インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
場所は東京、国会議事堂近く。
万全の体勢で防衛が敷かれている筈のこの地は、突如として地獄の様相を呈していた。
前触れなど無く降り立った50体という数の無人機・ゴーレム。
それはISに対抗すべき機体として開発されるも相手にならず競合から落とされたものであったのだが、一部のテロリストや革命家といった連中には愛用されている。
男性でも扱う事が出来るからである。
ともあれ大量のゴーレムが手当たり次第の破壊活動を始めては日本政府や自衛隊としても対処せざるを得ない。
日本のIS使いが何人も駆り出され、その中には支援を要請された更識 簪と、そのメイドである布仏 本音の姿もあった。
既に彼女達が撃退したゴーレムの数は10、それでも出現し続けるゴーレムの数には果てが見えない。
「一体、何機のゴーレムがいるっていうの・・・!?」
「全然手が足りないよ~!」
ゴーレム一機一機は5メートルという巨体かつ装甲が厚くてパワーがあるものの動きが遅く、ISで仕留めるにはそう難しくない相手であるのだが、いかんせん数が多い。
どちらかといえば単独での戦闘に向かない簪の打鉄弐式の兵装でも難なく片付けられるし、本音に至ってはビットで開けた装甲に水流操作で水を流し込めばショートして動きが止まる程度の相手だ。
それも無限に湧き出てくるゴーレム相手では分が悪い。
逃げ惑う一般人を逃がしながらも次第に追い詰められていった簪と本音は、日比谷公園まで後退させられていく。
ゴーレムの数は100で打ち止めとなったようであるが既に何機かのISが負傷して撤退を余儀なくされており、現在残っている他の味方の数は楯無のミステリアス・レイディを含めて3機程度のようである。
「ど、どうしよう、かんちゃん・・・!」
「こちらも残弾僅か・・・!悔しいけど、一時撤退して増援を待つしか・・・!」
打ち尽くしたミサイル、機能停止した薙刀、残った武装はエネルギー切れ間近の粒子砲のみ。
本音の九尾ノ魂も有線ビットの残りが5つとなっており、それぞれケーブルが磨耗してしまっている。
わかりやすい絶体絶命、空中と前後左右から向かってくるゴーレムは限りがない。
どうにか脱出経路を割り出そうと思考を巡らせていた簪はしかし、突如として上空のゴーレムを刃状のエネルギー波で一掃し、眼前の敵もまとめて切り裂いていくISの姿を見た。
赤き鎧姿の二刀使い。
篠ノ之 箒の赤雷である。
「すまない更識、布仏!遅くなった!」
「篠ノ之さん・・・!」
「ほっぴー!ありがとー!」
箒によって開けたルートをブーストして抜け去り、どうにかゴーレムの少ない芝公園方面へと離脱。
エネルギー充填のためISを解除した簪と本音を守る様に立つ赤雷に安心感を抱きながらも、簪は状況を整理し始めた。
「国会議事堂上空を中心にいきなりゴーレムの大群が現れ、即対応できる日本のIS使いは全員召集されて対処に追われた。それにしたって数が多すぎて手に追えず、撤退するISも少なくなかったわ。今も姉さんが頑張っているみたいだけど、それでも敵機残数は60近い。敵の目的も分からなければこの状況を打破する道筋も見えないのが現状よ」
「ああ、かなり劣勢だという事は分かっている。先程、一夏から緊急通信が届いたが、彼らがこちらへ到着するまで30分ほどかかるとの事だ」
「それまで耐えなくちゃいけないのー!?」
豪たちも東京の悲惨な現状を感知しており、すぐに綾、セシリア、ラウラ、一夏を向かわせていたが、流石に群馬から東京までは時間がかかる。
たかが30分とはいえ、それだけの時間でどれほどの破壊活動が行われ、どれだけの人命が失われる事か。
「嘆いていても仕方あるまい、私達は私たちに出来る事をしていこう。ゴーレムから可能な限り一般人を守り、一夏達の到着を待つんだ」
「それしかない・・・か」
箒の言葉に頷いた簪がISを展開させようとした、その時。
「なるほど30分か。おまえたちを皆殺しにするには十分な時間だな」
声のした方を振り返るよりも早く、強烈なレーザー砲が発射され箒達のいた場所を灼熱の熱線が吹き飛ばす。
「きゃああっ・・・!」
ISを装備していなかった本音と簪が爆風で大きく飛ばされ、強烈に雑木へと身体を打ち付ける。
「更識!布仏!」
心配そうに声をかける箒だがそちらへ目を向ける余裕なく、ビーム砲塔が装備されたシールドビットが6基、赤雷の周囲を取り囲んだ。
「・・・!これは、セシリアの・・・!?」
六方向から狙い撃ってくる光線をどうにか捌きながら包囲網を抜け出し急上昇を行った箒は、その攻撃の主の姿を目にする。
ダークブルーの装甲、蝶を連想させる小奇麗なウイングに、ブルー・ティアーズとよく似たシルエット。
ハーフヘルメット状のバイザーは操者の顔を覆い隠し、その正体を隠している。
手にした武装はスターライトMk-IIIの後継型であるスターブレイカー。
あからさまにセシリアの機体を参考に製作されたであろうISを睨み、箒はその詳細を問う。
「誰だ貴様は!この騒動の元凶と見て良いか!?そしてその機体・・・イギリスのものだな!?」
「答える必要は無い」
箒の言葉を無感動に切り捨てたアンノウンは手にした砲口を箒へ向け射出。
実弾とレーザーが入り混じって発射されるスターブレイカーに歯噛みしながら回避を行うも、それを予期していたかのようにシールドビットの餌食となる。
小刻みな動作を繰り返しながらビットから撃たれるビームにバリアを削られる赤雷、接近を試みようとも剣戟も移動もシールドビットが妨害する。
「このっ・・・!小癪な真似を・・・!」
ならばと両肩部からの砲撃を行おうとトリガーを引いた箒だが、砲口部をシールドビットが防いでその爆風がダイレクトに自分へと返り、衝撃に目を回す。
「ぐっ!?うああああっ!」
黒煙を撒きながら吹き飛ぶ赤雷。
そのまま木に激突して動きを止めた赤き剣士へと、ビットのビームとスターブレイカーの砲撃が雨霰の様に、容赦なく降り注ぐ―――。
「くっ・・・!本音?本音、大丈夫!?ねぇ!?」
ムチ打ちの痛みとめまいを堪えながら頭を振った簪は、自身の身体をクッションにして簪を守った本音へと近づいてその肩を揺さぶる。
「う・・・ぁ・・・」
うめき声をあげるものの目を覚まさない本音。
全身に擦り傷が見て取れ、苦しそうに胸のあたりを抑えている。
あばらにひびが入っているのかもしれない、もしかしたら背骨にもダメージがあるかも。
「ごめん、ごめんね本音、私のために・・・!」
涙を滲ませる簪。
歯を食いしばりながら木の根を枕代わりに本音を寝かせた彼女は、大きな爆発音と共に赤雷が目の前を滑り行くのに気付いて顔を蒼白とさせた。
「篠ノ之さん・・・!?」
「に、逃げろ、さらし、き・・・」
口元から血を滲ませながら振り絞るような声をかけた箒は、力なく項垂れて気を失い、同時にISを解除させてしまう。
「そんな・・・!」
頭が真っ白になる。絶望感が全身を包む。
ゆっくりと降り立った、ブルー・ティアーズに似たアンノウンを纏う操者は、バイザーで顔が隠れているもののまだ小学生から中学生に至る過渡期程の年若い少女であるように見える。
かちかちと鳴る歯を堪える事も出来ずに簪が彼女へ視線を向けると、楽しそうに口元を三日月型に歪ませながら、
「他愛のない。こんな程度で自由を手に出来るなら安いものだ」
そう口にすると、簪の元へと倒れた生身の箒をISの足で蹴り飛ばした。
衝撃と痛みに吐血する箒を全身で受け止める簪。
「がはっ・・・!はぁ、はぁ・・・!」
「篠ノ之さんっ!篠ノ之さんっ!」
「もっと抵抗しろ、そうでなければ面白くないだろう?」
残虐な物言いのアンノウン―――紳士風の男からMと呼ばれた少女は、ビットをバックパックへと格納すると手にした大きなレーザーライフルを簪たち三人へ向ける。
抵抗など出来ようも無い。
本音も箒も戦闘不能で、よしんば打鉄弐式のエネルギーが満足に充填されていたとしても、装備の質で大敗しているのは明白だ。
目の前の敵に太刀打ちは出来ないだろう。
震える手は死の恐怖に怯え、いまだ失禁していないのが奇跡のようである。
「・・・つまらんな。なら一人ずつ殺していく事にしようか。心配するな、
威嚇するように手近な木をレーザーで焼き尽くし、たちどころに火災が発生していく。
更に追い打ちをかけるように、複数体のゴーレムが近づいてくる足音も聞こえる。
万事休すである。
もしこのタイミングで楯無が助けに入ったとしても、この圧倒的戦力差を覆せるとは思えない。
どうしようもない、どうにもできない、どうしたって、生存率は0%。
悔しさ、悲しさ、やるせなさと絶望に涙が零れる。
なんなら走馬灯だって走り出す。
姉と比べられて辛い思いをしてきた日々。
父からの虐待を受け身体中に痣を作っていた毎日。
本音の手助けを経て、どうにか自分の手で自身のISを組み上げる事が出来たあの時。
初めて大切な友達が出来た日。
IS学園や、ISジャパンから実績を認められた瞬間。
幾つもの喜怒哀楽が脳内を巡る。
そして最期に脳裏へ浮かぶのは、ずっと意識してきた姉・・・ではなく。
ずっとずっと、憧れ続けてきたヒーロー。
いつかきっと自分を助けに来てくれる、自分だけを見てくれる大切な英雄。
具体的な形のないそんな存在が簪の心の支えであった。
「・・・けて・・・」
涙が溢れて止まらない。
耳が熱い。
叶わないと知りながら、呼ばずにはいられない。
簪のそんな様子を楽し気に眺めたMは、鼻を鳴らして嘲笑いながらその砲口を本音へと向けた。
「良い顔をするじゃないか。ならお前は最後に殺してやろう。じわじわと迫る死の恐怖を愉しんで、苦しんでから死ぬがいい」
「・・・たす・・・けて・・・!」
トリガーに力が込められる。
炎とゴーレムに囲まれて逃げ場がない。
誰も、助けになど来るはずもない。
それでも、だからこそ、簪は悲痛な叫びをあげずにはいられなかった。
「誰かっ!助けてよっ!ヒーローーーーーーーーーッッ!!!」
無慈悲に放たれたレーザーは、一寸の狂いもなく本音の頭部へと放たれた。
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≪アアア・・・・アアアアアアアーーーーー!!!≫
緊急事態を知らせる警報がパリの空に響き渡る中、元凶たるアラクネ・ケントリアは不愉快な叫びをあげ、その巨体を感じさせない俊敏な動作でデュノア社ビルの側面へと脚をつけ、口から糸ではなく粒子熱線を撒き散らしながら、螺旋を描く様に下へと駆け下りていく。
アラクネの放ったビームが降り注いだ先から爆発と火災が発生するのを見て、シャルロットは凄惨な光景に眉を寄せてブーストを吹かす。
「マズい!あんなのパリの街に解き放たれたら大変な事になる!」
「させるかよ!行くぜシャル子!」
夜闇に包まれたフランスの夏空の中、ビル渓谷の合間ををボゥイのリベリオンとシャルロットのフェニックス・リヴァイヴが駆ける。
既にビル内の社員の避難が完了している事をアルベールからの通信で把握したシャルロットは遠慮なくアサルトライフルの連射でアラクネへと接近。
とはいえ、バスター・キャノンで砲撃するわけにはいかない。
あれは威力が強過ぎて周囲のビルごと吹き飛ばしかねず、そうなったら建物の下にいる人や車を巻き添えにしてしまうからだ。
ボゥイもまたダインスレイフという短剣を二本、三本と片手で投擲しながらバーニアを吹かす。
それらがアラクネの昆虫部分と上半身部分にそれぞれ刺さるも、まるで意に介されない。
舌を打つボゥイ。
「効いてねぇのか!?」
「ボゥイ、コアを狙って!それ以外にあれを停止させる方法は無いよ!」
「どこにあるんだい、そいつぁ!」
「今調べてるから待って!」
バイザーを下ろしたシャルロットが高性能センサーでアラクネ・ケントリアのコアを探るべく感知と計算を重ねていく。
もしここに簪がいてくれればコアの割り出しなど数十秒で済ましてくれたものを。
そう思わずにはいられないシャルロットであるが、フェニックス・リヴァイヴの検知能力も捨てたものではない。
大量に発射したミサイルそれぞれに寸狂いなくデータのやり取りを出来る上に多少遠いところからの無線を拾える程に精度の高い通信機器を搭載しているのだ、決して無能ではなくむしろ、ここにシャルロットがいなかったら万策尽きていたところだ。
「おおらぁっ!!」
シャルロットの援護を受けながらもまずはアラクネの足を止めるべく先回りしたボゥイは、前脚部をイチイバルで斬り飛ばすと肩から突進し、その巨体を持ち上げる様に上昇していく。
その重さ、大きさに歯を食いしばるボゥイは、アラクネ・ケントリアをデュノア社ビルの屋上よりも高い高度へと打ち上げると、再びイチイバルにダインスレイフを番え、引き絞り放つ。
緑の光弾がアラクネの頭に突き刺さると、他の部位に刺さっていたダインスレイフが連鎖反応を見せ、それぞれが目映い光を発しながら膨れ上がり、巨大な爆発の連破につながってアラクネの全身を吹き飛ばしていく。
「ヘッ、どうだい!」
確かな手応えに仮面の下で笑顔を作るボゥイだが、計測を続けていたシャルロットがようやくコアの反応を見つけ出すとすぐさま警告を放つ。
「油断しないでボゥイ!アラクネの再生と飛び散った破片に気を付けて!」
「マジか!しつけぇババァだ!」
素直に聞き入れたボゥイが大きめの破片を狙って弓矢を射出していると、爆破前より刺々しい全身へと再生したアラクネ・ケントリアの本体がボディプレスのように迫り、その8つの多脚で勢いよくリベリオンを絡めとる。
がつん、とぶつかった衝撃に脳を揺らすボゥイ。
「んがっ!重っ!!この野郎、てめぇで飛べよちくしょうめ!」
多脚の爪先が肩や背中に食い込んでいるのを感じながらボゥイは、落ちゆく身体に丹を込めてバーニアを吹かせて重力に逆らう。
それに並行しながらスラスターを吹かすシャルロットは、コアの反応を検知した部分――上半身の腹部へと狙いを定めてビームライフルを構える。
この光学兵器はデュノア社にて開発されたばかりの最新式である。
「当たれっ―――!!」
両手構えから放たれた光の粒子砲はボディブローのようにアラクネの腹部へと突き刺さるが、直撃したビームはアラクネの表面にてバチバチと火花を放つと、やがて撃たれた部分が限界まで伸ばされた輪ゴムが解放されるかのように遠方へと吹き飛んでいく。
「うおおおぉっ!?」
「しまった、ボゥイ!」
それがモルドスライムに採用されていたナノマシン式の粒子反射装甲である事を把握するよりも、捕まったまま諸共に飛ばされるボゥイの心配をするシャルロット。
勢いをつけたアラクネはリベリオンを叩きつけるかのように向かいのビルへと着地。
割れたガラスやコンクリート破片が派手にぶちまけられ、地上へと落ちていく。
「ぐぅぅっ・・・!やってくれるぜ・・・えええええええええっ!?」
毒づくボゥイは跳ね返るようにまたいずれかへと飛ぶアラクネに、連れ去られながら声をあげた。
「ビームじゃ駄目だ、モルドスライムの時みたいにスーパーボール状態になっちゃう!」
自分の判断ミスを悔やむのは後回しに、頭を振ったシャルロットはイグニッションブーストし、彼方の違うビルへとぶつかろうとするアラクネを先回りして受け止め、スラスターを全開にしてその動きを止めにかかった。
衝撃と圧力にさしものフェニックス・リヴァイヴのボディも軋む。
その裏でボゥイは両手に持ったダインスレイフを何本もアラクネの腹へと突き刺し、自分もろともぶっ飛ばすべくイチイバルを構えた。
「シャル子ーーーーーーっ!オレを下側に向けろーーーっ!!」
「ボゥイ!?わ、わかった!!」
頷いて上方へと出力を増したフェニックス・リヴァイヴのパワーに、次第に姿勢を90度変え正位置へと回転するアラクネ。
地上を背にしたリベリオンは引き絞ったダインスレイフから指を離す。
「そんなに飛び跳ねてぇなら、宇宙の果てでピンボールしていやがれっ・・・!」
吐き捨てたボゥイの一撃は、アラクネ・ケントリアの腹部にて多重爆発を発生させて脚部を粉々に砕きながら、フェニックス・リヴァイヴごとふたたび天空へと吹き飛ばしていく。
自身もダメージを負いながら落下していくリベリオンは、シャルロットへと檄を飛ばす。
「やっちまえ、シャル子ーーー!!」
「ナイスフォローだよ、ボゥイ!」
アラクネの上半身に組み付いたままのシャルロットは左腕のパイルバンカー・デュランダルをセット。
コアのある腹部へと振りかぶる―――しかし。
ここで気付く。
コアと依り代であるオータムの反応が、同じところで重なるように存在するという事に。
「こ、こんな位置関係じゃ撃てないっ・・・!」
自身の手で人を殺める事に抵抗があるシャルロットは思わずその手を離してしまい、その隙に不快な笑いを浮かべた上半身に殴りつけられて引き剥がされてしまう。
「うわぁぁっ!」
「!?何やってんだシャル子!」
体勢を立て直して追ってきたリベリオンに受け止められるフェニックス・リヴァイヴ。
荒く息を吐きながらシャルロットは縋る様に言う。
「ボゥイ、どうしよう!コアとあの人が同じ場所にいる!コアを攻撃したら、あの人ごと殺しちゃうよ!」
「だからってどうしようもねぇだろ!?どのみち奴ぁ極悪人だ、ここで殺しとけばそれだけ将来的な被害だって少なくなる!迷ってる場合かよ!」
「だけど、命だよ!?命はこの世にたった一つしかない尊いものだ!ボクはこれ以上、目の前で命が失われるところなんて見たくないよ!」
「その命を奪う敵だから殺るべきだってんだ!」
目の前で母を喪った痛みを知っているシャルロットと、自分や他の人間の命を奪われた怒りに燃えるボゥイの言い合いは平行線を辿る。
しかしそんな悠長な真似をしている間に下半身たる昆虫部分を再生させたアラクネ・ケントリアは見下すように笑いながらひとまとめになっていたリベリオンとフェニックス・リヴァイヴへとイグニッションブースト。
避けきれずに捕獲された二機のISは、勢いよくビルの屋上へと叩きつけられてしまう。
「きゃあああっ!!」
「ぐぁああああっ!!」
≪アアアアア!!アヒャッヒャッヒャッヒャーーー!!!≫
愉快そうに笑うアラクネ・ケントリア。
ダメージに軽い脳震盪を起こした二人が再起するよりも早く、アラクネは自身の力で大きくジャンプ、またも二人を叩きつけようと、それこそビルを上から押し潰しかねない勢いで下降する―――。
「させるかっつーーーのーーーー!!!」
その時、ダブルイグニッションブーストで加速された赤紫のISがアラクネへと激突。
拳と共に叩きつけられた乾坤圏の衝撃にリベリオンとフェニックス・リヴァイヴを取りこぼしたアラクネはひゅるひゅると飛ばされて空中で制止した。
カットに入ったのは現段階で白虎と並ぶ最速のインフィニット・ストラトス、道老龍。
格闘戦において他を圧倒する槍撃のマゼンタカラー。
はるばる中国は四川省から駆け付けた、凰 鈴音であった。
「鈴・・・!?」
「・・・阿鈴(アリン)!?」
「大丈夫、シャル!?なんか嫌な予感したから駆け付けたのよね!」
支援要請も無く国境を渡るなど国際問題甚だしいが、想定外の支援に頬を綻ばせるシャルロット。
そして、鈴をどこか馴染みのある声色で呼んだボゥイは仮面の下の表情を苦々しく食い縛り、追及を逃れる様にアラクネへと向き直った。
「助太刀ありがとさん、誰だか知らんけど助かったぜ!」
「礼は後よ!あたしの勘通りピンチだったみたいだし、あれを倒せばいいんでしょ、シャル!」
「うん!鈴がいてくれるなら、もしかしたら・・・!」
頷いたシャルロットはここにはいない司令塔の綾のように思考を巡らせる。
ここにはコアだけを狙える白虎はいない。だけど。
中国拳法で言う勁を放てる道老龍なら、オータムを貫通してコアのみを破壊出来るかもしれない。
そう考えたシャルロットは踵を返して逃走を図るアラクネへとブーストを吹かし、
「ボゥイ!鈴!作戦があるんだ、あのISを逃がさないで!」
「おぅよシャル子!」
「了解!いくわよ阿宇(アユゥ)!!」
「・・・!!?クソッ、バレてんのかよ!」
錆色の大蜘蛛を追いかけて夜を切り裂く三機のIS。
背中から軟槍・打神鞭を手に取った鈴は、自分でも不思議そうに小さく呟いた。
「・・・今、阿宇って呼んだか、あたし・・・?」
阿とは、中国において小さな子供同士がお互いを呼び合う際に頭につける言葉。
例えるなら○○ちゃんと呼ぶようなものである。
それが意味するところはたった一つ。
ボゥイ・シューマッハ―――周 宇泽(チョウ ユゥゼア)と凰 鈴音は、幼い頃に邂逅した事があるのだ。
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Mが引き金を引いた瞬間―――。
彼女と簪達の間に割り込むように一機のゴーレムが飛び込み、放出されたレーザーを受け止めた。
ゆえに、レーザーの放出が終わった頃にも本音は健在で、焼き尽くされたゴーレムの装甲が溶解して煙をあげているだけの結果となったのである。
「・・・どういう事だ?・・・うっ!?」
眉を顰めるMがゴーレムの飛来してきた方向をみやると、もう一体のゴーレムがMに覆いかぶさる様に飛び掛かかり、重さでもろともに倒れこむ。
その様子を呆けたまま見つめる簪。
彼女の瞳は今、信じられないものを見ている。
絶望的な状況で間一髪助かっただけではない。
炎に照らされ、生身でゴーレムの群れを破壊しつくし、あまつさえ投げ飛ばして危機を救ってくれた、白衣を纏う男が出現―――。
そんな衝撃に何と名前を付ければ良いのか。
ゴーレムの重さに苛立ち、レーザーガトリングで破壊して巨体を押しのけたMは、歩み寄ってくる謎の男へと殺意を込めた視線を投げかける。
「何だ貴様・・・たかが男の分際で、
スターブレイカーを向けるMに怯みもせず、白衣を着た褐色肌の男はサングラスを人差し指で直すと、ポケットから煙草を一本取り出してジッポで火をつけ、その重く苦いクールを味わう。
何も語らず紫煙を吹き出す男に苛立ったMは、トリガーに力を込めて恫喝する。
「さっさと喋ったらどうだ!貴様、何者だ!」
「うるせえ」
気怠そうに首をこきりと鳴らし、くすんだ金髪を炎の赤に照らされた男は、逆に腹立たしそうな声でMの追及を切り捨てながら煙草を片手でくゆらせ、その歩を止めない。
その反応に堪忍袋の緒を切ったMは、生身の彼へ何の躊躇いもなくトリガーを引いてレーザーを射出―――した瞬間、タイミングを分かっていたかのようにひらりと躱した男がイグニッションブーストさながらにMへと飛び掛かった。
男の素早さ、身のこなしに驚愕の表情を浮かべるM、その眉間へと突き刺さる男の左ストレート。
「ごっ―――」
肉体へのダメージはバリアの恩恵で軽度なれど、アスファルトを滑りながら反動で吹き飛ばされたMのISを無感動に見送った男は、危なげなく着地すると再び煙草を口につけ、
「煩わしいんだよクソガキが。耳障りな癇癪を起こすんじゃねえ」
クールを愉しみつつわざわざMが立ち上がるのを待ちながら罵声を浴びせた謎の男に、簪は涙を拭う事も忘れて見入ってしまう。
来てくれた。ヒーロー。
それも、とっておきのダークヒーローが・・・!
理想の形に男の姿を重ねた簪の視線には気付かず、悔し気に起き上がってきたMが怒りと共にスターブレイカーを構えると、それより先に投げられた火のついたままの煙草の吸殻が素肌の口元付近のバリアにて弾けとび、つい怯んでしまう。
「熱っ・・・!?き、貴様っ・・・!」
「いちいち学のねえガキに言葉で教育してやれる程おれはヒマじゃねえんだよ。全力で来い。これからてめえに、人に与えうる痛みと苦しみがどういうものか叩き込んでやる」
口を抑えるMの前で、期待の眼差しを向ける簪の前で、男はサングラスと入れ替えに胸ポケットから取り出したISクリスタルを逆手に顔の横へと構える。
「ドゥ・フォーメイション、ジョーカー!」
輝きを増したクリスタルを天に掲げると、ボゥイのリベリオン同様に男の肉体を光が包み込み、黒と紫の全身装甲ISがボディを形成していく。
大きな一本角、膝から飛び出た突針、背中には四連のバーニアパック。
リベリオンとよく似て細部とカラーリングが違うその姿は――――。
「そう、ごーちゃんがきっと作り始めると思ったフルスキンのISプロジェクト!四凶をテーマにした厨二臭いデザイン!たぶんコアの残数的に二つくらいしか作れないだろうと踏んだので、残り二つは束さんが、量産型じゃなくお手製のコアで準備しちゃいました!」
遠方の飛行要塞からモニタリングしていた束が上機嫌に誰に言うでもなく胸を張る。
その先読みを天災と呼ぶか豪への愛の重さ故と呼ぶかはさておき、顕現した黒いISは四凶である檮杌(とうこつ)をイメージして設計されたIS。
虎の身体に猪のような長い牙を有した、退く事を知らない暴虐の怪物。
彼の者の名を―――【ジョーカー】。
束の切り札たる男性IS操者・架神 忍(かがみ しのぶ)という男が身に着ける、その名通りの期待を込められた雷帝の剣である。
「さぁノブちゃん、思う存分教育してあげて」
そしてそれをモニタリングしていた豪は、片手で頭を抱えながら大笑いする。
そんな豪へ首を捻るレティシア。
「博士、なに笑ってるの?」
「くくかかかかかっ!これが笑わずにいられるか!束に一本取られたぜ!」
もう片手で腹を抱えた豪は、まだ名も知らぬジョーカーの設計思想とこの場に現れた理由を察して楽し気に笑う。
「やっぱり若い奴にはかなわんな。格好いいぜ、束よぅ」
武装など何ももたずにだらんと垂れ下げられた両手のジョーカーに、驚きを隠せないM。
その立ち振る舞いと言動、重厚な姿をしたアンチヒーローへ熱い眼差しを注ぐ簪。
「き、貴様は、いったい―――」
「口で言ってわかるならとっくに説明してんだ馬鹿。さっさとかかってきやがれ」
挑発するように手招きするジョーカー――架神 忍は仮面の下でつまらなさそうに眉間へと皺を寄せる。
「てめえに、罪と罰を教えてやる」
また出たオリキャラ!しかも超厨二!!
そんな真っ黒ヒーローに胸キュンしちゃう簪!キミ本当にこんなんでいいの!?