インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
今宵は三日月が良く映える。
榛名湖温泉街を少し過ぎたあたり、目立たない立地に廃工場と、その敷地内に鶴守と表札がついた屋敷が存在した。
かつてはこの工場が豪の仕事場であり、50人ほどの従業員も働いていた。
突然変異レベルの天才科学者であった豪は、自身の研究の片手間に金属加工業を営んでおり、表向きはそうやって生計を立てているように見せていた。
その正体は、数々の特許技術を売り出す事で更なる研究を続けるサイエンティスト。
綾の両親が故人となってからは心身の不調を理由に会社を売り払い、隠居したように見せかけて、全ての資金と技術力、裏のツテを得て秘密研究所を建設し、そこに引きこもってISの開発を続けていたのである。
資金不足に陥った際にはISの開発途上のデータをいくつか各所で売り払っており、それが理由で『凄腕』以外の理由が世間的に語られない原因となっていた。
ともあれ帰宅途中で食事と日帰り温泉に立ち寄り、温まった体で鶴守邸へ到着した一同は、今は皆縁側で休息している最中であった。
綾がIS学園に入学するまで豪(旧ボディ)と共に暮らしており、今も少々埃が積もっているものの電気は通っていて、オール電化のため一泊するには問題無く。
少し古くなった浴衣を出して各々が身に着け、夜の帳と都会には無い済んだ空気を楽しんでいた。
「たまにはこういうのも良いですわね」
髪を後ろへまとめて団扇を扇ぐセシリア。
縁側へと腰かける彼女の隣に立つ綾は、その美しいうなじへと視線が釘付けとなっていた。
「?なんですの?」
「いえ。セラのうなじにときめいていたところです」
「・・・助平」
「魅力的なものなら目で追っても仕方ないでしょう。不快なら下がりますが」
「ふふ、冗談ですわ」
団扇で口元を隠すセシリアと笑い合い、線香花火を愉しむラウラとシャルロットを眺める。
「ほぉ・・・!これは、不思議なものだな・・・!」
「うん、綺麗だね・・・」
温泉での休憩を挟んで少し元気を取り戻したシャルロットがうっとりとした笑顔を見せる。
見るもの全てに瞳を輝かせるラウラに元気をもらったというところもあるのだろう。
気がつけば時計の針が頂点に達しようとした頃、そろそろ眠るかと頷きあったところへ、シャルロットのスマートフォンが軽快な着信音を奏でた。
「わっ!?なんだろう、こんな時間に・・・」
広めの客間に女子三人の布団を敷き終わり、全員が床についていたタイミングでの呼び出しに驚きつつも、通話ボタンを押して応答するシャルロット。
「はい、もしもし」
『シャルロット!?おお、良かった、ようやく繋がったぞ!』
「お父さん?」
通話の相手はフランスにいる父、アルベール・デュノア。
どこか切羽詰まった様子を不思議に思いながら客間を出て、廊下で佇むシャルロットは、それまで豪の研究所にいた旨を伝えた。
『そうか、もしかしたら電子機器の通信が届かないか、遮断されていたのかもしれないな。数時間前に何度か連絡していたが、全く通じなかったので心配したぞ』
「あ・・・そうだったの。ごめんなさい」
『ははは、とは言ってもリョウがいるからな。私はそこまで不安にはなっていなかったがロゼンダがな?』
義母のせいにして誤魔化そうとする父にくすりと笑うシャルロットは、すぐに自分のISについて相談しようと口を開きかけたところ、
『そうだ。連絡した理由だが、私達が日本を発つ際にUSBを渡されただろう?』
それはタッグトーナメント終了後、視察に来ていたアルベールが帰国する時に、餞別と言って綾が豪のIS設計図をいくつか手渡していた事。
ああ、と思い当たったシャルロットが頷くと、アルベールは声のトーンを父ではなく、IS企業の社長らしく毅然としたものへと変えた。
『あれに我々デュノア社が立案していたISの運用方法についての記述があったのだ。驚いたよ、あと1年はかかる想定だったプロジェクトの、ほとんど回答内容と言っていいものがそこに記されていたのだ』
「ISの運用?」
『そうだ。企業秘密ゆえお前にも伝えていなかったが、どうやら想定よりずっと早く日の目を見る事が出来そうなのだ。そこでシャルロット、お前にテストを頼みたい』
どきん、と胸が高鳴るシャルロット。
ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIに不足を感じた矢先にこの提案、渡りに船とでも言えよう。しかし。
「で、でもお父さん、ボクは今のラファール・リヴァイヴに愛着があるんだ。新型を送るんじゃなくて、これを改良する方向じゃ駄目かな・・・?」
断られる事を予期しながら、それでも縋る思いで提案するシャルロット。
だが、アルベールからの返答はシャルロットの想像していたものとはまるで違っていた。
『いや、現状のラファールを捨てる必要は無い。むしろ、この計画には必要となるものだ』
「どういう事?」
『詳しくは実物を見て欲しい。国際電話では傍受の危険があるからな。積み荷は既に発送済み、最速で二日後にでもIS学園へ到着するだろう。なに、うちの会社の開発担当もそちらへ向かっているし、リョウも協力してくれれば数日で完成するさ』
どうやら余程の新技術が送られてくる様子である事を察したシャルロットは、戸惑いつつも了解と返事をした。
『日本の時刻ではもう深夜か、夜分にすまなかったな。おやすみシャルロット、良い夢を』
「うん・・・ありがとう、おやすみお父さん」
通話終了のボタンを押し、一息つくシャルロット。
どういう事かは検討がつかないが、ラファールを捨てなくて良いという父の言葉に少し安心したのかもしれない。
メルシー、と再度父への感謝を告げてシャルロットが部屋へ戻ろうとしたその時、下方向からの光に照らされて大きな何者かが背後に立っていた事に気付く―――。
「ファーキュー」
「き、きゃあああああああああジャパニーズゾンビーーーーーーーっっ!!!??」
反射的にスマホを投げつけてうずくまると、「ぐっは!!」と悲鳴をあげて倒れる何者か。
ごとりと鈍い音を立てて光の元である懐中電灯が転がり、その声からそれの正体に気付いたシャルロットは心臓の鼓動を抑えながら振り向く。
「り、リョウ!?」
「いやぁ痛い。皆さん寝ている筈なのに話し声がするので、気になって来たんですよ」
「だからって驚かさないでよぅ!!」
尻もちをついた形で眉間を撫でているリョウが軽薄に笑い、シャルロットにぺしんと肩を叩かれていると、寝ぼけ眼のセシリアが襖を開けて様子を伺いに来た。
「んぅ・・・うるさいですわよー?何してますのー?」
「な、何でもないよ!早く寝よう、セシリア!」
慌ててスマホと懐中電灯を拾って客間へとセシリアを押し込みつつ、
「お、おやすみリョウ!」
悲鳴を聞かれた気恥ずかしさが今更襲ってきたのか、ぴしゃりと襖を締め切ったのであった。
残された綾はうーむ、と唸り、
「なぜ懐中電灯を持っていってしまうのか・・・」
ぼやきつつ、久し振りの実家で電気をつけずに自室へと戻れるか不安に思いながら、ゆっくりと家の奥へと引き返していった。
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翌日はせっかくなので榛名山観光と洒落込む一同。
榛名湖の屋台で買い食いをし、乗馬や手漕ぎボートといった体験をする綾とラウラ。
伊香保温泉街で一夏や箒、鈴へのお土産を選ぶシャルロットとセシリア。
沢山の写真と撮り、沢山の思い出をそこへ残し、沢山の笑顔を浮かべ合った。
その後、再度全員で伊香保温泉へと浸かり、夕方になる前に帰りの電車へと乗り込み、夜が更ける前にIS学園へと辿り着いた。
「あ~!堪能しましたわ!」
「最初は悲鳴上げてた奴がとんだ手の平返しだな」
「あれはわたくしの記憶から消しましたわ」
「あはは、セシリアってば調子いいんだから」
談笑しながらロビーを通り、学生寮へと向かいがてらすれ違った鈴へとお土産を渡すシャルロット。
「へぇ、温泉行ってきたの!?アンタ良い実家してるじゃない」
表向きは温泉旅行としたシャルロットには礼を言いつつ、綾へは皮肉交じりに羨望の眼差しを向ける鈴。
「はっはっは。悔しかったら一夏を誘うくらいのアクティビティを見せてごらんなさい」
「べべべ別にアタシは一夏の事なんて何とも思ってないんだからね!?」
「え、今それです?」
顔を赤くして手を振る鈴に気の抜けた表情で返す綾は、一夏といえば、と話題を振る。
「そういえば一夏、いま実家に帰ってるんでしたね。箒と一緒に」
「な、なんですってぇ!?」
毛の逆立った猫の様にツインテールをうねらせた鈴は、どたばたと自室へと戻り速攻で着替えや荷物を準備して戻り、
「あんの乳モップぅ・・・!抜け駆けなんて許さないんだからね!!」
「おおぅ・・・今から行くんですか」
「当たり前よ!一夏の家なら知ってるんだから!」
嫉妬の炎をたぎらせてスニーカーを履いた足をどすんと鳴らす鈴は、鼻息荒く学園の外へと走り出した。
「情報提供サンキュ!後で杏仁豆腐おごったげるわ、ツルモリ!」
言い残し、返事をする間もなく彼女は風となった。
ぽりぽりと頬を掻く綾と、ぽかんと見送るシャルロット。
「鈴は元気だなぁ・・・」
「僕、初めて凰さんに名前呼ばれた気がしますね」
感想を述べつつ、セシリアを部屋へ送ってからラウラとシャルロットの荷物を持って付き添う綾。
ラウラのついでと理解しながらも礼を言うシャルロットは、昨晩の父からの電話を思い出して綾へ報告した。
「実は昨日、お父さんから連絡があってね―――」
ちょうど部屋の前へ到着したあたりで事情を把握した綾とラウラは、目を輝かせて食いつきシャルロットへと詰め寄る。
「それは新型のテストという事ですか!?デュノア社の!?それは是非協力させて頂きたい!」
「シュヴァルツェア・ガーベラの実戦データが取れる良い機会ではないか!それに、あの小癪な生徒会長と戦うには丁度良いタイミングだ!」
「う、うん、そうだね」
協力してもらえないかと頼もうとしたのだが、向こうからお願いされてしまった。
里帰りの疲れもどこへやら、うきうきとする綾であったが、ラウラがしれっと放った一言に首を傾げてしまう。
「・・・生徒会長と戦う?どういう事です?」
「ぬ?言ってなかったか?」
初耳ですと答える綾に、ラウラとシャルロットは出立前に絡まれた事、決闘を申し込まれ、タッグ戦を行う事になった事、負けたら綾と一夏に関わるなと言われた事を伝えた。
しばし思案した綾は口元を緩ませ、
「面白い」
と笑った。
「生徒会長、つまりはロシア代表の更識 楯無さんですね。何度か映像で観戦した事がありますが、彼女のIS、ミステリアス・レイディはとても良い機体だ。いや、あれは機体というより、水で拵えたヴェールと言った方がしっくりくる」
楽し気に笑いつつ、彼女たちの部屋へと荷物を運び入れ、そのままソファへと腰かける綾は、やはりISの話になると途端に饒舌となる。
「ガトリング砲と一体化した槍である蒼流旋。ナノマシンで構成された水の衣、アクア・クリスタル。そして、AICを凌ぐ拘束力を誇る沈む床(セックヴァベック)。更に、楯無さんはそれを完璧に扱いこなすISのエキスパート。一筋縄ではいかない相手です」
「ふん、ガーベラの実戦相手にとって不足はないというわけだ」
腕を組んで不敵に仁王立ちするラウラに対し、シャルロットはどこか自信がなさげだ。
「でも、タッグ戦だからもう一人誰か呼んでくるんでしょ?今のボクじゃ不安だよ。ラウラの足を引っ張っちゃうかもしれない。それに・・・負けたら、リョウたちと関わるなって・・・」
シュヴァルツェア・ガーベラに敗北したショックから立ち直れていないのだろう、シャルロットは沈んだ表情でベッドに座っている。
しかし、それがどうしたとばかりに綾は足を組み替え、
「勝てばいいんですよ。勝たせます。僕は楯無さんに会った事はありませんが、僕に直接言わずこんな回りくどい事をする人など器が知れている」
実際には何度か遭遇しているのだが覚えていない綾は、片手でジェスチャーを交えながら力説する。
「きっとシャロのクソ親父は、僕が渡したデータから何かを掴んだのでしょう。きっと君を想うが故に、です。お爺様の孫として、何より僕個人として、それは完成させないと気が済まない。僕の尊敬する君を侮辱した事を後悔させてやりましょうとも」
「リョウ・・・」
「気持ちで負けるな、シャルロット。何かあってもわたしがフォローする。わたし達を信じろ」
「ラウラ・・・」
愛する男が、その妹にして自分のパートナーが、鼓舞してくれる。
正直なところまだ胸を張るには遠いが、彼らにそう言われてはやるしかない。
父の想いや、自分自身のプライドのためにも。
「・・・わかった、やろう!まずは明日届くものを確認してから考えよう!」
「その意気です。君とラウラなら、絶対に勝てますとも」
「当然だ。我々の絆魂を見せつけてやろう」
意気高く手を取り合って頷きあう三人。
明日に備えると言って自室へと戻る綾を見送り、シャルロットはひとり目を閉じる。
これまで培ってきた事。誰かを信じ、信じられてきた事。
これから歩んでいく未来の事。
関わってきた全ての人の姿を想う。
正しかったのか、誤っているのかはわからない。けど、進むしかない。
あの人が――更識 楯無が立ち塞がるなら、打ち倒さなければならない。
「・・・よし」
ぐっ、と待機状態のラファール・リヴァイヴIIを握りしめ、シャルロットは顔を上げた。
「やるぞ」
ひとりごち、自分も明日に備えて寝る準備を始めた。
ラウラは既に、歯磨きを終えて眠っていた。
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さらに翌日。
朝の10時過ぎた頃に大型のトレーラーにてシャルロット宛の輸送品が技術棟のIS倉庫へと運ばれてきた。
早速配達業者がクレーンでデュノア社のエリアへ配置している間、トレーラーから降り立った開発スタッフが、待ちかねていたシャルロット、綾、ラウラへと挨拶に来た。
開発スタッフというか。
「やぁシャルロット!お父さんだぞ!ビックリしただろう!」
「お、お父さん!?」
その上の立場である社長にして、シャルロットの実父、アルベールが驚くシャルロットへハグをする。
ぽかんとするラウラと、片手で頭を抱える綾。
「・・・隙あらばIS学園にやって来ますね、クソ親父・・・」
「おおリョウ!やはり手伝いに来てくれたのだな、我が義息よ!」
「誰が義息か」
もはや容赦もなく、軽く蹴飛ばすようなジェスチャーと共に前歯を見せつける綾。
面識の無かったラウラが誰だと問い、それがシャルロットの父であると知るなり両腰に手を置いて嘆息した。
「は~・・・遺伝子とは不思議なものだ。わたしとレオン(inじいさま)と違って全く似ていないな」
「はっは。シャルロットは母親似だからね。それより、君がラウラくんか。リョウの妹にしてシャルロットの同居人!加えてこんな可憐な少女であるとは、いやはやシャルロットは幸せ者だな!どうかな、君もリョウと同様、私を義父と呼んでいいのだぞ!」
「呼んだ覚えはありませんがね?」
「断る。わたしの義父はレオンだけだ」
「はっはっは!振られてしまったな!」
つれない綾とラウラの塩対応を気にした風もなく、豪快に笑うアルベール。
「社長、そろそろ・・・」
と、今度は本当の開発スタッフ達がアルベールに声をかける。
どうやら積み荷の降ろしが完了した様だ。
招かれるままコンテナの開封作業にかかる中、アルベールは横に並んだシャルロット達へと真面目な表情となり説明を開始する。
「我々デュノア社が目指していたのはISコアのツインドライブだ。ただでさえ絶対数の少ないISコアを二基同時に稼働させるという他社が手を出しにくい領域へのチャレンジだが、これをこなさなければISの発展にもつながらない。デュノア社の経営的にはかなり博打な部分もあったが、リョウが提供してくれたデータにより早くも完成を見た。後はテストのみだ」
「ツインドライブ・・・!?」
つまりは、一つのISに二つのコアを搭載する事により、武装の搭載枠の拡張や出力の大幅な向上を見込めるというわけである。
ISコア自体が相当な出力を誇っており、加えて未知の技術やブラックボックスが多いため、二つを繋げて動作させようにも暴発の危険性が高く、これまでツインドライブに成功した例は無かった。
それを完成させる事が出来たのは、豪の設計書のおかげではあるが、ひとえにデュノア社のスタッフ達の努力にもよる。
なにしろ危険を伴う研究である。
ここまでたどり着くにも神経を磨耗して眠れない者もいたであろう。
「今回、テストに使用するのはシャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムIIをベースに、追加のコアとして準備した我が社の新型ISコスモス、予てからシャルロットより要望のあった火力重視の武装、そしてカスタムパーツ各種を合成するという大改造となる」
溶接されたコンテナの開封作業が完了すると、発表されたばかりの新型ISと装甲の互換パーツや追加部品、新型スラスター。バスター・ランチャーの兄弟兵器であるバスター・キャノン、より大口径となったパイルバンカー、ミサイルコンテナといった武装が姿を現した。
「凄い!壮観だ!」
両手を合わせて目を輝かせる綾、対照的に冷静に戦力の分析を図るラウラ、口元を綻ばせるシャルロット。
その反応を満足気に確かめたアルベールは、開発スタッフへ設計図面を準備させつつ、シャルロットへと声をかける。
「ではシャルロット、ISを整備モードでコスモスの横に」
「うん」
ペンダント状の待機状態であったラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを実体化させて配置し、技術スタッフ達が手順書をダブルチェックしながら装甲を外し、ISコアを露出させていく。
「追加のコアをISごと持ってきたのは何故です?」
綾からの質問にアルベールは、
「念のためだな。計算上では問題ないが、コアの出力にラファールのフレームが耐え切れず破損した場合、コスモスのパーツで補強を行うためさ」
「新型を予備パーツ扱いですか。贅沢な事だ」
「なぁに、これはプロトタイプだからね。実際に展開させる機体は本社にある」
コスモスは、デュノア社がラファール・リヴァイヴに代わる新たな量産機として発表した機体である。
どちらかと言えば直線が多くシャープなデザインに、シャルロットの運用データから簡易化させた防御パッケージ、ガーデン・カーテンを通常装備。
打鉄のように質実剛健を地で行く、壊れにくい長く使える、というタイプではなく、どちらかといえば上級者がより高度な戦闘運用を行うために、動きのレスポンスの早さ、スラスターによる空中機動を向上させた機体である。
「既にコスモスは、IS学園へ30体納品する契約が締結している。上級生のエース達に使わせる予定なのだろう。これでシャルロットが更に功績を上げてくれれば、ツインドライブの発表を合わせてデュノア社の経営も立て直しがきく想定だ」
「そういう企業情報を話してしまって良いんですかねぇ」
「何を言うリョウ。私の中で君はデュノア社の開発主任も同然だ。ある程度の情報は喜んで伝えるとも。データ提供の礼もあるしね」
「外堀を埋めようとするのやめてくれませんかね・・・」
綾とアルベールが話している間に、コスモスから取り出されたISコアがラファールのコアへと接続された。
ISコアは薄い円形の宝石のような形状で、宇宙を彷彿とさせる独特な色合いをしており、それに胸当てのような制御パーツが取り付けられた形となっている。
それが腰部ユニットへ二基連結され、コンソールによる出力調整が行われ、起動される瞬間を今か今かと待ち侘びている。
「データ入力、構築完了。システムオールグリーン。疑似テスト問題無し。起動可能です」
「良し。ではシャルロット、君が起動ボタンを押すといい」
「ぼ、ボクでいいの?」
これまで開発してきた人達を差し置いて――という言葉を遮り、開発スタッフ陣はにこやかにシャルロットへ語り掛ける。
「我々の作った機体を使うのはあなたです。いわば、結婚式で新婦の手を引いて連れてくるのは父の役目。ここからは、この機体と添い遂げるあなたが手を引く番なのです」
「さすがどこかのクソ親父が経営する会社の方だ。言い回しがクサいですね」
「おまえが言うか」
綾の皮肉を混ぜ返して突っ込むラウラに緊張を解されながら、シャルロットはおずおずとスタッフに指示されるままに起動ボタンへと手を伸ばした。
「・・・目覚めて、新しいボクの力。生まれ変わったラファール!弱いボクがこれから先、何度でも、何度でも立ち上がっていくために!」
祈りを込めてボタンを押し込む。
少しの間をおいて、二つのコアは共鳴し合って甲高い起動音を発しながら出力を増していく。
その力強い鼓動はコンクリートの床を通して振動を伝え、ISマイスターである綾たちだけでなく、ISに関わる全ての人間の心を震わせる魅力に満ちていた。
「起動状態良好。安定性に問題無し、出力は想定していたパワーを超え、既にラファール・リヴァイヴやコスモスを大幅に上回っています」
「ふふ、とりあえずは成功といったところか」
冷や汗を拭うアルベールが大きく息を吐き、スタッフへそのままテストを続けるよう指示。
同様に溜息を吐くシャルロットの肩へ手を置いて、視線を合わせて頷き合う。
「これで、楯無さんに勝てるかな」
「ん?何の事だい?」
事情を知らないアルベールが聞くも、綾とラウラが彼を押しのけてシャルロットへと駆けよる方が早かった。
「いやぁ冷や冷やしましたよ。こういうパターンだと失敗するイメージしかありませんでしたからね!」
「戦闘中に気合と共に起動なんてナンセンスだからな。というか起動出来ない様ならそもそも試合になど出させんが」
「あはは、映画じゃないんだから。うちのスタッフを信じてよ」
そこはかとなくメタな会話をそこそこに、綾は気を取り直して、とばかりに武装関連へと視線を向けた。
「さて、それでは手伝いますか。本体はスタッフの方とシャロに任せますよ」
「機体の名前もつけてやらねばな。流石にラファール・リヴァイヴ・カスタムIIでは呼びにくい」
「そう?・・・そうかも。じゃあ・・・ラファール・リヴァイヴが疾風の再誕だから、この子は・・・」
少し思案したシャルロットは、さほど悩む事も無く生まれ変わった機体を命名した。
「フェニックス・リヴァイヴ(不死鳥の再誕)かな」
たとえ倒れ、力尽きたとしても何度でも立ち上がる。諦めないという決意の象徴。
そうありたいと願う、シャルロットの理想を込めた名前。
新たな力を得た愛機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムII改め、フェニックス・リヴァイヴへと手を伸ばし、シャルロットは嬉しそうに声をかけた。
「これからもよろしくね、フェニックス・リヴァイヴ」
名を呼ばれた機体は、まるで返事をするかのようにコアの出力を上げる。
「さあ、大変なのはこれからですよ、シャロ」
既にカタログスペックを把握した綾がバスター・キャノンへと手を付け始め、ラウラがミサイルポッドへと歩を向け、それぞれがコンソールとキーボードを操作する。
「日曜までに間に合わせて、可能ならわたしとコンビネーション訓練をしたいところだ。寝る暇も惜しいぞ」
「うんっ!頑張ろうね、みんな!」
笑顔と共に設計図へと目を通すシャルロットが、スタッフとディスカッションしながら機体のデータ収集と、構築プランを練り始める。
基本武装はラファール・リヴァイヴ・カスタムIIのまま新規装備を追加し、それでも余る拡張領域には継続戦闘を考慮して予備プロペラントタンク、空中機動性を向上させるためのウイングリフターと、姿勢制御安定性向上のための腰部バーニアユニット、パイルバンカーの大型化により反動負荷が上がる事を考慮して腕部フレームをコスモスのものへと交換、ガーデン・カーテンの防御力向上のため装甲板を増やし、耐ビームコーティングを施したうえで、エネルギーシールドの出力を向上。
全体的に重量は増加したものの、ツインコアドライブによる出力向上によりさしたる問題はない。
また、センサー強化による空間把握力の向上により、大勢を相手にする際にも当たり負けしないようターゲット選定システムを改良し、専用のバイザーを装備。
OSの大幅修正を施したうえで、鶴守 豪製作のコアを参考に耐ウイルス性能を強化。
ここまで完了し、一次移行を終了するまでに、既に時刻は土曜の夜となっていた。
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シャルロットとラウラへの負担を少しでも軽くするようにと殆ど寝ずに武装の調整を続けていた綾は、ほとんどフレームのみとなったコスモスに寄りかかって眠っており、スタッフとアルベールは撤収作業へと移行している。
「・・・ありがとうね、リョウ」
汚れた作業ツナギの袖を腰で結んで上半身タンクトップ一枚といういでたちの綾へ、慈愛の瞳を向けながらシャルロットは薄手の毛布をかけた。
フェニックス・リヴァイヴは以前と同様、ネックレス状に変化しており、変わった部分があるとすればオレンジ色のカラーリングにレッドのラインがデザインされた事か。
ともあれ、ISスーツを身に着けたシャルロットの胸の上で輝くそれをひと撫でしたところで、
「お待たせしましたわ」
「やほやほ~、しゃるるん!」
同様にISスーツを身に纏ったセシリアと、本音がやってきた。
これからラウラを含めて慣熟訓練を実施するため、模擬戦も兼ねて相手となってくれるというのだ。
「ごめんねセシリア、本音。無理言っちゃって」
「わたくしたちの間に謝る必要なんてありませんわ。貴女がやりたい事なら、わたくしが協力しない理由などありませんもの」
「相変わらず男前だなぁ、セシリア・・・ありがとね」
「ノブレス・オブリージュと言って頂きたいですわね」
笑い合うシャルロットへと本音がぴょこぴょこと近寄って、
「たーにゃんは強いよー!なんかやる気満々だしー!」
「うん、でも勝たなきゃね」
「よいよ~!わたしも頑張って協力するからね~!」
ふんす、と鼻を鳴らして両手に力を込める本音。
二人の協力を頼もしく思いながら、屈伸運動をしているラウラへと声をかける。
「ラウラ、準備はいい?」
「ああ、いつでもいいぞ」
ラウラもシャルロットも、かなり強行軍でフェニックスを仕上げた疲れを微塵も見せず、準備運動もそこそこにアリーナへと歩を向けた。
「むむっ!?娘の晴れ姿・・・!」
「それは明日です社長。いいからこっち手伝ってくださいよ」
「くぅっ!し、しかたあるまい・・・」
こっそりとついて行こうとして連れ戻されるアルベールであるが、その心中は明日のバトルについてはまるで心配をしていなかった。
何故なら、娘は愛されている。
ラウラやセシリア、本音という仲間がいて、綾がこんなになってまでIS開発に力を注いでくれた。
相手が国家代表という強敵であろうとも、きっと彼女達なら乗り越えていける。
経緯には問題があったものの、娘をIS学園へと入学させて本当に良かったと思う。
「頑張るのだぞ、シャルロット。お前の母もきっと見守っているさ」
呟いて、撤収作業へと戻るアルベールは、かつて愛した女性の面影を思い出しながらも、きっと心身ともにそれ以上の美しさを身に着けるであろう愛娘を想って微笑んだ。
別に謎の宇宙ガンダム生命体と対話をする予定は無い。