インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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ロード・エンシェント・ドラゴン

「行くわよ、道老龍(タオラオロン)!!」

 

完成した機体の一次移行(ファーストシフト)を完了し、処女飛行を行う鈴。

勢いを増して風を切り、空を断ち、ロケットの様に一直線に成層圏まで辿り着く。

そのあまりのスピードに思わずたじろぐのは、それまで最速を誇っていたIS使いである一夏とセシリアである。

「すっげぇ・・・!なんて速さだ!」

「速さだけではありませんわ、空気の流れを取り込んで更に加速へと変換させ、安定感すら増している・・・!とてつもない機体構造の完成度ですわ」

そのまま直線、曲線と模様を描くかのように大空を駆け抜け、海上まで急速で落下し、その水面の間近で急停止を行う。

鈴がISを扱うセンスに長けているのはもちろん、基礎的な部分をきっちり仕上げているゆえの制動である。

「凄い!いい感じだね、鈴!」

この数日でどうにか立ち直ったシャルロットが手を振って鈴へと声をかけると、鈴は照れくさそうに笑ってピースサインを作った。

 

その機体名を道老龍(タオラオロン)。

 

IS紅椿を母体とし、IS甲龍(シェンロン)をミキシングさせたマゼンタカラーの凰 鈴音専用機。

高出力のウイング及びスラスターは紅椿のものをそのまま使用し、基本武装である二刀の刀は排除。

強靭な装甲はそのままに、加速力を格段に上げた高性能機である。

甲龍の空気圧縮砲台・龍咆を腕部装甲に組み込み、膝部と爪先部と踵部に近接戦用のブレードを装着、背中に三本の長槍。

長槍は槍纓のついたシンプルなつくりで、刃となる穂先は長く厚く鋭く強度のある合金製。

かの李氏八極拳の創始者であり神槍と謳われた李 書文が使用していたものと同じ、扱いの難しい、しなりのある槍である。

柔軟ゆえ長期戦において破損率が高いと思われるため、予備として複数本準備されてある。

各所に取り付けられたブレードは攻撃力向上よりも、肉体への負担を軽減する役割を担っている。

「しかし綾、名前のタオラオロンってさ、なんかカッコよくねぇな。おじいちゃん龍みたいな。もっと他にあったんじゃねぇの?」

一夏の言葉に、名前つけたの僕じゃないんだけどなと思いつつ綾は名付け親である鈴の顔を立てる意味でもフォローに回る。

「タオとは桃と同じ読み方です。本来道はダオと読みますが、カラーリングと我が道を往くのダブルミーニングとしているわけですね」

「ふーん」

「あと一夏、君は勘違いをしている。道老龍を英語読みすると、ロード・エンシェント・ドラゴンですよ」

「なんだそれカッケぇ!!!」

思わずはしゃぎだす男の子、一夏。

 

男子はいくつになってもドラゴンという響きが大好きである。

加えてエンシェントドラゴンともなれば、その神秘的な響きも相まってネーミングの輝きも増すというものである。

しかもロード。

この場合は道のロードであるが、盟主のロードという意味合いにも取れ、なれば道老龍とは、古龍の盟主と読み替えても良いだろう。

 

「すげぇ・・・深読みすればするほどカッコいいぜ、タオラオロン・・・!」

「想像以上に喜んで頂けてなによりですとも」

感動のあまり涙すら流す一夏を良かったねぇとさておき、綾はモニタリングを続けながら箒へと声をかける。

「箒、凰さんの相手をしてもらえますか」

「うむ、承知した」

模擬戦の要請を受けて赤雷を纏い、鈴の眼前へと飛行していく箒。

すらりと装備したての雨月、空裂という二刀を抜刀して構える箒の赤雷に、鈴は応じる様に背中から長槍・打神鞭(だしんべん)を抜き放つ。

 

「やっとあの時の雪辱を晴らせるわ、乳モップ!」

「それはどうかな。言葉ではなく刃で語れ、低身長貧乳!」

 

にやりと笑い合い、初手を放つのは道老龍。

両断するかのように縦へと振り下ろされた槍をひらりと躱し、懐へ飛び込もうとバーニアをふかす赤雷を、反動で跳ね返った槍先が打ちつける。

「っ!!」

ギリギリのところを刀で防いだものの、槍の攻撃は止まらずに、そこから顔面への突きへと変化。

「ぐぅっ!」

ヘッドギア越しに強烈な衝撃が走り、脳を揺さぶられた隙を逃さずに鈴は連続突き、横薙ぎ、回し蹴りから反動をつけた槍の一振りと遠心力を加えた攻撃で箒を圧倒する。

「くっ・・・!柔らかな槍と甘く見ていた!こんな自在な動きが出来るのか!」

「固い槍も嫌いじゃないんだけど!タイマン張るならこういう槍の方が強いのよね!」

 

槍とは、中国武術において最古にして最強の武具であるとされている。

呂布が使ったとされる方天画戟や、関羽が使ったという青龍偃月刀といった高名な槍が代表的なイメージとして先に立つが、本来であればそんな豪華絢爛な装飾などは必要ない。

柔らかな物干し竿の先端に刃物がついていればそれで充分、戦える。

しなる棒は曲がる事で遠心力を生み、先端の刃の威力を上げる。

たとえ刃に触れなくとも、勢いの付いた槍の一撃は脳髄を揺らし、骨を砕く。

更に先端がぶれる事により防ぐことも難しく、剣よりもリーチが長く、縦に構える事で防御にも使える。

さながら鞭と剣、双方の利点を兼ね備えた武器、それが槍である。

もちろん、使いこなすには全身の力をバランスよく配分出来るよう訓練しなければ、遠心力をもった槍に逆に振り回されてしまうだろうが、使いこなされた槍ほど脅威的な接近戦用兵装もない。

下手に掻い潜って懐に飛び込もうとすれば、最低でも三発は急所を突かれる事を覚悟しなければならないだろう。

そして、箒にはこのような武器との戦闘経験はなく、鈴は槍のスペシャリストとして中国にて鍛え上げてきたのだ。

 

「ようやくISでの槍さばきにも慣れて来たわ!こっからが本番よ!」

 

防戦一方の箒へ向けて、槍突の速度が増していく。

自由自在に横、上下、斜め、正面から襲い来る攻撃の勢いは、重く、破壊力だけの青龍刀の時とはまるで違う。

さながら別人を相手しているかのような錯覚に、箒は急激にバリアを減らされながら武人として心から感嘆した。

「強いな、鈴音・・・!正直侮っていた、中国武術、恐るべしだ!」

「分かって貰えて嬉しいわ箒!そしたら次はこれでどう!?」

両手で長い槍をまるでバトンの様に回転させ、極限まで遠心力を活かした槍の旋風が勢いよく赤雷のバリアを削っていく。

あまりに芸術的な動きに綾やセシリア、ラウラでさえ呆けた吐息を漏らす。

 

「ISでここまでの動きを再現しますか・・・僕の想像以上に、彼女は天才ですね」

「接近されたら一巻の終わり。なれどあの速度と装甲の厚さでは攻略は困難。リョウ、あなたとんでもない相手を作り出しましたわね!IS同士の一対一ならあの機体は世界最強と言っていいですわ!」

「こうなるとショットガンやビームの様に槍で防げない攻撃をするか、あの槍自体を破壊するかしかないな。距離を取ろうとしてもあのスピードでは直ぐに追い付かれる。しかも、槍を攻略したところでまだ道老龍には奥の手がある」

 

防ぎきれないと踏んだ箒が片手の空裂を振り上げると、刃の形をしたエネルギー波が放出されて道老龍へと飛び掛かる。

それを回避した事によりバランスを崩して槍の回転を止めた鈴に対し、素早く雨月で突きを放ちながら接近する箒。

雨月の刺突攻撃はレーザー射撃にもなるため、槍の物理防御では防げない、そのためまたも回避に専念する鈴。

本当なら武器の性能に頼っての攻略などしたくはなかったが、未熟な自分を恥じる他ない箒がついに刀の射程圏内へと足を踏み入れると、勝ちを確信した箒の刀が挟み切る様に両脇から襲い来る。

 

「吻ッ!!」

 

迷わず槍を手放した鈴は襲い来る刀の腹を両腕で下から押し上げ、刃先を跳ね上げながら前へと踏み込む。

「なん、だと・・・!?」

強制的に万歳をさせられるように両方の刀の持ち手を戻され、驚愕に焦る箒が体勢を戻すよりも早く、鈴の左拳が鎖骨あたりの装甲を叩き、更に一歩踏み出した右の掌底が箒の鳩尾へと添えられ、

 

「覇ッ!!」

 

短いストロークから掌を押し出された瞬間、腕を囲うように装備された龍咆改・乾坤圏(けんこんけん)が圧縮された空気を放出し、箒の外部よりも内部を貫く。

「かはっ・・・!」

 

劈拳、その変化形。

形意拳の技の一つであり、ほんの小さな動作に見えて、打撃、打ち下ろし、掌底の三動作を呼吸するように放つ、五行拳の一。

 

ずどん、という低い音と共に撃ち込まれた気の奔流に意識を飛ばされた箒をそのまま片手で支え、鈴は最後まで油断する事のなかった緊張感を吐息と共にほぐし、上へと投げ飛ばしていた槍が降ってくるのをもう片側の手でキャッチした。

 

「これで一勝一敗。次は初見殺しじゃない、フェアな立ち位置で勝ってやるんだから」

 

いつかの戦闘で、箒の技量を知らずに挑んだ時の事を思い出しながら、鈴は皮肉を込めて笑う。

 

「あんがと、箒。あたしってやっぱ強いわ」

「・・・今日は言わせておいてやろう。次は負けん」

 

ISを解除されたものの、鈴に担がれながらすぐに意識を取り戻した箒がうっすらと目を開いて答える。

不敵に笑い返す鈴がゆっくりと浮遊し岩場へと戻ってくるのを、思わず拍手で迎える一夏。

「すっげぇな鈴!さすがロード・エンシェント・ドラゴン!かっけぇぜ!」

「ロード・・・?ま、まぁもっと褒めてくれたっていいわよ!なんたってアタシ、褒められて伸びるタイプだからね!」

「やはりチョロ可愛いやつだな。おまえもわたしの嫁になるか?」

「なるかっ!!」

天然っぷりを発揮するラウラへ八重歯を剥く鈴に笑う一夏。

そして、鈴に抱えられていた箒はセシリアに肩を貸されながら、むせ返りつつも視線を鈴へと向け、

「・・・完敗だった。機体性能だけではなく、技術でも負けた感じだ。私もまだまだだな」

「そうですわね。わたくしも燃えてきましたわ」

悔しそうに呟く箒だが、その顔には負けた事による焦燥は無い。

ただ、次に戦う時にどう立ち回るかを考える、一人の剣士としての顔がそこにはあった。

そしてセシリアも、何だかんだと文句を言いつつも負けず嫌いで常に高みを目指す女であり、いつか鈴と戦う時まで腕を磨くべく決意を新たにしていた。

 

そんな彼女らを頼もし気に見やる綾は、近づいてきたシャルロットへと目を向けた。

「いいISが完成したね」

「元が良かったというのもありますがね。それを使いこなす凰さんは少し野性味が強いのが癖ですが、本物の天才です。うかうかしていると置いてかれますよ、シャロ」

「そうだね。ボクだって負けたくないから頑張らなきゃ」

にこりと頷いたシャルロットは、すぐに俯いて綾へと謝った。

「・・・リョウ、こないだはごめんね」

「謝る事はないでしょう、ああいう突き放し方をしたのは僕です。むしろ責められても文句は言えません」

「ううん。ちゃんとリョウがボクの事を考えてくれてたのは、伝わってるから。ふふっ、リョウってば悲しそうな顔するの隠すの、下手なんだもん」

「・・・ポーカーフェイスには自信があったんですけどね」

ぐにぐにと自分の頬をまぜる綾に笑いながら、シャルロットは確かめる様に聞く。

 

「ねぇ、セシリアの事、好き?」

「愛してます。彼女といれば僕はどこまでも強くなれる」

「そっか・・・そっか。あーあ、そこまで言い切られちゃうと未練も湧かないや」

 

どこか吹っ切れたように両手を伸ばして晴れやかに笑うシャルロット。

上手く綾と話す自信は無かったが、きっぱりと断られてかえってすっきりした様子である。

「言ったでしょう、君にはもっとふさわしい男が現れますよ。僕なんかより、君が大切に出来る人がきっといます」

「うん。じゃあその人を待つよ」

裏拳同士を軽くぶつけ合い、今度はいたずらっぽく笑うシャルロット。

 

「ところで。セシリアにも『僕なんかが~』みたいに言い訳する事あるの?」

「言いませんよ。セラの気持ちより自分の気持ちを優先してますので。僕なんかがと思う事はありますけど僕以外の男と一緒にいられたくありませんからね」

「ひゅーひゅー♪」

「やめてください心が痛む」

苦虫を噛み潰したような顔をする綾と、楽し気に笑うシャルロット。

お互い遺恨は残らずに済みそうであった。

 

「あっ!リョウ、何してますの!また不倫?浮気なの?」

「何ですかまたって。不倫も浮気もしてないでしょうに」

「そう言って山田先生を口説いたりするでしょう、あなたは!」

「あれは生徒と教師のスキンシップですよ。本気になるわけないでしょう」

「あなたがそうでも山田先生が本気になったらどうしますの?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「はい浮気確定っ!賠償金を請求しますわー!」

「違いますから!断り文句を考えてたんです!」

腰に手をやりながらペシペシと音を立てて綾を叩くセシリアと、困ったように痛みに耐えて弁解する綾を眺め、シャルロットは柔らかな笑みを浮かべた。

「うん、二人とも、すっごくお似合いだね」

 

========================

 

時は夕方、ひと段落ついて温泉から上がったところで、部屋で牛乳など飲んでいた一夏と綾へ、千冬から緊急通信が入った。

何かと思い端末を手に取ると、受信したメッセージの内容を確認し、急いでISスーツへと着替え始める。

メッセージの内容はこうだ。

 

【A国のISが原因不明の暴走を開始。現在、日本へ移動中との事。IS学園は援護要請を受領。IS専用機所持者は、直ちに小広間まで集合せよ】

 

駆け足で旅館の小広間へと到着した綾と一夏は、貸し切られ専用の機材を置かれ、作戦本部のていを成した空間に変貌した、以前まで和室だった室内に度肝を抜かれた。

「な、なんだこれ!?」

「ドッキリ・・・では、ないようですね」

薄暗い部屋にはセンサー類、サーバ類が積み重ねられ、冷房は肌寒い程に効いており、プロジェクターに映し出されたモニタ映像には日本地図及び世界地図、見も知らぬISの解析画像が表示されていた。

既に千冬はキーボードを叩く山田先生と何かしらやり取りをしており、他の教員たちも部屋内を忙しそうに駆け回っている。

そんな光景に二人が呆けていると、後ろからラウラ、セシリア、シャルロット、鈴が続く。

箒、簪、本音は既に到着しており壁際で所在なさげに立っているのが見える。

それに倣って彼らも壁際へ移動しようとしたところ、ラウラの姿を見つけた長身の女性が嬉しそうに歩み寄って話しかけてきた。

 

「よぉラウラ!おっ、シャルロットもいるじゃねぇか。こいつぁ当たりなメンツだな!」

「おまえ・・・イーリス・コーリングか!」

 

ハグのついでに頬を当ててくる、ISスーツの上からフライトジャケットを羽織った女性の名前はイーリス・コーリング。

ISアメリカ代表にして、先日の生徒会長戦でラウラ・シャルロットのコンビと戦った、更識 楯無のパートナーだった女性である。

本来は軍属であるとの事で、何かしらの事件を追っていたついでで楯無の私闘に乗っかってきたのだが、想像以上に早い再会である。

「イーリスさん、どうしてここに?」

ラウラに続けてハグされながらシャルロットが問うと、イーリスは神妙な顔となって眉をひん曲げた。

「あぁ、また後で話があると思うが、今回暴走したISってのが、アタシの相方のモンなんだわ」

「暴走と言っても、具体的には何が起きている?」

「そいつぁ後でナタルから話を聞いてくれや。アタシはただ、仕事をこなしに来ただけだからよ」

言いながらも、どこか苛立っているようにも見受けられるイーリスの様子に緊張感を増す一同。

 

そこへ、IS学園専用機持ちが揃った事を確認した千冬は、スライド前へ来るように生徒達を手招きする。

そぞろと集まった一夏達の元へ、千冬は軍人らしい一人の女性を紹介した。

「こちらはアメリカのISテストパイロット、ナターシャ・ファイルス中尉だ」

「よろしく、学生さん達。ナタルでいいわ」

艶やかな金髪にウェーブを加えた魅惑的な雰囲気の女性で、左耳には認識票をあしらったイヤリングを飾っている。

丁寧に全員と握手をしたナタル中尉は、早速で悪いけどと一言挟むとノートPCと繋がったマウスを操作し、プロジェクターの画像を話と共に切り替えていく。

 

「今回、あなた達に依頼したいのはイーリ・・・イーリス・コーリング中尉の援護よ。簡単に聞いているかもしれないけど、調整中で手元から離れていた私の専用機であるIS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が何者かに盗み出され、現在はウイルスを仕込まれたのか無人の自律モードの暴走を起こして各地に被害を出しているの」

 

映し出された画像には、都市を攻撃する全身装甲(フルスキン)タイプのISの姿や、犠牲となった人数や場所、物がリストアップされていく。

全身装甲のISは文字通り、手足の先から頭まで全て装甲で固めたタイプの機体であり、かつて宇宙開発用として鶴守 豪が開発したインフィニット・アストロノーツの思想に近い形で生産されたものである。

ある程度の自立稼働が可能であり、防御力・生存能力に長けるが、いかんせんコストが高く調整が難しすぎて量産には向かない。

かつ、整備性も低く、一般的な手足のみに装甲を施したISでも宇宙や深海での活動が可能な事もあり、絶対数が限りなく少ないものとなっている。

また、操者がいなくともある程度オートパイロットの自立行動が可能であるが、マイスターがいるのといないのでは性能は天と地なのである。

それはISコアが人間の生命反応との組み合わせにより力を増すという特性に依る。

 

「既に死傷者も発生していて、事態を重く見たアメリカ軍は非常事態宣言を発令。全国的にこの子を指名手配し、発見次第可能なら破壊を命じたわ」

悔しそうにマウスを叩くナタル。

余程自身のISに愛着がある様子であり、その気持ちが分かる綾やラウラ、シャルロットは静かに義憤に燃える。

「調査の結果、あの子はあと1時間後にこの日本近海を通過するの。本当は止めてあげたいけど、ここまで犠牲が出てしまうともう私では止められないわ。だから、せめて戦えない私の代わりにイーリに撃破を依頼し、最も近くに駐留しているあなた達へ援護を要請したってわけ」

「そういう事だ。誰の仕業だか知らねぇが、ナタルがあの機体にどんだけ入れ込んでたか・・・クソが」

燻る怒りを隠そうともしないイーリスが拳を鳴らすのを見て、一夏は疑問を投げかける。

「だけど、ウイルスで暴走って有り得るのか?この間のドイツ軍のウイルスはISを結晶にしてたけど・・・」

一夏の問いには簪が進み出てすらすらと回答する。

「今回の場合、全身装甲のISだったことが災いしたんだと思う。全身装甲のISは頭部ユニットに自立回路を搭載している事があって、遠隔からの操作を受け付けて起動したり、操作したりが可能なの。おそらく、犯人は自立回路にウイルスを流して敵機を常に指示されてる状態になって、いもしない敵を迎撃するため攻撃を続けている可能性があるわ」

簪の推論に、ナタルはテストで100点を取った娘を誉めやる様にその頭を撫でる。

「グレイト、さすがIS学園の生徒は優秀ね。私の傍で助手をしてもらいたいくらい」

「あ、いえその、私は日本代表候補なので・・・」

「そう、残念だわ」

本当に残念そうに引き下がるナタルに、いっその事恐れおののいて本音の後ろに隠れる簪。

アメリカ軍人のコミュ力の高さに慣れていないのだろう。

 

触れ合いもそこそこに、データ解析を終えた山田先生から受け取った情報をプロジェクターへ映し出した千冬は、それぞれへと作戦を伝える。

「さて、お前達の仕事はあくまでイーリス中尉の援護だが、これは実戦となる。各自気を引き締めてかかる様に。まず、目標――以後【福音】と呼称するが、人が操作していないため現在もろくでもない速度で動いている。そのため、高速機動が可能なISで先行し、待ち構えているイーリス中尉含む包囲網へと【福音】を引き付け、囲って討ち取る作戦が有効だと思われる」

地図上にアイコンを表示させて具体的な動きを解説する千冬の一言一句を、聞き逃すまいと集中する生徒達。

 

「まず先行部隊をチーム【アサルト】とし、ここは速度重視の機体である織斑の白狼、オルコットのレイニー・ステラ、凰の道老龍で小隊編成。リーダーはオルコット、いけるな?」

「かしこまりましたわ」

緊張の面持ちで頷くセシリア、呼応する一夏と鈴。

 

「続いて待機部隊をチーム【バスター】。ここにはイーリス中尉のファング・クエイク、迎撃能力の高い鶴守のアマデウス、ラウラのシュヴァルツェア・ガーベラ、篠ノ之の赤雷を配置。リーダーであるイーリス中尉の指揮に従うように」

「はっ」「お任せを」「了解です」

敬礼するラウラに倣って手を掲げる綾、頷く箒。

 

「最後に、上空と海上から挟み込む遊撃班を編成。海上部隊は更識の打鉄弐式、布仏の九尾ノ魂。上空からはデュノアのフェニックス・リヴァイヴだ。索敵能力の高い更識が基本的に指示を出し、離れた場所にいるデュノアはある程度自身の判断で動け」

「了解。なら私と本音の海上部隊を【ダッシュ】として、上空のオルコットさんを【ヘキサ】としましょう」

「ほいほーい!」

「うん、了解」

 

三機ともミサイルやビットにて範囲攻撃を行える面子であり、上下へ逃げ場を与えないようにするには適している。

各自へ役割と指示を出した千冬は、最後にまとめとして通達する。

 

「作戦は30分後、旅館下の海辺に集合してからの開始とする。いいか、相手は無人機ゆえに手加減の必要は無いが、その分人が扱うISよりも挙動が不規則かつ人間では耐えられん速度でも動く。一切の油断を禁じ、全員生きて帰る事を誓え。各員の健闘を祈る!解散!」

 

手刀を頭の横へ添えると、敬礼を返したそれぞれが作戦室である小広間を退出していくのを見送り、千冬は一息つく。

学園入学時の制約事項にも実戦への参戦可能性を示唆する文が含まれてはいるが、こうして自分の生徒を実戦に投入するのは千冬も初めての経験だ。

表情には出さないが、千冬なりに心配はしている様子である。

そんな彼女へとホットコーヒーを差し出すナタルは、母性豊かな雰囲気で千冬へ語り掛ける。

「肩肘を張らないで。誰しも部下を戦場に送る時は緊張するものよ」

「・・・すまない。どうにも自分が戦地へ向かう方が性に合っていてな」

インスタントコーヒーをブラックで一口付け、千冬は【福音】のスペックを確認する。

特殊なスラスターから発生させる範囲攻撃を得意とする、広域殲滅用軍事IS。

下手な動きをすれば近づく事も出来ずに撃破される可能性も少なくはない。

「自分で戦うなら、と考える事が出来ても、あいつらが戦う場合のパターンは考えるのが難しい」

「根っからの現場主義なのね、チフユ」

自身もミルク入りのコーヒーを口にしつつ、ナタルは神妙な顔つきで紅の塗られた唇を噛みしめる。

「それでもイーリやあの子達を信じるしかないわ。子供は風の子、火にあたって考えるのは大人の仕事よ」

「母親か、おまえは・・・」

苦笑いしつつ、海上を移動している【福音】の衛星画像を目で追う千冬。

不吉な予感を振り切る様に、カフェインを摂取した脳を稼働させ、彼女は判断を間違わぬように思考を開始した。

 

========================

 

準備を終え、海岸へと集まったIS学園生徒達は一列に並び、イーリス中尉の号令の元各々のISを起動させていく。

 

「さあ、奏でよう。アマデウス」

蒼き砲撃の知将、鶴守 綾のアマデウス。

「来い、白狼ッ!」

純白の熱き最強の剣、織斑 一夏の白狼。

「行くぞ、赤雷」

深紅の二刀・乾坤一擲、篠ノ之 箒の赤雷。

「虹を纏え、レイニー・ステラ!」

雨色の四次元旋律砲手、セシリア・オルコットのレイニー・ステラ。

「飛龍乗雲!道老龍ッ!」

紅紫の神速電光石火、凰 鈴音の道老龍。

「蘇れ、フェニックス・リヴァイヴ!」

燈の大型武装格納庫、シャルロット・デュノアのフェニックス・リヴァイヴ。

「咲き誇れ、シュヴァルツェア・ガーベラ!」

黒銅の絆魂絶対防壁、ラウラ・ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・ガーベラ。

「打鉄弐式、起動」

濃紺の超絶電脳指令、更識 簪の打鉄弐式。

「やっちゃうよ、九尾ノ魂っ!」

黄白の水遁変幻自在、布仏 本音の九尾ノ魂。

「吼えろ!ファング・クエイク!」

虎柄の豪拳一撃必殺、イーリス・コーリングのファング・クエイク。

 

全員の装着が完了した事を確認したイーリスは、腕まくりする様な仕草と共に学生達へと檄を飛ばす。

 

「いいか、アタシはオマエらを学生とは思わねぇ!アタシらはチームだ!対等だ!状況報告は遠慮なく綿密に、敵を見たら迷わず引き金を引け!分かったら各機出撃!GO!GO!GO!!」

「「「「「「「「了解っ!!!」」」」」」」」

 

10機のISが飛び立ち、海上を飛んでいく。

これより先は戦場。

果たして流れるのは血か、勝利の凱歌か。

アメリカ軍との共同作戦の火蓋が、いま切って落とされた。

 




酢豚ってね、中国語で古老肉(グーラオロウ)って言うんですよ。
それをちょちょいともじって完成した名前が道老龍(タオラオロン)です。

うん。

だからロード・エンシェント・ドラゴンじゃなくて酢豚さんと呼んでも可。
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