インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
夏の熱気に陽炎が立ち上るアスファルトの上を走る二台のバスに乗ったIS学園の生徒は、一路、海沿いの温泉宿へと向かう。
本来であれば自粛されるところであった課外授業、一年生のサマーレクリエーション。
五泊六日の小旅行ともいえるこの行事、海での自由時間もあるとの事で全員が全員テンション高く、水着を購入したりカメラを準備したり、菓子を山ほど買ったりと準備に余念が無かった。
もちろん、それは一夏と綾も同じくである。
海に行くという事が分かった瞬間、アロハとサングラスとボーダーショーツを買い揃え、前日から必死に腹筋を鍛え、夏のモテ男を演出しようと躍起になっていた。
実際にモテたい願望が強いわけではないが、やっぱりカッコはつけたい。男の子だもの。
なので一般的に夏にモテそうカッコよさそうなイメージといえば、サーファーである。
サーフボードも自前で購入しようとしたものの金額的に買えず、そもそもバスで持っていく手段が無いため現地でレンタルする事にした男二人は、他に足りないものを考えた結果、日焼けした方が格好良いのではと結論付け、日焼けサロンへ向かおうとしたところで千冬に取っつかまって説教を食らった。
「いいかお前達・・・自覚は無いかもしれんが、お前達は今や世界中から注目されている男性IS操者だ。あまり羽目を外し過ぎてこれ以上IS学園の評判を下げんようにな」
「フッ・・・千冬姉はわかっちゃいないぜ。この俺達の中で滾る、パッションってヤツを!」
「そうですとも、夏は男を変えるのです。海から照り返す陽の光を浴び、僕達は――」
変なスイッチが入った一夏と綾が言い切るよりも早く、千冬の鉄拳がそれぞれの頭上に突き刺さる。
インパクトの瞬間に拳先とコブを連続して撃ちつけるダブルインパクトの極みである。
そのまま顔面を床へめり込ませた二人のたんこぶを突きながら、こめかみに血管を浮かばせながら千冬は、
「くれぐれも。く・れ・ぐ・れ・も、節度を持った行動を心掛けろよガキども」
「「ぁぃ」」
物理的に釘を刺されて黙るしかないガキどもはしかし、それで心折れるタマではなかった。
バスの中で隣り合って座る一夏と綾は、サングラスにヘッドフォン、一夏に至っては肩にラジカセを抱え、綾は棒のついた飴を咥えながら足を組んでリズミカルに指を振っている。
もうモテ男というよりは単なる勘違いしたチーマーであった。
「えっと・・・どしたの、りょーちん、おりむー・・・?」
「Heyガール。気持ちは分かるがサインは後にしてくれ」
「アブない男と火遊びがしたいなら、もっとランクの低い男からステップアップしな」
「ふぁー・・・」
一体自分達の中でどのようなキャラが出来上がっているのか、むしろ心配して声掛けした本音に対してもこんな具合である。
夏は女を輝かせるというが、同時に男の脳細胞を破壊してしまうのかもしれない。
「何があったらこんなテンションになりますの・・・!」
頭痛をこらえて眉を寄せるセシリアにとっては、先日の失態を含めて男性としての綾の事で悩み続けた自分を少し後悔する程には直視しがたい光景である。
「せ、セシリアよ」
「なんですの箒さん」
隣に座る箒がくいくいと袖を引くのに雑に返事するセシリア。
すると箒はうっとりと頬を桜色に染めて、
「今日の一夏はなんだかアウトローで格好いいな。やはり夏は男を変えるのだろうか」
「アナタ、もはや一夏さんなら何でも良いのではなくて・・・?」
げんなりと返答したセシリアが「ではあれはどう思いますの?」と綾を指差すと、
「ん?ああ綾はどうでもいい」
「もはやサイコですわ・・・」
ある意味一夏に対して真っ直ぐで正直に向き合える箒が羨ましく思えなくもないが、流石にあれを受け入れるのはセシリアには難しかった。
一夏とふざけている時とセシリアと向かい合っている時とで全く違う、綾のギャップを理解するにはまだまだ時間がかかりそうである。
「おおっ!これは・・・もぐ、美味いな!おまえ実は天才か!」
「ちょ、褒めるのはいいけど全部食べないでよ!?一夏やシャルにも食べさせたいんだから!」
続いて、兄の道化姿には全く興味を示さずに、鈴が手作りしたゴマ団子をほふほふと食べていくラウラである。
バスの中でも食べられるよう、指でつまんで食べられるよう薄紙で包装された特製だ。
「あーもう、アンタがそんな食いしん坊キャラだとは思わなかったわよ。ほら口元汚れてる。拭くのが面倒ならこっち食べてなさいよ」
「ん。あむあむ」
何だかんだ言いつつ世話を焼いてくれる鈴が差し出した、最後までチョコたっぷりのプレッツェルを口に含んで咀嚼するラウラ。
ハムスターのように頬を膨らませて舌鼓を打つラウラを可笑しそうに笑いながら見つめる鈴。
ここに来てラウラの中で、鈴への好感度が爆上がりであった。
綾の妹となってからずっと、ラウラは甘い食べ物に目が無い。
これまで軍のレーションや非常食、酷い時はゴミを漁って食べていたラウラにとって、味を追求した食べ物はとても新鮮味のあるものだった。
入院時に綾が買ってきたケーキを筆頭に、シャルロットの焼き菓子や市販のクッキーなど、特に甘い菓子に価値を見出したラウラは知らないものを食べる喜びに目覚めた様子である。
その中でも、今日口にした鈴のゴマ団子は格別であった。
口溶け柔らかく、甘過ぎず、胡麻の風味が鼻腔を通り抜ける。
シャルロットの作る手作りの菓子がおふくろの味であるなら、鈴の作ったものは食べる人の喜びを追求した情熱の味なのである。
ごくりとプレッツェルを飲み込んだラウラは、目を輝かせながら鈴へとせがむ。
「鈴よ、おまえは凄いな!こんな美味しい菓子を食べたのは初めてだぞ!また何か作ったら食べさせてはくれないか!」
「そ、そんなに?しょ、しょーーーーがないわね!気が向いたら特別に、ま、まぁちゃちゃっと?作ってあげなくもないわ!」
「うむ!おまえはチョロくて可愛いな!」
「今なんつったアンタ!?」
楽しそうに会話を弾ませるラウラと鈴。ちょうど小柄なコンビである。
「わーっ!わーっ!まずいよ体力もう無い!簪ちゃん粉塵!粉塵お願い!」
「や、待って待って。これで・・・良し。尻尾切れた」
「ナーイス!あ、ヤッバ!ねぇ尻尾から宝玉落ちたんだけど凄くない!?」
「粉塵ーっ!」
後ろの席で携帯版の狩りに夢中になっているのは簪と取り巻きの二人である。
もうそろそろこの二人のプロフィールを公開させて頂くが、片方の名前はミーア・デイヴィス。
オーストラリアからの留学生でショートカットで亜麻色の髪、性格は健気で幸薄い。
専用機は無いが、正確な射撃と知識において評価が高い。
もう一人がインドからの留学生で、ダーシャ・ラメッシュ・カーン。
空気が読めるが読まない、勢い重視の性格で、ふかふかのセミロングの黒髪をもつ。
ミーア同様専用機は持たないが、ハンドアックスを主体とした接近戦は侮れない。
二人とも、オタク趣味の簪に合わせてくれる貴重な友人であり、プライベートでもかなり仲の良い姿がよく見受けられる。
時折、女性大浴場にて三人肩を並べて湯につかり、揃ってアニソンを歌ってたりもする。
綾と一夏と本音、箒とセシリア、鈴とラウラ、簪・ミーア・ダーシャ、他女生徒が皆和気あいあいとおしゃべりに花を咲かせる中、シャルロットだけが唯一人、どこか暗い表情で窓際にて佇んでいた。
綾の気持ちが分からない。セシリアの葛藤も理解出来ない。
あれほどの献身や優しさを向けてくれた綾への疑念が募って、頭の中をぐるぐると渦巻く。
ちらりと視線を向けても、自分の事などまるで意識の中に無いように振る舞っている綾が遠く感じ、セシリアについては、彼女自身が意図していなくとも綾の事を一番理解し、その本質を見抜いている事を、シャルロットは分かっていた。
それは、自分には出来なかった事だ。
綾の言葉を信じ、彼の口にした理想を自分に当て嵌めて、彼のためになればと努力してきたつもりであった。
けれど。
「誰かのため、と誰かのせい、は紙一重、か・・・」
果たしてそこに自分という選択肢を含めてきただろうか。
シャルロットの悲しみと想いを知ってか知らずか、バスはひた走る。
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「「海だーーーーーーーっっ!!!」」
照りつける太陽。白い雲。灼けた砂浜。むせる様な熱気。
これこそが夏、と言わんばかりの海沿いの光景に、フレアビキニにツインテールのラウラと着ぐるみの様な全身を覆う水着の本音が、寄せては帰る波へ向け、両手をあげて叫んだ。
「海だぜ、相棒」
「海ですね、マイバディ」
広がるパラソル。魅惑の生足。強調されるおっぱい。日焼けしたへそ。
それこそが夏、と言わんばかりの水着美女たちの群れに、海パン姿にサングラスとパーカーの一夏と綾が、キメ顔で囁き合った。
「今、浜辺の女達がみんな俺達に釘付けになる・・・」
「今日という日は伝説になりますね・・・」
そんなニヒルっぽく呟く男二人を後ろから眺めつつ、醒めた表情で鈴が声をかけた。
「どーでもいいけど、アンタらそのダッサイ格好で海行くわけ?正気?」
隣でうんうんと頷くセシリア。
しかしそんな罵倒もどこ吹く風、斜め四十五度の角度で振り向いたダッサイ格好の二人は白く輝く歯を見せつけるように笑った。
「分かってないな、鈴。これこそが夏のトレ・・・ん、ど・・・」
「今に分かりますとも、僕らの魅力に気付くのが遅く・・・て、も・・・」
「?なんですの?」
「な、なによ急に黙って?」
振り返って気付く、鈴とセシリアの水着姿。
スレンダーで小柄な鈴は赤い花柄のビキニ。
アンダーは黒いインナーがV字を描くように腰骨をなぞり、チューブトップのトップの中からも、肩紐のようにインナーが伸び、活発な彼女にはよく似合う。
隣に並ぶセシリアは、同様にビキニであるものの装いが違う。
ブルーのオルテガ柄のオフショルビキニに白のハット、白いレースのパレオ。
良く引き締まった脚がスラリと伸び、健康的な美しさが映える。
分かっていないと言った一夏と綾が、逆に彼女たちの魅力に気付かされて押し黙った形である。
「い、いやその・・・な?」
「よ、よくお似合いですよ・・・ええ・・・」
ずり落ちたサングラスをかけなおして狼狽を隠す男どもに疑問符を浮かべながら、鈴はちょうどやってきた簪一行に声をかける。
「あ、ちょうどいいわ。おーい簪!ミーア、ダーシャ!こいつらの格好どう思うー?」
呼ばれてとてとてと近づいてくる簪、ミーア、ダーシャの仲良し三人組。
彼女達の水着もモノキニにパーカー、タンキニ、ラッシュガードとバリエーション豊かである。
一応カッコイイ(と本人達は思っている)ポーズで出迎えた一夏と綾をしげしげと眺め、三人は顔を合わせて感想を述べた。
「くそださい。0点」
「なんかこわい。10点?」
「センスふっる。マイナス100点」
「「馬鹿な!!!」」
ショックに崩れ落ちる、くそださくてなんかこわくてセンスふるい一夏と綾。
気にせずビーチボールとイルカの浮き輪を手にして駆けていく三人娘を指差しながら、鈴は憐れむような顔で一夏達の傍でしゃがみこんだ。
「・・・ほら、ね?」
「そんな・・・俺達の今までは何だったんだ・・・」
「結局サーフボードもレンタル全部借りられてて・・・僕らは一体、何をしに来たんだ・・・」
「んあ?なに、サーフィンしたかったの?」
別にサーフィンがしたかったのではなく、サーファーを気取った自分に酔いたかっただけなのであるが。
それを聞いた鈴はちょっと顔をにやつかせながら、落ち込む一夏の肩をちょちょんとつつく。
「じゃあもうしょーがないわね。今日はアタシと一緒に遊びましょうよ。ちゃーんと慰めてあげるから、ね?」
「り、鈴・・・!」
醜態を演じていたにも関わらず捧げられた救いの手に、一夏の顔がほころぶ。
一夏が伸ばした手が鈴の指先へ触れようとしたその時、遠くからサンダルが飛来して鈴の頭へとぽこんと直撃した。
「あ痛った!?」
「あらいい音」
それを見守っていたセシリアが感想を述べるのを無視し、誰の仕業かと周囲を見渡せば、物陰からポニーテールを揺らしつつ、箒がこちらを睨んでいる事に気付く。
「抜け駆けはゆるさんぞ鈴音・・・!」
「何すんのよ乳モップ!・・・って、アンタなに隠れてんの?」
思わずサンダルを投げ返そうとした鈴が思いとどまると、箒は恥ずかしそうに縮こまる。
もじもじとする箒が頭一個だけ飛び出しているようなシュールな光景であるが、セシリアは仕方なさそうに溜息を吐いた。
「箒さん、アナタまだ恥ずかしがってるの?」
「だって、水着だぞ!?こんな露出の高い格好で外に出るなんて、はっ、破廉恥だ!」
「そんな事言い出したらISスーツだって似たようなものでしょうに・・・」
この期に及んで尻込みする箒へつかつかと近づくと、セシリアは力一杯にその手を引っ張る。
「な、何をするセシリア!?離せ、一夏に見られてしまう!破廉恥な私の姿を!」
「見せるために水着を選んで買って着て来たのでしょう?観念なさいな」
「や、やめろっ!うわぁーっ!!」
抵抗むなしく、ずっこけるのを堪えながらその姿を現した箒を見て、一夏が、鈴が、そして綾が目を見張る。
ライム色のホルターネックビキニに、ショートスカートをあしらえたデザイン。
何といっても目につくのがその巨乳。
サイズ調整がきくゆえのホルターネックなのだろうが、脇からはみ出る程のサイズに彼らは思わず声を揃えた。
「「「でっか!!!」」」
「で、でかくないっ!普通だっ!」
必死に否定しようとするも難しい箒が胸を隠すように両手をクロスさせるも、今度はセシリアが後ろから押してくるのにバランスを崩しかける。
「やっ、やめっ、セシリアっ!いまサンダル片方ないからっ!こ、こけるっ!」
「でしたら抵抗なさらず一夏さんと遊んでらっしゃいませー」
面倒そうに言いながら押し込まれた箒が片足でけんけんするのを見て、思わず駆け寄って支える一夏。
「おっ、と!だ、大丈夫か、箒?」
「あ、あわわわわわわ・・・!」
鈴から受け取ったサンダルを膝まづいて履かせると、熱したヤカンのように湯気をたてる箒は逃げ出したい衝動と必死に戦い続けているのが見てとれる。
「な、なんてプロペラントタンク装備してんのよ、あの乳モップ・・・!」
戦慄する鈴。無理もない。
普段から乳モップ乳モップと呼んでいても、こうして生に近い格好でお披露目されたのは初めてだったのだから。
「おっぱい・・・すげぇ・・・」
おっぱい好きの綾など既に目がおっぱいである。
そんな四つん這いでまじまじと眺める綾の尻を思い切り叩くのはセシリアだ。
「痛゛っっ!!」
「あらごめんあそばせ?ちょうど叩きやすい位置に惨めなお尻があったものですから」
「な、何ですかセラ。もしかして妬い・・・あだだだだだだだだ!!!」
今度は綾の背中に逆向けに馬乗りし、両手でケツを何度も叩くセシリア。
「本当に叩きやすいですわね!ドラムに転職なさったらどうかしら!」
「そんな趣味はありませんから!大丈夫です、セラだって何年かしたらあのくらい・・・」
「大きなお世話ですわっ!!」
「痛゛っぎゃあああっ!せ、背中はやめてください!背中は!」
新体操の按摩のように向きを変えて、セシリアが綾の背中に赤い紅葉を咲かせる。
セシリアとて胸は標準以上にある。具体的にはDだ。
それすら霞むようなビッグバンを誇る箒と比べられれば、癪に障るのは仕方ない。
「こうなったらもう、なりふり構ってらんないわねっ!」
「お、おいっ!鈴っ!?」
恥ずかしがる箒と良いムードになられてはたまらない。
鈴は一夏の手を引いて海へと駆けだした。
「まっ、待て鈴音!」
「アンタはせいぜい部屋で引きこもってなさいよ!アタシは一夏と遊んでくるから!」
「く、このっ!貴様だけには負けんぞ!うおぉおーーーーっ!!」
羞恥心を振り切って、その後を追う箒。
お馬さんごっこ状態のセシリアと綾が通り過ぎていく箒を見送ると、セシリアはバシバシと綾の背中を叩いた。
「ほらパトリシア!わたくし達も負けてられませんわよ!」
「痛い痛い!何で雌馬っぽい名前なんですか!」
文句を言いつつも、綾はセシリアの両脚に手を絡めて立ち上がる。
「うひゃあっ!?」
「行きますよ、セラっ!」
セシリアをおんぶして走り出す綾。
ふざけていたためあまり見ていなかったが、その強靭な背筋と大きな背中にどきりとするセシリアは、綾の顔からサングラスを取り外して頭の上へと差し替えた。
裸眼を晒す綾の顔に新鮮な気持ちになりながら、ついつい頬を緩めてしまう。
「それ、外してる方が男前ですわよっ!」
「そりゃ残念です!用意した甲斐がありませんでした!」
綾の走る足元がアスファルトからコンクリート、砂浜へと変わる。
帽子を飛ばされない様片手で支えながら、セシリアは水際で待つラウラ達へと手を振った。
「遅いぞ綾、セシリア!」
「りょーちん!セラちー!はやくはやくーっ!」
「今行きますわーっ!」
鈴と一夏を追い越し、勢いよく波へと着地した綾は、今度はセシリアを肩車に持ち替えてくるくると回る。
「きゃあああっ!あははははははっ!!あぶないっ!あぶないですわーーーーっ!!」
「大丈夫、すっ転んでも濡れるだけですよ!」
「おおっ!面白そうだな!綾、次はわたしにもやってくれ!」
「ああっずるーい!わたしもわたしもー!」
一緒に走る鈴と一夏は、そんな彼らを見て二ッと笑い、
「よぉし!やっちまえ鈴!」
「おっけー!!どーーーーん!!」
綾の背中にしがみつくように飛び掛かる鈴。その後ろから更に飛び掛かる一夏。
「うおぉわぁ!!」
「きゃーーーっ!!」
結果、顔面から海へダイブする羽目になった綾と、後ろへ重心を崩して一夏の背中をクッションにするセシリア。
そのままごろんと転がって海に落ちたセシリアは、同じくずぶ濡れの鈴に向かって手を振り上げた。
「やりましたわね、このっ!」
「わぶっ!なにすんのよっ、えいっ!」
「とぅっ!」
バシャバシャと水をかけあう中、助走をつけた箒が間に割り込むように飛び込んでくる。
バシャーン、と派手な音を立てて水しぶきが舞い、クラゲの様に視線だけ海から出した箒は不敵に笑う。
「ふっふっふ・・・水に入ってさえしまえばこっちのものだ。くらえ低身長貧乳!!」
「やったわね乳モップのくせにっ!くらえっ!くらえっ!」
「ぬっ!わたしも混ぜろ!どーん!」
「どーん!!」
ラウラ、本音と続いて飛び込んで、もはや誰が誰に水をかけているのか分からない。
更に海中から海坊主のように飛び出てきた綾と一夏にターゲットを移して水をかける女子。
ただの水かけ遊び、それがきっと、この先忘れられない思い出となっていくのだろう。
波打ち際でIS学園一年生のエース達が戯れ、やまない笑い声が響く。
いつのまにか波にさらわれた綾と一夏のサングラスは、砂浜の上で太陽に照らされ輝いていた。
それから、夕日が登り始めるまで綾たちは遊び続けた。
簪たちとビーチバレーに興じたり、鈴と箒がスイカ割りで一騎打ちをしたり。
綾とセシリアは遊泳可能エリアの端まで泳ぎ勝負を行い、勝利を掴んだのはセシリアで。
体脂肪率が少ないため身体が浮かないのが悪いと言い訳する綾に、焼きそばを奢らせて満悦なセシリアお嬢様である。
ふと、自然な動作でセシリアの口の端についた青のりを指ですくって口に含んだ綾が無意識に自分がやった事を恥ずかしがって転がり、セシリアは帽子を深く被って赤くなった顔を隠す。
「―――ほんっと、信じられませんわ!なんてデリカシーのない!」
「あのままだとセラが青のり星人のままになってしまうから気遣ったんでしょう?」
「青のり星人で結構ですわ!まったく、まったくまったくもう!よく衆人環視の中、あんなことが出来ますわね!」
「貴女以外にこんな事しませんよ、馬鹿ですか!」
「わたくしだってあなた以外にあんな事されたら怒りでどうにかなりますわ!」
「「・・・・・・・・・っ!!」」
このように、口喧嘩をしては自爆し合って赤く染まる初々しい二人である。
傍から見ればイチャついたカップルにしか見えない。というかイチャついたカップルだこれ。
後はもう一夏達と合流するまでに海を歩きながらムードあげてキスして終了、とでもなりそうな雰囲気であったが。
そこへ、これまで姿を現さなかった水着姿のシャルロットが、売店の陰からひょこりと顔を出した。
「あっ・・・」
「おや、シャロ」
「どこに行ってましたの?せっかく皆で遊んでましたのに」
一応探したものの見つからず、スマホへ連絡をしても繋がらなかったシャルロットへ声をかけるも、彼女はどこか気まずそうに綾とセシリアを交互に見る。
「・・・また、一緒にいるんだね」
「何の因果なんですかね」
「あなたがわたくしに気のある素振りを見せるからシャルロットが不機嫌なんですのよ?」
「僕のせいみたいに言いますね?今日一番楽しそうにしていたのはどこのどなたで?」
「少なくともわたくしの目の前にいますわね。例えば、女の子を肩車した感想はいかが?」
「・・・すごい良かったです」
「・・・そ、そうなの。そう・・・」
もはやわざとやってるのではないかというくらい自爆芸に磨きがかかっている二人を見て、きゅっと唇を噛みしめたシャルロットは、勢いよく綾の手を取った。
「シャロ?」
「ごめんセシリア。リョウ借りるね」
「え、ええ、よくってよ」
悲し気な瞳に、今にも壊れそうな様子を感じ取ったセシリアは、反射的にそう答え、手を引かれていく綾の後姿を見送る。
ちくり、と胸の奥が痛む。
「・・・また、ですわ」
あの日、綾が自分から離れていった時と同じ寂しさ。
自分でさえこうなのだ。ならば、普段から綾を想っている事が明け透けなシャルロットには、彼の傍にいられない時間がどれほどに辛いのだろう。
「もう、あまり一緒にいない方がいいのかしら」
友人であるシャルロットのためにも。
そう呟くと、自分の言葉に立っていられないほどの眩暈を感じるセシリア。
一緒にいない。綾が。
それを想像しただけで、目の前が真っ暗になる。
驚きに息を荒くし、じわりと溢れる涙が視界をぼやけさせた。
「・・・ああ、そうなのね。そんな事を考えられないくらい、手遅れだったの」
もはや認めざるを得なかった。
売店のベンチへと腰かけ、天をあおぐセシリアは追憶する。
最悪の第一印象から始まり、憎悪を向け、歪んだ想いを打ち砕かれ。
ヴァイオリンとピアノで語り合い、これまでの態度を謝る自分を笑い飛ばし、わたくしは、わたくしのままで魅力的だと言ってくれた、あの時から。
普段のじゃれ合いを経て、共に戦い、再戦を約束し、助け合い、声を重ね、自分のまま進化したわたくしを褒めてと交わした約束を律儀に果たしてくれた事。
そして、同じ時を過ごし、笑い合い、離れ、抱きしめ合い、重ねた唇。
浴衣を着たうなじが良いと言われた事、今日、こうして海で遊んだ事。
はじめて、綾に勝負で勝った事。
口喧嘩して、仲直りして、それを繰り返してきた事。
その全てが、特別。
「お母様、お父様。わたくし、恋をしましたわ」
一人たたずむセシリアは、この気持ちを恋と定め、切なさを胸にしてゆっくりと目を閉じた。
きっと、彼が迎えに来ると信じ、ベンチで待ち続ける事にして。
こんなリア充くさい青春送った高校生が何人いるってよ。
てか綾とセシリアはイチャイチャしすぎて腹立ちますね!(←書いた奴)