット。
吐き気を我慢しながらラウラに手を引かれて歩くセシリアにはそういった余裕はなさそうであるが、周囲の様子だけは伺っているようだ。
広大な部屋の壁際を歩き、中央程にある扉を開けて進む綾へ続いた三人は、更に細い通路へ渡る。
すぐにまた扉があり、そこで綾は振り返り、
「こちらにお爺様がいらっしゃいます」
ようやく到着という感慨と、どんな人物かという緊張感に息を呑むシャルロット達。
「そう構える必要はありませんが、驚かないで下さいね。多少、特殊な状態ですので」
「ここまで来るのにもう驚きすぎて、驚ける気がしないのですけれど」
「そうだと良いんですが」
セシリアの皮肉気味の言葉を気に留める事も無く、綾は軽くノックして中へ声をかける。
「お爺様。綾です。ただいま戻りました」
『分かっている。入れ』
低めの声に頷いて自動ドアを開き、ぞろぞろと内部へと侵入する綾達。
真っ白な部屋にいくつかの鉱石が飾ってあり、人間の大人が入れそうなサイズの、何かしらの溶液が詰まったカプセルや、ホワイトボード一面に張り付けられた設計書と、いかにも科学者――というより、マッドサイエンティストらしき部屋が、彼らを出迎えた。
声も出ないセシリア達がきょろきょろと見まわす中、奥にあるデスクチェアがゆっくりと回転して、そこに座っていた人物が立ち上がって近づいてきた。
「良く帰ってきた、綾。我が親愛なる孫よ」
唖然とする三人を置いておき、綾はどこか呆れながらもうやうやしく腰を曲げて礼をする。
「・・・半信半疑でしたが、どうやら本当にお爺様本人のようだ。いかがですか、調子は?」
「まずまずだな。まるで若返ったように体が軽いよ」
「ははは、相変わらずご冗談が上手いですね」
「ふふん。爺ジョーク」
けらけらと綾と笑いあったその人物は、後ろに控えていたラウラ達三人に視線を向けると、ぺたぺたとスリッパを鳴らしながら歩み寄っていく。
「やあ、こんな格好で失礼。おれの名は鶴守 豪。ISに関する事なら何でも聞いておくれ、マドモアゼル」
そこは綾と同じ血筋であるのか、片手を胸に当てて執事の様に礼をする豪であったが、シャルロット、セシリア、ラウラでさえも、驚きのあまり声を出せずに固まってしまっていた。
「おや、どうしたのかねレディ達?」
「ははは、きっとお爺様の美形っぷりに驚いているのでしょう」
「おっとこいつは失礼。気を利かせられなくてすまないね」
相変わらず軽薄な笑顔でやり取りする綾と、確かにその血縁を感じられる応対を見せる豪の冗談交じりの会話を聞きながらも、どうにか平静を取り戻したシャルロットは、三人を代表して質問を行った。
「あ、あの、失礼ですが」
「ん、なんだね?」
「リョウのおじいさま・・・なんですよ、ね?」
「いかにも」
こくりと頷く豪。
「ISコアを開発した、凄腕のIS技術者で、間違いないのですわよね?」
「おお、そこまで知っているか。余程綾に信頼されとると見える」
顎を指で掻く仕草を見せながら、セシリアの質問へと回答する豪。
そして、最後に口を開いたラウラは、綾へようやく驚きの原因について言及した。
「おい綾。なんだ、このちっこいのは」
そう。
インフィニット・ストラトス創生者にして凄腕のIS技術者。
渋川駅へ車を寄越し、綾達をここへ連れてきた張本人。
最後の作品であるアマデウスを綾へと託し、危篤状態である筈の老人。
その筈である鶴守 豪を名乗ったのは、綾の身長の半分にも満たないような小柄な、白衣を身に纏った銀髪の少年。
ラウラの弟と紹介しても違和感が無い、幼い子供であったのだ。
「だから驚かないでと言ったでしょうに。こちらが僕のお爺様です」
「はっはっは。爺サプライズ」
両手を腰に、仰け反りながら可愛らしく笑う豪。
「だ、だって先程、部屋へ入る前は壮年の方の声で・・・!」
「ああ、ありゃ生前の音声だな」
「生前!?」
「うむ。おれの前の肉体は老化で使い物にならんくなったので、こうやって若い体に記憶を全部移植したのだ。まぁ、着替えたようなものだな」
軽く言う豪の発言に困惑するセシリア、目を回すシャルロット。
ラウラはというと、混乱する頭で豪の容姿や既存の知識から必死に推理を行い、一つの仮説へと辿り着いた。
「もしやその肉体・・・レオン・ボーデヴィッヒのクローン体か!?」
「ほう!」
しげしげとラウラを下から上へと眺めた豪は、口元をひん曲げながら笑う。
「よく気付いたな。綾から話は聞いている、君がラウラだな?なるほど、生前のレオンによく似ている」
見た目と喋り方にギャップのある8歳児程の身体をくるりと回し、豪はラウラの問いに答えた。
「察しの通り、レオンが生きているうちに採取した遺伝子サンプルを元にこの身体を精製した。聞いているか知らんが、綾の母、おれの娘の愛奈は交通事故で子供を産めない体になっちまってな。それを知ったレオンが昔の職場の奴から盗んだ遺伝子工学の知識とおれの技術と機材を駆使して、試験管で精子と卵子を掛け合わせ、産まれたのが綾ってワケだ。まぁ、おれの身体はその応用だな」
「なるほど、繋がったぞ。織斑教官から鶴守 豪は危篤状態と聞いていたがそれはつまり」
「おれの前の身体だな。あっちはもうくたばっちまったから、既に処分済みだ。普通に死んでたら誰かに通報されて綾へ連絡がいってただろう」
「実は僕も知らなかったのですよ。2日程前に突然危篤のお爺様・・・を騙る子供から連絡が入ったのでね。いたずらにしては無理があったので信じるほかありませんでしたが」
はぁ、と溜息を吐きながら綾が解説をし、どことなく気まずそうに注釈する。
「・・・おかげさまで、ラウラだけでなく皆にみっともない姿を見せてしまった」
病院での一幕を思い出しつつぼやく綾へ、豪もまた不満気に応じる。
「成功するかどうか賭けだった部分もある。それに、おれだって孫娘が出来ていたなど知らんかったわ」
ラウラを指して眉間に皺を寄せる豪は、知らないうちに自分の孫が増えていた事にお冠の様子である。
外見が幼くとも中身は相応に年を重ねてきた老人、知っていればもっと孫娘を可愛がるべく準備したかったのである。
ここまでの説明でどうにか自分を取り戻してきたセシリアとシャルロットは、目を合わせてひそひそと小声で話す。
「なんというか・・・途方もなさ過ぎて車酔いが一気に覚めましたわ」
「うん・・・想像以上に、凄い科学者なんだね・・・」
顎をひと撫でした豪は、ラウラへと手招きをしつつポケットから何かしらのアンプルガンを取り出した。
「耳を出しなさい、ラウラ。今後おれと話がしたい際にはこれを使うといい」
「ん、ああ・・・?」
言われるがまま、おずおずと左耳を差し出したラウラへアンプルを打ち込んだ豪は、耳たぶを軽くつまんで目を閉じた。
「どうだ、聞こえるか?」
(どうだ、聞こえるか?)
「うわっ!?あ、頭の中に声が!?」
驚いて飛び退くラウラを愉快そうに眺める豪は、そのまま説明を続ける。
「左の耳たぶを軽く圧迫するのがコールサインとなる。後は近場のネット回線を暗号化しながら通過しておれとの会話が可能となる。今打ったのはそのためのナノマシンだな。綾も同様の処置を施している。鶴守家の証とでもいったところか」
「証・・・」
その言葉にどこか温かいものを感じるラウラ。
「歓迎するとも、ラウラ・ボーデヴィッヒ・鶴守。綾が認めた君は我々の家族だ。こんな我々で良ければ仲良くしてやってくれ」
「・・・ありがとう、じいさま」
照れくさそうに微笑んだラウラに頷いた豪は、おもむろにラウラの眼帯に手を伸ばし、抵抗しない事を確認した後にそれを外し、その下に隠れていた金色の眼をじっと見つめる。
「ヴォーダン・オージェか・・・見る限り、うまく適合出来ていないようだな」
ヴォーダン・オージェとはIS適合率を向上させるため、人為的に瞳へハイパーセンサーを組み込む手術の事である。
シュヴァルツェ・ハーゼ隊員は全員これを受けているのだが、ラウラだけは手術後に不適合が発生し、その左目を金色へと変色し、機能の制御が出来なくなったのだ。
そのため、緊急時以外は眼帯を身に着ける事で能力をセーブしている。
「・・・そうだ。そのせいでわたしは使い物にならない失敗作として扱われた」
「はん、人間に失敗も何もあるかよ」
不機嫌そうに舌を打ち、違うアンプルを装填してラウラへと向き合う豪。
「そいつの適合率を上げてやる。少し痛いが我慢しろ」
流石にそれには不安を覚えたラウラであったが、隣に膝まづいて手を握ってくれた綾の存在に安心し、やってくれと豪へ目を閉じる事で促した。
豪は何も言わずにラウラの瞼の上からアンプルを打ち込む。
「くっ・・・!」
左手を綾の手から離さず、右手で左目を抑えるラウラが苦悶の声をあげると、シャルロットとセシリアがすぐに駆けよった。
「ラウラ、大丈夫?」
「あ、あぁ・・・問題ない、もう痛みは去った」
左目から一筋の涙が流れ、それを手で拭ったラウラが左目を開くと、その色が右目と同色に変化している事が見て取れた。
「ラウラ、目が!」
「・・・!」
シャルロットから手鏡を受け取ってそれを確認したラウラは、違和感のなくなった左目に本日何度目かの驚きに言葉を失った。
「これで制御出来るようになった筈だが、それでも万全じゃない。念のためまだ眼帯はしておくといい」
先程座っていたデスクの袖机から新しい眼帯を取り出した豪がラウラへと手渡し、それを身に着けたラウラは、これまで塞がっていた左の視界が開けている事に気付く。
「眼帯に仕込んだセンサーと今打ち込んだナノマシンをリンクさせて疑似的に視覚を得ている。もしヴォーダン・オージェの性能を全開にしたい場合は外すといい」
「流石。全盛期の勢いを取り戻しているようですね、お爺様」
「何から何まで・・・何といったらいいか・・・」
珍しくしおらしい態度をみせるラウラであったが、豪はふふんと鼻を鳴らすと、
「礼には早いぞ、孫娘よ。本番はこれからだ」
「え・・・?」
「見るがいい!」
もっと喜ぶ姿が見たいとばかりに、豪がバッと仰々しく手を上げると、天井が開き、ワイヤーにつるされた何かが下りてくるのが見える。
「あれは・・・!」
「ISですわ!」
漆黒のボディにブロンズカラーのライン。
重厚な肩部装甲と脚部装甲、胸部装甲の中心には大きなバリアジェネレータクリスタル。
腕部から後方へと伸びる超振動カッター。
アマデウスと同系のバーニアポッドに、X字の背部ヴァリアブルスラスター。
足元には装備品であろう、大型ハンドガンが二門。
「ベートーヴェン・・・!」
その機体に心当たりのある綾が名前を呼ぶ。
完全に床へと降り立ったその機体の脚部へと手を置き、自慢げにラウラを振り返った豪は、もはや口が開いたままとなった彼女へと笑顔を向けた。
「束に盗られたコアが002白虎、003朱雀。綾の青龍が004。そしてこいつが001!名を・・・玄武!」
「ベートーヴェンだって言ってるでしょう!?」
名前を呼んでキメる豪。しかしそのネーミングが許せない綾に即ツッコミを入れられ、これまた当たり前のように抵抗を見せる豪。
「なんじゃい!お前はまだそんな小賢しい名前に未練があるのか!?」
「そのセリフそっくりそのまま返しますとも!いつまでそんな中学生みたいなネーミングを押し通すおつもりですか!母さんのつけた名前でいいでしょう!?」
「愛奈のセンスは駄目だ!あいつには男心がまるで分かっとらん!」
「これ使うのはラウラです!男心なんて必要ありません!」
そのままぎゃいぎゃいと喧嘩を始める綾と豪。
一方、女子三人はすでにISの方へと興味を写し、スペックのチェックに勤しんでいた。
「すごい、なんて強靭で軽い装甲・・・!これでこのバリア出力じゃ、普通のISじゃ傷一つつけられないよ!」
「それでいてエネルギー効率も段違いですわ!総量と合わせたら、わたくしのレイニー・ステラの倍は稼働出来るかも・・・!」
「スピードも出せるが、スラスターの形状から不規則軌道が得意分野か。そしてこのパワー重視のセッティング、レーゲンと同様の使い方が出来そうだ・・・!」
と、ISの評価を地獄耳で聞き取った豪は、綾をほったらかして女子の元へと向かい、
「そうだろう、そうだとも!おれの玄武はすごいぞ!データで見たがシュヴァルツェア・レーゲンにはAICがあっただろう?こいつにはあれより使い勝手の良い能力が搭載されている!さぁ早速ファーストシフトを始めよう!名前は玄武で登録して――」
「だから駄目だって言ってるでしょうクソお爺様!この機体はベートーヴェン!ベートーヴェンなんです!」
「じゃかしいクソ孫!おれの孫娘の門出を邪魔すんなぃ!」
「その小さい頭にブーメラン突き刺さってますよボケ老人!」
またも小競り合いを始める綾と豪をやれやれと見守るセシリアとシャルロット。
しかし、ラウラはじっとシャルロットの事を見つめると、何かを思いついたように目の前の黒いISへと語りかけた。
「シュヴァルツェア・ガーベラ!」
「「・・・ゑ?」」
ぴたりと喧嘩をやめてラウラへ顔を向ける鶴守祖父と孫。
その名前に心当たりのあるシャルロットは、もしかして、と声をあげる。
「ラウラ、ガーベラってあの時の・・・」
「そうだ。おまえがわたしのお見舞いに持ってきてくれた花だ。あの後調べたのだ、白いガーベラの花言葉は希望だろう?だが黒いガーベラは存在しないはずだ。だから、わたしがこの黒いガーベラに花言葉をつけてやろう!」
少し興奮気味に、気に入っていたらしいガーベラの知識を披露した後に、ラウラは愛おし気にシュヴァルツェア・ガーベラと名付けたISを手でなぞって告げる。
「絆魂(はんこん)」
それはシュヴァルツェ・ハーゼとの絆。
シャルロット、セシリアという友からガーベラと共に送られた希望。
鶴守家から受け継いだ魂。
全てを凝縮して、その名に込めよう。
其は――――。
「共に戦おう、黒き絆魂(シュヴァルツェア・ガーベラ)。一緒に皆を守ろう!」
語りかけながら名前を登録し、深く頷いた。
そのまま装着しながらファースト・シフトを開始し、
「ありがとう、じいさま!大切にする!」
と、豪へ礼を述べた。
「うん、いい名前だと思う!」
「とてもラウラらしい気がしますわね」
笑顔で受け入れるシャルロットとセシリア。
気まずそうに視線を交わした綾と豪は、頷きあってからスッと服装を正し、
「・・・いい名前ではないでしょうか。流石は僕の妹ですね」
「若い娘のセンスには敵わんな。さすがおれの孫娘だ」
などとお互いの足を踏み合いながら言い、
「流石に手遅れですわよお二人とも」
セシリアにぴしゃりと切り捨てられるのであった。
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ファースト・シフトを終え、綾のアマデウス、セシリアのレイニー・ステラ、シャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムIIとの模擬戦闘をこなし、一息ついた頃には既に夜も更けていた。
「ふむ、もうこんな時間か。悪いがここにはおれ以外の寝具が無い。寝るなら、鶴守の家に行くといい。榛名山の温泉街の外れの工場だ、そんなに遠くはない」
「そうしましょうか。ではお爺様、またいずれ」
トレーニング空間の壁に寄りかかってドリンクを飲んでいた綾が、豪の提案に頷いて立ち上がり、疲労困憊といった風に大の字で倒れるラウラを引っ張り立たせた。
「これは・・・凄いな。シュヴァルツェア・ガーベラ、良いISだ・・・!」
息も絶え絶えながらも満足気なラウラに笑いかける綾。
「使いこなすのが難しいISだと思っていましたが、さすがラウラ。もうバッチリですね」
「いや、まだまだだ。帰ったらまた訓練したいぞ」
「ふふ、親父・・・ボーデヴィッヒの血ですかね」
ふらつく足取りのラウラを背負った綾は、セシリア、シャルロットにもそれぞれ声をかける。
「行きましょうか、セラ、シャロ」
「そうですわね」
タオルで汗を拭っていたセシリアが返事をするも、シャルロットは少し沈んだ様子で息を切らせていた。
ラウラの相手を最後にしたため疲れがまだ残っているのかと綾は考えたが、大きくため息をついて体育座りを崩した体勢のまま動かない彼女に、首を傾げてしまう。
「どうかしたんですか、シャロ?」
「全然・・・手も足も出なかった。悔しいなぁ・・・」
「相性の問題ですよ。あの能力は君の戦闘スタイルと噛み合わせが悪すぎます」
「それでも、何か出来る事があるはずだった。やっぱり、お父さんにはああ言ったけど・・・今のラファールじゃ、足りないのかな・・・」
項垂れるシャルロットの思いは、観戦していた綾にも理解出来るものであった。
シャルロット自身の能力には全く問題が無い。
だがしかし、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIがもう、シャルロットの技量についていけていないのである。
それは例えばパワー、クイックネス、リアクション。
アマデウスのようなタイプの機体であればテクニックで先手を打てる部分もあって相性優位に立てる事もあるが、それが通じない相手が現れた場合、結局のところ頼りになるのはIS自身の性能なのだ。
アマデウスも、レイニー・ステラも、その部分はクリアしている。
第三世代後期以降のパワーを持ち、各々得意とする距離があり、相手の能力に合わせて手札を切れる。
しかしラファール・リヴァイヴ・カスタムIIには、手数と防御力以外の能力が乏しい。
どうしても出力差と攻撃力で不利となってしまう。
極端な話、パイルバンカーさえ注意していれば、後手に回る可能性は低いのだ。
それを圧倒的な技術力でフォローし、戦い続けてきたシャルロットに、限界が訪れていた。
「とはいえ、現状はラファールカスタムで戦うしかないのでしょう。それに、その機体に愛着もあるのでは?」
「うん・・・でも、こんな状態じゃこの子だって可哀想だよ。ちゃんと戦えるようにしてあげなきゃボクだって辛いし、みんなや、綾の足を引っ張っちゃう・・・」
落ち込むシャルロットをどうにか立たせ、車へとエスコートする綾。
いまは何も言うべきではない。
ここで綾がいくらフォローしようとも、現実が変わらない限りシャルロットが立ち直る事は無い。
逆に、余計な気を回して駄目な方向へと進んでしまっては元も子もないのだ。
「ラウラ、また来るがいい。それにお嬢さん方も、再会できる日を楽しみにしている」
「ああ、本当にありがとう、じいさま」
「はい、ありがとうございました・・・」
「それでは、ごきげんよう」
車へ乗り込んだ少女たちへ見送りに来た豪へと、それぞれが挨拶する。
「ではな、綾。束の動向と・・・織斑 千冬には気をつけろよ」
「分かっていますとも。では、お元気で」
疲れ果てたラウラは聞き逃していたが、最後に綾へ意味深な言葉を掛けたのち、豪は車を発進させる合図を出した。
オートコントロールにて走り出す車のシートベルトを締めてからふと、セシリアが気付く。
「あら・・・?もしかして、帰りもあの道を通るのかしら・・・?」
「そりゃそうですよ。他にどう帰れと?」
「い、いやああああああああっ!!!わ、わたくしだけISで帰りますわあああああああ!!!」
「はっはっは。一蓮托生一蓮托生」
「詐欺ですわああああああああああっっ!!!」
来る時と同様に道なき道を特急で駆け抜ける車と上下左右に揺れる車内。
前後で違っているのは、綾が運転席に座っている事、助手席で爆睡するラウラを片手で支えている事、元気のないシャルロットという点であった。
言うてMTGだと赤をメインに使ってますがね!