インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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ボゥイ・リメンバー・ゴー

「―――以上が今回の任務内容となります」

「デュノア社令嬢を誘拐。その程度で新型ISのナレッジが手に入るなら安いモンかねェ」

切れかけの電灯が明滅するどこかのトンネル中、オールバックの銀髪を湛えた若い執事風の男が長髪の女性へと話しかけている。

 

女性の名はオータム。

 

それが本名かは定かではないが、とある世界的反社会組織に与する工作員の一人である。

「はい。デュノア社が発表したツインコアドライブはまだ現在の環境に不必要なもの。事故を装って回収して頂きたく」

「分かってるさ。試作されたツインドライブ搭載機は回収して、世間的にはデュノア社の不手際として認識させればいいんだろ?」

「ご認識の通りです。成功時の報酬はかねてよりご請求頂いておりました、ISコア3つと新型機を亡国機業(ファントム・タスク)へ納品致します」

亡国機業というのが会社名なのかオータムが属している組織名なのかは不明だが、どちらにせよ彼女にとって目の前の男は良い取引相手である。

なにせ、世界中で扱いを厳しく取り締まわれているISコアをこうやって簡単に流通してくれるのだから。

もちろん多少のリスクや不信感が無くはないが、それを容認してでも受け入れるべきメリットが大きい。

 

「今回はまた太っ腹な事だなァ?んで?デュノア社のお嬢様の生死は?」

「可能な限り生かして連れてきて頂きたい。死亡時の報酬は大幅にカットさせて頂く事になります。具体的には―――」

「あァ、いい。そんだけ聞けりゃ十分だ」

強力な性能を持ったシャルロットのISに真っ向から立ち向かおうなどとは思わない。

どんなに強いといってもまだ10代半ばの小娘だ、威圧して、警戒させて、憔悴させて追い詰めたところで寝首を掻けばそれでいい。

時間制限はつけられていないのだ、じっくりやらせてもらうとしよう。

 

手慣れた様子でその場を去ろうとするオータムへ、執事風の男は続ける。

「成功をお祈り致します。我が主と、あなた方亡国機業の未来に幸あらん事を」

「そんなお為ごかしはいらねェよ。テメェらは黙って報酬だけ用意してりゃいいんだ」

かつ、かつとハイヒールの足音を響かせて通路を去って行くオータムを、姿が見えなくなるまでお辞儀の体勢で見送った執事風の男は、それからややあってから顔を上げた。

 

品のない女だとは思う。

それゆえに、いちいち彼女の言葉に反論する事に意味は無い。

こちらとしても目的さえ達してもらえるなら、取引相手の人格など問わないのだから。

 

「さて・・・後は篠ノ之 箒か。ゴーレムだけで十分とは思うが念には念を押すとしよう」

呟いた男は、今度は背後から訪れる気配にゆっくりと振り向く。

 

刹那。

 

眼球の目前まで迫っていたアーミーナイフを、革の手袋をつけた左手で――文字通り紙一重で受け止めた男は、その凶行に奔った小柄な少女へと慇懃に向き直った。

「お戯れを、M様」

「ふん・・・たかが男の分際で生意気な」

音もなく近づき斬りつけてきた――Mと呼ばれたぼさぼさな黒髪の少女は、二本指で止められたナイフから不機嫌そうに手を離し、眉間に皺を寄せながら男を睨む。

男は表情を崩す事もなく、指で弾く様にナイフをMへと投げ返すと胸に手を当てて礼をした。

 

「ご足労感謝致します、M様。こちらへお出で頂いたという事は、我々の依頼を引き受けてくれるという認識でよろしいでしょうか?」

「まずは詳細を聞いてからだ。(わたし)が頭から貴様らを信用しているとでも思うか?」

「成程、失礼致しました」

 

肩から足元まで真っ黒なマントで包んだMは、いつでも臨戦態勢を取れるようその下にISスーツを着込んでいる。

加えて、先程の行為を見て分かる通りとても非常識かつ、残虐性を秘めている事がわかる。

つまりは彼女がIS使いであり、いつそれを起動して襲い来るか分からないのだ。

だのに冷静沈着な態度を乱さない男の対応は、Mにしてみれば気に食わないという概念を擬人化したようなものに映る。

自分はこの世で最も強い女の写し身であるという自尊心が先立って、その他の下等な女どもはおろか、それ以下であるISを使えない男などという存在が、こうして立って見下ろしてくるのが癪に障る。

危険思想極まりないMの考え方は、しかし執事風の男には関係も興味も無い事であった。

「今回、貴女に依頼させて頂きたいのは、篠ノ之 箒という少女の抹殺です」

シャルロットのように誘拐ではなく、殺害を指定した男の言葉に鼻を鳴らすM。

「はっ、抹殺ときたか。それは楽でいい」

「ええ。それが達成された暁には、亡国機業が貴女に投与した監視用ナノマシン。これを完全停止して差し上げましょう」

「・・・・・・」

 

ぴくり、とMの瞼が動く。

それが既に肯定的な意味をもつ事は誰にでも察する事が出来た。

「それで貴女は心置きなく織斑 千冬と接触が出来、憎き織斑 一夏を殺しに行けます」

「願ってもないな。だがそれで貴様らに何の得がある?それは亡国機業への裏切りと同義ではないのか?」

「ご心配には及びません。それしきで彼らは我々を見切れません」

伏せ気味の瞳はMから逸らされることは無く、殺気に満ちた獣の様な視線からぶれもしない。

半信半疑ではあるが、自分をいいように扱うくだらん組織から解放されるならやってみてもいい。

そう思える程度には男からの提案は魅力的だった。

 

「・・・いいだろう。ターゲットの位置を教えろ。すぐに仕留めてきてやる」

「いえ、8月の半ば、我々の都合で現場にゴーレムを大量に放ちます。その合間を縫って目的を達して下さい」

「ふん・・・その程度なら聞いてやるか」

男の胸元のポケットから取り出されたメモをひったくる様に奪ったMは、内容をすぐさま暗記すると細かく破り捨てて唾を吐き捨てる。

「無能共の集まりが・・・真の強者とはいかなるものか、その身に叩き込んでくれる」

「是非に」

あとは挨拶も会話もなく、気配を消してその場から去って行くM。

まるで最初からそこにいなかったかのように痕跡もなく。

執事風の男は完全に気配が消え去った事が確認できると、面倒そうに長く息を吐いた。

 

「・・・ま、貴女が任務に成功しようとしまいと関係無いのだが」

 

彼の――彼らの目的は、篠ノ之 束を燻り出す事。

彼女の妹を連れ去るのではなく、全力で殺しにかかれば必ず何かしらの介入を行う筈。

もし何のリアクションも無いのなら、その時は篠ノ之 箒に何の価値も無い事が判明して終わりである。

 

彼らが内通している亡国機業(ファントム・タスク)という組織は戦争の継続を理念として掲げる秘密結社であり、大規模な争いによって生じる技術の躍進や不要な人口の間引き、それによって訪れる人類の進化を理想としている。

所属する人間達も、オータムやMのように一枚岩ではない。

それぞれに思考思想があって、各々の目的のために混乱を招いているという意味では同じであるというだけである。

だからこそ、使い道がある。

「精々、知能の低い女達で争っていてほしいものだ」

誰にというわけではなくごちた執事風の男は、静かにその場を後にした。

 

深まったのは、混沌。

 

これから生じるであろうカオスの火種を撒きながら、男は我関せずといった風に主人の元へと帰るのであった。

 

========================

 

「どう?!美味い?!美味いだろそーだろ!?このライスな、近所の農家の婆ちゃんが譲ってくれたんよ!オレも最初はフランス産のライスなんてなー、どうかなーと思ってたけど案外イケるんだな、ビックリしたぜ!あとこの水!そのまま飲むのヤバいかと思って自家製で濾過してみたんさ!あ、オレが飲んでハラ壊さなかったから多分大丈夫!飲んでみ?ホラ!」

 

元シャルロットの実家へと招き入れられたデュノア親子は、宅内に入るなりボゥイから圧倒的歓待を受けて戸惑っていた。

埃一つなく片付けられた室内には椅子が無く、ちゃぶ台のようなテーブルに所狭しと並べられた料理の数々。

まさか社長になってまで床に直に座る事になるとは思っていなかったアルベールであったが、若い頃の現場作業時代を思い出しながら悪くもないかと腰をおろし、出された炒め物へ慣れない箸で挑む。

「・・・むっ、これはなかなか美味いではないか。火の通り加減が絶妙だ」

「うわっ、ほんとに美味しい・・・!」

「そうだろそうだろソースだろ?あ、ソースはここにねぇけどな!おっさんなかなか鋭いねぇ!」

時刻は昼時、少し小腹が空いていた親子にはありがたいもてなしであった。

 

たかが油で炒めただけの小松菜とレタスがこんなにも色鮮やかに、旨味を出すなど知りもしなかった。

シャルロットに至っては、昔木に登って取って割って食べるだけだったクルミが、こんなに甘く歯ごたえ柔らかくなるなんて考えた事もない。

更に、残りものの米と卵、生姜と塩胡椒だけで作られた卵炒飯も絶品である。

台所には彼が設置したと見えるドラム缶と鉄筋が組み合わされたお手製のコンロがあり、缶の中に火種を入れて空気をペダルで吹き込んで高火力で材料を熱する事が出来るのだ。

それで作られた炒飯は、適度に水分を飛ばしてパラパラとした舌触りを米に与え、混ぜられた卵は米粒をさながら黄金に輝かせているかのようにコーティングしている。

自分もだいぶ料理をする方であるが、この技術には脱帽するしかないシャルロットである。

強いて言えば、鈴の料理にどことなく似ている。

 

「そういえば・・・ボゥイ・シューマッハさん?あなたは中国系の方なの?」

庭の母の墓石もそうだが、料理の傾向を見てもそうであると考えられたシャルロットは、ふとボゥイと名乗ったその男へと尋ねてみる。

「なんだい畏まって。ボゥイでいいぜ嬢ちゃん!年もあんま変わんねぇみたいだしな!」

「あ、じゃ、じゃあボゥイ。ボクの事もシャルロットでいいよ」

「おう!で、何だっけ?オレが中国人かって?まぁ産まれはそうさね、その後にイタリア国籍にしたんだけども、後でフランス籍に変えなきゃいかんかなーとも思ってんだよな」

溌剌とシャキシャキ喋るボゥイに割り込む隙のないアルベールはしかし、イタリア国籍に「した」という言葉を見逃さない。

したといって、そう簡単に変えられるものでもないだろう。

「君は随分と込み入った経歴の持ち主のようだね。どういう経緯でイタリアに籍を移したんだね?」

「あぁ!フェラーリとかランボルギーニが好きだからさね!」

「そういう誤魔化しは好かんよ。君は一体、何者なんだね?何故ここに住んでいる?」

疑念の眼差しを向けてくるアルベールに対し、特に嘘も何もついていなかったボゥイはポリポリと頬を掻く。

 

そういえば何でオレここにいるんだっけ。

 

少し考え込んでこれまでの経緯を思い出そうと唸ったボゥイは、やがて豪に提示された写真の姿と目の前の親子を合致させて「あー!」と叫んだ。

「ど、どうしたの、ボゥイ?」

「やっべぇ忘れてた!なに一人暮らしエンジョイしてんだオレ!」

慌てたようにテーブルから離れてバッグを漁ったボゥイは、豪から渡された写真とプリント一枚、そして宝石のような金属塊を次々テーブルに置いていく。

「な、何だねいきなり?」

「悪い悪い!オレおっさんとチャルコットちゃんを待ってたんだよ、ここで!」

「え!?ボク、シャルロットなんだけど!?」

名前を間違えて覚えられた事はともかく、眉をひそめてそれらを確認していくデュノア親子は、その文書の中に鶴守 豪の名前とIS学園及びそこへ在籍する専用機持ちの危機についての記述を見て驚きに目を見開いた。

 

「これは・・・!シャルロット・デュノアが狙われる可能性、詳細不明組織の暗躍!?」

「どういう事なの、ボゥイ・・・!?」

「んん、詳しい事はおやっさんに聞いてくれぃ。ちょっと待っててくれよ・・・っと」

金属塊へ手を置いて意識を集中させるボゥイ。

 

ぼわりと淡い光を放ち始めたそれは、周囲にあるネットワーク受信機へ暗号化された通信を送り、光回線を通じて日本・群馬県榛名山にある鶴守 豪の研究所へと情報を伝達する。

やがてその反応を受信した豪は待ち侘びたとばかりに応答を返すと、金属塊から豪の姿がホログラフィとなってシャルロット達の前に映し出された。

 

「ご、豪さん!?」

「ホワッ!?こ、この小さい子が、あの凄腕と呼ばれた鶴守 豪!?」

『うむ、良いリアクションだが受け入れてくれデュノア社社長。おれが豪だ』

音声のズレも少なくリアルタイムの映像が転送されるのもさることながら、かの有名なIS技師がこんな子供である事に驚きを隠せないアルベール。

嘘と思いたくとも、愛娘が証人として隣にいるため否定も出来ない。

豪はボゥイをちらりと見やると、

『どこまで話してある、ボゥイ?』

「詳しくは何も。今までメシ食ってたんでねぇ」

『めしっ!?・・・まぁいい。おそらくボゥイの勢いに流されたのだろう。心中察するぞ、社長』

「め、面目ない・・・」

何かと疑いたくもなる状況であるアルベールだが、こう気を遣われては疑心暗鬼に陥る気も失せるというもの。

あまりに突拍子もない状況であるが、もはや信じざるを得ないようだ。

 

「・・・信じましょう、ミスター豪。あなたの孫には礼を言い尽くせない程の借りもある」

『そう思うのなら少しは僕に対しての態度を改めてもらえませんかね?』

「おおっ!?リョウもいるのか!?」

豪の後ろからひょいと顔を出してくる綾。

その周りにはセシリアとラウラ、一夏と千冬の姿もある。

「みんな!?どうして?」

『あなたがピンチと聞いて急ぎ研究所へ駆け付けたんですのよ!』

『大事無いかシャルロット?メシとは何を食べたのだ?』

『今そこ突っ込まなくていいだろラウラ!?シャル、一夏だ!大丈夫なのか!?』

皆、我先にとシャルロットへ声をかけてくるのをホログラフ越しに確認し、シャルロットは嬉しさに少し涙を浮かべた。

「大丈夫だよ、ありがとうみんな」

映像を挟んで頷くシャルロットに一安心する一同。

 

『無事を喜ぶのは後にしろ。社長よ、初対面で申し訳ないが頼みがある。聞いてはくれんか』

通信できる時間が限られているのか、少し焦り気味に豪が綾達を押しのけて話を続ける。

それを受けてアルベールは緊迫した空気を読み取って頷いた。

「まずはお話を伺いましょう。具体的な返事は後程でよろしいか?」

『なるほど商売人の回答だな。いいだろう、では状況の整理からだ』

 

豪が何かを描く様に指先を動かすと、ホログラフの映像が複数の数値データ画面となって表示された。

それはデュノア社の株価、シャルロットのパーソナルデータ、フェニックス・リヴァイヴの観測データといった、デュノア家に深く関係するものばかりである。

『デュノア社の業績はツインドライブの実装により急速に頭角を現している。そのタイミングでの新型量産機コスモスの発表も大きいのだろう。コスモスも実戦データを重ねればツインドライブ実装機を展開させる予定もあると思うが、違うかね?』

「・・・・・・」

『まぁ、社長の立場ならこんな場所でイエスとは答えにくかろう。だが今は仮に是として話を進めるとしようか。現在はデュノア社社長令嬢にしてお抱えのISマイスターであるシャルロット嬢ちゃんのフェニックス・リヴァイヴのみがツインドライブ搭載機を保有している事になる。この技術及び機体を欲しがる同業他社や反社会組織がいるのは理解できよう?』

「それはもちろん。ただ、IS学園やデュノア社内にシャルロットがいる分にはまだ安全だ。そう考えて私はシャルロットを日本へと出向させている」

 

アルベールの回答通り、IS学園に在籍する生徒に対してはどの国、どの勢力に対しても利益を得るために干渉してはならないという合意がIS国際連合にて締結されている。

学園内部での交際や接触はIS学園が許可している範囲であれば問題ないが、外部からのスカウトや武装の営業、引き抜きといった行為は全面的に禁止されている。

そのため外部からの出入りは非常に厳しく取り締まわれており、先のタッグトーナメントのような大仰な催しでもない限り関係者以外立ち入りすら出来ないのである。

本人が無事であれば、本人の認証なしに起動も秘匿情報の閲覧も出来ないIS専用機が外部へデータ流出するようなことはまず無い。

もちろん、豪や束のような一般人を遥かに凌駕した知能を持っていない限りは、である。

豪が懸念しているのはまさしくそこだ。

 

『もし仮に、おれや束レベルの知能犯がいたとしたら待機状態のISを狙うだけでも価値が出る。つまりは手段を選ばずシャルロット嬢ちゃんを狙うメリットが高まるだろう。その可能性を考えた事は?』

「・・・!無くはない・・・が、それでも限りなく可能性は低い筈だ。なぜなら、ISコアを完全に解析出来た者などこれまでいなかったのだから」

『そう、それが世間の常識だ。だからその考えは今すぐ捨てて欲しい。よく聞いてくれ社長、かつて宇宙開発モジュールであるインフィニット・アストロノーツの開発途上でコアを産み出したのはおれ。そのコアを元に戦闘用のアウターとして束が開発したのがインフィニット・ストラトス。分かっている時点で少なくとも二人はコアの解析が出来る者がいる』

「なん・・・だと・・・!?」

一般には公開されていない、豪がコア製作者であるという事実にたじろぐアルベールが思わずシャルロットへ視線を向けるも、静かに頷いて返され言葉を失う。

豪はおちつくように両手でジェスチャーをすると、

『勘違いしないで欲しいのは、おれにデュノア社へ危害を加える意志はないという事。ここで問題となるのが、篠ノ之 束の動向から察するに、コアの解析が出来る者がおれたち以外にも存在する可能性が出てきたという事だ。そしてその者は、束が警戒せざるを得ない程に悪辣であると思われる』

「C'est quoi・・・!」

思わず何という事だと呟くアルベールと、それを今聞いて知ったのだろう綾達IS学園の生徒達も表情を強張らせた。

畳みかける様に豪はシルバリオ・ゴスペルのデータと、IS学園生徒の中で専用機を持っている者をリストアップした画像を表示させる。

『先日、我が孫を含むIS学園1年生がアメリカ軍の全身装甲IS、シルバリオ・ゴスペルと戦闘した際にコアが計5つ搭載されていた。うち一つはアメリカ軍へ配備された束の量産コアである事が判明したが、残り4つが出所不明。もちろんおれが作ったものではないし、おれのところの設備ではコアの量産は出来ん。やって1年に2個出来るかどうかだ』

「もしや、そのコアを作ったというのが・・・!?」

『おれや束以外にコアの解析が出来る者だろう。こいつ、もしくはその組織を仮にXと呼称する。XはおそらくVTシステムとかいう忌々しいウイルスを作り出したニコライ・ゲルトナーへの出資者の一人なのだろう、だからゴスペルに投与されたウイルスはその流れを汲んでいた。では何故Xはそれを以て綾やラウラと戦ったのか。おれの推論はこうだ』

ごくりと唾を呑むアルベール、シャルロット。

 

『Xは外部から手を出せないIS学園を疎ましいと考えている。XはISに関する技術を独占したいと考えている。XはISで世界を揺るがす何かを画策している。このいずれか、もしくは全部だ』

 

「だからIS学園の専用機持ちを潰そうとした・・・ううん、いっその事日本列島ごと亡き者にしようとした・・・!?」

『ゴスペルを差し向けた理由としてはそんなところだろう。あわよくばアメリカ軍の責任にしようともな。そのあたりを探るのはひとまずIS国際連合やアメリカ軍に任せるとして、我々が考えねばならんのは次のXの一手だ』

そこまで来て、アルベールはハッと気づく。

「・・・そうか、私がXなら確かにシャルロットを狙う!第三世代の中でも専門の調整が必要なリョウ達の機体ではなく、設備とナレッジさえ整えばコストはかかるが強力な機体を大量生産しうるシャルロットの機体はリスクを度外視しても狙うべき獲物だ!」

『そういう事だ。理解が早くて助かるよ、流石はおれが見込んだ社長サンだ』

豪は専用機持ちリストの名簿欄に次々とバツ印をつけていく。

現時点で狙いやすい、かつ狙う理由のある生徒はたった三人。

 

凰 鈴音。

篠ノ之 箒。

シャルロット・デュノア。

 

『まず凰 鈴音は束が第四世代機として作った紅椿を綾がデチューンした機体を所有。これは公的に第三世代機として登録されているし、肝心の第四世代たらしめる機能は削除・・・というか封印して秘匿しているから狙われる可能性は低い』

「そりゃいい事じゃねぇの」

と、ここまで黙っていたボゥイがなんとなく口を挟む。

それを気にしたのはシャルロットだけであったが、豪は続ける。

『篠ノ之 箒が狙うべきとされるのは言わずもがなだ。なんせ束の妹だ、捕まえて餌にして束を釣ろうとする連中だっているだろう』

『・・・!!』

歯軋りをする一夏。

これまでずっと近くで箒と過ごした来たのに、そんな可能性すら考えなかった自分の鈍感さに腹が立っているのだ。

『そしてシャルロット嬢ちゃん、おれが気にしてるのはお前さんだ。お前さんの意志や内面がどうこうというよりも、立場的な意味でな』

「わかってます、ボクだってここまで話されれば嫌でも理解できる。デュノア社の娘で、ツインドライブ搭載機を持ってて、豪さんの居場所も知ってしまってる。Xがどこまで知ってるかは別として、ボクが捕まってしまう事はどう考えてもまずい」

覚悟の眼差しで豪を見据えるシャルロット。

彼女の性格上、どうしても手に負えなくなったら自決すら厭わないとすら思わせてしまう悲壮な表情であるが、豪はそんな彼女のためにアルベールへと提案を持ちかける。

『おれの説明は終わりだ。では、改めて頼みがある社長』

一旦の区切りをつけ、真剣な顔つきで頷くアルベール。

「・・・私に出来る事なら」

 

『そこにボゥイというガキがおるだろう?そいつをデュノア社お抱えのISマイスターとして世間へ紹介し、来期からIS学園へ通わせてやってくれ』

 

「・・・は!?」

「えぇ!?」

「お?」

色々とすっ飛ばして結論から述べた豪へと、ボゥイ以外全員の唖然とした表情が迎える。

おちつけと再度両手でジェスチャーした豪は、またも順を追って説明を開始した。

『まぁそんな難しい理屈じゃない。考えてもみろ、シャルロット嬢ちゃんが狙われる理由はさっき話した通りだが、だったらもっと魅力的なエサが転がってりゃXだってそっちに食いつくだろ。紹介が遅れたがそいつの名はボゥイ・シューマッハ。おれが鍛え上げた男性ISマイスターだ。シャルル・デュノアを含めれば4人目という事になるか?』

「男性マイスター・・・!?」

皮肉交じりの豪の物言い。

しかしアルベールはそんな事よりも、驚愕と共にボゥイへ視線を向ける。

「男だぞ。でかいのついてるぞ」

何を思ったのか股間を両手で指差して性別アピールをするボゥイに頬を引くつかせるアルベール。

実際のところは豪が彼にも束の量産コアが反応する様、ある仕掛けを施しているという事なのだが。

 

『筋書きはこうだ。デュノア社独自による調査の結果、IS反応が出る男性が新たに発見された。デュノア社は彼・・・ボゥイと交渉を行い専属契約を締結。奇しくもフランス人だった彼へ試作中のツインドライブ搭載ISを専用機として与え、来期からIS学園へと通わせる予定、とな』

 

「な、なるほど・・・同じ条件なら、女性であるシャルロットより男性であるボゥイの方が狙う価値が出てくると・・・」

『そういう事だ。ボゥイは生い立ちの事情から国籍が無い。イタリア籍とか言っとるが正式に登録したもんでもなければ、後でいくらでもフランス生まれとして誤魔化しはきく。ボゥイが狙われずともツインドライブIS使いが二人揃った場所にいれば、敵からすれば手出ししにくく嬢ちゃんに危害が及ぶ確率も大きく減る。あと本当にツインドライブのISをくれてやる必要は無い。似たようなISをボゥイには持たせてある。全身装甲(フルスキン)の特別製をな』

イェイイェイとダブルピースするボゥイを見やって頷くアルベールであるが、黙っていられないのはシャルロットだ。

「ちょっと待って下さい!そんな事をしたら今度はボゥイが危険に晒される事になるじゃないですか!」

「オレは問題ないぜ?なんたってオレは強いからねぇ」

「問題なくないよ!もっと自分を大切にしなよ!」

「ファッファッファ。そのセリフそっくりそのままお返しするさね」

心から心配そうにするシャルロットと、軽いノリで笑っていなすボゥイ。

どうすべきか考えあぐねているアルベールであったが、ふいにホログラフの映像にノイズがかかってくる。

『む、いかん。これ以上は通信がもたんな。ではな社長、返事はボゥイがニュースに上がるかどうかで判断させてもらうよ』

「ま、待ってくださいミスター豪・・・いやさマスター・ゴウ!」

『お、その名前カッコイイな。何か問題あったら綾かラウラに連絡くれぃ。通信終了』

言うが早いか、映像が途切れてホログラフが消えていく。

まるで邯鄲の夢であったかのような出来事だったが、金属塊を懐へとしまい込むボゥイの存在が夢でも幻でもない事を如実に物語っていた。

 

さて、取り残されたかのように床に座り込んだボゥイからすれば、指示通りデュノア親子と接触し、豪と話もさせた事でとりあえずの仕事は終了した。

後はアルベールになんやかや世話を焼いてもらって学校に通うだけだ。

楽しそうに肩を揺らしていたボゥイだったがしかし、唐突に真顔になると立ち上がり、訝し気な顔をするシャルロットとアルベールに向けて人差し指を立てた。

「ど、どうしたのボゥイ?まだボクとの話は終わってないよ!」

「シッ。静かにナルトットちゃん。誰か来るぜ」

「だっ、だからボクはシャルロット―――え?」

何をもってそう判断したのかは不明だが、ボゥイはシャルロットとアルベールへここで待てと指示して素早く小屋を出る。

 

舗装されていない畑道の周囲を見回すとすぐに、サングラスをかけた長髪の女性が遠くからこちらへ歩いてくるのが伺い知れた。

このあたりの住人の顔や日々の生活パターンは近所付き合いで大体把握している。

さらに、こんな辺鄙なところへ徒歩でやってくる酔狂など自分やシャルロット達を除けば居ないに等しい。

となればボゥイが警戒するのもわけないとも言えるが、そんな彼を認識した女性―――オータムは、不審そうに眉をひそめながらも近づき、走り寄ってきたボゥイと5メートルほどの距離を置いて対峙した。

「・・・あら?どなたかしら?アナタの様な知り合いはいない筈だけど」

「そうかい?オレは見た事ある気がするぜ。具体的にゃ、おたくに殺された事があるかもしれんねぇ」

にやりと笑って見せるボゥイが、首に巻いた白いファッションマフラーをなびかせる。

意味を理解出来ない言葉を発した彼の言葉に、オータムはかったるそうに首を捻り、

「はァ・・・?何言ってんのかわからないのだけど?頭おかしいのかしら?」

 

「だいだい5年前か?中国は四川省、四姑娘山(スーグーニャンシャン)の無名の寺院。あそこに隠されてた篠ノ之 束の隠し財産、盗って行ったのはおたくじゃないかね?」

「・・・あ?」

 

瞬間、本性を剥き出しにして威圧にかかるオータムの殺気に怯むことなく、ボゥイは笑みを崩さず続ける。

「オレはあそこでおたくに殺されたガキだったのさ」

「・・・!?」

駆け足でついてきたシャルロットがそれを耳にし、どういう事か問いかけようとする前にオータムは吹き出した笑いを堪える事無く大声へと変化させていく。

 

「クッ・・・ククック、ヒャハハハハハハッ!!殺されただァ!?生きてんじゃねェかよォ!何を可哀想ぶってんだクソガキ、笑わせんなよえぇ!?」

「可哀想ぶる?違う違う、感謝してんのさ。おかげでオレはボゥイ・シューマッハとして生まれ変わる事が出来たんだからな」

「・・・はァ!?感謝ァ!?」

 

嘲るような、癇に障るオータムの笑い声にもシャルロットに聞かれていた事も意に介さず、ボゥイは楽し気に、されど狂的なまでの怒りを瞳に灯しながらファイティングポーズを取った。

「でもな、ただ感謝してるワケじゃねぇんさ。あん時ゃ痛かったし苦しかったぜ、この人殺し。たっぷり礼だけはしてやんねぇとな!」

 

構えるは詠春拳、小念頭。

始祖の一人とされる厳詠春という名の女性が、父より学んだ四川梅花拳という南派少林拳から改良を加えた拳法と言われ、かのブルース・リーにも多大な影響を与えたとされる。

 

じっくりと、ゆらゆらとした動きを始めたボゥイだがオータムは、そんな彼を指差しながら嘲笑を止めない。

「ハーッハハハハハ!可笑しくて仕方ねェなァ!?このご時世に拳法かよ!まァ惰弱な男じゃそれが限界かもなァ、なんたってISを使えねぇ弱小種族だ!!一度殺されただってェ?んじゃァまたアタシに殺されに来たのかいゾンビ君!?」

「このっ・・・!」

「下がってろってマルコッコちゃん。大丈夫さ、すぐに済む」

「だからボクはシャルロット!どんどん遠ざかってるじゃない!」

あまりにも見下した物言いなオータムへ何か言い返そうとしたシャルロットだが、すぐさまボゥイの言葉に止められる。

まるで自分の名前を覚えようとしない・・・というより、覚えたのは名前の響きだけだと知ったシャルロットが思わずがなりたてた―――その瞬間。

 

邪悪に笑ったオータムが隙を見せたシャルロットへ拳銃を向け、同時にボゥイが地面を蹴り上げてオータムのサングラスへ土を被せる。

「ッ!?ガキィ・・・!?」

そのまま引かれた引き金はまるで見当違いの地面へと弾丸を射出し、思わずサングラスを外すオータム。

 

たったそれだけの隙に、ボゥイとオータムの間にあった5メートルという距離はゼロまで縮められ。

 

突き出された右の手刀がオータムの拳銃を打ち上げ、摺り足で懐へ潜り込んでの左の手刀が鳩尾を抉る。

 

「ぎゃがッ―――」

まるで鉄の杭に突き刺されたかのような衝撃に胃液を吐き出すオータムは、それすら許されないとばかりに右の拳肘が鼻に触れ、左の寸打が顎へと触れ、遅れて結果がついてくるかのようにそれぞれの骨が砕けていく。

悲鳴をあげる暇もなく背中から押し上げる様な体当たりが肋骨を砕く―――日本でも有名な、全身をフルに使っての勁―――鉄山靠。

瞬く間に放たれた五連撃がオータムの上半身を破壊し、中枢神経へ途方もない痛みを伝えた。

 

「―――」

 

言葉も出せず、文字通り一瞬で満身創痍と変わり果てたオータムはゆっくりとその場へとうつ伏せに倒れ込む。

ひゅー、ひゅー、と溢れ出る鼻口からの血に顔中を赤く染めながら、何が起きたのかも分からず困惑するオータム、目の前のボゥイが繰り広げた神がかった奥義にただ立ち尽くすシャルロット。

ボゥイは、これまでと変わらない明るい口調のままオータムを踏みつけると、かつての日を思い出しつつ言葉を紡いだ。

 

「おたく、あの時オレに何したか覚えてるかい?腕を引き千切って足を切り落として、さんざん嬲ってくれたっけな?」

「・・・・・・!!」

「燃える寺の中に投げ込んでくれたよな。あれ、ガチで苦しかったんだぜ。産まれてきた事を呪うくらいにはな」

 

殺してくれた、その結果だけ見れば確かにボゥイはオータムに感謝していた。

だが、それだけである。

 

恩になど感じていなければ、あれほどまでの苦しみを与えたこの女には・・・恨みと怒りが混ざり混ざって、既に臨界を超えているのだ。

それは復讐ではない。

かつて周 宇泽(チョウ ユゥゼア)という少年(ボゥイ)だった彼の、たった一つ生前にやり残した怒髪天の発露だった。

 

「ああいう事をしてくれたって事は!オレもテメェに同じ事をしてもいいって事だよなぁ、クソババァ!!!」

 

その怒りの大きさにシャルロットの鳥肌が総立つ。

その殺意の尋常じゃない圧力にオータムが白目を剥きかける。

 

耐え切れずにオータムはISを起動。

IS量子が収束してくるのを感じ取ったボゥイはバックステップを踏んでシャルロットを庇うように立つが、さながら女郎蜘蛛のようなけばけばしい姿のISを身に纏ったオータムがとった行動は、逃亡であった。

脇目も振らず、損傷した頭部周辺を庇える程度の速度で彼方の空へと飛翔するオータムを見送りながら、ボゥイは舌打ちして怒号をあげた。

 

「逃げんなーーーーッ!!戻ってオレに殺されろ、人殺し!!!」

「ひッ・・・!」

 

人殺し。

 

肉体への損傷を受けて、見下していた男からの圧力を受けて、オータムの精神にはその言葉が深く刻み込まれる事となった。

 

人殺し。

 

ここへ来るまでの余裕はどこへ行ったのか。

なぜ自分がこんな目にあっているのか。

ただ、愛する人のために粉骨砕身戦っていただけなのに。

そんな自分の正当化していた悪行の数々が、古傷が、たった一人の、殺した筈の男によって頭から離れなくなる。

 

人殺し。

 

「あっ、アアッ!アアアッ!!た、助けて、許してよ、スコール・・・!!」

 

人殺し。

 

いつまでも消えないその言葉と烙印に苛まれながら、オータムはフランスの地から去って行く。

 

情けなくふらふらと飛び去る彼女の姿を、見えなくなるまで睨んだまま立ち尽くすボゥイ。

そんな彼へと、おずおずと声をかけるシャルロット。

「ボ、ボゥイ・・・?あの・・・」

するとボゥイは何もなかったかのように振り返り、先程まで食事していた時と変わらない笑顔で迎え、

「ほらな?オレ強いだろ。ボディガードとしてデュノア家に一台いかがっすか?」

と、軽いノリで笑うのだ。

 

そんな彼の態度にホッとするシャルロット。

どうやら自分はボゥイという人間を見誤っていたと気付く。

彼は明るく考えなしで、他人の墓を作り直す程のお人好しで、バカだ。

けど、それだけじゃなかった。

 

ボゥイは、危うい。

 

怒りという感情が彼の中で形を変え、ふとした瞬間に彼の存在自体を塗りつくしてしまうような、激怒の悪魔が心の中に住み着いている。

箒が束の中の二面性について一夏へ言及していたように、ボゥイもまた、そんな二つの顔を持ち合わせているのだ。

 

そして、そう感じたシャルロットはやはり、誰よりも優しい少女なのだ。

何故なら。

 

「・・・やっぱり、世界って広いや。キミみたいな男の子もいるんだね」

「ん?どういう意味だい?」

「大丈夫。今度またキミがあんな風に自分を燃やし尽くしそうになったら助けてあげる。いつかリョウがボクにそうしてくれたみたいに、キミの怒りはボクが受け止めてあげるから」

「―――お、おぅ・・・?」

 

何故なら。シャルロットはそんなボゥイすら受け入れてしまうのだから。

愛や恋といった駆け引きではなく、綾が付き合えないと突き放してしまう程に。

あまりにも彼女の持った優しさは根が深く、強すぎるのだ。

そんな二人へとゆっくりと近づきつつ様子をみていたアルベールは、ようやくボゥイという名前の由来に気付く。

 

「そうか、ボゥイ・・・boy(少年)ではなく、bwiy(かっこいい)でもなく、bwoy(滅茶苦茶)というわけだ」

 




さくしゃは ルビふりを おぼえた!

出てきて即瞬殺されるオータムさん。インガオホー!
やりたい放題のボゥイ君はその名の通り滅茶苦茶がウリです。

そして謎の男は一体何なんだ。まだ考えてない。
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