インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
ミネラルウォーターを口に含みつつシャルルドゴール空港を出たボゥイは、タクシーを捕まえ、豪から指定された住所を伝えて後部座席へと乗り込んだ。
窓越しに流れ行く景色を興味深そうに見つめるボゥイは一度休憩を挟みながら、フランス郊外にある田舎町へと到着した。
メルシー、と指を振って代金を払い終えたタクシーから降りると、愛用の中華鍋と杓子が入ったバッグを肩にかけ、きょろきょろとあたりを見回した。
晴れ渡った空の下は土と草以外ほとんど見当たらない拓けた平地と、ヤギを飼っている牧場、がたがたのレンガ道を視線で辿れば少し栄えた住宅街が見える。
地平線すら見えかねない広大な大地に一人取り残された感のあるボゥイであるが、微塵も不安な様子も見せずに鼻をかいて走り去るタクシーを見送った。
「タクシーの運転手ってのもアリだねぇ」
人知れず将来的な展望を呟くと、タクシーにより導かれた一軒家をしげしげと見やる。
枯れ果てたタンポポ畑、実のなっていないクルミの木、手入れされずに蔦に覆われた外壁。
木の根元には石で作られた小さな墓が薄汚れたまま放置されていた。
―――かつて、シャルロットという少女が実の母親と暮らしていた家。
誰が住み着く事もなく、輝きを失い墓標の様な風貌と化したそこを、ボゥイは悩まし気に眺めた。
「・・・待ってろってさ、ここで?」
ネットが通じているようにも見えず、水源である井戸は土で埋まっている。
ガスも無ければ電気も通っていない。
確かにここで待てと指示されはしたが、どうやって待てばいいかまでは聞いていないボゥイはしかし、むしろからからと笑ってみせた。
「いいね、ちょっとしたサバイバルだ」
腕を回しながら家へと歩み、玄関のノブを掴んで回すとかちゃりと音を立てて開く。
どうやら鍵はかかっていなかった様子だ。
「おじゃましまぁす」
薄暗い中の様子を伺えば、辛うじて1Kのていを守っている広さの中で、ところどころ抜けた木製の床と天井に張られた蜘蛛の巣、ボゥイの接近に気付き逃げ出したネズミが数匹と、埃まみれのベッドの上にはコミュニケーションの難しそうな猫の親子という先客がいた。
「おっとと、こいつぁ前途多難だ。男の人を呼ばなきゃいかんかもしれんわ」
冗談めかしてうそぶくボゥイは威嚇してくる親猫へと軽く手を振り、敵意が無い事を示しながら壁にまとわりついた埃を手で払う。
「猫のご機嫌取りと家の改装、どっちが優先かねぇ」
腕を組んで考えたすえ、ボゥイは手持ちのビーフジャーキーを全て口の中に含んで噛み、唾液と混じらせて柔らかくし、手近にあった皿の埃を払ってその上に吐き出し、床へ置くと静かに外へ出て玄関を閉じた。
猫が口にするにはビーフジャーキーは塩辛過ぎるからだ。
人間に食べさせるには汚い行為だが、猫ならあまり気にもならないだろう。
「勝手に使わせてもらうのはオレだからねぇ、なんとか受け入れてもらわんとな」
野生動物に気を回しながらボゥイは、まずは水源を確保しなければ話が始まらないと泥まみれの井戸をみやり、必要な物資を確保すべくレンガ道を辿り始めた。
とにかく出来る事があればやるし、思いついた事は実行してみる。
ボゥイ・シューマッハという男は鼻歌交じりに靴のかかとを鳴らして歩くのだ。
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IS学園は臨海学校を終えてすぐ夏休みへと突入した。
夏休み中のIS学園は秘匿義務や犯罪防止のため、主だった校舎は地下シェルターへと格納される。
現時点で表に残っているのは一部格納庫とスタジアム、学生寮のみとなっている。
全国各地から日本にあるIS学園へとやってきている生徒の大半が里帰りのため帰国をする中、特にする事のない織斑 一夏は昼過ぎだというのにだらだらと学園寮のベッドで仰向けとなっていた。
「あぁ・・・臨海学校の疲れが抜けねぇ・・・」
銀の福音暴走を止めた件により勲章まで手にし、自らのISである白狼を白虎へとセカンドシフトさせる事に成功させたわけであるのだが。
その後が良くなかった。
ナタル中尉からの頬キスにより幼馴染二人から理不尽な懲罰をうけ、立て続けに誤って女湯へ入り込んでしまった事で千冬に親友の綾ともども海に繋がった渓谷へと放り込まれたダメージがまだ回復していないのだ。
今回はかなり活躍したつもりであった一夏はとほほと溜息をつき、今日はトレーニングをやめて休養に努めようと大の字になったまま瞼を閉じた。
しかし世界は主人公属性である彼に休息を許さない。
バタンと部屋の扉を開けて男子部屋へと入室してきたのは朝からどこかへ出かけていたルームメイト兼親友兼相棒の鶴守 綾と、その妹であるラウラ・ボーデヴィッヒ・鶴守。
そしてその二人に連行されてきた綾の恋人たるセシリア・オルコットの三人であった。
ラウラはセシリアから手を離すと一夏のベッドシーツを勢いよく剥がし、目を丸くした彼へと叱責した。
「たるんでるぞ嫁!はやく準備をするがいい!3分間待ってやる!」
「え、え、え?なに、どういう事だラウラ、リョウ?」
思わず上半身を起き上がらせた一夏が問うも、綾は暴れるセシリアを羽交い絞めにするので手一杯のようで、
「いーーーやーーーーーっ!!もうあそこに行くのは御免ですわーーーーーーっ!!」
「観念しなさいセラ!理由なく僕の傍から離れるのは許しませんよ彼氏として!」
「理由ならありますしそれ今更あなたが言いますの!?年上と見ると所構わず口説いたりキス待ちするくせによく彼氏面できますわね!?」
「いやそれは本当に本能に抗えず申し訳ないとは思いますが君がちゃんと止めてくれると信用しての事ですから!実際、何かしらの事案などなかったでしょう!」
「まだわたくし達付き合いだしてから二週間にも満たないんですのよ!?これから先何回あなたを強引に制止しなければならないんですの!」
「何回どころか一生ですよ!!」
「そんなの理解してるから文句言ってるんですのよ!!」
「「・・・・・・・・・」」
いつの間にやら羽交い絞めの体勢から後ろから抱きしめる形になって赤く頬を染める綾とセシリアの自爆芸をぼけっと見つめていた一夏であったが、着替え始めない事にむっとしたラウラからパロスペシャルに固められて悲鳴をあげる。
「あ痛だだだだだだだだだだ!!」
「早く着替えろと言っているんだ嫁よ!でなければ到着が夜中になるぞ!」
「分かった分かった着替えるからどこに行くって!?」
ミシミシと腕関節がチキンウイングされていくのを堪えながら聞く一夏。
綾の腕にそっと自分の手を添えるセシリアは、頭からふつふつと湯気をくゆらせながら呟くように回答した。
「・・・鶴守 豪の研究所ですわ」
「け、研究所っ!?鶴守 豪って、リョウのおじいさんだよな!?」
技を解いてもらった一夏が関節の痛みに堪えながら聞くと、綾は眼鏡の中弦を指で直しながら頷く。
「君のIS、白狼はセカンドシフトして白虎となりました。白虎はもともとお爺様が設計した宇宙開発用のインフィニット・アストロノーツをISとして改良したもの。何故そのような形での進化をしたのか、一度それをお爺様に解析してもらう必要があります」
「な、なるほど・・・進化したのか、それとも元の姿に戻ったのか、って事か」
「一夏にしては察しが良い。なので早く着替えてください、すぐに出発しますよ」
セシリアの頭に顎を乗せながらせっつく綾に何となくイラっとする一夏であったが、綾の故郷に興味が無いわけではない。
一旦ラウラとセシリア、綾に外で待っていてもらう間に夏向けの私服に着替えていく。
ショートのワークパンツにVネックのTシャツ、薄手のシャツを羽織って通気性の高いスニーカーを履き、簡単に顔を洗って髪型を整える。
忘れ物が無い事を確かめて部屋を出て、鍵を閉めながら一夏はそういえばと思い出す。
「箒や千冬姉には声かけなくていいのか?」
「千冬先生は現地で合流する手筈となっています。箒は現在、簪さんと本音と一緒にIS日本連盟から呼び出しをくらっています。簪さん達は日本代表オファー関連でしょうが、箒は篠ノ之 束についての聴取でしょうね」
「・・・そう、か」
忘れていたが箒はIS国際連合の監視下におかれているのだ。
臨海学校で接触した事は千冬の指示で内密となっているし、紅椿を受領した事は鈴のISと合成した事で誤魔化しが利くが、IS学園の弁護に現れた事は流石に隠せるものではない。
事前に箒と何かしらのやり取りがなかったか確認したいというところであろう。
鈴も夏休みという事で中国へ戻っているし、なんだか一抹の寂しさを感じる一夏である。
「シャルロットもフランスへ帰国している・・・が、実はそのシャルロットが大変なのだ」
「え?」
ラウラの緊迫した物言いに反応せざるを得ない一夏がポケットに鍵をしまって視線を向けると、腕を組んだセシリアが眉間に皺を寄せながら語る。
「豪お爺様から伝言があったそうですの。篠ノ之 束の行動からシャルロットが何者かに狙われる可能性が高いと推測される・・・なので、本当のところは一夏さんのISについてはついでですのよ」
「なんだって・・・!」
聞き捨てならない情報である。
帰国する前、父と一緒に実母の墓参りに行くと楽しげに語っていたシャルロットに、手を出そうとしている連中がいるとは。
仲間の身に危険が迫っていると知らされては一夏も落ち着いてなどいられない。
あと、せめてそんな真面目な話は最初にしてほしいし、セシリアはいつまで綾の顎を頭にのせているんだ。
「お爺様はこの事態に隠し玉として準備していたIS使いをシャロの護衛のためフランスへ派遣したそうです。時差やタイミングの問題でシャロへ連絡が取れない今、我々はお爺様から詳細な状況を知るために、急いでお爺様の元へ行かなければならない」
「直接フランスに行くんじゃダメなのか?」
「シャロだって強力なマイスターです、そう簡単にやられる事は無いでしょう。また、お爺様が言うには派遣されたIS使いは男性だそうです。ならば、敵がどちらを優先して狙うかは考えるまでもない」
「男!?俺達以外にISを使える男がまた出て来たのか!?」
歩きながら驚きで目を見開く一夏。
一夏もISコアの起源については綾に聞かされている。
篠ノ之 束が意図的にISを女性しか使えない様設定している事も。
ならば、その新たな男性IS使いはどういう理由でコアの反応を受けているのか。
「そのあたりの説明も聞きに行かなければね。とにかく今は行動です。セラも、もう覚悟は出来てますね?」
「ああもう、分かってます分かってますわよ!シャルのためなら命の保証のないジェットコースターにだって耐えてみせますわ!リョウ、わたくしの手を離したら許しませんわよ!」
「離しませんよ、絶対にね」
「イチャついてるのはいいがさっさと走れ。電車に間に合わなくなるぞ」
路線アプリを起動して現在時刻と見比べたラウラが指摘すると、急いで乗り込まなければ到着までに本気で日付が変わってしまう。
「や、やべぇ!急ごうみんな!」
「だから急いで着替えろと言ったのだ嫁!」
「あんな起こし方で急げるかよ!」
日頃から鍛えている4人は夏の熱気に耐えながら灼けたアスファルトの上をひた走る。
どうにか電車には間に合い、後は事故で停止しない事を祈るばかりであるが、何より祈らねばならないのはシャルロットの無事である。
鈴はISのカモフラージュもあり狙われる可能性は低い。
綾たちもまた、4人で固まっている限りは手を出しにくい存在だ。
だが、彼らは想定していなかった。
敵の狙いがシャルロットだけではない事を。
そして、それすら豪と束は察知していた事も。
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フランス郊外の高速道路をシルバーのメルセデス・ベンツ SLA450が低重な排気音を響かせながら走る。
4WD、3000cc直列6気筒ガソリンエンジンを心地良く回転させながらカーナビの指示通りに飛ばすのはデュノア社代表取締役兼社長であるアルベール・デュノア氏。
助手席に座って機嫌よさげに風景を眺めるのは愛娘のシャルロット・デュノアである。
「お義母さんは来れなくて残念だね」
「仕方ないさ。私が言うのも何だが、ロゼンダにも心の準備というものがあるのだろう」
親子はIS学園夏季休暇を利用してシャルロットの母であるナディア・ランベールの墓参りへと向かう最中なのである。
以前より生家への帰郷を望んでいたシャルロットであったが、父および義母との折り合いの悪さから実行出来ずにいた事がどうしても気がかりであった。
それが知己朋友たる綾の行動一つで冷え切った親子仲が改善されたため、フランスへ戻ったシャルロットは思い切って両親へと墓参りを提案したのだ。
戸惑いながらもそれを受け入れた父アルベールであったが、義母ロゼンダは悲し気な笑顔と共にもう少し時間を頂戴と、己の中の葛藤と向き合うために今回は遠慮した流れである。
仕方がない事だとシャルロットは思う。
昔であれば気にし過ぎであると言っていたかもしれないが、一度失恋を経験し男女仲というものを少し知った今のシャルロットにはロゼンダの気持ちも分かるというもの。
ロゼンダからすればナディアの娘を今は自分の子として愛せはしても、夫を寝取った女のために墓へ向かうというのは難しく、強制すべき行為でもない。
だからアルベールはシャルロットと懐かしのモンサンミシェル近くの田舎町へと、二人だけで伺う事にしたのだ。
「しかし、残念だ。リョウはあのセシリア嬢とくっついてしまったか。いや、確かに彼女は素晴らしい淑女だとも、私もあのセカンドシフトには感動して涙を流したものだ。それにしたって、うちのシャルロットだって決して負けておらんのに・・・」
「もー、お父さん!ほじくり返さないでよ、ボクだってまだちょっと引きずってるとこあるんだから・・・」
「す、すまん」
娘に叱られてハンドルシフトをカチカチと操作するアルベール。
既にコラムMTモードATのギアは7速となっているためその行為に何の意味も無いのだが、手持無沙汰の相手としては丁度良いのだろう。
とはいえ、父親としては娘の失恋が気になって仕方がないのである。
相手が自分も気に入っていた少年なのだから尚更だ。
それは変化のあったシャルロットの外見からも気がかっているのだが。
シャルロットは髪を切った。
理由としてはお察しなのであるが、自分という人間の成長過程に一つの区切りをつけたかったというのもある。
ノームコアのショートボブとなって一層大人びた雰囲気を纏ったシャルロットは、失恋を経ると髪を切るという通説は本当なのだなとぼんやり思い、遠く異国の地にいるのであろう友人たちへと思いを馳せた。
色々な事があった。経験をした。
楽しい事、辛い事、嬉しかった事、苦しかった事。
皆と一緒に乗り越えて、今の自分に辿り着けたことを誇りに思う。
思い出の中心にいるのはいつも綾であり、彼に恋人としての関係を拒絶された事は残念な事であるが、それでも今も友人として共にあれるのはやはり嬉しい事で。
前向きに受け止める事が出来たのも恋敵が心から尊敬できる親友のセシリアだったから。
それに、自分の醜い気持ちを全て吐露させてくれたラウラのおかげなのだろう。
旅立つ前に箒から言われた事がある。
「誰かに恩を感じるのはいいが、それを返す事に夢中になるな。誰もお前に恩返しされるためにお前と接していた奴なんていない。仮に誰かのお陰で助かった事があったとしても、その中で成長を感じられたのならそれは間違いなくお前自身の力なんだ」
優しすぎるが故に、他人のために命を賭けて投げ出してしまいかねないシャルロットへの、友人としての忠告。
鈴からも。
「アンタは賢すぎんのよ。もっとバカになっていいの。自分に自信もって、助走つければ壁を乗り越えていける力があるんだから。迷ったら自分の心に問いなさい、きっと答えは最初からそこにあるわ」
これは特に理由があっての言葉ではないのだが、鈴は本能的にシャルロットの苦悩しやすい癖を見抜いての忠言だったのだろう。
二人の言葉を胸に、具体的にどうしていけばいいのかはまだ分からない。
それでも、ずっと忘れずにいようとは思った。
大切な人達の、自分を思いやった言葉だから。
まえより風通しの良くなった首元を心地良く感じながら、いつしかシャルロットは周りの風景が昔に馴染んだことのある景色へと変化しつつあることに気付いた。
アルベールの運転する車が高速道路を降りたのだ。
そのままドライブする事30分弱、かつて暮らした小さな町が目に映る。
「うわぁ・・・懐かしいな」
一度だけ家出をしてここへ帰ってきた事もあったが、あの時は懐かしさを感じる余裕などなかった。
ただ過去へと救いを求めてやってきただけで、その想いも簡単に打ち砕かれたのだから。
母と暮らした家へと、シャルロットは手振りしながらアルベールへルート指示し、頷きながら父はカーナビではなく娘の言葉に従って運転する。
田舎に相応しくない高級車のお出ましに町の人々は目を丸くするが、もうそんな事くらいで心を乱されるシャルロットではない。
長い間手入れしていなかったから汚くなってるかな、お母さんのお墓も綺麗にしてあげなきゃな。
そんな考えと共にやがて車はある一軒の家の前に停車した。
助手席から降り立ったシャルロットは懐かしの実家を視界に入れた瞬間、またも裏切られた気持ちになる。
とはいっても絶望が支配した昔と違って、今回は呆気に取られたというのが正しいのだが。
なんということでしょう。
土に埋もれていた井戸は輝きと機能を取り戻し、溢れんばかりの地下水を湛えているではありませんか。
あれだけ荒れ果てていたタンポポ畑は耕されて小松菜とローメインレタスが植えられスクスクと成長しており、畑が乾かない様に小石を敷き詰めた水路の上を井戸から定期的に水が流れるよう整備されています。
クルミの木は害虫が取り払われ、空洞になってしまった箇所には針金で補強がされており、元気を取り戻した実にはリスが食いつき、葉陰は蝙蝠が巣を作ることで自然と一体化しているのです。
では、家はどうなっているのでしょうか。
あんなに薄汚れてしまっていた外壁や屋根は隙間なく補修され、白系のグレーに塗装されてまるで新築のよう。
更に、見てくださいお墓を。
幼いシャルロットがどうにか形作った自然石を添えただけの母の墓は、不要となった硬石を切り出して1m程の石板を作ったものが、ワックスで磨かれて立っているではありませんか。
庭には雑草の一本もなく、家の中からは香ばしい油の香りが―――。
「いや待って待って待って!おかしい、おかしいよー!?なんでこんな綺麗になっちゃってるのー!?」
両頬に手を添えて声をあげるシャルロット。
思い出を汚されるどころか一周回って完璧に整備されて歓迎されているかのようで、戸惑いを隠せない。
「素晴らしい、この畑の水の流し方など職人芸だな」
「冷静に分析してる場合じゃないよお父さん!?」
手を叩いて表情を綻ばせるアルベールに即ツッコミなシャルロットは、屋根の上で日向ぼっこをしている猫の家族を見て何とも言えない気持ちになる。
よく見れば野良猫が遊ぶために荒縄で作られた爪とぎや、屋根の上へ遊びに行くための木製の足場、雨風をしのぐための小屋と毛布が家の横に配置されていた。
誰かが住んでいるのだろう事は容易に想像できる。ついで言えば猫が好きなのか?
「ああぁ、お母さんのお墓もこんな綺麗に・・・」
ふらふらと木の根元に埋葬した母の墓標へと近づくと、名前の彫られていない石板はどことなく中国風で、添えられた花々の中心には自分が墓石として供えた石が鎮座している。
何も知らない他人がやった割には、申し訳ないくらいの気遣いである。
ふつうなら誰とも知れない人の墓など気味悪がって片付けてしまいかねないのに。
「誰が住んでるのかは分からないけど、悪い人じゃないのかな・・・」
「ふむ、一応この家の持ち主は今でもナディア――の娘であるシャルロットの筈だ。一度話を聞いてみようか」
家の外に設置された物干しにつるされた男物の洗濯物を見やって、アルベールは咳払いをひとつ、鍵から何まで修繕された玄関をノックした。
「もしもし、どなたかいらっしゃいますか!」
「へいへーい?」
とたとたと中で歩く音が数回、がちゃりと扉を開いて出てきたのは10代後半と思わしき長髪の男。
片手には中華鍋、その中には炒められた小松菜とレタスとクルミ。
頭には黒いタオルが巻かれ、エプロンをかけたその姿はまるで家系ラーメン屋の店主のようであった。
言葉を失うデュノア親子。
その二人をしげしげと眺めた男―――ボゥイ・シューマッハは、しばし考えた後に手にした鍋とアルベール、シャルロットを交互に見て、
「・・・食べますかい?」
と、問うた。
よく動くなこの男。
果たしてシャルロットや他のヒロインとフラグを立てる事が出来るのか。
・・・いや、書いてる俺が無理だと思う。。。
あと、シャルロット母の名前が不明だったので勝手に命名しました。
正解を知ってる人いたらおせーて。