インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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篠ノ之 束、満を持して

一日目は夏の思い出作りを兼ねての海でのレクリエーションタイムとなったが、二日目はIS学園ならではの教育が行われる。

海上でのIS操作、普段より長距離からの射撃訓練、超高高度への飛翔訓練など、やるべきことは盛り沢山である。

 

それを乗り越えるための一環として、もちろん朝食は欠かせない。

大広間に集まる生徒達の朝餉に出されたのは白米、魚の塩焼き、生卵、納豆、サラダ、味噌汁。

茶碗に大盛によそわれたご飯の山に、かき混ぜてねばつかせた納豆を注いだラウラは、それを一口咀嚼すると感嘆の吐息を鼻からふきだした。

「うぬっ!臭いしねばついてるし何だこれはと思ったが、美味しいものだな!これは醤油に魚のダシが入っているのか。なんとも味な真似をしてくれるではないか」

「おや、納豆いける口ですか。さすがラウラ、日本への適応力が高い」

「いや、これは素直に日本食が美味しいのだ。フランクフルトやソーセージはドイツの方が美味いが、やはり日本、食文化の追及だけは一流だな」

勢いよく掻き込み、よく噛んで飲み込むラウラを微笑ましく見守る綾。

気のせいか少し背も高くなってきているように感じなくもない。

 

これまで大した食事を採ってこなかった事もあるが、ラウラは育ちざかりに必要な栄養が足りなかったために背が小さい。

現在はそれを取り戻すかのようによく食べ、よく運動し、よく寝ている。

あまり意識してこなかった、美味しいという感覚に喜びを感じているというのもあるのだろう。

 

「あら、本当。慣れれば意外といけますわね」

セシリアも訝し気に納豆ご飯を口にし、二、三口であっさりと適応して箸を進める。

二人とも、海外生まれのわりに箸の使い方が上手である。

 

さておき、そんなセシリアの様子を、周りの生徒は珍しいものでも見るかのような眼差しを投げかけていた。

特段、セシリア自身に変わった部分は無い。

変わっているのは、座布団と朝食の台を綾のものにぴったりと寄せ、まるで腕を組んでいるかのようにこれまた身体をぴったりと寄せつけて食事を進めているためである。

首を傾げる様に頭を綾の左肩に預けているも、そんなセシリアのスキンシップに抵抗せず普段通りに自分の朝食を食べている綾の姿が、その違和感を加速させていた。

 

「え、あれどういうこと?オルコットさん、めちゃくちゃ鶴守くんに甘えてない?」

「甘えるっていうか・・・イチャついてる?」

「ま、ま、まさか、あの二人、付き合って・・・!?」

「オラアアア!我々夢女子派の勝利じゃーーーい!!」

「ま、まだだ!まだ終わらんよ!まだ織斑くんとの二股の可能性が残っている!我ら腐女子派に敗北など無い!」

 

どうやら女子内でも派閥があるようで、様々な憶測と暗躍がある様子である。

女子だらけの学園で男子数が圧倒的に少ない環境だと、逆に手を出しづらいのは女子の方なのだ。

むしろ大半は手を出さずに遠巻きから見ているだけのところを、何の躊躇もなくセシリアがそのラインを飛び越えた事は、嫉妬よりも尊敬に値する行為に等しい。

「焼き魚も美味しいわ。やはり海沿いだと新鮮さが違いますのね。はむ」

「まぁ塩振って焼くだけならセラにでも出来そうですしね。はむ」

「失礼ですわね、これでも料理は練習中でしてよ?毎日一夏さんに手料理を振る舞われているあなたとは既に技術面での格が違いますわ。天と地でしてよ。あむ」

「甘く見ないで貰いたい。どこの誰とも知れぬ者の料理ならいざ知らず、あの一夏が僕の専属シェフなのですから。見ているだけでもそのスキルは僕の中に浸透しておりますとも。あむ」

「そこまで言うなら勝負ですわ。今度、お弁当を持参し合って、どちらが美味しいか食べ比べしてみるというのはいかが?もぐ」

「いいでしょう、どんな勝負だろうと負けてやるつもりはありません。何故世間的に専業主夫というものが成り立つのか知ると良い。もぐ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・たのしみにしてるから」」

 

お互いの朝食台に乗ったアジの開きをほぐし、お互いの口に放り込み合いながら口論し、その結論に照れるという謎ムーブを繰り広げた綾とセシリアに、一部女子生徒が鼻血を噴出して倒れ込んだ。

「エッッッッッッモ!!なによそれエッモ!エモすぎない!?エモエモのエモだエモ!?」

「落ち着け語尾がおかしくなってるエモ!いやしかし、あたし夢女子やっててよかった・・・!やはりあたしの選んだ道は間違ってなかったエモ!」

「お互いがツンツンした後にデレデレする事によるハーモニーの破壊力・・・こんな可能性があったなんて、新しい発見だエモ」

「綴らねば(ポエム)」

「書きとめねば(ダイヤリー)」

概ね好評なようで何よりである。

 

一方その頃、死にそうな顔をしているのはシャルロットだ。

夜なべして泣き腫らした瞼とどんよりと暗いテンションに、流石に心配になる鈴。

「ど、どしたのシャル?あんた大丈夫?」

「ボクの気持ち、わかる?鈴・・・好きな人に告白してフられて、その後すぐ他の娘と付き合われて、相手がセシリアだからまだ納得できるけど、飲んだくれてラウラに愚痴ってたら千冬先生に怒られたあげくに顔の合わせづらい綾にまで怒られたボクの気持ちが・・・」

「・・・気まず過ぎてゲロ吐きそうね」

納豆をかき混ぜずに一粒一粒箸で食べるシャルロットの背中を叩いて慰める鈴。

その生い立ちもそうであるが、なんとも幸薄い少女である。

「あー、でも察したわ。それで本音もこんな感じなワケね」

「う゛ぅー・・・わたしなんか告白もしてないのに終わったよぅ・・・」

シャルロットの横でどんよりオーラを出しているのは本音だ。

既に綾とセシリアの様子から、彼らが付き合い始めた事を知って落ち込んでいる。

 

それを慰めるでもなく、簪は眼鏡をきらりと輝かせて件の二人をみつめ、

「なるほど・・・エモい」

と、夢女子派の彼女も妄想を膨らませているのだった。

 

「なんだかリョウとセシリア、いつもより仲よさげだな?まぁ夏だし海だし、浮かれてんのかもな」

「あんたはちょっと黙ってなさい」

そして流石の鈍感さを誇るミスターニブチン・一夏が無遠慮にそう言うのを、鈴は地獄突きで黙らせる。

「ゴフっ!?」

「な、何をするか鈴音!せっかくわたしがセシリア達の真似をして一夏に魚を食べさせようとしてたのに!」

「そりゃ一石二鳥ね!あんたの唾がついた箸じゃ折角の美味しい魚も台無しよ!」

「何だと貴様、小学生みたいな煽り文句をよくも!」

「悔しかったらあたしより美味しい料理作ってみなさいっての!」

むせ返る一夏を挟んで立ちあがり、火花を散らす箒と鈴には、エモいという言葉はまったく縁遠い。

一夏を巡った幼馴染同士の激突はまだまだ続きそうである。

 

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朝食後、生徒達は山田先生の引率の元、海辺のIS訓練場へとバスで向かう。

ただし、綾、一夏、箒、ラウラの四人は、千冬から別件があるとの事で、別途人気のない岩場へと連れ出されていた。

先導する千冬へISスーツを身に纏ったままついていく四人は、結局何の用なのかと疑問を口にすると、千冬は重々しそうに口を開いた。

 

「・・・束が来る」

「えっ・・・!?」

 

言葉少なに結論だけ先に言われ、心の準備もなく驚きの声をあげる箒と、眉を寄せる綾。

「今日、突然に連絡があった。とっておきのサプライズがあるとか何とか」

「束さんが・・・」

「あの人は、本当にいつも勝手な・・・」

 

篠ノ之 束。

箒の実姉にしてインフィニット・ストラトス開発者。

天才的頭脳を持つ科学者であり、世界で唯一ISコアを製作出来る、ある意味ISの存在が世界のパワーバランスを左右するこの時代において、まさに中心といえる人物。

しかし、本当のところはISを開発したのは綾の祖父・豪であり、束は豪が開発したコアを盗み出し、原初のIS・白騎士を製作し世界へとその存在を知らしめた。

その白騎士のマイスターこそが千冬であり、今も尚その際の事件に心を痛めている。

 

綾はそっと耳を指でつまむと、通話の繋がった祖父へと状況を報告するために、わざわざ口に出して現状を整理した。ラウラもそれに倣う。

「篠ノ之 束がここに来る、ですか。また急な話だ。いったい何の用なんでしょうね」

「さてな。あいつは天才だが、それゆえに何を考えているのか分からん。なにしろ、気分次第でISコアの増産を打ち切って行方をくらませた奴だ」

ISコアの絶対数は1200前後とされており、もっとその数を増やすべきとする各国の要請に背いて、束はある日唐突に、面倒になったからと姿を消した。

現在も世界中から行方を捜索されており、その身柄を確保するために箒は両親と引き離され、こうしてIS学園の監視下にいる。

(昔からそういう奴だ。相変わらずのようだな)

綾と千冬の会話を聞いて事態を把握した豪が、鶴守兄妹のみに聞こえる通信で呟く。

豪は、綾とラウラへ特殊な通信用ナノマシンを投与しており、これにより誰にも知られる事無く榛名山の秘密研究所にいる豪と通話が可能となっている。

こうして豪と話が出来る事を知っているのは他にセシリア、シャルロットのみであり、千冬は勿論の事、一夏や箒もそれを知らない。

 

織斑 千冬に気をつけろという豪の言葉―――すなわち、千冬の意識無意識に関わらず、彼女を通して豪たちの行動や考えが束に筒抜けになる事を危惧していたからだ。

 

ラウラとて、敬愛する千冬を騙すような真似はしたくない。

それでも可能性は否定できず、また、ラウラの中での優先度として綾と豪を最優先で守るべきという図式が立っていた事もあり黙秘を通している。

「それで?こんな岩場に本当にやってくるのですか?まさか空から飛んでくるわけでもあるまいし」

綾がおどけた風に言うと、それはどうかな、と千冬が答えるよりも早く、上空から風を切るような音がラウラの耳に届く。

それは戦場で耳にした事のある人工災害の予兆。

 

「!この音、ミサイルか!?―――ガーベラ!!」

 

判断が早いか、ISシュヴァルツェア・ガーベラを身に纏い、綾達を庇うように飛行してバリアフィールドを展開し、音の聞こえる方角へとセンサーを働かせてハンドガンを放つ。

その銃弾の向かう先から、さながら人参をかたどったかのような弾丸が落下してくるのが視野に入る。

その大きさは、さながら人間一人が中に入れそうなサイズである。

初弾を外すと踏んでいたラウラは焦る事無く、背部スラスターを前面に回してビームキャノンを発射するも、茎の部分に相当するバーニアにてジグザグと光線を回避され、舌を打ったラウラはそのまま突進してバリアフィールドで弾丸を受け止めた。

そのまま冷静にハンドガンを乱射。

直径30mmのセラミック弾を受けた弾丸は爆発するような事はなかったものの、ひゅるるると回転して吹き飛んでいき、やがて体操選手が着地するかのように、不自然な挙動で縦向きに岩場へと着地した。

 

「何だあれは・・・ダメージが無いのか?」

「ご苦労ラウラ。お手柄だ」

呆ける一夏と箒をよそに、茶化すようにラウラを褒めやった千冬は、落下した人参型の弾丸を指差すと、それが中心から二つに割れ、中から一人の女性が飛び出してくるのが確認できた。

 

「やっほー、ちーちゃん!おひさしぶりだね~!」

ばっと勢いよく飛び出てくる、エプロンドレス姿の女性。

彼女こそが篠ノ之 束である。

 

髪色は明るく、頭上にはウサギを象った機械仕掛けのカチューシャを乗せており、とろんと垂れた瞳は吊り上がった箒の瞳との血縁をあまり感じさせない。

ラウラに吹っ飛ばされた事は蚊程にも気にしていないのか、凄まじい速度で千冬へと駆けよると、千冬は抱き着こうと飛び跳ねた束の顔を即座にアイアンクローで出迎えた。

「久しぶりだな、束。来る時はあらかじめ連絡を寄越せと言っているだろう」

「え~、来る前にしたじゃなーい。そんな事より~まずは再会のハグしようよ、ハグ~!」

「するか気色悪い。私が言っているのは二、三日前から連絡を寄越せという意味だ」

本人達からすれば馴染みのあるやり取りなのだろうが、それを知らない人間からすればただただ呆けるばかりで、本当に空からやってきた束に度肝を抜かれた綾と、ISを解除して着地したラウラが不審物を見る目でその様子を眺める。

「あれが篠ノ之 束ですか。僕の中では悪女のようなイメージだったんですが、驚きましたね。箒同様、すごいおっぱいだ」

(気を抜くなよ。あれでしたたかな女だ、常に気を許した相手の油断した隙を狙ってくる)

実感がこもっていると説得力が違うなと頭の中で思い、しばらくは様子見とする綾。

 

「あっ!いっくんだ~!おひさしぶり~!」

「ど、どうも・・・」

そして、これまで無言で静観していた一夏が――単に言葉を失っていただけだが、束の挨拶に頬を引くつかせながら手をあげて応える。

つつつ、と近づいて彼の顔を覗き見た束は、まるでテストの点を伺う母親の様に聞く。

「ね、どうだったかな束さんからのプレゼント。白式、うまく使えてる?」

「え、あれって束さんが寄越してくれたんですか?」

ブレスレットと化した旧・白式である白狼を掲げる一夏。

千冬からは倉持技研で作られた機体としか聞いていなかったため、その送り元が束である事は知らず。

だとすると、箒の赤雷も同様の経緯で束から送られたものと思われるが。

既に白式としての外観は雪片弐型くらいにしか残っていないとも言い辛く、それ以上は何と言おうか言い淀んだ一夏であったが、幸いにも束の興味は妹である箒へと移った。

 

「そしてそして、箒ちゃん~!ひっさしぶりぃ、元気だったかな~?」

「姉さん、ISを開発したのが姉さんではないというのは事実なのか?」

抱きしめようとする束を無表情でかわした箒は、挨拶を挟むことなく本題に触れる。

思わず目をぱちくりとさせた束は、意外そうな顔で千冬へと視線を向け、自分に向けられる疑惑の眼差しから目を逸らしてまた箒へと向き直った。

「・・・箒ちゃん?それ、どこで聞いたのかな?」

「そこにいる私の友人、鶴守 豪の孫である綾からだ」

箒に指を差された綾へかったるそうに視線を向ける束。

それを受け、綾はうやうやしく腰を折って礼をした。

 

「ご紹介に預かりました、豪の愚孫である鶴守 綾と申します。束さんのお噂はかねがね」

「妹のラウラ・ボーデヴィッヒ・鶴守だ」

続けて名乗るラウラ。

その二人を交互にみやると、束はどこか懐かしそうに声をあげた。

 

「あーっ、思い出したっ、ごーちゃんの孫かー!それでそれで、そっちはレオレオによく似てる!なっつかしー!こんなおっきくなっちゃったんだー!」

「・・・僕の事をご存じで?」

「だってきみが人工培養で産まれるのを手伝ったのは何を隠そう、この束さんだからねー」

意外な接点に驚きを隠せない綾。

聞いていないと心の中で毒づくと、それを読み取ったかのように豪が補足する。

(ある程度は束のペースに合わせてやるためだ。想定外は素直に驚かせてやるために黙っていた。お前はポーカーフェイスが上手すぎるから逆に警戒されかねん)

頭だけで納得する綾。

この分だと話されていない事はまだまだありそうである。

 

「父のレオンもご存じなのですね。という事は、母も?」

「そうだよー。あの頃はしょっちゅうごーちゃんとこで色々やらせてもらってたからねー。束さんも天才だけど先立つものが無ければ好き勝手研究も出来ないので、いわゆるバイト感覚でごーちゃんの研究を手伝ってたんだ~」

小遣いもやってたのかと思いながら「そうだったのですね」と答える綾。

(多少うちの機材を分けてやったり、月100万程で雇っていた。何といっても優秀だったのでな)

(正社員以上の待遇じゃないですか、クソ爺)

思わず心中で毒づく綾であったが、過去に想いを馳せる束へ詰め寄るのは箒だ。

「そんな話はいい。どうなんだ、姉さん」

「なにが~?」

「ISは姉さんが作ったのではないのか、という話だ!」

微妙にはぐらかしているようにも見える束に食って掛かる箒であるが、綾はなるほどと思う。

こうやって相手のペースを崩して自分有利の会話に持っていくのかと悟ったのだ。

束はよしよしと宥める様に箒の頭を撫でやる。

「そうそう、その話ねー。ISはわたしが開発したんだよ?コアはごーちゃんの作ったものを参考にしてるけどね~」

束の手を払いのける箒は一夏に肩を叩かれて一旦引き下がるも、特に気にした風もなく束は答えた。

 

「ごーちゃんが作ったのは、宇宙開発を主軸としたインフィニット・アストロノーツ。わたしが作ったのは、戦闘及び防衛を目的としたインフィニット・ストラトス。コアは共通だけど、用途が全然違うんだよね~」

 

悪びれもなく答える束。

「実際、役に立ったと思うんだよね。白騎士事件の時も、わたしがISを開発してなかったら大災害になっちゃったわけだし。ごーちゃんのIAじゃ武装が無いから無理無理だったんじゃないかなー」

言葉を失う箒と一夏であるが、綾は思考を止めずに追求する。

「お爺様の製作したコアを貴女が持ち去ったと聞いていますが?」

「盗んだつもりはないよ~。ちょっと参考にしようとして、返すの忘れてたんだ~。それは束さんも悪かったかなーって思ってて。あれ?白式と赤雷にごーちゃんのコア積んでたのって気付いてる?」

「ええ、先日の調査で発覚したそうです」

「そっかそっか~。なんだかいっくんと箒ちゃんに専用機用意したいな~って考えてるときに、掃除してたら出てきたんだよね~。コア作るのもちょっと手間だったから、そのまま搭載しちゃったわけです」

それが素であるのか、まるで挑発するような物言いをする束。

コアを作成するのが手間、といった部分に箒が激昂しかけるも、どうにか一夏が抑える。

しかし、綾はあくまで冷静に、ペースに合わせても呑まれない様努めて続けた。

「何かしらの片手間で白式と赤雷を製作した事は把握していました。整備性の高い赤雷はともかく、白式についてはあの程度の性能で全力を注いだと言われても、失笑ものですからね」

「・・・は?」

気に障ったのか、低い声で綾を見据える束。

一瞬にして雰囲気を変えた彼女にたじろぐ一夏と箒であるが、綾は顔色を変えずに言う。

「僕はお爺様からISの技術を叩きこまれています。それは操縦だけでなく、開発・整備についても同様。故に、欠陥だらけの白式は僕がこの手で改造して改善してしまいました」

「・・・いっくん、ちょっと白式みせてくれる?」

「え、ちょっと!」

一夏の了解を得る前に待機状態の白狼を引き寄せ、手持ちのデバイスと接続してステータスを確認する束。

その性能値の向上や、束が搭載したある機能が削除されている事を驚くよりも、束は外観と内部フレームの一部確認すると息を呑んだ。

 

「―――白虎・・・!?うそ、だって、まだ・・・!?」

 

それは鶴守 豪が設計した4つの機体のうち1つである白虎――綾の母である愛奈がヴィヴァルディと名付けた機体と、細部は違っているものの大まかなデザインがよく似ていたのである。

「ええ、祖父の残した図面を参考に改修を施しました。まだまだ本家には及ばないものの、別機体を改造したにしては良く出来たと自負しています」

らしくもなく動揺を見せる束を少し離れて見る千冬は、そんな様子に自覚なく微笑む。

こんな幼馴染の顔を見るのはいつ以来だろうか。

 

「OSごと変えて、ボディの形状を流線形にして空気抵抗を下げて、拡張領域を広げてバーニアを追加・・・ふぅん、わたしが面倒でやらなかった部分を全部やってくれたんだー」

高をくくっていた様子であった束だが、詳細を見てしまっては確かな技術力を認めざるをえない。

「そうですね、痒いところに手を伸ばして差し上げた気分です」

 

「けど、想定してた紅椿(あかつばき)との連携機能を削除しちゃったのはどういう事かな?」

 

垂れた瞼の奥から眼力を発する束の問いに、綾は両手を挙げて首を捻る。

「紅椿とは何でしょう?イチゴの品種か何かですかね?」

「これ」

おどける綾を無視し束がぱちんと指を鳴らすと、またも上空から何かが飛来する音が届く。

迎撃しようとするラウラを制した綾が音の正体が現れるのを待つと、勢いよく落下してきた三角錐を二つ合わせたような物体が、地表近くで急静止。

そのまま手を振った束に応える様に、推は粒子へと分解されていき、中から赤い塗装のISが姿を現した。

赤雷をそのまま進化させたようなデザイン、蝙蝠型のウイングと、粒子翼を発生させる四門の背部スラスター、二本の刀。

眩い輝きを放つその紅の機体を目の当たりにし、一夏と箒は驚きを禁じ得ない。

千冬もまた、綾のアマデウスを目にした時と同じく、見ただけで分かる高性能に表情を引き締める。

しかしそれを製作したであろう束は、どこか不機嫌そうに解説する。

 

「これ、箒ちゃんのために作った紅椿って機体なんだよね。いっくんの白式との連携を前提にしてあって、エネルギーを消失させる白式と対となる、エネルギーを増幅させて補給すら可能な、束さん謹製の第四世代型」

 

「第四世代・・・やはりそこまで足を踏み入れていたか」

千冬の言葉に大した事なさげに頷く束は、眠そうな顔から表情を消して説明を続ける。

ある意味ISの完成系ともいえる、整備性・量産性・拡張性にて高い水準を誇る第二世代、そこへ各機毎に特殊能力を付与し単体での性能を向上させる事を目指したのが第三世代。

第四世代とは、未だどの国でも実装が実現できていない――むしろ、実現など不可能とされている、武装変更無しであらゆる分野でイニシアティブを取れる万能機という発想である。

ある意味では、その領域にあるISは現在の所アマデウスとシュヴァルツェア・ガーベラが該当するが、分類上は第三世代機と区分けされている。

 

「各部に施した展開装甲と、衝撃波を飛ばせる二本の武器で場所も距離も選ばずに使える超万能機として作ったんだけどねー。一番の要だった白式との連携が出来ないんじゃ、なんか作った甲斐もないかなー」

もともとの想定としては、燃費が悪いが攻撃力の高い白式を紅椿が補佐・補給しつつの継続戦闘を行う運用を考えていたのだが。

はぁ、と小さく溜息を吐いて箒を見やる束。

「なんかちょっと計算狂っちゃったけど、箒ちゃん。使いたかったら使っていいよー。性能だけは束さん折り紙付きだからねー」

「必要ない」

ぎゅ、とリストアンクルと化した赤雷を握る箒は、

「私は赤雷があれば十分だ。これも姉さんが製作したというなら捨ててしまいたい気持ちだが、これで戦って、理解して、育んだ絆もある。これを捨ててまたあなたの人形として振り回されるのは御免だ」

束が何かしらの意志があってISを開発し、家族を投げうってでも成し遂げたい事があるのならまだ許そう。

だが、それが他者からの盗用で作ったものをあたかも自分の手柄として世に広めている束の在り方は、箒には到底許せるものではなかった。

それが家族と引き離され、途方もない孤独を味わった箒には、猶更。

 

「・・・嫌われちゃったね。悲しいなぁ」

ほんの少し、寂しそうに笑う束は紅椿を残し、乗ってきた人参型の弾丸へと歩を向ける。

そんな束へと、綾は背中から声をかけた。

「一つだけ答えて頂きたい。何故、ISを女性しか使えない様設定しているのです?」

すると束は振り返る事無く、どうでもよさげに回答する。

「なんでだっけ。忘れちゃった」

「おい束。紅椿はどうするんだ」

「テキトーに使っていいよ。もう興味なくなっちゃった」

千冬からの言葉にもすげなく、束は来た時と同様、人参へと乗り込んで割れた装甲を元に戻すと、どういう原理かふわりと浮遊したそれは束を抱したままあっという間に大空へと消えていった。

 

去り際に、上空から綾を守る様に前へ出たラウラを眺めて、

「やりづらいなぁ。どうしても自分とクーちゃんと重ねちゃうよね」

そう呟き、また。

「会えて嬉しかったよ、綾ちゃん。こんな挨拶の仕方しかできなくて・・・ごめんね?」

慈しむような優しい響きはどこへ届く事もなく、束を内包した弾丸は根城へと向かう。

 

恐らく、重力操作の一環であろうと予測する綾であるが、それにしたってあの速度に耐えられる人間などいるものなのかという疑念も募る。

ともあれ、束とのファーストコンタクトを果たした綾は、大した手応えを感じる事が出来ずに肩を落とした。

「・・・こんなものでしょうかね、お爺様」

(肝心な事を最初から聞けるとは思っておらん。少なくとも、どんな形であれ奴に覚えられたのなら上々だろう)

「いっその事あの場で殺してしまうのは駄目だったのか?」

小声で話す綾と、物騒な提案をするラウラ。

(デンジャラスな孫娘だ。それが最速の解決策だと思うか?だが駄目だ、まだ我々は奴の真意を知らん。見極めが必要だ)

「見極め?篠ノ之 束は敵ではないのか?」

(敵さ、おれにとってはな。だが、その裏にもっと厄介な敵が潜んでいる可能性も否定できん。束を殺しても、また次の束が現われかねん。それこそおれのようにな)

「難しいな」

「それを乗り越えるための僕達家族ですよ」

 

一夏たちが束を見送っている隙に豪との会話を済ました綾は、緊張の糸が切れたようにへたり込んだ箒の肩を叩き、彼女を一夏に任せる様アイコンタクトし、了解を得る。

「大丈夫か、箒・・・束さん、何か変わったな。態度は昔と同じだったけど、冷たい感じがしたっていうか」

「・・・違うんだ、一夏。姉はもともとあんな二面性を持っている。自分にとって興味のあるものには手厚く、逆に興味のないもの、興味を失ったものには冷淡だ」

「二面性・・・」

「私とて、いつ姉の興味の範囲外となるかわからん」

 

そんな事はないだろう、と言いかけた一夏であったが、思いとどまる。

いつか箒に言われた、デリケートな部分によく知らない自分が踏み込むのは友人とて許されない場合があると。

きっと今がその時なのだろう。自分の知らない束の姿を妹の箒はきっとずっと知っている。

それを自分の感じ方だけで語るのは、いけない事なのだ。

無言で最大限気を遣って箒を立たせた一夏に成長を感じる千冬であったが、目下の問題となった紅椿を見て頭を悩ませる。

「さて、どうしたものかな・・・」

世界中のIS企業が第三世代の開発・運用に躍起となっているところへ、いきなり机上の空論たる第四世代をポンと置いて行かれては、困るなどというレベルの問題ではない。

下手をすれば、高性能すぎる紅椿を巡っての戦火があがってしまっても不思議ではない。

かといって無所属である千冬が引き取って専用機にしてしまえば、ただでさえ強力な使い手であるブリュンヒルデが第四世代機を所有するという過剰戦力の保有として、IS学園を良く思わない派閥からの攻撃を受ける可能性も捨てきれない。

どうすべきかと思案する千冬。

 

と、そこへ。

 

物陰でぴくりと何かが蠢いた気配を感じた千冬が、馴染みのある感覚である事を察して手近にあった石を拾い、気配の方角へと放り投げると、「ぎゃわんっ!」という悲鳴が響く。

何事かと構えた綾、一夏、ラウラ、箒がそちらを見ると、石が直撃したであろう頭をさすりながら、所在なさげに姿を見せる小さな姿。

 

ピンク色のISスーツを身に着けた、凰 鈴音が、おずおずとツインテールを揺らして立ち上がった。

「あっはは、ど、どうもー・・・」

「鈴!?おまえ、どうしてここに?」

「や、だってさ、みんなバスに乗って行くのにアンタらだけどっか行っちゃうのが見えたからさ?なんとなーく、後をつけようかなってバスからこう・・・ひょい、っと」

「走行中のバスから飛び降りて来たのか・・・馬鹿なのか・・・?」

頭を抱えた千冬が携帯端末を見ると、山田先生から鈴が行方不明になったとメッセージが届いているのに気付く。

何度か電話もかかってきていた様子であるが、束と対面するためマナーに設定していたので気付かなかったのである。

 

てへへ、と笑う鈴をどう処罰してやろうかと思いを巡らせ始めた千冬であったが、そこへ綾がおもむろに手を叩いて鈴へと視線を向ける。

「そうだ。ちょうどいいところへ来ましたね凰さん。いやぁ貴女が考え無しの馬鹿で良かった!僕の想定を超える馬鹿は一夏くらいだと思ってましたが、いやいや、これは貴女への評価を改めざるを得ない」

「はぁ?ちょっとツルモリ、それ褒めてんの?けなしてんの?」

「もちろん褒めてるんですよ。いやぁ貴女は運がいい、話は聞いていましたか?」

「ま、まぁ・・・バッチリ・・・箒の姉さんが降ってきて、実はISコア作ったのが篠ノ之 束じゃないとか、第四世代機を置いてっちゃった事とか、全部見て聞いちゃった」

「こ、この低身長貧乳は・・・!」

申し訳なさげに視線を彷徨わせる鈴であったが、そうだろうと思っていた綾はうんうんと頷き、その小さな肩を無遠慮に叩く。

「はっはっは。でしたら話は早い。これで貴女も我々の共犯となったわけですね」

「共犯ん!?やっぱ聞いちゃマズい系のハナシだったのね!?いやーッ!来なきゃ良かったー!」

千冬に切り刻まれて焼いて食われるイメージに身体を震わせる鈴であったが、綾はにこやかに紅椿を指差して、提案する。

 

「凰さん、これ使ってください」

「・・・・・・・・・・・・・・。へ?」

「おい鶴守!?」

 

涙目になっていた鈴が目を見開き、千冬が制止する。

そんな事をすれば、鈴が出所不明の第四世代機を持つ重要参考人として世界から追われ、自国である中国政府からも呼び戻しを受ける事になるだろう。

そして箒と同じように、束と接触した者として家族と引き離され、長い尋問の日々を送る羽目になるかもしれない。

しかし綾は、名案を思い付いたとばかりに早速紅椿のデータの取得にかかり、唖然とする一夏と箒へと声をかける。

「手伝ってください、一夏、箒。あとラウラ、凰さんのISを準備させて下さい」

「ぬ?よくわからんが了解だ」

「ちょっとー!説明しなさいよー!」

ラウラに手を引かれながら抗議する鈴。

どういう事か聞きたいのは千冬も同じで、綾へと説明を要求するような眼差しを向ける。

 

「千冬先生はこの第四世代機が世に知られて混乱に陥るのを防ぎたいとお考えでしょう。ならばいっその事、この機体を第三世代レベルまでデチューンしてしまえばいい。凰さんの甲龍とミキシングして、IS学園の技術を導入させた甲龍の改造機として公表すれば問題ありません」

 

それを聞いた千冬はふむ、としばし考え込み、

「・・・現状それしかないか。やってみろ鶴守。ISチャイナには私から説明しておく」

「お願いします」

言うが早いか、携帯端末からIS学園を通して中国へと説明にかかる千冬。

状況の理解に脳が追い付かない鈴は、きょろきょろと綾と千冬とラウラを見やって、最終的に一夏へと助けを求めるように視線を送る。

「い、一夏?これ大丈夫なのよね?あたし殺されたりしないわよね?」

「だ、大丈夫だ鈴!俺だってリョウに白式を改造してもらった事あるし、今度もきっとなんとかなるさ!」

「そ、そうよね!そうよね!」

安心させるように、いまいち信憑性の薄い理屈を展開させる一夏に、自己暗示をかけるように頷く鈴。

箒といえばぼそりと、

「・・・何故私が嫌いな姉と嫌いな鈴音の機体を弄るのを手伝わねばならんのだ」

「ちょっとコラ!乳モップ!」

思わず詰め寄る鈴であったが、箒は仕方なさそうに溜息を吐き、

「・・・ま、貴様がいないと張り合いがないのもまた事実だ。私の姉が迷惑をかけたという負い目もある。一度コンビを組んだよしみで今回だけは貸しにしておいてやろう」

「お、おぉよ・・・」

照れくさそうに唇を尖らせながら綾に指示をあおぐ箒に、意外そうにする鈴。

 

そんな二人をみてにこりと笑った一夏は、気合を入れなおすかのように腕を回し、

「よっし、まず何すればいい、リョウ!何でも言ってくれよ!」

「旅館から僕の工具箱と、ついでにツナギを持ってきてください」

「おう!任せろ!」

返事するやいなや駆けだす一夏。

待機モードで紅椿の横に設置された甲龍のデータを見て考えを巡らせる綾。

赤雷を纏い、紅椿から武装の解除を行う箒。

綾へ甲龍のデータ補足を行う鈴。

甲龍の武装と鈴との相性について首を捻るラウラ。

入学時と同様、仲間たちとISをいじる綾の姿に、本当にISが好きなのだなと笑い、千冬は宿へと戻っていった。

 

 

ある程度の構想を経て、改造プランをあっという間に書き上げたツナギ姿の綾は、鈴をはじめとして一夏、箒、ラウラと説明を行った。

「まずこの機体を第四世代たらしめる構造、展開装甲と無段階移行(シームレスシフト)を取っ払います。展開装甲は僕のアマデウスのトルキッシュ・マーチにも搭載されている機能ですが、ISの装甲に付与するにはオーバースペックが過ぎる」

宙に浮いたCGの肩部装甲及び脚部装甲の図面にバツ印をつけつつ、空いた中身に通常のスラスターと追加装甲を組み込む様注意書きを施す。

 

「ウイングと背部スラスターは紅椿のものをそのまま流用します。次に武装についてですが、凰さん、実はあなた、二刀での戦闘が苦手だったりしませんか?」

以前、クラス対抗戦にて箒と戦闘していた際の映像を思い出しながら綾は問う。

箒と比べるのもおかしい話であるが、赤雷と接近戦でかち合っていた時の甲龍の動きがどことなくぎこちないのが印象に残ったからだ。

「・・・あー、実はそうなのよね。両手で剣振るのって意外と難しくてさ。どうせ両手使うなら槍とか、薙刀みたいな方がやりやすいかも」

二刀での戦闘で箒に完敗を喫した事を思い出しながら言う鈴。

素直に箒の技量を認めているというのもあるが、甲龍はそもそも鈴に合わせて作られた機体ではない。

渡された兵器をどうにかやりくりしているのが鈴の現状である。

 

「あともう一つ。射撃は得意ですか?」

これもまた、綾がタッグマッチにて戦闘した際の経験から思った事だ。

狙いは悪くない筈なのに、思ったところと違う箇所へ着弾しているのではと表情から読み取れていた。

「苦手寄りの苦手よ。甲龍って肩から龍咆撃つじゃない?あれがまた当てにくくってさ」

「それであのくらいの命中精度があるならやはり才能面と努力面で高く評価できます。だが、このままだと成長が遅く、他のIS使いから実力的に引き離される可能性が否めない」

「むぐっ・・・悔しいけど、そうね」

苦心して会得した甲龍の操作技術を褒められて否定されてと、どのような感情になればいいのか分からず戸惑う鈴。

ふむふむと頷く一夏と黙って聞いている箒、そうなのではないかと綾に提言していたラウラが見守る中、綾は甲龍側の図面をずいっと紅椿の図面の横へと配置し、

 

「そこで、こうです」

 

甲龍の腕パーツを紅椿の腕部へとスライドさせ、更に肩部の龍咆をも腕部へと持ってくる。

「何それ、手から龍咆撃つようにすんの?」

「ええ、そうする事でゼロ距離戦での格闘も可能となり、威力も命中精度も上がります。もともと龍咆は中国拳法でいうところの気の練り方を参考にして作られた武器だ。つまりISを通して発勁といった技術を発現させる事も出来る」

「「「おぉー・・・」」」

一夏、箒、ラウラが一斉に感嘆の声をあげる。

 

ISでの拳や蹴りを使った戦闘は、操縦者への負担が高いため使用出来る者が限られる。

アマデウスや、以前ラウラが戦闘したイーリスのファング・クエイクなどもそうであるが、あれは極限まで鍛えられた人間の五体があって初めて可能となる芸当だ。

その点で綾は、鈴に不足はないと判断していた。

細く小さな体格でありながら、素手や木製の薙刀であの箒と渡り合うテクニックとスタミナ、千冬からの鉄拳を受けても平然としているタフネス。

それがISでも再現できれば、箒の赤雷のような達人級の動きも不可能ではない。

 

「つまり、紅椿が有していた万能性も捨てます。そのスピードとほぼ無尽蔵のエネルギーを利用して超接近戦用の機体として仕上げる。近~中距離の格闘戦では槍を使用し、ゼロ距離ではそれを手放して徒手空拳。距離が開いた際は、龍咆での牽制や防御に徹します」

「「「おおぉ~!」」」

 

一夏、箒、ラウラのISが持つ接近戦用とはまた違う戦い方の提案にまたも声があがる。

鈴もまた、自分に最適に合わせようとする綾の考えに、わくわくとした気持ちを抑えられずに笑顔を浮かべていた。

ちまちま考えて戦うよりも、直感を信じて相手の懐へと飛び込む方が性に合っている。

それに、本来の得物である槍での戦闘ならば、箒の二刀にも負ける気がしない。

「いいじゃない!それで行きましょ!」

「納得頂けて何よりです。では機体のミキシングを始めますか。紅椿はどうやら箒の赤雷のコアを移植する予定だったのか搭載されてませんので、武装及び機体の融合は甲龍のコアと僕らのISコアを使う事にしましょう」

 

特別な設備もないのに綾がミキシングを提案できたのは、ISコアにて量子化して再構築させる事で、3Dプリンタのようにある程度好きな形に部品を精製する事が出来るからだ。

とはいえ、何でも出来るというわけではない。

分解して再構築するための粒子量、エネルギー、素材、それらを正しく組み上げるための設計図面。

それらを計算してようやく完成を見る、時間と発想との戦いなのである。

 

「武装の精製や龍咆の腕部への融合は、ツインコアを搭載したシャロのISが到着してからにしましょう。その方が出力が高く複雑な処理が可能だ。図面の作成は僕がやりますので、ラウラは一夏と箒と共にパーツ精製をお願いします」

「承知した。フェニックス・リヴァイヴの時にナレッジは頭に叩き込んである」

「大仕事だな、腕が鳴るぜ!」

「綾よ、残った紅椿の刀はどうするのだ?」

早速作業に取り掛かる一夏とラウラ。

箒は、先程外した紅椿の二本の太刀と脇差、雨月(あまづき)と空裂(からわれ)を指差すと、特に考え込まずに綾から提案を出された。

「君が使ったらどうです?」

「・・・しかし、これは姉さんの」

「それを言ったら赤雷だって同じでは?誰が作ったかなんて問題じゃない、武器は武器です。もし篠ノ之 束に娘がいたとして、その娘を嫌うのは筋が違うでしょう?そういう事です」

「・・・・・・」

言われてみれば真っ当な意見である。

箒が紅椿を受領しなかった事を綾は理解した。

嫌いな人間から施しの様に何かを与えられるなど、気分が悪いのは当たり前だ。

しかし赤雷は事情を知らずに受領しており、使っているうちに愛着が湧いたため捨てるつもりはない。

また、この二刀についても、厳密には束から受け取ったのではなく、紅椿を正式に運用する事となった鈴音が不要としたものである。

取捨されたものにゴミも汚物もない。

いつか綾がそう言った言葉を思い出し、箒はゆっくりと頷いた。

 

「分かった。これは私が拾おう。私以外に使いこなせる者もいないだろうし、現在使用している量産刀より頑丈で強力のようだからな」

 

束からの贈り物ではなく、皆を守るための剣として。

箒は自らのISへ二本の刀を登録し、格納した。

 

改造作業は夜遅くまで続き、途中から手伝いに来たセシリア、シャルロットを交え、完成する頃には三日が過ぎているのであった。

 




紅椿は犠牲となったのだ・・・鈴の強化、その犠牲にな・・・。

あと束がラスボスで書いてたつもりだったのにこの話書いててあれ?って思い始めた。

この天災おねえさん、悪い人じゃないのでは・・・。
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