インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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今回、あとがき無し。Cパートあるのでお気をつけを。。。


どこかで誰かのうごめく野心

それは黒い壁紙で装飾された部屋の中。

夜も遅く、暗く広い空間は隅々まで掃除の手が行き届いている書斎。

ぽつりと輝くランプの灯に照らされながらワインを嗜む紳士は、スーツの似合う逞しい肉体を革張りの豪華なアンティークチェアに預け、グラスに映る自身の姿を眺めていた。

 

「報告致します」

 

いつの間に現れたのか、執事風の男が恭しく礼をしながら紳士へと語りかける。

許可を出すように顎で促した紳士に頷き、男は表情を崩すことなく話し出した。

「アメリカ軍より接収したISは予定通りIS学園生徒及び、アメリカ軍中尉イーリス・コーリングと交戦。多少の被害を与えたようですが、コアのメルトダウンは直前で防がれたとの事です」

「そうか。で?使い物にはなるのかな?」

「成果としてはこちらの惨敗といって良いでしょう。貴重な我々のコアを4つ消費した上に、期待した戦績を上げる事は叶いませんでした」

「それは大変だ。頑張ってコアをコピーした架神博士もカンカンだろう」

「しかし」

「うん?」

笑みを崩さない紳士の前のデスクへと、執事風の男は二枚の紙をそっと差し出した。

そのうちの一枚を手に取り、大仰な態度で目を通す紳士。

「コア5つを使用した無人機の出力と、ドイツ軍より接収したニコライ・ゲルトナー大佐の研究結果であるVTシステムの出力。これらの間にはほとんど差が無い事が判明しました」

「ほう、興味深い。単純な出力であれば、コアに人間を食わせた方が効率が良いと?」

「はい。例えば全身装甲のISに意識不明のサンプルを搭載し、オート操作する事で高出力の自動人形が完成するかと」

「はは、まるで人間爆弾じゃないか。面白い、やってみたまえ?」

「承知致しました」

陽気な上司と冷静な部下のやりとりを感じさせつつも、その会話内容にはまるで人間味を感じさせない二人の会話は、一旦そこでひと段落をみせる。

しかし、一向に気配が消えない事を訝し気に思う紳士は、おどけたように首を傾げて執事風の男へとまた視線を向けた。

「うん?まだ何かあるのかい?」

「もう一枚をご覧下さい」

「おっと、そうだったね。どれどれ・・・」

完全に忘れていたのか気付かなかったのか、紳士は差し出されていたもう一枚の紙を素早く手に取り、しげしげと眺める。

「今回の戦闘にて、興味深いISのデータを取得出来ました。どうやらデュノア社が製作した模様ですが、我々の想定よりも完成がどうにも早すぎます」

「おぉん?ほぉう。ツインコアドライブ。これは凄いじゃないか、是非うちもその技術を指南頂きたいものだねぇ」

手の甲で紙をぱしんと叩き、紳士はグラスの中身を一気に空けた。

「しかし完成が早すぎるというのがいただけない。これ、あと数年スパンで完成の予定じゃなかったかな?」

「はい。おそらくどこかに技術提供者がいるものかと」

「んん~、束くんがデュノア社と接触したという話は聞いてないんだけどなァ」

眉をひそめ、楽し気に複数のリアクションを取る紳士に対し、執事風の男は微動だにしない。

そのギャップが些かちぐはぐさを強調させる要因となっているのだが、紳士は別に気にした様子もなく考え込むと、何かを思いついたかのように人差し指を立てた。

 

「あ、もしかしてあいつかな?鶴守 豪。束くん以外だとこんなの知ってるの、彼だけだもんねぇ」

 

「はい。ただ、鶴守 豪は既に鬼籍に入ったという事ですが」

「あぁ死なない死なない。あんなの殺したって死なないから」

嘲る様に手を振ると、紳士は顎髭をさすってにやついた。

「まぁ今どこで何してるのかは知りたいところかな。いいじゃない、デュノア社。そこの娘もIS学園通ってるんでしょ?何か知ってるかもね。連れてこれたらツインコアドライブの事も豪の事も知れて一石二鳥じゃない?」

「左様です」

「うんうん。んじゃそれでいこう。あ、あとあれ、亡国機業(ファントム・タスク)。あれの使いどころじゃない?汚れ仕事はさ」

「は。ではそのように手配します」

「よろしくねぇ」

会話が終わるや否や、するりと気配を消す執事風の男。

ほんの少し目を離しただけで、立ち去った事に気付けないほどに静かな挙動であった。

再び静寂が訪れた部屋の中で、新たにグラスへワインを注ぎ直した紳士は、二枚目の紙に添えられていたシャルロット・デュノアの写真を眺めて楽しげに笑う。

 

「いけないなァ。こんな可愛い娘がISなんて力を持った世の中は」

 

それは果たして、少女を慈しむ大人の瞳であるのか。

それとも、女性という存在を憎む殺意であったのか。

闇の気配が深く充満した書斎の中では、紳士の真意がどこにあるのか、読み取る事は出来なかった。

 

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篠ノ之 束は空を見上げていた。

彼女の根城である空中移動要塞から見える景色は晴れ渡っており、澄んだ空気は視力の高い彼女からすれば宇宙の星々すら見える程である。

「ごーちゃん、わたしのメッセージ伝わったかなー・・・」

ひとり呟く束の頭には、一人の老人の姿が思い返されていた。

かつて、行き場のなかった自分の能力に、使いどころを与えてくれた男。

誰よりも自分を理解してくれた、同じ視点を持つことのできる唯一のひと。

実父よりも優しくて、甘えさせてくれたおじいちゃん。

箒や千冬、もしかするとそれよりも大切だった、大好きな、家族。

自分のしてきた事に後悔はない。もう引き返せない事も分かっている。

それでも・・・それでも。

あの老人の砕けた笑顔を思い出すたびに、自然と涙は溢れてしまうのだ。

「きっと、まだ怒ってるよねぇ」

もし自分が間違っているのなら、叱って欲しい。

そして、仕方のない奴だとまた笑って欲しい。

はらはらと零れる涙を拭いもせず、束はただ空だけを見つめて縋る様に笑顔を作った。

「逢いたいなぁ・・・ごーちゃん・・・」

 

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またも波乱を迎える事となった臨海学校を終え、IS学園へと戻った生徒達を待っていたのは、夏休みという開放感であった。

とはいえ直前まで二週間の閉校があったためいまいち実感も湧きにくいが、ともあれ本日から8月の間は学校ともしばしの別れである。

また、イーリスを補佐し日本をメルトダウンの危機から守った9人の生徒達にはアメリカ軍と日本政府から勲章が送られた。

また、その授与式の際に面倒だからと逃げようとした男子生徒と、緊張のあまり声をひっくり返らせた男子生徒がいた事も、話題となったのであった。

 

イーリスとナタルは、回収した銀の福音を本国へ持ち帰って調査をするとの事で、既に帰国している。

ズタズタとなった頭部を切なげに抱きしめたナタルは、見送りに来た生徒達へ感謝の言葉を伝えていった。

「本当に、ありがとう。この子が本当の意味で災厄の悪魔になる前に止められて、良かった。心から感謝しているわ」

一人一人と握手をしていき、綾が手を差し出したところで首に手を回して唇を近づけてくるナタルに全員がドキッとしてしまったのだが、唇同士が触れる前でセシリアに襟を引っ張られたためサプライズキスは未遂に終わった。

しかも、

「これはわたくしが唾をつけてますので、他を当たってくださいな」

と、綾の腕を抱き堂々宣言したのである。

それを受けて「あらまぁ」と口に手を当てたナタルは、

「知らなかったとはいえごめんなさいね。お詫びに今度アメリカに来たら良いデートスポットを教えてあげるわ」

「はい。その時は是非お願いしますわ」

素直に謝られてにこりと微笑むセシリア。

「・・・ほらリョウ?アナタからも何か言う事ありませんの?・・・リョウ?」

肘でつつくも反応の無い綾を不審に思って隣に立つ彼の顔を見ると、唇をタコのように尖らせて目を閉じ、待機状態となっている。

 

「・・・あ、あれ?ま、まだ?まだですか、これ?え?」

「・・・・・・・・・」

 

めちゃくちゃナタルからのキスを待っている綾にカチンときたセシリアは、そういえばこの男年上好きだったと再確認すると共に、綾の頭を抱えてその唇を吸い込むように自分の唇で咥え込み、驚きに目を見開く彼が混乱するのを抑えつけて逆に押し倒し、ようやく口を離したのであった。

「ふぅっ!まったく、ようやくリョウの扱い方を理解してきましたわ」

「Oh・・・こんなディープなキスされる人初めて見たわ・・・」

腰に手を当てて仁王立ちするセシリアに、見下ろされるように仰向けで倒れる綾はしかし、なんだかんだちょっと嬉しそうでもあった。

あまりに過激なスキンシップに固まってしまう一同であったが、ならばと今度は一夏の頬にキスをしたナタルが再会を約束して去って行った後で、何故拒否しなかったのかと箒と鈴が叱る一幕があったとかなんとか。

 

「あいつらは大物になるぜ、ナタル」

「ええ、そうね。だから早めに手を付けておきたかったのだけど」

「お前手ぇ出すの早ぇからなぁ・・・男にも女にも」

「貴女が遅いのよ、イーリ」

去り際に、そんな会話があったそうである。

 

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時は移り、一週間後。

 

箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、本音、簪という7人の英雄的女子と、現場で指揮を執る事となった千冬と山田先生が、臨海学校で訪れた温泉宿にて琥珀色の温泉にのんびりと浸かっている姿があった。

なんだかんだと鈴の道老龍を改修するために温泉を愉しむ暇が無かったのもあるが、IS学園からのささやかな報酬として手配されたというわけだ。

「はぁ・・・生き返りますわぁ・・・」

「なんだババくさい・・・と言いたいところだが、これは良いものだぁ・・・」

溶ける様に揺蕩うセシリアとラウラ。

温泉の効能は神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、冷え性、疲労回復、健康増進などなど。

戦いの疲れが取り切れていない彼女達にはなかなか染み入るものがある様子だ。

「ほんと、こんな気持ちいいの久し振りだなぁ・・・」

「やー、筋肉痛明けにキクわぁ・・・」

シャルロットと鈴もご満悦の様子である。

 

特に鈴は今回の戦いにおいては居なくてはならない程の活躍をした事もあり、中国政府から勝手にISを改造した事に対してお咎めなしの裁定を貰ったばかりか、若くして次期IS中国代表の一人として確約されたのだ。

入学からあまり芳しくない戦績だったのがIS特性の得手不得手によるところがここまではっきりと形に出れば、お偉い様達も喜んで手の平を返してくれるという事である。

 

それに関してはセシリアと簪も同様であり、セシリアはもう少し代表候補の立場で学びたいと辞退したのだが、簪は日本政府から代表への強い推薦を貰う事となった。

実際、簪がいなければコアが臨界直前である事に気付くのがもっと遅かったわけで、そのあたりの功績を評価され、日本代表の公式オブザーバーとして着任して欲しいとの依頼もあった程である。

一旦は保留とした簪であるが、実家である更識家では蝶よ花よと褒め伸ばした筈の楯無が不祥事を起こし、落ちこぼれの烙印を押して放置した簪が多大な功績をあげている事もあり、教育方針の考え直しが図られているそうである。

果てには家督の引継ぎを楯無ではなく簪に譲るという話も持ち上がったそうなのだが、簪は「あ、私更識の家に何の未練もないので結構です」と断ってしまったため、親戚内で大問題に発展しているとかなんとか。

これまで姉や家に対して卑屈であった時期が嘘のようである。

「ああぁ・・・何これホントすっごい気持ちいいぃ・・・」

「これは痩せちゃいますかにゃ?かにゃ?」

そんな簪は、現在岩盤浴にて本音とお腹周りを温めていた。

 

箒は、【福音】へ放った会心の居合い斬りの感覚が忘れられずにいた。

父から学んだ技術は無駄ではなかった。

それどころか、ISとしての性能では劣る赤雷をもって尚、一夏の零落白夜と同等の威力の攻撃を再現できた、というのが自信と喜びに変わってきているのだ。

ISを使ってきて、こんな感動を覚えたことは無かった。

たとえ赤雷が姉からの贈り物であったとしても、それで戦って得た戦績は間違いなく自分で勝ち取ったもので。

それを考えれば、クラス対抗戦で優秀賞を貰った事も、ガンソードの一員として表彰された事も、軍や国から勲章を貰った事も、悪くはないのではと思えるようになってきた。

 

「・・・ああ、本当に、いい気持ちだ」

 

きっと自分は変わったのだろう。

一夏や綾、鈴とのぶつかり合いやセシリア、シャルロット、本音やラウラとの友情があって、こうして忌まわしかったISと自信をもって向き合える篠ノ之 箒が、とても愛おしく思えた。

「これからもよろしくな、赤雷」

まるでお気に入りの中古車を愛でるかのように、リストアンクルとなって彼女の傍にいる赤雷を撫で、箒は微笑んだ。

 

また、千冬と山田先生といえば。

「そう、皆さん聞いてくださいよ。織斑先生ったら、一夏くんが海に落ちた時にカクンッ!って膝をついちゃったんですよ!分かります?カクンッ!って」

「まっ、真耶っ!!なぜそれをここでバラすか馬鹿者っ!!」

自分だって綾の名前を呼んで泣いていた事を棚に上げ、千冬を弄るネタを初めて得た事がよほど嬉しいのかスピーカーのようにしゃべくりまくっていた。

「いやー、皆さんにも見せたかったですよ、あの芸術的なカクンッ!あれはもう、織斑先生にしかできない100点満点のカクあ痛たたたたたたたた!!」

「あまり調子にのるなよ、おかっぱ・・・」

「ごめんなさいごめんなさい謝りますからつむじをグリグリしないでくださいいぃぃぃ!」

親指で山田先生の頭を押し込む千冬は、生徒に笑われながらもそれを笑って済ませる程度には機嫌が悪いわけではなかった。

 

そして、綾と一夏は。

 

男湯に入ったつもりだったのに何故か知り合いの女性陣が入ってきちゃった事に戦々恐々としていた。

 

「お、おい!どういう事だよ!俺ら入る時ちゃんと男湯って書いてあっただろ?!」

「知りませんよ・・・!時間毎に男湯女湯が入れ替わるとか、誰かが暖簾をかけ間違えたかどっちかじゃないですか!?」

小声でひそひそと話し合う二人が汗をだくだく流しているのは、決してお湯の温度が高いためだけではないだろう。

事実を先に説明すると、大方綾の想像通り新人の仲居さんが男湯女湯の暖簾をかけ間違え、中を確認する事無く他の仲居さんが暖簾を元に戻してしまったのである。

 

浴槽内の大きめな岩の後ろに隠れて様子を伺う男子二人。

どのみちこうして隠れてしまった以上、見つかったらただでは済まないだろう。

日本を救った英雄から無断で女湯に入り込んだ不審者に華麗なるジョブチェンジである。

「どどどどうしよう、どうしよう」

「よし閃きました。一夏がここで大声をあげて騒いで、皆が一夏に気を取られている隙に僕が逃げます」

「やったぜ馬鹿野郎!俺だけ置いて助かろうったってそうはいかねぇぞ!」

お互いがお互いの顔にアイアンクローを極め合い、お互いを犠牲にすべく押し合う。

ぐぐぐ、と押し込んでくる一夏の腕力に頬を歪める綾。

「い、意外と力、つ、強くなってるじゃないですか一夏くん。ここまで育ててあげた恩を返すべく、ぎ、犠牲になってはく、くれませんか、ねぇ!?」

みしみし、と頭蓋を締め付けてくる綾の握力に歯を食いしばる一夏。

「だっ、だれが、お前に育てられたって?お、おまっ、お前こそ、普段、誰が飯作ってやってると、思っ、てんだよ?ぎ、犠牲はお前だこの浮気常習犯!」

今度は空いた片手をお互いの鼻の穴へ突っ込み合い、醜い争いはなおヒートアップする。

「誰が浮気常習犯が!ぶぉくはね、なんだがんだ言っでもセラの元に帰ってぐるんでずよこの恋愛不能症べ!あんな美人に頬キスざれでも眉一つ動かさない君はもう男子として終わっでばずよこのインポ野郎!」

「ぶっざげんなお前、あんないぎなりキスされてまどもに反応なんででぎるがごのずっどごどっごいめ!大体なんだよなんだがんだっで!彼女に寂しい思いざぜないのが彼氏じゃねぇのか、見境無しの種馬野郎!」

 

果てにはごつごつと頭突きをし合う愚かな男子共。

さすがにその不自然な音に違和感を感じた千冬が岩の裏を覗き込むと、醜い争いに花を咲かせる弟達の姿を確認し、凍り付いた空気が漂う。

「・・・・・・・・・」

「あ、いや、その、これは、ですね」

「ち、違うんだ千冬姉、これは、あの、リョウが、なんか」

目を点にした千冬からの無言が続く。

耐えられずにしどろもどろと言い訳を続ける綾と一夏であったが、ややあって千冬はタオルを身体に巻くと二人の首根っこを掴んで柵の向こうへと凄まじい腕力でブン投げた。

「「お、おわぁーーーーーーっっ!!!???」」

投げられた先は男湯・・・ではなく、崖である。

「「うそうそうそうそうそーーーーーーーーっ!!!!????」」

遠ざかる悲鳴は聞かなかった事にして戻ってくる千冬は、何もなかったかのようにまた他愛のない話に混ざり。

 

その夜、擦り傷だらけの全裸で海岸を走る男子高校生が二名、警官から追われる事になったとさ。

 

「「何だこのオチぃぃぃいいいいいいいいっ!!!」」

 

第五話・終

 




榛名山中、鶴守豪秘密研究所。
綾とラウラからの報告、そして衛星からのハッキング映像にて銀の福音戦を確認した鶴守 豪は、溜息混じりに椅子へと腰かけ、頭を抑えた。

「束め・・・相変わらず分かりにくい伝え方をしやがる。おれに協力してほしいってか?」

束がISを女性にしか使えなくした事。
あらかじめ白騎士を準備しておく事が出来た事。
何よりも―――許せない事がひとつ。
それらを考えるとただ理由もなく束を信じる事は豪には出来なかったが、緊急事態のサインだけは状況から受け取る事が出来た。
「あいつは意味もなく自分の傑作機たるISを置き去りにはしない。加えて銀の福音に搭載されていたコア、ありゃほとんどが新しく製作されたモンだ。それを含めると結論は一つ」
ぐい、と深く腰かけながら前かがみになる豪。
身体は幼いながらも、知識や思考回路は天才である科学者の前身をもつ彼は、その若き脳細胞をフルに活かして答えを導き出す。

「束が持ってるISコア量産システムを盗まれた、またはコピーされたためにあいつはコアの生産をやめて行方をくらませた。その犯人と戦うためか逃げるためかは知らんがな。そして、その犯人は意図的にIS学園を狙っている。これに対抗できる駒を増やすために紅椿を置いて去った・・・そういう事だろう?」

誰に言うでもなく、確信をもって呟く豪。
「そうなると次の一手も絞られてくる。IS学園を狙う目的は、IS学園自体の弱体化・・・つまりは専用機持ち生徒の抹殺だ。となると、夏季休暇の隙をついて個々の暗殺に動きかねん」
固まっている時ではなく、各々が故郷へ帰るタイミングを狙う。
少なくとも、自分が暗殺側ならそうする。
ならば次に考えるべきは、誰が一番狙いやすいか、狙われやすいか、リスクを度外視してでも狙うべきかだ。

特に―――今年のIS学園1年生は豊作揃いなのだから。

「綾から聞いた話じゃセシリア嬢ちゃんは帰国しないと聞く。凰 鈴音はISを偽装済み、更識 簪は今自国からの注目度もあって手を出しづらく、そこまで狙う価値も少ない。なら、簪と行動を共にしている布仏 本音もセーフだ。篠ノ之 箒は一応国からの保護扱い・・・立場を考えりゃ多少のリスクを冒してでも狙いたいところだろうが束も黙っちゃいないだろう。なら箒は束に任せるとして、織斑 一夏は基本、綾といるから問題ない。ラウラもまた然り、だ。となると―――」

シャルロット・デュノア。
ツインコアドライブを成功させたデュノア社社長令嬢。
自身もそれを搭載したIS、フェニックス・リヴァイヴを使っている。
また、夏休みは帰国して両親と過ごすという―――。

「このチャンスを敵が見逃すわけはない、か」
シャルロットが誘拐、または暗殺される事によって敵が得るメリットは大きい。
ツインコアの安定方法や強力なISを得られ、何より彼女はこの場所の事を知っている。
かといって綾たちを護衛につかせるわけにもいかない。
あからさまな動きをすれば、敵に豪の存在が知られる可能性があるからだ。
そんな危険を度外視するくらいなら、最初からこんなところでこそこそ生活していない。
ならば、対策は一つ。
「おれも、一枚切り札を切らざるをえんか」
立ち上がった豪は、壁にかかった電話機を耳に当てると、この秘密研究所の別室――それは綾も知らない隠し部屋に住む、一人の住人へと通話を繋げた。
『・・・もしもし?』
「ボゥイ、仕事だ。説明するからちょいとこっちに来てくれんか」
豪の言葉に、ボゥイと呼ばれた通話先の男性らしき声から楽し気に笑う気配がする。

『やっとシャバに出られるってかい?待ちくたびれたぜ、おやっさん』

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