インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
IS国際連合へ状況の報告を行うナタルの目の前で、千冬は唇を噛み締める。
何故自分はあそこにいないのか。弟達が命を賭ける戦場に。
歯がゆい思いは消せぬとも、今はただ信じるしかない。
自分の仕事は、もう現場ではなくここで考える事にあるのだから。
コーヒーを飲み切った千冬は、そもそもの流れを整理にかかる。
まずアメリカ軍の全身装甲IS・銀の福音――通称【福音】が何者かに奪取された。
その何者かは、無人機の【福音】に5個のコアを搭載してウイルスを仕込み、暴走させて日本へと向かわせた。
ここでIS学園の生徒が支援に向かう事になったのは単なる偶然だろうか。
【福音】の姿が変貌したのが、派遣されたIS全機が揃ったタイミングというのも。
アメリカ軍ISはイーリスのファング・クエイク1機しか派遣していない。
それは極秘任務ゆえ、少数での作戦を展開されたためだと思っていた。
だがもしも、何者かの狙いが最初からIS学園にあり、言っては何だが性格が荒く、使いにくいイーリス中尉をついでに処分する事が目的だとしたら。
敵はIS国際連合または、アメリカ軍にあるのではないか。
ならばIS学園を狙う理由は何だ。
放っておいてもドイツ軍過激派の暗躍による影響で潰れかねないIS学園の現状に、わざわざ止めをさそうとしている、その真意とは。
―――だとすれば、IS学園の弁護に回ってきた束は味方と考えていいのか?
全ての線を繋げるにはいまだ情報が足りず、どの推測も確信を得られない。
だがもしも、一夏達が【福音】の無力化に成功する事が出来たなら。
【福音】のコアの残骸でも回収する事が出来たなら。
汚名返上どころか、日本救済の名誉を以てIS学園の失墜すら帳消しに出来るかもしれない。
そして、目に見えぬ敵の正体と、束の目的も。
「白狼、バリアエネルギーのチャージを確認!戦闘継続不能となった打鉄弐式と九尾ノ魂は帰還します!」
山田先生からのアナウンスを受け、頷く千冬。
どちらにせよ、ここで生徒達をどこぞへ逃がそうとも間に合う可能性は低く、自分達はどのみち助からない。
もはや愛する弟と、その相棒達が奇跡を起こしてくれる事を、信じて祈るしかないのである。
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やる事はシンプル。
白狼が【福音】に搭載された5つのコアを破壊する事。
そして、白狼が【福音】に取り付くまで護衛する事。
簡単に言えるが限りなく難易度の高い挑戦が始まろうとしていた。
「さぁ行きましょうか。こうなったら僕も出し惜しみをしていられませんね」
「あら、出し惜しみをする余力がありましたの?」
首をこきりと鳴らす綾へ、いたずらっぽく問いかけるセシリア。
すると綾は、苦笑い混じりに目を細めて言う。
「セラ、先に言っておきますけど僕はこれまで手加減して戦ってきたつもりはありません。君やシャロ、あのモルドスライムと戦った時でさえそうです。ただ、そんなおいそれと使えるものではないからです」
「リョウ?何を言ってるの?」
「僕のアマデウスの、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の話ですよ」
「「!!」」
そう語られて気付く。
明らかに第三世代機を軽く超えるスペックを誇るアマデウスに、ワンオフ・アビリティが搭載されていない筈がなく。
これまで圧倒的な機体性能と攻撃力に気を取られていたが、誰一人としてアマデウスがそれを発動させたところを見た事が無いのである。
「全力は尽くしてきた。けどこれは最後の最後の切り札だったから使えなかった。使わなかったではなく、使えなかった。それだけは理解して欲しい。特にセラ、君には」
彼女との一騎打ちに死力を尽くさなかったと思われたくなかった綾は、念を押すように弁解する。
セシリアといえば、ため息混じりに仕方のないものを見る目で笑った。
「・・・何を気にしているのかと思えば。いつかブルー・ティアーズではなく、レイニー・ステラと戦う時に隠されていなくて良かったと思って差し上げますわ。ここで見せてくれるのならね」
「ええ、見ていて下さい――― 一夏、まず一つ潰しにかかります。僕を信じて【福音】へ真っ直ぐに突撃してください」
「分かった。お前が言うなら、それが俺のやるべき事だ!」
雪片弐型を構え、スラスターを吹かす白狼。
それを確認した綾は、真正面から【福音】へとイグニッションブーストを行う。
「各機は一夏を援護!白狼のバリアを消費させてはなりません!」
「あたぼうよ!」
「委細承知ッ!」
箒が二刀を構え、鈴が破損した槍を捨て、白狼の前方を守る様に飛ぶ。
既にここまでの戦闘で道老龍の槍は3本折れており、予備の槍はもう装備していない。
故に、鈴に残った武装はたった一つ―――。
「波ぁぁーーーッ!!」
光の刃の群れを、徒手空拳にて弾き、撃ち落とし、蹴り抜く。
インフィニット・ストラトスという鉄の衣を身に着けていたとしても、鍛えられた武術で練られた気の力は光弾ですら弾く・・・あまりにも、非現実的な光景である。
ISを使用しての、且つミスの許されない無酸素運動にて一夏を守護するその姿は、たとえ武術に身を置かずとも、ISに詳しくなくとも感心せざるを得ない。
「す、すげぇ・・・鈴・・・!」
「ボケっとしない!アンタは前だけ見てりゃいいのよ!」
「お、おうっ!」
叱咤により素に戻り、鈴の後を追うように【福音】へ接近する一夏。
「一夏には指一本触れさせんぞ・・・!」
鈴の技に劣る事なく二刀を以て嵐の様な剣戟を振るうは箒の赤雷。
遠距離攻撃を得た赤雷の剣旋はかつての奥義に磨きをかけ、刃の群れを押し返さんと勢いを増す。
「さぁて、行きますよ―――!」
また、イグニッションブーストにより正面から組み付こうとする綾であったが、【福音】は見え見えの動きに冷静な対処を施す。
即ち、両翼で包むようにアマデウスの全身を覆ったのだ。
たかがそれだけで、高出力の光の翼はISのバリアを軽々と壊し、装甲もろとも触れたものを崩壊させていく―――。
「綾っ!!」
ラウラが叫ぶ。
あれほどの知将がこんな容易く、彼らしくもない捨て身で倒れるわけがない。
そう考えながらも、ゆっくりと【福音】の翼が広げられ、そこにいた筈のアマデウスが消え去っている現実を目にし、衝撃に言葉を失う箒。
「リョウーーーっ!!」
シャルロットが悲鳴をあげる。
粒子と化したアマデウスの装甲が夜空を流れていく。
誰もが信じられずに目に映る光景を疑う。絶望色に染まる―――否。
一夏と、セシリアだけは信じていた。
だから【福音】への突撃はやめないし、放出される刃の処理も手を休めない。
やがて、一夏の接近に気付いた【福音】は避ける様に後方上空へと飛翔しようとし―――。
―――粒子となって散った状態から再構成されたアマデウス、そして綾によって、背後からの体当たりをまともに食らう事となる。
「!?!?!?!?」
さながら人間で言う所のパニック状態とでもいうのか。
後ろから羽交い絞めにしてくる、先程倒したはずのISが健在しているのもそうであるが、瞬間移動でもされたかのような錯覚に【福音】は混乱を隠せない。
「一夏ーーーッ!!」
「任せろリョウ!!」
勢いよく迫る【福音】のボディへと、白狼の零落白夜が突き刺さる。
コアの位置は簪からデータとして受領済みだ。
まずは一個、左肩のコアの反応が消える。
続けてもう一つと雪片弐型を振り上げるも、片翼にて白狼を、もう片翼でアマデウスを撃破にかかる【福音】の動きに一旦遠のく。
「くっ・・・!」
綾もまた翼の射程圏内から逃れて放射される刃の回避に専念。
だが、その表情はどこか青ざめ、荒く息をついているのが誰の目にもわかる。
「な、なに今の!?何が起こったワケ!?」
再び一夏を護衛しつつ鈴が解説を求めると、一部始終を見ていたセシリアが、肩を震わせながら怒鳴る。
「ばっ・・・ばっ・・・馬鹿じゃありませんの!?こんな能力を付与する鶴守 豪も馬鹿ですけれど、それを使ってしまうあなたも馬鹿ですわ、リョウ!!」
「ど、どういう事、セシリア!?」
訳が分からないままアサルトライフルで応戦するシャルロットの問いに、セシリアは頭を振って答える。
「アマデウスのワンオフ・アビリティ!それはつまり――量子化ですわ!」
「量子化?でも、それなら全てのISに備わってるじゃない!」
ISは待機状態から起動する際、量子化された装甲やボディを物質化させて顕現させる。
何もない空間から武装を出現させたりさせるのも量子化から物質化の変換によるもので、ISという存在にとって切って切れないテクノロジーである。
しかし、セシリアが言いたいのはそうではない。
「通常の量子化ではありませんわ。アマデウスを使用している綾自身も量子化して姿を消し、自身を別の場所にて再構築する、一種のテレポーテーション!それがアマデウスのワンオフ・アビリティ・・・!」
「さすがセラ・・・慧眼だ。この能力は、アメイジング・グレイスと名付けられてましてね」
素晴らしき神の恩寵(アメイジング・グレイス)。
セシリアが解説した通り、ISとその操縦者自身を量子へと変換する事で相手の攻撃全てを回避し、任意の空間にて自分自身を作り直す、テレポートの亜種ともいえる。
鶴守 豪が危篤に入る直前にアマデウスへ搭載した最後の切り札であり、そのバスターランチャーの砲撃と相まってとてつもない汎用性と位置を選ばない戦い方を可能とする。
だが、そんな強力な能力を綾がこれまで使わなかったのは理由がある。
それは―――。
「何が神の恩寵!転移させるあなた自身が量子化してしまったら、誰がその先で再構築するというの!?手首を切り落としてから手首を繋ぎ直すのと同じ行為ですのよ!?」
「なんだと!?綾、おまえ、身体に異常はないのか!?」
「とりあえずまだ大丈夫ですよ・・・眩暈はしますがね・・・」
再構築を観測する自分自身を消してから再構築するという矛盾に満ちた能力。
一旦はISコアに綾という存在を格納してから取り出すともいえるそれは、下手をすれば自身を消滅させかねない行為でもある。
いわば、魂に搾りかす程に残った生存本能によって、どうにか記憶できている範囲の肉体を作り直すようなもの。つまりは、身体にどれほどの影響が出るのかわからない。
実際のところ、綾にかかっている負担は想像を絶するものである。
自分が消えるかもしれない恐怖、成功したとしても完全に正常な状態での復活が約束されないリスク。
いま綾の全身は、未完全な再構築のツケを払うかのように回復機能をフル回転させている状態なのだ。
「けど、これでまずは一つ。あと4回、繰り返せば僕らの勝ちです・・・!」
「でも、それじゃリョウが!」
心配のあまり涙まで浮かべる優しいシャルロットの言葉は綾に届かず。
バカな事はやめろと言いかけるも、時間のない今の状況では上手い言葉が紡げない鈴。
自分に出来る事は何かないかと、己へ問いかけ続ける箒。
誰が止めようと覚悟を決めた綾が、次の量子化に向けて集中をする。
一夏は、そんな相棒を――相棒だからこそ、止めはしなかった。
「やりたいようにやれ、リョウ。俺はお前が生きて帰るって信じてる」
「そう言ってくれると思いましたよ、一夏・・・!」
「ああ、もうっ!男って生き物はみんなバカばっかりですわ!」
癇癪をおこすかのように足をピンと伸ばして叫ぶセシリアは、両手両足を広げて意識の全てを綾へと向けた。
「シャル、ごめんなさいね。【福音】のあの光を放つ攻撃、わたくしの分まで担当していただけるかしら?」
「セシリア!?何をするつもりなの!?」
シャルロットの問いに答える間もなくビットを全機射出し、アマデウスとのデータリンクを開始するレイニー・ステラ。
何をするつもりか分からないのは綾も同じだ。
真意を問おうと口を開きかけると、セシリアはぴしゃりと言い放つ。
「止めたって止まらないのでしょう?なら好きにやりなさいな!わたくしはあなたを消させない。あなたが自分を観測出来ないのなら、わたくしが引き寄せて差し上げますわ!」
「・・・セラ!?」
「わたくしを感じなさい、リョウ!わたくし達の想いが、想い合う心が、あなたの能力を完全なものにするの!行きなさい!」
アマデウスの前方へと、まるでゲートを作り出すかのようにビットが回転し、交錯したビームがISの量子と重なり合って不可思議な空間を作り出す。
やろうとしている事が分からなくはない。そして。
彼女が手を貸してくれるのなら、もはや恐怖すらも、無い。
「―――本当に、君を選んでよかった」
「そう思わせられないで、あなたに恋など出来ないでしょう!」
「愛しているよ、僕のセラ!」
量子化を開始し、溶ける様にゲートの中へと姿を消しゆく綾とアマデウス。
「リョウっ!!」
「シャルロット、迷うな!撃ち続けろ!!」
「ラウラ・・・!?くっ・・・!」
消滅したリョウを気遣う心が強まるも、【福音】のクローをバリアで防ぐラウラの言葉に自分を立て直して大型ガトリング砲を乱射し、セシリアを守るシャルロット。
気が気でないのはラウラとて同じ事。
それでも、心の底では一夏と意見を同じくしているのだ。
「おおぉーーーッ!!!」
叫びと共に、再びの突撃を敢行する一夏。
行く手を阻む攻撃を弾き続けるラウラ、箒、鈴。
そしてセシリアは目を閉じる。
五感ではなく、心で、通じ合う気持ちで、綾の存在を追う。
夜の海上は寒い。
だから、温かくなる想いを探り当てるのは難しい事じゃない。
まるでかくれんぼの鬼のように、花畑の中を散策するかのように視線を巡らせ。
瞬間、瞼の裏にひとひらの光がおぼろげに映る。
―――ほら、つかまえた。
貴方の怖がりな心と、柔らかな想いは、どこにいたってわかるんだから。
第六感ともいえる意識の波動をキャッチしたセシリアは、ロストしたアマデウスの反応を探って周囲を警戒する【福音】の死角――綾の気配を色濃く感じる空間へとビットを滑り込ませて再びゲートを作り出す。
掴んだ手を引き寄せる様に、セシリアと、ゲートから飛び出した綾が叫ぶ!
「「アメイジング・グレーーーーーーーイスッ!!!」」
がつり、と鈍い音と共に今度は正面から組み付いたアマデウスにCPUの処理が追い付かない【福音】。
一度目の量子化からの再構築と違い、綾の顔色の変化も、肉体へのダメージも今度こそまるで見受けられない。
セシリアは脳波によって操作されるブルー・ティアーズ・ビットによりアマデウスと鶴守 綾という存在の情報をビームにて測定・記憶し、浮遊する綾の量子、すなわち意識を追ってビットとIS量子を反応させて再構築の補助を行ったのだ。
観測者が増えた事により綾の肉体復旧率は、単独で行った場合よりも限りなく100%に近い。
絶体絶命まで追い詰められた場合を想定して組み込まれた不完全な切り札は、セシリアの想いが重なる事によって初めて完成される、究極の汎用能力と化した。
これが量子瞬間移動能力、名を【かつてない愛の感応(アメイジング・グレイス)】―――!
セシリアと綾の想いの力に感応するかのように、零落白夜が【福音】の背中を切り裂いていく。
あまりに息の合ったタイミングに、今度は右肩のコアが破壊され、千切れた腕は海面へと落ちていく。
「やったぜ・・・!」
「!?一夏、離れて!」
手応えに思わず笑みを浮かべた一夏だが、そこへ【福音】の捨て身の攻撃が迫る。
翼で包むのが間に合わないのなら、自身もろとも刃でしとめれば良いと判断したのだろう、数えきれない光の剣が白狼の背後から、【福音】のボディごと一夏を貫き、傷つけていく。
「ぐぁあああああああっ!!!」
至近距離からの不意打ちはバリアを貫通し、装甲が、肉体が、血にまみれて白狼と一夏を壊していく。
「いっ――――」
「一夏ーーーッ!!」
文字通りの、一瞬の油断による致命的な被弾。
驚愕に震える箒、手を伸ばすも届かない鈴。
助けに行こうにも、綾の援護で手一杯なラウラ。
全身から血液が抜けていく感覚に、一夏は意識を失いつつあった。
吸い込まれるように夜の海へと落下する白狼。
センサーロストした白狼の反応に、頭の中が真っ白になるのは千冬だ。
恐れていた事が現実となった。
これではもう、【福音】を止める手段は存在しない。
それどころか、もう一夏が帰ってくる可能性は万に一つもない。
思わず、がくりと膝をつく千冬の姿に駆け寄る山田先生ですら、全ての希望を失ったかのように静かに涙を流した。
「綾くん・・・!みんな、お願い・・・死なないで・・・!」
「・・・一夏・・・」
千冬は、白騎士事件にて喪われた不特定多数の人間のみならず、最も大切な弟すら守れない己の不甲斐なさを呪った。
だが、しかし。
それでも。
ここで本当に折れてしまっては、それこそ一夏に申し訳が立たないではないか。
「鈴音、力を貸せッ!!」
呆然とする鈴へとブーストし、胸倉をつかむように箒が迫る。
「な、何、どうしたのよ、箒・・・?」
「まだ一夏は生きている!だから最後まで諦めるな!【福音】をメルトダウンさせたら、落ちた一夏を拾いに行く前に本当に一夏が死ぬぞ!!」
「・・・・・・・!」
いまだ希望の灯を消さず思考を止めない箒にハッとなる鈴は、今すぐ一夏を助けに行きたい気持ちをどうにか堪え、いつもの調子で問いかける。
「・・・そう言うからには、策があるんでしょうね乳モップ!」
「零落白夜に比べればかなりの賭けだが、お前と私が力をあわせればやれる!」
「そんだけ聞ければ上等よ!」
諦めないのは綾も同じだ。
「まだだ、まだ終わらせはしない・・・!」
マシンガン、ショットガン、グレネードと、手持ちの弾丸を使い果たすかのように光の刃を迎撃し、一夏の帰還を待つ。
「当たり前だ!わたしたちは、生きる事を諦めない!」
そんな綾から教わった諦めない心を武器に、ラウラもまた引き金を引き続ける。
弾切れを起こしたハンドガンの弾倉をパージし、両肩部にある追加のマガジンを差し込んでまた撃ち続ける。それを繰り返す。
セシリアもそう。シャルロットも。
「絶対、絶対こんなところで終わらせませんわ・・・!」
「そうだよ!ボク達はずっと、この先の未来を生きるんだ!」
エネルギー切れ寸前のレイニー・ステラをどうにか庇いながらも、もう一撃へと思いを繋げるために。
「行けるな、鈴音!」
「いやもうバカだバカだと思ってたけどアンタやっぱバカだわ!」
「それはいい、馬鹿同士気が合うじゃないか!」
「言えてるわ!」
うつ伏せの体勢のまま【福音】を見据える鈴、その背部へと乗り、脚部を固定させる箒。
赤雷の刀は納刀してあり、居合の構えでターゲットを睨む。
鈴は道老龍のバックパック越しに赤雷の重さを感じ取りながら、初の試みである背部スラスターとウイングによるダブル・イグニッションブーストの最終確認を行う。
イーリスのファング・クエイクが切り札としていた、リボルバー・イグニッションブーストを参考にした、道老龍版の強化ブーストである。
「――準備オッケー!行くわよ箒!」
「任せた、鈴音!」
設定周りの調整を終えた鈴が、合図と共に赤雷を乗せて爆発的な速度で加速する。
反動に歯を食いしばる鈴。
振り落とされない様、脚部を力強く踏みしめる箒。
現状世界に存在する全ISの中でも最速を誇るISの突貫に、【福音】はおろか他のIS使い達も反応が遅れる。
「な、何ですの!?」
「鈴、箒!?」
闇を切り裂く赤き閃光。
移動と加速を鈴の道老龍に託す事で、自身は居合い抜きの精度向上のための集中に、全神経を回すことが出来る。
「馬鹿な、コアを刺激するだけだ!」
「やけになるのはよせ、箒!鈴!」
綾やラウラですら止めに入る、あまりの愚行。
箒が出した零落白夜の代替策とは、バリアが感知出来ない程の速度でコアを切り裂く事。
あまりにも稚拙な、実現不可能な試み。
それでも、やらずにはいられない。
己が惚れた男が為そうとした事を、こんなところで諦めはしない。
何よりも、箒と鈴自身が、やられっぱなしでは気が済まない!
「一意専心―――抜刀会心―――」
「行っけぇぇぇええええええっ!!!」
放出される刃のいくつかに身を削られながら。
光の翼でのカウンターよりも早く。
バリアが反応などする事はなく。
箒が閉じた瞳を開くことは無く。
また、箒の――赤雷の手は、刀の抜き手から微動だにする事もなく。
そう。
誰にも視認される事無く、彼女たちが通り過ぎた時にはもう、箒の居合いによって【福音】の左胸のコアは断ち切られ、機能を停止させていた。
その証拠とばかりに、コア残数があと二つとなった【福音】の出力が、目に見えて落ちていく。
「・・・嘘でしょう」
眼鏡をずり落としそうになりながら、綾が半笑いを浮かべる。
「あ、ありえませんわ・・・!?」
「信じられない、箒、本当に凄い・・・!」
目を丸くするセシリア。
赤雷がこの中で一番性能の低い第二世代である事が信じられないシャルロット。
「これが・・・想いの力・・・!」
そしてラウラは、綾とセシリアが見せた力と、箒と鈴が見せた力に、人間の可能性を見ていた。
「どうだ、見たかこれが女の底力ってヤツよっ!!」
勝鬨をあげる鈴が拳を握りしめた・・・瞬間。
「やったぞ・・・いち、か・・・!」
受けたダメージによる痛みと、極度の集中のぶり返しにより意識を朦朧とさせた箒が、道老龍の背中から足を滑らせ、そのまま落ちていく―――。
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織斑 一夏は夢をみていた。
夢の中の景色はとても透明な空に雲が流れていて。
透き通ったクリアな湖の上に、一夏はぼんやりと立っていた。
ここはどこだろうと思うまでもなく、ああ、これは夢かと感じ取っていた。
ふと、誰かの気配がして振り返る。
そこには、見た事のない白いワンピースを着た少女と、ISの様な鎧を身に着けた女性が立っていた。
少女は素足の先を湖の上で踊らせながら、一夏へ問う。
なぜ立ち向かうのか。
女性は手にした大きな剣を湖へ突き立てながら、一夏へ問う。
なぜ立ち上がるのか。
一夏は迷いなく答えた。
自分のためだと。
誰かのためじゃない、誰のせいでもない。
俺は、わがままだから。
自分が納得できるまで手を伸ばさないと、絶対に後悔するから。
俺の手で勝ち取りたい未来があるから。
迷ったり、悩んだり、間違えたりもするけれど、仲間がいてくれるから。
その手を絶対に離したくないから、俺はずっと手を伸ばし続けるんだ。
少女は薄く微笑んで言った。
じゃあ、行かなきゃね。
女性は頷いて言った。
ならば、立つがいい。
分かった。一夏はそう言って笑った。
彼女達の正体は問わず、振り返らずに歩く。
この先、彼女達の事を思い出す事もないのだろう。
だけど感謝だけはしている。
ずっとずっと、傍で戦い続けてくれたから。
そうだろ?もう目覚めの時だ。
行こうぜ、俺のインフィニット・ストラトス。その名は―――!
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海が割れる。
水飛沫が舞う。
暗闇を、白い光が照らしていく。
海水を叩き切って上昇してきたのは、零落白夜を振るうIS。
かつては白狼と呼ばれた、束が改造し、綾が手を加えた超高速近接戦闘用のインフィニット・ストラトスは、その姿を攻撃的に、鋭利に変えて浮かび上がってくる。
二連となり更に大型化したウイングスラスター、口径を大きくした背部バーニア、クローとワイヤーアンカーを内蔵した左手のシールド、二股の構造となった爪先。
カラーリングは純白のままフレームは紅の光を放ち、雪片弐型は大きさを変えないもののその幅を広げ。
より頑強さを期待できる胸部アーマーを凛々しく張って、織斑 一夏は傷だらけの身体のまま蘇り、落下してきた箒の赤雷を抱き留めた。
懐かしい感覚に薄れいく意識をどうにか覚醒させた箒は、安心したような笑顔を浮かべて一夏の頬を撫でた。
「・・・遅いぞ、ばかもの」
「悪い」
赤雷をお姫様抱っこしたまま上昇し、鈴へ箒を預ける一夏。
「一夏、アンタ・・・!」
「心配かけた、鈴」
涙目となって迎えた鈴が首を振ると、二次移行させた機体を見た綾が、セシリアが、ラウラが、シャルロットが歓迎するかのように各々声をかけた。
「―――そのISは、まさか・・・!」
「一夏さん、大丈夫ですの!?」
「よし、やはり無事だったな。流石わたしの嫁だ」
「本当に、本当によかった・・・!」
笑い返した一夏はしかし、詫びる前にやる事があると【福音】へと向き直り、雪片弐型改・吹雪を構えてスラスターを吹かす。
「行くぜ、白虎(びゃっこ)!この闇夜を切り裂いて、天を白く染めてみせろ!!」
かつて鶴守 豪が設計したIS、その二号機にして、綾の母である鶴守 愛奈がヴィヴァルディと名付けた最速のインフィニット・ストラトス。
綾が白虎を参考に改造した白狼ではなく。
最初期に名付けられた名称である白虎の名と、その元々の姿を取り戻したグランプリホワイトのISが空を駆ける。
道老龍と同等、もしかしたらそれ以上の瞬間加速を以て【福音】へ突撃する白虎。
機体を軋ませながらその速度に対抗して反撃に出る【福音】だが、コアの半数以上を失った今ではもはや白虎のスピードにも、反応速度にも追い付けない。
「・・・まぁいいか。ここでネーミングに突っ込むのは野暮というものだ」
同じコアを使っているとはいえ、何故白狼が白虎へと変わったのか。
分からない事はあるが、綾はその考えを振り切って愛する二人へと声をかける。
「僕らも行きますよ、ラウラ、セラ!」
「うむ、あいつだけに良い格好をさせてたまるか」
「いいですわ、締めくくりといきましょう!」
三度目のアメイジング・グレイスに迷いはなく、量子化して姿を消すアマデウス。
「グングニール、起動ッ!!」
装甲の一部をパージさせ、金色の発光と共に白虎を追いかけるシュヴァルツェア・ガーベラ。
箒を抱えたままの鈴と、綾の援護に全リソースを回しているセシリアを護衛するためその場に残ったシャルロットは、もう何も心配などしていなかった。
やっぱり、みんなは強いや。
誰かが遅れても心配するんじゃなくて、走り続ける事で、きっと追い付いてくるって信じてるから。
ちょっと冷たく感じるかもしれないけど、でも本当は優しさと温かさに包まれてる。
だからみんなは強くあれるんだ。
零落白夜での攻撃に加え、左腕のアンカークローと爪先から展開されるブレードによって四肢をふんだんに使った戦闘が――使うかどうかはともかく―可能となった一夏の白虎、その背後にぴったりと吸い付くように追随してハンドガンの乱射で光刃を撃ち落としながら援護するラウラ。
逃げ場を奪うように出現した綾のアマデウスがカウンター気味に組み付くも、流石に学習したのか逆に飛行出力を低下させ、落下する事で回避する【福音】。
「ミスった・・・!」
らしくもなく舌を打つ綾。
一度目のアメイジング・グレイスによるダメージが抜けきっていないためであろう、回避された場合の対処にまで気が回らなかったのだ。
しかし、【福音】落ちゆく先の海面から勢いよく、イーリスのファング・クエイクがアッパーカットの体勢で飛び出してくるのに誰もが衝撃を受ける。
「この瞬間を待ってたぜーーーーッ!!!」
半壊した機体を叱咤するように高速で【福音】を背後から固定したイーリスへと、ラウラが驚きながらもその生還を歓迎した。
「イーリス!?生きてたのか!?」
「バッカ野郎、勝手に殺すなラウラ!」
【福音】のボディをがしりと掴んだイーリスは、酸素ボンベを外すと口に滲んだ血を吐き捨てながら、
「つっても、これで打ち止めだ。半死人のアタシが戻っても役にたたねぇからな、ずっと海の中で機体の再生を図ってたワケさ」
「ふ、だったらそこで見ているが良い。これがわたしと綾と、一夏の共同作業だ!」
「わたくしも仕事してますわよ!」
セシリアの横槍はどこ吹く風、バリアフィールドで白虎を守護して【福音】を抱えるイーリスへと接近するラウラ。
「行け一夏!」
「任せろおおおおっ!!!」
肩上から突き下ろすような零落白夜の一撃で、ついに右胸―――4つ目のコアが貫かれて機能を停止させる。
それによってあからさまに出力を下げ、全身が寒さでかじかんだ子供の様に力ない動きとなる【福音】。
これでもうメルトダウンまで臨界させる事は出来ない。
後は、暴走した【福音】を撃破するのみである。
パワーダウンにより追い詰められた【福音】はどうにかファング・クエイクを振り離すと、方向転換して空域からの離脱を図り、ありったけの光の刃を全方向へと撒き散らす。
逃がすまいと超反応で追随するのはラウラのシュヴァルツェア・ガーベラだ。
防御と援護ばかりだったフラストレーションを解消せんと黄金の残像を引き連れて先回りし、もはやメルトダウンの心配は要らないとその銃口を最後のコア・・・頭部へと突き付ける。
「アイネ・クライネ・ナハト・ムジークで薙ぎ払う・・・!」
狙撃用バイザーを下げ、バスター・ランチャーのチャージに入るアマデウス。
「吹雪!零落白夜、最大出力!!」
白虎の右腕の剣が、天を貫く巨大な光の柱と化す。
「ルシファーズ・ハンマー、セット!」
両手のハンドガンに宝玉をセットし、指向性ハイパーレールマグナム発射体勢に入るシュヴァルツェア・ガーベラ。
必死な様子で逃げ惑い、あがく【福音】へと。
最後の審判が下される。
「「「フルドライブ!アクセラレーーーーーションッッッ!!!」」」
レールマグナムの弾丸が光速で【福音】の頭部を貫き、離脱するラウラと擦れ違うようにアマデウスの咆哮が、白虎の光撃が十字を描きながら【福音】もろともエネルギー刃を消滅させ、焼き尽くしていく。
全てのコアを失った【福音】はついにその機能を停止させ、崩壊しながら落下する残骸はイーリスが上手くキャッチした。
やがて、全エネルギーを放出し尽くしたアマデウスと白虎が放っていた光が消えゆくと、遠くで朝日が昇りはじめる。
長い、長い夜の戦いの幕が、いま下ろされたのだ。
顔を見合わせ、にへらと笑い合った綾と一夏はそのまま気を失って海へと落ちそうになるも、ラウラによって受け止められ、力尽きたかのようにISを解除させた。
「やれやれ。わたしにこんな後始末の様な事をさせるとは、仕方のない兄と嫁だ」
自身もボロボロであるが、どこかすっきりとした表情でセシリア達と合流するラウラ、そしてイーリス。
結局はIS学園の生徒だけで何とか解決されてしまった事を申し訳なく思いながらも、そんな態度をおくびにも出さずにイーリスは軽い声色で千冬達へと通信を繋げた。
「午前03:34、作戦成功を確認。全員生存、ただいまより帰投する」
セシリアはニュータイプ。
あと副題はここまでVガンダムネタぶっこんだらもうやってしまえと思った次第。
OPよりも2ndEDが一番好きな異端者でございます。