インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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はっぴーばれんたいん。
受け取るが良い、おじさんの小説(チョコ)だよ。


ボゥイ・チェンジ・リベリオン

雷雨が奔る、とある国の孤島に隠れる様に存在する古城―――。

そこが秘密結社・亡国機業(ファントム・タスク)の支社の一つであった。

全体に苔生して蔦の絡まった外見は長い間手入れされていない事が一目で分かり、古びた石づくりは触れただけで崩れそうなほど頼りない。

そんな誰が王だったかも定かではない城の一室、照明のついていない夜闇のなかで蠢く影がベッドの上にあった。

「ウウッ・・・ア、ガァアアッ・・・!」

シャルロット暗殺に赴き、ボゥイに半死人に追い込まれたオータムは砕かれた骨の痛みに身じろぎし、包帯に覆われた口元から血を滲ませていた。

命からがらフランスから逃げおおせた彼女は亡国機業の医師によって応急処置を施され、医務室の住人と化して1週間が過ぎていた。

潰された鼻は美しかった女らしい外観を酷く損ね、呼吸という機能を忘れたかのように通気が出来ない。

砕かれた顎では食事も出来ず、濃厚な点滴が太い注射針にて腕へと繋がれている。

立ち上がろうにも胸部の痛みで腕を動かせず、用を足しに行くことも出来ないため尿道にチューブが刺さり尿瓶へ垂れ流されている状態だ。

 

なんという惨め。

なんという無様を晒しているのだろう。

 

こんな目に合わせてきたボゥイへの怒りと、こんな目に合わせたボゥイの強さに対しての恐怖。

そして、麻酔もあって未だ苦しめる【人殺し】という言葉が、いつまでも頭の中でリフレインして離れようとしない。

精神崩壊一歩手前の苦痛に苛まれたオータムはしかし、たった一つの希望に縋る事でそれに耐えて続けていた。

「アア・・・ッ・・・スコール、どこにいるの、スコール・・・!」

「・・・ここにいるわ、オータム」

そっと、ベッドの傍らの椅子に座した金髪のセレブ風の女が、慈しむようにオータムの手を握った。

彼女の名はスコール・ミューゼル。

亡国機業において【炎の家系】と呼ばれるミューゼル家に属し、実働部隊モノクローム・アバターを指揮する幹部的立場の女性である。

世界に戦乱あれと旗を掲げ、理想の元幾多の戦場を産み出し、多くの国を滅ぼしてきた組織のカリスマの一人。

そんなスコールにオータムは心酔しており、スコールもまたオータムからの求愛を受け容れていた。

二人は恋人の関係である。

常にお互いを支え合い、組織の繁栄に従事してきた。

だが・・・。

「・・・依頼した仕事はどうなりますでしょうか、スコール様」

轟音と共にぴしゃりと光った雷光が収まると、スコールの背後にあの執事風の男が音もなく立っていた。

特に驚きもせずにゆっくり振り返ったスコールは、感情薄い瞳を男へと向け、

「・・・見て分かるでしょう、オータムは失敗したわ。Mも近くにいないようだし、今すぐの任務遂行には手が足りないのよ」

「成程、では依頼は破棄されるという事でしょうか」

「とても遺憾だけれどもね・・・」

愛おし気にオータムの頭を撫でやったスコールに鼻で息を吐いた男は、これ見よがしに肩を落としてそっぽを向いた。

「期待していただけに残念です。ご主人様に叱られるのは私なのですがね」

「貴方のオーナーには謝罪しておいてくれるかしら。本当は私が依頼を引き継ぎたいところだけど、まだ他の仕事が残っているの」

後ろ髪を引かれながらもオータムの手を離して立ち上がったスコールは、長いスカートを引きずる様にゆっくりと歩き出し、部屋の外へと向かう。

不服気に目を細める男はその背中へ通達を投げかける。

「違約金の支払いをお忘れなく。我々の依頼を反故にした以上、義理は通して下さいませ」

「分かっているわ」

すげなく返事をして去ったスコールを見送った男は、もがき続けるオータムへと見下すような視線を向けた。

 

「・・・さて。貴女のミスのお陰でスコール様も我々も面子が立ちませんが、どのように責任を果たすおつもりですか?」

「アウゥ・・・ッ!ざ、ざけんな、クソが・・・ッ!し、仕事は完遂してみせるわ、ス、スコールの名に懸けて・・・!」

砕けた顎を懸命に動かし、まともに回らない呂律ながらも意思表明をするオータム。

男はやれやれとかぶりを振ると、折れ切った肋骨へ人差し指を突き刺した。

「ギャ、ガゥ・・・ッ!」

「こんな様でよくそんな大口を叩きますね。具体的にどのように完遂するのかご教示願います」

「う、うるせェ・・・!や、やると言ったらやるんだ、理解しろ無能が・・・!」

無能はどちらだと心の中でごちりながらも男は、任務継続の意思だけはある様子のオータムを見て懐からUSBを取り出し、枕元へと放り投げた。

「ならば私から餞別を。IS起動時にそれを使えば貴女の機体は強力なパワーを得ます。一種のブースターの様なものです」

「どういう・・・ケボッ・・・つもりだ・・・」

「なに、貴女のスコール様への忠誠心に共感したまでの事ですよ。可能なら8月が終わるまでに依頼を終わらせてもらいたいというのもありますが」

現時点で8月は中程まで終わっている。

9月になればIS専用機持ちを単独で狙える機会が減少してしまう、それだけの都合だ。

「ク、ソが・・・どう考えても、実験台にする気だろう・・・!」

「解釈はご自由に。これ以上スコール様の顔に泥を塗りたくないのであれば、使うべきと思いますがね」

それだけ言い残すと、男は来た時と同様雷鳴が鳴りやむと共に消え去った。

残されたのは飾り気のないUSBメモリのみ。

震える手を伸ばしてそれを手に取ったオータムは、葛藤しながらも最後には愛するスコールの姿を思い返し、皮肉気に笑う。

「・・・そうだ、アタシはもうスコールに命を捧げて来たんだ。その過程で何人も殺してきた。その報いが来たのだとしても・・・この命の使い道は、最後までスコールのために・・・!」

痛みを堪えながらメモリを握りしめたオータムは下半身の力のみで起き上がり、点滴を抜き放つ。

「ハァ・・・ハァ・・・笑ってよ、スコール。それがアタシの生きがいなのだから」

包帯まみれの顔面を血色に染め上げ、オータムは立ち上がる。

 

全ては愛しい人のために。

綾達が掲げる愛とはまるで違うスタンスながらも、胸に抱く気持ちに一片の迷いも無く。

 

次の日、オータムが横たわっていたベッドには、血の跡を残して重傷の患者である彼女の姿はなくなっていた。

 

========================

 

「はいはい!まだまだ意識の向け方が甘い!もう一回行くよー!」

「も、もちろんですわ・・・!」

「やってみせるとも・・・!」

鶴守 豪研究所のIS訓練場にて動き回るISが三つ。

一つはセシリアのレイニー・ステラ、もう一つはラウラのシュヴァルツェア・ガーベラ。

そして最後の一機は見覚えのない全身装甲の機体。

 

赤を基調とし、大型の二連バックパックから五連ずつのバーニアビットを伸ばした機体。

それはレティシア・S・ジェンキンスが駆る、彼女自身が鶴守 豪の指導を受けて開発した専用機、遠隔操作兵器搭載ISニルヴァーナ。

【挿絵表示】

 

豪が生前から計画していた全身装甲ISプロジェクトの一つであり、最初期に立案していた玄武・白虎・朱雀・青龍の名を冠したIS同様、四機を連携させて運用する事を想定して設計した機体群。

そのうちの一機として完成したのがニルヴァーナなのである。

ネーミングについても豪は当初、四獣へのアンサーとして左伝『四凶』から命名し、渾沌(こんとん)・饕餮(とうてつ)・窮奇(きゅうき)・檮杌(とうこつ)とするつもりであったが、レティシアから「読めない」と不評を買い、かつ豪のリソース的に2基までしかコアが準備出来ない都合もあり、結局はレティシアの好きな洋楽バンドから名前を拝借したのであった。

また、ニルヴァーナのモデルとなった窮奇とは、翼を有した虎の妖怪である。

 

さておき、彼女達が何をやっているのかというと遠隔操作兵器であるビットの訓練である。

セシリアは既所持のレーザービット6基とミサイルビット2基、新たに装備されたガトリングソードビット【サジタリウス】の動作テストを兼ねて。

ラウラは、シュヴァルツェア・ガーベラの電磁力を発する宝玉が脳波コントロールによって自在に動かせる事を知り、更に自在に動かせるようになるために。

 

訓練の内容はシンプルで、ニルヴァーナの操る10基のバーニアビットをセシリアが足止めし、その隙にラウラがニルヴァーナへ宝玉を接触させるというもの。

もちろん、他の武装は使用してはならない。

 

セシリア同様、エクシードとしての素養があると判明したラウラは、半信半疑ながらも脳波による操作で宝玉へ指示を飛ばすと成程、ある程度思うように空中をふよふよと動かせることが分かる。

それでも実戦に使用出来るレベルではないため、レティシアから教えを乞うているわけである。

また、レティシアはゆるゆるな雰囲気に似合わずスパルタで、さながら昭和のバレーの熱血コーチの如く力押しな指導がセシリアとラウラを締め上げている。

 

実際のところ、研究所と鶴守本家を往復しながら2週間近く滞在している彼女達であるが、一度としてこの訓練をクリアできていないのが現状だ。

 

ニルヴァーナのバーニアビットは全てビームを射出するものであるが、それぞれ拡散砲・集点砲・圧縮刃の三形態を華麗に使い分けて攻撃を行ってくる。

訓練用に出力を落としてあるものの、合計したら何度撃破されたか分からない程にビットと宝玉が撃ち落とされているのだ。

ラウラとセシリアのコンビネーションは決して悪くはない。

むしろ組んだ事のない二人にしては息が合っていると言えよう。

だがしかし。

 

「ほらほら、セラ氏は宝玉の防御に意識を向けすぎ!ビット自体も狙われてることを忘れない!ラウラ氏は気持ちが逃げに回ってる!後退と気持ちで押されるのは違うからね、分かってるの!」

「くっ・・・!今日もまた好き勝手言ってくれますわ・・・!」

「そう言われても、難しいものは難しいのだっ・・・!」

的確に動こうとするも先読みされて撃破ポインタを浮かべる青いビットたち。

操作するのは二つだけでありながらぎこちない動きゆえに追い詰められていく宝玉。

それでも諦めずに何度も挑戦するセシリアとラウラ。怒声をあびせるレティシア。

「自分が操作する武器だけじゃなくて、敵であるうちの意識と協力する仲間の意識にも気を向けて!大事なのは感じる事、理解する事!目の前の景色だけに囚われない!」

パンパンと手を叩きながら声を張るレティシアに気を散らされながらも立ち向かう彼女達をよそに、一夏は千冬指導のもとISの実体剣を持ち上げるべく訓練をしていた。

 

生身で。

 

「ふんぬっ!ぬがぐぐぐぐぐぐっ!!」

「そんなんじゃ駄目だ馬鹿者。持ち上げる前に腰をやるぞ、もっと臍に力を入れろ」

「わ、分かってるって・・・うがーーーっ!!」

気合を入れて柄を握り、力を込めるもまるでびくともしない、重量500kgにも及ぶ鉄剣。

なぜこんな事をやっているのかといえば、千冬は素手で軽々とこの程度の武器を担ぎ上げる事が出来るからだ。

同様の遺伝子改良を経て誕生した一夏であれば、同じことが出来ない筈がない。

エクシードと同じように、何かしらのきっかけで一夏の中に眠る超人的な力が目覚める可能性は十分にあるのだ。

それが目覚めれば、ISでの挙動の質が限りなくランクアップする事が見込まれる。

鈍重なISの装甲や武装を所持するリソースを本体である一夏自身の力で賄うことが出来れば、ただでさえ燃費の悪い白虎のエネルギー事情も多少は改善するだろうし、それこそ零落白夜を発動していなくとも実体剣モードのみで乗り切る事も出来るようになるだろう。

ISを身に付けられない状況でも危機的状況を潜り抜けられる事が期待出来るならば、やらない理由など無い。

 

白虎については解析の結果、紛れもなく豪が設計した白虎が、束のアイデアを盛り込まれた形で再現されたものであり、白狼――白式であった痕跡は殆ど残っていなかった。

豪はその結果を見て、束がコアと共に白虎を完成させて返してきたのではないかと推測した。

借りたものに利子をつけて返すようなものだ。

謎が残るのは、なぜわざわざ白式のセカンドシフトという不確かなステップを踏ませる必要があったのか、どうして今更これを返そうと思ったのかである。

また、それならば箒の赤雷もまた、セカンドシフトによって朱雀となるのではないか。

どちらにせよ、ところどころ束の趣味が混ざっているものの最速のISとして設計した白虎が返還されたのなら有意義に使う他ない。

白虎を使いこなすに相応しいロード・オブ・スピードを、一夏には目指してもらいたいと豪は思う。

 

「んがががががが!!」

「足で持ち上げるイメージだ!全身をフルに使って剣と一体化しろ!」

「ごめん千冬姉ぜんぜんわかんねぇえええええ!!」

肩から担ぐように力を入れてもうんともすんとも持ち上がらない大剣と格闘を続ける一夏と千冬。

まぁ、前途多難である。

 

そして、綾はといえば。

 

「・・・・・・・・・・」

瞑想していた。

具体的に言えば、整備モードとなり実体化された自身のISであるアマデウスとにらめっこでもするかのように座禅を組み、精神を集中させて向き合っていた。

ISと触れあっていた時間を考えれば綾が一番セカンドシフトに近い筈なのだが、いまだにその兆候すら見えないため、豪の勧めもあって自身のISと向かい合う事で対話できないかと試みているのである。

心静かに。

じっくりと精神を研ぎ澄まして。

「・・・・・・・・・・・・いや、これ、本当に意味あるのかな・・・」

むしろ身に着けた方がよっぽど理解が深まる気がしなくもないが、綾は頭を掻きむしりながら無益と思われる時間を消費するのであった。

 

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フランスA10高速道路を北へとひた走る白いオープンカーが一台。

BMW Z4ロードスターを運転するのはボゥイ・シューマッハ、右側の助手席に座るのはシャルロット・デュノアだ。

アクセルを勢いよく踏み込み、マニュアルモードATのギアを6速まで上げ、車通りのまばらな道を加速して風を直に受けるボゥイとシャルロット。

「いやぁ楽しいなこれ!オープンカーも悪くないもんだぜ!」

「ボゥイ、運転荒いよ!なんだったらボクがまた運転変わるけどー!?」

「冗談言うなぃシャル子ちゃん!一度ハンドル握ったら離すつもりはないぜー!」

行きのオルレアンへの運転はシャルロットが担当し、今は帰りの運転をボゥイが担当しているという並びである。

そもそもの車体が軽いロードスターは2.5リッターの排気量をもって力強くきびきびと走り、運転する楽しみをダイレクトに伝えてくる。

運転が荒いと文句をつけるシャルロットであるが、彼女が運転していた際のテンションの上がりっぷりと運転の奔放さ加減ではボゥイといい勝負なのだった。

 

結局、ボゥイ・シャルロットとアルベールの交渉の末に締結されたのは、車一台、バイク一台を彼ら二人で共有して所有しろという所で落ち着いたのである。

且つ、なるべく高い車種は選択させないという条件のもと、暇を見て彼らが車を探して意見を一致させた車が中古のZ4ロードスターであったのだ。

 

数日前、ザ・ペニンシュラパリホテルでの記者会見にて全国的にボゥイという男性IS使いの存在が公表され、世間は騒然となった。

シャルルを男性IS使いとして公表しておきながらもすぐ死亡したと報道され、妹のシャルロットが現れたという流れにデュノア社へ虚偽の疑いをかけるジャーナリストも少なくはなかったが、今回こそは事実無根であるという証明付きである。

公式に男性と確認され、ISを身に着ける様子の撮影までされたボゥイを疑う者は一部のクレーマー以外は存在しなかった。

更にアルベールはボゥイを紹介しながらツインコア搭載機を彼へ預ける事、9月からIS学園へ通わせる事を表明。

ボゥイとシャルロット共々、世界中のIS発展へ貢献すると明言し、デュノア社の株価を著しく向上させるに至ったのである。

 

そこからボゥイとシャルロットがすぐに行ったのは免許の取得。

ボゥイは勿論の事、父アルベールの車で練習していたシャルロットも一発で合格。

更に、バイク免許もあっという間に取得した二人はすぐさまアルベールにZ4を買わせ、オルレアンへと日帰りの小旅行へと赴いたのである。

 

彼ら二人の間に恋愛感情は皆無である。

 

シャルロットはまだ失恋から時間も経っておらず次の恋など考えるべくもなかったし、ボゥイはボゥイで恋愛よりも目の前の刹那的な楽しみを優先している。

それでも、まるで兄妹のように仲良く楽しそうに過ごす二人は幾度となくカップルと間違われた。

だからといってお互いを意識するようなことも無かったのだが。

「まぁ、そんなもんだよねー・・・」

「ん?何か言ったかい?」

「ううん、自分が誰彼構わず好きになる尻軽じゃなくて良かったなーって話」

「???よく分かんねぇけど、良かったねぇ?」

頭に?を浮かべるボゥイに笑い返すシャルロット。

ボゥイに異性として意識する事は無いが、それはつまり綾への恋が本物であったという証明に他ならず、自分はちゃんと良い恋が出来ていたのだと安心できるシャルロットであった。

そういう意味ではボゥイにちゃんと感謝しているのである。

兄の様な、幼馴染の様な、放っておけない存在。

それがシャルロットからボゥイに対しての印象であった。

 

時刻は夕暮れ、デュノア社の駐車場へ車を置いたボゥイとシャルロットは、エレベーターにて最上階の社長室へ。

仕事をしながら待っていたアルベールとロゼンダへお土産を渡しつつ、しばらく談話しながらくつろいでいた一同はしかし、20時を過ぎたあたり、そろそろ帰ろうかと頷き合っていたタイミングでまたもボゥイの第六感が何かを感知した。

構えながら窓の外を睨むボゥイにただならぬものを感じたシャルロットは、まさかと思い懐のフェニックス・リヴァイヴを握る。

 

「ボゥイ、もしかして?」

「ああ、あの女だ。あんだけ痛めつけたのに正面から来る・・・何か企んでやがるな?」

 

オータムの発する殺意――人殺しの臭いを感知していると嘯くボゥイの勘を信じ、シャルロットはアルベールとロゼンダへ避難勧告する。

「お父さん、お義母さん!もしかしたらこのビルが戦場になる、残ってる社員さん達を避難させて!」

「なんだって!?こ、こうしちゃいられない!」

「く、くれぐれも気を付けるのよシャルロット!ボゥイ、シャルロットの事をお願い、守ってあげて!」

「任せなって、かあちゃん!」

サムスアップするとシャルロットを伴って屋上へと駆けあがっていくボゥイ。

自分の事はおっさん呼びなのにロゼンダはかあちゃん呼びな事に地味にへこんだアルベールであったが、そんな事を言っている場合ではなく、受話機を取って全館へ緊急通報のコールボタンを押下した。

「デュノア社全社員に告ぐ!まだ社内に残っている者は直ちに業務をやめて至急退避せよ!これは避難訓練ではない、落ち着いて階段を使用してこのビルの地下へと避難せよ!繰り返す、まだ社内に残っている者は―――」

ロゼンダが押し込んだ避難警報にてビル内にアラートが響き渡り、アルベールの避難指示に騒然となる社内。

下手にビルの外へ出るより地下に移動した方が安全だ。

混乱しつつある社内であるが残業に精を出していた者は数少ないのが僥倖か。

 

非常階段を駆け上がり、鍵のかかった扉を蹴り破って屋上へと出るボゥイ達。

開けた場所でビル風に煽られながら暗い夜空へ目を凝らすも何も見えず。

ボゥイにははっきりと敵の姿が見えている様子だが、シャルロットはそうもいかず、臨戦態勢のためにもISを纏う事とした。

 

「蘇れ、フェニックス・リヴァイヴ!」

 

さらさらと光が溢れ、衣服が量子化されると同時に下に着こまれたISスーツが顔を出し、その上から燈色の機体、フェニックス・リヴァイヴがシャルロットを覆う。

シャルロットがバズーカを両手に装備すると同時に、以前彼女の故郷にて目撃した蜘蛛型のIS、オータムのアラクネが屋上へと降り立った。

その姿は包帯と血にまみれ、いつかボゥイを揶揄したゾンビのような風貌と化したオータムがせせら笑う。

 

「久しぶりだねェクソガキども・・・また殺しにきてやったぜ、えェ?」

「はっ、懲りないババァだ。今度こそ息の根を止めてやらぁ」

「殺しちゃダメだよボゥイ!まだこの人には聞きたい事があるんだから!」

「そんなもん、こいつが生きてたら考えらぁね!!」

 

上体を低く、素早く駆け出してみるみるうちにアラクネとの距離を縮めるボゥイ。

「ボゥイ、IS!IS装着し忘れてる!」

シャルロットの制止虚しく、にたりと笑ったオータムは脚部から伸びる砲門をボゥイへ向け発射。

迫る弾丸を紙一重で回避しながら接近し、飛び掛かって蹴りを放つボゥイ。

肉体を大きく傷つけられたトラウマが残っているのか反射的に腕で防御しようとしたオータムであったが、さしものボゥイの力をもってしてもISのバリアは破れず、伸ばした足はあえなく弾かれる事となる。

「ちぃっ・・・!」

「は、ハハハ、ハハハハ!!やっぱり男は駄目だねェ!頭が悪くってさァ!!」

宙に浮いたボゥイを鷲掴みにしたオータムは、横へと加速をつけてそのまま彼の身体をビルの外側へと放り投げた。

「うおおぉっ!?」

「ボゥイーっ!!!」

あっという間に重力に従って落ちていくボゥイ。

周囲はビル街、捕まって支えになるものなど何もない。

当たり前だが26階の屋上から落下して地面と激突すれば原型も残らず血の花が咲く事は想像に易い。

 

「このぉぉぉーーーーっ!!」

激昂してバズーカを交互に撃つシャルロット。

痛む首を無理に稼働させながら前方の多脚で防ぐオータムは、嘗め回すような視線をシャルロットへ向ける。

「ククク・・・生きてりゃいいってハナシだからなァ、五体を捥いで帰っても文句ないだろうよォ」

「その言い方・・・やっぱりボクを拉致したいって組織がいるんだね!?」

「いいぜ、教えてやるからくたばれやァーーーーッ!!!」

後退しながら打ち続けるシャルロットへ、ブーストして詰め寄ろうとするオータム。

 

しかし、その背後には。

アラクネの後ろ側にある多脚の上へとふわりと降り立つ、落下した筈のボゥイの姿があった。

 

「ボゥイ・・・?!」

「な、何ィ!?」

「おらぁぁぁーーーーーーッ!!!」

バリア越しに徒手空拳での連撃を叩き込むボゥイ。

その威力に、圧力に、あろうことかアラクネのバリア残量がみるみる減らされていく。

「ひッ・・・!」

有り得ないボゥイの力にぞわりと顔を歪めたオータムは、ISをいやいやさせる様に身じろぎさせ、どうにかボゥイを振り払って上空へと飛翔する。

ビルのコンクリート上に飛ばされ、転がりながら着地したボゥイはむくりと立ち上がって埃を払う。

「ボゥイ!大丈夫なの!?」

すぐさまホバリングしてボゥイへ近寄るシャルロットに、ボゥイは大きく息を吐きながら頷いて答えた。

 

「おう。オレはまともじゃねぇからな。その気になりゃ体内のPICでちょいとだけ浮けるのさ・・・オレはインフィニット・ストラトスだからな」

 

「な、なにそれ、どういうこと・・・!?」

空中から砲撃してくるオータムからボゥイを庇うように前へ出て、ガーデン・カーテンを展開させて受け止めるシャルロットは、バズーカで反撃しつつもボゥイの言葉を聞き返す。

 

「瀕死の状態でおやっさんに拾われたオレは人間として再生するのが不可能な状態だったらしくてね。今のオレの身体は無事だった脳味噌と心臓だけを残して、残りの部分は全部ISコアと量子から構築したニセモノのボディで構成されてんのさ。つまり、心臓と同化したコアが機能停止したらオレも死ぬって寸法さね」

 

「う、うそ・・・!?そんなのって有り得るの・・・!?」

「オレが強いのはそのためさ。これでもそれなりに、この身体を使いこなすための努力はしてきたけどな。そんなわけで、簡単にゃ死なねぇし破損しても頭とコアが無事なら再生だって出来るとくらぁ」

束がクロエに語った、ボゥイがインフィニット・ストラトスであるという言葉はそのままの意味。

今の彼は、死に際の少年がISコアを通して精巧な人間の身体を具現させているに過ぎない。

ただの人間が、残りカスの脳と心臓をもってインフィニット・ストラトスとして生まれ変わった存在。

それが生きたIS【ボゥイ・シューマッハ】なのである。

彼が量産コアの反応を受ける事が出来るのは、豪がコアに性別を女性と認識させるようボゥイのステータスにフィルターをかけているからであり、それゆえの男性ISマイスターなのだ。

 

また、彼自身が申告したとおり、ボゥイは浮けはするが飛べはしない。

ならどうやって戻ってきたかというと、何の事はない、ビル風に吹かれデュノア社ビルの壁面にぶつかって、よじ登って来ただけである。

 

「そんじゃ、オレの正体の暴露も完了したことだし、ここからは本気出して行きますかね」

言うなりボゥイは懐から宝石の様な金属塊―――待機状態の専用機を取り出し、意識を集中し始める。

「・・・!まさか、豪さんが言ってた、ツインコアと似たようなものって・・・!?」

「そうさ、オレ自身のコアと、オレが身に着けるISのツインコアドライブ!見せてやろうか、相棒!」

左手を斜め右下に、金属塊を持った右手を顔の横に添えるポーズを取ったボゥイは、ゆっくりと交差させるように両手を動かしながらISの名前を呼ぶ。

 

「ゲットセット!行こうぜ、リベリオン!!」

 

天高くかざされた金属塊――ISクリスタルが眩い輝きを放ち、量子化してボゥイの身体へと融合されていく。

白いボディ、赤い胸部装甲、青色のインナーというトリコロールカラー。

そそり立つ二本の角と四連のスラスター。

表情まで隠す鬼のようなバイザーマスク。

全身装甲(フルスキン)の強靭なボディへと変身したボゥイ・シューマッハは二つのコアが同居する長髪のインフィニット・ストラトスへと覚醒し。

仮面の下の瞳を怒りで燃やし、第三の目たる縦長のセンサーを雄々しく湛え。

 

名乗る名前は叛逆者(リベリオン)

【挿絵表示】

 

四凶が一つ、渾沌(こんとん)という巨大な犬の妖怪をモデルとしたIS。

目、鼻、耳、口の七孔が存在しないとされる、ボゥイへの皮肉が効いたカオスの化身である。

 

「な、なに・・・!?あ、ISだと!?や、ヤツは男だったハズじゃ・・・!?」

ボゥイが男性IS操者として公表された事を知らないオータムが驚愕する。

「オレが前に出る!シャル子、援護頼むぜ!」

「りょ、了解っ!」

「イチイバルッ!」

呼び声と共に、リベリオンの手へ拡張領域から巨大な刃があしらわれた大弓のような武装・イチイバルが出現。

それを手に取るやいなや、凄まじい瞬間速度にてアラクネへと肉薄するリベリオン。

 

「速い・・・!」

驚きつつも、これまでいくつものISを目にしてきたシャルロットは怯みもせずに追って上昇しつつ、スナイパーライフルへと換装して後方射撃を開始する。

カウンターで撃たれるアラクネの砲撃をイチイバルで弾きながら翔んだリベリオンは、その勢いのまま多脚の一つを切り落とし、返す刀で本体たるオータムへ斬りかかった。

「ぎィィィィッ!!て、てめェェェェ!!!」

「さぁ、どんな死に方がお好みか、言ってみろ!」

動かしただけで激痛が迸る両腕に涙を零しながら防御するオータムの慟哭が響く。

残りの多脚が迫りくるもリベリオンには歯が立たず発泡スチロールのように軽々と切り刻まれ、砲塔はシャルロットの放つ弾丸にて潰されていく。

「ダインスレイフ!」

細かなIS操作を嫌うだろうボゥイに対する配慮なのか、どうやらリベリオンの武装召喚は音声入力にて行われる様子で、喚び声に応じて現れるのは鎺に緑の宝石があしらわれた短剣。

くるりと宙返りするようにアラクネから距離を取ったリベリオンは、イチイバルにダインスレイフという剣を矢のように番えると、緑の宝石とイチイバルの剣先から弓の弦のような光が精製され、狙いを定めて仮面の下の瞳を細める。

 

「ブッ飛べーーーーッ!!」

 

引き絞られた剣が咆哮と共に射出され、彗星のように緑の軌跡を描いたダインスレイフは恐怖に竦むアラクネの多脚の接続部へと突き刺さり、粒子を湛えたそれは一瞬の間を置いて大きな爆発となって夜空へ轟音を響かせた。

「ぎ、ぎゃああああああ!!!」

断末魔ともとれる悲鳴をあげながら勢いよく落下していくアラクネとオータム。

それを静かに見送ったシャルロットは、大きな損害も無く終わって良かったと安堵の息をついた。

 

しかし。

 

オータムは激痛を堪えながら、取り出したUSBを生き残っているアラクネのハブへと突き刺し、インストールされているプログラムを起動する。

 

「ああ、スコール、スコール。アタシの愛する人。どうかアナタの未来に理想の成就が訪れん事を」

 

紡がれた言の葉が果たしてスコールに届いたか否かは定かではない。

だが、確実に言える事、それは。

デュノア社の屋上へ激突したアラクネの全身がじわじわと錆色に変化していき、寄生虫に卵を産み付けられた昆虫が中から食い破られるかのように、ぼこりぼこりとそのボディを膨らませ、果てにはオータムの身体を飲み込んで肥大化していく。

「・・・!?なんだい、こりゃあ!?」

「これって・・・!銀の福音の時と同じ・・・!?」

先のアメリカ軍との合同作戦を思い返すシャルロット。

しかしてその現象を止める術のない彼女はアラクネが禍々しく変わり果てていく様を見守る以外に出来ず。

どうにかボゥイとシャルロットが豪へ連絡を取ろうとしている間に、かつてアラクネだったISはデュノア社屋上の半分を覆う程の巨大な大蜘蛛の化け物へと変容し。

その背中からは憎しみに身を焼く様な大きな女の上半身が聳え立ち、毛倡妓のように長い髪を振り回しながら声にならない雑音交じりの叫びをあげた。

 

アラクネ・ケントリアと呼称される暴走ISの誕生である。

 




分かる人には伝われ!
リベリオンはとあるアニメのオマージュ、いやさリスペクトです!!

誰かのー!傷ついた心がー!
テックセッ・・・げふんげふん。

いやね、そういえばISって全身装甲の機体があるよなーって気付いた時にはこういう奴を出したくて色々準備したんですよ。
昔書いてたときメモの二次創作で出す前に飽きて頓挫した計画が今更こんな形で実現するとは。

人生って何が起こるか分かんないね!!

ただひとつだけ言い訳すると、ボゥイの名前はDさんから取ったわけではない。
氷室京介と布袋寅泰率いる伝説のロックバンドBOOWYからインスピレーションを得て、ISどうするか考えたときに「これや!しかも名前ボゥイってまんまかよ!」と一人で喜んでました。
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